シンプラル法律事務所
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ゲーム理論(エール大学)

エール大学ゲーム理論
まえがき+序章
まえがき
戦略的思考とは、
①相手がこちらを出し抜こうとしていることを承知したうえで、さらにその上をいく技である。
②相手方が利己主義で動いているときでも、協力し合う方法を見いだす技である。
③あなたが自分の言葉どおりの行動を取ることを相手と自分自身に確信させる技である。
情報を解釈し、情報を引き出す技である。
相手の行動を予測し、それを変えさせるために、相手の立場に立ってものを考える技である。
成功を収めるためには、一般的な原則を学んだうえで、目の前の状況に合わせてそれを修正していく姿勢が不可欠。
序章
目的は、効果的な戦略を見つけ出して実行する能力を伸ばすこと。
戦略を選ぶときは、対立の可能性を念頭においたうえで、協力関係を利用することを考える。
(このような相互の関係をふまえて行われる決定が戦略的決定あり、それに基づいた行動計画が戦略)
戦略的決定を研究する行動科学の分野:ゲーム理論
ゲーム:チェスから育児まで、テニスから企業買収まで、様々なものが含まれる。
この本の目的:読者がゲーム理論の技を上手に活用する手ほどきをすること。
技を上手に活用するためには科学的な概念や方法論の初歩をしっかり理解しておくことが欠かせない⇒科学と技の2つのアプローチ併用。
第1章:戦略的思考の技のいくつかを紹介
これらの事例を通じて浮かび上がってくる一般的思考⇒ゲーム理論の科学を検討する土台に。
第2~4章:その土台のうえに、事例を通じてゲーム理論の科学の基本原則を説明。
第5~9章:特定の状況に対処するためのもっと具体的な理論や戦略を紹介。
第10~13章:交渉、オークション、投票、誘因(インセンティブ)の設計と言う戦略上の状況に光を当てて、原則や戦略が実地でどのように活用されるかをみる。
実際の世界には、まったく同じ場面は2つとない。それぞれの場面の特質を考慮に入れて、基本原則を組み合わせて用いる必要がある。

実践と経験を通じて磨いていく以外にない。
★第1部 ゲーム理論の基本原則
☆第1章 戦略ショートストーリー
◆この章の目的
    このような状況が世間一般に広く見られるもので、
論理性のある問題を含んでおり、
体系的思考が役に立つ
を知ってもらうこと。
◆1.数当てゲーム
    無作為に選ばれた数字を当てるのであれば、相手の事を考える必要はない。
    but
ゲームをプレーするときは、ほかのプレーヤーの目的と戦略を考慮に入れて行動しなければならない。
相手の行動を予測し、それが自分の戦略にどのような影響を及ぼすかを考えなくてはならない。
◆2.負けるが勝ち
リチャードの立場:
①ルディーが勝つ。ルディーはリチャードを選らぶ。優勝はルディー。
②ケリーが勝つ。ケリーはリチャードを選らび最終投票。
③リチャードが勝つ。ルディーを選べばルディーが勝つ。ケリーを選べば、ルディーとその仲間の反感を買って、ケリーに優勝をさらわれる。
⇒②が最善。
リチャードのプレーが見事だったのは、ほかの参加者の動きをことごとく事前に予測したこと。
◆3.ホットハンド
連続的に成功するその一時期のこと
スターの価値は、自身のあげた得点だけでは評価できない。
チームメイトのプレーにも大きな貢献をしている。
左手の方がうまい人ほど左手を使う頻度が少ない。
(相手はうまい方を使わせないようにする)
◆4.アメリカズ・カップ
ヨットレースでは勝ちさえすればクロスゲーム(接戦)でも構わない。
リードを保つ最も確実な方法はサルまねすること。
株式市場のアナリストや景気予測家:
有名になる⇒猿まね戦略
新参者⇒リスクのある戦略
新しいアイデアは新規参入企業から生まれることが多い。
←新規参入企業にとって、技術革新は最良の、おそらくは唯一の市場獲得のチャンス。
P&Gは、キンバリークラークの開発した新式のおむつを同社のあとから作り市場の中心的な位置を獲得
後手に回るやり方には、二種類の方法がある。
①ヨットレースの例のようにライバルの戦略を即座に模倣する方法。
②コンピュータの例のようにライバルの戦略が成功するか失敗するかがわかるまで待つ方法。
←スポーツと違ってビジネスでは勝者がすべてを得るわけではないので「待ち」の戦略に利点がある。
◆5.ルターとド・ゴールの頑固戦略
ルターの不屈の態度⇒プロテスタントの宗教改革を生み出し、中世のカトリック教会を大きく様変わりさせた。
ド・ゴールの強さは何にもまして妥協しないことの力。
妥協しない⇒相手国には2つの選択肢のみ。
①ド・ゴールの主張を受け入れるか
②拒否するか
ド・ゴールは自分の主張が通ると計算できる局面を慎重に選んで、非妥協作戦を実行
⇒フランスはしばしば大きな利益を得た。
(相手国は代案を提案する機会すら与えられなかった)
妥協しないことは、実際に行うのは難しい。

交渉では通常、今日テーブルにあるパイだけではなく、明日以降のパイも考えなければならない。
適度の非妥協をどうやって実行するか?
頑固を貫きとおし、実行の確約を実現する方法はいろいろある。⇒第7章
◆6.戦略的痩せ方とは何か
足らなかったのは、プラスアルファのモチベーション。
(ダイエットできなければ水着写真が晒される)
明日ではなく今日すぐにダイエットを開始する必然性。
ほとんどの場合、この種のゲームで勝つの未来の自分。
←未来の自分の行動は未来の自分が決める。

この企画では
未来の自分の行動の背中を、現在の自分が後押し
するようなインセンティブを与える。
戦略的思考にのっとって考えれば、選択肢を減らしたほうがいい結果を生む場合もある。
ex.峡谷を背に戦う。乗ってきた船を沈める。

戦いに敗れた場合に失うものを大きくすることにより、コルテスは勝利の確率を高め、実際にアステカ征服に成功した。
⇒第6章
◆7.バフェット流「囚人のジレンマ」
選挙資金改革法案が反対多数で否決⇒賛成票を少しでも多く投じた方の政党に、10億ドルの献金をする。

民主党が法案に反対⇒共和党が法案に賛成で法案不成立⇒共和党に10億ドルの選挙資金をプレゼント
民主党が法案に賛成⇒共和党が反対した場合には10億ドルを手にできる可能性がある。

10億ドルを受け取る可能性を残したければ、民主党は法案に賛成する以外ない。
囚人のジレンマ
双方の当事者が共通の利益(この場合は、選挙資金規制強化を阻止すること)に反対する行動をとる
ことになる。
1人1人が自分の利益に沿って行動する結果、集団全体にとって悲惨な結果を招くことがある。
ゲームを上手にプレーするだけでは、いい結果が得られるとは限らない。
適切なゲームをプレーするように心がけることが重要。
◆8.ミックス戦略
ゲームを繰り返す場合は、行動をミックスする必要がでてくる。
大事なのは、相手に予測不可能に振る舞うこと
but
実際には、ほとんどの人が予測可能なパターンにはまってしまう。
本人は戦略をミックスしているつもりでも、実際は複数の戦略を一定の順番で回すだけの人が極めて多い。

第5章
◆9.不公正な賭け
市場で取引に参加している大半はトレーダー。
トレーダーにとって取引はゼロサムゲーム。
(シカゴの先物取引で)売買の合意が成立する時、双方とも自分の方が利益を手にすると思っているが、どちらかが見込み違いをしている。
株式投資の場合、企業の成長が加速すれば、投資家と企業の両方が利益を得る。)
自分を受け入れようとするクラブに加わりたいとはまったく思わない。
他人から持ちかけられた賭けには乗るべきでない。
「勝者の呪い」
オークションで勝った時には、他の人はその商品にそれほどの価値を認めていないということ。
ある人の行動はすべて、その人が何を知っているかを探す手がかりになる。
オークションでどう振舞えば「勝者の呪い」に陥らずに済むか⇒第10章で論じる。
情報量に偏りがある状況での対等な条件でゲームをする方法:
情報の少ないほうのプレーヤーに、どっちに賭けるかを選ばせる。
情報の役割⇒第8章。
■10.ゲーム理論とタクシー
価格交渉を始めて決裂⇒別のタクシーを探さなければならない。
ホテルに着いてしまう⇒交渉上の立場ははるかに強くなる
と考えたが・・・。
プライドや不合理性が人間の行動に影響を及ぼすことは避けられない
(わずかの損ですむのなら、あえてだまされたほうが得策なのかもしれない。)
タクシーを降りてから交渉を始めれば、強い立場で交渉できた。
相手の視点を把握すべし。相手がどういう情報をもっていて、どういう動機で行動していて、あなたのことをどう思っているかを知っておく必要がある

「己の欲するところを人に施してはいけない。人の好みは、あなたと同じとは限らない」

戦略的思考をするうえでは、すべてのプレーヤーの考え方を知り、プレーヤーの思惑が生み出す相互作用を頭に入れておかなくてはんならない。
このとき、ひとことも口をかきない人も軽んじてはいけない。
◆11.ショートストーリー教訓集
相手の意図を察知する必要(数当てゲームの「48」)

をすべて読んで行動したリチャードが勝利(サバイバー)

③物理学と同じく「作用には反作用が伴う」⇒自分が行動を変えればほかのプレーヤーも行動を変える可能性がある。(ホットハンドの話)

④「つまった歯車は油をさしてもらえる」(ド・ゴールの交渉術)
相手も頑固⇒その上をいくのは難しい。

⑤決意を固めるには、退路を断って臨むのがいい。(ダイエット、戦争)

⑥協調や自己犠牲を必要とする行動の難しさ。(「冷血」「猫に鈴をつける」)

⑦ヨットレースや産業界の技術開発競争では、後発組のほうが革新的な戦略を採用し、先発組は後発組の戦略を模倣する傾向

⑧自分の行動を相手に予測されないことの重要性(オークション会社のじゃんけん対決)

⑨他のプレーヤーは感情のないマシンではなく、生身の人間(エルサレムのタクシーの話)
自尊心や反感などの感情が相手の行動に影響を及ぼす場合もある。
(相手が自分と同じ発想をすると決めつけてはいけない。)
  ◆12.【ケーススタディー】
試験問題のゲーム理論的開放
      
   
 ☆第2章 先を読んで今を推量せよ・・・交互行動ゲーム
◆1.君の番だよ、チャーリー・ブラウン
◆2.2種類の戦略的相互作用
    ①交互行動ゲーム:
ex.チャーリー・ブラウン

プレーヤーが交互に判断し、行動するもの。
今自分がどういう行動をとれば相手がどんな手で応じてくるか、さらにそれに対し自分はどう対応するかというように先を読まなければならない
②同時進行ゲーム:
ex.囚人のジレンマ

プレーヤーは相手の次の行動を知らないまま、それぞれに意思決定。
各プレーヤーは他にプレーヤーがいること、そして、他のプレーヤーがこちらの存在を知っていることもわかっている。

各プレーヤーは他人の立場に身を置いて考え、結果を推量しなくてはならない。
フットボールのように①②の両面をもったゲームもある。
この章⇒交互行動ゲーム。
同時進行ゲーム⇒第3章。
◆3.戦略のルール①
   交互行動ゲーム⇒
プレーヤーは相手の将来の対応を見極め、それに続く自分の最善の行動を推量しなければならない。
●ルール①:先を読んで、合理的に今を推量せよ。

自分の最初の意思決定が究極的にどういう結果を招くのかを予想し、それに基づいて自分の最善の選択を推定する。
◆4.意思決定樹形図とゲーム樹形図
  連続した意思決定における先読み推量の必要性は、1人の意思決定でも起こりえる。
①意思決定樹形図:
1人だけで行う意思決定を表す樹形図

×最初の分岐点から良いものを選ぶ
将来の意思決定を予想して、それをもとに今の選択を行う
ex.ダウンタウンへ行くとすればパス・トレインを使えばニューアークから直接行けるので、パス・トレインの方が車よりいい。
②ゲーム樹形図:
戦略的ゲームの複数のプレーヤーの連続した意思決定を表す樹形図

樹形図の各段階の分岐点で意思決定を行うプレーヤーが交替。
選択を行う人は、先を読む際に、自分の将来の選択だけでなく相手の選択も考慮しなければならない。
◆5.フットボールのケースとビジネスのケース
チャーリーはルーシーが上の枝を選ぶと予想できる⇒自分の選択のうち下の枝を選んだほうがよい。
フレドと名乗るビジネスマンが、「元手さえあれば大儲けできる。10万ドル投資してくれれば、1年で50万ドルの増やすので、それを2人で山分けしましょう。」
フレドが約束を守ると信じるに足りる明白で強力な根拠がない以上、チャーリーは彼が金を持ち逃げすると想定すべき。
この種のゲームで正しい推量を行わないチャーリーやその同類が世界にあまりに多い。
①異なるゲームでも、樹形図や表の形であらわすと同じであったりよく似ている。

図や表を使えば、異なるゲームの類似性が浮き彫りになり、あるゲームに関する知識を別のゲームに応用できる。
さまざまな異なる状況の根底にある類似性に着目し、1つの単純化したアプローチで検討できるようにすることは、「理論」のもつ重要な機能。
②フレドとしては、チャーリーが戦略的思考をすればビタ一文出資しないだろうと予測すべき⇒信頼を獲得する手段が必要。
信頼を確保する手段⇒第6章、第7章
●   プレーヤーがどういう選択をすれば、結果にどういう違いが生まれるかを比較検討すべし。(最重要)
ゲームはゼロサムゲームである必要はない。
双方が勝者のウィン・ウィンの結果になる場合もあれば、双方が敗者のルーズ・ルーズになる場合もある。
たいてい、
双方の利害が一致するシナリオ(チャーリーとフレドが得をする)と、
利害が衝突するシナリオ(フレドの持ち逃げにより、チャーリーが損をしてフレドが得をする。)が併存
⇒だから、こそ、ゲームの分析がおもしろく、しかも難しい。
◆6.複雑な樹形図
   議会:利益誘導型の予算を通そうとする
大統領:議会の可決した肥大化した予算を削ろうとする
⇒大統領が個別拒否権を希望。
but
この権限がない方が好ましい可能性もある。
大統領が個別拒否権を手にすれば、それに応じて議会側の戦略も変わってくる
議会の選択に対して大統領がどういう選択をするかという先読みの結果⇒議会の実際の選択を決める。
都市とミサイルの両方(議会:3、大統領:3)
都市のみ(議会:4、大統領:1)
ミサイルのみ(議会:1、大統領:4)
どちらもなし(議会:2、大統領:2)
ex.
拒否権なし⇒都市(議会)+ミサイル(大統領)の抱き合わせの予算(3・3)を採択⇒認められる。
拒否権あり⇒双方とも通らない(ミサイルの予算は採択しない)(2・2)
1人だけで行う意思決定⇒行動の自由が広がってもデメリットは全くない。
but
ゲーム⇒それがマイナスになるケースもある。
(逆に、自分の手足を縛ることが好ましい結果を生む場合もある。⇒第6章、第7章)
あるプレーヤーが行動の自由を手にしたという事実がほかのプレーヤーの行動に影響を及ぼする可能性がある。
A:コンピュータで樹形図を作成し、正解を導き出す。
B:樹形図分析の論理だけ利用する。
◆7.「サバイバー」で生き残る戦略
先読み・逆戻り推量の理論と実践:
地面に21本の旗を立てておいて、両チームが順番に旗を引き抜いていく。1回に取り除ける旗の数は1~3本。勝つのは、最後の1本を引き抜いたチーム。
相手に4本で渡せば勝ち。⇒その前に8本残して相手に引き渡す。⇒その前に12本⇒16本⇒20本。
最初に1本だけ取り除くのが正解。
シンプルなゲームですら正しいプレーの仕方を身につけるまでに時間と経験が必要。
当事者より観察者のほうがゲームの全体像を把握し、冷静に推量を働かせられる。
◆8.逆戻り推量で完全に解けるゲームの条件とは?
    逆戻り推量:ゴールから遡って考えていく(MKA)。
「サバイバー」の旗のゲーム:
正しい戦略を完全に割り出せるゲームの条件が備わっている。
その条件:いかなる不確実性にも左右されないこと。
①選択を行うときに、プレーヤーが状況を正確に把握できている。
ex.旗のゲーム⇒残っている旗の数がわかっている。
②プレーヤーがお互いの動機をわかっている。
ex.旗のゲーム⇒ゲームに勝つこと

シンプルなゲームやスポーツでは、ほかのプレーヤーの動機が完璧にわかる場合が多い。
but
ビジネスや政治、実社会:
利己主義と利他主義、正義と公平を重んじる気持ち、短期的な計算と長期的な計算が複雑に入り混じっている。

①目的を知る
②目的が複数⇒優先順位をどう考えているかも知る
③推測するしかないが、自分と同じように考えるだろうと思いこんだり、「合理的」に振舞うはずと決めつけたりしてはいけない⇒その人が置かれている状況を先入観抜きで考える必要。
③戦略的不確実性がないこと。
戦略的不確実性:プレーヤーがほかのプレーヤーの選択を把握できない状況

他のプレーヤーと同時に、あるいは相手が行動した後極めて短い時間で行動⇒相手の選択を見極めて、それに反応して行動することはできない。
◆9.逆戻り推量を実際の例に当てはめると
最も否定的な結果を突き付けるのは、「受けるか拒むか」型のゲーム。
総額の10%未満の金額を提案する人はほとんどいない。
中央値は、総額の40~50%の範囲に収まる。
多くの実験では、50%ずつわけようともちかけた提案者がいちばん多かった。
被提案者は、分け前が20%に満たないと、およそ半分の確率で提案を拒絶する。
◆10.「非合理的」な行動を取る理由
  なぜ、提案者は相手に少なからざる金額を与えようとするのか。
×①提案者が逆戻り推量を行えないという可能性。
②利他主義や公平性を考えて振る舞っている可能性。
提案が拒絶されるのではないかと恐れている可能性。
   「独裁者ゲーム」(提案者がお金の分け方を一方的に通告し、相手はそれに従うしかない)~相手への通告はゼロよりはかなり多い。
⇒③戦略的計算という側面だけでなく、②寛大な態度という側面もある。
コイントス平等性や公平性を意識しやすくなる。
試験で決める⇒特権意識⇒相手への提案が低くなる。butゼロよりかなり高い。
利他主義精神が働いている。
利他主義精神(相手の素性は知らされない⇒万人に対する態度)
恥の意識
  「受けるか拒むか」型ゲームで、
被提案者は何故拒むのか。
~本能的もしくは感情的な反応。
神経経済学:
「受けるか拒むか」型のゲーム
提案が不平等⇒被提案者の脳の前島(=怒りや憤懣などの感情に関係する脳の領域)という部位の活動が活性化
不平等な提案を受け入れる時⇒活性化するのは、脳の左の前頭前野(=感情のコントロールに関係している部位)。

怒りにまかせて行動すれば、受け取る金が減る⇒意識的に感情をコントロールしようとしている。
  人間の行動は、
本能やホルモン、感情など脳レベルで説明がつく部分もある反面、
文化によって行動のパターンが左右される面もある。
ペルーのアマゾン地方に暮らすマチゲンガ族:
提案者の示す相手に与える金額がほかの社会より飛び抜けて少なかったが(平均で総額の26%)、被提案者が拒絶した例はたった1件にとどまった。

マチゲンガ族は小規模な家族単位で暮らしていた社会的な結びつきが乏しく「共有」を尊ぶ社会規範が弱い。
提案者が総額の50%を超した社会が2つ

この2つの社会には、幸運に恵まれたときには他人に気前よくおすそわけをし、その恩恵にあずかった人は将来もっと気前よくお返しをするという慣習があった。
◆11.利他主義と公平性の進化
   一連の実験⇒両プレーヤーが自己の経済的利益だけを考えて行動するという前提で逆戻り推量を行った場合の予測結果と大きく異なる。
間違っているのは、
A:「プレーヤーが正しく逆戻り推量を行う」という想定か
B:「プレーヤーが利己的に振る舞う」という想定か
C:その両方か
 
vs.
実際の政治やビジネス、プロスポーツなどの世界では、プレーヤーはそのゲームに習熟しており、意識的計算の結果にせよ、経験に基づく本能的反応にせよ、おおむね初心者より優れた戦略を実現。

この類のゲームの結果を予測する際は、逆戻り推量を出発点にすべき。
but
初心者は間違いを犯す場合がある
複雑性の高いゲームではコンピュータや専門家の助けが必要になる

実験の結果から読み取るべきなのは、人々が行動を選択するときに考慮するのが経済的損得だけではないということ。

従来の経済学理論の枠外に足を踏み出し、プレーヤーが公平性や利他主義精神を意識することを念頭におく必要がある。

「行動ゲーム理論は、合理性を無視するのではなく、合理性という言葉の意味を押し広げている。」
実際、最先端のゲーム理論はすでに、平等性や利他主義などを重んじる心理も、プレーヤーの行動の目的の1つとして考慮。
ゲームの「第2ラウンド」以降で、過去のプレーで平等や利他主義の原則の従った人にご褒美を与え、その原則を破った人に罰を与えようという心理も含まれる。
  利他主義と公平の精神(そして、これらの原則を破る人への怒りや嫌悪感)がどうしてこれほど人間の行動を大きく左右するか?
説得力のある仮説:
進化心理学の世界で、
①公平性と利他主義を尊重する規範が形成されている集団は、私利私欲だけで行動する人間の集団に比べて内部対立が少なく、全員に恩恵をもたらすものを調達したり、共有の資源を保全したりといったグループ全体としての行動をとりやすい
②内部対立のせいで浪費される労力や資源も少なくてすむ

そういう集団は経済的にも潤う


ある程度の公平性と利他主義は、進化のプロセスで生存競争に打ち勝つうえで役にたっている。
どうして不公平な提案を拒む人がいるのか?
生物学の観点:
40ドルのうち、5ドルの分け前を提案された人のうち、受け入れた人が20人で、拒否した人は6人。
その6人は、テストステロン(男性ホルモン)の値が平均で50%高かった。
テストステロン:社会的地位や攻撃性と関連があるホルモン。
家庭や学校での子供の教育と社会への適応のプロセスも、社会が規範を次の世代に伝える手立てとして機能。
「他人に気遣いをすること」「物を独り占めしないこと」「親切にふるまうこと」の大切さ
⇒生涯を通じて行動に影響を及ぼす。
長い目で見て社会を進歩させ成功に導くのは革新変革
その土台をなすのは個人主義の精神、そして社会規範と固定観念を無視する姿勢。
利己主義と表裏一体の場合も少なくない。

利己主義と利他主義を適度にあわせもつことが重要。
◆12.複雑すぎる樹形図
チェスは逆戻り推量で正解を導けるゲーム
①プレーヤーは交互にプレーし、相手のプレーの内容を知ることができる
③盤上の局面や相手の目的について不確実性はない

終着点から出発して逆戻りしていけば、正しい「最初の一手」にたどりつける。
but
膨大な処理能力が必要。
現実的な方法:
①先読み分析と②価値判断を併用してプレーするというアプローチ。

~ゲーム理論という「科学」と経験者ならではの「技」(盤上の駒の数位置関係を見て、目の前の局面について価値判断を下す能力)を組み合わせて用いる。
チェスの戦略

教訓①:複雑性の高いゲームをするときは、先読み・逆戻り推量とあわせて、先読み可能な段階より先の状況を判断するために経験則を活用すべし。

ゲーム理論という「科学」と実際のプレー経験を通じて身に付けた「技」の両方を組み合わせてはじめて、好ましい結果が得られる。
片方だけではうまくいかない。
◆13.1人2役で考える
    教訓②:自分と相手の双方の視点をもつべし。
相手がこちらの見落としている点に気づくかもしれないし、逆にこちらが気付いた点を相手が見逃すかもしれない。
⇒予想していない行動をとる可能性がある。
相手の行動を予測しようとする場合、相手が知っていることを自分も知っておかなくてはならないのは当然として、相手が知らないことは知っていてはいけない
企業がビジネス上のシナリオを事前にシミュレーションする際は、社外の人物を雇ってほかのプレーヤーの役をプレーさせる場合もある。
最も有益な情報が得られるのは、えてして、相手方が予想外の行動をとったとき。
その行動をもたらした原因を突き止める⇒相手の好ましくない行動を阻止し、好ましい行動を促せる。
  ◆14.トム・オズボーンと1984年オレンジボール
   ネブラスカ大のオズボーン:
31対17とリードされていた。
タッチダウン⇒31対23に。
ランかパスでボールをエンドゾーンに持ち込む⇒2点追加。
キックによるゴール⇒1点追加。
彼は、14点負けている時点で、2つのタッチダウンと追加特典3点が必要であることを知りつつ、まず1点を狙い、次に2点を狙った。
  教訓:
いずれリスクを負わなければならないのであれば、なるべく早く負う方がいいことが多い。(ファーストサーブとセカンドサーブ)
←最初の試みで失敗してもそこで終りではない。まだ、他の手段により失敗を挽回したり、あるいは失敗を成功に変えるチャンスがあるから。
早い段階でリスクをとるべしという教訓は、キャリア選択、投資、恋愛等、人生のほとんどの局面で当てはまる。
 ☆第3章 ジレンマをどう解決するか・・・囚人のジレンマ
◆1.社会のあちこちに潜む構図
①近くの2軒の店が値下げ競争。
②民主党と共和党が、それぞれ中核的支持層を無視し、中間層の浮動票を獲得するため中道寄りの政策を打ち出す。
③乱獲で魚が絶滅。
④最後の戦死者になるのはごめん。

すべて囚人のジレンマの例。
囚人のジレンマ:
1人1人が自分の利益を追求して行動
すると、最終的には全員にとって好ましくない結果が生まれる。
(2人の容疑者双方に対し、自白しようというきわめて強い誘惑が働く。)
ガソリンスタンドやスーパーも、本質は同じ。
安売り競争⇒両方とも儲けが減る。
プレーヤーがジレンマに陥らない(あるいはジレンマを抜け出す)方法を紹介することが狙い。
◆2.囚人のジレンマ小史
タッカーが天才的だったのは、(ランド研究所の2人の数学者が見出した)数学的構造をわかりやきすく説明する事例を考案したこと。
ある考え方が短期的に広く普及するか、注目を浴びないまま埋もれてしまうかは、説明の巧拙に大きく左右される面もある。
◆3.「利得表」で考える
  BBとRE:ライバル関係にある洋服のカタログ通販会社。
同時進行ゲーム⇒樹形図は使えない。
出発点:双方が同時に行う選択のあらゆる組合せとその生みだす結果を全てリストアップする。
両社が80ドルと70ドルという2つの選択肢⇒組合せは4通り。
(一方の利益が多くなるほど、他方の利益が少なくなるとは限らない。)
勝敗をつけることが目的ではない。いわゆるゼロサムゲームではない。
現実生活で遭遇するゲームのほとんどはゼロサムゲームではない
囚人のジレンマ等多くのゲームでは、どうやって共倒れを防ぐか、あるいは共存共栄を実現するかが問題。

 
◆4.絶対優位の戦略の落とし穴
RE「BBが80ドル⇒こちらが70ドルに下げれば儲けが増える。BBが70ドル⇒こちらも80ドルではなく70ドルにすべき。⇒どちらにしても70ドルに決めるべき」
絶対優位の戦略ほかのプレーヤーの選択に関係なく自分にとって常に最善の選択肢がある場合は、その選択肢を選べばよい。
but
囚人のジレンマの場合、単純ではない。
両方のプレーヤーが絶対優位の戦略を用いると、絶対優位でない戦略を取る場合より悪い結果に陥ってしまう
必要なのは、両方が高い値段をつけることだが、両者とも相手を打ち負かしてやろうという誘惑にかられるので簡単ではない。)
・1人のプレーヤーだけが絶対優位の戦略をもっている場合
・どのプレーヤーも絶対優位の戦略をもっていない場合
・同時に行動する際に相手方取る戦略次第で、自分にとっての最善の戦略が変わる場合
⇒第4章で答える。
企業が価格競争のジレンマを解決しないようにすることが社会全体の利益になる場合が多い⇒反トラスト局。
  ◆5.問題解決の糸口
囚人のジレンマに直面⇒話し合って協力し、最悪の結果を避けるべき。
but
問題は、プレーヤーがずるをしたいと思うこと。
協力を成功させる=裏切りを防ぐこと。
「裏切り」という絶対優位の戦略でなく協力を選ばせる
⇒①報酬・②罰則
  報酬の問題点:
報酬を事前に与えるわけににはいかない、
プレーヤーが報酬だけ受け取って、裏切る可能性
協力したのに、約束通りの報酬が支払われない危険
報酬が効果を発揮する場合:
・プレーヤーが同時に協力の約束をして、支払う予定の報酬を第三者に預ける
・プレーヤー同士が複数の局面で関わりをもっていて、ある局面で協力的行動をとれば、別の局面で見返りがあるケース。
ex.メスのチンパンジーがほかの雌の毛づくろいをすれば、食料を分けてもらえる

・強い利害関係をもつ第三者が協力をうながす
ex.紛争当事者が平和的解決を選んだ場合の報酬として経済支援を約束
(1978年のキャンプデービッド合意で、アメリカがイスラエルとエジプトを歩みよらせた例)
  報酬より一般的なのは処罰。
処罰例:
・裏切りに対する報復
・継続的な関係を通じて処罰が与えられる
(裏切り者はそのときは得をしたとしても、相手との関係が損なわれて、長い目で見れば損失をこうむる可能性。)
ex.
指名打者制のあるリーグ⇒投手が打者に入らない⇒直接的な報復を受ける心配がない⇒デッドボールの頻度が高い。
投手が前のイニングでデッドボールを受ける⇒ぶつけられる確率が4倍に跳ね上がる。
  ⇒6.しっぺい返しの戦略へ
  ◆6.しっぺい返しの戦略
      囚人のジレンマの戦略で優勝したプログラム:
反復行動:
最初の段階では協力を行い、その後はその1つ前の段階での相手の行動を繰り返す
反復行動は、有効な戦略に必要な4つの原則を備えている。
①明快、②モラル適合性、③制裁実行性、④寛容
①明解
自分の方から裏切りを仕掛けることはない⇒②モラルに適合
裏切りを処罰せずに見逃すことはない⇒③制裁実行力
悪意を持ち続け協力関係にも取れないということがない⇒④寛容
  反復行動戦略の特徴:
1対1の勝負では1度も相手に勝てなくても、全体的には良い成績を残す。

大きな強み:
最悪でも相手の1回の裏切りによって損をして負けるだけですむ。

できるだけ裏切りを避け、協力を保てるように行動できた⇒優勝。

他の戦略:
あまりに相手を信頼しすぎ⇒裏切られる
あまりに利を追いすぎ⇒お互いに泥沼に
but
欠点もある。

相手からの反応がたとえ誤りであっても、繰り返されていく。
ex.
フラッドとドレッシャー
2人とも裏切らない⇒しばらくはうまく運ぶ。
but
フラッドが勘違いで裏切り行動を選択(あるいは、フラッドが裏切り行動を選択したと、ドレッシャーが誤解)⇒ドレッシャーは裏切りを選択butフラットは協力⇒次の回は役割が逆転。
  報復が報復を呼ぶ悪循環:
・中東のイスラエルとアラブの対立
・北アイルランドのカトリックとプロテスタントの対立
・インドのヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立
・ハットフィールド家とマッコイ家の対立
反復行動にはこれでもう十分という限度がない。
but
間違いや勘違いが起きる可能性⇒もっと寛大な態度で臨んだ方がいいのかもしれない。
間違いや誤解が起きる可能性を織り込んだ上でさまざまな戦略を対戦
⇒反復行動より寛大な戦略のほうがよい成績を残した。
  旧約聖書の出エジプト記:
目には目を、歯には歯を

マタイ伝:
邪悪な人に抗うのは無駄。
右の頬を打たれた、なんじの左の頬を差し出せ。
ルカ伝:
「彼らにこうして欲しいとこちらが望むことを、彼らにもしてやれ」という大原則を採用しよう。
⇒皆がこの原則に従えは、囚人のジレンマもなくなる。
◆7.実験の「意外な」結果
多くの実験を通じてわかった重要な点。
●協力はきわめて頻繁に行われる。
(1回限りの関係でも変わらない)
  テレビ番組のフレンド・オア・フォー:
2人とも「フレンド」⇒賞金は山分け。
1人が「フレンド」1人が「フォー」⇒「フォー」が独り占め。
2人とも「フォー」⇒どちらももらえない。

相手がどちらにせよ「フォー」とかけば、相手と同等かそれ以上の賞金を手にできる。
but出演者の半数近くが「フレンド」を選んだ。
第1シーズン:
フレンドと各確率は、男性47.5%、女性53.7%
第2シーズン:
ペアが女性同士⇒フレンドの確率は55%
男性と組む⇒女性がフレンドと書く確率は34.2%まで下落
男性がフレンドを選ぶ確率⇒42.3%に減り、
全体としてみれば、出演者が協力的行動をとる割合は、第1シーズンに比べて10ポイント減った。

囚人のジレンマの実験で、被験者のペアを組み替えて実験を重ねる⇒協力的行動を選択する割合は概してだんだん減っていく。
but
ゼロにはならない。
協力的行動を選び続ける人が一定数残る。
but
同じペアに単純な囚人のジレンマのゲームを繰り返しプレーさせた場合、相互に協力的な行動をとるようになるケースが多い。
ゲーム理論化たちの説明:
・世界には、いわば「互恵主義者」とでも呼ぶべき人(=相手が協力してくれるならこちらも協力するという人達)がいる。
・双方が相手を出し抜いてやろうと機会をうかがっていても、お互いに本性を隠し合うことにメリットがある。
テキサスA&M大学の大勢のグループでの囚人のジレンマのゲーム:
生産量1か生産量2か
生産量2を選んだほうが多くもらえるが、そういう学生数が増えれば増えるほど、学生全体で得られる金額の合計が減少する。

全学生が自分の利益最大にする戦略⇒結局各人は、50セントずつ受け取る。
学生が共謀して自分の利益を最小にする戦略⇒全員が1.08ドルずつ受け取れる。
結局、生産量1を選んだ学生は4人だけ。
カンパのゲーム:
ABCDの4人に10ドルずつ支給して、プレーヤーはそのうち任意の金額を参加者全員の「共同募金」にカンパし、残りを自分のものにしていい。主催者が共同募金の金を2倍に増やし、参加者に均等に分配。

Aにとって絶対優位の戦略はカンパをしないこと。
全員が絶対優位の戦略を選択⇒共同募金の金額は空っぽで、4人の持ち金は10ドルのまま。
全員が10ドル全てをカンパ⇒1人当たりの取り分は20ドルに。
実世界でも、メンバーが自発的に犠牲を払えば何らかの共通の利益が得られる反面、犠牲を払わなかったメンバーも恩恵に欲してしまうという状況は起こり得る。

ex.村の水害対策工事や天然資源の乱獲など

堤防やダムをつくる工事に協力しなかった住民のところだえkが水浸しになるようにすることは不可能だし、乱獲した人だけを漁場から締め出すことも事実上難しい。

全員がほかの人たちの犠牲が生み出す恩恵にだけあずかろうとする
⇒払われる犠牲はごくわずかにとどまり、全員が損をする。
  ◆8.協力を実現する方法

協力を成功させるための前提条件:
■裏切りの発見
裏切りを処罰⇒裏切りを迅速・正確に突き止める必要。
裏切りを迅速・正確に突き止める⇒迅速・正確な処罰ができる⇒裏切りのメリットが減り、コストが増す⇒協力を実現できる可能性が高まる。
ex.航空会社は他社の航空運賃にいつも目を光らせていて、アメリカン航空がニューヨーク=シカゴ便の運賃を引き下げれば、ユナイテッド航空は5分もたたないで察知できる。
■処罰の性格
~どういう処罰を行うかという問題。
ex.
刑務所を出所した時に制裁。
ゲームが繰り返される結果、裏切れば先々に損をする。

この仕組みが抑止効果を発揮するかどうかは、裏切り行為によって得るもの(=現在の利益)と失うもの(=将来の利益)の大小で決まる。
■明確性
①裏切り行為の定義とそれに対する②処罰の内容を
全てのプレーヤーが明確に理解することが必要。
■処罰の確実性
裏切れば処罰を受け、協力すれば報われると、すべてのプレーヤーが確信できることも不可欠。
WTOの貿易自由化協定違反など、調査に時間がかかり、最終判断は力関係や外交上の駆け引きに左右される面が大きい⇒抑止効果を発揮しない可能性が高い。
■処罰の厳しさ
現実の世界では間違いがおきる可能性
⇒処罰の厳しさは、厳しすぎるのではなく、抑止効果を発揮できればよし。
会社が存亡の危機にさらされている場合の値引き販売など極端な場合は、ある程度の裏切り行為を容認してもいいかもしれない。
■繰り返し 
①金利
②関係の継続性
③将来の市場規模の見通し
④プレーヤーの構成
①金利:
現在の利益と未来の利益の兼ね合いを考えるうえでカギを握る要素の1つは、金利。

金利が10%⇒REは3万8000ドルの儲けを銀行に貯金すれば、毎年3800ドルの利息を受け取れる>(翌年BBも70ドルにすることによる)年間2000ドルの減益
金利が5%⇒年間の利息は1900ドル⇒REは(70ドルに)値下げしない方がいい。

金利が高いと将来の利益の価値が相対的に下がる⇒今の裏切りは割に合う。
②関係の継続性:
80ドルのシャツが一過性の流行品か?
将来ほかの商品で報復を受ける可能性?
裏切者が複数の商品で報復を受ける可能性あり⇒そのすべての商品で裏切りを行う可能性もある。
③将来の市場の見通し:
市場が拡大⇒将来の協力関係が崩れた場合に失うものが大きいので、裏切ることに躊躇する傾向。
市場がじり貧⇒将来失うものが少ないので、いま手に入るものを手に入れようという発想。

好調期と不調期の繰り返し⇒一時的に需要が大きい時期に裏切りが起きやすい。
←好況期のいまなら裏切りにより得られる利益が大きいし、そのツケを支払わされることには需要が落ちていて、痛手がいまより小さくなる。
④プレーヤーの構成:
プレーヤーの顔ぶれが変わらない⇒協力が維持される傾向が強い
協力することに利害関係のない新参者⇒裏切りを思いとどまる可能性が低い⇒既存のメンバーも現時点での利益を確保しようとして、裏切り行為に走りがちに。
◆9.カント流哲学で問題解決?
  相手も自分と同様の思考プロセスをたどり、自分と同じ結論に到達するはずだと考える

「普遍的なルールになってほしいと思う行動だけをとるべし」というカントの「定言命題」に似ている。

vs.
あるプレーヤーの行動は相手の行動にまったく影響しない。
but
人々は、自分の行動が(たとえ相手に見えなくても)相手の選択に影響を及ぼせると思っている。
  実験:
相手方裏切ったと聞かされた⇒協力的行動は3%
相手が協力したと聞かされた⇒協力的行動は16%
相手の行動についいて知らされていない⇒協力的行動はなんと37%にはね上がった。
  「擬似魔術」的思考
~自分が何らかの行動を取れば、相手の行動に影響を及ぼせるという発想。
⇒相手の行動を知らされていない場合に、自分の行動が相手の行動に影響を及ぼせると考える。

この発想は全く理屈に合わない。
どう考えてどう振る舞おうと、相手の思考と行動にはまったく影響を及ぼせない。
but
ある社会のメンバー全員がこのような「疑似魔術」的思考を実践⇒囚人のジレンマの多くを回避でき、多くの利得を手にできる。
  ◆10.ビジネス版囚人のジレンマ
  ●   ●業界のライバル業者。
  共通の利益を最大限高めるには、カルテルを形成して高い価格を維持するのが望ましい。
but
自分だけの利益を考えれば、協定を裏切って価格を引き下げ、相手から顧客を奪う方が得をする。
このような状況で協力関係を維持するにはどのような行動をとれるのか?
  裏切りを発見し、効果的な処罰のメカニズムを考案することにより、協力の可能性を高めることはできる。
ライバル社が頻繁に会合を開いてどのような行為が裏切りに該当するのかを話し合う⇒処罰のための適切な行動。
  but
それは社会全体にとって悪い結果を招き、消費者は高い価格を支払わなくてはならなくなる。

米国では、シャーマントラスト法により「取引を制限する」共謀が禁止されている。
明示的な合意だけでなく、価格維持の効果をもつ明示的・黙示的な合意は、その主たる目的に関係なくすべてシャーマントラスト法違反に該当。
  実際には(刑事摘発の危険を減らすため)申し合わせを暗黙の合意にとどめる場合の方が多い

取決めの内容が不明確で、裏切り行為の発見が難しい。
but
ある程度の対策は可能。
  小売業:最低価格保証最恵顧客条項などのメカニズム。
一見すると、競争を促進するように見えるが、
ゲーム理論的にみると、正反対の効果をもつ。
  REとBBが価格を80ドルにするという暗黙の合意
最低価格保証で、購入後1か月以内に同一商品をもっと安く売っている店があれば、その差額を返金。

相手がこっそり70ドルに⇒消費者のご注進による相手にばれる⇒顧客に差額を返金するのはいやなので、ただちに自社も価格を引き下げて報復を行う。

うまい具合に売り切り行為が抑止される。
  PAH社:ライバルのロールス・ロイスのエンジンより8%高い燃費効率を約束。
その基準を満たさなければ、燃費の差額相当の金額を返金すると保証。
  最恵顧客条項:最恵顧客待遇を約束した顧客に対して、すべての顧客のなかで最も安価な価格を適用することを保証。

表面だけ見ると、安い価格を保証する仕組み。
but
競争を妨げる作用。
~すべての顧客に値引する必要⇒値下げのコストが大きくなりすぎる⇒裏切りによる利益を小さくし、カルテルを維持する機能をもつ。
  ◆11.共有地の悲劇
  共有地の悲劇:
1人ひとりはたくさん魚を獲ったほうが得をする
butその行動のつけは社会全体もしくは未来の世代が払わなくてはらない。
  地球温暖化問題:
自分の温室効果ガスを排出量を減らしても得をする人はいない
but誰もが私利私欲を追求して温室効果ガスを大量に排出し続ければ全員に重大な影響が及ぶ
  ~多人数版の囚人のジレンマ
  ●対策が成功するための前提条件
  目的:
資源の乱開発と急激な枯渇を避け、全体の利益に沿って共有の資源を保全しながら利用する手立てを見出すこと。
  誰がゲームの参加者なのかを決める明確なルールがあること。
(誰がその共有地を利用する権利があるかをはっきりさせておく必要がある)
  許容される行為と禁止される行為を定める明確なルールがあること。
ex.共有資源利用の時間的制限、地理的制限、道具類の制限、量的制限
  ③違反行為に対する処罰システムが明確で、すべての当事者がそれを理解していること。
ex.懲戒、村八分、罰金、投獄等
重要なのは、違反行為の悪質性に比例して段階的に処罰を強化
  裏切り行為を発見する実効的システムが存在すること。

理想的なのは、プレーヤーの日常的な行動を通じておのずと裏切りが明らかになるようなシステム。
ex.水揚げのいい漁場を順番に交替でで利用⇒違反者はすぐ見つかる。

違反の発見が可能かどうかを考慮した上で違反行為の定義を決めるべき場合もある。
  ⑤以上の4つの面で望ましい仕組みをつくる際に、メンバーの知識を活用する。

優れたシステムを築きたいという共通の利害をもっている。
資源を利用するための技術や裏切りの発見可能性、制裁の実行可能性についていちばん詳しいのは共有地を共有するメンバー自身。
◆12.吸血コウモリの助け合いの精神
  動物の世界では、遺伝的な結びつきのない関係で利他主義的行動が取られることはほとんどない。
しかし有る程度長期的な関係があれば、遺伝的結びつきがあまりない集団でも互恵的利他主義が存在する場合がなくはない。。
ex.オオカミなどの動物が集団で狩りをする
  ex.血を分け合うコウモリ。
・血の分け与えが行われるのは、瀕死のコウモリに対してだけ。
・血の分け与えは元々一緒にいたコウモリ同士の間でのみ行われ、過去に自分を助けてくれたコウモリに対してお返しをする確率がことのほか高かった。
実効性のある互恵的利他主義のシステムを実践。
  ◆13.[ケーススタディー]
早起き鳥は金の卵を産むガチョウを殺す
  エサを集めるのに有利な戦略⇒そのフィンチは生き残り、つがいを見つけ、子孫を増やせる。
    サボテンの花をこじ開けて抜け駆け⇒めしべの先端の柱頭を切断⇒受粉能力を失う。
  ■ケース・ディスカッション
  自分の生息地周辺のサボテンを絶滅させてしまったフィンチ(とその子孫)には、過酷な運命が待っている。
but
確実に訪れる食糧不測の時代を生き延びられる可能性が最も高いのは、最初に抜け駆けをして、みんなよりたくさん栄養をとったフィンチ。
  サボテンフィンチの抜け駆け戦略は、コミュニティー全体を破壊しかねない悪性の因子。
but
ある程度以上拡大すると、沈みかけた船における最善の戦略となる。

その行動が有利な戦略として機能⇒その行動パターンを根絶するには、コミュニティーを全滅させて、もう一度ゼロから始める以外にない。
(サボテンフィンチ絶滅⇒サボテンが再び実をつけるようになる⇒フィンチのつがいが飛来して、すべてのプロセスがまた振り出しから始まる。)
  鹿狩りゲーム:
パターン①:全員が協力(=協力して鹿を狩る)して、万事うまくいく。
パターン②:全員が私利私欲に走り(=みつけたウサギを追いかける)、過酷な状況が訪れる。

古典的な囚人のジレンマと異なるのは、「ほかのプレーヤーがどう振る舞おうと関係なく、どのプレーヤーも自分だけ裏切れば得をする」という状況ではない。

ほかのプレーヤーも自分と同じように行動すると信頼できる⇒裏切っても得にもならない
あなたがほかの人達を信頼して行動するという前提で他のプレーヤーが行動するだろうと、あなたが信頼できるかどうかが問題。
☆第4章 互いの均衡点を探せ・・・ナッシュ均衡
◆1.協力して大きな獲物をモノにする。
  「囚人のジレンマ」と「同時ゲーム」との違いは、相手プレーヤーの行動に左右される。(=絶対優位の戦略がない
  鹿・鹿:3 
バイソン・バイソン:3
ウサギ⇒1
◆2.堂々巡りの解決法
  他のプレーヤーの思考をお互いが読み合う堂々巡りの状況を解決するために考案されたのが「ナッシュ均衡」。
  ナッシュ均衡
各プレーヤーの戦略の組合せがいったん決まると、どのプレーヤーにも自分に対応したその戦略から離れるインセンティブがない均衡。

ex.フレッドとバーニーが共に鹿を選択すると、フレッドもバーニーも自分1人では選択肢を変えることはない。
  常にうまくいくとは限らないものの、ナッシュ均衡はほぼあらゆるゲームの分析の出発点になり得る。
◆3.最善の行動はどれだ?
  BBが42ドル⇒REの最善は41ドル⇒BBの最善は40ドル⇒REの最善は40ドル。

REとしては、相手が40ドルをつけると考えれば自分も40ドルをつけるのが最善の選択。
BBにとっても同じ。
  それぞれが相手の行動を予測したうえで自分にとって最善の選択をし、双方が相手の予測どおりに行動すれば、お互いに思考を読み合う堂々巡りに終止符を打てる。
この状態がプレーヤーの思考の到達地点=ナッシュ均衡。
  2つの会社が共謀⇒両者ともナッシュ均衡の40ドルより大幅に高い価格を設定し、もっと多額の利益を手にできる。
(ある産業に独占企業が存在したり、生産者がカルテルを結んでいたりすると、いかに消費者が害をこうむるかがよくわかる。)
  どのゲームにもナッシュ均衡が存在するか?
ミックス戦略(第5章)を採用できる程度まで行動や戦略を単純化して検討できる場合、基本的にイエス。
  ナッシュ均衡は同時進行ゲームの好ましい解決策か?
慎重なイエス。
  ナッシュ均衡が複数あるゲームもある。
  ◆4.複数の均衡がある場合
  フレッドとバーニーの狩りのゲームでは、3つのナッシュ均衡がある。
①鹿と鹿(3)、②バイソンとバイソン(3)、③ウサギとウサギ(1)
  お互いに連絡を取り合うことなしに意思決定を行う両者が複数の均衡のなかから1つの均衡をうまく選び出すためには、双方が相手の意図を正確に読み取れていると確信できなくてはならない。
双方の予測が一致するシナリオがある場合、それを「均衡点」と呼ぶ。
  ほかのペアとうまく落ち合うための鍵を握るのは、その場所が自分たちにとって待ち合わせに最もふさわしいということではない。重要なのは、各ペアにとってその場所が最もふさわしいとすべてのペアが思っていること
(エンパイアステートビルがこの条件を満たしているのであれば、自分たちにとって不便な場所であったとしても、そこに行かなくてはならない。)
  アメリカの都市を分け合うゲーム⇒アメリカ人の場合、80%を超す確率で、地理的基準に基づいて都市を選ぶ。(ミシシッピ川より東と西)
  2人に正の整数を1つ選び、一致すれば商品⇒「1」を選ぶ人が圧倒的に多い。
  駅ではぐれた場合、ドイツやスイスの鉄道の駅には、均衡点を作りだすために、わかりやすい「待ち合わせ場所」が設けられている。
  ケインズの美人投票:
選んだ顔が投票で1位になれば、商品をもらえる。
賞品を手にするために必要なのは、自分自身が美しいと思う顔を選ぶことではなく、重要なのは、「大半の人が美しいと考える顔はこれだ」と大半の人が考えるのはどの顔かを見極めること
「美の絶対評価」を行うことではなく、「均衡点を見出すこと」が美人投票の眼目。
何かほかの人と違う特徴があれば、それが均衡点になりやすい。
  株式市場では、どの投資家も値上がりする株を買いたいと考える。
「値上がりする株」とは、誰もが値上がりすると考えていると誰もが考えている株
  ある特定の時期に特定の業績や銘柄が注目株だとみなされる(=均衡点になる)理由は、話題性のある新規公開株だったり、有力アナリストの推奨があったりと様々。
ダウ平均1万ドルやナスダック指数2500ポイントなど、きりのいい数字に注目が集まる理由も、均衡点の考え方で説明がつく。
ダウ平均1万ドルといった数字が均衡点になるのは、きりがいい数字のほうが人々のコンセンサスが集まりやすいから。
 
均衡点は、単なる気まぐれやブームで決まる場合が少なくない
いちばん美しい候補者が美人投票で優勝し、いちばん優秀な企業の株価が最も値上がりする保証はまったくない。
  数学畑出身のゲーム理論家はえてして、歴史的・文化的・言語的様子や全く必然性のない要素によって結果が左右されることを好まない。
but
社会の中で人間同士がプレーするゲームゲームの社会的・心理的側面が影響をもつことは理にかなっている。
  一方の取り分が増えれば他方の取り分が減るという意味で、プレーヤー同士の利害は対立しているように見える場合でも、実際の交渉ではしばしば、もし両者が合意に達しなければ両方ともなにも手にできず、深刻な損失をこうむる。
ex.労使間の賃金交渉が決裂すれば、ストライキやロックアウトに発展する。
交渉決裂を避けたいという点においては、両者の利害が一致する。
均衡点を見出す必要がある。

双方がそれ以上譲れない一線はどこかという点について、お互いの認識が一致しなければならない。
  「フィフティ・フィフティ」「中間をとる」均衡点になりやすい
←①単純明快だし、②フェアに見えるので、この種の案が浮上すると、それが均衡点になりやすい。
  企業経営者の報酬について、経営者にとって譲れない一線は、財界の平均より高い報酬を受け取りたい。
前年の平均より高い報酬を支払うという仕組み。⇒企業経営者の報酬が常軌を逸した水準まで膨れ上がる。
何をもって物事をフェアと考えるかという問題も、均衡点の選択の問題。
  ◆5.夫婦の戦いと肝試し
  複数のナッシュ均衡がある点では狩りのゲームと同じ。
but
プレーヤー同士に利害の対立する要素がある(狩りのゲーム(=2人のプレーヤーの利害は一致)と違う)
  夫婦の闘い:
妻はAの映画を観たい。
夫はBの映画を観たい。
1人で見に行くよりは、一緒に見に行く方がいい。
  狩りのゲームにアレンジ:
フレッド(バイソン(3)より鹿(4)がいい)とバーニー(鹿(3)よりバイソン(4)がいい):
いずれかの均衡の方がいいが、いずれの均衡が好ましいかという点で対立。

「自分は断固として鹿を選ぶ。譲るつもりはない」という意思をバーニーに伝え、その決意を信じさせる⇒バーニーとしてはフレッドの意思に従うのが最善の策。
  butそれには2つの障害:
①お互いが行動を選択する前に意思を伝えるのが難しいこと。
(理想的なのは、自分の意思を相手に伝える一方で、相手の主張を聞かないですむ意思伝達方法。)
②「断固とした意思」がはったりでないと相手に思わせることが難しい。
  双方が望ましいと考える結果は別々だが、交渉が全面的に決裂するよりは何らかの合意に達したほうが好ましいとお互いに思っている
(実質的には交渉のゲーム)
ex.
1日おきに2つの猟場で交互に狩りをする。
コインを投げてその裏表で猟場を決める。
  チキンゲーム
両方北⇒0
両方南⇒1
南(1/2)と北(2)

全く均衡を見出せないよりは何らかの均衡に達するほうが望ましいという点では2人の意見が一致する反面、どの均衡が望ましいかという点では意見が食い違う。
双方が2つのナッシュ均衡のうちで自分にとって好ましい方を選ぶと、お互いにとって最悪の結果を招く。
  妥協がまとまる可能性はある。
ex.
2人が北と南で交互に狩りをする。
コイントスで猟場の住み分けを決めてもいい。
  チキンゲームでは、それぞれのプレーヤーの置かれた状況(選択肢とそれぞれの戦略を取ったときの損得)がまったく同じでも、それぞれのプレーヤーが同一の行動ではなく異なる行動を取る場合にナッシュ均衡が成立。
  ◆6.哲学者ルソーの鹿狩り
  囚人のジレンマ:相手の選択に関係なく自分にとって最善の行動が決まっている。

ルソーの鹿狩りのゲーム(「確信のゲーム」):バーニーと同じ行動をとることがフレッドにとって最善の行動。
~「確信のゲーム」
◆7.連続的消去法
  両プレーヤーの行動がともに最善の行動であるマス目⇒その戦略がナッシュ均衡を形成。
  ナッシュ均衡の見つけ方:
①相手が絶対劣位の戦略を取る可能性を除外して考える。⇒利得表を小さくできる。
(あるプレーヤーにとって戦略Aが常に戦略Bより悪い結果を招くとき、戦略Aは戦略Bに対して絶対劣位の関係にあるという。)
相手のどの戦略に対しても最善の対応になりえない戦略の選択肢があれば、それを除外して考える
  戦略Aが戦略Bに対して絶対劣位の関係にある場合、戦略の選択肢がAとBの2つだけであれば、Bは絶対優位の戦略。
戦略の選択肢が3つ以上あれば、別のCという戦略との関係ではBが優位かどうかわからないから、絶対優位の戦略とは限らない。
  ルール3:絶対劣位の戦略と最善の戦略でない戦略を考慮の範囲からはずしたうえでさらに考慮を進めよ。
  ルール4:絶対優位の戦略をさがし、絶対劣位の戦略を消去してもまだ解決にいたらない場合は、利得表のすべてのマス目を検討し、どちらのプレーヤーにとっても最善の行動となる戦略が同居しているマス目を探せ。その戦略のペアがそのゲームのナッシュ均衡。
◆  ◆8.戦略の選択肢が無限にあるゲーム●●
  ナッシュ均衡はグラフで表示できる。
  ■9.ナッシュ均衡は役に立つのか?
  ナッシュ均衡:
どのプレーヤーの行動も相手の行動に対する最善の行動。
ナッシュ均衡以外のシナリオでは、少なくとも1人のプレーヤーが最善でない行動を取らなければならない。
  ナッシュ均衡が複数ある場合は、そのうちのどれが均衡点かを見いだすために別途の方法論が必要となる。
  実験と観察の両方の手法を併用して、それぞれから学ぶ必要がある。
  事例では、価格が販売数にストレートに反映するものと想定。
but
現実世界:
企業は価格だけで競争しているわけではない。
宣伝や投資、研究開発などでも競い合っている。
実際の企業経営者の行動の目的は、利益(や株主価値)の最大化だけではない。
競争は何年にもわたる⇒逆戻り推量ナッシュ均衡の適切な組み合わせ方も見出す必要。
様々な要素が影響。
  実験:
「受けるか拒むか」型のゲーム(一定の金額を2人でどう分割するかを一方のプレーヤーが相手に提案し、もう一方のプレーヤーはそれを受け入れるか拒むかの選択肢しかない)
~提案者の提案内容は概して気前がいい。
囚人のジレンマゲーム
~理論上想定されるよりはるかに頻繁に人々が協力的行動をとる。

公共心や利他精神
公正さ?
  戦略的なやり取りを分析する際は、いまでも基本的なナッシュ均衡の分析を出発点とすべき。(その作業だけで結論にたどり着ける場合もある。)
そのうえで、ナッシュ均衡のの考え方で導き出されるシナリオと結果が異なる場合は、結果がどう違うのか、なぜ違うのかを考える
    ■10.[ケーススタディー]2分の1ゲーム
  ナッシュ均衡:次の2つの条件を満たすもの。
①すべてのプレーヤーがほかのプレーヤーの行動を予測したうえで、それに対して最善と考える行動を選択すること。
②すべてのプレーヤーの予測が正しい事(どのプレーヤーも、ほかのすべてのプレーヤーが予想しているとおりに行動すること。)
  ●ケース・ディスカッション
  ゲーム:
XとYは、それぞれ0~100の間の数字を1つ選ぶ。
自分の数字が相手の数字を半分に割った数字に近い方が勝ち。
  相手が選ぶ数字は0~50の間。
相手が100を選ぶはずはない(それでは勝てない)。相手の最善の選択は0~50の間。⇒私たちの最善の選択は0~25の間。
~相手が最善の行動を取ることを前提に、それに対して最善の選択をした。
相手も、私たちが50より大きな数字を選ぶはずがないと気付く⇒相手も25より大きな数字を選ばない⇒相手が選ぶ数字は0~25の間。
選んだのは12.5.・・・・。
  電話が切れてかけ直すか、かかってくるのを待つか?

同程度に魅力的な2つのナッシュ均衡がある。
この種のジレンマの解決方法は、その社会規範によって決まる場合が多い。
◆第1部「ゲーム理論の基本原則」の要約
■ゲームとは
戦略的駆け引きの場であり、自分の選択(戦略)の結果は他人の選択と相互作用がある。
ゼロサム:
あるプレーヤーが利益を得れば、それと同量の損害を他のプレーヤーが被るゲーム。
通常は、プレーヤー間で利害が相反する部分もあれば、利害が一致する部分もあり、両者の利益になる戦略と自分だけの利益になる戦略が組み合わせてとられる。
■  ■ゲームにおける意思決定
ゲームにおける意思決定は
(1)交互行動的であったり、(2)同時進行的であったり。
(1)交互行動ゲーム⇒ゲーム樹形図を書いて考える。
「ルール1:先を読んで、合理的に今を推量せよ。」を実践する。
(2)同時進行ゲーム~推理の堂々巡りが生じる

選択のあらゆる組合せを含んだ一覧表を作ったうえで、以下の手順で考える。
①どちらかに「絶対優位の戦略」(ライバルの選択にかかわらず、自分の選択肢の中で自分の他の選択肢よりも優れている選択)があるかどうかを見極める。

「ルール2:絶対優位の戦略があるときはそれを用いよ」を実践する。
自分には絶対優位の戦略がないがライバルにはある場合、ライバルがそれを用いると予測して、それに対する最善の対応を選択する。
どちらにも絶対優位の戦略なし⇒どちらかに絶対劣位の戦略(ライバルがどの選択をしても自分の選択肢の中で自分の他の選択肢より常に劣っている選択)があるかどうかを判断。
もしあれば
「ルール3:絶対劣位の戦略を考慮からはずせ」を実践する。
これを連続的に行うと、ゲームの範囲が縮小。
ゲームの範囲が縮小する過程で、絶対優位の戦略が現れればそれを選択する。
絶対優位の戦略も絶対劣位の戦略もない

ゲームを極力簡単にしたうえで、
「ルール4:均衡点、すなわち、どちらのプレーヤーにとってもライバルの行動に対し最善の行動となるような戦略のペアを探せ」を実践する。
そのような均衡点が1つあれば、両者がそれを選択。
均衡点が複数あれば、常識的なルールあるいは慣習によって1つに絞る必要がある。
均衡点が1つもなければ、ミックス戦略が必要。
実際には、ゲームには交互行動的部分と同時進行的部分の両面があるものもあり、その場合には、テクニックを組み合わせる必要。
★第2部 具体的な戦略論
◆5  ☆第5章 無作為に行動せよ・・・ミックス戦略(p146)
■  ■1.機智の戦い
サッカーのPK:
一定のシステムなりパターンなりに従って行動すると相手につけ込まれる
⇒常に無作為に行動することにより、相手に自分の行動を読まれないようにしなければならない。(ミックス戦略)
誰かからゲームや取引をもちかけられたときは「私の知らないことを相手が知っているのではないか」と常に考えるようにしなければならない。
■  ■2.サッカーのPK対決
双方とも自分の行動をぎりぎりまで相手に知られないよう細心の注意を払う⇒同時行動ゲームの様相を呈する。
このゲームにはナッシュ均衡が存在しない。
⇒自分の行動を無作為に選ぶことがきわめて重要になってくる。
元々の戦略(PKの例でいえば、行動をミックスさせずに常に右なり左なりを選択する戦略)を「純粋戦略」と呼ぶ。
2つのプレーヤーの利害が完全に対立。
「ゼロサムゲーム」
キーパーの利得(シュート阻止率)は常に、100からキッカーの利得(シュート成功率)を差し引いた数字。
ゲーム理論で取り上げるゲーム全般を見ると、プレーヤーの利害が完全に対立するゲームは珍しい。
経済学上のゲームでは、全員が勝者になる可能性がある。
囚人のジレンマのゲームでは、全員が敗者になる可能性がある。
キッカーにとって好ましいミックス比率に近づける程、キーパーが左を選んだ場合のPK成功率と右を選んだ場合の成功率の差が小さくなってくる
ミックス戦略の狙いは、相手につけ込まれる余地をなくすこと。⇒相手がどういうい行動をを選択しても成功率が変わらないようにするこが目的。
■  ■3.最小最大の定理
ルール5:相手と利害が完全に対立するゲーム(ゼロサムゲーム)において、自分の行動を相手に事前に知られると不利になる場合⇒選択可能な純粋戦略から無作為に戦略を選んで行動すべき。
この際、相手が特定の純粋戦略を取ることによって有利にならないように自分の行動をミックス(=相手がどのような戦略を選択しても平均の利得が同じになるようにする必要)する。
■  ■4.じゃんけんの戦略
3つの純粋戦略をもつ同時行動ゲーム。
■5.実験の被験者の行動
■  ■6.無作為に行動する方法
コインを投げて30回続けて表が出た後でも、その次に表がでる確率は2分の1。
but
世界じゃんけん選手権の出場者が用いる戦略の土台にあるのは、この類の過ち(ずっと表がでたら次は裏がでると思う。)をしばしば犯すことを前提につけこもうとするもの。
こちらが最善のミックス比率で行動しない⇒相手も最善のミックス比率を用いる理由がなくなる。
(左にばかり蹴る⇒相手は左を守ればいい。)
自分にとって最善のミックス比率でプレーすべきなのは、相手に最善のミックス比率で行動させるために必要だから。
■7.1回きりの勝負
相手を驚かせるには、自分自身もどれを選ぶかわからないような行動を取ること。
出来るだけ選択の幅を広く持ち、(スパイを防ぐため)最後の瞬間に予測不能の方法で行動を決めるとよい。
ディフェンス側は、たまのパスに備えて守りを分散させるからこそ中央のランは成功率が高まる。
■  ■8.非ゼロサムゲームでの戦略
現実世界のゲームの大半は、当事者の利害が一致する面と対立する面をあわせもっている。(非ゼロサムゲーム)
非ゼロサムゲームでも、ミックス戦略は役立つか?
条件付きのイエス。
失敗を避けるには、ミックスを協調させること。
雨⇒鹿
晴れ⇒バイソン
■9.発見の構図
スポーツ以外の分野でミックス戦略を実行する例はあまり多くない。
(結果をコントロールするビジネスの世界に、結果を偶然に任せるという考えはなじみにくい。)
but
リスキーな戦略を混ぜる狙いは、個別の局面で成功を収めることではなく、決まったパターンを崩すことにより、こちらの手を予測されることを防ぐことにある。
割引クーポン発行で、相手に先回りされることを防ぐには、ミックス戦略を実行して行動の予測可能性を保たなくてはならない。
but
ライバル社同士は協調した方がずっと好ましい結果を手にできる。
出発直前に切符を買う客に割引を行う航空会社は、客がその制度利用の可否を推定するのを防ぐために、残りの座席数を知らせない。
(予測しやすくなれば、割引切符の利用が増え、正規の運賃を支払う乗客が減ってしまう。)
駐車違反:
罰金の額を高くして、取り締まりを緩める。
罰金が25ドルなら、捕まる確率は25分の1でも十分な効力をもつ。

無作為戦略が重要。
取り締まりを逃れようとする側も、無作為戦略を利用できる。
多くの贋の仕掛けや囮の中に本当の玉を隠して、取締側の勢力を分散させ、無力化させる。
ex.
本物のミサイルを贋の囮のミサイルで護送する。
撃ち落とさなければならないミサイルの数に比例して防衛側の費用が高くなるとき、攻撃側はその費用を途方もなく高められる。
(不発弾も混ぜて一緒に発射してしまうという発想。)
■10.均衡の見つけ方
■  ■11.相手の技術の変化に対応する
キーパーは右に対応するのが上手になると、右を選択する確率が減る。
(←キッカーは右に蹴る頻度を減らす。)
■  ■12.階段じゃんけん
こちらが進んだ分だけ相手は相対的に遅れる⇒ゼロサムゲーム
相手が何をだしても、相手にとっての利得が等しくなるのは、
パー=1/8、チョキ=5/8、グー=2/8の時
◆6  ☆第6章 ゲームの性格を変える、戦略活用行動
■1.ゲームの性格を変える
新年の誓いが半年以上続くのは5分の1しかない。
うまくいかない最大の原因は誘惑。
「私はいかなるものにも抵抗できる。だが、誘惑だけは別だ」(オスカー・ワイルド)
ダイエットや節約の取り組みは
①現在の自分(長い目でものを見て、健康になったり貯金を増やしたりしたいと考える)と
②未来の自分(近視眼的にものを考えて、好きなだけ食べたり買い物をしたりしたいと思う)の間のゲーム。
未来の自分に裏切りという選択肢を与えてはいけない
⇒現在の自分は裏切り阻止のための行動をとる必要がある。
ex.水着姿の公開
「戦略活用行動」:
自分にとって好ましい結果を生み出すねらいでゲームの性格を変える行動。
2つのポイント:
どういう結果が必要か(=ゲームの理論の科学の問題)
どうやってその結果を実現すべきか(=技の領域。個別の状況によって正解が変わってくる。)
チキンゲーム:
①必要な結果:あなたが直進し、相手がハンドルを切ること
②そのための方法:
「決してハンドルを切らない男」という評判を確立する。
ハンドルを取り外して窓の外に投げる。(自分を窮地に追い込むことで、チキンゲームで勝利を手にできる。)

選択肢は直進するという1種類だけ
それに対する相手の最善の選択肢は、ハンドルを切ること。
(自分を窮地に追い込むことで、チキンゲームで勝利)

選択の自由を狭めることで勝利
←ここでの「選択の自由」とは「チキンになる自由」にすぎない。
■2.実践と理論の歴史
ゲーム理論は、戦略を理解し、1つの理論的枠組みで見るのに役立つ。
■3.確約
早起きの誓い:
早起きの決意を決めた「夜の自分」と意志の弱い「朝の自分」の間のゲーム。
朝の自分:には後攻の優位がある。
夜の自分:ゲームの性格を変えて、先攻という立場を自分の味方につける方法がある。⇒目覚まし時計をセット=目覚ましが鳴ったときにベッドから出ると「確約」する行為。
ゲーム樹形図での検討:
目覚ましなし⇒①起きる(夜:10点、朝:0点。)②起きない(夜:0点、朝:10点)
目覚ましセット⇒①起きる(夜:8点、朝ー1点。)②起きない(夜:-2点、朝-5点)
(朝の自分:アラームの騒音はすぐ消せばー1点、ベッドの中で寝たままアラームを鳴らし続けるー15点)
朝の自分:-5よりー1の方がいい⇒アラームがセットされる以上はすぐ起きる。
夜の自分:アラームをセットすれば8点の利得を手にできる(元々のゲームの0点より好ましい)
逆戻り推量によるこのゲームの均衡は、夜の自分がアラームをセットし、朝の自分が尾起きるというパターン。
早起きゲームでは、戦略活用行動をとれば、相手の選択を既定のものとして受け入れるのではなく、相手の選択を変えることが可能
交互行動ゲームで先に行動するプレーヤーにとって絶対優位・絶対劣位の概念は意味を失う。
■  ■4.脅しと約束
「確約」
条件なしの行動を取ることにより、ほかのプレーヤーの行動を変えることを狙う戦略活用行動の一種。
ex.
夜の自分は目覚まし時計のアラームをセット。
朝の自分としては、夜の自分が取った行動を前提に行動するしかなく、夜の自分の確約戦略に対する最善の対応はベッドを出ること。
相手のどういう行動に対してこちらがどういう行動を取るかを定めた「反応ルール」を前もって言渡しておく。
「脅し」
:こちらの意向に沿わない場合に相手を罰する反応ルール
「約束」:こちらの意向に沿った場合に相手に褒美を与える反応ルール
(1)相手より先に行動し、反応ルールを決め、それを相手に伝達。
(2)ルール通りの行動選択を相手に信じさせる

①ゲームの性格を変えてその選択があなたにとって最善の選択になるようにする
②相手の選択に対応して2度目の行動をとれるよう、ゲームの順序を変える。
BBとREの価格競争
ゲームの構造を変えて、相手の価格を知ったうえで自社の価格を決められるようにする。
ex.
最低価格保証:REはカタログに80ドルという価格を記載するが、「ほかにもっと安い業者があれば当社も同一価格に値下げします」という一文を入れる。
脅し:値下げをすれば、こちらも同額に値下げする
実現するための手段:その脅しを実行可能にし、信頼性あるものにするための最低価格保証
■  ■5.抑止型と強要型
脅しと約束は、それぞれ2つの種類にわけられる。
「抑止」:ある行動を相手に取らせないことを目的とする。
ex.米国が、ソ連が西側諸国を攻撃すれば核兵器で反撃する。
「強要」:ある行動を相手に取らせることをも目的とする。
ex.強盗が人質を取り、要求が拒まれれば人質を殺す。
両方とも、実際に脅しが実行されれば、脅される側だけでなく、脅す側も被害を被る(利得が減る)。
ex.
銀行強盗が人質を殺す⇒刑罰が重くなる
ソ連との核戦争⇒アメリカも甚大な被害
約束について
①「強要型の約束」:こちらにとって好ましい行動を引き出すことを目的とする。
ex.検察官が、被告人の1人に対し、共犯者の罪を証言すれば罪を軽くすると約束。
②「抑止型の約束」:こちらにとって好ましい行動を取らせないことが目的
ex.暴力団員が、共犯者に、沈黙を守れば命は保証するとッ約束。

いずれも、相手が望み通りに振る舞ってくれた後、約束した側が約束を破りたいという誘惑にかられる。
■6.簡単・戦略活用行動ガイド
(A)条件なしの行動・・「確約」(撤回不能な行動を取ることによって、相手にそれを前提に行動させる)
(B)条件つきの行動
「脅し」(こちらの意向に沿わない場合に相手を罰する反応ルールを示す)
「約束」(こちらの意向に沿った場合に相手に褒美を与える反応ルールを示す)
「脅し」
①もし私の望まないことをすれば(抑止型)
②もし私の望むことをしなければ(強要型)
・・・あなたにとって不利益な行動を取るぞ。
「約束」
①もし私の望まないことをしなければ(抑止型)
②もし私の望むことをすれば(強要型)
・・・あなたにとって利益になる行動を取ることにしよう。
■7.警告と確言
「脅し」と「約束」に共通の特徴:
反応ルールを示すことによって、反応ルールのないときにはしないような行動を取ると宣言すること。
ルールとしての効果はなくても、将来起こることを述べることには情報を伝達する効果がある~「警告」と「確言」に分類される。
「警告」:何か脅迫したいことがあるとき、それを示す声明
ex.BBがREの1ドル値下げに対して、1ドル以上の対抗値下げをするとカタログで表明する行為。
×REの1ドル値下げに対して0.4ドルの値下げを行う方針は脅しではない。
(表明しようとしまいと、BBにとってはそれが最善の対応。)
「確言」:貫き通したい行動があるときに、その意向を表明すること。
ex.BBがREに対して、もしREが80ドルに価格を設定するという共謀を守れば自社もその価格を守るという伝えること。
「脅し」と「約束」:戦略的な行動。
反応ルールを通して、こちらが本来の行動とは違う行動を取ることを相手に伝えることを目的とする。
意思決定を操作するためになされる。
「警告」と「確言」:情報伝達の機能。
相手の行動に対してこちらがどう行動したいかを伝えるだけ。
戦略的行動の2つの要素:
①行動の方針。
②その方針に信頼性を与えるための補足的な行動。
■8.相手の戦略活用行動
戦略的行動を取ることの利点を考えるのは当然だが、相手の戦略的行動が自分に及ぼす影響も考えないといけない。
(場合によっては、自分が戦略的行動をとるチャンスを放棄し、わざと相手にそうした行動を取らせる方が有利な場合もある。)
①あえて先手をとらない方が有利な場合:
ex.アメリカズ・カップの例

②相手が条件なしの行動を取るのを防ぐ方が有利な場合:
ex.敵を包囲する際に、逃げ道を1か所残しておく。
(敵に死を賭して戦うと言う条件なしの行動を取らせるべきではない。)

③相手が先に脅しを行う⇒いかなる場合も得にならない
(相手の意向どおりに振る舞えば脅しは実行されないば、脅しを受けることにより選択肢の幅が狭まってしまう。)

④相手が先に約束する⇒双方が恩恵を受けるケースもある
  ■9.脅しと約束の使い分け
時として、脅しと約束の境界線は曖昧。
A:20ドル貸してくれれば危害は加えない⇒約束
B:20ドル渡さないと危害を加える⇒脅し

「脅し」と「約束」の違いは、何を「現状」ととらえるかの違いでしかない。
コスト:
脅しは約束よりコストが少なくてすむ場合がある
(脅しが功を奏す⇒実行する必要なし。約束が効力を発揮⇒約束を実行。)
目的が「抑止」か「強要」か:
抑止⇒締め切りがあるとは限らない⇒脅し
ex.「西欧を攻撃するな」

強要⇒締め切りが不可欠⇒約束が適している
ex.「部屋の片づけをすませばデザートをあげる」
■10.明確性と確実性
「脅し」や「約束」をする時は、どういう行動がどういう処罰(もしくは褒美)をもたらすのかを極めて明確に相手に伝える必要。
オールオアナッシングは必ずしもすぐれた戦略とはいえない。
ある1つの基準を上回った社員にいきなり莫大なボーナスを支給するより、生産性の向上度に応じて段階的にボーナスを増やしていく方が効果的
脅しや約束が効果をもつためには、相手がそれを信じなければならない⇒実行の確実性が必要。
脅しや約束をすべて同時に実行する必要はない。
相手がサラミ戦術を取る場合はとくに、複数の段階に細かく分けて脅しや約束を実行するのが効果的。
ex.答案が1分遅れるごとに一定の点を差し引くと言うペナルティ
■  ■11.脅しの大きさ
脅しが効果を発揮すれば、その脅しを実行する必要はない。
間違いが起きて途方もないコストが発生する確率がわずかでもある以上、脅しは目的を達するうえで必要最小限にとどめるべき。
脅しを実行する羽目になった場合のコストを小さくしたい⇒小規模な脅しから初めて、段階を追ってそれを強化していく(瀬戸際作戦)。
■  ■12.瀬戸際作戦
×「口を割らないと殺すぞ」
○「口を割らなければ引き金を引く。もし薬室に弾が入っていればお前は死ぬ」

ホワイトは、フォンテインが命を失うという危険をつくりだした。
しかも、脅しが繰り返されるたびに、その危険が増していく仕組み。
目隠しをしてヘリコプターから突き落とす(地上30センチ)。
「次はもう少し高い場所から落とすぞ」
⇒男は恐怖に駆られてすべてを白状した。
脅しの大きさを目的達成に必要最低限にとどめるべき。
butどの程度が必要最低限かわからない
弱い脅しから始めて、相手が言うことを聞くまでだんだんエスカレートさせていく。
行動とそれに対する対応、計算と誤算、警告と誤った警告が事態を複雑にして戦争に発展する危険がある場合、その脅しが説得力を持つ。
「戦争の霧」
両陣営とも情報が断絶されていて、個人の恐怖や勇気、あるいは不確実性に行動が支配されている状況のこと。複雑な要因が多すぎて、すべてのものをコントロール下に置けない状況。
瀬戸際作戦:
その本質は、意図的に危険を作りだすことにある。
次第に危険が高まっていくチキンゲーム。
瀬戸際作戦では、どんなに慎重にことを運んでも悪い結果を招く危険性を排除できない。
危険をエスカレートさせていく過程で相手より先に自分が恐怖に負けそうだと思えば、そもそも瀬戸際作戦に乗り出さない方が身のため。
常に瀬戸際を踏みはずす危険がついてまわる。
ex.1989年6月の中国の学生虐殺は、瀬戸際からの踏みはずしが本当の起きた悲しい実例。
■13.親子の駆け引き
親にとって、子どもが悪いことをしたときに罰を与えるのは簡単ではない。子どもは親の脅しが本気でないと、抜け目なく察知する。親だって子どもをばっしたくない。
この場合、どうすれば悪いことをしたときに罰を与えるという脅しに信頼性をもたせられるか?
「できることなら罰など与えたくないのだが、もし罰を実行しなければママとの合意を破ることになる」
~合意を破ることに伴うコストは、息子を罰するコストより大きい。したがって、脅しが信頼性を持つ。
「できれば罰を与えなくないが、もし罰を実行しなければパパ自身が正しくない行動を取ったことになり、パパが罰を受けることになる」
◆7  ☆第7章 実行の確約(相手に本気と思わせる)
■1.我々は神を信じる?
脅しにどうやって信頼性をもたせるか?
神の脅し(実を食べると死んでしまう)すら信じられないとすれば、誰の脅しを信じられるのか?
確約にせよ、脅しや約束にせよ、相手に本気にしてもらえなければ、あなたはゲームの結果を自分の有利なように改善できない。
第6章:戦略活用行動で取るべき行動の内容に焦点
本章:それを成功させるための方法論(戦略活用行動の技)について、どういう状況でどういうやり方がうまくいくのかという例を類型的に紹介。
  ■2.信頼性への8つの道
相手の考えや行動に影響を及ぼしたければ、言葉の裏づけとなるしかるべく戦略的行動が欠かせない。
●8つの方法の土台をなす原則
(1)ゲームから得られる利得を変更する
確約した内容を実行することが、自分の利益になるような状況をつくりだす。
脅しを警告に代え、約束を確言にかえる。

①契約を締結する。
②評判を確立し、それを利用する。

確約したことを破ると実行するより高くつく。
(2)確約したことから後戻りできる余地を減らすようにゲームの性格を変更する
③ゲームの関係者との情報交換を遮断する
④退路を完全に除去する
⑤成り行きを天にまかせる

⑥小さなステップに段階を分けて行動する

実効の確約を多数の小さな部分に分割できれば、裏切りによって得られる1回の利益より、裏切りによって失われる残りの部分からの利益のほうが大きくなる場合がある。
(3)実効の確約を守るために、他者を介在させる。
団体で行動⇒1人のときより信頼性を確保しやすい。
自分の代理に他人を雇うこともできる。
⑦チームワークを通して信頼性を生み出す。
⑧代理人に交渉させる。
●①契約の締結
不履行に対する罰則を取り決める。
支払いの時期を仕事の進捗状況に連動させる取極め。
遅れに対する違約金条項。

予定通りの仕事を進めることが自分の利益に適う。
契約を結ぶことで、工務店の確約に信頼性をもたせる。
自分がレストランで食事をしているところを目撃した人に2.5万ドルの賞金を払う。
but
問題は、改定を防止するメカニズムが欠けている。
一般に、契約で定めた行動の実行を強制したり、罰金を徴収したりする相手方も、契約で定めた行動の実行を望んでいる必要がある。
契約の執行に責任をもつ当事者が契約改定に応じた場合、職を失う仕組みがとられているケース。
中立の第三者を通じて契約を執行するケース。
「確約ストア」
・ストアに利害関係がない
・ストアは評判を守りたいという意識が働く。

裁判所
・裁判官や裁判員は、原告と被告のどちらが勝っても直接の損得はない。
(損得をなくさせる必要)

マフィア
・長い目で見た場合の評判を守りたいという動機
・信頼性を確保するために、評判を確立し、裁判所より迅速・正確に証拠を判断するための専門知識を備える。

仲裁機関
・契約を破り、しかも仲裁機関の審判にも従わないメンバーに強力な制裁を課せる。
ex.組合の掲示板に違反業者の氏名と写真を掲示⇒村八分
契約を結ぶだけでは信頼性の問題は解決しない。
契約を機能させるために役立つのは、契約が執行されることが利益になる第三者や、契約を執行させないと評判に傷がつく第三者の力を借りるなど、契約に信頼性を与えるための仕組みを盛り込むこと。
●②評判の確立
ゲームは同時に複数の相手と、同じ相手と機会を変えて、何回も行う。
評判を確立することに意味がある。
マフィアにとって、本当に効果のある要素は1つ。人を殺すなど、「タフな」行動をとったという経歴。
決意を表明し、その決意を守ることにメンツをかけることによって、自分の言葉に説得力を持たせる。
but
そのような行動をとらなかったら、その人物の評判は地に堕ちる。
●③情報の遮断~行動を撤回する道を閉ざす⇒実行を確実にする手立てになりうる。
究極の形態が遺言
~その人物が死亡してしまえば、もはや契約の内容の見直しは事実上不可能になる。
「博士の異常な愛情」
受話器を置くという行為により、リッパーは自分の行動を撤回不能にするための最後の一手を打った。
「知らないことすら知らないこと」は常にあり得る。
戦略的思考をするよういつも最善を尽くすべきではあるが、想定外の事態が起きても驚かないようにしなくてはならない。
情報が届かない状態に身を置くと、相手をこちらの望み通りに行動させることが難しい⇒第三者を雇ってその役割を担わせる。
ex.遺言を守らせるため、遺言執行者を指名しておく。
●④退路の除去
軍隊はしばしば退却の可能性を自ら否定することで、実行に確実性を付与する。
コルテス:船を燃やす。
孫子⇒相手の戦意を喪失させるために、包囲戦であえて退路を残す戦略。
道をつくり出すことが退路を断つ結果になる場合もある。
ex.
東ドイツの指導者エゴン・クレンツはベルリンの一部を破壊することで、改革を実行しなければ国民が大量に流出するという状況に立たされた⇒改革の約束は信頼度を増し、東西ドイツの統一が実現。
●⑤成り行きまかせ
抑止の目的は、攻撃することへの恐怖を相手の頭の中につくりだすことにある。
人間の判断が介在する余地を排除し、撤回不能なプロセスを自動的にスタートさせるという点で、強い恐怖を生み出す。
壊滅的な結果を招く危険性を減らすために、相手の行動を抑止するのに必要最低限の程度に脅しをとどめたい。
but
核による反撃のように、軽度・重度の程度わけが難しい行動の場合
⇒瀬戸際作戦
瀬戸際作戦
~恐ろしい結果を確実に引き起こすのではなく、そういう結果が起きる「危険性」をつくりだす。
「完全にはコントロールできない危険」をつくりだす。
ex.皆殺し装置の爆発が起きる「危険性」を生み出す。
●⑥ステップに分けた行動
取引の規模が大きいと、当事者はなかなか相手を信頼しないかもしれない。
⇒規模を小さくして何回も確約を行う。

ex.
×100万ドルと1キロのコカインを交換
○1000ドルの取引を1000回行う。

毎日あるいは毎週、仕事の進み具合に応じて支払が行われる。
~両者とも最悪でも1日ないし1週間分の損だけですむ。

発注者:前払いした後で不完全や手抜きの工事をされるのを恐れる。
業者:仕事を完成した後で発注者が払ってくれないのを恐れる。
●⑦チームワーク
自分1人では意志が弱くても、グループを組むことで決意を強められる。
ex.
禁酒連盟
禁酒の誓いが破られると誇りや自尊心が傷つく仕組みをつくることにうより、確約に背いた場合に失うものを大きくしている。

古代ローマ軍:
攻撃に落伍した者を極刑に
隣の者が落伍するのを目撃した者はただちにその落伍者を殺す
落伍者を殺さなかった者も極刑に

ウエスト・ポイントでは、試験官はおらず、カンニングは放校となる罪。
カンニングを目撃して届け出ないことを名誉規律違反として、放校処分を課する。

刑法でも、犯罪の届出を怠った者を事後従犯に処する規定。
●⑧交渉代理人への委任
労働者側が主張(5%以下の賃上げではのめない)に信頼性をもたせるには、代わりに交渉してくれる代理人を立てる。
交渉相手との関係を壊したくないときは代理人を用いるといい。
(有効的な関係を傷つけまいといして、必要以上に譲歩してしまう。)
ex.
プロスポーツ選手がチームの経営陣と交渉
本の著者が出版社と交渉
機械も交渉代理人の一種になりうる。
ex.自動販売機相手に値切る人は少ない。

店の店員や政府の役員がルールに機械的に従うよう求められる。
「権限がない」と言えることに利点がある。
  ■3.相手の信頼性を弱める
相手の戦略活用行動によって双方にとって好ましい結果が得られるのであれば、相手の行動の信頼性が高まれば自分にとっても利点がある。
ex.囚人のジレンマゲーム
もし一方が戦略に信頼性をもたせる仕組みを考案すれば、その仕組みを一緒に用いようと相手にもちかけるのが正しい。
but
相手の戦略活用行動が自分に害を及ぼしかねないケースが少なからずある。
⇒相手の戦略活用行動に信頼性をもたせることを阻止。
以下は、相手が戦略活用行動に信頼性もたせることを阻止するための方法論:
①契約の効力を骨抜きにする
少なくとも1回限りであれば契約の効力をなくせる。
意図的な裏切りではなくうっかり間違えてしまったのだと弁明し、契約を杓子定規に適用して今後の協力関係の恩恵を捨ててしまうのはもったいないと主張する。
②評判の確立に対抗する
評判を確立することが信頼性獲得の手段になるのは、その評判が広く知られるから。
⇒皆に内緒にしておけば、相手にとって評判を気にすることは意味がなくなる。
③情報を受け取らない
情報の遮断は、プレーヤーが自分の行動を撤回不能にすることによって有利な立場に立つことを目指す戦略活用行動。

そのプレーヤーの確約や脅しがこちらに伝わらないようにしてしまえば、その戦略活用行動は意味を持たない。
④退路を除去させない
その真意は、相手を本当に逃げさせることではなく、まだ退路があると相手に思わせることにある。
(決死の戦いをするという信頼性のある意思表示を相手にさせないことこそ、孫氏の狙い。)
⑤一方的に行動を細分化する
相手の意向に反して自分の行動を細分化すれば、相手の脅しの信頼性を弱められる可能性がある。
1つ1つのステップを徹底して細分化し、いちいち脅しを実行するのが割に合わないようにする。「サラミ作戦」
「水に入ってはいけない」
裸足になって足を水に浸ける⇒水の中で立ち上がる⇒歩き始める
国連で、超大国に逆らう場合、貿易協定の合意に一部だけ違反する。
ちょっとずつ核関連技術の取得を進めるなど、1つひとつの「反逆行為」を小規模にとどめることにより、本格的な報復措置を取らせないようにしている
⑥交渉代理人との交渉を拒む
代理人との交渉を拒絶し、本人との直接交渉を要求
店員:自分には値引きをする権限がない
こちら:店長と話をさせてくれ
  ■4.「ケーススタディ」大学教科書市場の攻防
米国の大学教科書市場の規模は、およそ70億ドル。
(映画産業の市場規模は100億ドル、全てのプロスポーツの売上高の合計が160億ドル)
教科書は1冊150ドル。学生は毎年8冊以上の教科書を買わなければならない。
学生は、使用済みの教科書を下取りしてもらって少しでもお金を取り戻そうとする。
(下取り価格の相場は定価の半分。書店はそれを定価の75%の金額で販売。)
大学の書店が使用済みの教科書を下取りするよう法律で義務づけてはどうか?
教科書が中古市場で2度売買されているとすると、出版社の売上部数は、中古本の売買が行われない場合に比べて3分の1。⇒新本で学生3人分の利益を確保する必要。⇒教科書の価格が150ドル。
出版社は中古本に市場を侵食されないよう、頻繁に教科書の改訂版を刊行。
改訂版がでるころには、教科書を買わないですませる学生が増える。
×書店に中古教科書の下取りを義務付ける⇒書店中古本が売れ残ることを計算に入れて、下取り価格を引き下げる。
○出版社が改訂版を出版しない出版しないと約束し、学生が中古本を売らないと約束。
1冊60ドルでOK。
出版社:損しない。改訂版刊行の手間が省ける。
学生:新本を購入する方が得。
書店:損をする。(新書販売の手数料と中古本販売の利益)

問題は、どうやって学生に使用済みの教科書を売却しないと約束させるか
①禁止・・・現実的でない
②出版社が学生に貸し出す(出版社に保証金を納めて教科書を借り、使用後に返却すれば保証金を返還してもらう。)
出版社が教科書使用のライセンスを販売

中古品を売買しないという信頼性のある確約ができるかどうかが問題となる場合は、総じて、商品を売るのではなくリースすることが問題解決の方法となりうる。
(中古品が存在しない)
◆8  ☆第8章 相手の行動を観察せよ・・・情報の解釈・操作
■1.結婚願望
スーが欲しいのは信頼性のある「信号」
⇒タトゥーを入れてほしいと頼んだ。
■2.他人の言葉が信用できないわけ
他の人の言うことをそのまま信じてはいけないのは、真実を語ることがその人物の利益に反する可能性があるから。
ex.ウェーターにおススメの料理やワインを尋ねる。
安いステーキやワインを推薦⇒信用していい。
高価なステーキやワインを推薦⇒言葉の信ぴょう性を見分けるのが難しい。
利害が完全に対立する相手の宣言に対する唯一の合理的な対処法は、それを完全に無視すること
(ex.PKのキッカーとキーパー)
政治家も広告業者も子供たちも、みなそれぞれの利害や動機に基づいて戦略的ゲームをしてプレーしている。
自分にとって好ましい結果を実現するために発言する。
では、そうした相手の発する情報をどう解釈すればいいのか?
どうやって自分の主張に信頼性をもたせればいいのか?
■  ■3.ソロモン王の裁き
ソロモン王は聡明だったというより、幸運だった。
王の戦略が成功したのは、2人目の女性がミスをしたからにすぎない。
■4.情報操作のゲーム
すべてに共通する大原則:
①スーが経験したように、言葉より行動こそが多くを語る
⇒他のプレーヤーが何を言うかではなく、どう行動するかを注意深く観察しなければならない。
②相手がそういう目で自分の行動を見守っていることを頭に入れたうえで、どう振る舞うかを考える必要がある。
プレイヤーは、自分の情報を隠そうとし、他人の情報を知ろうとする。
①信号(シグナリング)
他人に知ってもらいたい情報が伝わるように振る舞うという行動。
②妨害信号
他人に知られたくない情報が他人に伝わりにくいように振る舞う。
本来は別の状況にふさわしい行動をあえて取る。
誰かのもっている情報を暴きたい
その情報の内容次第でその人物の取るべき行動が変わるような状況をつくり出せばよい。
「選別(スクリーニング)」
ex.スーが恋人にタトゥーを彫るように求めた。
特定の会社なり職種なりで有用なスキルは、たいてい実際に仕事をしながら身につけるのがいちばん効果的。
企業が採用時に本当に知りたいのは、就職希望者の基礎的な思考能力学習能力
一流大学の卒業生は「もし私に能力がなければ、プリンストン大学を優秀な成績で卒業できたと思いますか」と言っているに等しい。
~就職希望者の「基礎的な思考能力」と「学習能力」についてのシグナリング
信号を発するために教育への投資がエスカレートしても、学生の実際の能力には変わりがない。得をするのは大学と大学教授だけ。
■  ■5.中古車市場
保証つきの車を選ぶ

①売り手は、中古車の状態について詳しい情報を持っている
②売り手が「私はこの車の状態がいいとわかっているので保証をつけられるのです」と暗黙に宣言したのと同じ⇒その車に問題が生じる可能性は低いはず。
保証をつけるという行為は売り手自身の損得勘定に基づく判断⇒言葉だけの場合と違って信頼性がある。
「信号」:ある人が自分のもっている非公開の情報を他人に伝えるために取る行動
ある特定の情報を伝達するうえで説得力のある信号を発するためには、その人物がその情報をもっている場合にかぎって最善の選択となる行動をとればいい
買い手は、売り手が保証を提示するまで待つ必要はない。
自分が主導権を握って、「もし保証をつけてくれるのであれば、800ドル多く払いましょう」と申し出てもいい。
~売り手が車に自信があれば、売り手にとって好ましい条件
⇒車の状態に関して売り手がもっている情報を引き出せる。
「選別」:情報量の少ない側が情報量の多い側に要求して、情報を明らかにするような行動をとらせる
中古車の状態が良好であるという信号として信頼性のある行動の条件は、車の状態が悪いとわかっている売り手にとっては不利益になる行動であること。
×整備士に依頼して車を調べてもらてもかまわない
vs.整備士が問題を見つけて買い手が手をひいても、売り手に経済的負担が生じるわけではない。
○買い手が整備士に依頼して車を点検させ、もし車に問題が見つかった場合はその検査費用を売り手が補償する。
商品の品質の高さをどうやって伝えるかという課題は、まだ市場で定評が確立できていない新興の自動車メーカーも直面。
現代自動車は、駆動系のパーツについては10年間、走行距離10万マイルまで、それ以外のパーツについては5年間、走行距離5万マイルまでという前代未聞の手厚い保証を打ち出した
  ■6.理論の歴史
●情報の非対称性が市場を破綻させる
経済学者のジョージ・アカロフ
レモンの所有者は1000ドル以上で売りたい。
レモンの買い手は1500ドルまでなら払ってもいい。
ピーチの所有者は3000ドル以上で売りたい。
ピーチの買い手は4000ドルまでなら払ってもいい。
売り手だけが自分の車の状態がレモンかピーチを知っている。
買い手はが払っていいのは最高でも1500ドルと4000ドルの平均の2750ドル。
⇒自分のもっている車がピーチだったら、この金額では売りたくない。
⇒市場はレモンしか売りに出されない。
⇒買い手もそのことを知っているので、は1500ドルまでしか払おうとしない。
⇒ピーチの市場は崩壊。
but
実際はレモンだけではない。
・車を調べる
・履歴を調べる
・売値を度外視して売却せざるを得ない人

現実にはさまざまな理由で、レモンの問題は和らげられている。
あなたの提示した価格で売り手が了承⇒その中古車にあなたが思うほど価値がないということにほかならない。
●  ●ゲーム理論
「信号」が説得力をもつ条件は、その行動を取ることによる損得が手持ちの情報の内容によって異なること。
「選別」の考え方:
リスクの小さい加入者が好むのは、掛け金が少ないかわりに保障内容が弱いプラン。
どういうタイプの保険プランを選ぶかによって、その人のリスクの程度がわかる。
保険という仕組みは、最もリスクが高いタイプの加入者を引き寄せてしまう
(リスクの最も高い層が過剰に大きく、リスクの高い人ほど高額の保険に加入。)
好ましからざる取引相手を引き寄せる⇒「逆選択」
逆選択を逆手にとって好ましい結果を生み出す例:
キャピタル・ワンは、利用客に(少なくとも一定期間)他社のクレジットカードより低利での借り換えを認めた。
クレジットカードの顧客は①無借金派、②返済派、③踏み倒し派でいちばん儲かるのは②。
で、低利借り換えサービスに魅力を感じる顧客は②⇒最も利益をもたらすタイプの顧客だけを引き寄せることに成功。
MKA:魅力的な顧客にとっての魅力的な条件を考える。
■7.選別と信号
経営の才能がない人物も簡単にMBAを取得できてしまうと、MBAの肩書きの有無を基準にその人物の経営の才能の有無を判別できない。
MBAの学位が判別基準として機能するためには、経営の才能がある人物のほうが容易に、もしくは安価にMBAを取得できることが条件となる。
引きつけたくないグループより、引きつけたいグループにとってその選別装置(この場合MBA)を利用するコストが小さいことが条件となる。
MBAの肩書に頼らずに選別できるのであれば、平均レベルの5万ドルそこそこの給料を払えば済むのに、その選別ができないので、才能のある人物に才能の証拠としてMBAを取得させ、この人たちにとってMBA取得が損にならないように9万ドル以上の給料を支払わなくてはならない。
この余計な4万ドルは、情報格差を埋めるための代償。
才能の有無を選別する方法がいくつかある場合、一番コストが小さい方法を選べばいい。
試用期間で選別
②思い切った成果給制度⇒才能がある人は自信があるので、この種の給与制度を受け入れる可能性が高い。
才能が実証されている人を引き抜く
MBA保有者の給与が高すぎるのはダメ。
その場合、経営の才能が乏しい人にとってもMBA課程に入学することが割の合う選択になってしまい、MBA保有者の中に才能の乏しい学生が「混入」してしまう。
ex.
MBA保有者の給与が13万ドル⇒給与の増加分は8万ドル。
経営の才能がない人がMBAを取得出来る確率を50%とすると、経営の才能のない人物がMBA課程に入学すれば、平均で4万ドルの上乗せが期待。
⇒MBA課程で学ぶコストは5年で回収できるので、入学するようになる
MBA取得のコストを回収するのに最低5年かかる⇒MBAを取得している女性がずっと仕事を続けるつもりだと言えば、企業はその言葉を信じていい。
「選別」と「信号」に共通するのは、その行動を取ることによって、特定の情報や個人的特性をもつプレーヤーを選りわけていること。
■  ■8.お役所仕事の効用
不正請求者と本当に怪我や病気をした請求者を選別する方法:
①保険金請求手続きにきわめて長い時間がかかる⇒1日働いた方が保険金より多額の金を手にできる人は、不正請求をしても割が合わない。
②現物支給にする。
ex.金でなく車椅子を現物で支給するようにすれば、不正申告の誘因を大幅に減らせる。
情報の非対称性の観点からいえば、物々交換のほうがメリットが大きい。
■  ■9.信号を発しないことの落とし穴
誰かが信号を発しないという事実もある種の情報を伝えている。
ex.セールスポイントを伝達する機会があるのにそれをしない⇒好ましい資質をもっていないと判断される。
優秀な成績をとる自信のある学生は、差別化をはかれる5段階評価の従業を履修⇒合格・不合格の授業をとるということは実力がないということ。
■  ■10.ホンモノは信号を発しない?
自分の能力について信号を発する機会があれば、常に信号を発すべき?
but
卓越した才能をもつ人の中には、あえて信号を発しない人もいる。
成金:富をひけらかす
古くからの資産家:そうした見苦しい行為を軽蔑する
下っ端役人:権威を振りかざす
真の大物:威厳ある態度を通じて権力を印づける
月並みの教育しか受けていない人:いかにも学がありそうに几帳面な字を書こうとする
本当に高度な教育を受けた人:判読不能な字を書くことが多い
信号を発する⇒その信号を発することのできないタイプの人達との差別化を望んでいるという信号にほかならない。⇒信号を発する必要がないという信号を発することこそ、最強の信号である場合もある。
博士号自体はどの教授も持っている。しかし、学位を念押しすると、自分を他人と差別化する必要性を感じているという印象を与える。
本物の大物教授は、あえて信号を発しないことにより、「自分は信号を発する必要がないくらい有名だ」というメッセージを送れる。
■  ■11.妨害信号
あらゆるタイプの人が同じ行動を取るので、その行動はまったく情報を与えなくなってしまう。「一括均衡」
その人のタイプによって発する信号が異なり、その信号によってその人のタイプが識別できる状況。「分離均衡」
行動は識別に役立つ情報を部分的にしか伝達しない場合。「半分離均衡」
売り手の1人がミックス戦略を実践し、半分以上の確率で掃除をするが、常に掃除をするわけではない。
⇒きれいに掃除してある中古車の売り手のなかには、車を大事に扱ってきた人と乱暴に扱ってきた人の両方が含まれる。
買い手がどういう態度をとるべきかは、売り手のミックス比率次第。
買い手としては、乱暴な売り手が車を掃除してから売りに出そうと、車を掃除せずに売りに出そうと、売り手の損得に違いが出ないように振る舞う必要がある。
■  ■12.嘘という名のボディーガード
ウィンストン・チャーチル:
「戦争中には、真実はきわめて貴重なものなので、常に嘘という名のボディーガードを付き添わせなければならない」
最も優れた嘘とは、相手の裏をかくためにわざと本当のことを言うものである場合も多い。
ミックス戦略を実践する場合、相手をいつもだますことは不可能。
相手に常に推測させ続け、ある程度の割合でだませればよしとしなければならない。
相手がミックス戦略を実践している可能性⇒相手の言葉をすべて額面どおりに信じるのもよくないし、嘘を言っていると決めつけるのもよくない。
言葉より多くを物語るのは実際の行動
相手の行動を観察すれば、相手のミックス比率を推測できる。
ポーカーで上手なプレーヤーは、一定のパターンに従って行動することを避け、無作為に振る舞う。ときには、あえて定石に反する行為すらとる。
最善の戦略は、はったりをかける場合とはったりをかけない場合をミックスすること。
■13.価格差別という選別戦略
日常生活で選別の戦略が最も大きな意味をもつのは、商品やサービスの売り手が価格差別を行う場合。
財布のヒモが固い人には割引をし、あっさり高額を支払う人には割引をしない
売り手がよく用いる方法:
同じ商品を複数のバージョンでつくり、それぞれに異なる価格を付ける。
⇒買い手の非公開情報(購入意欲の強さ)を間接的にあぶり出す。
ex.

まずハードカバーで出版。後でペーパーバックで再度売り出す。
コスト差は価格差に比べてはるかに小さい。

ソフトウェアの「ライト版」、「学生版」
~高く払ってもいいと思っているユーザーには高い値段でうる一方、安くないと買わないユーザーも獲得。

IBMのプリンターの低速バージョンと高速バージョン。
低速バージョンは、印刷速度を遅くするために、わざわざチップを機械に組み込んだ。

企業は選別の戦略を実行する目的で、わざわざ時間と手間をかけて機能を制限したバージョンの製品を作る場合もある。
航空会社の料金設定:
ビジネス客~高い料金を払うことに抵抗がない

割引料金で一般旅行客を獲得して利益をあげつつ、
ビジネス客からは従来通りの料金を手にする

同じフライトに別バージョンを設けて料金も別々に設定し、ビジネス客と一般旅行客が異なるバージョンを選択するように仕向ける

ビジネス客:エコノミーに225ドル ファーストに300ドル 払ってもいい
一般客:エコノミーに140ドル ファーストに175ドル 払ってもいい
コスト:エコノミー100ドル ファースト150ドル

30%がビジネス客、70%が一般旅行客。
ビジネス客にはファーストクラスのチケットを売った(300ドル)方が儲かり(利益150ドル)、
一般旅行客にはエコノミークラスのチケットを売った(140ドル)方が儲かる(利益40ドル)。
ビジネス客:140ドルのエコノミークラスに切り替えれば(エコノミークラスには225ドル払うつもりだったので)85ドルお金が浮く計算。「消費者余剰」
ビジネス客がファーストクラスに乗ってもエコノミークラスと同等の消費者余剰が得られるようにしなければならない
⇒ファーストクラスは300ドルから85ドルを差し引いたら215ドルとなる。
ビジネス客が一般旅行客向けのサービスに転向しないための誘因を与えるようにファーストクラスの料金を抑える必要があり、選別者の戦略に課されるこの種の制約を「誘因両立制約」と呼ぶ。
エコノミークラスの料金を引き上げれば、ファーストクラスの料金を215ドルより高く設定できる。
but
その場合は、エコノミークラスに対する一般旅行客の支払意思の上限(140ドル)を超え、一般旅行客をすべて逃す羽目になる。
あるタイプの顧客の購入意思をなくさないために選別者が従わなくてはならない制約「参加制約」
一般旅行客の「参加制約」とビジネス客の「誘因両立制約」の間の価格帯で料金を設定しなくてはならない。
ファーストクラスが215ドル
エコノミークラスが140ドル
という価格設定が一番儲かる。
but
状況が違えば、この戦略がXYZ社にとって最良の戦略とは限らない。
ビジネス客と一般旅行客の割合が半々だと、一般旅行客を相手にしないことにし、エコノミークラスの料金を引き上げ、ファーストクラスの料金をビジネス客の支払い意思の上限ぎりぎりに設定した方が得策。
A:(140-100(コスト))×50+(215-150(コスト))×50=5250
B:(300-150)×50=7500
B>A
廉価版の商品しか買う気のない消費者の割合が小さい場合は、高級版の価格を下げて高級版の顧客が廉価版に流出するのを防ぐ戦略が売り手にとって有利とは限らない。
廉価版の顧客を切り捨てた方が儲けが大きくなる可能性もある。
全ての基本をなすのは、①参加制約と②誘因両立制約の相関関係。
■  ■14.魔女の契り
社会のアウトサイダー的存在のグループにとって悩みの種は、やってくるメンバーが野次馬根性で見物に来ただけの人間なのか、本気でそのグループの活動に参加しようとしている人間なのかを見分けること。
魔女の集会⇒参加者が裸になる。(信頼ある選別装置として機能している。)
ギャング⇒新しいメンバーに、警察の潜入捜査員にとっては大きな負担になることを強要。ex.刺青を入れさせたり、犯罪行為をさせる。
◆9  ☆第9章 失敗をいかに防ぐか 協力と協調
■1.誰がために鐘型カーブは鳴る
勝者と敗者は常に同じ数だけいるが、ゲーム参加者全体のコストを減らすことは可能。
ゲームの参加者自らがカルテルをつくることはなかなか難しい。
外部の者が競争を制限する申し合わせをしてくれればそれに越したことはない。
1968年、法律によってたばこのTVコマーシャルは禁止
宣伝競争は互いを傷つけてきただけで、むしろ、金のかかる宣伝が減って利益が上向くことがわかった。
(MKA:タバコ会社の利益を広告会社が吸い上げていただけ。)
■2.ベイ・ブリッジ
ベイ・ブリッジを利用で渋滞なし⇒20分でサンフランシスコにつく。
1時間当たり2000台増える毎に10分余計に時間がかかる。
鉄道を利用すれば、所要時間は40分。

4000人がベイ・ブリッジを使い、6000人が鉄道を使ったらどちらも40分で均衡点
この均衡点は、通勤者全体の利益にとっては好ましいわけではない。
2000人だけがベイ・ブリッジ⇒10分間時間を短縮でき、それがベスト。
(2000人×10分)節約
鉄道の8000人は同じ。
なぜ、車の利用者は、規制のない状態では社会的に最も効率的な比率をとるように行動しないのか?
1人が新たに橋を利用すれば他の人の所要時間はほんの少し増加するが、この人はコストに見合う補償を支払う義務がないので自分の通勤時間のことしか考えないから。
(全体としての)最善の比率に持っていくために:
①ベイ・ブリッジ利用許可証を2000枚発行
②人が他人に及ぼした社会的コストの分だけ料金をとる。
ベイ・ブリッジに通過料として2ドル(10分分のコスト)を課す。
⇒2000人がベイブリッジを使い、8000人がバートを利用する状態が均衡点。
③ベイ・ブリッジの個人所有を認める。⇒料金を課すが、収入を最大にするには、節約される時間価値の合計額が最大になるようにする
見えざる手は、「通勤時間」という商品に値段がついたときはじめて、通勤者の比率が最適になるように作用する。
収益が最大となる通行料を課されるとき、文字通り「時は金なり」という状況が生まれる。
通行料を徴収するためのコストが人々の時間の節約の利益を上回る場合もある。
(市場を造り出すのはコストゼロではない。)
■  ■3.キーボード文字の配列
1度、ある方式が慣習として確立されてしまうと、環境の変化により他の方式のほうが望ましくなっても、慣習を変えることは非常に難しい。
1人の力では、社会の習慣を変えられない。人々の協調した決定がなされない限り、QWERTYと決別できない。「バンドワゴン効果」
ゼロの状態から⇒DSKに人気が集まる。
現実には、ほぼ100%のタイピストがQWERTYを使用⇒QWERTYは当初の合理性が色あせてしまっても永続的に使用される。
but
タイピストの一定割合(ここでは28%)を切り替えさせればDSKは普及する。
原子力でも、コストと安全性の面で最も優れた技術を探すことよりも、信頼性と迅速性が実証ずみの技術を選ぶことが優先された。
軽水炉はそもそも暫定的な技術として選ばれが、先頭でスタートを切ったためにみるみるノウハウを蓄積し、他の原子力技術は追いつく機会を失った。
ゲーム理路から得られる見識は、早い段階で将来の状況を認識せよと言うこと。
いったん1つの選択肢が動き出してしまうと、他のもっとすぐれた選択肢が発展している道が閉ざされかねない。
どの技術が今日の状況で有用であるかという点だけでなく、将来的にどの選択肢がベストであるかを初期段階にじっくり検討することは非常に有益。
■4.スピード違反
誰も法律を守らないのであれば、自分も守らないほうがよい。

①車の流れと同じスピードで自分も走った方が、安全性が高い。
②車の流れと同じスピードで走っている限り捕まる可能性は低い。
皆が法定速度を守る⇒2つの理由が消える⇒自分も守る方がいい。
ある人の決断が他の人に影響を与えるという法則が、ここでも当てはまる。
厳しい処罰を伴った厳重な取り締まりを短期間に集中的に行い、全員が制限速度を守る状況を生み出すきっかけをつくるのに必要な割合のドライバーに速度を守らせる。
⇒均衡点は、1つの端(全員がスピード違反をする)からもう一方の端(全員が遵守する)へ動く。
⇒(新しい均衡点に移った後は)警察が取り締まりを緩めても、人々は速度を守り続ける。
米国で燃費の悪い大型車が選ばれるのは、高燃費車は車体が軽く、事故に巻き込まれた時に安全性が乏しいと心配する人が多いから。
政府が燃費基準を強化⇒ドライバーが協調的な行動を取るよう背中を押せる
⇒十分な数のドライバーが高燃費車に買いかえれば、ほぼすべてのドライバーが高燃費車に乗る時代に。
燃費改善のために必要なのは、新しいテクノロジーを開発すること以上に、ドライバーに協調的な行動を取らせるための仕組みづくりなのかもしれない。
■  ■5.住み分けの理由
現在の地域住民の人種構成比と新たに転入してくる住民の人種構成比が等しくなるときに、均衡が得られる。
その均衡点は3つしかない。
①地域住民がすべて白人になる場合、②すべて黒人になる場合、③両者が混ざりある場合。
実現しやすいのは、全員黒人もしくは全員白人のいずれかの均衡に向かうのが力学上の必然。
③の場合は、構成比がたまたま崩れれば、①か②に向かうことになる。
問題の原因は、1プレーヤーの行動が他者に影響を及ぼすことにある。
シカゴ郊外のオーク・パーク:
①「売家」の掲示を前庭に出すことの禁止
⇒売り家希望が殺到するパニックを回避。
②人種構成比が変化して不動産価値が減少した場合に、その差額を当局が埋め合わせることを保証。
⇒売り急ぎを回避。
■  ■6.孤独なトップの座
新しい基準が提案されるたびに、誰かがランクの引き上げを主張した。
①自分のランクが新しい基準を満たしている者⇒自分の地位が危うくなる恐れがないので共同経営者の質を高める案に賛成
②ランクが基準にもとより及ばない者⇒共同経営者になれないという自分の不首尾のインパクトを薄めるために基準引き上げ案に賛成
反対したのは、基準が引き上げられることにより、共同経営者になるチャンスを失う1人だけ。
⇒提案は毎回9対1の多数で可決された。

一連の投票の結果、全員が昇進するより悪いと皆が思っている状況、すなわち誰も昇進しないという昔と同じ状況に戻ってしまった。
教訓①:行動が少しづつ行われる場合、各時点で選択される行動が大多数のプレーヤーにとって好ましく見えるものであっても、最後に到達する状況(全員が昇進しない)が、全員にとって最初の状況(全員が昇進する)より悪いものになる可能性がある。

「好ましさの程度」を投票に反映させられない。
教訓②:どうせ失敗するなら、難しいことで失敗したほうがましだということ。
ex.エベレストに挑戦、ハーバードに挑戦、一番人気のある学生にデートを申し込む
世の中には、自分の能力の限界を認めたくない人がいる。そういう人は、自分の能力を直視するのを避けるために、失敗する確率を高めるような行動を取ることもある、
ex.試験前にわざと勉強しない。
■  ■7.政治家とアップルサイダー
現職にとって最も良い方法は、ちょうど真ん中の位置を取ること。
この場合、挑戦者の取り得る最善の策は、現職のやり方をコピーすること。
現代の都市は不経済に巨大化し、経済の中心地で過密状態が生じている。メソジスト派と長老派の協会は区別が消失しているし、アップルサイダーの味はどれも似たり寄ったりだ。
政党が3つ存在する場合:
外延にいる政党は内側に食い込んで他党の支持層を削り取ろうとする。
支持層を浸食された政党は逆に外延に身を移して、残った大きな新天地をまとめて票田としてとる戦法にでる。
この過程は際限なく続き、均衡点が存在しない。
■  ■8.歯科医配置の処方
(ケーススタディー)
仮定:
収入だけを基準に開業場所を決める。
決定は利己的に行われ、自分の所得を最大化するように行動する。
ベイ・ブリッジが混雑したときに通勤時間が増えて得をする人は誰もいないが、
所得あるいは価格の変化という形で影響が現れるときは、生産者が損した分だけ購入者が利益を受け全体としては差し引きゼロとなる。
社会全体の利益を考えれば、歯科医は同業者の所得を減少させることを気にするべきではない。自分の所得が最も多くなるように行動してよい。1人ひとりの歯科医が利己的な判断に従って選択をしたときに、都市と地方の間で歯科医が適切に配分される。
歯科医師会は、患者のコスト節約より、都市の歯科医の所得減少を重く考える。
都市の歯科医の数を自由市場レベルより少なくできれば、歯科医の所得の合計は上昇する。
卒業後に地方で開業することを約束した学生の奨学金制度を作れば、歯科医全体の利益に適う。
◆10  ☆第10章 入札で成功する技・・オークション
ある商品が売りに出されて、それにいちばん高い値をつけた人が購入する資格を手にする。
グーグルやヤフーは、検索結果表示画面に載せる広告スペースをオークションにかけて100億ドルを軽く越す収入を得ている。
①共通するのは、1人の売り手に対して大勢の買い手がいるという構図。
購入希望者はその品物を手にするために競い合い、最も高い値をつけた人が勝つ。
②買い手が売り手を選ぶために行うオークション:
勝つのはいちばん安い価格をつけた参加者。
ex.公共事業の入札「調達オークション」
調達オークションの場合、常に安い方がいいとは限らない。
⇒品質基準を設ける
but理屈で考えるほどうまくいかない。(最低基準より高いレベルの品物やサービスを提供しても報われない場合がほとんど。)
戦略:
①早い段階から参加すべきか、競りの終盤になってから参加すべきか
②ある品物に100ドルの値打ちがあると考えている場合、最高で何ドルまで値をつけていいのか
③高く払い過ぎたと後悔する事態に陥らないためには、どういう点に気をつければいいのか
④そもそもオークションに参加すべきか否か
  ■1.イングリッシュ・オークションとジャパニーズ・オークション
●イングリッシュ・オークション
イングリッシュ・オークション(競り上げ型オークション):
オークショニアーが参加者の前に立って、だんだん競り値を引き上げていく。
最善の戦略:
自分がその品物に払ってもいいと思う金額まで競りを続け、その金額を超えたところで競りから降りる。
いくらまで払っていいかは、その品物がライバルの手に渡らないようにすることのメリットや、オークションに勝つことの喜び、入手した品物を転売する場合に期待できる利益なども関係する。
ある品物にオークション参加者が見出す価値:
「私的価値」:ほかの人がその品物にどの程度値打ちがあると考えているかとは関係ない。
「共通価値」:どのオークション参加者にとっても等しい(その程度は異なる場合がある。)
オークションに新しい人が参加するか、誰かが競りを降りたかもわからない。
わかるのは、その人物が直近に提示した金額だけ。l
前回競り値を呈示してから沈黙していても、しばらしくてまた手を上げないという保障はない。
⇒情報がわからない。
●ジャパニーズ・オークション
ジャパニーズオークション:
イングリッシュ・オークションの変形版で、もっと透明性が高い:
1単位づつ競り値が引き上げられていき、手を下さない限り、その人は競りに参加し続けていることになる。
現在のオークション参加者が常にはっきりわかり、それぞれの参加者がどの金額で降りたかが明確になる。
その品物を最も高く評価していた人がオークションの勝者となり、勝者が支払う金額は、2番目に高く評価していた人物の評価額
■  ■2.ヴィックレー・オークション
ヴィックレー・オークション:
すべての参加者が入札価格を紙に記し、封印した封筒に入れて提出。
封筒を開封し最も高い価格を記していた人が落札者となる。
勝者が支払うのは、2番目に高い価格を記した人の入札価格。
全ての参加者が絶対優位の戦略をもっている。
自分の評価額どおりに、小細工なしで入札すればいい。
「絶対優位の戦略」:
ほかのプレーヤーがどのような行動を取るかに関係なく、自分にとって常に最良の選択である戦略のこと。
⇒ほかのプレーヤーのことを考える必要がいっさいない。
自分の評価は60ドル。
自分の評価額である60ドルでなく、それよりやすい50ドルを入札することにより結果がかわってくる唯一のケースは、不本意ながらオークションに負けてしまう場合。
自分の本当の評価額より安い値段で入札することは決して得策にならない。
■  ■3.ルールは違っても結果は同じ
ヴィックレー・オークションは、たった1つのステップで、イングリッシュ・オークションやジャパニーズ・オークションとほぼ同じ結果を実現できる。
■  ■4.買い手が支払う手数料
落札した人は、手数料を上乗せした金額を請求される。
この買い手の手数料は、実質的に売り手が支払っている。
買い手は手数料を請求されることを知っている⇒それを考慮に入れてオークションでの行動を決める。
600ドル支払ってよいと思っていたら、競り値の上限を500ドルに設定する。
(500ドルで落札すれば、手数料を含めて600ドルを支払わなくてはならない。)
■5.ネットオークション
eベイのネットオークションでは、「プロキシー(代理人)・ビッド」と呼ばれる方法が用いられる。
決めた金額まで、eベイが、かわりに競り上げを行う。
ヴィックレー・オークションとよく似た状況が生まれる。(2番目に高い値のプロキシー・ビッドとほぼ同じ金額(1ドルだけ上乗せした金額)を支払う。)
eベイではたいてい、同じような品物が複数同時に出品されている。
オークションにかけられている品物にどの程度の価値を認めるかは、その時点及び将来にどういう品物がオークションにかけられるかによって決まる。
(250ドルで買えそうなものがあるのに、別のものに300ドルを入札することはないはず。)
それを抜きにして価値を判断することはできない。
■  ■6.狙い撃ち
同種の商品が複数出品されることがないものとして考える。
ネットオークションでは、ぎりぎりまで待って土壇場で高値で入札する場合も少なくない。
「スナイピング(狙撃)」と呼ばれる。
(入札額を封筒に入れて提出するヴィックレー・オークションと異なり)ネットオークションでは、あなたの行動を手がかりに、オークション終了前にほかの参加者があなたの戦略を見抜く可能性がある。
⇒自分の行動を最後まで秘密にしておきたい。
ex.家具の専門業者がバウハウスの椅子に入札を行えば、ほかの参加者は当然、その椅子が本物のバウハウスの椅子であり、歴史的価値があると判断する。
⇒最後の最後まで入札を遅らせる
⇒ほかの参加者が行動を起こそうにも時間がない。
スナイピング戦略が用いられる最大の理由は、多くの参加者が品物の価値を知らないことにある。
スナイピングを行うのは、その品物にいくらまで払っていいかという厳密な判断をほかの参加者にさせないため。(手を抜いていいかげんな価格で入札しても勝ち目がないことをほかの参加者に気づかれないようにしたい。)
■  ■7.落札したときのことを考えて入札せよ
結果を思い描いて行動せよというのは、ゲーム理論の重要な考え方の1つ。
結婚を申し込むときは、相手がイエスという前提で申し込むべき。

ノーならそれでおしまい。何もしなくていい。
イエスなら、あなたはその相手と結婚しなければならない。
結婚やプロポーズをするときは、誰でも無意識に、相手の答えがイエスだという前提で振る舞う。
but交渉やオークションのときは、意識的に努めないと、そういう態度を取るのは難しい。
■  ■8.企業買収のプロポーズ
相手が企業売却に応じる⇒こちらが提示した金額より企業価値は低いということを意味する。
落札したつもりで逆算して行動を決めるというアプローチ。
■  ■9.封印入札方式のオークション
通常の封印入札方式によるオークション:
参加者全員が自分の入札額を書いた紙を封筒に入れて提出する。それをオークション主催者が開封し、いちばん高い金額を入札していた参加者が落札。
落札者が支払う金額は自分の入札額。
自分の本当の評価額をそのまま書いてはいけない。
←そんなことをすれば、よくて収支トントン、下手すれば損をする。
自分の評価額より安い金額を入札⇒利益を生み出せる可能性がでてくる。
常に自分が落札する前提で自分にとって最善の入札額を考えるべき。
オークションで入札金額を決めるときは、自分の入札額が最も高いという前提で、自分にとって最善の金額を考えるべき。
■  ■10.ダッチ・オークション
オランダの花市場のオークション:
競り値が上がっていくのではなく下がっていく。
最初にストップさせた人が落札者。
支払う金がうは停止した時点での額。
(ジャパニーズ・オークションとは反対)
入札価格を変更しないよう代理人に厳命すべき。
←入札を遅らせれば遅らせるほど、品物を落札できないリスクが大きくなる。

とるべき行動は、封印入札オークションと似ている。
では、実際にいくらで入札すればいいのか?
収入等価定理:
オークション参加者がお互いの本当の評価額を知らない場合、売り主としてはどのオークション形式を選ぼうと、平均すれば同じ金額を手にする。

最良の戦略は、ヴィックレー・オークションやイングリッシュ・オークションで勝者が支払うのと同じ金額。
自分がその品物を最も高く評価しているという前提に立って、自分の次に高い評価をする人の評価額を予想して、その金額を入札すべき。
どのオークションであろうと、あるいは、落札者が支払う金額(売り手が受け取る金額)についてどのようなルールが定められようと、オークションの参加者はそのルールを無効にするように行動する。
ex.「落札者っは入札額の2乗の金額を支払う」というルール⇒参加者はそれに応じて入札額を引き下げる。
落札者自身の入札額を支払う⇒自分自身の本当の評価額をそのまま入札するのをやめる。自分の次に高い金額を入札する参加社の評価額を推測し、そこまで入札額を引き下げる。
■  ■11.アメリカ国債
旧制度:落札者が自分の入札した利率で利息を受け取る。
新制度:落札者はすべて、最高落札利率で利息の支払いを受ける。
一見新制度は政府に不利。
but
オークションのルールが変われば参加者のルールも変わる。
作用はすべて反作用を伴う
⇒ルール変更という作用の効果は、入札者の反作用により相殺される。
自分の評価通りの利率で入札すれば良くなった。
財務省は損をせず、入札者は手間が省ける。
■  ■12.先取りゲーム
アップルのアイデアはすばらしかった。しかし、機が熟していなかった。
慎重に時期を待てばチャンスを逃しかねない。
早まり過ぎれば、失敗する危険がある。
アップルもUSAトゥデーも先取りゲームをプレーしていた。
機先を制して行動して成功を収めれば、市場を支配するチャンスがある。
問題は、いつ行動するか。
早く動き過ぎれば失敗する。
待ち過ぎれば、相手に先を越されてしまう。
先取りゲームは銃を用いた決闘に似ている。
銃を用いた決闘:
自分が10秒後まで待つつもり。相手は8秒後まで待つつもり。
⇒相手は9.99秒後まで撃つのを遅らせるべき。
10秒後まで待つというのは、相手に先に撃たせてはずすのを期待する。
~自分が先に撃つ場合と同等の勝率を期待できなければならない。
撃つべきタイミングは:
「自分が撃って成功する確率」=「相手が撃って失敗する確率」となった時。
=自分の成功率+相手の成功率=100%になった瞬間。
■  ■13.消耗戦ゲーム
「先取りゲーム」の対極にあるのが「消耗戦ゲーム」
「消耗戦ゲーム」~どちらが長く持ちこたえるかという勝負。
長い時間(=高い金額)を「入札」したほうが勝者になるが、普通のオークションと違うのは、参加者の双方が「入札額」の支払いを求められること。
BSBとマードック:
コンテンツ取得競争⇒費用高騰
CMの獲得競争⇒CM料金の相場低下
我慢比べに勝てば、巨大な市場の利益を独り占めできる。
いま撤退したところで、すでに行った投資は返ってこない。
唯一の問題は、戦いに勝ったときの利益を考えた場合、これ以上のコストを負担することが理にかなうのかどうかだった。
踏みとどまる時間が長い方が勝つ。
相手の行動は、その人物があなたの行動をどう読むかによって決まる。
最善の行動は、相手と取引すること
マードックは、1990年、BSBを吸収合併して、新会社BスカイBとして一本化。
■  ■14.周波数オーディション
オークション参加者が複数地域の免許のオークションに同時に参加できる。
同時オークション:
すべてのオークションについてすべての入札者が競り値の引き上げを見送った時点で終了する。
落札した場合に入札額どおりの金額を支払う形式のオークションの場合、自分の評価額どおりに入札することはあまりメリットがない。
~10ドル紙幣を落札するために10ドルを入札するようなもの。
評価:
A:NY10 LA9
B:NY9  LA8
教訓:
2つのゲームを一体のものとみなせる場合は、両方のゲームを視野に入れた戦略を採用するチャンスがある。
相互に関連のある複数のゲームが同時にプレーされる場合には、1つのゲームを単独でプレーする時とは異なる方法で相手に制裁を加えたり、あからさまな談合をせずに相手と協調したりするチャンスが生まれる。

いまプレーしているゲームが気に入らなければ、それをもっと大きなゲームの一部としてとらえられないか検討する。
ex.
富士フィルムがアメリカ市場に参入したときに、コダックには2つの選択肢があった。
アメリカ市場で対抗策をとるか、日本市場で対抗策をとるか。
アメリカ市場で値引き競争⇒コダックに打撃
日本市場で値引き競争⇒富士フィルムに打撃。
◆11  ☆第11章 武器としての瀬戸際戦略・・・交渉
労使交渉
ポイント:
①合意に達することは可能なのか
②話し合いで決着がつくのか
③ストを経て初めて決着がつくのか
④どちらがいつ譲るのか
⑤各当事者がどの程度のパイを確保できるのか
シーズンは101日
ホテルを1日営業すると1000ドルの利益
シーズンの始めに労使交渉。交渉が妥結してホテルをオープン。
最終日の前日:
経営者はどんな少額の配分でもゼロよりましなので受け入れる⇒組合はほぼ1000ドルを手にできる。
最終要求日の前日:
経営側は、組合にはその提示を拒否して妥結を翌日に持ち込み、1000ドルを得るという手段があることを知っている⇒1000ドル未満の提示はできない。
but組合が翌日に持ち込んでも、1000ドルを上回る利益は手にできない。
⇒それ以上の金額を提示す売る必要はない。
⇒経営側は、2日間の営業に伴う2000ドルの利益のうち1000ドルを組合に提示し、自分たちも1000ドル取るよう提案。
もう1日前に戻る:
組合は経営陣に1000ドルを提示し、自ら2000ドルを得るように提案する。
組合側は常に有利な立場にある。
←最後に全額とれる立場にある。
この有利さはシーズンの前半にさかのぼるほど小さくなる。
本来、交渉は初日に妥結するはず。
両者とも先読みを行い同じ落ち着き先を予測すれば、妥結を先延ばしして1日当たり計1000ドルも失う必要はない
but
実際には、ストやロックアウトが起こったり、一方に大幅に有利な形で交渉が決着するケースがある。
■1.交渉でのハンディキャップ制度
パイの配分を決める重要な要素の1つは、先延ばしになることによる損失(待ちのコスト)
but
両者が同じだけの利益を失う場合でも、一方が損失の一部を穴埋めできる方法を持っているケースがある。
組合のメンバーは他でのアルバイトで1日に300ドル稼げる⇒組合が翌日に得られる金額だけでなく、当日に得られる300ドルを追加して提示する必要。

組合はメンバーが他で稼げる金額である300ドルからスタートする。残りの700ドルが交渉の対象となり、等分の法則により350ドルずつ配分⇒組合は650ドル、経営は350ドルを得る。

逆に経営者が有利に立てる場合:
臨時のアルバイトを雇ってホテルを営業できる場合。
その場合1日500ドルの利益。

残りの500ドルを半分づつ配分。

経営者は750ドル
組合側は250ドル
を獲得。

組合員がホテル以外で300ドル

残りの200ドルを半分づつ配分

経営者は600ドル
組合は400ドル
一般的にいえば、合意に至らなかった場合に他で得られる収入が多いほど、パイの配分が大きくなる
■2.パイの大きさを把握する
「パイの大きさ」:
両者が合意することによって、合意しない場合より増える価値。
交渉がまとまらなくても労働側は1日に300ドル、経営側は500ドルを確保⇒交渉がまとまった場合にはじめて手に入る金額は労使合わせて200ドル。
交渉がまとまらなくても確保できる労働側300ドル、経営側500ドルのことを「BATNA(=Best Alternative to a Negotiated Agreement)」(交渉による合意に対する最善の代替案)という。
交渉を行う目的は、両者のBATNAの合計以上の価値を生みだすことにある。
交渉のパイを把握し、それを(公平に)分ける。
BATNAを増やしたり減らしたりする戦略を実践できる可能性もある。
■  ■3.相対的ダメージ
自分のBATNAが大きいほど交渉では有利になる。
重要なのは、自分のBATNAと相手のBATNAの比較。
自分と相手の双方のBATNAにダメージを与える行動でも、相手に与えるダメージの方が大きければ交渉に有利に働く。
組合:(アルバイトで)300ドル、経営者:(アルバイトを雇うことで)500ドル
組合員がピケを強化すれば、1日当たり100ドル放棄するかわりに、経営者の利益を200ドル減らせる⇒組合200ドル、経営者300ドルで、パイの500ドルを半分づつ分ける⇒組合450ドル、経営者は550ドルという配分。
野球の選手は、オーナー側が被る損失が選手側の損失に比べて大きい時期にストをする。
■4.瀬戸際作戦とスト
交渉では待ちのコストが小さい方が有利
⇒双方とも自分の待ちのコストを小さく見せたい。
待ちのコストが小さいことを証明するためには、どうすればいいか?
実際にコストを発生させてそれに長く耐えられるところを示すか、コストを発生させる恐れのあるリスクを取って見せる。
交渉の結末について両者の見通しが異なるとき、ストが起きる。
瀬戸際戦略~交渉決裂による被害の小さいほうにとって武器となる戦略。
契約が切れてもストに入らず、従来の契約条件のまま業務を続けながら交渉
⇒経営側にとっては、交渉を空回りさせておいたほうが得。
ストになる可能性があるからこそ、経営側は脅威を感じる。
⇒組合はストの可能性を排除しないことにより、経営側を妥協に向かわせる環境を作るべき。
瀬戸際作戦

対立が長引くにつれて損失が発生する確率が確実に増加していく。
この確率の増加に耐えられなくなった側が譲歩をする。
ストは、大きい損失が小さい確率で発生するのではなく、小さな損失が大きい確率で発生する状況をつくりだす。
強い決意を示すためには、ストによる損失が膨らんでいくのを容認する必要がある。
相手のほうが強いとどちらかが理解したときに、弱い方が譲歩する。
瀬戸際作戦を用いると、交渉の性格がまったく変わってしまう。
瀬戸際作戦ではときどき実際に瀬戸際を越えてしまい、決裂やストが起きる可能性を排除できない。いったんそうなると、はずみがついて簡単には終わらない。
■  ■5.複数事項の同時交渉
労使間の交渉事項は賃金だけではなく、健康保険、年金、労働環境等多岐に及ぶ。
両者が認める価値の違いから換算後の金額に大きな差が生じる場合もある。
ex.労働者が個人で健康保険に加入すると1人2000ドルの保険料
会社がまとめて団体健康保険制度をつくれば1人当たり1000ドルで済む
⇒組合にとっては賃金の1500ドルアップより団体健康保険の創設が望ましい
会社にとっても賃金の1500ドルアップより団体健康保険のほうがよい。
すべての交渉事項を同じ土俵に上げ、相対的な価値の差を見つけ出して、皆にとってよりよい決着を図るべき。
WTOは、幅広い品目をテーブルに載せることで、個別品目ごとの交渉より大きな成果を上げている。
複数の争点をまとめて議論する場合、1つの交渉のゲームを利用して、別のゲームで相手に脅しを与えることが可能になる。
米国が日本との市場開放の交渉で、軍事的な関係も含めて交渉を行い、北朝鮮や中国の脅威をちらつかせれば、日本の譲歩を引き出しやすい。日本側は、経済問題と軍事問題を別々に交渉することを主張。
■6.バーチャル・ストライキ
交渉が決裂すれば、当事者以外に影響が及ぶ場合がある。
しかし、交渉当事者は、自分のBATNAの大きさをアピールし、相手から譲歩を引き出すために、しばしば交渉を打ち切ってしまう。
ストにより第三者に及ぶとばっちりが労使の争っている金額を軽く上回る場合も珍しくない。
ストやロックアウトによる第三者の損失をほぼなくし、しかもストやロックアウトを行う場合そのままの両者の交渉上の力関係をあぶり出して、同じ結果を生み出す賢明な方法。
=バーチャル・ストライキ(バーチャル・ロックアウト)
バーチャル・ストライキ
従業員は無給で働き、会社は利益を放棄する。労使の放棄する報酬は、国庫に納めてもいいし、慈善団体などに寄付してもいい。商品やサービスを無料にしてもいい。

当事者以外にとばっちりは及ばない。
労働組合と経営者は痛みをこうむるので合意に達したいと考えるが、政府や慈善団体や顧客は得をする。
ファン離れを招いたNHLのロックアウトととは対照的に、バーチャル・ストライキはブランドの評判を高める役に立った。
労働者は無給で働く
←経営者側に痛みを与えると同時に、自分たちにとって「待つ」コストが大きくないことをアピールする。
バーチャル・ストライキの間、労働者は普段より一層一生懸命働く。
←その期間の売上が増えれば増えるほど、経営者の痛みを大きくできる。
■  ■7.ケーススタディー:もらうよりやるほうがよい
毎日1回だけ経営者が条件提示を行い、組合側が受け入れるか拒否するかを決める。
組合側が提示を受け入れるか、シーズンが終わるまで、交渉は続く。
経営側のとるべき行動は、組合側が給与ゼロよりまだましとして受け入れる最低水準を見定めて、その額を提示すること。
たとえば、最後の段階で組合側が組合=200ドル、経営=800ドルという配分を何もないよりはましと受け入れるのであれば、経営側はこの1対4という比率を101日間にわたって固定し、全体利益の3分の2を得ればいい。
先読み推量をすることによって、半々でない配分がなぜ起こるかが説明できる。
とくに、一方が提示を行う場合には、提示は「もらうよりやるほうがよい」ことがわかる。
1回きりのゲームと繰り返し型のゲームは違う。
「受けるか拒むか」型のゲームを繰り返す場合、被提案者は、最初にあえて強気な態度を見せつけることを通じて、自分が先読み推量による合理的な判断をくだすわけではない(あるいは、半分ずつに分割すべきだと信じて疑わない)のだと提案者に思わせることに成功すれば、有利な提案を引き出せるかもしれない。
ゲームは2日間。
最初に67対33の分割を提案し、相手が突っぱねた。
最初にイエスといっておけば、相手は330×2=660ドル>500ドルを受け取れる。
相手にとっては、思惑どおりにことが運んでも、最初の提案を受け入れるより結果が悪い相手が提案を拒んだのははったりではない可能性がある⇒最終ラウンドで50対50を提案した方がいいかもしれない。
◆12  ☆第12章 どういう投票行動が得策か・・選挙
個々人の選好を全体の選好に誤謬なく総計する方法など存在しない。
候補者が2人⇒自分が好きな候補者に投票すればいい。
候補者が3人以上⇒
①自分が本当に好ましいと思う候補者に投票すべきか、
②戦略的に行動して、勝ち目のありそうな2番目、3番目に好ましい候補者に投票すべきか?
2000年米国大統領選で、ブッシュ、ゴア(リベラル派)、ネーダーが出馬。
消費者活動家のネーダーの出馬で票が割れ、勝利はブッシュの手に渡った。
2002年フランス大統領選。
シラクとジョスパンが1位と2位になって決選投票になると考えた⇒左派の多くは第1回投票では好みの左派系弱小候補に投票⇒ジョスパンがルペン(極右)に敗れる
⇒決選投票で左派の有権者は、最も嫌いなルペンの当選を阻止するため、大嫌いな保守のシラクに投票する羽目になった。
自分の投票が結果を左右しない⇒自分が好きな候補者に投票すればいい。
自分の票が均衡を破る決定票になる場合⇒戦略的に行動すべし。
米国の場合、多数の候補者が出馬する予備選。
A:有権者としては、勝ち目のない候補者に貴重な票(と政治献金)を無駄にしたくない
⇒勝ち馬に乗りたいという心理⇒世論調査の結果やメディアの情勢分析で有力とされた候補者に票が集まる場合。
B:逆の現象が起きる場合:
ある候補者が有力という印象⇒その候補者を比較的ましだと思っている有権者はわざわざ自分が票を入れるまでもないと判断⇒自分の本来いちばん好きな泡沫候補に投票する可能性⇒「まし」な候補者に票が集まらない。
■  ■1.単純投票
フランスでは、すべての候補者が参加して投票を行い、過半数の票を得た候補者がいない場合は、得票数の上位2人で決選投票を行って当選者を決める。
ベストな候補者が勝てない⇒第1回投票でましな候補者に投票という戦略的行動。
■  ■2.コンドルセの方法
コンドルセの提案:
全ての候補者が1対1で対戦する総当り方式の投票。
その中で、反対票が最も少ない候補者が勝つ。
修正:
投票は1度。有権者は候補者に順位をつけて投票する。
エール大学経営大学院の「年間最優秀教員賞」の受賞者を決める投票でコンドルセ方式を用いている。
■  ■3.法廷での順番
米国の刑事司法:
①被告人はまず無罪か有罪かを決める。
②量刑は、被告人が有罪を宣告された後に初めて決められる。
大きな違いは、何を最初に決めるか
現行式では、最初の多数決で無罪か有罪かを決める。
先読み推量を行い、有罪になれば、2対1の多数決で死刑になると予測。
~最初の決定は、無罪か死刑かを決めるのと同じ。
⇒死刑に反対の判示Bは無罪を選択し、2対1で無罪へ。
罪刑決定方式:
①初めに、罪に対する量刑を決定する。
②その上で、被告人が有罪にされるべきかどうか判断する。
あらかじめ定められた刑が終身刑⇒ABの賛成で被告人は有罪。
あらかじめ定められた形が死刑⇒B(死刑反対)Cの反対で被告人は無罪。
■  ■4.中間層への投票
候補者も自分の取る立場を戦略的に決めている。
全投票平均値の位置の候補者が選挙に勝つ⇒当然、候補者は有識者の平均に自分を近づける。
候補者の位置は、それぞれの方向に動く投票者の相対的な人数によって決まる。
人々は方向については本当のことを言うが、強さについては大げさに言いたいと考える。(交渉で「両者の間を取る」とうい解決策が取られる場合に、どちらの側も初めはふっかけて極端な立場から交渉を始めるのと同じこと。)
平均のかわりに中央値をとる。
中央値:候補者をリベラルの方向に動かそうと思う投票者と、保守の方向に動かそうと思う投票者が同じ数だけいる位置のこと。

平均値と違い、中央値の位置は投票者の好みの強さに影響を受けない。
(好みの方向だけが問題となる。)
候補者は、左端の0から出発し、過半数の投票者が右への移動を指示する限り右へ動き続ければよい。
(中央値の位置まで来ると、そこを越えてさらに右に動かそうとする投票者と、逆に左に動かしたいと思う投票者の数がまったく同数になる。)
■  ■5.アメリカ合衆国憲法の知恵
選択基準が1つ⇒選挙の候補者の立場は、0~100の目盛がついた直線上の点とみなせる。
選択基準が2つ⇒2次元平面上の点。
選択基準が3つ⇒3次元の空間における1点。
すべての凸集合の中で現職に最も不利なのが三角形とその多面体。(凸集合とは、2つの点とそれを結ぶ線が含まれる集合のこと。)
すべての凸集合において、現職がその重心の点にたてば・・・最低でも36%あまりの票を確保できる⇒現職を失職させるために必要とされる票が全体の64%と定められているときは、すべての有権者の平均的な立場に立てば現職は議席を守り通せる。
投票数の3分の2以上、つまり67%以上の賛成がなければ憲法の規定を変更できない
⇒有権者の平均的な考え方と一致する規定(有権者の分布の重心に位置する規定)は揺るがない。
憲法改正の手続きとして理想的なのは、人々の考え方の変化を反映できる柔軟性を確保しつつ、柔軟すぎて不安定にならない制度。
単純過半数ルール⇒柔軟だが不安定になりすぎる。
全会一致ルール⇒不安定にならないが、現状を変更することが限りなく不可能になる。
3分の2ルール⇒目的を達成できる。
■  ■6.偉人たちの肖像
投票できる人数に限りがある⇒投票者は候補者の功績だけでなく候補者の当選可能性も考えてしまう。
(ある候補者が殿堂入りにふさわしいと思うかもしれないが、同時にその候補者が選ばれそうになれば票を入れるのをためらうだろう。)
賛成型投票:気にいっている候補者全員に投票でき、投票できる候補者数は限られていない。⇒勝ち目のなさそうな候補者に投票しても表の無駄遣いになる心配はない。
but自分の選好を歪曲して表現することが得策になる場面。
合計得票数の上位2人が当選する。1位はディマジオが確実視⇒ディマジオは選ばれるに決まっているから、2票とも次に応援する選手に入れる⇒皆がそう考えるとディマジオが選ばれなくなる可能性。
■7.汝の敵を愛せよ
最初に行動することにより、次順位のところにまで寄付金が回せることがおうおうにしてある。(相手が最優先する団体には自分は拠出しない。相手に拠出させる。)
規模の小さな財団がこの戦略をとると、規模の大きな財団や政府が最も優先順位の高い団体や事業に助成金を拠出する役回りを押し付けられる。
他人が後で助けてくれそうなときは、自分の本来の優先順位どおりに行動しないほうが得策の場合がある。自分の望んでいるものを危険な状態においても誰かがコストを払って救い出してくれるときは、あえて危険を取るのがいいのかもしれない。
マーシャル奨学金は、ローズ奨学金の受給者が決まるまで待って、自分の基金の受給者を最終的に決める。
■8.ケーススタディー:同数の投票
アメリカ合衆国憲法が、副大統領の職務について記している規定は1つだけ
「合衆国副大統領は上院議長の職に就くが、採決が同数の場合を除いて投票権を持たない」(1条3項の4)
誰かの一票が結果に影響を与えるのは、その票により、賛否が同数となるか同数が破られるときだけ。
but副大統領が決選投票を投じるのは、意見の割れている重要な問題である場合がほとんど。
◆13  ☆第13章 仕事の動機づけ戦略 誘因(インセンティブ)
社会主義経済の失敗は、労働者に十分な誘因(インセンティブ)がなかったから。
良い仕事をしてもそれに見合った報酬を受け取れる制度がないこと。
市場経済には、もっとすぐれた自然のインセンティブ制度がある。
=利益追求という動機づけ。
but
会社の労働者は、市場の荒波に晒されているわけではない。
⇒経営者は会社内に動機付けの仕組みを設け、誰もがある程度の努力をするように工夫しなければならない。

2つの会社が共同でプロジェクト⇒両者にインセンティブが働くよう契約を結ぶ必要がある。
■  ■1.努力に対する報酬制度
学生の本の校正アルバイト:
著者には少しでもミスの少ない本にしたいというインセンティブ。
学生にはそこまでのインセンティブはない⇒学生に適切なインセンティブを与える必要。
情報の非対称性の問題:教授が情報量で不利な立場にある。
but
教授が知らない情報は学生の「意図」であって、学生の「資質」ではない。
保険に加入している人のほうごそうでない人よりも家の戸締りをおろそかにしがたい。
~保険業界は「モラルハザード」と呼んで忌み嫌う。
but
提示されたインセンティブに対して最も得をするように対応するのは人間の性質として当然のこと
仕事を怠けても許されるのであれば、サボるのが人情(経済学者とゲーム理論家)。

まじめに仕事をするよう後押しするインセンティブ制度をつくるしかない。
①学生の校正アルバイトに一定の金額の報酬を支払うvs.「誘因両立制約」に反する。
②見つけた誤植の数に完全に準拠して支払う。vs.「参加制約」に反する。

適切な支払い方法はこの中間。
①定額支払いと②出来高払いの二本立てにする

学生はある程度の金額の支払が約束される⇒安心して仕事を引き受けられる。
まじめに校正刷りに目を通そうと考えるだけのインセンティブもつくりだせる。
報酬の一部をプロジェクトの成果や会社の業績に連動させる方法。
会社の株式やストックオプション(自社株購入権)の支給形ととってもいい。
どのような仕組みにも悪用される可能性はあるが、インセンティブ制度が有用なものであることは間違いない。
■  ■2.インセンティブ契約のつくり方
モラルハザードの本質:報酬を支払う側が働き手の努力の程度を測定できないことにある。
仕事の成果や会社の業績など、数字で評価できる要素を基準に支払うしかない。
働き手の「目に見えない努力」と「目に見える成果」との間に完全な1対1の対応関係があれば、この方法で働き手の努力を正確に評価して、報酬に反映できる。
but実際はそう単純ではない。
プロジェクトの成果や会社の業績はさまざまな偶然の要因に左右される。
⇒目に見える成果は、目に見えない努力を図るうえで完璧な基準ではない。

ある程度の関連性がある⇒成果を基準にしたインセンティブ制度に努力をうながす効果があることは確かだが、成果を基準に報酬を決めると、運がいい人が得をして、運が悪い人が損をする。

運に左右される面が大きい⇒努力と報酬の関連性が弱くなり、インセンティブの効果が小さくなってしまう。
偶然の要素が小さい⇒強力なインセンティブ制度が効果を発揮する。
■  ■3.成果比例型でないインセンティブ制度
①成果比例型インセンティブ:成果に純粋比例して報酬

状況の変化に柔軟に対応できるし、悪用されにくい。
but
重要な節目に到達しても特別に評価してやれない。
②非成果比例型インセンティブ:成果が一定の基準を突破した場合にボーナスを支払う。
無理のないレベルに設定⇒まじめに働けば基準を突破できる可能性が高い⇒営業部員はセールスに励む。
基準を厳しく⇒達成不能なら営業部門は努力することをやめてしまう。
早々を達成⇒手を抜きたいと思う。
①②を組み合わせ

営業部門には、売上の一定割合をの報酬を支払い、そのうえで一定の基準を突破した場合に追加のボーナスも支払う方式を採用。
成果の達成目標を複数段階設けて、2段階目の基準を達成した場合にさらにボーナスを支払うケースも多い(2段目のボーナスの金額は最初の基準を達成した場合の1.5倍なり2倍なりに設定してもいい)。
■  ■4.アメとムチ
インセンティブ制度をつくるうえで常に念頭におくべき要素は2つある。
①その制度のもとで働き手が得る報酬の平均的な水準
②成果の良し悪しによる報酬のばらつきの幅
報酬の幅が大きい⇒働き手の努力を促すインセンティブが強くなる
報酬の平均的水準が低すぎる⇒仕事を引き受けようとしなくなる
報酬の幅が同じ場合:
報酬の平均が低い制度⇒成績の悪い人を罰するいわばムチ型の制度。
報酬の平均が高い制度⇒成績のいい人にご褒美を与えるアメ型の制度。
報酬の平均をどの程度に設定すべきかは、参加制約によって決まる。
その人がほかの仕事をした場合にいくら儲けられるかが基準となる。
雇主としては働き手への支払をなるべく少なくして、自分の取り分を多くしたい⇒ほかに有利な選択肢のない人を雇おうとする⇒butそういう人は技能が低い可能性がある。
米国の大企業の経営者:
会社の業績がいい⇒巨額の報酬を受け取る
業績がまずまず⇒それほど報酬の金額はへらさない
業績が本当に悪い⇒莫大な「離職手当て」を受け取って会社を去る
アメリカの大企業の経営者は、経営者に支払われる平均的な報酬は、この種の職に就くために最低限納得できるレベルをはるかに超えている。
←企業間で人材の争奪戦が起きているから。(有能な人材に経営を任せたい企業は、高い報酬を提示せざるををえない。)
  ■5.インセンティブ制度のさまざまな側面
実際には、多数の仕事と多数の働き手が関わり、結果が完全にわかるまでに多くの時間がかかるのが普通。
インセンティブ制度を設計するうえでは、関連するあらゆる要素を念頭に入れなければならない。
●①将来のキャリア:
働き手は当座の金銭的報酬だけでなく、将来の昇進と昇給を期待して仕事に精をだすケースもある。
~その会社で働く未来が長い人ほど強く作用する。
インセンティブとして最も強く機能するのは、中・下級レベルのポストに就いている若い人。
大学の講師は、准教授、教授へと昇進し終身在職権を手にしたいと思う⇒熱心に研究や教育に取り組む。
その世界で生きている人間は誰でも、もっと大きな長期のゲームが存在することを知っている。
●②関係の継続性:
同種の仕事を何度も繰り返す場合は、全体を平均して考えれば偶然の要素の影響が弱まり、結果が努力の程度を反映しやすくなる。
⇒成果を基準にしたインセンティブ制度の効力も強まる。
●③効率賃金:
過酷な仕事をすることによる精神的・肉体的コストは、年間8000ドル程度。

会社にとって必要なことの1つは、欲しい人材に就職を決意させるために十分な金額の給料を支払うこと。
神経を使わずにできる仕事をして年4万ドルもらえる職場が別にある⇒それを上回る給料を支払わなければ、優秀な人材は入社してくれない。

「よその会社よりいくらか多く給料を支払います。ただし、仕事をさぼったことが明るみにでれば、上乗せ分は支払いません。しかも、即刻解雇し、あなたの取った行動を知らせます。すると、年間4万ドル以上の給料を支払う会社はもうないでしょう。」
いくら給料を支払えば、社員は職を失わないためにまじめに働くのか?
少なくとも4万8000ドル以上でなければ、サボるつもりのない人は入社してこない。
問題は、そこにどれだけ上乗せするか?
その上乗せ金額=Xドル
効率賃金仮説:
金利10%。毎年Xドルずつ失うリスクが25%。
8000ドル<0.25×10Xドルなら、社員はさぼらない。
X>3200ドル
実際には車が故障がないのに、整備士が修理料金1000ドルの故障をでっち上げ。
⇒金利が10%だと、毎年100ドルの儲けが入ってくる。
インチキがばれて関係を打ち切られる危険が25%。
⇒関係を続けることにより毎年400ドル以上の利益が入ってくると期待できれば、正直に仕事をする。
●④複数の業務の関係:

会社の社員は複数の業務を行っている⇒それぞれの業務のインセンティブが相互に影響を及ぼし合うケースがある。

複数の業務が
「排他的関係」(ある業務に割くエネルギーを増やすと、別の業務の生産性が下がる関係)なのか、⇒一方の業務について強力なインセンティブを設ければ、もう一方の業務の足を引っ張る。

「補完的関係」(ある業務に割くエネルギーを増やすと、別の業務の生産性も上がる関係)なのか。⇒一方の業務に関して強力なインセンティブを設ければ、もう一方の業務の成果も後押しできる。
1人の社員や部署に複数の業務をまかせる場合は、なるべく互いに補完的関係にある業務を担当させるべき。
排他的関係にある業務は、別々の社員や部署に担当させる。
「補完的業務」をまとめて1つの組織にまかせ、
「排他的業務」
を切り離して別々の組織に担当させるべし。

1つの空港内の業務は1つの組織に担当させ、空港同士を競わせるのが正しい選択。
●⑤働き手同士の競争:
同じ環境で同時並行で働く。
⇒成果の違いを見れば、その人がほかの人たちと比べてどの程度努力したか、そしてどの程度のスキルをもっているかがわかりやすい。
ほかの働き手との成果の違いを基準にしたインセンティブ制度が効果的。
ex.
実際、一般的にファンドマネジャーの評価は、ほかのファンドマネジャーの運用成績との比較で判断されている。
2人の学生に校正刷りをチェックさせる(一部のページを両方にチェックさせる)。
複数の納入業者や下請け業者に仕事を発注⇒業者が競い合うことで品質の基準が上がる。
●⑥モチベーション:
実際には、仕事自体に情熱を燃やしたり、会社や組織の成功を望んで仕事に取り組んだりする社員もいる。
創造性や創意工夫が要求される職についている人もそういう側面が大きい。

やる気をかき立てるような仕事や世のため人のためになる仕事の場合は、物質的なインセンティブが比較的弱くても働き手がまじめに働く。
というより、この種の仕事では、金銭的なインセンティブを強めると、むしろやる気をそぎかねないことが心理学の研究によりわかっている。
←善行や達成感のためではなく、金のためにその仕事をしているような気持になってしまう。

失敗した場合に解雇や減俸などの制裁を課すことも逆効果になりかねない。
←挑戦しがいのある仕事や意義のある仕事に取り組むことの喜びが損なわれる恐れがある。
グループA:報酬なし
グループB:正解1問ごとに3セント
グループC:正解1問ごとに30セント
グループD:正解1問ごとに90セント
C,D>A>B


金がからんでくると、金がモチベーションの最大の要因になってしまうので、3セントという少額ではモチベーションが高まらない。

ある程度の額の金銭的報酬を提示するか、そうでなければ金銭的報酬はまったく提示しないかのどちらかにすべき。
(少しばかりの金額を提示することは逆効果。)
●⑦ピラミッド型の組織:
上司は自分自身の目標を達成してボーナスを受け取りたいと考えて、部下の仕事の質が悪くても合格にしてしまう可能性がある。
(自分が不利益を被る覚悟がなければ、上司は部下を厳しく査定できない。)

たいていインセンティブの効力を弱めるしかない。
そうしないかぎり、インチキをすることにより得られる利益を減らすことが難しい。
●  ●⑧複数の「ボス」:
複数の「ボス」の利害が一致しない場合や、真っ向から対立する場合が少なくない。
(それぞれの「ボス」はほかの「ボス」のインセンティブ制度の効力を弱めようとする可能性がある。)

全体的なインセンティブ効果は「ボス」の数に反比例する。
「誰も、2人の主人に仕えることはできない・・・あなたがたは、神と富とに使えることはできない」
■  ■6.ソフトウェアエンジニアの報酬
事業が成功すれば20万ドルの収入。失敗するとゼロ。
プログラマーが懸命の努力をすれば80%の確率で成功。
中程度の努力であれば成功確率は60%。
プログラマーには、成功すれば報酬が増え、失敗すれば少なくするようにする。
成功時の報酬と失敗時の報酬の差額は、懸命に努力することがプログラマー自身の得になるようなものでなくてはならない。
罰金・報酬システムや株式共有契約⇒プログラマーにとってギャンブルをすることと同等のリスクを伴う。⇒リスクをとることに対する報酬をもらわなければならない。
リスクが大きくなるほど、報酬も大きくする必要がある。
■  ■7.出版社と著者の攻防戦
前払い印税:本の売上に関係なく著者に支払われる報酬の最低保証。
数回に分けて支払う⇒著者にインセンティブを与えられる。
前払い印税⇒リスクを出版社に移転する。
出版社はどの本についても「大いに期待しています」と口では言うが、たくさん売れる見通しのない本の著者に多額の前払い印税を支払うことはしない。
著者と出版社の主張が対立する可能性があるのは、本の定価。
著者⇒売上金額を多くしたい。
出版者⇒利益を増やしたい⇒売上金額が最大になる価格より高く定価を設定したほうが得になる。(定価を少し高めに設定すれば、売り上げ部数は多少減るだろうが、売上金額はほとんど変わらない。部数が減ればコストが減る⇒出版社の利益は増える。)
◆14  ☆第14章 ケースタディー
■  ■1.となりの芝生は青い
賭けで勝つ人もいれば負ける人も必ずいる
⇒賭けに乗る前に、相手の立場からもその勝負を分析してみることが大事。
■  ■2.野外ライブのベストポジション
ほかの人達を行動を考慮せずに、自分の座る場所を選んではいけない。
ホッケーのパックがいまある場所に向けて突進するのではなく、パックが来そうな場所に先回りすべき。
■  ■3.赤と黒
今自分が勝っている⇒相手と同じ戦略をすれば、負けることはない。
ゲームによっては先手をとって行動することが常に特になるとは限らない。
こちらの作戦が明らかになると、相手に付け込まれてしまう場合もある⇒そういう時は後に行動する方が戦略上強い立場に立つ。
■  ■4.ポイズンピル
①取締役の改選時期をずらす規則⇒たとえ誰かが株の100%を取得しても、取締役全員を一度の替えることはできず、任期が切れた者を替えられるにすぎない。
5人の取締役はそれぞれ5年の任期があるが、改選の時期は1年ずつずれている。
②改選手続きの変更は取締役会での採決によってのみなされるとした。
提案者が自らの提案に賛成票を投じるところから始まり、時計回りに1人づつ投票。
取締役の過半数の賛成が必要(欠席者は反対とみなされる)⇒取締役5人中、最低3人が賛成する必要。
③取締役のメンバーや改選手続きを変えようという提案を行って採決に破れると、その人は取締役の地位と持株を剥奪され、その持株は残りの取締役に均等に配られる。
自分以外の2人に賛成票を投じるインセンティブを与える必要
提案:
①提案が全会一致で採択⇒取締役の総入れ替えを行い、各取締役には少額の退職金が支払われる。
②提案が4対1で採択⇒反対した1人は取締役の地位を失い、退職金の支払いもない。
③提案が3対2で採択⇒持分51%すべてを賛成に投じた2人に均等に与える。反対票を投じた2人は退職金なしで地位を失う。
逆戻り推量:
最後の人の投票する時2対2⇒
彼が賛成⇒25.5%を取得。
賛成せず⇒提案不成立⇒51%プラス12.25%の3分の1で、21.1%を取得。
⇒賛成に投じる。

4番目に投票する人
賛成票が3票⇒提案はすでに成立⇒賛成票
賛成票が2票⇒自分が反対票を入れても、最後の1人が賛成と予想できる⇒賛成
再選表が1票⇒賛成すれば、最後の人が賛成に回り、大きく得する。

最初の2人も、自分たちが反対票を入れても、残りの2人が賛成に回り、提案は成立すると予測できる⇒賛成
結局提案は全員一致で採択される。
■  ■5.乗っ取り屋の価格オファー
2段階オファー:
買収企業がターゲット企業の買収提示価格を時期により別々に設定する方法。
第2段階(90ドル)の価格は第1段階の提示価格(105ドル)より劣る。
2段階オファーに応募することが絶対優位の戦略。
3つに分けて考える
①2段階オファーへの応募が50%未満で買収が失敗に終わる場合
②2段階オファーへの応募が50%を超え、キャンボールの買収が成功する場合
③2段かオファーへの応募がちょうど50%で、自分が応募すれば買収が成功、応募しなければ失敗という場合。
■  ■6.もっと安全な決闘
自分が撃って成功する確率と相手が撃って失敗する確率がイコールになったときに撃とうとする。
拳銃の精度は関係ない。
■  ■7.三者決闘
ラリー:30% モー:80% カーリー:100%
小物がスターになるには、最初のチャンスを見送った方がよい場合もある。
ライバルが多数⇒トップを走っている者は、二番手以降から集中攻撃を受け、潰されることがある。

実力者が互いに潰しあうまで後方に控えておくほうが得。
■  ■8.落札のリスク
ヴィックレー・オークション:自分の次に高い金額を入札した人物の額を支払う。
価格が自分の評価額より安いときに必ず落札できる唯一の方法は、自分の評価額どおりに入札すること。
得をする程度が一定していなくても、得をするときは必ず落札できるように行動するのが最善の戦略。
■  ■9.祖国のために捧げる命
命令に疑問を持たないように訓練すれば、兵士は戦闘マシンになる。
1人1人の兵士に非合理的な行動をとらせることが、軍隊全体にとっては合理的な戦略。
シェークスピアの戯曲「ヘンリー五世」
「おお戦いの神よ
私の兵士から心を奪いたまえ。
彼らから恐れを失わせたまえ。
今すぐ取り払いたまえ、
彼らから考える力を」」
申出を断ることは、兵士たちにとって心理的に退路を断つことを意味した。
⇒兵士たちは暗黙のうちに、死を躊躇しないという契約をお互いに交わした。
「諸君は、私と一緒に命を賭けて戦ってくれるのか」と、逆に兵士たちに問いかけることにより、自分が兵士とともに命を賭けるのを当然のことと思っているという印象を作りだした。
こと人間の感情を深く理解するという点では、心理学者や、ましてや経済学者は偉大な文学者にかなわない。シェークスピアから学ぶ価値は十分にある。
■  ■10.必勝法があるのは誰だ
第1手で先手が作れない形を後手が作ることが不可能なゲーム
⇒必勝法が存在するとすれば、それは先手をとること。
■  ■11.本当の価格を隠すベール
「全て込み」の値段⇒消費者がよほど丹念に検討しないと、この業者の料金(全て込みの料金)が他社より高く見えてしまう。
企業は料金全体のごく一部しか宣伝せず、宣伝していない部分で高い料金を手にしている。
見えないところで利益を上げることを前提に、企業は見えやすい部分の価格を引き下げて、消費者を取り込もうと競い合う。
ex.
通話料で儲ける⇒携帯端末を格安価格で提供。
トナーで儲ける⇒プリンターを低価格で販売。
■  ■12.ソロモン王の裁き・再び
「本当のことを言いなさい」と2人の女性に命じるだけでは、真実を引き出せない。
女性たちが戦略的に振る舞えば、自分の利益のために情報を操作する。
それを防ぐには、女性たちに金やその他の何か大事なものをかけさせる。
本当の母親は偽の母親より子供に高い価値を認めている。
⇒より高い金額を出す方を決めるゲーム。
■  ■13.ベイブリッジⅡ
■  ■14.1ドルの値段
オークション主催者が1ドル紙幣をせりにかける。
せり値は5セント単位で上がり、最も高値を付けた者が1ドルを得て、最高値の人と2番目の高値の人が自分のつけた値をオークション主催者に払う。
相手の付け根が1.5ドル以下なら、こちらは2.4ドルの付け値で勝てる。
←相手がさらに1ドルを払って1ドルを得ても何のメリットもない。
既についた値は既に失ったものと考えて、1ドルを得るために90セント値を吊り上げるのが合理的。所持金はそれぞれ、2.5ドル。最初に1.6ドルつけた側がオークションに勝つ。それにより2.5ドルまで値を引き上げる準備があるという実行の確約をしたことになる。
超大国の核競争も同じ。
何兆$という軍事費をつぎ込むより、平和的共存という名の共謀のほうがはるかに得策。
■  ■15.リア王の悩み
子供たちが孝行するか否かは、親に対する愛情や尊敬に加えて、遺産相続の可能性によっても左右される。
基準の回数を満たさなかった子供には、相続させない。
全員が基準以下⇒最も多く訪問した子供に全財産を与える

子供たちは多人数版囚人のジレンマの状態になり、訪問を減らす結託策はできなくなる。
1人子の両親にはうまい解決法がない。
■  ■16.アメリカ政府対アルコア
業界の大企業はがすでに過剰な設備を有していることを見せつけることほど有効な参入障壁はない⇒独禁法出有罪判決
現在の生産量に必要とされる以上の設備あり⇒生産量を迅速に、しかも小さいコストで拡大できる⇒価格競争に持ち込むという脅しの信憑性が高まる。
■17.拳銃よさらば
絶対優位の戦略があるほうはそれを使い、ない方は敵の絶対優位の戦略に対して最善の対応策をとる。
ゲームが同時進行から交互行動に移行⇒強盗が絶対優位の戦略の選択をやめた。
(←交互ゲームでは、自分の選択が相手の選択に影響を与える。)
■  ■18.ラスベガスのスロットマシン
オーナーとしては、少なくとも「出る」マシンと同じだけ「出ない」マシンが利用されるようにしないと儲からない。
出るマシン~大当たりにより大部分を払い戻すようセット
出ないマシン~少額を高い確率で払い戻すようセット。
少なくとも、最も人気があるマシンが、最も「出る」マシンではない。