シンプラル法律事務所
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改正会社法及び改正法務省令と監査役等の対応

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

経過措置
★平成27年6月総会適用有り
監査役会設置会社(公開会社かつ大会社、有報提出会社に限る)が、事業年度末において社外取締役を置いていない場合の「置くことが相当でない理由」の株主総会での説明義務
経過措置なし。
要件に該当する場合は、本年の株主総会から対応する。
「置くことが相当でない理由」の総会参考書類への記載(改正省令附則2条5項)
施行日前に招集の手続が開始された株主総会又は種類株主総会に係る株主総会参考書類の記載については、なお従前の例による。
要件に該当する場合は、本年の株主総会参考書類から記載する。
「置くことが相当でない理由」についての[事業報告への記載義務](改正省令附則2条6項ただし書)
施行日以後に監査役の監査を受ける事業報告については、改正省令が適用される。
要件に該当する場合は、本年3月期の事業報告に記載する。
監査役(会)による会計監査人の選解任等議案を決定した理由の株主総会参考書類への記載(改正省令附則2条5項)
施行日前に招集の手続が開始された株主総会又は種類株主総会に係る株主総会参考書類の記載については、なお従前の例による。
選解任・不再任議案を株主総会に提出する場合は、本年の株主総会参考書類から記載する。
 ★6月総会、場合により対応必要。
内部統制システムの基本方針の決定
経過措置なし。
3月末までの事業年度中に基本方針の変更を決定した場合、当該事業年度の事業報告には変更前及び変更後の基本方針の内容の概要を記載する考え方と、変更後の基本方針の内容の概要を記載する考え方がある。
事業年度末日以降、事業報告の作成までに内部統制システムの基本方針について変更を行った場合、変更前の基本方針の内容の概要を記載しつつ、変更の重要性に応じて後発事象として変更の内容を記載する考え方と、変更後の基本方針の内容の概要を記載する考え方がある。
会計限定監査役に関する登記(改正会社法附則22条)
施行の際、監査役の監査の範囲を会計に限定する旨の定款の定めがある株式会社は、法律の施行後最初に監査役が就任し、又は退任するまでの間は、改正会社法第911条第3項第17号イに掲げる事項の登記をすることを要しない。
施行日後新たに就任、退任があった際、登記をする。
★6月総会、適用なし 
社外取締役及び社外監査役の要件の厳格化(改正会社法附則4条)
施行日において社外取締役/社外監査役を設置している場合の社外取締役・社外監査役については、法律の施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結の時までは、なお従前の例による。
監査役会成立のための必要要件等を満たさない場合は、平成28年株主総会終結時までに対応する。
監査役(会)による会計監査人の報酬に同意した理由の事業報告への記載(改正省令附則2条6項)
施行日前に末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る株式会社の事業報告及びその附属明細書の記載又は記録は、なお従前の例による。
来年3月期の事業報告から記載する。
内部統制システムの運用状況の概要に関する事業報告への記載
施行日前に末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る株式会社の事業報告及び附属明細書の記載又は記録については、なお従前の例による。
5月以降の運用状況について平成28年3月期事業報告に記載する。
支配株主の異動を伴う第三者割当て(改正会社法附則12条)
施行日前に募集事項の決定があった場合におけるその募集株式について、改正法は適用されない。
施行日前の第三者割当については、改正前会社法が適用される。
親会社等との利益相反取引の情報開示の充実について(改正省令附則2条6項、8項)
施行日前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る株式会社の事業報告及びその附属明細書の記載又は記録については、なお従前の例によるものとされている。また、改正省令が適用されて記載する場合も、施行日以後にされた取引に限定されている。
平成27年5月1日以降の取引について、平成28年6月の定時株主総会に提出する事業報告及び監査報告の内容とする。
多重代表訴訟(改正会社法附則21条)
施行日前に責任追及等の訴えが提起された場合は、なお従前の例による。施行日前にその原因となった事実が生じた特定責任については、同条の規定は、適用しない。-会計限定監査役に関する登記(改正会社法附則22条)
施行日前に訴訟提起、責任追及事実等が発生したものは、改正前会社法が適用される。


改正会社法及び改正法務省令に対する監査役等の実務対応
―施行に向けた準備対応及び平成27年6月総会への準備対応を中心として―
平成27年3月5日 公益社団法人日本監査役協会
改正会社法及び改正法務省令に対する監査役の実務対応
―施行に向けた準備対応及び6月総会への準備対応を中心として―
   ―目 次―
はじめに
第1 社外取締役及び社外監査役に関する規律について ............................. 3
第2 監査等委員会設置会社について ............................................. 9
第3 会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定及び会計監査人の報酬の同意について .................................................................. 12
第4 監査役等の監査の実効性の確保について .................................... 14
第5 企業集団における内部統制システムについて ................................ 18
第6 支配株主の異動を伴う第三者割当てについて ................................ 19
第7 親会社等との利益相反取引の情報開示の充実について ........................ 20
第8 多重代表訴訟について .................................................... 21
第9 監査役に関する登記について .............................................. 21
別添1 会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定権行使に関する監査役の対応指針 ......................................................................... 23
別添2 株主代表訴訟への対応指針‐監査役実務の視点から‐(抜粋) .............. 33
はじめに 昨年6月27日、「会社法の一部を改正する法律」(以下、「改正会社法」という)が公布され、本年2月6日、改正会社法に基づく「会社法施行規則等の一部を改正する省令」(以下、「改正法務省令」という)が公布された。改正会社法及び改正法務省令は、本年5月1日に施行される。これに加えて、「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)」が昨年12月17日に公表されている。
弊協会監査法規委員会及び会計委員会では、改正会社法・改正法務省令の施行に向けた対応を鋭意検討しているが、監査役監査基準等の現行の基準及び実務指針その他の公表物への改正会社法及び改正法務省令の改正内容並びにコーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方の内容の反映には今しばらく時間がかかることから、本年6月に開催される定時株主総会への対応に焦点を当て、監査役若しくは監査役会又は監査委員会、監査等委員会(以下「監査役等」という)の実務上の留意点を検討し、本報告書にて取りまとめた。
本報告書は、主として大会社かつ公開会社を念頭に置き、かつ、3月決算会社(6月定時株主総会開催会社)を念頭に作成している。そのため、これに該当しない会社の方は、不便を感じることもあると思うが、法令の経過措置等を勘案しながら、各社の実情に応じて可能な限り活用いただけたら幸いである。また、本報告書は監査役等の実務対応に焦点を当てて作成されたものであり、改正法令の解説や会社としての対応事項の解説を意図したものではないことに留意願いたい。
なお、本報告書の作成に当たっては、弊協会監査法規委員会及び会計委員会での検討のほか、NET相談室相談員などの方から助言をいただいている。末筆ながら関係各位のご協力に対し心から謝意を申し上げたい。
  ★第1 社外取締役及び社外監査役に関する規律について
  ■1 社外取締役の選任について
  ●(1)法令のポイント
  ①法による義務付けの見送り
社外取締役の選任について、法制審議会会社法制部会においては、その選任の義務付けが議論されたが、義務付けは見送られた1。しかし、改正会社法・改正法務省令により、後述する一定の会社が社外取締役を置いていない場合、「社外取締役を置くことが相当でない理由」の開示・説明をすべきこととされた。
1 なお、法制審議会会社法制部会における附帯決議を受けて、証券取引所の上場規則において「取締役である独立役員を少なくとも1名以上確保するよう努めなければならない。」との努力義務が規定されている(東京証券取引所有価証券上場規程第445条の4、平成26年2月10日施行)。
  社外取締役を置くことが相当でない理由の説明・開示
社外取締役を置いていない「有価証券報告書提出義務がある2公開かつ大会社の監査役会設置会社」は、下記の場合に「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明・開示しなければならない。
2 金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの(会社法第327条の2)。
ⅰ)株主総会での説明義務(会社法第327条の2)
事業年度末日に社外取締役を置いていない場合、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない。
ⅱ)株主総会参考書類への記載義務(会社法施行規則第74条の2第1項)
社外取締役を置いておらず(株主総会の終結の時に社外取締役を置いていないこととなる見込みである場合を含む)、かつ社外取締役となる見込みである者を候補者とする取締役の選任に関する議案を株主総会に提出しないときは、株主総会参考書類に社外取締役を置くことが相当でない理由を記載しなければならない。 
ⅲ)事業報告への記載義務(会社法施行規則第124条第2項)
事業年度末日に社外取締役を置いていない場合は、社外取締役を置くことが相当でない理由を事業報告の内容に含めなければならない。
※さらに、上述のⅱ)の株主総会参考書類及びⅲ)の事業報告への記載にあたっては、株主総会参考書類作成時点又は各事業年度における各社の個別の事情に応じて記載しなければならず、社外監査役が2人以上いることのみをもって理由とすることはできない(会社法施行規則第74条の2第3項、第124条第3項)。
※事業年度末に社外取締役を置いておらず、当該事業年度に関する定時株主総会で社外取締役の選任議案を上程する場合は、
ⅱ)の株主総会参考書類への記載は必要ないが、
ⅲ)の事業報告への記載のほか、ⅰ)の株主総会での説明は行わなければならない3
上記ⅱ)の株主総会参考書類への記載は、株主総会に取締役選任議案が上程される場合の参考として必要とされるため、取締役選任議案が上程されない場合は、当該記載は不要となる4
3 ただし、選任議案が上程される場合には、その説明は比較的簡潔なものでよいとされている(坂本三郎編著『一問一答 平成26年改正会社法』84頁(商事法務、2014))
4 坂本三郎編著『一問一答 平成26年改正会社法』87頁(商事法務、2014)
  ●(2)適用時期
「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明・開示に関する規定の適用開始時期は下記のとおり。
株主総会での説明義務
経過措置は設けられていないため、改正会社法施行後(平成27年5月1日以降)に開催される定時株主総会から適用される。
株主総会参考書類への記載
経過措置として、施行日前に招集の手続が開始された株主総会に係る参考書類の記載については従前の例によるとされている(改正法務省令附則第2条第5項)。「施行日前に招集の手続が開始された場合」とは、施行日前に株主総会参考書類の記載事項が、取締役会の決議によって決定された時点を指す(会社法第298条第1項第5号、同条第4項、会社法施行規則第63条第3号イ参照)5
3月決算会社においては、通常5月上旬から中旬に開催される取締役会において、定時株主総会の招集、及び株主総会参考書類の記載事項が決定されることから、実質的には本年の定時株主総会に係る参考書類から適用されることとなる。
5 法務省民事局参事官室「会社法の改正に伴う会社更生法施行令及び会社法施行規則等の改正に関する 意見募集の結果について」第3 2(7)⑯19頁~20頁(http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000123831)
事業報告への記載
経過措置として、「施行日以後に監査役の監査を受ける事業報告」については、会社法施行規則第124条第2項及び第3項の規定が適用され、相当でない理由を記載しなければならないものとされている(改正法務省令附則第2条第6項ただし書)。
「監査役の監査を受ける事業報告」について、監査役会設置会社においては、特定取締役が監査役会の監査報告の内容の通知を受けた日に監査役の監査を受けたものとすることとされているため(会社法施行規則第132条第2項)、施行日以後に特定取締役が監査役会の監査報告の内容の通知を受ける事業報告は、会社法施行規則第124条第2項及び第3項の規定が適用されることとなる6
3月決算会社においては、4月下旬から5月上旬以降に監査役に対して事業報告が提供され、5月上旬以降に監査報告の内容を特定取締役(通常は代表取締役)に対して通知するという実務スケジュールが概ね想定されることから、実質的には本年3月に終了する事業年度に係る事業報告から、適用されることとなる。
6 法務省民事局参事官室「会社法の改正に伴う会社更生法施行令及び会社法施行規則等の改正に関する 意見募集の結果について」第3 2(11)㉑43頁~44頁 (http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000123831)
  ● (3)監査役としての留意点
  ①留意点
監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類等を調査しなければならず、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない7(会社法第384条)。

また、監査役は、事業報告が法令又は定款に従い当該株式会社の状況を正しく示しているかについての意見を監査報告の内容としなければならない(会社法施行規則第129条第2号)。

なお、株主総会での説明に関して、取締役が社外取締役を置くことが相当でない理由の説明をしなかった場合や、株主総会参考書類に当該理由を記載する必要があるのに記載をしなかった場合には、取締役選任議案の取消事由になり得ると考えられるため8、株主総会の運営準備の段階から留意が必要である9
7 法令定款違反や著しく不当な事項がない場合、調査結果の報告及び監査役(会)監査報告の内容を口頭で報告するか否かは任意であるが、株主総会冒頭に両者を合わせて口頭報告をする実務も行われている(日本監査役協会「監査役監査実施要領」月刊監査役588号344頁~345頁参考資料14(2011))。
なお、株主総会に提出しようとする議案、書類等に法令又は定款違反や著しく不当な事項があり是正されなかった場合の調査結果の報告については、書面でも、電磁的記録でも、口頭でもよいとされている。(落合誠一編『会社法コンメンタール8-機関[2]』412頁〔吉本健一〕(商事法務、2009))
8 坂本三郎編著『一問一答 平成26年改正会社法』89頁(商事法務、2014)
9 その他、相当でない理由に関して、株主総会への虚偽の申述があった場合や、事業報告への不記載、虚偽記載があった場合には、関係者が過料に処せられる可能性がある(会社法第976条第6号、第7号)。
  ②監査役の対応
監査役としては、「社外取締役を置くことが相当でない理由」が参考書類、事業報告に記載されているかどうか、記載されている内容が施行規則の趣旨を踏まえて十分であるかどうか(具体的には、社外取締役を置くことが、当該株式会社の企業価値にマイナスの影響を及ぼすような事情が記載されているか10、各社の事情に応じた説明がなされているか11)について検討する必要がある。また、改正の背景やこれに関する議論を踏まえて、取締役会において本件に関する十分な検討が行われたか、検討された内容やその結果は、株主への説明として合理的で十分か等について検証し、必要に応じて取締役会において意見を述べるべきである。

なお、上記対応にもかかわらず「理由が記載されていない」場合や「結論に影響するおそれのある虚偽の事実が理由中に存在する」といった場合は、「事業報告が法令定款に従い当該株式会社の状況を正しく示していない」又は「参考書類、事業報告の記載に法令定款違反や著しく不当な事項がある」ため、監査報告への意見の記載が必要である。
10 衆議院法務委員会「第186回国会衆議院法務委員会会議録」第12号8頁〔深山卓也政府参考人発言〕(平成26年4月16日)
11 「適任者がいない」ということのみの説明も、相当でない理由の説明とは認められないこととなり得るものと考えられている(坂本三郎編著『一問一答 平成26年改正会社法』85頁(注3)(商事法務、2014))
  ■2 社外取締役及び社外監査役の要件の厳格化及び緩和
  ●  ●(1)要件厳格化に関する法令のポイント
   改正会社法により、社外取締役及び社外監査役の要件として下記が追加され、厳格化された。
親会社等の関係者でないこと
株式会社の親会社等12又はその取締役、監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと(会社法第2条第15号ハ、第16号ハ)。
12 親会社及び株式会社の経営を支配している者(法人であるものを除く。)として法務省令で定めるもの(会社法第2条第4号の2イ、ロ)であり、法務省令では、株式会社の財務及び事業の方針の決定を支配している者とされている(会社法施行規則第3条の2第2項、第3項)。
兄弟会社の業務執行取締役等でないこと
株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く)の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人でないこと(同条第15号ニ、第16号ニ)。
取締役等の近親者でないこと
株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る)の配偶者又は2親等内の親族でないこと(同条第15号ホ、第16号ホ)。
※「重要な使用人」の範囲については、会社法第362条第4項第3号において、「取締役会が選解任の決定を行われなければならない者」を意味するものとして用いられている。本条においても、同じ文言である以上、基本的には同じ内容を意味すると考えられるが、本条の趣旨に照らして、会社法第362条第4項第3号の「重要な使用人」の範囲よりも限定して解釈する余地もあると考えられている13
13 坂本三郎編著『一問一答 平成26年改正会社法』109頁(商事法務、2014)
※改正会社法において、「取引先関連の要件」は設けられていない14
14 金融商品取引所におけるいわゆる独立役員制度においては、取引先に関する要件があるため留意が必要である(東京証券取引所「上場管理等に関するガイドライン」Ⅲ5.(3)の2 b参照)。なお、東京証券取引所では、コーポレートガバナンス・コード策定に伴う、独立性に関する情報開示について見直しを行う予定である(東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う上場制度の整備について」2015年2月24日)。
  ●(2)要件緩和に関する法令のポイント
改正前会社法では、社外取締役・社外監査役の要件としては、過去一度も当該株式会社及びその子会社の業務執行に関与する役員や使用人にはなったことがないことが求められていた。改正会社法により、社外取締役・社外監査役に就任する前10年間に限り業務執行取締役等でなかったことが要件とされることとなった15
ただし、その就任の前10年間の内に、業務執行取締役ではなかったものの、当該会社の非業務執行取締役・監査役等であったことがある場合、さらに非業務執行取締役・監査役等への就任前の10年間、業務執行取締役等でなかったことが必要である(横滑りの防止)(会社法第2条第15号イ、ロ、第16号イ、ロ)。
15 東京証券取引所等では、会社法改正に伴い適時開示事由の見直しなどの上場制度の整備を行う予定である(東京証券取引所「平成26年会社法改正に伴う上場制度の整備について」2015年1月30日)。
  ●(3)適用時期
改正会社法施行時、社外監査役又は社外取締役が設置されている会社の社外監査役・社外取締役は、施行後、最初に終了する事業年度に関する定時総会の終結の時までは改正前会社法が適用される(改正会社法附則第4条)。これは、既に社外取締役又は社外監査役が選任されている場合に社外要件を喪失させることは実務上支障をきたすおそれがあるため、当該社外取締役又は社外監査役につき経過措置期間を与えることに加え、同一会社内で社外取締役又は社外監査役のそれぞれにおいて、社外要件が異なる役員が混在することによる混乱を避けるため、経過措置期間内に選任される社外取締役又は社外監査役についても同様の経過措置を与えるものである。
したがって、上記の経過措置が適用されれば、3月末に事業年度が終了し、6月に定時株主総会を開催する会社においては、平成28年6月の定時株主総会の終結の時までは改正前会社法が適用されることとなるが、施行時に社外監査役又は社外取締役が不在の会社が施行日後に新たに社外監査役又は社外取締役を設置する場合は、上記の経過措置は適用されず、改正会社法が適用される16
16 施行の際に社外監査役を設置していたとしても、社外取締役を置いていない会社が新たに社外取締役を置く場合には、改正法が適用されることにも留意が必要である(坂本三郎編著『一問一答 平成26年改正会社法』114頁(商事法務、2014)、岩原紳作ほか「座談会 改正会社法の意義と今後の課題〔上〕」旬刊商事法務2040号18頁〔坂本発言〕参照(2014))。
   ● ● (4)監査役等としての留意点
監査役会設置会社では監査役会の半数以上が社外監査役でなければならず(会社法第335条第3項)、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社では各委員会の過半数が社外取締役でなければならないため(会社法第331条第6項、第400条第3項)、監査役等は留意が必要である。

特に、親会社監査役や親会社取締役・使用人が兼務している子会社社外監査役は、親会社等の関係者の要件厳格化により、「社外」監査役としての資格を失う17。そのため、監査役会設置会社である子会社においては、監査役会の要件と関連して、対応を検討することが必要である。対応としては、要件を満たす社外監査役を新たに選任する(親会社を既に退職した者、兄弟会社等の非業務執行取締役・監査役を選任することも考えられる)ほか、監査役会非設置会社へ移行することが考えられる18(会社法第328条第1項)。

監査役等としては、企業集団のガバナンス体制として、親会社における子会社管理のあり方や、会社の規模・業種・重要性等を踏まえ、十分検討することが重要である。
監査役会非設置会社に移行する場合、監査役連絡会(協議会)を設置することや19、常勤監査役を任意で設置すること等、ガバナンスの質を落とさないための工夫が望まれる。
17 なお、社外監査役としての資格を失うだけで、監査役としての資格は、任期が満了するまで失われない。
18 業法等により監査役会設置会社であることが義務付けられている場合があることにも留意が必要である。
19 監査役連絡会(協議会)を設けた場合の役割、権限、義務、責任や留意点等については、日本監査役協会「中小規模会社の『監査役監査基準の手引書』」月刊監査役621号12頁~13頁、36頁以降の第3章参照。
  ■3 責任限定契約を締結することが認められる範囲の拡大
  ●(1)法令のポイント及び監査役等の留意点
改正前会社法では、責任限定契約を締結できる者は、社外取締役、社外監査役、会計参与、会計監査人に限定されていた。改正会社法により、責任限定契約を締結することができる者が、いわゆる非業務執行役員全般まで拡大された。その結果、(いわゆる社内)監査役も責任限定契約を締結することが可能となった20(会社法第427条第1項)。

会社法が改正されても、会社による責任限定契約の締結及びその範囲は定款の規定によるため、非業務執行取締役や監査役も責任限定契約を締結できるよう対象を拡大する場合は、従来の社外取締役や社外監査役を対象とする旨の定款規定を変更する必要がある。なお、非業務執行取締役(監査等委員、監査委員を除く)が責任限定契約を締結することができるよう定款を変更する際には、監査役、監査等委員、監査委員全員の同意が必要となる(会社法第427条第3項、第425条第3項)。

また、責任限定契約を締結できる対象を非業務執行取締役や監査役にまで拡大する定款変更は、改正会社法の施行前に開催される株主総会において、改正会社法の施行日から定款変更の効力が生ずる旨の始期付きで行うことも可能である。
20 改正前会社法では、責任限定契約についての定款の定めが社外取締役・社外監査役に関するものであるときは登記が必要であった(改正前会社法第911条第25号、第26号)が、責任限定契約を締結できる対象範囲が拡大されたことにより、登記事項から削除された。
  ★第2 監査等委員会設置会社について
  ■1 法令のポイント
  ●(1)監査等委員会設置会社制度の創設
改正会社法において、社外取締役の機能を活用するため、監査役(会)設置会社、委員会設置会社(「指名委員会等設置会社」に名称変更)に加えて第3の機関設計として、監査等委員会設置会社が設けられることとなった。
  ●(2)監査等委員会設置会社の設置
監査等委員会設置会社とするには、定款にその定めを置くことが必要である(会社法第326条第2項)。
監査等委員会設置会社には、大会社であるかどうかにかかわらず、取締役会及び会計監査人の設置が義務付けられている(会社法第327条第1項第3号、第5項)。業務執行は、監査役(会)設置会社と同様に代表取締役又は業務執行取締役が行う。
  ●(3)監査等委員会の独立性の確保及び任期

監査等委員会の業務執行者からの独立性の確保は、監査役の独立性確保の仕組みが参考にされている。すなわち、監査等委員である取締役の選任及び報酬は、監査等委員である取締役以外の取締役と区別して株主総会決議によることとされ、また、監査等委員である各取締役には他の監査等委員である取締役の選解任及び辞任並びに報酬等につき株主総会での意見陳述権も付与されている(会社法第329条第2項、第342条の2第1項、第361条第5項)。
さらに、監査等委員会には、監査等委員である取締役の選任議案への同意権等が付与されているほか(会社法第344条の2第1項、第2項)、監査等委員である取締役の解任は株主総会特別決議によることが必要とされている(会社法第344条の2第3項、第309条第2項第7号)。
なお、監査等委員である取締役の任期は2年である(会社法第332条第1項、第4項)
  ●(4)監査等委員会の構成・権限・運営方法について

構成、権限及び運営方法は、指名委員会等設置会社における監査委員会が参考にされている。すなわち監査等委員会は、3人以上の監査等委員である取締役で構成され、その過半数が社外取締役でなければならない(会社法第329条第2項、第331条第6項)。
指名委員会等設置会社における監査委員会同様、いわゆる独任制はなく監査等委員会が選定した監査等委員が業務財産調査権を行使するほか、選定された監査等委員である取締役は監査等委員会の決議があるときは、それに従わなければならない(会社法第399条の3第1項、第2項、第4項)。
また、常勤の監査等委員の選定は義務付けられていないが、常勤の監査等委員の選定の有無及びその理由を事業報告に記載しなければならない(施行規則第121条第10号イ)。なお、指名委員会等設置会社における監査委員会についても同様の規律が設けられることとなった(同条同号ロ)。
監査等委員である取締役は、会社・子会社の業務執行取締役・使用人又は子会社の会計参与・執行役を兼ねることができない(会社法第331条第3項)。
  ●(5)監査等委員会独自の権限について

監査等委員会は、監査役(会)や指名委員会等設置会社における監査委員会にはない監査等委員会独自の権限を有している。
まず、監査等委員会には、監査等委員以外の取締役の選解任議案・報酬議案への株主総会での意見陳述権が付与されている(会社法第342条の2第4項、第361条第6項、第399条の2第3項第3号)。
また、取締役等の利益相反取引について、監査等委員会が事前21に承認した場合、取締役等の任務懈怠の推定(会社法第423条第3項)が解除される(同条第4項)
21 法文上は「事前」と明記されていないが、「第356条第1項第2号又は第3号に掲げる場合」とは、取締役等が利益相反取引を「しようとするとき」であるから、事前に承認した場合を指す(坂本三郎編著『一問一答 平成26年改正会社法』44頁~45頁(商事法務、2014))
  ■2 監査等委員会の留意点
  ●(1)常勤の監査等委員の選定について

改正会社法においては、常勤の委員の選定は義務付けられていないが、常勤の委員の選定の有無及びその理由が事業報告記載事項となっていることからも(会社法施行規則第121条第10号イ)、監査等委員会として常勤の委員を選定するかどうかの検討は必須である。

監査等委員会設置会社においては、指名委員会等設置会社と同様、内部統制システムを活用した監査が予定されているが、常勤者を置くことにより常勤者の有する高度な情報収集力に基づき質の高い情報収集が可能となること、内部統制システムの活用や、会計監査人及び内部統制所管部門等との連携においても常勤の監査等委員の役割・活動が重要であること22・23・24、そのため指名委員会等設置会社においても常勤の監査委員を設置している会社が多数25であることから、常勤の委員の選定を検討するべきである26

特に、常勤者を設置しない場合には、監査等委員会に社内情報を提供する使用人の十分な独立性の確保、指揮命令系統や人事権等の組織上の工夫が必要であろう。

また、常勤の監査等委員の選定の有無及びその理由については、事業報告に開示しなければならない。事業報告への記載事項としては、上述の選定にあたって検討した事項のほか、監査等委員会から業務財産調査権や意見陳述権等に関する選定を受けていることや、執行側とのコミュニケーションを円滑にして監査等委員会の職務執行の円滑化を図る等、常勤者の権限や役割に関して記載することも考えられる。
22 弥永真生ほか「第77回監査役全国会議シンポジウム分科会第2分科会『監査役による会計監査を巡る最新動向』」月刊監査役第623号125頁~127頁(2014)
23 岸田雅雄ほか「第79回監査役全国会議シンポジウム分科会第2分科会『会計監査人選解任議案決定権に係る実務対応』」月刊監査役636号83頁~84頁(2015)
24 常勤者の設置については、法制審議会会社法制部会において、常勤者が有用であるという議論があったほか、「会社法制の見直しに関する中間試案」に対する意見募集手続においても、日本監査役協会のほか、日本公認会計士協会、日本弁護士連合会、日本内部監査協会等から常勤者の設置の必要性、重要性に関して意見が提出されていることにも留意が必要である。
25 常勤の監査委員を置く会社は73.3%に上る。(日本監査役協会「第15回インターネットアンケート集計結果」委員会設置会社版(2015))また、常勤の監査委員を置いていない会社でも、監査担当取締役(会社法施行規則第112条第1項第1号の監査委員会の職務を補助すべき取締役)を設置し、監査委員会への情報提供を工夫している。
26 なお、指名委員会等設置会社では、監査委員会の監査委員を全員非常勤とするため、常勤の監査担当特命取締役を別に選任する会社もある(会社法施行規則第112条「監査委員会の職務を補助すべき取締役」)。その他、指名委員会等設置会社における実務事例については、日本監査役協会ケース・スタディ委員会「委員会設置会社のコーポレート・ガバナンスと監査実務の事例研究―アンケート調査と事例報告を踏まえて」月刊監査役593号86頁~137頁を参照のこと。
  ●(2)監査等委員以外の取締役の人事事項(選解任議案・報酬議案)への株主総会での意見陳述権について

意見陳述権は、代表取締役を含む業務執行者の不適切な業務執行を監督し、その是正を行うためには、取締役の人事事項(選解任と報酬の決定)について関与できる権限を持つことが重要であるという趣旨から、監査等委員会に与えられた権限である。

監査等委員会が、株主総会において報酬・選任に関する意見陳述権を有していることを背景として、監査等委員、とりわけ社外取締役は、取締役会における業務執行者を含む取締役の人事の決定について、主導的に関与することができると考えられる27

したがって、監査等委員である取締役は、そのことを十分認識し、これらの権限を背景に、取締役会において、適切な監督及び是正措置を講じなければならないことに十分留意が必要である。
実務上、(特段の異議がない場合を含めて)株主総会における意見陳述に関する方法としては、監査等委員会からの口頭報告に含めて述べることが考えられる。
27 坂本三郎編著『一問一答 平成26年改正会社法』42頁(商事法務、2014)
  ●(3)利益相反取引に対する監査等委員会の事前の承認について

監査等委員会の事前の承認により任務懈怠の推定が解除されると、関与した取締役の法的責任追及を事実上困難にする強い効果が発生する。
監査等委員会が利益相反取引について検討するにあたっては、監査役が利益相反取引について検討する場合と同様、利益相反取引の内容、取引の経緯、これまで審議プロセスの検証のほか、場合によっては専門家等第三者の意見を求める等して、慎重な判断をすることが必要である。
  ★第3 会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定及び会計監査人の報酬の同意について
  ■  ■1 法令のポイント

改正前会社法では、株主総会に提出する会計監査人の選解任等に関する議案の内容は、取締役会が決定し、監査役(監査役会設置会社にあっては監査役会)は同意権を有するのみであった。改正会社法において、会計監査人の選解任等に関する議案の内容は、監査役会が決定することとなった(会社法第344条)。そのため、監査役は、会計監査人の選解任等に関する議案等の内容について、これまで以上に、株主総会において説明責任を負うことになる。
また、法務省令において、会計監査人の解任・不再任に関する議案を提出する場合には、監査役が議案の内容を決定した理由を株主総会参考書類に記載しなければならず、会計監査人の報酬等に監査役が同意した場合には、その理由を事業報告に記載しなければならないと規定された(会社法施行規則第81条第2号、第126条第2号)。
  ■2 適用時期等

経過措置が設けられており、施行日前に株主総会の招集手続が開始された場合における会計監査人の選解任等に係る手続については、改正会社法は適用されないものとされている(改正会社法附則第15条)。ここでいう「施行日前に株主総会の招集手続が開始された場合」とは、施行日前に取締役会において、株主総会の議題や株主総会参考書類記載事項の決定を含めて会社法第298条第1項の株主総会の招集の決定がされた場合をいう28。施行日以後に株主総会の招集手続が開始され、改正会社法が適用される場合は、株主総会参考書類に、監査役会が選解任等議案を決定した理由を記載しなければならない(改正法務省令附則第2条第5項)。
3月決算会社においては、通常5月上旬から中旬に定時株主総会の招集の決定がなされる実務スケジュールが概ね想定され。したがって、会計監査人の選解任等に係る改正後の手続は、平成27年6月に開催される定時株主総会から適用される29

また、会計監査人の報酬について同意した理由の事業報告への記載は、施行日以後に終了する事業年度に係る事業報告から適用されることとされている(改正法務省令附則第2条第6項)。したがって、3月決算会社においては、平成28年定時株主総会に係る事業報告から記載することとなる。
28 坂本三郎編著『一問一答 平成26年改正会社法』127頁(商事法務、2014)
29 会計監査人を再任する場合、議案を決定するわけではないので、株主総会参考書類への記載は必要ない。
  ■3 監査役の留意点
  ●(1)会計監査人の選解任等について

会計監査人を選任する議案については監査役会が決定することとなるため、決定権を前提とした主体的なかかわりが必要となる。したがって、本年の定時株主総会から、決定権が移行されることを念頭に置き、実務上の手続(会計監査人の解任・不再任の方針の確認・策定、不再任を株主総会議案としないこと[再任すること]についての監査役会での決議についての執行側への連絡30など)を行う必要がある。

特に、会計監査人の再任に疑念が感じられる場合は、株主総会に提出するための会計監査人の不再任議案だけではなく、併せて新たな会計監査人の選任議案を同時に決定しなければならないため、できる限り早期に監査役会において審議し、新たな会計監査人の選任議案を決定できるよう準備する必要がある。

なお、会計監査人が再任される場合(会社法第338条第2項)、選解任等に関する議案を決定するわけではないため、株主総会参考書類への記載は必要ない

会計監査人の選解任等に係る議案の決定権行使に関する実務上の対応については、別添1「会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定権行使に関する監査役の対応指針」を参照されたい。
30 同意権の下では、会計監査人選任議案に関する監査役会の同意書として、文書で執行側に提出される実務が行われており、決定権の下でも同様に文書で執行側に連絡することが望ましい。なお、同意権の下での同意書例は、「監査役監査実施要領」月刊監査役第588号318頁~319頁 参考資料4(2011)。
  ●(2)会計監査人の報酬の同意について

会計監査人の報酬については、従来どおり監査役等には同意権のみ付与されている。
しかし、会計監査人の報酬は、監査計画や監査体制等と密接に関連する重要な要素であり、これらは会計監査人の再任・不再任の決定の判断にも関連する事項である。

そのため、監査役等は、会計監査人の再任・不再任に関する審議までに、以下に例示する視点に関する情報について、早期の段階から経営執行部門及び会計監査人双方から提出を受ける等して、会計監査人の報酬の妥当性について分析、検討すべきである31・32

<分析・検討の視点(例)>
・前期の監査実績の分析・評価
・監査計画と実績の対比
・上記を踏まえた新年度の監査計画における監査時間・配員計画及び報酬額の見積り33の相当性

また、今般の会社法改正により新たに規定された「報酬に同意した理由」の事業報告への記載について、その記載内容としては、上述の分析・視点例等についての情報収集及び監査役等による検討を踏まえていること等の同意のプロセス及び報酬額について同意する旨を要素として記載することが考えられる34・35
31 具体的な報酬同意のプロセス等については、日本監査役協会「有識者懇談会の答申に対する最終報告書」月刊監査役 570号別冊付録(2010)「会計監査人の監査報酬の同意に関する監査役のベストプラクティス」を参照のこと。
32 日本監査役協会「会計監査人との連携に関する実務指針」第2 3(2)会計監査人に対する報酬等の同意権も参照のこと。
33 監査役等としては、報酬原案が作成される前の段階、遅くとも報酬原案が作成された段階で、経営執行部門及び会計監査人から、監査計画や監査報酬の見積りに関する情報提供を受けておくべきである。なお、最終的な監査契約の締結、具体的な監査報酬額の確定は、実務上、株主総会後となることが多い
34 監査手続の追加等による報酬額の改定があった場合、改定に当たって監査役等の同意が必要である。したがって、報酬額の改定があった場合には、改定に対する同意を含めて、同意した理由を記載することとなろう。
35 なお、日本監査役協会が公表している「会計監査人との連携に関する実務指針」等を参考に報酬を確認した旨の記載は、少なくともその一内容となり得るものと考えられている。(法務省民事局参事官室「会社法の改正に伴う会社更生法施行令及び会社法施行規則等の改正に関する 意見募集の結果について」第3 2(11)㉕45頁(http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000123831))
★第4 監査役等の監査の実効性の確保について
  ■1 法令のポイント

「株式会社の業務の適正を確保するために必要な体制」(内部統制システム)について、監査を支える体制監査役等による使用人からの情報収集に関する体制に係る規定の充実のため、下記の事項が追加されることとされた。また、内部統制システムの運用状況の概要についても事業報告の内容に加えられた。
  ●(1)内部統制システムに追加された事項

①企業集団における業務の適正を確保するための体制(会社法施行規則第100条第1項第5号イ~ニ。次の「第5 企業集団における内部統制システムについて」の「1法令のポイント」を参照)
監査役等の補助使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項(会社法施行規則第100条第3項第3号、第110条の4第1項第3号、第112条第1項第3号)
取締役、その他使用人等及び子会社の取締役、監査役、使用人等が監査役等に報告をするための体制(会社法施行規則第100条第3項第4号イ、ロ、第110条の4第1項第4号イ、ロ、第112条第1項第4号イ、ロ)
監査役等に報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制(会社法施行規則第100条第3項第5号、第110条の4第1項第5号、第112条第1項第5号)
監査費用の前払又は償還の手続その他の監査費用等の処理に係る方針に関する事項(会社法施行規則第100条第3項第6号、第110条の4第1項第6号、第112条第1項第6号)
  ●(2)内部統制システムの運用状況の概要の記載について

内部統制システムの運用状況の概要が、事業報告の記載事項となった(会社法施行規則第118条第2号)。
  ■ 2 適用時期
  ●(1)取締役会での決議について

大会社では、内部統制システムを取締役会で決議しなければならないが、内部統制システムに関する改正について、経過措置は設けられていない。これは、会社法施行規則第100条(第98条、第112条)の改正は現行の同条の規定を具体化するものと整理できるため、現行の同条の規定に基づく内部統制システムの整備についての決定を適切に行っている会社であれば、改正後も、会社法第362条第5項に違反することはないと考えられているためである36・37

改正会社法施行規則に基づく内部統制システムの基本方針について取締役会として決定する場合、決定の時期については、上記改正の趣旨から施行日以前に決定することも可能である。

内部統制システムの基本方針の事業報告への記載については、①事業年度中に存在した基本方針を記載するという考え方と、②事業報告の作成時点で存在する基本方針を記載するという考え方とがある。3月末までの事業年度中に基本方針の変更を決定した場合、当該事業年度の事業報告には、①の考え方に立てば、変更前及び変更後の基本方針の内容の概要を、②の考え方に立てば、変更後の基本方針の内容の概要を、それぞれ記載することになるものと考えられる。

また、事業年度末日以降、当該事業年度に係る事業報告の作成までに内部統制システムの基本方針について変更を行った場合、平成27年3月期に係る事業報告には、①の考え方に立てば、変更前の基本方針の内容の概要を記載しつつ、変更の重要性に応じて後発事象(会社法施行規則118条1号等)として変更の内容を記載することとなり、②の考え方に立てば、変更後の基本方針の内容の概要を記載することとなることは改正前会社法と同様である。
36 法務省民事局参事官室「会社法の改正に伴う会社更生法施行令及び会社法施行規則等の改正に関する 意見募集の結果について」第3 2(9)㉔34頁~35頁(http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000123831)
37 したがって、現行法の下で、内部統制システムの整備についての決定を適切に行っている会社であれば、施行日までに内部統制システムの改定の決定を行う必要はない。ただし、改正会社法の施行日前であっても、改正会社法の規定に合わせた決定を行うことを妨げるものではない。
  ●(2)事業報告への記載について

改正後の会社法施行規則の事業報告の記載についての規定は、施行日以後に終了する事業年度に係る事業報告から適用されることとなっている(改正法務省令附則第2条第6項)。ただし、内部統制システムの基本方針の内容の概要は、改正前の会社法施行規則の下でも記載する必要があるところ、基本方針を変更する決議を行う場合にどの時点の基本方針の内容の概要を事業報告に記載することとなるかは、前述のとおりである。

なお、事業年度中に施行日を迎えた場合、当該事業年度に係る事業報告における内部統制システムの運用状況の概要の記載については、施行日以降のものに限定して記載をすればよい(改正法務省令附則第2条第7項)。
したがって、3月決算会社においては、平成28年6月の定時株主総会に係る事業報告に、平成27年5月1日以降の運用状況の概要を記載することとなる。
  ■3 監査役等としての留意点

監査役等は、決議の内容の概要若しくは運用状況の概要の記載内容が相当でないと認めるときは、その旨及びその理由を監査報告に記載しなければならない(会社法施行規則第129条第1項第5号、第130条第2項第2号、第130条の2第1項第2号、第131条第1項第2号)。したがって、決議の内容の概要及び運用状況の概要の記載内容を評価しなければならないが、評価に際しては次の事項に留意する必要がある。
  ●(1)内部統制システムに追加された事項について
  ①監査役等の補助使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項

監査役等の補助使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項としては、下記のポイントを内容とすることが考えられる。
ⅰ)補助使用人に対する指揮命令権の監査役等への帰属補助使用人の考課・異動等に関する同意権の監査役等への付与
ⅱ)必要な知識・能力を備えた専任又は兼任の補助使用人の適切な員数の確保兼任の補助使用人の監査役等の補助業務への従事体制の確保
ⅲ)補助使用人への必要な調査権限・情報収集権限の付与

内部監査部門をはじめとする執行側各部署の協力体制の確保、必要な会議への出席(監査役等の代理出席を含む)等を含む。
なお、会社法施行規則第100条第3項第1号から上述の第3号までに規定されている体制は、相互に関連するものであり、形式的に区分せず一体のものとしてまとめて決議することも妨げられない38
38 法務省民事局参事官室「会社法の改正に伴う会社更生法施行令及び会社法施行規則等の改正に関する 意見募集の結果について」第3 2(9)⑧⑩26頁、27頁(http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000123831)
  ②取締役、その他使用人等及び子会社の取締役、使用人等が監査役等に報告をするための体制

使用人等が監査役等に報告をするための体制は、法令・定款違反や会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事項に係る内部通報に限らず、経営に関する重要事項についての業務執行取締役等からの報告経理部門等からの報告のほか、リスク・コンプライアンスや賞罰に関する担当部署からの報告等も含まれることに留意が必要である。

また、内部通報制度等については、監査役等が窓口となることも一案39ではあるが、すべからく監査役等が窓口となることが要求されているわけではなく、所管部門や外部専門機関を経由した間接的な報告も認められる。

監査役等としては、各所管部門及び外部専門機関等から監査役等に対して適切に報告がなされる体制が構築・運用されていることを、あらためて監視・検証することが重要である。
なお、子会社の使用人等からの報告については、当該子会社の執行部門や親会社における当該子会社の所管部署等を経由して親会社の監査役等に間接的に報告されることも認められる。
39 なお、現在、監査役が直接内部通報の窓口となっている会社は22.1%である(日本監査役協会「第15回インターネットアンケート集計結果」監査役設置会社版(2015)問13-4)
  ③監査役等に報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制

報告者が不利な取扱いを受けることのないよう社内規定が整備されているか、また、これらの社内規定が適正に運用されているかどうかを監視する仕組みが構築されているかを確認するとともに、これらの仕組みが適正に運用されているかを確認する必要がある。
  ④監査費用の前払又は償還の手続その他の監査費用等の処理に係る方針に関する事項

監査役等の監査費用の前払及び償還については既に会社法第388条、第399条の2第4項、第404条第4項にて保障されているところである。しかし、実際の運用においては前払及び償還の請求が難しい場合が往々にして存在し、前払及び償還の請求が制約されることにより監査役等の監査が制約される懸念がある。
そこで、各社の状況に応じて、内部統制システムの1項目として監査費用の償還の手続その他の監査費用の処理に係る方針についての決議をあらかじめ行うことは、監査費用の処理についての監査役等の予測可能性を高め、監査役等の職務の円滑な執行に資すると考えられたため、規定されたものである40
したがって、通常の監査費用については、会社の事業計画及び監査役等の監査計画に応じて予算化されることが望ましい。また、その他、緊急の監査費用、例えば、企業不祥事発生時のほか、大規模第三者割当てや利益相反取引の監査に際し、監査役等が外部の専門家を利用した場合の費用など、有事における監査費用について、前払や償還を請求するケースを事前に想定し方針を定めることが望ましい。
40 法務省民事局参事官室「会社法の改正に伴う会社更生法施行令及び会社法施行規則等の改正に関する 意見募集の結果について」第3 2(9)㉑32頁(http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000123831)
  ●(2)運用状況について

内部統制システムの運用状況に対する監査役等の監査については、既に「内部統制システムに関する監査役監査のベストプラクティス」41が示されており、その後、監査役監査基準等についても反映されているので参照されたい。

なお、運用状況の概要については、各社の状況に応じた記載をする必要があること、単に「当該『業務の適性を確保するための体制』に則った運用を実施している。」というだけの記載は、通常は、「運用状況の概要」の記載とは言い難いと考えられている42点に留意が必要である。
運用状況に係る監査役等の監査報告については、当協会監査報告ひな型においては、平成23年に内部統制システムの運用状況に対応した改正がなされているため、参考にされたい43
41 日本監査役協会「有識者懇談会の答申に対する最終報告書」月刊監査役 570号別冊付録(2010) 監査役監査基準の改定については、武井一浩「平成23年改定版『監査役監査基準』『内部統制監査実施基準』の解説」月刊監査役583号(2011)
42 法務省民事局参事官室「会社法の改正に伴う会社更生法施行令及び会社法施行規則等の改正に関する 意見募集の結果について」第3 2(11)①35頁(http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000123831)
43 日本監査役協会「監査報告のひな型について」月刊監査役583号103頁(2011)
  ★第5 企業集団における内部統制システムについて
  ■1 法令のポイント

株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の内容に、企業集団における業務の適正を確保するための体制が含まれる旨、会社法に定められることとなった(会社法第362条第4項第6号)。会社法への規定を受け、法務省令に以下の事項が、企業集団における業務の適正を確保するための体制の例示として定められることとなった(会社法施行規則第100条第1項第5号)。

①子会社の取締役、執行役、業務を執行する社員等の職務の執行に係る事項の親会社に対する報告に関する体制(同号イ)
②子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制(同号ロ)
③子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制(同号ハ)
④子会社の取締役等及び使用人の職務執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制(同号ニ)
  ■2 適用時期
前述第4「監査役等の監査の実効性の確保について」2「適用時期」参照。
  ■3 監査役等の留意点

会社法第362条第4項第6号は、従来会社法施行規則に定められていたものが、会社法に格上げされたものである。上記①から④の事項は、改正法務省令において「当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制」の例示として定められたものであり、従前の解釈を拡大する趣旨ではなく、また、上記①から④の事項に形式的に区分した決議をすることまで求められているわけではなく、実質的に当該事項について決議がされていればよい44

そして、本規定によっても、企業集団内部統制システムの整備が義務付けられているわけではなく、会社の性質・規模等を踏まえて、企業集団内部統制システムを整備しないという決定をすることもできることは、従来と同様である。また、当該親会社が個々の子会社における内部統制システムを整備する義務や子会社を監督する義務まで定めるものではないが、企業集団の業務の適正を確保するために必要な体制を整備していないと不測の事態が発生した場合に取締役の善管注意義務違反が問われる可能性があり45、そのような状況を監査役等が放置していれば、監査役等も善管注意義務違反が問われる可能性があることも従来と同様である。
したがって、監査役等としては従来と同様、親会社における子会社管理体制、企業集団を構成する子会社の業種、規模、重要性や性質に応じたグループ内部統制システムが適正に構築・運用されているかどうか、監視・検証することが必要である。
44 法務省民事局参事官室「会社法の改正に伴う会社更生法施行令及び会社法施行規則等の改正に関する 意見募集の結果について」第3 2(9)②~⑤22頁~24頁(http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000123831)
45 坂本三郎編著『一問一答 平成26年改正会社法』216頁(商事法務、2014)
  ★ 第6 支配株主の異動を伴う第三者割当てについて
  ■1 法令のポイント

改正会社法により、公開会社における募集株式の割当て等46に関して、募集株式の割当て等により募集株式の引受人となる者が募集株式を引き受けた結果議決権の過半数を有することとなる場合には、株主に対して、割当てに関する情報を通知しなければならない(会社法第206条の2第1項、会社法施行規則第42条の2)。

また、株主に対する割当てに関する情報の通知には、当該募集株式の割当て等についての監査役等の意見を記載しなければならないとされている(会社法施行規則第42条の2第7号)。
さらに、総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主が、募集株式の引受けに反対する旨を通知したときは、当該公開会社は、募集株式の割当て等について株主総会の決議による承認を受けなければならない(会社法第206条の2第4項、第5項)。

ただし、当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において、当該公開会社の事業の継続のため緊急の必要があるときは、株主総会決議は必要ない(会社法第206条の2第4項ただし書)。
46 第三者割当てだけではなく、公募の場合も含まれる(坂本三郎編著『一問一答 平成26年改正会社法』131頁(商事法務、2014)。
  ■2 適用時期
施行日以降に募集事項の決定があった場合に限られる(改正会社法附則第12条)
  ■3 監査役等の留意点

支配株主の異動を伴う第三者割当て等においては、取締役会が支配株主を選別するという利益相反の懸念が生じうるので、通常の第三者割当て等の場合より慎重な手続を確保するため、改正会社法により、株主に対する通知に監査役等の意見等の記載が義務付けられた。
監査役等は、経営者から独立した機関として、第三者割当ての必要性や相当性等について慎重かつ適正な検討をした上で、取締役会において十分な審議が行われているか、会社役員の地位の維持を目的として株主の共同の利益に反する第三者割当て等が行われるものではないか等、十分な監査を行う必要がある47。監査役等の意見の表明に際しては、監査役監査基準第46条等を参考にされたい。
47 第三者割当てに関する具体的な監査役等の実務については、日本監査役協会「監査役監査実施要領」月刊監査役第588号214頁~220頁 (2011) 参照。
  ★第7 親会社等との利益相反取引の情報開示の充実について
  ■1 法令のポイント

改正前会社法から、親会社等との利益相反取引のうち重要なものについては、計算書類の個別注記表における「関連当事者との取引に関する注記」(会社計算規則第98条第1項第15号、第112条)や附属明細書(同規則第117条)において、取引の内容や取引条件等を表示しなければならないものとされており、個別注記表及び附属明細書における表示の適正さについては、監査役等による監査意見の対象となっていた(会社法第436条第1項、第2項第1号、会社計算規則第122条第1項第2号等)。

改正法務省令において、親会社等との利益相反取引に関する情報開示をさらに充実させるため、個別注記表等に表示された取引のうち、親会社又はそれと同等の影響力を有すると考えられる自然人等(親会社等)との利益相反取引について、取締役(会)の判断や監査役等の意見が、事業報告及び監査報告の記載内容とされた。

具体的には、個別注記表に記載されている親会社等との利益相反取引について、
・ 株式会社の利益を害さないように留意した事項
・ 当該取引が株式会社の利益を害さないかどうかについての取締役(会)の判断及びその理由
・ 社外取締役を置く会社で、取締役(会)の判断が社外取締役の判断と異なる場合、その意見
が事業報告(または附属明細書)の記載事項となり(会社法施行規則第118条第5号、第128条第3項)、これらの事項についての監査役等の意見が、監査役等の監査報告の記載事項となった48(会社法施行規則第129条第1項第6号、第130条の2第1項第2号、第131条第1項第2号)。
48 会計監査人設置会社である場合は、事業報告への記載(会社法施行規則第118条第5号本文及び第128条第3項ただし書)、会計監査人非設置会社であっても公開会社である場合で、取引の内容等を個別注記表ではなく計算書類の附属明細書に記載するときは、事業報告の附属明細書への記載が求められる(施行規則第128条第3項本文)。会計監査人非設置会社かつ公開会社ではない会社については、個別注記表に関連当事者取引の注記をすること自体が不要とされている(会社計算規則第98条第2項)。
  ■  ■2 適用時期

施行日前に、その末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る株式会社の事業報告及びその附属明細書の記載又は記録については、なお従前の例によるものとされ(改正法務省令附則第2条第6項)、さらに、施行日を含む事業年度に係る事業報告における開示については施行日以後にされた取引に限定されている(改正省令附則第2条第8項)。
したがって、3月決算会社においては、平成27年5月1日以降の取引について、平成28年6月の定時株主総会に提出する事業報告及び監査報告の内容とすればよいこととなる。
  ★ 第8 多重代表訴訟について
  ■法令のポイント及び留意点

多重代表訴訟に関する法令のポイント及び監査役等の留意点については、株主代表訴訟研究会で取りまとめた(別添2)「株主代表訴訟への対応指針-監査役実務の視点から-」の該当部分(抜粋)を参照されたい。
なお、適用時期については経過措置が設けられており、施行日前にその原因となった事実(責任原因事実)が生じた特定責任については、多重代表訴訟制度は適用されない(改正会社法附則第21条第3項)。
  ★第9 監査役に関する登記について
  ■法令のポイント及び留意点

改正前会社法においては、いわゆる会計限定監査役であるか否かについては、登記上明らかではなかった。しかし、会計限定監査役か否かにより会社法の規律が異なり、登記上も明確にする必要があるため、改正会社法において、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを、登記事項とすることとなった(会社法第911条第3項第17号イ)。
適用時期については経過措置が設けられており、改正会社法施行後、最初に監査役が就任・退任する際に、変更の登記を行えばよい(改正会社法附則第22条第1項)。

なお、平成17年会社法制定時、旧商法特例法における小会社は、定款に監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定めがあるものとみなされた(会社法整備法第53条)。定款に監査の範囲を会計に限定する旨の定めがあるものとみなされた小会社は、その定款を備置・閲覧に供する場合には定款に記載がない場合でも、定めがあるとみなされている事項を示さなければならない(会社法整備法第77条)とされたが、定款にこの記載を行わず、現在もみなし定款の内容を反映していない場合があるので、今回の改正会社法に基づく登記に合わせて、定款の定めがあるとみなされている内容について定款に反映する記載(規定の追加)も行うべきである。
     
 ★★別添1 会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定権行使に関する監査役の対応指針
■第1 経緯
「会社法の一部を改正する法律(平成26年6月27日法律第90号)」(以下、「改正会社法」という)により、株主総会に提出する会計監査人の「選任及び解任並びに会計監査人を再任しないこと」(以下、「選解任等」という)に関する議案の内容は、監査役又は監査役会(以下、「監査役」という)が決定することとなった(改正会社法第344条)。

この改正は、会計監査人の選解任等の株主総会議案及び報酬等について、会計監査人による監査を受ける立場にある取締役(会)が決定する仕組みは、会計監査人の独立性確保の観点から問題があるため、会計監査人の選解任等の議案決定権を監査役又は監査委員会に付与すべきとの指摘を受けたことによる1。なお、委員会設置会社(改正会社法では、指名委員会等設置会社に変更された)における監査委員会は、既に会社法改正前から、議案決定権を付与されているほか、新たに設けられた監査等委員会設置会社における監査等委員会も決定権を付与されている(会社法第399条の2第3項第2号)。

報酬等の決定権については、法制審議会会社法制部会での審議において、財務にかかわる経営判断と密接に関連するものであること、監査役及び監査委員会がその職務として当該同意権を適切に行使することにより会計監査人の独立性を確保することができること等2の理由から、従来どおり監査役及び監査委員会には同意権のみ認められることとされている(新たに設けられた監査等委員会も同様に同意権のみ認められている)。
1 「会社法制の見直しに関する中間試案の補足説明」(法務省民事局参事官室 平成23年12月)
2 岩原紳作「『会社法制の見直しに関する要綱案』の解説〔Ⅱ〕」旬刊商事法務1976号5頁(2012)
■第2 本指針の趣旨及び位置付け
本指針は、監査役に会計監査人の選解任等の議案決定権が付与されたことを受けて、法改正の趣旨を踏まえ、監査役としての会計監査人の選解任等の議案決定権行使に対する考え方及び実務対応を示すものである。
また、当協会からは、会計監査人の選解任等の議案決定及び報酬等の同意に関連するものとして、本指針のほか、以下の基準・指針等を公表している。

まず、
監査役の監査にあたっての基準及び基本的な行動の指針を定めた「監査役監査基準」がある。また、
会計監査人との相互連携のあり方を示し、情報交換すべき具体的な連携の方法・時期等を定めた「会計監査人との連携に関する実務指針」
法令及び各種の指針及び実務の実態を踏まえて監査役監査の実施事項を詳細にまとめた「監査役監査実施要領」が存在する3。会計監査人の選解任等の議案決定権行使の実務に際しては、本指針のほかこれらの基準・指針等を併せて参照されたい4

なお、本対応指針の末尾に参考資料2として実務事例を記載しているが、それぞれの会社を取り巻く環境は異なっており、当該実務事例を参考に各社の実態に即した実務対応策が策定されることを望むものである。
3 これらの指針は、日本監査役協会で平成22年4月8日に取りまとめた「有識者懇談会の答申に対する最終報告書」に基づいた記述がなされている。
4 なお、今回の会社法改正を受けて、「監査役監査基準」、「会計監査人との連携に関する実務指針」、「監査役監査実施要領」等は、順次改定する予定
■ 第3 選解任等の議案決定権行使に関する監査役の対応
  ●1 会計監査人の選解任等の議案決定権に関する監査役の法的責任について

監査役の法的責任は、議案決定権が付与されることによって、大きく変化するものではない。会社法改正前においても、監査役は、会計監査人の選解任等の議案同意権及び株主総会議題提案権、選任議案提出請求権が与えられており、その権限を適切に行使するためには、会計監査人の監査活動の適切性、妥当性を評価し、選解任等の議案同意や再任の適否を判断しなければならないからである。
ただし、同意権から決定権に移行した結果、監査役が、株主総会に提出する議案の内容を決定することになるため、監査役は、議案決定権行使にあたって、より主体的に取り組み、判断しなければならない。また、判断のプロセス及び理由について、監査役は、株主総会で株主からの求めに応じて説明を行う必要がある。
  ●2 議案決定権行使の際の監査役の留意点
  ◎(1)経営執行部門との連携にあたっての留意点

前述のとおり、監査役は、会計監査人の選解任等の議案決定及び再任に関して、より主体的に取り組み、判断しなければならない。
判断にあたって、監査役は、会計監査人についての情報を有している経営執行部門(経理・財務部門)の検討プロセス及びその結果を踏まえ、(従来の取締役会に替わって)会計監査人の選解任等の議案決定権を行使する5

したがって、監査役が、議案決定権を適正に行使(判断)するためには、経営執行部門との連携がこれまで以上に重要となる。

具体的な実務としては、監査役は、会計監査人の選解任等の議案決定に際して、経営執行部門から会計監査人の選任候補案を受領することが考えられる。また、経営執行部門からの推薦の有無にかかわらず、会計監査人の選任候補に関して、公認会計士又は監査法人の概要、欠格事由の有無、内部管理体制、監査報酬の水準、会計監査人の独立性に関する事項等職務の遂行に関する事項(会社計算規則第131条)等について、経営執行部門から事前に十分な報告を受けるとともに、経営執行部門において適切な検討プロセスを経ているか確認する必要がある。

監査役は、その職務を適切に遂行するために、取締役・使用人等との意思疎通を図り、情報の収集及び監査の環境の整備に努めなければならず、その場合に、取締役又は取締役会は、監査役の職務執行のために必要な体制の整備に努めなければならない(会社法施行規則第105条第2項)。そのため、監査役としては、平素より、経営執行部門に対し、会計監査人の選解任等の議案決定権の行使に関して、より一層、連携を図ることの必要性及び重要性を認識させることが重要である6
5 監査役は、執行部門と連携して会社として会計監査人選任議案の内容を決定するのであり、必要な情報を全て監査役として独自に調査・収集することまでは求められていない

6 経営執行部門から決定権の行使に必要な情報を得られない場合、監査役(会)が、独自に専門家等を起用して調査・検討を行うことも考えられるが、そもそも経営執行部門が任務懈怠により情報を提供しない場合、監査役(会)は、その状況の是正を取締役会に求めるべきである(是正されない場合は、監査報告への記載を検討することとなる)。また、代表取締役に対し、経営執行部門が監査役の指示に従わない場合は当該事態を是正する責務を負っていることを認識させることが重要である。
具体的には、監査役(会)は、事前に代表取締役との間で上記事項について文書化若しくは取締役会で認知させることにより、会計監査人の選解任等の議案決定権の行使に関する監査役(会)の指示の実効性を担保することが望ましい。
  ◎(2)会計監査人の監査活動の適切性・妥当性の評価にあたっての留意点

監査役は、会計監査人の選解任等の議案決定権を行使するに際して、現任の会計監査人の監査活動の適切性・妥当性を評価しなければならない。
監査活動の適切性・妥当性の評価にあたって、監査役は、前述のとおり、経営執行部門から会計監査人の活動実態について報告聴取するほか、自ら事業年度を通して、会計監査人から会計監査についての報告聴取、現場立会いを行い、会計監査人が監査品質を維持し適切に監査しているか評価する。公開会社においては、事業報告に記載している「会計監査人の解任又は不再任の決定の方針」の内容も再任・不再任の判断基準となる7・8。また、会計監査人の独立性、法令等の遵守状況についても検討が必要である。
7 会計監査人の解任・不再任議案を提出する場合、同時に提出しなければならない新しい会計監査人の選任議案を決定するために要する期間にも留意する必要がある。株主総会の提出議案を決定する時期に判断したのでは、定時株主総会での不再任議案の提出は事実上できないため、不再任の可能性がある場合には、事業年度末までには判断しておく必要があるだろう。

8 会計監査人から辞任の申出があった場合、その背景には、監査に障害が生じている場合も多いことから、監査役は当該辞任の理由を確認して、会社側の対応に問題がなかったか検証することが必要である。
  ◎(3)会計監査人を再任する場合の留意点

会計監査人は、株主総会において、不再任の決議がされなかったときは、再任されたものとみなされる(会社法第338条第2項)。

監査役は、会社法改正前においても会計監査人の不再任に関する議題提出請求権を有し、再任に相応しい監査活動を行っているかどうかを監視・検証する責務を負っている。そのため、監査役は、毎期、会計監査人の再任の適否について検討しなければならないとされていた。
さらに、会社法改正により、会計監査人の選解任等の議案決定権が監査役に移行することとなったことは、監査役に対し、従来の「同意」という受け身の姿勢から「自ら決定する」という主体的な判断が求められているといえ、会計監査人が再任に相応しい監査活動を行っているかどうか、事業年度毎に、監視・検証し、再任の適否について判断しなければならない。
  ◎(4)監査役における手続に関する留意点

監査役は、会計監査人の選解任等の議案決定及び再任について、プロセスを可視化し、記録として残しておくことが重要である。

監査役は、会計監査人の選解任等議案を決定する場合、審議の経過の要領と結果について、議事録等に記載し、会計監査人を再任する場合は、会計監査人の当該事業年度の監査活動の相当性の審議内容について、議事録等に記載する。また、取締役に対して議案の報告又は会計監査人を不再任とすることを株主総会の目的事項とはしない旨の連絡を行うべきである。
  ◎(5)株主総会及び開示に関する留意点
  ①株主総会での説明について

決定権付与により、監査役は、会計監査人の選解任等の議案決定権の行使(再任の場合は不行使)について、株主に対して合理的な説明を行うことが求められることに留意が必要である。監査役は、株主から説明を求められたときは、議案決定権行使(または再任の判断)に至るプロセス及び理由について、合理的な説明を行うこととなる。
  ②「会計監査人の解任又は不再任の決定の方針」について

公開会社においては、「会計監査人の解任又は不再任の決定の方針」が事業報告の開示事項となっている。事業報告は経営執行部門で準備すべきものであるが、会計監査人の選解任等の議案決定権が監査役に移行した結果、「会計監査人の解任又は不再任の決定の方針」の策定は、監査役が行うことが自然である。具体的には、事業報告には、監査役が策定した方針が、経営執行部門を通じて記載されることとなろう。
  〇③「選解任等の議案の決定権及び報酬等の同意権の行使状況」の開示について

会計監査人の選解任等の議案を提出する場合には、会計監査人の候補者とした理由、若しくは会計監査人を解任又は不再任とする理由を株主総会参考書類に記載しなければならない(会社法施行規則第77条第3号、第81条第2号)。
また、監査役が会計監査人の報酬等に同意したときは、同意した理由を事業報告に記載しなければならない(会社法施行規則第126条第2号)。これらは、経営執行部門を通じて株主総会参考書類若しくは事業報告に記載されることとなる。
     
  ★<参考資料1>関連法令
  (1) 会社法第344条(会計監査人の選任等に関する議案の内容の決定)
1 監査役設置会社においては、株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容は、監査役が決定する。
2 監査役が二人以上ある場合における前項の規定の適用については、同項中「監査役が」とあるのは、「監査役の過半数をもって」とする。
3 監査役会設置会社における第1項の規定の適用については、同項中「監査役」とあるのは、「監査役会」とする。
※ 会社法改正附則第15条(会計監査人の選任等に関する議案の内容の決定に関する経過措置)
施行日前に会計監査人の選任若しくは解任又は会計監査人を再任しないことに関する決議をするための株主総会の招集手続が開始された場合における会計監査人の選任若しくは解任又は会計監査人を再任しないことに係る手続は、新会社法第344条の規定にかかわらず、なお従前の例による。
※ 会社法の一部を改正する法律の施行期日は、平成27年5月1日となった。
(会社法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成27年1月23日 政令第16号))
  ●  (2) 会社法第338条
1 会計監査人の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。
2 会計監査人は、前項の定時株主総会において別段の決議がされなかったときは、当該定時株主総会において再任されたものとみなす。
  (3) 会社法施行規則第77条
取締役が会計監査人の選任に関する議案を提出する場合には、株主総会参考書類には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
三 監査役(監査役会設置会社にあっては監査役会、監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会)が当該候補者を会計監査人の候補者とした理由
  (4) 会社法施行規則第81条
取締役が会計監査人の解任又は不再任に関する議案を提出する場合には、株主総会参考書類には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
二 監査役(監査役会設置会社にあっては監査役会、監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会)が議案の内容を決定した理由
※ 会社法施行規則の一部を改正する省令附則第2条第5項
施行日前に招集の手続が開始された株主総会又は種類株主総会に係る株主総会参考書類の記載については、なお従前の例による。
  (5) 会社法施行規則第126条
株式会社が当該事業年度の末日において会計監査人設置会社である場合には、次に掲げる事項(株式会社が当該事業年度の末日において公開会社でない場合にあっては、第2号から第4号までに掲げる事項を除く。)を事業報告の内容としなければならない。
二 当該事業年度に係る各会計監査人の報酬等の額及び当該報酬等について監査役(監査役会設置会社にあっては監査役会、監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会)が法第399条第1項の同意をした理由
※ 会社法施行規則の一部を改正する省令附則第2条第6項
施行日前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る株式会社の事業報告及びその附属明細書の記載又は記録については、なお従前の例による。
     
  ★ <参考資料2>選解任等に関する議案の内容の決定に関する監査役の実務事例
  ◆Ⅰ.解任・不再任の決定方針について
公開会社は、「会計監査人の解任又は不再任の決定の方針」を事業報告に記載しなければならない(会社法施行規則第126条第4号)ので、会計監査人の解任及び不再任の議案内容の決定権を持つ監査役が、その方針を定め経営執行部門を通じて事業報告に記載することとなる(方針を定めない場合は、定めていない旨を記載する)。また、本方針を定めた場合、事業報告にその方針が適切に記載されていることを確認する。
なお、従前の実務においては、解任・不再任の議案提出決定の要素として、下記の事項などが方針として記載されている。
①会社法第340条第1項各号に定める項目に該当すると判断される場合
②会社法、公認会計士法等の法令違反による懲戒処分や監督官庁からの処分を受けた場合
③その他、会計監査人の監査品質、品質管理、独立性、総合的能力等の具体的要素を列挙し、それらの観点から監査を遂行するに不十分であると判断した場合等
また、解任の方針と、再任・不再任を別個に記載し、解任については上記①②等の理由を記載し、再任・不再任については上記③の要素や監査実施の有効性及び効率性等より幅広く記載をする例もある。
  ◆Ⅱ.3月決算会社における監査役の実務事例
  ■≪ 再任する場合 ≫
  ● 第1 事前の情報収集並びに分析・意見交換
  ◎   ◎1 実績のまとめ
  (1)当期に監査役が実施した会計監査活動の整理をする。(~3月末)

○ 会計監査人監査の相当性判断のために、年間を通じて状況把握に努める。
・会計監査人からの報告聴取、棚卸しの現場立会い、経理部門からの報告聴取、監査役に対する会計監査人の報告義務の履行状況の確認等を行う。
  (2)会計監査人の会計監査活動を把握する。(3月末~5月上旬)

① 経理部門・内部監査部門等から、各部門が把握した会計監査に係る実績について十分な報告を受ける。
・会計監査人が独立の立場を保持し、職業的専門家として適切な監査を実施しているか、企業グループの意向等にも留意する。
② 会計監査人から監査実績について報告を受ける。
③ 各報告を受け、当期における会計監査の問題点・課題を把握する。
※ 再任に疑念がある場合、株主総会の議案(不再任、新たな選任)の決定を念頭に置き、できるだけ早期に対応する。
  ◎  ◎2 会計監査人の再任に関する情報収集・分析
  〇  〇(1)経営執行部門・会計監査人から報告を聴取し意見交換を行う。(~5月上旬)

① 経理部門等の経営執行部門から、会計監査人再任に関する意見を聞き、意見交換をする。
② 会計監査人から、以下の事項について説明を受け、意見交換を行う。
・会計監査人が執行部門と協議した重要な事項
・会計監査人の独立性に関する事項その他職務の遂行に関する事項(会社計算規則第131条)
・会計監査人の状況と監査体制(ローテーション、新年度の会計監査人の監査体制等及び、業務執行社員等の交代があるときは、当該交代の方針・選任の経緯等について説明を受け、引継ぎ状況について確認する)
  〇(2)経営執行部門から会計監査人を不再任とすべきとの提案があった場合は、不再任の事由について、客観的かつ具体的に把握して、再任の可否を判断する。(会計監査人の資質、監査体制、会計処理を巡る経営執行部門と会計監査人との意見の相違、監査報酬等について意見を聞く)
  ●第2 再任に関する手続
  ◎1 監査役会における審議及び取締役会への通知(~5月中旬)

○ 「会計監査人の解任又は不再任の決定の方針」に照らし、また、当期に係る会計監査人監査の相当性の確認を踏まえ、監査役会として再任するか否かを審議の上で決定し、審議内容を議事録に記載する。
○ 取締役会に対して、監査役会の決定内容を通知し、会計監査人の選任を株主総会の目的としない旨を付記する(会社法第344条)。
  ●第3 不再任に関する手続
  ○ 経営執行部門と十分な意見交換を行い、会計監査人に対して不再任とする理由を明らかにし、会計監査人の意見を聞いて監査役会が最終的に判断する。
なお、会計監査人を不再任とする議案を株主総会に提出する場合、株主総会参考書類に、次の事項を記載しなければならない(会社法施行規則第81条)。
一、会計監査人の氏名又は名称
二、監査役等が議案の内容を決定した理由
三、会計監査人の意見があるときは、その意見の内容の概要
  ■≪ 選任する場合 ≫
  ●第1 事前の情報収集並びに分析・意見交換
  ◎1 会計監査人の選任に関する情報収集・分析
    ○ 下記事項について経営執行部門から情報の提供を受けて意見交換を行い、会計監査人から説明を受ける。(~5月上旬)
※定時株主総会の選任議案を決定する取締役会の日程を考慮した上で実施する必要がある。
・ 監査法人の概要
・ 欠格事由の有無
・ 会計監査人の独立性に関する事項その他職務の遂行に関する事項(会社計算規則第131条)
・ 監査法人における社員のローテーションや交代時の引継ぎ等の体制
・ 監査法人の内部管理体制
・ 監査報酬の水準、及び非監査報酬がある場合はその内容・水準(なお、報酬額は新規会計監査人の選定に密接な関係がある一方、報酬額の決定権は取締役会(経営執行部門)にある。したがい、新規会計監査人候補との交渉に際しては報酬額も決定できるよう取締役会(経営執行部門)との連携を密にする必要がある)
  ◎2 会計監査人の引継ぎ
○ 新旧の会計監査人の引継ぎ状況について確認し、必要に応じて引継ぎが十分に行われるように要請する9
9 「会計監査人との連携に関する実務指針」第5(1)②前任監査人との引継状況及び③監査役等と前任監査人との連携状況(24頁)
  ●第2 不再任議案及び選任議案の提出
監査役会による不再任議案及び選任議案の提出(~5月中旬)
○ 監査役会で決議した後、取締役会に会計監査人の不再任議案及び選任議案を提出する(会社法第344条)
  ●第3 選任議案の提出後の手続
  ◎  ◎(1)株主総会における選任決議(6月中旬~月末)
① 取締役会において、現在の会計監査人の不再任議案及び新たな会計監査人の選任議案が株主総会に提出する議案として適正に決議されることを確認する。
② 株主総会参考書類に、必要な記載事項が適正に記載されているか確認する(会社法施行規則第77条、第81条)。
会計監査人候補者とした理由、解任及び不再任の議案内容を決定した理由は、監査役等が検討のプロセス及び検討にあたり考慮した上記第1の1に列挙された事項等についての判断結果を踏まえて記載内容を作成し、経営執行部門を通じて、株主総会参考書類に記載される。
③ 株主総会において、現在の会計監査人の不再任議案及び新たな会計監査人の選任議案が適正に決議されることを確認する。
  ◎(2)選任後の手続(6月中旬~月末)
① 新たな会計監査人(監査法人)が選任された後、すみやかに、その社員の中から会計監査人の職務を行うべき者が選定され、会社に通知されていることを経営執行部門に確認する(会社法第337条第2項)。
② 監査法人の氏名又は名称が、再任又は新たに選任後2週間以内に会社の本店所在地に登記されたことについて経営執行部門から報告を受ける(会社法第911条第3項第19号)。
     
 ★★ 別添2 株主代表訴訟への対応指針‐監査役実務の視点から‐(抜粋)
    多重代表訴訟(特定責任追及の訴え1)とは、企業グループの頂点に位置する株式会社(最終完全親会社等(この意味については、下記34頁参照。))の株主が、その子会社(孫会社を含む。)の発起人等(発起人、設立時取締役、設立時監査役、取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人(以下、便宜上「取締役等」という。))の責任について、代表訴訟を提起できる制度をいう(法第847条の3)。
多重代表訴訟が提起される場合には、子会社の役員の責任を追及するのとあわせて、当該事案について、親会社の役員の責任も追及されることがある。そのため、子会社の監査役のみならず、親会社の監査役として留意すべき点も多い。