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勉強会(判例時報2019前半)

判例時報の勉強会用の資料です(随時更新)

6月   
2403   
  判例特報
最高裁H30.12.19   
  平成29年衆議院議員選挙投票価値較差訴訟大法廷判決
  事案 平成29年10月22日施行の衆議院議員総選挙について、各選挙区の選挙人であるXらが、衆議院小選挙区選出議員の選挙の選挙区割りに関する公選法の規定は憲法に違反し無効⇒本件選挙の前記各選挙区における選挙も無効であるなどと主張してい提起した選挙無効訴訟。 
  原審 投票価値の格差の状況とアダムズ方式の採用の比重の置き方に軽重はあるものの、概要、平成28年改正法(衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律)及び平成29年改正法(平成28年改正法の一部を改正する法律)は、平成32年以降の大規模国勢調査の結果に基づきアダムズ方式を各都道府県への定数配分において適用することとし、それまでの較差是正の措置として、各都道府県の選挙区数の0増6現をするとともに、平成27年簡易国選調査の結果に基づき将来の見込人口を踏まえ同32年の大規模国勢調査の時点までに較差2倍未満となるよう本件区割規定を設けたものであり、本件選挙区割りの下において本件選挙当日における選挙人比最大格差が1.979倍であり、較差が2倍以上の選挙区が存在しないこと等を指摘し、本件選挙区割りが投票価値の平等の要求に反する状態にあったとはいえない。 
  判断 平成27年大法廷判決が平成26年選挙当時の選挙区割りについて判示した憲法の投票価値の平等の要求に反する状態は、平成29年改正法による改正後の平成28年改正法によって解消されたものと評価することができる。

本件選挙当時において、本件区割規定の定める本件選挙区割りは、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず、本件区割規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない。 
  解説 憲法判断の基本的枠組み 
衆議院議員の選挙に関しては、これまでの最高裁の類似の判例により、
①定数配分又は選挙区割りが投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態(違憲状態)に至っているか否か、
②前記①の状態に至っている場合には、憲法上要求される合理的期間内に是正がなされなかったとして定数配分規定又は区割規定が憲法の規定に違反するに至っているか否か、
③当該規定が憲法の規定に違反するに至っている場合には、選挙を無効とすることなく選挙の違法を宣言するにとどめるか否か
という判断の枠組み。
  行政p43
最高裁H30.12.18  
  生活保護の不正受給での法78条に基づく費用徴収額決定における算定
  事案 生活保護法に基づく保護を受けていたXが、同一世帯の構成員である長男の勤労収入を届け出ずに不正に保護を受けた⇒門真市福祉事務所所長から、法78条に基づき、勤労収入に係る額(源泉徴収に係る所得税の額を控除した後のもの。)等を徴収する旨の費用徴収額決定を受けるなどした⇒上告人(門真市)を相手にその取消し等を求めた。
  原審 本件変更決定(長男の収入のうち収入認定の対象となる金額をXの世帯に係る同月以降の保護費から減額する旨の保護変更決定)の取消請求は棄却すべきもの。
①本件変更決定の後に長男が得た勤労収入の一部については法78条に基づく本件徴収額決定の対象に含めることができない⇒本件徴収額決定のうち一部(1万9930円)に関する部分を取り消し。
②本件勤労収入のうち本件基礎控除に相当する部分(38万4080円)についても、同部分は本件勤労収入の申告を適正にしていれば収入として認定されなかった⇒これを不正受給として法78条に基づき徴収することはできないとして、これを取り消し。
③本件徴収額決定のうち、その余の部分については、本件の事実関係において、これを法78条に基づき徴収することに裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとはいえないとする第一審の判決を是認。
    Yは、上記②に関する部分について、上告受理申立。
  判断 法78条に基づき本件基礎控除額に相当する金額を徴収することが当然に違法となるか否か、本件の事実関係の下において本件基礎控除額に相当する額を徴収することにつき裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるといえるか否かが問題
⇒本判決はいずれも否定し、上記②の部分につき請求を棄却する旨の変更判決。 
  解説   法78条は、当時、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の全部又は一部を、その者から徴収することができる。」と規定し、

この点についての厚労省の見解は、同条に基づく徴収の場合においては、保護の実施要領が定める収入認定の各規定に基づく各種控除は適用されず、必要最小限度の実費を除き、全て徴収の対象とすべきとするものであった。 
  本判決:
基礎控除は、勤労収入の適正な届出がされた場合において、その額の全部又は一部を収入認定から除外するという保護の実施機関としての運用上の取扱いにすぎないことを確認した上で、
法78条の目的(=生活保護制度をその悪用から守る)に照らせば、適正な届出がされなかった場合にまで基礎控除相当額を被保護者に保持させておくべきものとはいえないと判断

勤労収入についての適正な届出をせずに不正に保護を受けた者に対する法78条に基づく費用徴収額決定に係る徴収額の算定に当たり、当該勤労収入に対応する起訴控除の額に相当する額を控除しないことは、違法であるとはいえない旨を明らかにした。 
  法63条に基づく返還命令:
被保護者が、急迫等の場合ににおいて資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県等に対して、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関が定める額を返還しなければならない旨を規定。
法63条は、
①被保護者の権利義務について定めた方の第8章(現第10章)に置かれた規定であって、保護の実施機関が受給者に資力があることを認識しながら扶助費を支給した場合の事後調整についての規定と解すべきものとされ、
②返還すべき金額も保護の実施機関が定める額と規定

法7条から10条までの保護の原則の趣旨が及ぶものと解される。
(厚労省の見解も、法63条が適用される場合には、保護受給中に生じた勤労収入については基礎控除を含む各種控除を適用すべきとしている。)
  法78条は、平成25年法律第104号により改正されて生活保護法78条1項とされ、徴収金に40%の上乗せができるようになるなどの改正がされている。 
  民事p48
最高裁H30.10.19  
  共同相続人間での無償での相続分譲渡と民法903条1項の「贈与」
  事案 X及びYは、いずれも亡Bとその妻亡Aの子であるところ、本件は、Xが、先に亡くなった亡Bの相続において亡Aから相続分の譲渡を受けたYに対し、前記相続分の譲渡によって遺留分を侵害された
⇒Yが一次相続で取得した不動産の一部についての遺留分減殺を原因とする持分移転登記手続等を求めた事案。 
本件相続分譲渡が、亡Aの相続において、その価額を遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与(民法1044条、903条)に当たるか否かが争われた。
  規定 民法 第903条(特別受益者の相続分)
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
  判断 共同相続人間でされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。 
  解説 ●相続分の譲渡
民法 第905条(相続分の取戻権)
共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。
相続分の譲渡、共同相続人間の相続分の譲渡も許容される(判例・通説)。
相続分の譲渡は、方式、有償又は無償を問わず、当事者間の合意のみで成立する法律行為。
相続分の譲渡自体に遡及効を定める規程なし
⇒相続分の譲渡の合意があると、譲渡の時点で譲渡人の相続分が譲渡人に移転。

相続分の譲渡も、無償で相手方に自己の財産を譲渡する諾成契約である贈与(民法549条)と、本質に大きな違いがないように思われる。
  ●問題点
  相続分の譲渡が民法903条1項に規定する「贈与」に該当するか?
①「相続分」の譲渡をもって、贈与の対象といえるような具体的な「財産」ないし「財産的価値」の移転ということができるか
②財産的価値の移転といえるとしても、それは遺産分割がされるまでの間の暫定的な権利義務関係の移転⇒贈与と見ることができないのではないか?

③遺産分割が確定すれば最終的な権利移転が生ずる。
but遺産の分割は、相続開始の時に遡って効力を生じる(民法909条)
⇒遡及効によって相続分の譲渡人は相続開始時から相続財産を取得しなかったことになる⇒当該譲渡人から譲受人に対する相続分の贈与があったとすることはできないのではないか?
  ●①「相続分」の譲渡が「財産」ないし「財産的価値」の移転といえるか
民法905条1項にいう「相続分」:
必ずしも民法900条の相続分(法定相続分の規定)等と同義ではなく、
「遺産分割前」において「積極財産のみならず消極財産も含めた包括的な相続財産全体に対して各共同相続人が有する割合的な持分」をいう(通説・判例)。
遺産共有説⇒相続分の譲渡に伴い、単に持分割合が変動するだけではなく個々の相続財産の共有持分の移転も生ずるものと解される。

当該相続分に財産的価値があるといえるのであれば相続分の譲渡によって財産的利益も移転。
債務も相続分の譲渡により移転
but
債権者との関係では譲渡人も法定相続分に応じた債務を免れない。(通説)
  ●②暫定的な効果にすぎないか
各相続人は相続分の割合に応じて被相続人の権利義務を承継し(民法899条)、相続分の譲渡を受けた者は、自己の相続分と譲渡を受けた相続分を合わせた相続分を有する者として遺産分割協議に参加でき、相続人は相続分に見合った価額の財産の分配を請求できる
⇒その効果は暫定的なものではない。
最高裁H24.1.26が相続分の指定に対する遺留分減殺請求を認めている
⇒指定相続分に財産的価値があることを前提としている。
  ●③遺産分割の遡及効との関係 
遺産分割の遡及効(909条)⇒相続分の譲渡人は相続開始時から相続財産を取得しなかったことになる⇒当該譲渡人から譲受人に対する相続持分の贈与があったとはいえないことになる
but
909条ただし書が、遺産分割の遡及効は第三者に対抗できないと規定
911条ないし913条は、各共同相続人は他の共同相続人に対し担保責任を負うと規定

法律の定める遡及効は擬制にすぎず、遺産分割の遡及効は、現実に遺産共有状態が存したという事実までもなかったとするものではない。
少なくとも、本件のように、相続分の譲渡によってYが財産的利益を得ている場合、遺留分の算定に当たってこれを考慮すべきであるのは遺留分制度の趣旨にかなうものであり、このような場合にまで遡及効によって前記利益の移転がないと擬制することは相当でない。
  本判決: 
共同相続人間での相続分の譲渡について民法903条1項の特別受益としての「贈与」に当たり得ること示した。
「婚姻、養子縁組、生計の資本」としての贈与かどうかは、なお個々の事案で検討されなければならない。
but
相続分を譲渡した場合には多くの場合は生計の資本といってよい場合が多いと思われる。
不相当な対価による場合には通常の贈与と同様に贈与とみなされることがあり得よう。
評価方法として「相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して」算定すること

贈与に当たるかを判断する場面での相続分の財産的価値は、譲渡の時点での相続分の価値を債務や特別受益等も含めて算定されることが想定されていると考えられる。
遺留分減殺請求の場合、遺留分を侵害されたと主張する者が、当該譲渡された相続分の価額を持ち戻し計算して自己の遺留分侵害額を主張するのが通常
⇒相続分に何らかの価値があることが当然の前提
⇒財産的価値が否定されて贈与性が否定される場面はかなり例外的な場面であることが想定される。
  ●残された問題 
持ち戻すべき価額の評価基準時は特別受益一般と同じく相続開始時となる。
相続分を具体的相続分と解するか、特別受益等も考慮した法定相続分と解するか?
多数説:相続分の譲渡における相続分とは特別受益等を考慮せず法定相続分のみを切り離して贈与することが相続分を譲渡した者の意図とは考え難い⇒具体的相続分と解している。

相続分の価値の算定には積極財産のみならず特別受益等も考慮することになる。
寄与分を考慮するか議論の余地。
持ち戻しをした後の具体的な遺留分侵害額の算定や、減殺の対象、請求額の計算も今後に残された問題。
  民事p56
最高裁H30.12.14  
  詐害行為取消しによる受益者の取消債権者への支払債務の履行遅滞となる時期
  事案 債務者Aに対して約37億6000万円の債権を有する被上告人Xが、詐害行為取消権に基づき、Aの弟である上告人Y1及びAの妻である上告人Y2に対し、AとYらとの間の売買契約又は贈与契約の取消しを求めるとともに、Yらの各受領金相当額合計約2億8000万円及びこれらに対する各訴状送達日の翌日からの各遅延損害金の支払を求めるなどした事案。 
  争点 詐害行為取消しによる受益者の取消債権者に対する受領済みの金員相当額の支払債務が履行遅滞となる時期 
  解説 本件争点について
A:受益者の金員受領日
B:訴状送達日の翌日
C:判決確定日の翌日

詐害行為取消判決は形成判決であって(最高裁昭和40.3.26)、その判決の確定前に受領金返還債務が履行遅滞に陥ることはない。
but
形成判決の中には、将来効のあるもの(例えば、婚姻取消しの判決等)と、遡及効があるとされるもの(例えば、嫡出否認の判決等)があり、そのいずれであるかは、法律に規定がある場合のほかは、当該制度の趣旨や、いずれに解するかにより生ずる影響等によって定まる。
  判断 ①詐害行為取消権の趣旨(詐害行為を取り消した上、逸出した財産を回復して債務者の一般財産を保全することを目的とするものであることなど)
②実質的な結論の妥当性(受領金返還債務が詐害行為取消判決の確定より前に遡って生じないとすれば、受益者は、受領済みの金員に係るそれまでの運用利益の全部を得ることができることとなり、相当ではないこと)

受領金返還債務は、詐害行為取消判決の確定により金員受領時に遡って生ずると解したと考えられる。

受領金返還債務は、訴状の送達の時点でも存在していたと理解でき、前記訴状の送達は民法412条3項の「履行の請求」に当たる。 
  解説 最高裁昭和50.12.1:
詐害行為取消しによる価格賠償請求の価格算定の基準時につき判断したもので、価格賠償をすべきときの価格の算定は、詐害行為取消の効果が生じた受益者において財産回復義務を負担する時、すなわち、詐害行為取消訴訟の認容判決確定時に最も接着した時点である事実審口頭弁論終結時を基準とするのが相当であるとする判示部分。

受益者に財産回復義務があることが確定するのは詐害行為取消判決の確定時であり、現物返還の場合であれば現実にその時点以降に返還をすることになる
⇒価格賠償の場合もその時点に最も近い時点の価格を基準に算定すべきであるとした。

受領金返還債務の発生時期が遡及するかどうかを問題にしておらず、本件争点に係る判断には結び付かない。
受領金返還債務の法的性質:
×A:不法行為による損害賠償債務
vs.
現在の詐害行為取消制度を不法行為により一元的に説明するのは困難。

B:不当利得返還債務
C:衡平の見地から法が特に認めた法定債務
受領金返還債務については、その法的性質を不法行為による損害賠償債務とみることができない⇒発生と同時に遅滞に陥ると解すべき理由はない
⇒民法412条3項により、履行の請求を受けた時に遅滞に陥る。
詐害行為権と類似するとされる破産法上の否認権の行使の場合について、
受益者に対する受領済みの金員相当額の請求と共に金員受領時からの年6分の割合による附帯金の請求を認容すべきものとした最高裁昭和40.4.22.

金員受領日からの遅延損害金の請求について、同日からの法定利息の請求と読み替えてこれを認容すべきであると判断(受益者が金員受領日からの遅延損害金の支払義務を負わないが、同日からの法定利息の支払義務は負うとの判断の下、前記の読替えをしたとうかがわれる)。

法定利息の請求と遅延損害金の請求は別物(MKA)。
  民事p58
東京高裁H30.4.19  
  婚姻費用の算定と、権利者の居住国(中国)の物価水準
  事案 中国に暮らす妻X(中国国籍)が、日本で暮らす夫Y(日本国籍)に対して、婚姻費用を求めた事案。 
  Yの主張等 婚姻費用の算定にあたり、中国の物価水準も考慮して具体的な婚姻費用分担額を定めるべき。 
インターネット上の記事である「各国の生活費を一目瞭然にした世界地図」、
公益財団法人国際情報センター作成の「各国の物価水準(日本の物価との比較)」
Xの居住地のスーパーマーケットにおける食品の価格
などを証拠として提出。
  判断 ①婚姻費用は権利者世帯の生活を保持するためのものであり、現実に必要としている費用を算定するのが本来
⇒権利者が他国に居住し、その物価水準がわが国のそれと比較して格段に異なる場合には、婚姻費用の算定にあたり物価水準の相違を反映させるのが相当。
②ニューヨークを基準値100とした場合、日本は90ないし100であるのに対し、中国は40ないし50であり、中国の大都市である上海や北京においても、食料品に関する物価水準は日本に比べて格段に低いことが窺われ、Xの居住地の食品価格はさらに安価である認められる
③Xの住む中国の物価水準は日本に比べて格段に低いことが認められるとしつつも、ここで示された数値をそのまま採用することはできない⇒日本を100とした場合、中国の物価水準は70とみるのが相当。
④これを前提に生活費指数等を考慮して、YがXに対して負担すべき婚姻費用は月額47000円が相当。
  解説 婚姻費用は権利者世帯の生活を保持するためのもので、現実に必要としている費用を算定すべき
⇒権利者が他国に居住し、その物価水準が我が国のそれと比較して格段に異なる場合には、婚姻費用の算定にあたり物価水準の相違を反映させるとした判断は正当。 
日本在住の妻が外国在住の夫に対して婚姻費用の分担を求めた事案につき、日本とタイ国の物価を比較して生活費指数を日本の2分の1として婚姻費用を算定した大阪高裁H18.7.31
  民事p62
高知地裁H30.7.20  
  継続的不法行為に基づく損害賠償請求権の除斥期間の起算点
  事案 米国が昭和29年3月から同年5月にかけて、マーシャル諸島共和国ビキニ環礁及びその付近において核実験。
その周辺の海域において被ばくした漁船員及びその遺族並びにその支援者であるXらが、Y(国)に対し、Yが被ばくの事実及びその記録を平成26年9月19日に開示するまでの間隠匿したこと並びに被ばく者について追跡調査や生活支援等の実施をしなかったことが違法

主位的に、被ばくした漁船員は必要な治療を受ける権利等が侵害され、支援者は貴重な時間を浪費した
予備的に、前記被ばく資料の開示によりXらはYの違法行為を知って大きな怒りと衝撃を受けて損害が発生した

国賠法1条1項に基づき損害賠償請求。 
  判断 被ばくについての証拠のない1名を除き、漁船員の本件核実験による被ばくの事実を認定した上で、本件訴訟提起時点で既に20年以上が経過していた日米合意、被ばく調査中止、本件国会答弁については除斥期間が経過し、
その他のXらが主張する厚生労働省の対応等からは、本件資料等の隠匿の事実は認められない。 
Xらが主張する本件資料等を開示すべき法的作為義務及び調査・支援等施策実施義務はない。
⇒Xらの請求はいずれも理由がない。
  解説 ●除斥期間と継続的不法行為について
  Xら:
Yが、日米合意を成立させ、本件資料等を隠匿する方針を決めて以来、平成26年9月19日に本件資料を開示するまで本件資料等を隠匿するという作為及びこれを開示しないという不作為の連続する継続的不法行為を行ってきた⇒本件資料の開示までは除斥期間は進行しないなどと主張。
民法724条後段の規定は除斥期間を定めたもの(判例)。
除斥期間起算点:
加害行為が行われたときに損害が発生する不法行為⇒加害行為の時が起算点。
身体に蓄積する物質が原因で他人の健康が害されることによる損害や、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる疾病による損害のように、当該不法行為により発生する損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生⇒当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点。(以上、判例)
除斥期間の経過前に損害賠償請求権を行使することが現実的に困難であるなどの特段の事情がある場合⇒民法158条や160条の法意に照らして除斥期間経過後も一定期間は権利行使が認められる余地もある(最高裁H10.6.12、H21.4.28)。
民法 第158条(未成年者又は成年被後見人と時効の停止)
時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
2 未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。
民法 第160条(相続財産に関する時効の停止)
相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
but
継続的不法行為が成立する場合の除斥期間の起算点について判断をした事例はない。
継続的不法行為については、消滅時効の起算日に関して、民法724条前段の「損害を・・・知った時」の要件該当性の問題として論じられてきた。
but
継続的不法行為であれば直ちに一体として消滅時効の成否が判断されるのではなく、当該連続する不法行為の時効の起算点を判断するに当たり、損害の性質に照らして、分断して捉えても支障がないものについては逐次的に時効が進行。
(不動産の不法占有に関する大判昭和15.12.14)

大気汚染のように損害が累積する事案⇒損害の発生を分断して捉えることが適切でない⇒一体のものとして消滅時効が進行。
  本判決:
民法724条の「不法行為の時」としている

継続的不法行為の除斥期間は、不法行為つぃて一体とみることができるか(行為の一体性)の観点から検討しつつも、
前記消滅時効の議論を参考に、損害の性質上一体とみることができるか(損害の同一性)という観点からも検討し、
Xらの主張する作為及び不作為は、一体の行為をみることはできず、損害としても逐次的に発生すべき性質の損害であるとしてXらの主位的主張を排斥。 
Xらは、予備的に、本件資料の開示によって、精神的損害が発生した旨も主張。
but
除斥期間は、被害者の認識を問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたもの
⇒そのような法律構成は、除斥期間の制度趣旨を没却されるおそれがあり、認められない。
  労働p93
東京高裁H30.8.30  
  市がチェック・オフの中止を通告⇒不当労働行為に該当するとされた事案
  事案 地自法に基づく普通地方公共団体であるX市(大阪市)は、地方公営企業等の労働関係に関する法律が適用又は準用される職員によって構成される労働組合であるZ1からZ4との間で、組合費について職員給与から天引きするチェック・オフ協定を締結していた。
X市では・・・平成24年2月から3月にかけて、Zらに対し、チェック・オフを中止すること、移行期間を約1年間とすること等を内容とする通告を行った。

大阪府労働委員会は、X市が行った本件通告が支配介入の不当労働行為であるとするZらの申立てに基づき、本件通告の撤回、文書手交等を命じる救済命令⇒X市はこれを不服として中央労働委員会に再審査申立て⇒中央労働委員会も本件通告が支配介入の不当労働行為に該当すると判断し、労働委員会認定型の文書手交を命じる再審査命令⇒X市が、再審査命令の取消しを求めた事案。
  原審 ①チェック・オフが労働組合に対する便宜供与であり、これを行うか否かは原則として使用者の裁量に委ねられる
②チェック・オフが一定期間継続されているとしても、そのことから直ちに使用者がこれを継続すべき義務を負うと解すべき法的根拠がない

チェック・オフの廃止に当たって実体法上の法理的理由までを必要と解するのは相当ではない。
チェック・オフが労働組合の財政を確固たるものとし、組織の維持強化に資するものであって、廃止によって労働組合に少なからぬ不利益を与える可能性があることも考慮に入れ、
支配介入の判断要素のうち、チェック・オフ廃止により労働組合が受ける不利益の程度と、廃止を求める使用者側の目的、動機等を中心とした衡量判断をすべきと判示し、
①X市の政策には一応の合理性があると評価できるものの、本件通告がZらを弱体させる効果を有することをX市が十分認識した上で本件通告を行っていること
②必要な手続的配慮を行わず、Zらに一定の支障が生じていること等

支配介入に該当。
  判断 便宜供与であるチェック・オフを開始するか否かは使用者の裁量判断
but
前記のチェック・オフ開始による労働組合のメリットや廃止によるデメリットがある

チェック・オフが行われている場合にはそれを前提とした労働組合の活動、運営が行われ、労使関係が形成されており、その廃止は労働組合の活動、運営や労使関係に影響を与える

チェック・オフ廃止に当たっては、チェック・オフ廃止により労働組合に不利益を与えてもなお廃止せざるを得ない相当な理由の存在と、使用者による説明、労使間の協議、猶予期間の設置等の手続的配慮が必要

これらの要件を欠くチェック・オフの廃止は、廃止の目的、動機、その時期や状況、廃止が労働組合の運営や活動に及ぼし得る不利益、影響等を諸要素を総合考慮し、労働組合の弱体化、運営、活動に対する妨害の効果を持つ場合には支配介入に該当。
本件通告にはチェック・オフ廃止についての相当な理由があるとはいえず、手続的配慮の観点からも十分な対応がされたものとはいえず、Zらの弱体化又は活動に対する妨害効果を持つものと評価できる⇒不当労働行為に該当。
  解説 チェック・オフ:
労働組合と使用者との間で締結される協定に基づき、使用者が組合員である労働者の賃金から組合費を控除して、それらを一括して労働組合に引き渡すこと。 
労組法は、労働組合であるための要件の1つとして自主性を挙げ(同法2条)、使用者からの独立性を重要な内容としており、これを阻害するような便宜供与を原則として認めていない(同法2条、7条3号)。

便宜許与(特に経費援助)について労組法は基本的に否定的な立場を原則とする。
but
労組法2条2号ただし書、同法7条3号ただし書が労働時間内における有給での使用者との協議や交渉、労働組合の福利厚生基金への使用者の寄付、最小限の広さの事務所の供与を例外事由として明記しているように、便宜供与にも様々なものがある

労組法が否定する便宜供与に該当するかどうかは、形式的、画一的に判断できるものではなく、具体的、実質的に判断すべきと考えられている。
労組法上許容され得る便宜供与であっても、これを行うか否かは基本的に使用者の裁量にゆだねられており、労使間の合意又は労使慣行があって初めて便宜供与を受ける権利が生じるものであり、
便宜供与の継続期間にかかわらず、これを継続すべき法的義務を使用者が追うものでもなく、労使間の合意が失効すれば便宜供与を受ける権利も消滅する。
(最高裁昭和61.12.16)
  刑事p122
最高裁H30.5.10  
  STR型によるDNA型鑑定の信用性を否定した原判決が最高裁で破棄
  事案 被告人(当時27歳)が、正当な理由がないのに、他人が看守するマンションに侵入して、マンション内通路において、自己の陰茎を露出して手淫した上、射精したという、邸宅侵入、公然わいせつの事案。 
  争点 被告人は、犯人性を争い、無罪を主張。
犯人性に関する証拠は、犯行現場で採取された精液様の遺留物について実施された2つのDNA型鑑定のみ。 
  一審 被告人を犯人と認めて犯罪事実を二に停止、懲役1年の実刑に処した、。 
  原審 本件資料に他人のDNAが混合した疑いを払拭することができず、本件鑑定の信用性には疑問があり、被告人と犯人との同一性については合理的疑いが残る。
⇒第一審判決を破棄し無罪。 
    検察官が上告。
  判断 検察官の上告趣意は、判例違反をいう点を含め、実質は事実誤認の主張であって適法な上告趣意に当たらない。
but
職権により、本件鑑定の信用性に関する原判決の判断には重大ない事実誤認がある⇒原判決を破棄し、被告人の控訴を棄却。 
  解説 ①捜査段階で実施された科捜研の鑑定
②第一審で実施された大学教授による本件鑑定
本件鑑定で、14座位のSTR型が一致したもおの、1座位で被告人と一致する2つのSTR型に加え、3つ目のSTR型をわずかに検出 
   刑事p125
最高裁H30.7.13
  有罪⇒事実誤認で無罪⇒有罪(最高裁)
  事案 被告人が、約2週間前まで店長を務めていたホテルの事務所で金品を物色中、支配人Cに発見されたことから、金品を強取しようと考え、殺意をもってCの頭部を壁面に衝突させ、頸部をひも様のもので絞めつけるなどして犯行を抑圧し、現金約43万2910円を強取し、その際、前記暴行により、Cに遷延性意識障害を伴う右側頭骨骨折、脳挫傷、硬膜下血腫等の傷害を負わせ、6年後に死亡さえsて殺害したとされる強盗殺人の事案。 
  一審 被告人を本件の犯人と認定し、懲役18年 
  原審 被告人を犯人と認定した第一審判決には事実誤認がある⇒第一審判決を破棄し、被告人に対し無罪の言渡し。 
  判断 被告人を殺人及び窃盗の犯人と認めて有罪とした第一審判決に事実誤認があるとした原判決は、全体として、第一審判決の説示を分断して個別に検討するのみで、情況証拠によって認められる一定の推認力を有する間接事実の総合評価という観点からの検討を欠いており、第一審判決が論理則、経験則等に照らして不合理であることを十分に示したものとはいえず、刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があり、同法411条1号により破棄を免れない。
  規定 刑訴法 第三八二条[事実誤認と判決影響明白性]
事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
刑訴法 刑訴法 第四一一条[著反正義事由による職権破棄]
上告裁判所は、第四百五条各号に規定する事由がない場合であつても、左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
一 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
二 刑の量定が甚しく不当であること。
三 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。
四 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
五 判決があつた後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があつたこと。
  解説  控訴審における事実誤認の審査方法:
A:原判決の事実認定に論理則・経験則違反があることを事実誤認と捉える論理則・経験則違反説
B:第一審判決に示された心証ないし認定と控訴審裁判官のそれとが一致しないことを事実誤認と捉える心証優先説(心証比較説)
最高裁H24.2.13は、論理則・経験則違反説を採用することを明らかにし、
最高裁H26.3.20は、刑訴法382条の解釈適用に関し、第一審判決が有罪の場合であっても、論理則・経験則違反説が妥当する旨を示した。
  ●情況証拠による事実認定について 
最高裁H19.10.16:
刑事裁判における有罪の認定に当たっては、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要。
合理的な疑いを差し挟む余地がないとは、
反対事実が存在する疑いを全く残さない場合をいうものではなく、
抽象的な可能性としては反対事実が存在するとの疑いをいれる余地があっても、
健全な社会常識に照らして、その疑いに合理性がないと一般的に判断される場合には、
有罪判決を可能にする趣旨。
このことは、直接証拠によって事実認定をすべき場合と、情況証拠によって事実認定をすべき場合とで、何ら異なるところはないというべき。
最高裁H22.4.27:
刑事裁判における有罪の認定に当たっては、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要であるところ、
情況証拠によって事実認定をすべき場合であっても、直接証拠によって事実認定をする場合と比べて立証の程度に差があるわけではないが(平成19年判決参照)、
直接証拠がないのであるから、
情況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要する
ものというべきである。
本件判示のいうような事実関係の存在を、
〇A:総合認定の結果として要求するのか

B:総合認定に参加している具体的な間接事実中に要求するのか
vs.
自由心証主義(刑訴法318条)に抵触し、間接証拠による総合評価という概念を否定するに等しい
「事実」ではなく「事実関係」
⇒これが、決め手となる1個の事実を総合判断した評価として、
「被告人が犯人でないとしならば合理的に説明することができない(あるいは少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれている」という心証に達することを求めているもの。

個々の間接事実それ自体は被告人以外の者による犯行の可能性を否定するだけの推認力を有しないが、それらの間接事実が示す犯人の条件を同時に満たす者は被告人以外にはあり得ない場合がある。
but
全ての間接事実を総合しても被告人以外の者による犯行であるとの合理的な疑いを差し挟む余地があるにもかかわらず、「被告人が犯人であることを前提とすれば全ての事実が矛盾なく説明できる」との一面的な評価のみをもって被告人を有罪とすることは許されない。
また、およそ推認力の乏しい間接事実のみををいくら積み重ねたところで、「合理的な疑いを差し挟む余地のない」程度の証明に達することは想定し難い。
but
情況証拠による事実認定は、情況証拠によって認められる一定の推認力を有する間接事実を積極・消極の両面から総合評価することにより、「合理的な疑いを差し挟む余地のない」程度の立証に達していると判断できるか否かという観点から行うべきものであって、
有罪の認定をする前提として、総合評価の基礎となる個々の間接事実それ自体が、「被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは少なくとも説明が極めて困難である)」という程度の推認力を有することは要しない。
  本判決:
原判断には刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があるとしたが、
具体的には、
①本件犯人が現場事務所から少なくとも2百数十枚の千円札を奪取し、その約12時間後に被告人がATMから自己名義の預金口座に230枚の千円札を入金したという客観的事実自体の推認力を検討していない点
②千円札所持の経緯に関する被告人の説明が信用できないとした第一審判決の理由の説示を分断し、理由をほとんど示さないまま、被告人の説明によれば第一審判決の判断は不合理であるなどと結論付けている点
③被告人が本件発生時刻前後の40分間以上にわたり本件ホテル付近にいた事実の推認力について、千円札に関する間接事実との総合考慮を欠いている点
の3点を挙げている。
一般に、情況証拠による事実認定は、
①間接証拠による間接事実の認定
②認定された間接事実による要証事実の推認
の2つの過程を経るものと理解されており、
控訴審の事実誤認の審査もこれらの2つの過程に関する第一審の判断に論理則・経験則違反がないか否かという観点から行うべきものと解されるところ、
本判決は、原判決が②の観点からの検討を欠いている点で刑訴法382条に違反するものとした。
2402   
  民事p3
最高裁H30.12.17  
  名義貸しと運行供用者(肯定)
  事案 Aが所有し運転する普通乗用自動車に追突されて傷害を負ったX1及びX2が、本件自動車の名上の所有者兼使用者であるYに対し、自賠法3条に基づき、損害賠償を求めた。
Aに名義を貸与したYが、本件自動車の運行について、同条にいう「自己のために自動車を運行のように供する者」に当たるかが争われた。 
  判断 YがAからの名義貸与の依頼を承諾して本件自動車の根異議上の所有者兼使用者となり、Aが前記の承諾の下で所有していた本件自動車を運転して本件事故を起こした場合において、
Aは、当時、生活保護を受けており、自己の名義で本件自動車を所有すると生活保護を受けることができなくなるおそれがあると考え、本件自動車を購入する際に、弟であるYに名義貸与を依頼

Yは、本件自動車の運行について、自賠法3条にいう運行供用者に当たる。
  解説  運行供用者に当たるか否かについては、「運行支配」と「運行利益」の2つの要素から運行供用者性を判断する「二元説」が判例・通説。

運行支配があれば責任を負う
←危険責任

運行利益があれば責任を負う
←報償責任 
  ●判例 
①最高裁昭和43.9.24:
自賠法3条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは、
自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者を意味する。
②最高裁昭和45.7.16:
子の1人が所有する自動車を別の子が運転していた際の事故について父親の運行供用者性を肯定する際に、
自動車の運行について指示・制御をなしうべき地位にあり」と説示
③最高裁昭和46.7.1:
無断私用運転中の事故について、
運行を全体として客観的に観察するとき、本件自動車の運行が上告人のためになされていたものと認めることができる
⇒自動車の所有者である上告人に運行利益がある。
④最高裁昭和49.7.16:
未成年の子がその所有車両を運行中に起こった事故につき、父に運行供用者責任が認められた。
⑤最高裁昭和50.11.28:
「自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上自動車の運行が社会に実害をもたらさないよう監視・監督すべき立場にある場合」には運行供用者に該当する旨説示し、
「父と同居して家業に従事する満20歳の子が所有し父の居宅の庭に保管されている自動車につき、所有者登録名義人となった父は、右自動車の運行について自賠法3条にいう自己のために自動車を運行のように供する者に当たると解すべきである」と判断。
⑥最高裁H20.9.12:
自動車の所有者Qの娘の友人であるPの運行について、Qの容認の範囲内にあったとみられてもやむを得ず、Qは、同運行について、自賠法3条にいう運行供用者に当たる。
  運行供用者の意義については、①判決以降、「運行支配」と「運行利益」の2つの要素から運行供用者性を判断する2元説が判例・通説。
but
その運行支配、運行利益の内容は、規範化・客観化する傾向。 
運行支配:
事実としての支配ではなく、加害車両の運行を指示・制御すべき立場という規範的概念とした捉えられるようになった。(②判例)

運行利益:
その内容は、抽象化・客観化。(③判例)
④判例解説:
運行支配:
直接・具体的な支配の実在を要件とするものではなく、社会通念上、彼が車の運行に対し支配を及ぼすことのできる立場にあり、運行を支配・制御すべき責務があると評価される場合に、その者に運行支配権が肯定。

運行利益:
必ずしも現実・具体的な利益の享受を意味せず、事実関係を客観的外形的に観察することにより、法律上又は事実上なんらかの関係で彼のために運行がなされていると認められる事情があれば肯定できる。
⑤判例解説:
本判決が、運行利益、運行支配という言葉を用いることを敢て避け、
「車の運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場」といったのは、・・・強いて右のような概念を用いる必要のないことを示したもの。
判例⑥:
自動車所有者Sは、Rと面識がなく、Rという人物が存在することすら認識していなかったのに、Rの運転を容認したとして運行供用者性を肯定。
⇒ここでいう「容認」の内容は、客観的・抽象的なもの。
  本判決:
生活保護を受けているAに対する名義貸与について、
「事実上困難であったAによる本件自動車の所有及び使用を可能にし、自動車の運転に伴う危険の発生に寄与するものといえる」と評価し、
「Yは、Aによる本件自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上自動車の運行が社会に実害をもたらさないよう監視・監督すべき立場にある場合にあったというべきである」という判例⑤と同様の説示をして、Yは運行供用者に当たると判断。 
  民事p6
東京高裁H30.4.11  
  年金基金が、投資コンサルタントと商品販売協力契約を締結していた投資会社の元代表者に対して、債権侵害を理由とする損害賠償請求(肯定)
  事案 九州地区の業界団体を母体とする厚生年金基金Xが、過去に購入した投資商品の販売元である投資会社の元社長Yに対し、債権を侵害する不法行為があった⇒損害賠償を求めた。 
Xは、投資コンサルタントP1が経営するB社と本件運用助言契約を締結。
B社は、当時Yが代表者を務めるA社との間で本件販売協力契約を締結

B社は、
①Xに対し、本件運用助言契約に基づく善管注意義務及び忠実義務として、年金資産の投資運用助言を忠実に行う債務を負っていた一方、
②本件販売協力契約に基づくA社の投資商品(不動産ファインド)を販売協力する義務を負い、Xに多く販売すればするほど多くの歩合報酬(成約額の1%)を受領することができる
⇒利益相反の関係にあった。
  争点 Yの行為につき、Xが本件運用助言契約に基づきB社から適切な助言を受ける権利を侵害したとして、債権侵害の不法行為が成立するか? 
  原審 ①A社らの行為がXに対する不法行為に当たるためには、A社らの行為が自由競争として許される限度を超え、社会的相当性を逸脱するものと評価できる必要がある。
②A社らはB社をして実体のないファンドをXに推奨させたわけではない

自由競争として許される限度を超えるものとして社会的相当性を逸脱したものとは評価できない。
  判断 本件販売協力契約は、X及びB社との間の利益相反の温床となるものであり、B社の実態は中立公正な運用助言者の仮面をかぶったA社の回し者とみられ、P1及びB社が本件運用助言契約に基づくXに対する善管注意義務・忠実義務に違反

債務不履行責任を負うにとどまらず、故意による不法行為責任を負う。
①A社及びYは、成約額の1%の歩合報酬の支払をB社に約する本件販売協力契約の存在が、B社において本件運用助言契約を履行するにあたりX及びB社との間の利益相反の温床となることを認識していた。
②Yが、Xに対して本件販売協力契約の存在や巨額の歩合報酬支払の事実を開示しないまま、P1及びB社を通じてXにA社商品に投資させ、Xの年金資産を非常識なほどリスクの高い状態に置いたまま放置し、かつ、A社からB社への巨額の歩合報酬の支払を継続したこと等の事情

Yの行為は、Xの傘下にある勤労者国民の財産を自己の財布代りに投資資金として自由に使って、Xの年金資産を過剰なリスクにさらして勤労者国民の老後の生活基盤を不安定にするもので、社会通念上許される限度を超えた故意による債権侵害の不法行為に当たる。
損害の認定:
被害者側の過失は、悪意により加害行為が実行されれた不法行為事案であることその他本件に顕われたすべての事情を考慮し、1割程度にとどめる。
  民事p23
東京高裁H30.9.12  
  バドミントンのダブルス競技の事故と競技者への損害賠償請求(肯定)
  原判決 Yは、その際に声掛けをしていなかったものであり、Xが動き出せば間に合う状況であったにもかかわらず、Xが打つことはないと軽信し、その後のXの動きを確認することを怠った⇒過失を肯定。
違法性阻却については、ルールに著しく違反しない限り違法性が阻却される旨のYの主張を採用せず。
but
後述のとおり、民法722条2項を類推適用して、Yには損害の6割を負担させるのが相当
⇒789万3244円と遅延損害金の支払の範囲内で請求を許容。
  判断 後衛にいたYにおいては、飛来するシャトルを打つために自らが動き出す時点で、Xがシャトルを打つために動く可能性があることを予見することができた⇒Yの過失を認定。 
  解説  本判決:
後衛ににいたYにおいては、飛来するシャトルを打つために自らが動き出す時点で、Xがシャトルを打つために動く可能性があることを予見することができた⇒Yの過失を認定。 
but
Yにおいて、Yの前方に前衛としてXがいることを認識していたとしても、Xがシャトルを打たないと判断してラケットを振った場合に、直ちにYに過失があるとしてよいのか?

野球等において、打者等が打った飛球を捕球する際に声掛けをせずに外野選手等が衝突。
このような場合、そもそも声掛けをしなかったことと衝突との因果関係があるとは必ずしもいえないし、仮に、その因果関係があるとしても、その賠償責任を追及することは、通常想定されていない。

そのような行為は、そもそも直ちに当該競技のルールに違反するものではなく、協議参加者が通常許容しているから。
  不法行為の過失:
当該職業、身分の普通人において通常払うべき注意義務の違反。
このような過失を「抽象的過失」と理解し、当該行為者を基準とした注意義務の違反(具体的過失)と考えない。
←損害の公平な社会的配分を図る。 
このような「過失の客観化」
⇒当該協議のルールに違反せず、当該事故の態様等に照らして競技参加者が通常予測していると考えられる事故については、普通人としての過失である「抽象的過失」はないということも可能。
最高裁:
スキーヤー同士の事故について、上方から滑降する者に、前方を注意して下方を滑降している者との接触ないし衝突を回避できるように滑降すべき注意義務を認め、上方から滑降した者の過失を認めている(最高裁H7.3.10)。
  民法720条は、正当防衛及び緊急避難を違法性阻却事由とする。
これに対し、不法行為の要件としては、違法性概念は不要であるとして、これらを不法行為成立を阻却する事由とする見解もある(平井)。
どのような理解をするかは別にして、正当業務行為や被害者の承諾等も不法行為責任を否定するものとされている。 
スポーツ事故については、被害者の黙示の承諾があるとして不法行為責任が否定されることもある。(東京地裁昭和48.6.11)
相手方が打ったシャトルが競技者の目に当たった場合には、相手方の損害賠償責任を否定するであろう。
そうすると、当該傷害が当該スポーツが本来予定している危険性の範囲内か否かで違法性を判断。

本判決は、違法性阻却について、発生した傷害の頻度や程度に即して、もう少し丁寧に判断してもよかった。
  原判決:
①Xにおいてバドミントンによる自己の危険を理解して競技に参加していること
②Yには故意がないこと

損害の公平な負担の理念に基づき、民法722条2項を類推適用し、Yに損害の6割を負担させた。 

本判決:
Xの過失を認定することはできない⇒これを否定。
判例が民プ722条2項(過失相殺)の類推適用を認めたのは、
被害者の心因的要因(最高裁昭和63.4.21)や疾患(最高裁H4.6.25)が損害発生等に寄与した事案であるところ、
被害者の過失とはいえないまでも、
①損害の拡大や損害の発生に被害者側の事情が寄与しており、
②加害者がそれを通常予見することができない場合には、
損害の公平な負担という理念に照らして民法722条2項所定の「被害者の過失」を類推適用し、一定の範囲で損害賠償額を減額することは可能。
民法416条2項は、特別事情の予見可能性を特別損害の賠償責任の要件としている。
but
原判決が損害減額の事由とする「危険引受け」や「故意の不存在」は、過失相殺規定の類推適用の根拠となっている「損害への寄与」や「加害者の予見可能性」という観点からすると、前記類推適用事由とな異なるように思われる。
本判決は、Xには過失がないとして、賠償すべき損害額を減額しなかった。
but
原判決が認めた過失相殺規定の類推適用を否定する以上、その類推適用の根拠となっている事由を検討すべきであり、単にXに過失がないとして過失相殺規定の類推適用を否定するのは、Yの過失相殺の主張に正面から答えていない。
  民事p39
東京地裁H29.12.4  
  売主が成りすましでの売買契約と司法書士(肯定)と公証人(否定)の責任
  事案 不動産取引において所有者の成りすましによる被害が発生⇒売買代金を詐取された買主に対する司法書士、委任状を認証した公証人(国)の責任が問題。 
  争点 ①Y2の責任(公証人の過失)の有無
②Y1(司法書士)の責任
③Xの損害の発生及び因果関係 
  判断  ●争点①について 
  公証人は、業務上相当の注意をもって嘱託人の本人確認をすべき注意義務を負う。
平成16年改正後の不登法23条4項2号の規定につき、
「登記義務者であることを確認するために必要な認証」であり、「登記義務者であることの認証」ではないことや、同法24条1項の規定の内容等

公証人の認証の対象が面前の嘱託人(登記申請者)と登記義務者との同一性にまで及ぶとは解されず、公証人法上求められている本人確認義務を超えて、同一性をも確認する義務まで負うものではない。
but
一見して面前の嘱託人と私署証書の作成者の同一性が疑われるような場合には、さらに嘱託人や関係者に説明を求めたり、追加の資料を提出させるなどして、本人確認を行う義務を負う。 
本件:
公証人が本件印鑑登録証明書、本件パスポートを確認し、本件委任状の名前の一字(2か所)を訂正させたものであり、
一見して、面前の嘱託人と本件委任状の作成者の同一性が疑われるような事情はなく、
本件印鑑登録証明書の外観、形式などの異常の有無及び本件印鑑登録証明書の印影との同一性を相当の注意をもって確認

本人確認義務違反を否定。
  ●争点②について 
司法書士は、依頼者に登記に必要な書類を徴求し、依頼者が用意した書類相互の整合性を点検し、所期の目的に適った登記の実現に向けて手続的な誤謬等を調査確認する義務を負うものの、当事者の本人性や登記医師の存否は、原則として適宜の方法で確認すれば足り、特に依頼者からその旨の確認を委託された場合や、依頼の経緯や業務を遂行する過程で知り得た情報を司法書士が有すべき専門的知見に照らして当事者の本人性や登記意思を疑くべき相当の理由が存する場合を除き、それ以上にこれらの点に関する調査確認義務を負わない。
本件:
Y1がA’から受領した本件認証書、本件印鑑登録証明書等の書類の「登録義務者」欄の記載が、本件不動産の登記事項証明書の写しの記載とは異なっていた(登記申請書、剛毅原因証明情報の「登記義務者」欄は、Y1の誤りによりこれらとも異なる漢字で名前が記載されていた)

Y1は、本件登記の申請手続の委任を受けた司法書士ついて、この齟齬を解消すべき義務を負っており、登記申請人であるA’の本人性を疑くべき相当な理由があったし、少なくとも本件契約の代金等決済を阻止すべき義務があった

前記齟齬に気付くことなく決済を完了させたことにつき本件登記の申請手続状の注意義務違反による不法行為がある。
  ●争点③について、
売買代金2800万円、仲介手数料90万円、登記手続費用等56万円の損害を認めた。 
  民事p51
那覇地裁H30.1.23  
  戦争被害と損害賠償責任
  事案 戦争被害を受けた者、その遺族であると主張するXらが、
Y(国)に対し、
主位的請求として、旧日本軍の戦闘行為等が不法行為に当たると主張し、
民法709条、715条等に基づき、
第一次予備的請求として、条理等を根拠とする公法上の危険責任に基づき、
第二次予備的請求として、Xらの被害を救済する立法の不作為につき、国賠法1条1項に基づき 
謝罪及び損害賠償を求めた事案。
  争点 ①Yの不法行為責任の成否
②Yの公法上の危険責任の成否
③Yの立法不作為に係る国賠法上の責任の成否
  判断 ●争点①について 
行政裁判法、裁判所構成法、旧民法及び国賠法の起草経過及び法案審議等並びに関連裁判例及び学説の各内容を検討した上で、
国賠法附則6項にいう「従前の例」については、
国家の権力的作用ないし統治権に係る行為に関しては国の民法上の不法行為責任を否定するとの不文の法理が裁判実務において通用し確立した公権的解釈となっていたことを指すものであって、そのような状態を引き継ぐことが国賠法附則6項に立法者意思であった。
本件については国賠法附則6項が適用される⇒Yは旧日本軍の戦闘行為等について不法行為責任を負わない。
  ●争点③について 
本件事案における立法不作為の国賠法上の違法性の判断枠組みにつき、
最高裁判例を参照しつつ、
Xらが主張する立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるためには、その先決問題として、当該立法不作為が憲法の規定に反することが明白であることが必要。
本件において立法不作為が憲法14条1項に違反することが明白であるというためには、同不作為が国会の裁量権の範囲を逸脱するものであり、しかもそれが明白であるといえること、すなわち、既存の立法による補償対象者とXらとの間に、明らかに不合理な差別が生じているといえることが必要。
戦傷病者戦没者遺族等援護法が当初軍人軍属等のみを対象としていたことの合理性や、同法の適用対象の拡大にもかかわらずXらが対象とされていないことの合理性につき検討

いずれについても、明らかに不合理な差別とはいえないと結論づけた。 
  解説  国家無答責の法理:
A:同法理が実定法に根拠を有するという実定法説
国賠法附則6項にいう「従前の例」を国家無答責の法理を指すものとして、民法上の不法行為に基づく請求を排斥。
B:実定法説を否定する説
C:実定法説を採用せず、国賠法附則6項の「従前の例」には当該確立していた判例法理も含まれるとしつつ、一定の場合に、国賠法施行前の国の権力的作用に当たる行為につき、未納の不法行為規定の適用があり得るとする裁判例 
本判決は、実定法説を採用しなかった。
  戦後補償:
戦争犠牲ないし戦争損害に対する補償は憲法の予想しないところであって、その補償の要否及び在り方は、立法府の裁量的判断にゆだねられたものとの判断が確立。
  労働p81
福岡高裁宮崎支部H29.8.23  
  ルート営業⇒心停止(心臓性突然死)⇒業務起因性(肯定事例)
  事案 Xは、Aが死亡したのは、過重な労働に従事したのが原因⇒労災法に基づく遺族補償給付等を求めた⇒不支給の処分⇒不支給処分の取消を求めて提訴 
  原審 本件発症前6か月間の月平均時間外労働時間を56時間15分と認定⇒本件発症前6か月間の労働により相応の疲労の蓄積があったことを背景に、発症直前の9日間における本件クレームへの対応や県外出張による強度の精神的、身体的負荷が短期間に集中したことによって、Aの血管病変等をその自然の経過を超えて急激に悪化させたことにより本件発症に至ったと認めるのが相当⇒業務起因性を肯定し、不支給処分を取り消した。 
  解説 労災保険給付の対象となる業務災害:
労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡をいう(労災法7条1項1号)。

労災保険給付の対象となる労働者の傷病等は、「業務上」のものであることが必要であり、業務起因性の問題として議論。 
業務起因性:
通説・判例(最高裁昭和51.11.12):
傷病等と業務との間に相当因果関係が必要であるとされている。

相当因果関係を肯定するに当たり、傷病等の発症と業務との間にどの程度の結びつきを要するのかに関し、相対的有力原因説と共働原因説がある。

最高裁判決には、いずれの見解をとるのかについて一般的な判示をしたものはなく、具体的事案に即して、
問題となっている労働災害が業務に内在しない随伴する危険が現実化したものかどうかを判定して業務起因性の有無を判断。
行政手続:
労働者に発症した脳・心臓疾患についての業務上外の認定は、厚労省が発出した通達(平成13年12月12日基発第1063号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」)に基づいて行われている。
この通達は、行政機関が労災保険給付を迅速かつ画一的に行うための内部基準⇒裁判所の判断を拘束しない。
but
前記通達に定める認定基準は、相当の合理性があると考えられ、本件控訴審・一審とも、認定基準の定める要件について、その趣旨を十分に踏まえて検討するのが相当として、業務起因性の検討を進めている。
  判断  一審判決の認定判断を補正し引用し、また、前記専門検討会報告書に示された考え方を補充して認定しつつ、
業務の過重性に関し、
①本件発症の6か月前から平均して2時間を超える時間外労働が恒常化しており、その業務量及び業務内容が相当程度の精神的、肉体的疲労を蓄積するに足りるものであること、
②本件発症前の約1か月については、Aの所属部署の繁忙期とされるゴールデンウィークの連休前後の時間が含まれていて、1時間ないし3時間以上を超える残業が続いており、連休中を含めて連続して休日がとれたの1回だけであった
③本件クレームが発生した後は、通常業務に加えて本件クレームへの対応を余儀なくされ、時間外労働を強いられた
④本件発症前の1週間については、長時間の移動を伴い、早期ないし深夜に及ぶ3回の県外出張があり、本件発症当日に行われた出張は、大口取引先に対する本件クレーム対応を含むものであり、このような出張がAにとって強度の精神的、身体的負荷となっていた

基礎疾患に関しては、Aにブルガダ症候群の基礎疾患が存在し、本件発症がブルガダ症候群による心室細動によって引き起こされた可能性は否定できないとしつつも、睡眠不足、疲労やストレスは、少なくとも心室細動ないし心停止の誘因となり、本件発症前、Aにブルガダ症候群の症状が生じていたことがうかがわれないこと

Aの日頃の飲酒状況、Aの本件発症前の業務の内容、態様、とりわけ本件発症直前のAの業務内容、態様も鑑みると、
Aは、その所属する部署の繁忙期に続いて起きた本件クレームへの対応等の業務により強度の精神的、身体的負荷を受けており、本件発症直前には強度のストレス、睡眠不足、疲労の状態にあったと認められ、これらが本件発症の誘因となったとみるのが合理的かつ自然。
本件発症は、Aが従事していた業務に内在する危険が現実化したものと評価するに十分であり、本件発症とAの業務との間に相当因果関係を認めることができる。
  刑事p101
最高裁H29.6.12  
   
  事案 JR福知山線脱線事故について、JR西日本の歴代社長であった被告人3名が、検察審査会の強制起訴議決により指定弁護士から強制起訴された業務上過失致死の事案。 
  公訴事実 被告人らにおいて、ATS整備の主管部門を統括する鉄道本部長に対し、ATSを本件曲線に整備するよう指示すべき業務上の注意義務があったのに、これを怠った過失があるとするもの。 
  争点 指定弁護士:
被告人らにおいて、運転士が適切な制動措置をとらないまま本件曲線に侵入することにより、本件曲線において列車の脱線転覆事故が発生する危険性を予見できた旨主張⇒被告人らの具体的予見可能性の有無が争点。 
  解説  学説上、予見可能性が過失犯の成立に必要な要件であることはおおむね異論がないが、どのような場合に予見可能性を肯定することが許されるかについて、過失犯の構造に対する理解((修正)旧過失論、新過失論、新・新過失論)の対立と密接に関連して、見解が分かれる。 
A:具体的予見可能性を要求する見解
B:課されるべき義務の内容如何によっては低い予見可能性で足りるとする危惧感説
C:注意義務が設定される時点の抽象的な危険の予見可能性で足りる
予見可能性の対象:
A:故意犯と同様に、結果及び因果経過の基本的部分が予見可能性の対象となる
B:現実の因果経過についての予見可能性は不要
  判例上、
弥彦神社事件決定(最高裁昭和42.5.25):
過失とは結果の予見可能性とその義務、結果の回避可能性とその義務によって構成される注意義務に違反すること

予見可能性の対象・程度に関し
北大電気メス事件控訴審判決(札幌高裁昭和31.3.18)をはじめとする下級審判例・裁判例:
結果及び因果関係の基本的部分を予見対象とする具体的予見可能性説を採用していると評価 
予見可能性の有無が争われた最高裁判例:
ホテルの防火防災対策の不備を認識⇒いったん火災が起これば初期消火の失敗等により本格的な火災に発展し、宿泊客らに死傷の危険の及ぶおそれがあることは容易に予見できたとして経営者の過失を肯定(川治プリンスホテル事件、最高裁H2.11.16、ホテルニュージャパン事件(最高裁H5.11.25)

現実に生じた因果関係を具体的に予見できなかったとしても、ある程度抽象化された因果経過は予見可能だったとして工事施工者の過失を認めた、近鉄生駒トンネル火災事件決定(最高裁H12.12.20)

具体的予見可能性を厳格に要求する立場には立っていない。
  判断
・解説 
本決定:
本件公訴事実が、
①鉄道本部長に対してATSを本件曲線に整備するよう指示すべき業務上の注意義務違反を問うものであること、及び
②被告人らにおいて、運転士が適切な制動措置をとらないまま本家曲線に侵入することにより、本件曲線において列車の脱線転覆事故が発生する危険性を予見できたこと
を前提とすることを指摘。 
本件公訴事実:
「JR西日本管内に数多くある曲線のうち、本件曲線に特化された脱線転覆事故発生の危険性の認識(可能性)」を前提とする本件曲線へのATS整備指示義務をもの
⇒そのような危険性の認識可能性がなければ、被告人らにこれを根拠とする本件公訴事実記載の注意義務があったとはいえないであろう。
  本決定:
①本件事故以前の法令上、ATSに速度照査機能を備えることも、曲線にATSを整備することも義務付けられておらず、大半の鉄道事業者は曲線にATSを整備していなかった
②本件事故後に改正された国土交通省令及びその解釈基準等で示された転覆危険率を用いて脱線転覆の危険性を判別し、ATSの整備箇所を選別する方法は、本件事故以前において、JR西日本はもとより、国内の他の鉄道事業者でも採用されていなかった
③JR西日本の職掌上、曲線へのATS整備は線路の安全対策に関する事項を所管する鉄道本部長の判断に委ねられており、被告人ら代表取締役においてかかる判断の前提となる個別の曲線の危険性に関する情報に接する機会は乏しかった
④JR西日本の組織内において、本件曲線における脱線転覆事故発生の危険性が他の曲線におけるそれよりも高いと認識されていた事情もうかがわれない
こと等
⇒ 
被告人らが、管内に2000か所以上も存在する同種曲線の中から、特に本件曲線を脱線転覆事故発生の危険性が高い曲線として認識できたとは認められない。
  指定弁護士:
本件曲線において列車の脱線事故が発生する危険性の認識に関し、
「運転士がひとたび大幅な速度超過をするば脱線転覆事故が発生する」という程度の認識があれば足りる

本決定:
本件事故以前の法令上、ATSに速度照査機能を備えることも、曲線にATSを整備することも義務付けられておらず、大半の鉄道事業者は曲線にATSを整備していなかったこと等の本件事実関係

上記の程度の認識をもって、本件公訴事実に係る注意義務の発生根拠とすることはできない。
  解説  本決定の前段:
公訴事実記載の「本件曲線に特化された脱線転覆事故発生の危険性の認識(可能性)」 を否定
but
実体法上、本件の訴因である「鉄道本部長に対してATSを本件曲線に整備するよう指示すべき業務上の注意義務」の発生根拠は、
必ずしもそのような本件曲線に特化された予見可能性がある場合に限られるものではない。

本件と同様に経営者の管理・監督過失が問われた前掲の川治プリンスホテル事件、ホテルニュージャパン事件の各決定は、
いったん火災が起これば初期消火の失敗等により本格的な家裁に発展し、宿泊客らに死傷の危険の及ぶおそれがあることは容易に予見できた」という程度の予見可能性をもって経営者の過失を肯定

現実に生じた火災の原因・場所等、具体的火災の発生の予見可能性は問題とされていない。
but
これらの判例において経営者の過失が肯定されたのは、
小貫裁判官の補足意見が指摘するとおり、
火災発生の期k背んがあることを前提として法令上の義務付けられた防災体制や防火設備の不備を認識しながら対策を怠っていた等、一定の義務発生の基礎となる事情が存在したからであって、
前記の程度の予見可能性のみによって過失が肯定されたわけではない。

どの程度の予見可能性があれば過失が認められるかは、個々の具体的な事実関係に応じ、問われている注意義務ないし結果回避義務との関係で相対的に判断されるべきもの。これを所論が援用する判例との関係でみると、火災発生の危険があることを前提として法令上義務付けられた防災体制や防火設備の不備を認識しながら対策を怠っていた等、一定の義務発生の基礎となる事情が存在する大規模火災事例における予見可能性の問題と、そのような事情が存在したとは認められない本件のそれを同視することは相当ではない」
(MKA:義務違反⇒抽象的予見可能性でいい?予見可能性+義務違反⇒過失?)
結果回避義務(又は作為義務)の有無を判断する上で、以上のような法令上の規定の有無や同業者間における一般的な対策状況は、重要な考慮要素になり得る。
  刑事p105
東京高裁H29.6.28  
  違法収集証拠法則により覚せい剤取締法違反の公訴事実について控訴審で無罪とされた事案
  事案 覚せい剤事犯(自己使用と所持)において、職務質問に引き続く現場の留め置きの適法性、令状請求手続の適法性が問題となった事例。 
  判断 採取された被告人の尿は、一連の違法な手続によって得られたものであり、その違法の程度が令状主義の精神を没却する重大なもの

採取された尿及びこれと密接に関連する尿の鑑定書、さらには、別に差し押さえられた覚せい剤も、前記尿と密接に関連する資料を含む疎明資料によって発付された捜索差押許可状によって得られたことを理由に、証拠能力を否定。

覚せい剤の使用及び所持のいずれの公訴事実についても、無罪。 
  解説 本判決の注目すべき点:
①職務質問を開始して約1時間後に、警察官が令状請求に入る旨を被告人に伝えたが、その時点では、被告人に薬物使用を疑わせるような具体的な身体的特徴を見出すことはできず、被告人が一貫して明確に所持品検査や尿の提出を拒否
⇒合理的な時間内に任意の協力を得られない以上、職務質問を打ち切り、被告人の留め置きを解消せざるを得ず、それをしないで、令状の呈示まで約5時間留め置いたのは違法であると判断。
②令状請求の際の資料となる捜査報告書に、警察官が、事実と異なる記載をした(捜査報告書には、被告人の目がきょろきょろする、目の焦点が合わず瞳孔が開く、周囲の状況を異常に警戒する、といった記載があるが、そのような状況があったかは相当疑問があると認定)ことは、令状請求に関する担当裁判官の判断を大きくゆがめるもので、そのような疎明資料を提出して、強制採尿令状の発付をえたことは、令状主義の精神を没却する重大な違法があると判断したこと。 
第1の点:
職務質問開始から強制採尿令状の呈示まで約5時間経過。
but
適法に発付された令状を提示していれば、これだけ時間が経過していても違法とはならなかったと解される。 
警察官が、エンジンキーを回してスイッチを切ったり、エンジンキーを引き抜いて取り上げる行為も、状況によっては、強制手段とはいえず、許される。(判例)
第2の点:
疎明資料とされた捜査報告書の作成者である警察官は、現場に到着してから約4分後に、令状請求に入る旨を告げた⇒その4分の間でこのような観察ができたかが問題とされ、現場の状況から見てそれはできないとの認定⇒警察官が、事実と異なる内容の疎明資料を作成したと認定。 
一般に、覚せい剤事犯の強制採尿令状の請求に当たり、捜査機関から提出される疎明資料は、
被告人が薬物犯罪歴のある者で、任意採尿や腕を見せるのを拒むなどの事例の外、
被疑者の様子として、目つきや、行動についての記載のある捜査報告書などがある。

目(付き)がきょろきょろしているとか、態度がそわそわしているとか、警察官と目を合わせないなどと、かなり、観察者である警察官が主観的に認定しかねない事項が多く、それを基礎付ける客観的な資料が無いか少ない場合が多い。
⇒警察官の誠実性が相当重要な要素となる。
令状主義は、権利を擁護するための憲法上の原則であり、その令状を取得するために事実と異なる記載のある資料を用いるなど、決してあってはならず、故意にそのような記載をしたと疑われる場合は、本件令状請求を却下すべき。
近時は、比較的早期に令状請求手続に入ることを対象者に伝えるようになってきている。

「二分論」が影響。
強制採尿令状請求の準備に着手した時点を基準として、それ以前の純粋に任意の段階と、それ以後の強制以降段階に分けて、それぞれの段階に応じて、留め置きの適法性を考えようとするもの。

令状請求ができるということは、それだけ嫌疑が高まっている⇒留め置きの必要性は高まっているし、留め置きの目的は、令状が発付された場合の執行のための対象者の所在確保となる。
but
手続の性質は依然として任意⇒それだけで許される措置が異なるとまでいえるかは疑問。 
  刑事p115
名古屋高裁H30.3.23  
  少年法20条の検察官送致決定への不服、責任能力が問題となった事案
  事案 少年による①②殺人未遂事件2件、③殺人事件、④現状建造物等放火未遂、殺人未遂罪、⑤⑥同様の目的から火炎瓶を製造し、その火炎瓶に転嫁して知人方の掃き出し窓を損壊したという火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、器物損壊事件 
家庭裁判所に係属⇒少年法20条による検察官送致決定⇒地方裁判所に公訴が提起。
  弁護人  家庭裁判所の検察官送致決定は違法・無効⇒本件公訴提起は違法・無効
①②事件について殺意無し
責任能力無し
  判断
・解説
●公訴提起の有効性
少年法が、検察官に対し原則的に公訴提起を義務付ける効力を備えた家庭裁判所のした中間処分としての性質を持つ検察官送致決定に対する不服申立制度を法定していない
⇒その決定自体が手続的な瑕疵を帯びる場合は格別、家庭裁判所の判断内容の当否に関する不服は、同法55条に基づく家庭裁判所への移送の当否を論ずる場合を除き、許されない。

本件の検察官送致決定の内容的な判断に関する不服を理由として、同決定に基づく公訴提起の違法や無効をいう所論は、それ自体として失当を免れない。
◎コメント
検察官送致決定決定の実態的瑕疵を争うことができなくなりそうだが、その射程範囲が問題。
非行時13歳であることを看過してなされた検察官送致決定は違法であり、その後の公訴提起もまた違法であると判示した仙台高裁昭和24.11.25。
少年法内における不服申立制度がないからこそ、刑事手続内での救済が必要とされるとの議論もあり得る。 
被告人は、家庭裁判所の検察官送致決定の後、成人後に起訴された。

検察官送致決定の起訴強制力は対象者の成人により失われるかに関連して、そのような経緯を経た刑事事件においても検察官送致決定が訴訟条件となるか?
原判決はこれを肯定。
本判決は、この点について、明示なし。
  ●殺意 
①投与されたタリウムの量は死亡例のある分量を超えている⇒各投与行為はいずれも各被害者を死亡させる客観的危険性の高い行為
②被告人はタリウム等の毒性に強い関心を持ってそれらに関するウェブページを閲覧して致死量について知識を有していた⇒自己の行為により被害者が死亡する危険性があることを十分に認識しながらあえてその行為に及んだと推認
⇒被告人の故意を認定。
  本件各行為の精神状態 
A鑑定:
被告人は、特定不能の広範性発達障害またはアスペルガー症候群に分類される発達障害を有しているが、その障害の程度は重度ではなく、
また、気分変動がみられるが、躁状態は軽躁状態にとどまるから双極性Ⅱ型障害に該当するところ、犯行自体は幻覚や妄想という精神病症状に支配されておらず、被告人の自由な意思に基づく。
軽躁状態は犯行の実行に弾みを付けた点で一定の影響はあるが限定的。
B・C鑑定:
被告人の発達障害は自閉スペクトラム症であって、その程度は重篤であり、双極性障害も重度の躁状態を伴う双極性Ⅰ型障害。
これらの精神障害の影響により、犯罪に対する抑止力が働かない程度に気分の高揚した思考の揺るぎない状態にあり、すべてが許されるなどと考えが突き抜けてしまう誇大妄想状態に至ったため犯罪を実行に移した。
原判決:
A鑑定を信用できるとし、それに依拠した上で、
各犯行の動機、犯行時やその前後の被告人の行動、当時の被告人の認識や意識等を検討⇒各犯行時、被告人は完全責任能力を有していると判断。

完全責任能力の範囲内ではあるが、精神症状が犯行に影響していること、その程度が犯行ごとに異なることも認定。
2401   
  行政p3
仙台地裁H30.6.26   
   
  事案 原告が宮城県議会の保有する情報の公開に関する条例に基づき同議会議員の政務調査(活動)費に関する文書の開示を求めた⇒宮城県議会議長が一部を県議会条例8条2号に該当することを理由に開示しないとの決定⇒本件処分の一部の取消しを求めた。 
  判断 ①県条例によって会議等の出席者の個人名が開示されているのは各開示基準が定められているから⇒県条例8条1項2号ただし書イ該当性が比較衡量論によって判断されているとは認められない。
②県条例及び県議会条例の文言⇒その該当性を比較衡量論によって判断すべきとの原告の主張は無理がある。
③鳥取県議会や船橋市議会が政務活動費に関する領収証に記載された個人名を開示しているからといって宮城県議会も本件非開示部分を慣行として公開し、又は公開することを予定しているとは認められない。

原告の請求を棄却。 
  行政p9
青森地裁H30.11.2  
  市立記念館条例を廃止する条例の制定行為の違法性
  事案 Y(青森県十和田市) が、地自法244条1項所定の公の施設として十和田市立新渡戸記念館(本件記念館)を設置し、十和田市立新渡戸記念館条例(本件記念館条例)において、その設置及び管理に関する事項を定めていたが、平成27年6月26日、本件記念館条例を廃止する条例(本件廃止条例)を制定

Xが、Yに対し、本件廃止条例制定行為が行訴法3条2項所定の処分に当たることを前提として、本件廃止条例制定行為の取消しを求めた。
  経緯 当初、本件廃止条例制定行為の処分性が否定され訴え却下
⇒控訴審で処分性が認められ、原判決取消しの上で第一審に差し戻された。 
  主張 ①本件廃止条例行為の前提となった本件耐震診断は不合理であり、処分の根拠とされた事実に誤りがある。
②仮にそうでないとしても、本件建物を本件記念館として使用する公益上の必要は消滅しておらず、Yの財政状況に問題がない⇒新たな建物を建築せずに本件記念館を廃止することは不合理であるとして、裁量権行使の逸脱又はその濫用がある。 
  判断 主張①について:
不合理があるとはいえない。
主張②について:
不合理があるとはいえない。

本件記念館を廃止した場合にXが失う諸利益(Yによる本件資料の維持修理や本件資料に係る賃料等)については、本件各契約等において本件記念館が廃止され得ることを前提とする条項がある⇒将来本件記念館が廃止されてXが前記諸利益を失い得ることは当初から排除されていない。
また、その具体的不利益も大きなものとはいえない。


本件廃止条例制定行為に係るYの裁量権行使に逸脱又はその濫用があるということはできない。
  解説 本判決:
公の施設の廃止が地方公共団体の裁量的判断に委ねられているとした上で、かかる裁量的判断も裁量権行使に逸脱又はその濫用がある場合には違法となる。
公の施設を廃止する条例を制定する行為について、行訴法3条2項所定の処分としての違法性について判断した事例では、いずれも本判決と同様に、公の施設の廃止について地方公共団体の裁量を認め、裁量権の行使に逸脱又は濫用があるか否かによって違法性を判断。
  民事p22
最高裁H30.9.27    
   (自賠法16条1項に基づく請求権の額+労働者災害補償保険法12条の4第1項により国に移転して行使される請求権の額)>自動車損害賠償責任保険の保険金額の場合の被害者の取り分。
  事案 自動車同士の衝突事故により被害を受けたXが、加害車両を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険(「自賠責保険」)の保険会社Yに対し、自賠法16条1項に基づき、保険金額の限度における損害賠償額及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めた事案。 
自動車の運行によって生命または身体を害された者(「被害者」)の同条項に基づく損害賠償額の支払請求権(「直接請求権」)と政府が被害者に対し労災法に基づく給付(「労災保険給付」)を行ったことから同法12条の4第1項により国に移転した直接請求権が競合する場合の相互の関係(争点①)及び
自賠法16条1項に基づく損害賠償額支払請求が履行遅滞となる時期(争点②)が争われた。
  事実 Xは、平成25年9月8日、トラック乗務員として中型貨物自動車を運転中、運転者の前方不注視等の過失により反対車線から中央線を越えて侵入した加害車両と正面衝突⇒左肩腱板断裂等の障害を負い、左肩間接の機能障害等の後遺障害が残った。 
本件事故当時、加害車両についてYを保険会社とする自賠責保険の契約が締結。
政府は、平成27年2月までに、に対し、労災保険給付として、療養補償給付、休業補償給付及び障害補償給付を行った。
⇒本件事故に係るXのYに対する直接請求権が、労災法12条の4第1項により、前記の労災保険給付の価額の限度で国に移転。
Xが前記の労災保険給付を受けてもなお填補されない本件事故に係る損害額は、障害について303万5476円、後遺障害につき290万円。
本件事故に係る自賠責保険の保険金額は、傷害につき120万円、後遺障害につき224万円。
  判断 ●争点① 
交通事故の被害者が未填補損害について直接請求権を行使する場合は、
他方で労災法12条の4第1項により国に移転した直接請求権が行進され、被害者の直接請求権の額と国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超えるときであっても、
被害者は、国に優先して自賠責保険の保険会社から自賠責保険金額の限度で損害賠償の支払を受けることができる。 
  ●争点② 
自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」とは、保険会社において、被害者の損害賠償額の支払請求に係る事故及び当該損害賠償額の確認に要する調査をするために必要とされる合理的な期間をいい、
その期間については、自己または損害賠償額に関して保険会社が取得した資料の内容及びその取得時期、損害賠償についての争いの有無及びその内容、被害者と保険会社との間の交渉経過等の個々の事案における具体的事情を考慮して判断すべき

元判決中、344万円に対する訴状送達の日の翌日から本判決確定の日の前日までの遅延損害金の支払請求を棄却した部分を破棄し、同部分につき本件を原審に差し戻し。
  解説 ●争点①
被害者の直接請求権と社会保険者が代位取得した直接請求権が競合し、それらの合計額が自賠責保険金額を超える場合において、被害者が社会保険者に優先して自賠責保険金額の限度で損害賠償額の支払を受けることができるか?
最高裁H20.2.19:
市長が老人保健法に基づく医療の給付を行って直接請求権を代位取得し、これを行使した事案において、被害者優先説を採用。

基本的に案分説をとっていた自賠責保険実務の運用は変更され、
老人保健法の事案のほか健康保険等の事案においても被害者優先説に従った取扱い。
but
労災保険の事案では、案分説に従った運用が維持。
A:案分説

①各直接請求権の同質性と平等分割の原則(民法427条)を根拠とする見解
②労災保険給付は損害填補を目的とする、あるいは損害填補に当たる給付が含まれる点で健康保険等の給付とは異なる

vs.
労災保険給付は損害填補を目的とするものではあるが所得保障的機能も有しており、一方、他の社会保険給付も損害額からの控除により損害填補の機能を果たしていることからすれば、損害填補の性格を強調して労災本件給付を他の社会保険給付と別異に取り扱う合理的な理由はない。

B:被害者優先説(学説の多数派)

①求償権の代位取得は被害者の二重利得の禁止及び加害者の免責阻止といった保険の技術的ないし政策的要請等から認められるものにすぎず、損害填補を目的とする被害者の直接請求権の行使を阻害してまで社会保険者が被害者と対等の地位に立つと解すべきでない
②案分説に従うと、社会保険者と自賠責保険の保険会社のいずれに対し先に請求するかによって損害の填補額に不合理な差異が生じる

本判決は、
自賠法16条1項が被害者の直接請求権を認めた趣旨及び労災法12条の4第1項が求償権の代位取得を認めた趣旨に鑑み、被害者優先説を採用。
  ●争点② 
自賠法16条1項に基づく損害賠償支払債務は、期限の定めのない債務として、民法412条3項により保険会社が被害者から履行の請求を受けた時に履行遅滞となるというのが確立した判例理論。
but
平成20年商法改正により成立した保険法が損害保険の保険給付の履行期について21条で規定したのとの平仄を合せる形で、自賠法も損害賠償額支払債務の履行期について16条の9を新設。

本件では、経過するまでは保険会社が遅滞責任を負わないとされる同条1項にいう「事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」の意義が問題。
同条項が倣った保険法21条2項を同条1項と対照してみると明らかなように、保険者が履行期に確認すべき事項は限定されており、保険者に立証責任のある免責事由等は確認がされていなくとも遅滞責任が生じる余地はある。

保険者が保険給付を行なう期限を定めなかった以上、必要最低限の確認をするために必要な期間に限って遅滞責任を負わないこととするのが相当。
保険法  第二一条(保険給付の履行期)
 保険給付を行う期限を定めた場合であっても、当該期限が、保険事故、てん補損害額、保険者が免責される事由その他の保険給付を行うために確認をすることが損害保険契約上必要とされる事項の確認をするための相当の期間を経過する日後の日であるときは、当該期間を経過する日をもって保険給付を行う期限とする。
2 保険給付を行う期限を定めなかったときは、保険者は、保険給付の請求があった後、当該請求に係る保険事故及びてん補損害額の確認をするために必要な期間を経過するまでは、遅滞の責任を負わない。
3保険者が前二項に規定する確認をするために必要な調査を行うに当たり、保険契約者又は被保険者が正当な理由なく当該調査を妨げ、又はこれに応じなかった場合には、保険者は、これにより保険給付を遅延した期間について、遅滞の責任を負わない。
  民事p32
東京高裁H30.3.23  
  主幹事証券会社の責任が問題となった事案
  事案 上場廃止した株式会社Aの株主Xらが、A社の役員、A株式会社の募集又は売出しに関与した元引受証券会社(主幹事証券会社はY)及び受託証券会社、売出しに係る株式の所有者、東京証券取引所及び日本取引所自主規制法人らに対し、
金商法21条1項1号・2号・4ごう、22条1項及び17条、会社法429条2項又は民法上の不法行為責任に基づき、株価下落等に係る損害賠償を求めた。 
  原判決 元引受契約を締結した主幹事証券会社の金商法上の責任を肯定 
  判断 主幹事証券会社の責任を否定 
金商法21条2項3号及び17条ただし書の「相当な注意」の意義について
①金商法21条1項4号の免責要件を、財務情報のうち、
(ア)「財務計算」に関する書類に関する部分(「財務計算部分」)の虚偽記載についてはそれを知らなかったこと
(イ)財務計算部分以外の部分の虚偽記載については「相当な注意」を用いたこととし、
②金商法17条の免責要件を、すべての財務情報について「相当な注意」を用いたこととして、
③前記①(ア)によって、元引受証券会社が免責されることにより、積極的な調査をしない姿勢を招き、投資者保護の目的に欠けるとの懸念については、金商法17条の責任によって補完される。
有価証券届出書に記載された財務情報で監査証明を受けたもの(財務経産部分)に虚偽記載があった場合に、元引受証券会社はどのような調査を行っていれば「相当な注意」を用いたといえるかについて、
①元引受証券会社は、引受審査において、会計監査を経た財務情報(財務経産部分以外のものを含む。)の部分については、
公認会計士等による監査結果の信頼性に疑義を生じさせるような事情の有無を調査・確認し、このような事情が存在しないことが確認できた場合には、当該監査結果を信頼することが許され、
②調査・確認の結果、公認会計士等による監査結果の信頼性に疑義を生じさせるような事情が判明した場合であっても、自ら財務情報の正確性について公認会計士等と同様に実証的な方法で調査する義務はなく、一般の元引受証券会社を基準として通常要求される注意を用いて調査結果に関する信頼性についての疑義が払拭されたと合理的に判断できるか否かを確認するために必要な追加調査を実施すれば足りる。
Y社の審査担当者が、
①会計監査人が預金通帳の原本を確認したと認識していたこと
②第一投書受領前に国内及び海外の取引先を訪問して販売実績を確認していたこと、
③第二投書受領後にも会計監査人から意見を得ていたこと
等の事実

一般の元引受証券会社を規準として通常要求される注意を尽くしたか否かとの観点から、Y社が「相当な注意」を用いていたといえる。

金商法上の責任は否定される。
  解説 原審:財務計算部分についても、元引受証券会社は、無条件にその内容を信頼することが許されるのではなく、会計監査の結果の信頼性を疑わせる事情の有無についての審査義務を負うとする有力説の立場に依拠。
本判決:通説的な見解に立った。 
  刑事p114
宮崎地裁H30.1.19
  危険運転致死傷罪の成立を否定し予備的訴因の過失運転致死傷罪の成立を認めた事案
  解説 自動車死傷法3条2項の危険運転致死傷罪:
自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、その結果正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた場合に成立。

そして、同法施行令3条は、道路交通法令において運転免許の欠格事由として列挙されている例を参考に、自動車の運転に支障を及ぼすおそれのある病気として、「意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがあるてんかん」(2号)を挙げている。
他方、認知症は、運転免許の欠格事由ではあるが、危険運転致死傷罪の対象となる病気からは除外されている。

道路交通法令において欠格事由となるのは、対象者が日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態にある場合(介護保険法5条の2参照)に限定されており、このような病気にり患している者が自動車を運転して人を死傷させた場合、危険運転致死傷罪の故意や責任能力を問えないのが通常と考えられた。 
  事案 73歳の高齢の被告人が、被害者6名に自動車を衝突させて死傷させた。

検察官:被告人を自働車死傷法3条2項の危険運転致死傷法3条2項の危険運転致死傷罪で起訴し、本件犯行時にてんかんにり患しており、その影響により意識障害に陥っていたと主張。

弁護人:てんかんのり患を否認し、認知症を主張。 
  判断 ●I医師が被告人がてんかんにり患していたと鑑定した点
①I医師がてんかんや脳波を専門とする医師として、てんかんの診断に関する専門的な知見と豊富な臨床経験を有している
②被告人の過去の入通院先の診療録等を検討して、発作による一時的な病状の悪化と回復を繰り返していることを根拠に診断

信用性が高い。
  ●I医師が、被告人が、治療が必要な程度の認知症を有していたとは考えられないとした点 
①I医師は、刑事事件の鑑定の経験がなく、てんかんが事故に及ぼした影響の有無や程度の検討が求められていることを十分に理解しないまま鑑定を行っている
すなわち、被告人車両が歩道上に多数設置された車止めに衝突することなく相当の距離を走行したことを把握していないなど、鑑定の基礎となる資料に対する明らかな検討不足があり、そのために重要な事実関係に関し明らかな誤解に基づく判断をしている。
②I医師は、弁護人から歩道上での被告人の走行状態などに関する指摘を受けると、1点凝視の症状を伴うてんかん発作が生じていたとの証言を撤回し、被告人の覚醒レベルに変動があったとする説明⇒鑑定意見を支える最も重要な根拠となる症状がなかったことを認めたものであり、てんかん以外の疾患を原因とすることを除外できる根拠が示されているとは認め難い
③本件の4日前の脳波検査の結果も根拠but脳波検査の検討において重要となるなずの記録条件等を慎重に吟味した形跡がうかがえない
④被告人は、本件事故当日、妻に対して座椅子を買いに行くと述べていたのに、財布や携帯電話も自宅に置いたまま、事故現場まで約320キロの道のりを約7時間かけて走行しており、このような目的に合わない長距離時間の運転がてんかん発作による意識障害により生じたとみるには無理がある。

I医師の鑑定意見の信用性を否定し、
本件事故は、てんかんの発作により被告人の意識レベルの変動があったと考えなければ説明がつかないものではなく、
むしろ、被告人の認知機能の低下により本件事故が引き起こされた可能性も一概には否定できない。


危険運転致死傷罪の成立を否定し、予備的訴因である過失運転致死傷罪が成立するにとどまる。
5月   
2400   
  民事p5
東京高裁H30,.3.28
●  
   救急搬送時の検査義務違反が問われた事案。 
  事案 Aの相続人であるXは、Y1医師には救急搬送時に頭蓋内圧亢進症を疑って検査をすべき義務があるにもかかわらず、必要な検査をせずに退院指示をして、適切な治療を受ける機会を喪失させた過失がある⇒
Y1医師に対しては不法行為に基づき、
Y2市に対しては使用者責任又は債務不履行責任に基づき
連帯しての損害賠償を求めた。
  争点 本件搬送時の検査義務違反の有無 
  原審 Y1医師においてAに頭痛があるとの情報を得ていたものの、
①診察時には頭痛は消失しており、
②嘔吐についても頭蓋内圧亢進症の際の典型的なものとは異なる

その頭痛症状が一過性の片頭痛によるものと判断したことにつき医学的に不相当なものであったとはいえず、頭蓋内圧亢進症を疑い、CT検査を行うべきであったとは認められない。
  判断 ①本件搬送時、Aが既に頭蓋内圧亢進症を発症していたこと
②頭蓋内圧亢進症は、医学的知見によると、自覚的には頭痛、嘔吐及び視力障害が、他覚的にはには意識障害などがあり、嘔吐が終わらると頭痛は一時的に寛解し、また食べられるという特徴を有すること
③Y1医師は、収容要請において嘔吐、下痢、頭痛の症状があるとの情報を得ており、嘔吐、下痢の症状の後には通常は腹痛が見られるのに頭痛が発症していることにつき、疑問を抱き、頭痛の有無を聞いていること

頭痛と嘔吐の症状があり、かつ、嘔吐が終わると頭痛が寛解したことをもって、頭蓋内圧亢進症を疑うべきであった。

Y1医師には、本件搬送時、Aの頭蓋内圧亢進症を疑って、CT検査等を実施すべき義務があったとし、その上で、同義務があったにもかかわらず、これを怠り、本件退院を支持し、かつ、Aの状態悪化に気づかず、本件退院指示を撤回しなかった過失がある。
  解説 人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は、その業務の性質に照らして、危険防止のために必要とされる最善の注意義務を要求される⇒結果発生を回避するために必要な情報を収集して適切な医療行為を行わなければならない(最高裁昭和36.2.16)。 
本判決において、Y1医師が、Aに頭痛があるとの情報を得て疑問を抱いていたにもかかわらず、その後検査を行うなどしなかった事実が、医学的知見に照らし、検査義務違反を認める鍵となった。
  民事p20
名古屋地裁H30.4.27  
  文部科学大臣の朝鮮中高級学校の高級部について、公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則の指定をしないことと国賠請求
  事案 学校法人愛知朝鮮学園(「A学校法人」)は、その設置する愛知朝鮮中等学校の高級部(「B朝鮮高校」)について、
在学生を高等学校就学支援金の支給対象者とするために、公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則1条1項2号ハ(「本件省令ハ」)による指定を受けるための申請⇒文部科学大臣から不指定処分

B朝鮮高校に在学していたXらが、
①本件指定処分、
②本件申請から本件不指定処分まで約2年3か月を要したこと
③本件省令ハを削除したことが、
Xらに対する関係で国賠法上違法であると主張し、
Y(国)に対して、慰謝料等を請求。
  問題 文部科学大臣は、本件省令ハによる指定の基準等を定める規程(「本件規程」)を制定しており、
本件規程13条において、
「指定教育施設は、就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わなければならない」旨を定めていた。

本件ではYが、B朝鮮高校について、北朝鮮ないし朝鮮総連による「不当な支配」(教基法16条1項)が及んでいるおそれがあるため、本件規程13条の要件に適合せず、本件省令ハによる指定を受ける要件を満たさないと主張。

B朝鮮高校の本件規程13条の要件適合性が問題となった。
  判断・解説 Xらの法律上保護される利益を侵害するような違法行為は認められない⇒Xらの請求を棄却。 
  ●支給対象校の指定要件適合性
  本件規程の規定ぶり⇒本件規程13条に適合することが指定の実質的要件であり、教基法も同条にいう「法令」に含まれる。 
本件省令ハによる指定が受益処分に当たる
⇒通説に従い、同条の要件適合性の立証責任は申請者側が負う。
具体的な審理の在り方として、
①所轄庁による監督下において特段の指導や行政処分を受けたことがない旨を立証すれば、第1次的な立証責任を果たしたことなになる。
②その場合、Yが本件規程13条の要件適合性を争うときには、Yにおいて、B朝鮮高校に関し、法令に基づく学校運営が適正に行われていないことを合理的に疑うべき事情があることを具体的根拠・資料に基づいて主張立証する必要がある。

①学教法等の諸法令に基づく指導・処分等が行われていない限り、法令に基づく学校の運営は適正に行われていると事実上推認される
②本件規程13条の要件適合性を否定する場合、法令に基づく学校の運営が行われていないとの疑いを抱いた事情が存在するはずであり、その判断過程は通常Yが最もよく認識している。
B朝鮮高校に対する所轄庁からの指導・処分等は存在していない
but
①朝鮮総連のホームページでは、朝鮮総連の傘下団体が朝鮮学校の管理運営を行っていると記載されていたこと、
②A学校法人は、朝鮮総連の傘下団体名義で多額の借入債務を負担しているにもかかわらず、その詳細を全く把握しておらず、理事会・評議員会が自律的な意思決定を行っているとは考え難い
③朝鮮総連は朝鮮学校の教育内容に強い影響力を及ぼしており、その校長や教育に対し、北朝鮮の最高指導者を崇拝し、その考えや言葉を絶対視するような教育を行うべきことを繰り返し指導している

B朝鮮高校について、朝鮮総連ないしその傘下団体の介入により、教育本来の目的をゆがめるような不当な働きかけを受けている、すなわち、「不当な支配」に服していると合理的に疑わせる事情が存在したと認定。

外国人学校が本国又は在日民族団体と密接な関係を有することのみで「不当な支配」を認定することはできないものの、教基法16条1項の立法趣旨に照らせば、学校自身の自立性を害する態様で、中立かつ普遍不党性が確保されるべきである教育本来の目的をゆがめるような働き掛けが行われている場合には、「不当な支配」を認定し得るという理解を前提にしている。
  ●他事考慮
  Xらは、本件不指定処分に当たり、文部科学大臣が政治外交上の考慮(他事考慮)をしたとして、本件不指定処分が違法であるとも主張。 
本判決:
本件不指定処分の背景に政治外交上の考慮も存在していたことを認定しつつ、
本件の事実関係の下においては、他事考慮によっては、本件不指定処分は違法とはならないと判示。
行政処分に当たり行政庁に裁量が認められるときに他事考慮が行われた場合であっても、行政処分の結論に影響を与えたと認められない限り、当該処分は違法とはならない(最高裁H18.11.2)ところ、
本件においては、本件規程13条の要件適合性が不指定処分の理由となっており、他事考慮の有無にかかわらず文部科学大臣は不指定処分をせざるを得なかった⇒他事考慮が本件不指定の結論に影響を与えないものと判断。
  ●手続的違法と国賠法上の違法 
本件不指定処分について、行手法が定める処分理由の提示が不十分であったとしつつ、Xらに対する関係で国賠法上の違法を基礎づけるものではない。

①行手法の定める理由提示の趣旨が、行政庁の恣意抑制と申請者の不服申立てへの便宜付与にある(最高裁H23.6.7)
②Xらは申請者であるA学校法人と別人格
③手続的違法によりXらの本訴提起に特別な支障があったとは認められない
⇒本件不指定処分に理由提示不十分の手続的違法が存在することによってXらの権利利益が侵害されたとは認められない。
  ●本件省令ハの削除の違法性 
Xらは、国賠請求の理由として本件省令ハを削除する省令改正の違法性も主張。
①仮に本件省令ハが削除されていない場合であっても、Xらが就学支援金を受給できたとは考え難く、本件省令ハの削除によってXらの受給権やその期待権が侵害されたとは認められない
②本件省令ハの削除がXらの人格権を侵害するものとも認められない

本件省令ハ削除の違法性を判断することなく、国賠請求を棄却。
  ●民族教育と憲法・国際規約 
本判決:
民族教育を受ける機会を得ることはなどは、個人の人格的生存にとって必要不可欠なことといい得る⇒憲法13条、26条1項の趣旨に照らして尊重に値する。
but
①就学支援金制度が国民の租税負担の下に行われるものであること
②不指定処分の法的効果が就学支援金の受給資格が認められないというものにとどまり、民族教育を行なう自由自体を法的に規制するものではない

本件不指定処分等が憲法・国際条約に違反するとは認められない。
  民事p70
津地裁H30.5.10  
  市の非常勤職員と市長によるNPO法人に対する名誉毀損(否定)
  事案 Yは、Xが専務理事などを努める特定非営利活動法人(「NPO法人」)に啓発冊子事業及び相談業務等を数年間委託。
Xが、そのような状況下で、
①Yの非常勤職員による虚偽の指示に従い、NPO法人について誤った決算報告書を作成し、
②Y市長が行った市議会での答弁の内容により名誉を毀損された
⇒これらの行為によって、Yからの受託事業が終了するなどして報酬を失い、精神的苦痛を被ったとして、国賠法1条1項による損害賠償として、得べかりし利益(受託事業等による報酬2年分)及び慰謝料並びに遅延損害金の支払を求めた。 
  争点 ①Yの非常勤職員による指示ないし説明に国賠法1条1項の違法性があるか
②Y市長の発言に国賠法1条1項の違法性があったか 
  判断 ●争点①について 
地方公共団体の相談業務の担当職員による助言と職務行為上の注意義務:
助言、相談、h情報提供業務を担当する地方公共団体の職員は、・・・職務上の知見に基づき、可能な限り正確な情報を提供すべき義務を負う。
but
条例等に関する事務と関連性が低い事柄について、当該職員が客観的に正確な情報を提供しなかったとしても、行政サービスとしての相談業務の性質が希薄である場合には、当該職員が、情報提供の内容について職務上の注意義務に違反したとは当然にはいえない。

地方公共団体の・・・相談業務の担当職員による助言が職務行為上の注意義務に反するものか否かは、助言の内容のみならず、その前提となる相談内容と条例やその運用に関する事務との関連性、相談者の地位、知見の有無、程度等を考慮して判断するのが相当。
Yの非常勤職員による助言は、決算報告書の支出額を予算時の支出額と同額にすることを示唆する等一部不適切ともいえる内容が含まれるものの、
本件における当該非常勤職員がNPO法人の理事の役職などを兼ねるという特殊な地位にあった上、説明内容もYの施策等との関連性が少ないNPO法人の理事会に提出する決算報告書に関わるもの

同職員による説明が職務行為上の注意義務違反を構成しない。
  ●争点②について
市長の議会での答弁について:
普通地方公共団体の長は、議長の審査上の必要がある場合、議会の求めに応じて、議案の説明等を行うために議会に出席すべき義務を負う(地自法121条)

普通地方公共団体の長が、議会における議員からの質疑に対して答弁するに際しては、住民相互間に種々の意見ないし利害の対立がある事項について言及することとなる⇒答弁内容は個別の住民の社会的評価に影響する可能性を包含。

普通地方公共団体の長の議会での答弁における発言によって、結果的に個別の住民の社会的評価が低下したとしても、直ちに普通地方公共団体の長がその職務上の法的義務に違背するということはできない。
前述した観点に加え、個人の名誉の保護との調整にも鑑み、
市長が市議会での答弁において個人の社会的信用を低下させる発言を行う場合においては、
同発言の動機、目的、内容及び発言態様等を考慮し、当該市長が普通地方公共団体の長としての政治的判断を含む一定の裁量を逸脱したと言える場合に国賠法1条1項にいう違法な行為があったとして、当該地方公共団体に国賠責任が肯定されるにとどまると解するのが相当。
Y市長の発言が、従前の業務委託契約につき、本件NPO法人の会計処理に問題があったとして、今後の契約を見直す必要があることに言及するものであって、市長の裁量には逸脱がない。
  解説 公務員による指示や説明の内容に関する国賠法上の違法の成否については、指示や説明を職務として求められる根拠法令等を検討し、具体的事案に即して注意義務の範囲を画する裁判例が大半。 
地方公共団体の長の市議会での発言に関する名誉毀損行為が職務上の注意義務違反に当たり、国賠法上の違法といえるかについて。

①市議会での市長の答弁については、国会での演説、討論又は表決について院外で責任を問われないことが憲法上明らかである国会議員の言動(憲法51条)と同一に解することはできない。
②他方で、地方議会における議案審査において、市長は、議案の趣旨や背景事情、行政としての今後の方針等を答弁により明らかにすることが求められている(地自法121条)

市議会での市長の答弁については、その性質上、一般的な名誉毀損の判断枠組みとは異なり、その職務上の必要性を加味した上で、国賠法上の違法性の有無について判断すべき。
     
  商事p83
東京地裁H29.10.27  
  法人の善意・悪意の判断について
  事案 Y1株式会社から土地を買い受けた株式会社Xが、本件土地の地中にコンクリート等の障害物が存在していたと主張⇒Y1に対し、売主の瑕疵担保責任を追及し、障害物の除去費用1憶416万円等の損害賠償を請求。 
Xは、吸収分割によりY1の酒造事業に関する権利義務を承継た株式会社Y1に対し、吸収分割契約は双方代理により無効であり又は詐害行為に当たる等と主張

主位的に、同吸収分割契約のうち特定の不動産の分割承継に係る部分の詐害行為取消し及び同不動産についての所有権移転登記の抹消登記手続を求め、

予備的に、同吸収分割契約のうち資産承継に係る部分の詐害行為取消し並びに価格賠償、会社法22条1甲の商号続用責任及び法人格否認の法理に基づき、Y1と連携して1億416万円等の支払を求めた。
  規定 民法 第五七二条 売主は、第五百六十条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
商法 第五二六条 〔買主による物の目的物の検査及び通知〕

2前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕か疵しがあること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が六箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。
  争点 XのY1に対する請求について、
X・Y1間の本件土地の売買契約(「本件売買契約」)には瑕疵担保免責特約が付されており、また、XがY1に対して本件地中障害物の存在を通知したのが本件売買契約から6か月を経過した後
⇒法人であるY1が本件売買契約の際に本件地中障害物の存在を認識していたかどうか(悪意であったかどうか)が争点。
(民法572条、商法526条2項後段、3項) 
  判断  XのY2に対する請求は、いずれも理由がないとして棄却
Y1に対する請求(売主の瑕疵担保責任による損害賠償請求)は認容。 
  解説 民法101条2項は、代理行為の効力がある事情を知っていたこと(悪意)によって影響を受けるべき場合に、その事実の有無を代理人について決するという原則(同条1項)の例外として、
特定の法律行為をすることを委託された代理人が本人の指図に従って代理行為をした場合は、本人は自ら知っていた事情について代理人がこれを知らなかったことを主張することができないと規定。

「本人の指図に従って」代理行為をしたというのは、当該行為をすることが本人の意思によって決定されていることを意味するのであって、それ以上に本人の指図を受けるという特別な事実が必要なわけではないと解されている(大判明41.6.10)。 
学説:本人が問題の行為につき代理人をコントロールする可能性があれば、民法101条2項を(拡張)適用してよいとする見解が通説。
  判断 法人の場合は、その善意・悪意は法人を代表又は代理した者について決せられるのが原則であることを示しつつ、
民法101条(1項及び2項)の趣旨は、結局、代理人による意思表示がされた場合の善意又は悪意は、意思表示の内容を決定した者について判断するとしたものと解される。

代表者・代理人のみならず、当該法律行為の意思決定に重要な影響を及ぼした者の主観的態様をも考慮するのが相当。 
本件においては、本件売買契約当時は売主の代表取締役を退任していたが、その前約60年間にわたって代表取締役を努め、経営に大きな影響力を有していたと認定された本件売買契約時の代表取締役の父親について、本件売買契約の意思決定に重要な影響を及ぼした者と評価し、
個人が当該地中障害物の存在を認識していたことを理由に売主である法人の悪意を認めた。
  労働p96
最高裁H30.9.14  
  有期労働契約を締結して郵便関連業務に従事していた人の就業規則の定め(65歳に達した日以後は更新しない)と労働契約法7条の合理的な労働条件等
  事案 Y(日本郵便株式会社)との間で有期労働契約を締結して郵便関連業務に従事していたXらが、Yによる雇止めは無効と主張⇒
Yに対し、
①労働契約上の地位の確認及び
②雇止め後の賃金の支払等
を求めた 
  事実 郵政民営化前の郵政事業は、日本郵政公社(「旧公社」)が実施していたが、郵政民営化に伴い設立された承継会社(5社)が旧公社の業務等を承継し、旧公社は平成19年10月1日をもって解散。
Yは、承継会社のうち2社の合併により発足した会社。 
Yは、平成19年10月1日、期間雇用社員就業規則を制定。
本件規則10条2項(「本件上限条項」)は、「会社の都合による特別な場合のほかは、満65歳に達した日以後における最初の雇用契約期間の満了の日が到来したときは、それ以後、雇用契約を更新しない。」と規定。
旧公社は、平成19年9月、Xらの事業所を含む事業場において、労働組合等に対し、承継会社における就業規則(本件規則を含む。)の制定について意見を聴取する手続を行った。
本件規則は、同年10月1日から施行されたが、本件上限条項は、平成22年10月1日から適用⇒その後、労働組合の申し入れを受けて、その適用開始時期を更に6か月延期し、平成23年4月1日から適用。
旧公社の非常勤職員について、関係法令等には、非常勤職員が一定の年齢に達した場合に以後の任用を行わない旨の定めはなかった。
  原審 Yにおける期間雇用社員の更新手続は形骸化しており、XらとYとの間の労働契約は、実質的に無期労働契約と同視し得る状態になっていた⇒本件各雇止めは、解雇に関する法理の類推により無効になる。 
本件上限条項に基づく更新拒否の適否の問題は、本件各雇止めが無効になるか否かとは別の契約終了事由に関する問題として捉えるべき。
本件上限条項の定める労働条件が労働契約の内容になっている⇒本件各雇止めは、本件上限条項により根拠付けられた適法なもの
⇒Xらの労働契約上の地位の確認及び本件各雇止め後の賃金の支払を求める請求をいずれも棄却。
旧公社の非常勤職員につき年齢による再任用の制限がないという労働条件が旧公社からYに引き継がれるとした上で、本件上限条項によって旧公社当時の労働条件を変更する合理性が認められる。
  判断 原審の判断のうち、本件各雇止めが適法であるとした部分は結論において是認できる。
その余の判断は是認することができない。 
  郵便関連業務に従事する期間雇用社員について満65歳に達した日以後は有期労働契約を更新しない旨の就業規則の定めは、次のア、イなど判示の事情の下においては、労基法7条にいう合理的な労働条件を定めるもの。
ア:前記期間雇用社員の従事する業務は屋外業務、立った状態での作業、機動車の乗務、機械操作等であるところ、当該就業規則の定めは、高齢の期間雇用社員について、これらの業務に対する適性が加齢により逓減し得ることを前提に、その雇用管理の方法を定めたもの。
イ:当該就業規則の定めの内容は高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に抵触するものではない。
日本郵政公社の非常勤職員であった者が郵政民営化法に基づき設立されて同公社の業務等を承継した株式会社と有期労働契約を締結して期間雇用社員として勤務している場合において、
当該株式会社は、
①当該株式会社が同公社とは法的性格を異にしていること
②当該者が同公社の解散する前に同公社を退社していること
など判示の事情の下においては、
期間雇用社員について満65歳に達した日以後は有期労働契約を更新しない旨をその設立時の就業規則に定めたことにより、同公社当時の労働条件を変更したものということはできない。
①期間雇用社員に係る有期労働契約は、満65歳に達した日以後は有期労働契約を更新しない旨の就業規則の定めが当該労働契約の内容になっていること
②期間雇用社員が雇止めの時点で満65歳に達していたことなど
判示の事情の下においては、当該時点において、実質的に期間の定めのない労働契約と同視し得る状態にあったということはできない。
  解説   有期労働契約は、契約期間の満了により当然に終了するのが原則。
but
判例法理上、
①有期労働契約があたかも無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、又は
②労働者において期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には、解雇権濫用法理が類推適用され、当該有期労働契約の雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときには
効力を否定すべきものとされていた。 
この判例法理(雇止め法理)は、労契法の平成24年改正において、
同法19条として明文化。
①実質無期契約タイプ(同法19条1号)
②期待保護タイプ(同条2号)
実質無期契約タイプに該当し得る客観的事情⇒労働者の雇用継続への期待(主観的事情)も合理的なものであると解される
⇒①に該当するにもかかわらず、②に該当しないといった事態を想定することは、通常困難。
  本件各雇止めは、本件上限規則によりされた⇒本件上限規則が本件各労度契約の内容となっていたか?が問題。
  就業規則の契約規律の有無:
①判例法理として、合理的な内容の就業規則は、当該条項に対する合意が認定できる場合でなくとも、契約内容となる効果が認められ(最高裁昭和43.12.25)
②就業規則に法的規範としての拘束力が生ずるためには、その適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する(最高裁H15.10.10)
(「原始就業規則の合理性法理」)

労契法7条において明文化
就業規則が労働契約の締結後に労働者に不利益に変更された場合:
判例法理上、就業規則の変更によって労働条件を一方的に変更することは許されないのが原則。
but
就業規則の不利益変更が合理的であれば、これに反対する労働者も拘束する。
就業規則の不利益変更の合理性
①就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
②使用者側の変更の必要性の内容・程度
③変更後の就業規則の内容自体の相当性
④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
労働組合等との交渉の経緯
⑥他の労働組合又は他の従業員の対応
⑦同種事項に関するわが国社会における一般的状況等
の7つの要素を総合考慮して判断(最高裁H9.2.28)
(「就業規則の合理的変更法理」)

労契法10条で明文化。
原始就業規則の合理性法理にいう「合理性」:
労働者が就業規則を前提として、これを受け入れて採用されたという状居の中、当該就業規則の定める労働条件の内容それ自体の合理性を問題とする。

就業規則の合理的変更法理にいう「合理性」:
従前の労働条件と比較した不利益を観念した上で、変更の全プロセスを対象として、諸事情を総合考慮して判断するもの

前者の合理性の方が後者の合理性よりも広く認められる。
  ①旧公社の承継会社は、旧公社の事業を全て承継
②この事業承継は、郵政民営化という特殊な組織変動によるもの

旧公社の労働条件と被告の労働条件の関係は、事業承継の根拠である郵政民営化法に基づき検討すべき。

同法は、当該職員の労働条件は別途明示することとしており(170条)、承継会社が旧公社の労働条件を当然に承継することとしているわけではない。
同法は、承継会社が、旧公社の労働条件に配慮しながら、承継会社の労働条件を別途決定することを予定しているのであって(170条、173条)、承継会社が法的性格を異にする旧会社の労働条件を前提に、これを変更することを想定しているとは解し難い。
最高裁H6.7.14:
非常勤の国家公務員である日々雇用職員を認容予定期間満了後に再任用しない措置につき国家賠償責任の成否が問題とされた事案において、
日々雇用職員につき解雇権濫用法理が類推適用されないことを前提として判断。
下級審裁判例も、旧公社の非常勤職員(期限付任用)に対する解雇権濫用法理の類推適用を否定。

旧公社の非常勤職員(日々雇用職員)であったX1らは、旧公社当時、雇止め法理の適用を受ける法的利益を有していたということはできず、本件上限条項によって当該利益を制約されるという関係にはそもそもなかった

本判決:
本件上限条項が旧公社当時の労働条件を変更するものではない旨を判断。
これを前提として、原始就業規則の合理性法理(労契法7条)に基づき、本件上限条項の契約規律効を検討。
本判決は、Yが期間雇用社員の労働条件を定めるに当たり、旧公社当時の労働条件に配慮すべきであったとしても、本件上限条項の適用開始を猶予することにより相応の配慮をしたものとみることができるとしているが、この説示は、Yが郵政民営化に伴い設立されて、旧公社の人的・物的組織を全て承継したという本件事案の特殊性を踏まえてされたものであると解される。
国立病院等の独立行政法人化に伴い従前の労働条件が当然に承継されるわけではない⇒原始就業規則の合理性法理を適用すべきとしつつ、
従前の労働条件を十分に考慮して合理的な内容のものであることを要するとした裁判例(東京地裁H18.12.27)。
本件各有期労働契約は、本件上限条項の契約規律効により、客観的にみて、満65歳以降の契約更新はせず、期間満了により終了することが予定されていた

Xらと被告との間の各有期労働契約は、本件各雇止めの字手において、実質的に無期労働契約と同視し得る状態にあったということはできない。 
菅野:
雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されない場合として、「ある程度の更新はあるが、更新限度条項などから、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っているとも、雇用継続への合理的な期待があるとも認められず、解雇権濫用法理の類推適用が行われないタイプ」がある。
原判決:
本件上限条項に基づく更新拒否の適否の問題は、本件各雇止めが無効になるか否かとは別の契約終了事由に関する問題として捉えるべきものであるとしている。
vs.
定年制は、雇用期間の定めがないからこそ、契約終了事由として位置づけられるのであって、本件各雇止めの理由(根拠・動機)を規定するにすぎない本件上限条項が本件各雇止めと別個独立の契約終了原因であるということはできない。 
  刑事p103
①さいたま地裁H30.5.10
②大阪地裁H30.4.27  
  捜査でのビデオ撮影の可否が問題となった事案
  事案① 被告人は暴力団組員。
覚せい剤取締法違反および窃盗の罪のほか、平成28年3月16日、同僚組員と共謀して、対立する暴力団組長の管理する自動車に放火した建造物等以外放火罪、及び、同暴力団本部事務所に放火しようとして火炎びんを投げ入れたものの階段の一部をくん焼させたにとどまる非現住建造物等放火未遂、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反の罪で起訴された。
警察は、本件放火事件に先立ち、被告人とは別の、既に逮捕状がでていたAの逮捕に向けて、Aの所在確認及び行動パターンの把握のために、Aの立ち寄り先であった被告人方の近隣場所にビデオカメラを設置し、被告人方前の公道及び被告人方玄関を24時間連続で撮影。
・・・放火現場から発見されたものと同じ赤色ガソリン携行缶を運搬する被告人の公道が撮影されていた。
検察官がそのビデオ撮影に関する証拠を本件放火事件の証拠として提出⇒弁護人は違法収集証拠として排除すべき旨を主張。
  事案② 被告人はQ2委員会(「Q派」)の活動家。
警察官は、被告人が偽名でホテルに宿泊したという旅館業法違反の建議で、被告人の居住状況を確認するために被告人が賃借するマンションの一室である301号室玄関ドア付近及び許容廊下を望遠にビデオカメラで撮影。
同ビデオには301号室に出入する人物が写っており、検察官は、被告人において同人物が殺人犯として逃亡中の活動家Zであると認識していたとして被告人を犯人蔵匿罪で起訴し、ビデオ映像から採取した静止画像を同罪の非供述証拠として提出。

弁護人は、本件ビデオ撮影は強制処分に当たるので令状主義に違反するとして証拠排除すべき旨を主張。
  判断①  ●ビデオ撮影の違法性 
本件撮影の「真の目的」がAの逮捕のためであったかについては疑問を提起しつつも、逮捕のためにAの所在や行動パターンを把握する目的で立ち寄り先である被告人方前のビデオ撮影をするという捜査上の必要性は肯定。
but
本件ビデオ撮影の相当性につき、
①平成28年初め以降、Aの被告人宅立寄りが確認されず継続撮影の必要性が低下した後も、約5か月間、漫然と撮影を継続していた点を「不適切」とし、
②撮影後映像として保存されたものの中に被告人方玄関ドア内部の様子のほか、犯罪と無関係な人物等が含まれていたことなど⇒警察において捜査対象の事件との関連性を検討することなく漫然と映像を保存し続けていた点でプライバシーに対する配慮が不足していた

類似事案と比べて、本件ビデオ撮影はプライバシー侵害の程度が高かったと評価し、「任意捜査として相当と認められる範囲を逸脱した違法なもの」と結論。
  ●証拠能力 
被告人自身の嫌疑ではない他者の逮捕目的でのビデオカメラの設置という本件の特殊性

①警察において本件ビデオ撮影の必要性、緊急性、相当性を適切に検討せずに漫然と撮影を続けていた点で違法の程度は重大
②警察官らの態度は、プライバシーを軽視し遵法精神を大きく欠いていたうえ、裁判時においても本件撮影の問題点を理解していない
⇒将来の違法捜査抑止の観点からも証拠を排除する必要性が高い
⇒本件ビデオ撮影による関係証拠の証拠能力を否定。
  判断② ●強制処分該当性 
ビデオ撮影の対象が301号室玄関ドア及びその付近の共用廊下にとどまっており、「通常、他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所」⇒プライバシーの保護の合理的期待が高い場所ではないとして、令状を必要とする強制処分には当たらない。
  ●ビデオ撮影の違法性 
任意捜査としての違法性を検討し、
本件ビデオ撮影の必要性:
被告人に対する旅館業法違反の捜査の一環として、被告人の301号室における居住の有無及び実態を明らかにする必要があった⇒氏名不詳者の出入り状況を含めて被告人の居住実態を確認するために相当期間継続的にビデオ撮影する必要があった。
本件ビデオ撮影の相当性:
①撮影態様が、プライバシー保護の合理的期待が高いとはいえない301号室玄関付近を撮影したにとどまる
②撮影期間も3か月未満で当初の捜査目的と必要性に照らして不相当に長いとはいえない
⇒相当性も肯定
⇒任意捜査としても適法。
  解説 ●任意捜査としての許容性 
ア犯罪発生時ないしその直後の犯人特定及び証拠保全を目的とした撮影
イ将来の犯罪発生を想定した犯人特定及び証拠保全を目的とした撮影
ウ犯罪発生後の犯人逮捕に向けた人物特定の証拠を作出するための撮影
エ特定の犯罪とは無関係に標的とされた人物の行動監視を目的とした行政警察活動としての撮影
今回は、ウ類型に属するものであるが、ビデオカメラによる長期間の継続的撮影の結果、その過程で得られた、当初の設置目的ではなかった別の犯罪事実に関する証拠を被告人に対する起訴事実の有罪証拠となしうるか?
従来ウ類型の判例では、ビデオカメラ設置時点での必要性の判断において、事案の重大性と撮影対象者が犯罪を行ったと疑うに足りる「相当な嫌疑」(東京地裁H1.3.15)ないし「合理的な嫌疑」(東京地裁H17.6.2)の存在が考慮要素。

①事件では、被告人に対する犯罪の「合理的な嫌疑」は存在せず、
②事件では、被告人に対する軽微な犯罪が捜査対象とされており重大な事案ではない。
but
長期間の継続撮影の結果得られた映像証拠が、後日判明した被告人に対する重大な犯罪(①事件では放火罪、②事件では逃亡殺人犯の蔵匿罪)の証拠となった⇒証拠能力が問題。
両判決の任意捜査としての枠組みは、いずれも捜査目的達成のための必要性と相当性の2要件について判断。
(最高裁H20.4.15を踏襲)

最高裁決定同様、緊急性については言及せず。

長期間の継続ビデオ撮影の必要性が認められる場合、もはや緊急性は独立の要件ではなく必要性の一事情として考慮されるにとどまると考えられる。 
両判決の結論の差 
①事件:
当初の捜査目的(別人の逮捕目的)を認めつつも、
本来的には第三者の地位にある被告人方の撮影であることにつき警察のプライバシー保護の配慮が乏しく、不必要に長期間のビデオ撮影を漫然と継続した点を重視⇒相当性を否定。
②事件:
当初の捜査目的(被告人の居住実態の確認)の必要性⇒ビデオ撮影の期間が不必要に長期とはいえないとして相当性を肯定。
両事件ともに警察のビデオカメラ設置の目的は警察官の説明どおりではなく、
①事件では暴力団、②事件では「Q3派」アジトの動向監視に真の目的があった可能性⇒被告人を撮影対象とするにつき具体的な犯罪との関連性が失われるので、撮影行為の必要性が否定され、各ビデオ撮影は任意捜査として違法とされた可能性。
●強制処分該当性に関する判示 
無令状による個人の容貌等の撮影には、憲法上の権利であるプライバシーの権利との抵触が問題。
最高裁をはじめとする従来の判例は、容貌等の撮影が任意処分か強制処分かについては明言していない。
~撮影行為の任意処分性を前提にその限界を画そうとしていると理解される。
2399   
  行政p3
福岡高裁H29.6.20  
  厚生年金保険の被保険者の死亡に伴う別居中の妻の遺族厚生年金不支給決定処分取消請求(肯定)
  事案 X(外国籍)は、厚生年金保険の被保険者である夫Aが死亡したことを理由に、処分行政庁である厚生労働大臣に対し、遺族厚生年金の裁定を請求⇒生計同一性要件(厚年法59条1項)を満たさないとして不支給決定⇒同決定は亡夫Aによる生計維持関係を認めなかった違法があると主張し、Y(国)に対して取消しを求めて提訴。 
Aは婚姻後10年間同居して生計維持関係にあったが、Xに離婚を申出て別居し、音信不通となり生活費も支給しないまま別居の約9か月後に死亡。
Xは、別居期間中に離婚調停を申し立てた。
  原審 遺族厚生年金の受給要件に関する「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」(平成23年3月23日発0323第1号厚生労働省年金局長通知)を前提として、
①生活費不支給の事情や、
②Xが離婚調停を申し立てた等の事情

生計同一性要件を満たさないと判断。

例外条項(認定基準の定める生活同一に関する認定要件・収入に関する要件を満たさないが、これにより生計維持関係を認めないことが、実態と著しくかけ離れ、社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には、例外とする旨規定。)の適用も否定。 
  判断 原判決を取り消し、Xの請求を認容し遺族厚生年金不支給決定を取り消す判決。
①生計同一性要件を満たさない
but
②XのAと離婚する確定的な意思は認めず、婚姻期間の10年間はAが生活費を渡していた⇒別居期間の約9か月間も生活費を支払う義務がある
③Xは離婚調停を申し立てたが混乱していたものであり、別居につき帰責事由はなく、Aによる悪意の遺棄

このような事実関係の下において生計維持関係がないとすることは、生計維持のため必要な生活費等の支払が正当な理由なく停止されているだけであるという実態を看過している点で、実態と著しく懸け離れ、社会通念上妥当性を欠くというべき。

本件例外条項を適用。
  解説  本件例外条項につき、厚年法の目的である「遺族の生活の安定と福祉の向上」(同条1条)の観点から解釈・当てはめをしている。 
生計同一要件・生計維持要件に関するもの:

①昭和60年法律第34号による改正前の厚年法の通算老齢年金の受給権者であった亡Aが失踪宣告によって死亡したものとみなされた⇒亡Aの配偶者であった控訴人がした亡Aの通算老齢年金の未支給保険給付(厚年法37条1項)の請求に対する旧社会保険庁長官の不支給処分について、生計同一要件が認められるとして取り消された事例。(東京高裁H22.8.25)

②厚生年金保険の被保険者の死亡に伴い別居中の妻がした遺族厚生年金の裁定の請求に対する旧社会保険庁長官の不支給決定について、やむをえない事情により別居していたいもので厚年法59条1項にいう生計維持要件が認められるとして、同決定を違法として取り消した事例。(東京地裁H23.11.8)
生計維持関係等の認定基準の例外条項に関するもの:

③不倫相手と同居後死亡した夫の妻に対する遺族厚生年金を支給しない旨の厚生労働大臣の決定につき、「生計維持関係の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり、社会通念上妥当性を欠くことになる」という生計維持関係等の認定基準の例外条項に該当すると判断され、不支給処分の取消請求及び支給裁定の義務付け請求が認容された事例。(東京地裁H28.2.26)
  民事p13
最高裁H30.10.25   
  保護室収容を理由に(弁護人との)面会を許さない刑事施設の長の措置の違法性
  事案 拘置所に被告人として勾留されていたX1及びその弁護人であったX2が、刑事収容法79条1項2号イに基づく保護室への収容を理由に拘置所職員がX1とX2との面会を許さなかったことにより、接見交通権を侵害された⇒Y(国)に対し、国賠法1条1項に基づき、慰謝料の支払を求めた事案。 
  原審 国賠法上の違法性なし⇒請求棄却。 
  判断 刑事収容法79条1項2号に該当するとして保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等(弁護人又は弁護人となろうとする者)からあった場合に、その申出があった事実を未決拘禁者に告げないまま、保護室に収容中であることを理由として面会を許さない刑事施設の長の措置は、
未決拘禁者が精神的に著しく不安定であることなどにより同事実を告げられても依然として同号に該当することとなることが明らかであるといえる特段の事情がない限り、 
未決拘禁者及び弁護人等の接見交通権を侵害するものとして、国賠法1条1項の適用上違法となると解するのが相当である。
X1は、本件申出があった事実を告げられればX2と面会するために大声を発するのをやめる可能性があったことを直ちに否定することはできず、原審の確定した事実のみをもって前記「特段の事情」があったものということはできない

原審を破棄し、「特段の事情」の有無等について更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻した。
  規定 憲法 第34条〔抑留・拘禁に対する保障〕
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
②刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
③刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
刑訴法 第三九条[被疑者・被告人との接見・授受]
 身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。
 刑事収容法 第七九条(保護室への収容)
刑務官は、被収容者が次の各号のいずれかに該当する場合には、刑事施設の長の命令により、その者を保護室に収容することができる。
一 自身を傷つけるおそれがあるとき。
二 次のイからハまでのいずれかに該当する場合において、刑事施設の規律及び秩序を維持するため特に必要があるとき。

イ 刑務官の制止に従わず、大声又は騒音を発するとき。

ロ 他人に危害を加えるおそれがあるとき。

ハ 刑事施設の設備、器具その他の物を損壊し、又は汚損するおそれがあるとき。
  解説  被告人又は被疑者の接見交通権については、判例上も、身体を拘束された被告人または被疑者が弁護人等(弁護人又は弁護人となろうとする者)の援助を受けることができるための「刑事手続上最も重要な基本的権利」であり「憲法の保障に由来する」ものとされており、
弁護人等の接見交通権については、弁護人等の「固有権」の最も重要なものの1つであるとされている。(憲法34条前段、37条3項前段、刑訴法39条1項)
  本判決:
一般論として、刑事収容法が「保護室に収容されている未決拘禁者」と弁護人等との面会について特に定めを置いていないのは、
保護室に収容されている未決拘禁者との面会の申出が弁護人等からあったとしても、その許否を判断する時点において未決拘禁者が79条1項2号に該当する場合には、刑事施設の長が、刑事施設の規律及び秩序を維持するため、面会を許さない措置をとることができることを前提とする。
but
「面会の拒否を判断する時点において未決拘禁者が79条1項2号に該当する」というのは、当該時点の具体的な状況を踏まえて判断されなければならない。

未決拘禁者が刑事収容法79条1項2号に該当するとして保護室に収容されている場合において面会の申出が弁護人等からあったときは、刑事施設の長は、例外的な場合を除き、弁護人等から面会の申出があったという事実を直ちに未決拘禁者の反応等を確認した上で、それでもなお未決拘禁者が同号に該当するか否かを判断し、該当しない場合には、直ちに保護室への収容を中止させて未決拘禁者と弁護人等との面会を許さなければならないという職務上の法的義務を負う。
未決拘禁者が精神的に著しく不安定であるなどにより同事実を告げられても依然として同号に該当することとなることが明らかであるといえる「特段の事情」に当たる場合:
①未決拘禁者が極度の興奮による錯乱状態にある場合
②未決拘禁者が、上記申出があった事実を告げられても、その告知内容を理解すること又はこれに的確な対応をすることが著しく困難な状況にあるために、上記告知をすることが実質的に意味を持たないような場合(池上裁判官補足意見)
  民事p18
大阪高裁H28.7.7  
  実施法の「監護の権利」の侵害が問題となった事案。
  事案 子の父であるX(シンガポール国籍)が、母であるY(インド国籍)に対し、Yによる連れ去りによりXの子に対する監護の権利が侵害された⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき、子を常居所地国であるシンガポール共和国に返還することを求めた事案。 
  特殊性 Y及び子の日本への入国前に、シンガポールの裁判所において、XとYの離婚を命じる判決がされ、既に確定。
同判決にには、XとYが子の共同監護権を有するものの、Yが子の世話及び監護の権利を有し、自己の費用により、子を自由に日本に転居させることができるとの条項(「本件転居条項」)が置かれていた。
その後、Xと子との面会交流が滞った⇒Xが、シンガポールの裁判所にに対し、本件転居条項の削除とシンガポールでのXと子との交流の内容の変更を求める申立て。
そのような状況で、Yが子とともに日本に転居。
Xは、本件転居条項の削除を求める申立てを取り下げた。
  規定 実施法
第二七条(子の返還事由)
 裁判所は、子の返還の申立てが次の各号に掲げる事由のいずれにも該当すると認めるときは、子の返還を命じなければならない。
一 子が十六歳に達していないこと。
二 子が日本国内に所在していること。
三 常居所地国の法令によれば、当該連れ去り又は留置が申立人の有する子についての監護の権利を侵害するものであること。
四 当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に、常居所地国が条約締約国であったこと。
  判断 X:共同監護権が認められている⇒自らが監護の権利を有していると主張 
原決定:
実施法が不法な連れ去り又は不法な留置がされた場合において子をその常居所地国に返還することを目的とするもの

監護の権利は居所指定権を有するかという観点から判断する必要。

本件では、Yが自由に子を日本に転居させることが許されており、Xにその点に介入する権限はない⇒Xの監護の権利を否定し、本決定もこの判断を是認。
  ●  X:シンガポール法の一部を構成する英国コモンローでは、裁判所に監護権に関する事件が係属している間に一方の親が子を国外に連れ去った場合には、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(「ハーグ条約」) 3条aの裁判所の監護の権利の侵害に当たると認めた事例がある
⇒シンガポールの裁判所に本件転居条項の削除と求める手続が係属していた本件では、シンガポールの裁判所の監護の権利が侵害された
  本決定:
裁判所の監護の権利を認める余地を肯定。

本件では、Yと子の日本への転居の時点では、シンガポールの裁判所において本件転居条項を含めて事件の審理がされていた
⇒同裁判所が子に対して監護の権利を有していた可能性が認められる。
but
Yが子を連れてシンガポールから日本に出国した後、Yがシンガポール内に居住せず、かつ、裁判期日に出頭せずとも、審理を続行する上で法律上の障害にはならないにもかかわらず、Xが本件転居条項の変更を求める申立てを取下げ、裁判所もこれを許可したとの一連の経過
⇒シンガポールの裁判所が子に対して監護の権利を有しているとはいえない。
  解説 国境を越えた子の連れ去り又は留置を違法なものとして、子の返還を求めるためには、当該連れ去り又は留置によって、監護の権利が侵害されたことを要する(実施法2条6号、7号、27条3号)。 
監護の権利については、ハーグ条約及び実施法に定義が置かれていないが、常居所地国の法令上、両親が共同で監護権又は居所指定権を有している場合はもちろん、監護権を有していない親が居所指定権を有している場合にも、ハーグ条約にいう監護の権利を有しているとの解釈が定着しつつあるとされている。
but
英国の裁判所は、このような監護の権利を拡張する特殊な法理を認めており、その1つが裁判所の監護の権利。
子の返還を求める親(いわゆるLBP)によって実体法上の監護権又は居所指定権に関する申立てがされると裁判所自身が子の居所を決定しる権原を取得し、ハーグ条約上の権利を有すると構成する法理。
⇒裁判所によってLBPに監護権や居所指定権が付与される前の手続係属中の段階で、子が国外に連れ去られた場合にも、LBPが子の返還を申し立てることを可能にする意義がある。
  民事p33
名古屋高裁金沢支部H30.6.20   
  「全店一括順位付け方式」による債権差押命令の申立てが適法とされた事案。
  事案 X(抗告人、債権者)は、調書判決の正本を債務名義として、債務名義に表示された請求権と執行費用を請求債権として、Y(相手方、債務者)が第三債務者(Z銀行)に対して有する預金債権の全部を対象として、差押債権額に満つるまでの債権差押命令の申立て。 
Xは、差し押さえるべき預金債権について、第三債務者の「複数の店舗に預金があるときは、店舗番号の若い順による」とした上で、同一店舗扱いの預金債権については差押え有無やその種別等による順位を付して差し押さえることを求めた(いわゆる「全店一括順位付け方式」)。
  原決定 大規模金融機関である第三債務者の全ての店舗を対象として順位付けをするものであり、第三債務者において、差押命令の送達時点で速やかにかつ確実に差し押さえられた債権を識別することができないとして、最高裁H23.9.20を引用し、差押債権の特定を欠き不適法⇒却下。 
  判断   平成23年最決は、本店及び複数の支店(人的・物的設備を有する店舗等)を持つ大規模金融機関を念頭に置き、・・・これに応じた差押債権の特定の要請を図ったものであり、全ての金融機関に当てはまるのではなく、当該金融機関の個性ないし特性によっては、取扱店舗の表示を一箇所に固定せずとも差押債権の特定の要請を満たす場合があり、そのような場合についてまで一律に差押命令の申立てを不適当とすべきものとは解されない。
  近時のいわゆるインターネット専業銀行においては、人的・物的設備を有する実店舗を設けず、これを設けていたとしても預金債権の管理を本店等の一箇所で行っている金融機関がみられるところ、このような金融機関を第三債務者とする債権差押命令の申立てにおいては、差押債権である預金債権の表示において、取扱店舗を特定せずとも、前記にいう差押債権の特定の要請を満たすものとみて差し支えない。
  ①本件の第三債務者であるZ銀行は、預金債権の差押えにおいて、取扱店舗を特定していなくとも、本店等いずれかの担当部署において、氏名と住所により全店検索を行って対象債権の特定作業をしていると認められ、
預金債権の差押命令の送達を受けた場合の作業において、取扱店舗の特定の有無にかかわらず、全店検索及びその後の対処を同一部署で一括して実施しており、差押債権の識別について各別の負担を要しないことが推認される。
②Z銀行自身、差押債権の特定の方法として、全店一括順位付け方式のうち複数の店舗に預金があるときは店舗番号の若い順によるとの方式を望ましいと弁護士会照会に回答。

Xがした差し押さえるべき預金債権の特定によって、差押債権の識別に格別の負担をかけないことを容易に認めうる。
  ⇒本件では、差押債権の特定に欠けるところはない。
  解説 債務者の差異三債務者である金融機関に対する全店舗及び全種類の預金債権を対象とする「全店舗一括順位付け方式」による債権差押命令の申立てにつき、原決定が引用する平成23年最決とは第三債務者である金融機関の個性ないし特性が異なり、差押債権の特定に欠けるところはないとしたケース。 
  債権執行における債権の特定は、その債権の被差押適格の判定及びその申立てに基づいて発令される差押命令の効力範囲の認識に資するもので、観念上の存在であり、公示制度もない
⇒債権者に過度の要求をすべきでなく、他の債権と識別できる程度に表示されることを要する。 
預金債権の差押えは、当該取扱店舗(本店又は各支店)ごとに、預金の種類、口座番号等により順序を付して差押債権の特定をするのが執行実務の原則。

銀行における預金債権の管理が取扱店舗ごとにされてきたことから、迅速な差押えの効力の発生と銀行の事務処理の負担に配慮。

取扱店舗を特定しない申立てや複数の支店における預金債権に順序を付する方法(全店一括順位付け方式、支店間視点番号順序方式)による申立てについては、債権の特定はなく不適法であると解するのが伝統的見解。
but
その後、こうした申立ても債権の特定ありとして適法とする決定例がみられるようになり、抗告審レベルでは二分する状況。

最高裁H23.9.20:
①債権差押命令の申立てにおける差押債権の特定は、その送達を受けた第三債務者において、差押えの効力が前記送達の時点で生ずることにそぐわない自体とならない程度に速やかにかつ確実にその債権を識別することができるものであることを要する。
②大規模な金融機関の全ての店舗又は貯金事務センターを対象として順位付けをする方式による預貯金債権の差押命令の申立ては差押債権の特定を欠き不適法。
  執行裁判所は大量の案件を一律に処理する必要がある⇒差押債権の特定の有無は、差押債権の表示それ自体を基準に判断するのが原則。 
本件では、債権者が弁護士に依頼し、弁護士会照会の手順を踏んでおり、第三債務者である金融機関が「差押債権の特定の方法として、全店一括順位付け方式のうち複数の店舗に預金があるときは店舗番号の若い順によるとの方式を望ましい」と回答。
  民事p37
東京地裁H30.1.19  
  債務不存在確認の訴えに対する当該債務の履行を求める反訴と確認の利益
  事案 Xが、Yに対し、X運転の普通乗用自動車がY運転の普通自動二輪車に追突した事故(「本件事故」)によりYに生じた損害について、損害賠償義務が発生したことを自認した上で、既払であり、時効消滅しているとして、その債務が存在しないことを債務不存在確認を求める訴え。

Yは、本件事故による傷害(脳脊髄液減少症)については治療係属中であって、損害額を確定することはできないと主張して争うとともに、
本件事故による損害賠償の一部請求として5495万1116円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める反訴請求を提起。 
  判断 診療録、検査結果みて、本件事故に近接した時期に脳脊髄液の漏出ないし低髄液圧に至ったことをうかがわせるに足りるものはない⇒Yが脳脊髄液減少症に罹患したことを否定。
症状固定時期を平成17年3月3日、Yの被った損害を108万円余と認定し、Yには既に166万円余が支払われている⇒Yの反訴請求には理由がない。
Xの本訴請求については、Yの反訴請求にかかる債務不存在確認を求める部分については確認の利益を欠く⇒訴えを却下。
その余の部分については理由がある⇒債務不存在確認を認める。
  解説 債務不存在確認請求の本訴に対し、給付請求の反訴請求が提起⇒本訴請求は確認の利益がなくなる。(最高裁H16.3.25)

本判決は、残部についての損害賠償請求については依然として確認の利益があるものとして、その部分についてはXの請求を認容。
Yが今後残部について損害賠償請求した場合、前訴判決の既判力は生じない可能性が高い(最高裁昭和37.8.10)が、
このような場合、最高裁H10.6.12が、明示的な一部請求であっても、その審理は債権額全額の存否にわたる以上、前訴で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されないとしているのが参考になる。 
  民事p46
千葉地裁H30.6.20  
  Yのシステム開発・運用を行っていたAの業務委託先の従業員が個人情報を漏えい⇒安全管理措置についての義務のレベルが問題となった事案
  事案 X(選定当事者)が通信教育等を目的とする会社であるYに対し、
①Yのシステムの開発及び運用を行っていた会社であるAの業務委託先の従業員ZがX及び選定者ら(Xら)に係る個人情報を漏えいしたこと(本件事故)
②Yには、Aの情報セキュリティシステムの確認等を行う義務があったにもかかわらず、これらを怠り、本件事故を発生させたこと
が不法行為に当たる
⇒不法行為(①については民法715条、②については同法709条)に基づき、Xらに対する慰謝料等の支払を求めた事案。 
  判断 MTPスマートフォンへのデータの書き出しを防止するには、従来のスマートフォンとは異なる対策を講じる必要があるということは、本件事故当時、一般的には認識されていなかった。 
Yは、Aにおいて、正規のアクセス権限を有していた者が、その所有するスマートフォンをクライアントパソコンにUSBケーブルで接続することによりクライアントパソコンからスマートフォンにデータを転送する方法によって、個人情報を不正に取得することを予見することはできなかった。
but
Aにおいて、正規のアクセス権限を有していた者が、本件データベースから個人情報を大量に取得し、それを何らかの方法で外部へ持ち出し、漏えいする可能性があること自体については予見可能であった。
Aにおいてクライアントパソコンと本件データベースとの間の通信がアラートシステムの対象とされていなかったことが結果回避義務違反に当たるとの主張に対し: 
個人情報保護法についての経済産業分野を対象とするガイドライン(「甲ガイドライン」)の示す措置が本件事故当時に一般的な企業に求められていた水準となり得る。
but
Yは、甲ガイドラインの規定に照らし、個人データを取り扱う情報システムの監視を行う義務を負うにとどまり、かかる監視のため、具体的にいかなる措置を採るかについては、Yの合理的裁量に委ねられている。
①アラートシステムを採用している企業が少数
②本件事故後に改訂された甲ガイドラインも、アラートシステムを講じることが望ましいとは規定していない

本件データベースをアラートシステムの対象としていなかったことは裁量権の逸脱濫用に当たらない。
MTPスマートフォンが本件書き出し制御システムの対象外となっていたことについて:
Yは、甲ガイドラインの規定に照らし、個人データへのアクセスを制御する義務を負うにとどまり、その具体的な措置の内容はYの合理的な裁量に委ねられている。
①本件事故当時、書き出し制御システムを採用してない企業が過半
②MTPスマートフォンへのデータの書き出しを防止するには、従来のスマートフォンとは異なる対策を講じる必要があるということが、一般的に認識されていなかった
③本件事故後に改訂された甲ガイドラインも、書き出し制御システムについて、特定の業務上の用途にしか使用されない端末に限定して、講じることが「望ましい」事項として規定しているにすぎない

YがMTPスマートフォンを対象とする書き出し制御システムを採用していなかったことは裁量権の逸脱濫用に当たらない。
  結論において、Yの結果回避義務違反を否定。
  解説 ソフト開発は日進月歩⇒個人データの安全管理措置がある時点では有効に機能していたとしても、その後の新たない技術等の開発によって容易に機能しなくなることについては、予見可能性がないとはいえない。
but
それまでに想定されていなかった新たに開発されが技術や態様によって情報漏えいが行われたという結果について直ちに個人情報取扱事業者に過失があったとすることも個人情報取扱事業者に無理を強いることになる。 

個人情報取扱い事業者が個人情報の漏えい等の結果を回避するためにどこまでの安全管理措置を講じる義務を負うかという点については、
その時点におけるソフト等の開発の程度、個人情報の不正取得をした者の立場や不正取得の態様等から想定される一定の水準がある。
本判決:
そうした基準を事故時における通常の企業に要求された一般的水準に求め、
甲ガイドラインに定められた具体的な指針や個人データを取り扱う情報システムの監視を実践するために講じることが望まれる例示された手法や
新たな情報漏えいを防止することができる安全管理措置を採用している企業がどの程度あったのかという事情を考慮し、
どのような安全管理措置を選択するかについては当該企業の裁量を認め、
そのうえで、当該企業の選択した安全管理措置が通常の企業に要求された一般的水準に達していたと認められる場合には、裁量権の逸脱、濫用には当たらず、結果回避義務には違反しないとの判断を行った。
東京地裁H30.6.20:
MTPスマートフォンをパソコンのUSBポートに接続することにより個人情報を不正に取得される可能性を認識し得た⇒本件事故の予見可能性を認めた上で、MTPスマートフォンに対する書き出し制御システムに対応したセキュリティソフトウェアへの変更を指示しなかったことが過失に当たると判断。
  民事p56
名古屋地裁岡崎支部
H30.6.29  
  公立小学校教諭によるわいせつ行為についての教育長・校長の責任
  事案 Xは、Yの設置及び管理する小学校の児童であったが、本件小学校内において、本件小学校の担当教諭であるEから強制わいせつ行為を受けた。 
Eは、前任校において、同校の女子生徒から、性的な接触を受けた旨の申立てをされ(「前件問題」)、休職していた
⇒前件問題が把握されていたにもかかわらず、適切な指導監督等が行われてなかった⇒
本件小学校の校長にはEに対する適切な指導監督を怠った過失又はXへの安全配慮義務違反があり、
Yの教育委員会の教育長(「本件教育長」)には本件小学校の校長に対する指導監督等を怠った過失又はXへの安全配慮義務違反がある
⇒Yに対し、選択的に、国賠法1条1項又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、Xが被った精神的苦痛について慰謝料600万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
  争点 本件教育長の過失又は義務違反の成否及び本件小学校の校長の過失又は義務違反の成否
  判断 本件教育長及び本件小学校の校長に過失及び義務違反があるといえるためには、具体的状況下において、Eが児童に対して性的な行為に及ぶおそれがあることを具体的に予見することができたといえる必要。 
本件教育長長の過失及び義務違反:
①Yの教育委員会が、Eの前件問題について、Eが女子生徒と二人きりの状態で性的な意味をもつ行為に及んだことを認定できる状況であった
②前件問題後にEの問題性が解消されたと認めることはできない

本件教育長が代表するYの教育委員会は、Eが本件小学校に赴任する際に、Eが児童に対して性的な行為に及ぶおそれがあることを具体的に予見することができた

本件教育長には、Eが本件小学校に赴任する際に、本件小学校の校長に対して指導する義務を怠った過失及び安全配慮義務違反がある。
本件小学校の校長の過失及び義務違反:
①Eが本件小学校において女子児童との身体接触を行った旨の報告を複数回受けていたが、いずれも直ちに性的な身体的接触とはいえない態様であること、
②ことさら児童と二人きりになって行われたものではないこと、
③Eの前件問題について知らされていなかったこと

同校長は、本件わいせつ行為前に、Eが児童に対して性的な行為に及ぶおそれがあることを具体的に予見することができたとはいえない
⇒同校長の過失及び安全配慮義務を否定。
  解説 いじめ等の学校事故に関する訴訟実務のいては、不作為の過失又は義務違反の成否が問題になった場合、過失又は義務違反があるというためには、具体的状況下において事故が発生する危険性を具体的に予見することが通常可能である必要があると解するのが一般的な傾向。 
Xの精神的苦痛の損害額が200万円とみとめられたうえで、担任教諭がXに対して本件わいせつ行為の示談金として300万円を支払ったことから、XのYに対する損害賠償請求権が弁済によって消滅⇒請求は棄却。
  民事p64
金沢地裁H30.9.13  
  債権者一覧表への不記載で配当を受けられず⇒申立代理人・管財人の責任
  事案 Xは、A社(破産会社)に対する売掛金債権(破産債権)を有していた株式会社。

破産会社が破産手続開始申立てに当たり破産債権者に提出した債権者一覧表にXが破産債権者として記載されず、破産裁判所から債権届出期間等の通知を受けることができなかったため、同破産手続において、債権届出をせず、配当を受けることができなかった。
⇒申立て代理人(Y2ら)と管財人(Y1)に対し、民法709条(併せて、選択的に、Y2につき民法715条1項本文、Y1につき破産法85条2項)に基づき、損害等の連帯支払を求めた。
  規定 破産法 第八五条(破産管財人の注意義務)
破産管財人は、善良な管理者の注意をもって、その職務を行わなければならない。
2破産管財人が前項の注意を怠ったときは、その破産管財人は、利害関係人に対し、連帯して損害を賠償する義務を負う。
  判断 Y2ら(申立代理人)に対する請求を一部認容、Y1(管財人)に対する請求を棄却。 
破産会社の代理人弁護士であり、その旨表示して受任通知を送付したY2ら:
破産会社に対し委任契約上の善管注意義務を負うのみならず、
少なくとも、Xを含む受任通知を送付した個別の債権者との関係においても、信義則上、破産手続開始申立てに当たり、債権者一覧表に記載しないことについての正当な理由がある場合を除き、当該債権者を記載した債権者一覧表を破産裁判所に提出する義務を負う。
but
Y2らは、破産会社を代理して破産裁判所に提出した債権者一覧表に正当な理由なくXを破産債権者として記載せず、その後もXが記載された債権者一覧表を追完しなかった
⇒Xに対し共同不法行為責任を負う。
知れたる債権者に対する個別通知は破産管財人の職務とはされていないなど破産法の規定や運用

破産管財人は、破産債権者の調査については、原則として破産者(及びその代理人)に委ねれば足り、これを超えて、自ら積極的に各種資料を精査するなどして探索すべき法的義務を負わず、また、
Y1が、破産管財人として一般的に要求される平均的な注意義務を尽くしてその職務を遂行すればその過程において容易にXの破産債権の存在が判明したものとも認められない

Y1の善管注意義務違反及び不法行為を否定。
  解説 本判決では、Xにも過失があったとして、2割の過失相殺をした。
but
大阪高裁H18.7.5は、
破産裁判所書記官が債権者(原告)への通知を怠り原告が配当を受けられなかったことについての国賠請求事件において、過失相殺を否定。
(最高裁H18.1.19は、法令上債権者がとるべき措置が定められていない民事執行手続に関し、債権者の過失を否定) 
  民事p78
徳島地裁H30.6.20  
  秘仏としていた本尊等を撮影した写真の使用・公開・販売等と宗教的人格権侵害等
  事案 四国にある88か所の寺院に関する団体であるX1並びにそのうちの2つの寺院であるX2及びX3が、Yは、Xらの承諾を得ることなく撮影した本尊等の写真を用いた商品を販売した⇒宗教的人格権・氏名権侵害、不正競争法、債務不履行(撮影許可合意違反)又は不法行為に基づき、損害賠償、写真及び写真を用いた商品等の販売等の差止め及び廃棄を求めた事案。 
Yは、テレビ番組の制作に伴って、X1の協力を得て、X2、X3を含む各札所の本尊の写真撮影を行い、当該写真を用いた御影、書籍、掛け軸を販売したほか、当該写真について、常設展を含む展覧会を開催した。
  争点 Yの行為が、
①X1との撮影許可合意に反するか
②Xらの宗教的人格権を侵害するか
③不正競争法2条1項1号及び2号の各要件をみたすか、
④Xらの氏名権を侵害するか
  判断 争点①:
Yはテレビ局の従業員などではなく、YにおいてX1とテレビ局との合意に服する旨の特段の意思表示をしたことも認められない
⇒前記合意はYを拘束するとはいえない。
争点②:
X1は、写真の被写体である各諸尊(像)の権利主体ではない⇒不法行為法上保護されるべき権利利益を有しない。
X2、X3については、Yが、X2及びX3の本尊を許諾なく撮影したと認定したうえ、かかるYの行為は、X2及びX3の宗教的人格権を侵害する。

Yの行為の不法行為該当性を肯定し、Yが撮影した写真、当該写真のネガフィルム・電子データ及び当該写真を用いた御影・書籍・商品の廃棄を命じるとともに、当該写真の公開を禁じた。
争点③④:
Yが作成した御影等に記載されている「四国〇番」「〇〇寺」といった表示は、Yが作成した御影に用いられた仏像がどの札所の本尊等であるかを表示するものにすぎないから「商品等表示」には該当しない⇒氏名権を侵害するとは認められない。
  解説  宗教的人格権について:
①宗教上の信念から絶対的無輸血の意思を有している患者に対し、医師が手術をするにあたって十分な説明をしなかったことから、人格権侵害を理由とする損害賠償を認めた事例(最高裁H12.2.29)
②静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益は、直ちに法的利益とは認められないとした事例(最高裁昭和63.6.1)。
③総理大臣の靖国神社参拝による不快の念なども、直ちに損害賠償の対象となる法的利益とはいえないとした事例(最高裁H18.6.23)
本件:
①X2及びX3の本尊が秘仏で、原則として公開されることを予定されておらず、これが公開された際のX2及びX3の宗教的人格権の侵害の程度が大きい
②Yは当該写真を用いた商品等の販売を行っており、X2及びX3の宗教的人格権の侵害が継続されるという事実

Yの行為がX2及びX3の宗教的人格権を侵害すると判断。
  争点③
本判決:
Yが作成した御影等に記載されている「四国〇番」「〇〇寺」といった表示は、当該寺院を指すものとして一般的に認識されているものの、
本来、御影は、参拝・納経の証として各札所で頒布等されているものであって、各札所以外の場所で販売されるものではなく、Yが作成・販売した商品の内容から、当該表示は、Yが作成した御影に用いられた仏像がどの札所の本尊等であるかを表示するものにすぎない⇒「商品等表示」には該当せず、氏名権を侵害するとは認められない。
不正競争法にいう「不正競争」に該当するには、
Yが作成した御影に表示されたものがYの「商品等表示」に該当することが必要(同法2条1項1号、2号)。

「商品等表示」とは、
「商品の出所又は営業の主体を示す表示をいい、具体的には、人の業務に係る氏名、商号、商標(サービスマークを含む)等をいう」とされている。
争点④ 
氏名権(名称権)が侵害された場合に、損害賠償を求めることができるほか、差止めや廃棄まで求めることができるとする例もある(参考:最高裁H18.1.20)が、
本判決は、Yが作成した御影等に表示された「四国〇番」「〇〇寺」という表示について、争点③と同様の理由で、氏名権侵害はないと判断。
  刑事p88
大阪高裁H30.11.14
   
★海外判例研究第7回  
     
  憲法②    デイビソン対ランダール判決 アメリカ連邦高等裁判所
宣言的判決および作為的差止請求事件
    政府が開設したフェイスブックページはパブリックフォーラムに当たる⇒その批判者をブロックすることは観点差別であって表現の自由を侵害する
デイビソン判決
     
       
2398   
  行政p27
東京地裁H30.9.27  
  被災者生活再建支援法に基づく支援金の支給決定⇒その後一部損壊に修正され、支給決定取り消し⇒不当利得返還請求(否定)
  事案 X:被災者生活再建支援法の規定に基づき、宮城県から被災者保生活再建支援金の支給に関する事務の全部の委託を受けた被災者生活再建支援法人であり、東日本大震災に係る地震が発生した平成23年3月11日当時、仙台市A区に所在する建物に居住していたYらから、支援金の支給の申請を受け、Yらに対し、それぞれ支給決定をして支援金を支給
but
その後、本件支給決定を取り消す旨の各決定

Xが、行訴法4条の当事者訴訟として、Yらに対し、支給済みの支援金相当額の不当利得の返還及び遅延損害金の支払を求めた。
  解説 支援法:
自然災害により被災世帯(全壊世帯、大規模半壊世帯等)となた世帯の世帯主に対し、当該世帯主の申請に基づき、支援金の支給を行うことを規定(支援法3条1項)
支援金の支給の申請の際、当該世帯が被災世帯であることを証する書面を提出しなければならない(被災者生活再建支援法施行令4条1項)ところ、
り災証明(災害による住家に係る被害認定をした結果を証明する文書として全国の各市町村において作成され、各種被災者支援制度における基礎資料として利用されている。)が、被災世帯であることを証する書面として利用されている。 
り災諸運命が証明する被害の程度は、内閣府が定めた「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」(「内閣府運用指針」)に基づき、一般的な住家を想定した損害割合により判定され、
建築士等の資格を有しない者が調査及び判定を行い得ることを前提として、第一次調査では、外観目視による損傷程度等の把握を行う。
東日本大震災による住家の被害の認定については、内閣府制作統括者(防災担当)付参事官の事務連絡により、さらに簡便な目視による状況把握ができることとされていた。
Xは、支援法11条1項所定の業務規程(「本件業務規程」)を定め、本件業務規程11条は、支援金の支給決定を取り消すことができる場合として、偽りその他不正の手段により支援金の支給を受けたとき(同条1号)等を規定。
  事実 本件マンションは、合計9棟から成るマンション群のうちの1棟。
東日本大震災後の1回目の調査では一部損壊、2回目の調査では大規模半壊と判定⇒Yらは、2回目の調査に係るり災証明書を添付して支援金の支給を申請⇒Xから本件支給決定を受けて、支援金の支給を受けた。 
A区は、一級建築士に依頼するなどして本件マンションについて3回目の調査を実施⇒被害の程度を一部損壊に修正⇒Xは、職権により、本件支給決定がその要件を欠くことになったとして、職権により、本件支給決定を取り消す旨の決定(本件取消決定)
  争点 ①行政処分は適法なものではなければならず、一旦された行政処分も、後にそれが違法であることが明らかになった場合には、法治主義の要請に基づき、権限を有する行政庁において法律上の特別の根拠なく、職権によりこれを取り消することができる。
but
②支援金の支給決定のような授益的な行政処分については、これが取り消されることによって、当該処分による既得の権利利益や、当該処分が適法であり有効に存続するものと期待した者の信頼を害することになる。

判例は、
処分の取消によって生ずる不利益と、取消しをしないことによって当該処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することの不利益を比較考量し、
当該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときに限り、これを取り消すことができるものとする。
(最高裁昭和31.3.2) 
  判断  (1)自然災害により住宅に被害が生じた多数の被災者についてその支援の必要性が高い時期に生活再建資金を援助するという支援法の趣旨及び目的に照らし、
支援金は、被災者において速やかに生活再建のために支出することが当然に予定されており、住宅の被害の程度が事後的に修正された場合に支援金の返還を求められるとすれば、被災者が不安定な立場に置かれるばかりでなく、そのような修正がされていないときであっても、後に支援金の返還を求められる可能性を考慮して、これを速やかに生活再建のために支出することにちゅうちょを覚えるという事態に陥りかねない。
①そのような事態は、支援金制度の実行性を失わせるものであり、
②被災者に支給された支援金が生活再建のために支出された後になってその返還を求めることは、
被災者における生活再建のための支出計画に少なからぬ影響を及ぼすとともに、
支援金の支給がなければ存在しなかった負債を被災者に負わせることにもなり、かえって、被災者の生活再建に対する阻害要因となりかねない。

本件支給決定を取り消すことによるYらの不利益は大きい。 
(2)
①支援金の支給についてYらに帰責性はない
②被害位認定調査の手続及び内容は、内閣府運用指針等に沿うものであり、2回目の調査の被害の判定における誤認は、建築の専門家による調査検討を経て初めて判明⇒2回目の調査の当時において公平・公正性及び適正性の観点から問題とされるものではなかった。

事後的な調査の結果に基づき被害の程度が修正されたというだけでは、適正な支給の実施に対する社会一般の信頼が損なわれるおそれや、多数の被災者の理解を得ながら適正な支援を行うことができなくなるおそれが生ずるとはいえない。

複数の建物の間で被災世帯該当性の判断に差異が生じることが直ちに不平等に当たるものではない。
処分の取消によって生ずる不利益>取消しをしないことによって当該処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することの不利益
というべきであり、
本件支給決定を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認めることはできず、本件支給決定は、これを取り消すことができない
⇒本件取消決定は違法。
  支援金の支給決定及びこれを取り消す旨の決定は、支援金の支給を申請した当該被災世帯の世帯主に対してにも効力を有するものであり、当該処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要に乏しい

当該処分の瑕疵が支援法の根幹についてのものであり、かつ、支援法に基づく被災者に対する支援行政の安定とその円滑な運営が要請されることを考慮してもなお出訴期間の経過による不可争的効果の発生を理由として当該世帯主に処分による重大な不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵が必ずしも明白なものでなくても、当該処分は当然無効であると解するのが相当。(最高裁昭和48.4.26)
本件取消決定は、支援法の根幹にかかわる重大な瑕疵を有するものであり、前記例外的な事情があるというべき

本件取消決定が当然無効であり、不当利得返還請求権は発生しない。
  民事p46
東京高裁H30.3.15  
  不動産売買契約が公序良俗に反する暴利行為にあたるとされた事例
  事案 Y:本件各建物を所有し、そのうちの店舗兼共同住宅1階でスナックを経営している者。
X:本件各建物を含む本件各不動産について、Yから買い受けたAから売却を受けた者。
Xが、本件各建物を占有するYに対して、本件各建物の明渡しを求めるとともに、不法行為に基づき賃料相当損害金の支払を求め、これに対し、Yが、Y・A間の売買契約の有無及び効力を争った。 
  事実 Yは、店舗兼共同住宅1階でスナックを経営し、その収入のほか共同住宅や貸地を賃貸することにより賃料収入を得て生活していた。
but
農協からの借入金の返済を遅滞して、内容証明郵便で期限の利益を失い、法的手続により回収する旨の通知。

Yは、根抵当権の設定されていた本件各不動産に対する競売を回避するため、知人のつてでAに融資の申込み。 
AからYへの融資:
平成25年12月24日付で1000万円の金銭借用証書、極度額3000万円の根抵当権設定契約、少なくともYに590万円の入金
H26.6.9:YとAとの間で、本件各不動産を6000万円で売り渡す旨の売買契約書
売渡費用はYの負担、所有権移転登記に関する費用はAの負担
YのAに対する借入金の残金を売買代金にすべて充当
農協借入金の残金をAがすべて支払う
手続に要する費用はAが負担
することを条件として、売買代金が確定。
これらと併せて、YはAに対し、農協借入金の代位弁済を依頼し、その返済は借入債務と併せてY所有の不動産をAの指示に従い売却して返済することに同意する旨の代位弁済同意書が作成。
その後、Aが担保提供者の立場で農協と交渉して、2990万5598円を返済し、農協による根抵当権設定登記は抹消。
Aは本件各不動産の売却先を探し、Yを平成26年12月末までに立ち退かせること、解体造成費用はAまたはYが負担すること、本件各不動産はYとXとの直接取引ではなく、AとXとの取引とするとの条件で、Xが購入する意向(購入価格は1億500万円)。⇒Y・A間の売買契約書作成。
その後、Y、A、Xの三者は直接面会し、本件売買契約の代金が6000万円であることはXに伝えられている。
本件各不動産の客観的交換価値は、少なくとも1億3130万円。
  争点 Y・A間の本件各不動産の売買契約が暴利行為に当たるか。 
  原審 Yは本件各不動産の競売回避のために早期に売買代金を必要としていた事情
⇒本件各不動産の売買に際して、時価相当額を下回る価格である6000万円で売買契約が締結されたからといって、暴利行為を評価することはできない。 
  判断 ①本件各不動産の客観的交換価値は少なくとも1億3130万円以上であり、売買代金6000万円は、その半分にも満たない
②本件売買契約により、Yは生活の本拠のほか賃料収入も得られなくなり、生活の基盤を完全に失うことになる
③Yが現実に受け取った現金は590万円分のみであり、農協借入金返済額2990万5598円を併せてもYの経済的利益は合計3580万5598円に過ぎない

債務は返済したものの、今後の生活費等は手元に全く残らない状況に陥っており、経済的取引としての合理性を著しく欠くものであり、通常の合理的な判断能力を有する者であれば、およそ行わないような内容の取引

公序良俗に反する暴利行為に当たる。 
  解説 相手方の無知ないし窮迫に乗じて過大な利益を獲得しようとするいわゆる暴利行為は、民法90条によって無効(大判昭和9.5.1)。
いかなる事情をもって暴利行為にあたるというかは、事案によって異なり、諸事情によって判断される⇒当事者による間接事実の提示が重要になってくる。 
  民事p74
東京高裁H27.7.14  
  (いわゆる)ハーグ条約実施法で、同法28条1項4号の返還拒否事由を認めた事案
  事案 子の父であるX(トルコ共和国国籍)が、母であるY(日本国籍)に対し、Yによる連れ去りによりXの子に対する監護の権利が侵害された⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき、子を常居所地国であるトルコ共和国に返還することを求めた。 
  原審 Xの申立てを認容 

Yが即時抗告
  判断 原決定を取り消し、申立てを却下。 
  解説 ①子やYに対する暴行等の認定内容及び評価の差
②トルコにおけるDV保護法制に対する評価の差 
  ①について:

原審:
XがYに対し子がいる場で暴力を振るった事実を認めたものの、Xが子に対して暴力を振るった事実や性的に不適切な行為を行った事実を認めるに足りる証拠はない
⇒トルコへの返還後に、子がXから身体に対する暴力等をうけるおそれやYがXから子に心理的外傷を与えることとなる暴力等を受けるおそれがあるとは認められない。

判断:
子に対する性的に不適切な行為があったと認めた上、XがYに暴行を加えた際、その巻き添えとなって子が怪我を負ったことを認め、今後も同様の事態に至る可能性が高い。 
  ②について:

原審:
①Xに対し、トルコの法律に基づいて、一定期間、Yに対する暴行等の禁止や自宅への接近の禁止等を命じるDV保護命令が発令されている
②このような保護命令の実効性は、違反者に対する身体拘束等により制度上担保されている上、期間延長も可能
③DVの被害者に提供されるシェルターがY及びXが居住していた地域にも存在する
⇒Yが子とともにトルコに入国した場合、Xの暴力から保護されるための手段として、これらのトルコの法制度を利用することができる。 

判断:
トルコのDV保護制度の不備を指摘する各種の資料
⇒子及びYがトルコに戻った場合に、DV保護制度によってXの暴力等から適切に保護され得るとすることには疑問が残る。
  重大な危険の返還拒否事由は、実務上、子の返還申立事件の審理に当たって、最も頻繁に主張される返還拒否事由とされており、
この事由に関する判断が、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)全体の運用の適否を左右するとも言われている。 

①子が常居所地国に返還された後にどのような危険が生じ得るのか、
②常居所地国において、その危険から子を保護するための措置(例えば、DV保護命令制度)によってその危険が低減されるか
という2つの視点から検討を要すると考えられている。
実施法施行後3年間の返還申立事件の終局決定例の判断傾向の分析(依田吉人、家庭の法と判例12.27)
ハーグ国際私法会議において、締約国各国の適切な実務慣行を収集したグッド・プラクティス・ガイド
  民事p83
大阪高裁H30.1.30  
  祭祀主宰者、遺骨の分骨等についての争い
  事案 X(母)は、Y(父)に対し、
主位的に被相続人の祭祀財産の承継者をXと定める処分を、
予備的に本件遺骨の分骨とその引渡しを
求めた。
  原審 婚姻関係解消の前後を通じ、被相続人の祭祀の主催者は既にYに定められている
⇒改めて祭祀財産の承継者の指定を求める(民法897条2項)主位的申立ては理由がない。 
同条項は分骨を請求できる根拠とはならない⇒予備的請求も理由がない。
  判断 ●主位的申立て(祭祀主催者の指定等):
X・Y間では協議により被相続人(長男)の祭祀主宰者をYとすることが既に定められていた⇒改めて祭祀財産の承継者を指定する(民法897条2項)理由はない。
①Yの改葬の意図目的は、死後、本件墳墓が無縁仏となることを懸念し、その維持管理を図るところにあった⇒それなりの合理性を有する
②Yが改葬に先立ちXに連絡しなかったことは配慮を欠くものの、両者は離婚後20年も没交渉であったからやむを得ない面もある
③Yは、改葬墳墓を祖先の墳墓とは別途設置し、Xの心情や墓参の便宜にも配慮義が見られる

Yが祭祀主催者としての適格性を喪失したとはいえないから、これを変更すべき理由もない。
  ●予備的申立て(分骨等):
①Yは、Xの墓参を拒んでいるとはいえない
②改葬墳墓はY家の祖先の墳墓とは別途設置されている
③Yが離婚後も約20年、本件墳墓を管理し、その間Xは自由に墓参し、Yによる祭祀には特段異議を述べることもなく一任してきた
④Yが分骨に強く反対

本件では、本件遺骨の一部をXに分属させなければならない特別の事情はない

分骨請求等についても理由がない。 
  規定 民法 第897条(祭祀に関する権利の承継)
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
  解説   祭祀に関する権利の承継については、民法897条が規律し、これらの紛争について遺族関係者間の協議で解決できなかった場合、家庭裁判所が調停・審判で決することができる。
本件のような遺骨の帰属をめぐる紛争についても、相続法理によるものではなく、同条の祭祀主催者ないし承継者に帰属するという解決を志向する。

最高裁:
遺骨は慣習に従って祭祀を主宰すべき者とみられる相続人に帰属するとした原審を是認(最高裁H1.7.18)。
  遺骨は物理的に分けることができる⇒
①故人を偲ぶ家族や特別に親密な関係にあった者による分骨請求が認められるか、
②その根拠をどこに見い出すか
が問題。 
  原審:法的な根拠がない⇒これを否定
vs.
①祭祀財産については、特別の事情がある場合にには、複数の祭祀主宰者やその分属が認められている(奈良家裁H13.6.14)
②遺骨の帰属をめぐる紛争についても、相続法理によるのではなく、民法897条の祭祀主宰者ないし承継者に帰属するという解決を志向⇒分骨が可能であり、分骨を必要とする特別の事情がある場合には、同条を根拠として分骨請求を認める余地がある。

抗告審:本件では、本件遺骨の一部をXに分属させなければならないとする特別の事情はないとして、分骨請求についても理由がないとした。 
  民事p87
名古屋高裁H30.7.17  
  ウィーン条約実施法で、子を常居地国に返還することを命じる終局決定が確定⇒拘束者が従わないまま子を監護⇒人身保護請求(肯定)
  事案 XとYは夫婦であり、いずれも日本人。
被拘束者は、両名の二男であり、米国で出生し、同国と日本の二重国籍を有している。 
Xは、Yを相手方として、平成28年7月25日、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「実施法」)に基づく被拘束者の返還命令を申し立て⇒東京家裁は、同年9月16日、Yに対し、被拘束者を米国に返還するよう命じる決定をし、この決定は確定。
Xは、本件返還決定を受けて、東京家裁に代替執行を申し立て、その授権決定を得て、平成29年5月8日、執行官による解放実施が行われたが、不能に終わった。
  申立 Xは、同年7月1日、被拘束者の解放を求めて人身保護請求を申し立てた。
その理由:
Yは、本件返還決定が確定しているにもかかわらず、被拘束者の返還に応じずに拘束を継続しているが、
別件米国の裁判により、Yは被拘束者の監護権を失い、監護権者はXのみとなった上、
被拘束者が米国への帰国を望んでいる
⇒Yの被拘束者の拘束には顕著な違法性がある。 
  差戻前 名古屋高裁金沢支部:
①被拘束者は、現在、日本での生活環境に馴染み、良好な人間関係を構築して充実した学校生活を送っており、家庭内においてもYと親和して、情緒も安定し、年齢相応の発達を遂げて健やかに成育している
②被拘束者は、Yとの同居を望み、事故の希望として日本に居住して現在の生活を継続したい旨述べており、13歳という年齢を考慮しても尊重されるべき
③被拘束者は、Yによって身体の自由を拘束されているとはにわかに認め難く、Xの本件請求は、被拘束者の自由に表示した意思に反する
④実施法に基づく本件返還決定が確定していることは、本件の帰趨に影響しないし、別件米国の裁判によって、Yが被拘束者の監護権を失ったとしても、本件の結論は左右されない。

本件請求を棄却。 
  最高裁 Yによる被拘束者に対する拘束に顕著な違法性がある⇒名古屋高裁に差し戻し。 
  判断 ①被拘束者が自由意思に基づいて、Yの下にとどまっているとはいえない特段の事情があり、Yの被拘束者に対する監護は、人身保護法及び同規則にいう拘束に当たるというべきであり、また、本件請求は、被拘束者の自由に表示した意思に反してされたものとは認められない
②国境を越えて日本への連れ去りをされた子の釈放を求める自身保護請求において、実施法に基づき、拘束者に対して当該子を条居住地国に返還することを命ずる旨の終局決定が確定してにもかかわらず、拘束者がこれに従わないまま当該子そ監護することにより拘束している場合には、その監護を解くことが著しく不当であると認められるような特段の事情のない限り、拘束者による当該子に対する拘束に顕著な違法性がある。
③Yは、近々、本件返還決定の変更を求める申立てを行うことを検討しているが、本件返還決定後に、Yが被拘束者と一緒に渡米することが不可能又は著しく困難な健康状態に陥ったことを認めるに足りる証拠資料もなく、本件返還決定の変更申立てが認容される蓋然性が高いと認めることはできない

Xの人身保護請求は理由があるとして、被拘束者を釈放し、Xに引き渡すべき。 
  民事p93
東京地裁H30.1.31  
  自動車保険契約での偶然性の立証と故意免責の立証
  事案 Xは、遺産分割協議により、Aの前記保険金を相続したと主張し、Yに対し、
人身傷害補償保険金3000万円、
搭乗者傷害保険金1000万円
車両保険金45万円
傷害総合保険金850万円
の合計4897万円の支払を請求。 
  解説・判断  ●  本件自動車保険契約に基づく人身傷害補償保険及び搭乗者所外保険、本件傷害総合保険契約に基づく障害保険の支払要件:
約款では、「急激かつ偶然な外来の事故」(「偶然性の事故」)によって身体に傷害が発生することが必要とされている。
⇒ 
保険金請求者が「偶然性の事故」であることを主張立証しなければならないのか、
保険会社が「偶然性の事故」でないこと(換言すれば、事故が故意に夜ものであること)を主張立証しなければならないのか
が問題。
  本判決:
保険金請求者が主張立証すべきことを当然の前提としている。
Aが県道を北方から南方に向かって走行してきてガードレールの切れ目に差し掛かった際に、不注意又は不可抗力により保険自動車を右旋回させた可能性は極めて低いと言わざるを得ない
⇒本件事故が偶然により発生したものと認めることはできない。

本件自動車保険契約に基づく人身傷害補償保険及び搭乗者傷害保険、本件傷害総合保険契約に基づく傷害保険の支払請求は否定。
本件自動車保険契約に基づく車両保険の支払要件として、
約款では、
「盗難、盗難以外の・・・その他偶然な事故」について、保険金を支払うと規定。
⇒「偶然な事故」であることは、保険金請求者が主張立証すべきことのようにみえないではない。
本判決:
本件事故は偶然性があるとは認められない。
しかしながら、本件事故に偶然性が認められないからといって、直ちに被告に故意免責が認められるものではない。

本件においては、Aが自殺をほのめかす言動をしていたといった事情が認められないというだけでなく、その生活状況から見ても、自殺する動機が存在したなどの事情もうかがわれない

本件事故が、・・・Aの故意によって生じたものとまで認めるには足りない⇒故意免責を認めることはできない

車両保険に係る保険金として45万円の支払を認め、その余の請求を棄却。
  最高裁H13.4.20:
普通傷害保険契約の約款に基づき死亡保険金の支払を請求する場合における「偶然な事故」についての主張立証責任は、保険金請求をする者にある。 
最高裁H18.6.1:
「衝突、接触・・・その他偶然な事故」を保険事故とする自家用自動車総合保険契約の約款に基づき、車両の水没が保険事故に該当するとして、保険者に対して車両保険の支払を請求する者は、事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張、立証すべき責任を負わない。

車両保険については、保険会社において、故意免責の主張立証責任を負うことを判示。
  商事p101
最高裁H30.10.11   
  金商法19条2項(賠償の責めに任じない損害の額)と民訴法248条の類推
  事案 東京証券取引所第一部に上場されていたYの株式を募集等により取得した投資者であるXらが、Yが提出した有価証券届出書に係る参考書類のうちに重要な事項についての虚偽の記載があり、それにより損害を被った⇒Yに対し、民法709条、会社法350条、金商法18条1項又は平成26年法律第44号改正前の金商法21条の2第1項に基づき損害賠償等を請求。
  原審 ①民法709条又は会社法350条に基づく損害賠償請求には理由がない 
②改正前金商法21条の2第1項に基づく損害賠償請求について:
平成18年9月中間期半期報告書及び平成19年3月期有価証券報告書に虚偽の記載がある⇒同条2項に基づき推定した損害額(1株69.66円)から同条5項により賠償の責めに任じない額として認められる相当な額(6割)を控除した額がYの負担すべき賠償責任額
③金商法18条1項に基づく損害賠償請求について:
第三者募集に係る有価証券届出書の参照書類である平成18年9月中間期半期報告書に虚偽の記載があると認められ、同法19条1項に基づいて算定した賠償責任額から、同条2項により認定した賠償の責めに任じない額(1株30円)及び民訴法248条の類推適用により金商法19条2項の賠償の責めに任じない額として認められる相当な額(6割)を控除した額がYの負担すべき賠償責任額であるとして、Xらの請求を一部認容。
  解説・判断    金商法18条1項本文:
重要な事項にについて虚偽記載等のある有価証券届出書を提出した者に無過失損害賠償責任を負わせるものと規定。
同法19条1項は、同法18条1項の賠償責任額として、取得価額から処分価額等を控除した額を法定。

その上で、同法19条2項は、同条1項の額から、有価証券届出書の虚偽記載等と相当因果関係のある値下がり以外の事情により生じたことが賠償責任者によって証明されたものを賠償の責めに任じないものとして減ずることを定めている。

同法5条4項の適用を受ける有価証券届出書に係る参照書類については、同法23条の2により、有価証券届出書を同参考書類に読み替えるなどして同法18条1項及び19条が適用されることになる。 
  最高裁における争点:
金商法18条1項に基づく損害賠償請求訴訟において、裁判所が民訴法248条の類推適用により金商法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額として相当な額を認定することができるか?
  金商法18条1項及び19条:
請求者にとって容易に立証することができる一定の額を賠償責任額として法定した上で、その額から、虚偽記載等による値下がり以外の事情による値下がりであることが賠償責任者によって証明されたものを減額するという方式を採用し、これにより損害填補等の目的を実現しつつ、事案医即した損害賠償額を算定しようとするもの。

同法18条1項に基づく損害賠償責任が原状回復的なものであるとされていることを厳格に捉えることができない。

①同法18条1項に基づく損害賠償責任が生ずる場合が、有価証券届出書のうちに虚偽記載等がなければ投資者が当該有価証券を取得することがないときに限られない
②同法19条2項による減額の抗弁を認めている


虚偽記載等による値下がり以外の事情により値下がりがあると認められるものの、性質上その額を立証することが極めて困難である場合に、そうした減額を全く認めないというのは、当事者間の衡平の観点から相当ではなく、事案に即した損害賠償額の算定という趣旨にも反する。
  ①金商法19条が政策的に設けられたものであること、
②民訴法248条が原告や権利者保護の観点から設けられたという同条の沿革
③不法行為等における「損害」は責任原因との間に相当因果関係があるのに対し、金商法19条2項の賠償の責めに任じない損害は責任原因との間に相当因果関係がないこと等

被告ないし義務者からの減額の抗弁を定めた同行の「その全部又は一部」に民訴法248条の「損害額」を適用することができると解することは難しい。

but
①民訴法248条に係る制度の本質は、当事者間の衡平を図ることをその趣旨とするもの
②金商法19条2項の適用に際し、請求権者に生じた損害が有価証券届出書の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情により生じたことが認められ、かつ、当該事情により生じた損害の性質上その額を立証することが極めて困難である場合をみると、立証責任を負う者について原告ないし請求権者と被告ないし義務者との違いがあるものの、民訴法248条を適用すべき状況に類似

金商法18条1項に基づく損害賠償請求訴訟において、裁判所が民訴法248条の類推適用により金商法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額として相当な額を認定することができる旨を判示し、肯定説のうち類推適用説を採用。
  労働p106
東京高裁H30.6.18
  大学教授の解雇(無効)事案
  事案 大学教授の解雇を巡る紛争。
学校法人である控訴人に雇用された被控訴人が、控訴人から懲戒解雇され、さらに、予備的に普通解雇された

これらの解雇が無効であると主張して、
控訴人に対し、
被控訴人が控訴人との雇用契約上の地位にあることの確認を求めると共に、
民法536条2項に基づき、懲戒解雇がされた月の翌月以降の賃金及び賞与を請求。
  原審 いずれの解雇も無効⇒地位確認請求を認容。 
賃金請求:
解雇予告手当金の充当を認めて一部棄却。
賞与請求:
具体的な権利性が認められる部分のみを認容し、その余を棄却。
  争点 ①各解雇の有効性
②賞与請求権の具体的権利性の有無 
  判断  被控訴人を懲戒解雇とすることは重きに失する
⇒懲戒解雇を無効とした原審の判断を維持。 
普通解雇について:
控訴人の新たな主張:
①被控訴人が研究室に出金しなかったことが就業規則違反に当たる
②同僚等に対する恫喝的な言動、約2年半の無断欠勤、無届での多額の金員の受領行為があったことも考慮すると解雇事由に該当することを追加
①について:
教育・指導義務が免除された被控訴人には前記就業規則がそのまま適用されるとはいえない。
②について:
これらの行為のうち証拠上認められるものを追加的に考慮しても解雇事由に該当するとはいえない

普通解雇を無効とした原審の判断を維持。
  民法536条2項に基づく賞与請求について、
原審が請求の請求の一部を棄却したのに対し、
本判決は、これを取り消して請求の全部を認容。 
  規定  民法 第536条(債務者の危険負担等)
前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
  解説 民法536条2項に基づいて賞与請求が認められるのは、具体的な権利性が認められる場合に限られる。
就業規則、労働協約、労使慣行等において支給基準が具体的に定まっており、その基準に従えば形式的に賞与支給額を算定することができる場合等。

他方、賞与支給額が使用者の考査査定を経て定まるような場合、査定が行われていない⇒具体的な賞与請求権は発生していない。
原審:
控訴人の従業員の賞与は「支給係数」が定まらなければ賞与の額が定まらないところ、この「支給係数」は、形式的に定まっているものではなく、入学者数等諸般の事情を考慮して定められるもの
⇒具体的な権利性は認められない
⇒「支給係数」が明らかな限度で賞与請求を認容
控訴審:
「支給係数」についての立証が新たにされ、賞与の支給額は画一的に給与の5.25か月分と算定
⇒控訴人の賞与額もこれに従って形式的に算定することができるため、具体的権利性が認められるとした。
  4月
2397   
  行政p3
最高裁H30.9.25  
  給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分について、法定納期限の経過後にその原因となる行為の錯誤無効の主張による適否を争うことの可否
  事案 権利能力のない社団Xが、理事長Pに対し、借入金債務の免除(本件債務免除)をしたところ、所轄税務署長から、これに係る経済的な利益(本件債務免除益)がPに対する賞与に該当⇒給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分を受けた⇒国を相手にその取消しを求めた。 
  概要 Pは、債権回収会社Aとの間で、借入金の一部を弁済した場合にはその余の支払義務の免除を受ける旨合意して分割弁済⇒平成17年、同社から残債務の免除(ア)を受けた。
その後、Pの資産に増加はなかった。 
所轄税務署長は、平成19年8月、Pの平成17年の所得税の更正処分等についての異議申立てに係る決定の理由中において、前記アの債務免除益については平成26年6月27日付け課個2-9ほかによる改正前の所得税基本通達36-17(本件通達)の適用がある旨の判断。

本件旧通達:
債務免除益のうち、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であると認められる場合に受けたものについては、各種所得の金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入しない。
PのXに対する借入金債務の額は、平成19年12月10日当時、55億円余。
Xは、Pらから、不動産を総額7億円余で買い取り、その代金債務と前記借入金債務とを対当額で相殺するとともに、Pに対し、前記相殺後の前記借入金債務48億円余を免除(本件債務免除)(イ)。
  主張 X:前記イの決定において、Pについて「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難と認められる場合」に当たるとして本件旧通達が適用されたため、本件債務免除益についても本件旧通達の適用により課税の対象とならないと考え、Pとその旨確認の上、本件債務免除をした。
⇒本件債務免除益が納税告知処分の対象となるのであれば、XとPが確認した前提条件に錯誤があり、これは要素の錯誤であるから、本件債務免除は無効。
  原審 法定納期限の経過後に源泉所得税の納付義務の発生原因たる法律行為につき錯誤無効の主張をすることは許されない。 
  判断 Xの上告受理申立てを受理した上、
給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分について、法定納期限が経過したという一事をもって、当該源泉所得税の納付義務を成立させる支払の原因となる行為の錯誤無効を主張してその適否を争うことが許されないとはいえない。

原審の判断は、法令の解釈適用を誤ったものである。
Xは、納税告知処分が行われた時点でまに、本件債務免除により生じた経済的成果がその無効であることを基因して失われた旨の主張をしてない

Xの主張をもってしては、納税告知処分等のうち原審が適法とした部分が違法であるということはできない。
⇒上告を棄却。
  説明  経済活動ないし経済現象は、第一次的には私法によって規律されている
⇒課税は、原則として私法上の法律関係に即して行われるべき(金子)。 
but
課税の前提となる私法上の法律関係についての行為が無効であるとしても、課税対象が私法上の行為それ自体ではなく、それによって生じた経済的成果(例えば所得)である場合には、その原因たる私法上の行為に瑕疵があっても、経済的効果が現に生じている限り、課税は妨げられない。
最高裁H2.5.11:
譲渡所得発生の基因となった土地持分譲渡契約が後に合意解除されたが、当該持分価額相当の金員が契約の相手方に返還されておらず、契約によって生じた譲渡収入は現実に消滅していないという事案において、
前記合意解除の存在を前提とせずにされた更正処分等を適法と判断。
  税負担問題は、私法上の意思決定において考慮に入れるべき最も重要なファクターの1つ⇒平均的経済人の立場から見てそれが合理的であると認められる場合には、これに関する錯誤を意思表示の無効原因と考えてよい場合がある。(金子) 
私法上の行為が税負担㋑関する錯誤により無効となる場合があることを前提とするものとして、最高裁H1.9.14。
  申告納税方式の租税について、その納税義務を成立させる支払の原因となる行為の錯誤無効が問題となった事案で、
裁判例(原審も同様)では、
わが国は、申告納税方式を採用し、申告義務の違反や脱税に対しては加算税等を課している⇒安易に納税義務の発生の原因となる法律行為の錯誤無効を認めて納税義務を免れさせたのでは、納税者間の公平を害し、租税法律関係が不安定となり、ひいては申告納税方式の破壊につながる⇒法定申告期間の経過後に課税負担の錯誤が当該法律行為の要素の錯誤に当たり、それが無効であることを主張することはできない。 
but
その理論的根拠を十分に説明できていない。
  行政p7
山形地裁H30.8.21  
  形式上の要件に適合しない申請であることを理由とした行政手続法7条に基づく申請に対する拒否処分が違法とされた事案
  事案 採石業を営むXは、森林法10条の2第1項に基づく開発行為の変更許可申請をするに当たって、処分行政庁が制定した規則(「Y規則」)において、申請に添付すべきと定められていた、地方公共団体等との間における残置森林等の保全に関する協定等を証する書面を添付しなかった⇒処分行政庁は、保全協定等は、森林法施行規則4条の規定する申請書に添付すべき書類に含まれるものであり、本件変更許可申請は、法令上要求されている書類に不備があるとして、行手法7条に基づき拒否処分をした

Xが、Y(山形県)に対し、本件変更許可申請は法令に定められた申請の形式上の要件を満たしていると主張して、本件処分の取消を求めた。 
  規定 行政手続法 第7条(申請に対する審査、応答)
行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。
  判断   行手法7条の「申請の形式上の要件」とは、申請が有効に成立するために法令において必要とされる要件のうち、当該申請書の記載、添付書類等から外形上明確に判断し得るものをいい、それは法令の規定する実体的要件の判断のために不可欠となる必要最小限のものに限られると解するのが相当。
  森林開発許可に係る判断を担う都道府県知事は、
森林法及び同法施行規則の規定に反しない限り、
規則所定の計画書として必要な具体的事項を定めることができる。
but
Y規則において規定されている添付書類の全てが、必ずしも「申請の形式上の要件」となるわけではない。
  保全協定等の性質や、関連通達における保全協定等の有無の位置付け、Xが本件変更許可申請に添付した計画書の記載内容などを考慮

Y規則が、森林法施行規則4条所定の「開発行為に関する計画書」に添付すべき書類として保全協定等を規定しているのは、当該申請に関して法令の規定する実体的要件の判断のためぬい不可欠となる必要最小限のものとして申請の形式上の要件とする趣旨ではなく、申請に係る審査をより厳密に行うこと等を目的として資料の提出を求めているものにすぎない

保全協定等の添付が「申請の形式上の要件」になると解することは、森林法及び同法施行規則に反する。

本件処分は違法であるとして、これを取り消した。
  解説  行手法7条は、いわゆる申請権の具体化として、
①行政庁について、申請が到達したときに遅滞なく当該申請の審査を開始する義務が生ずる旨を確認的に規定し、
②行政庁の応答義務のうち、特に、当該申請が申請の形式上の要件に適合しない場合について、申請者がいたずらに不安定な立場に置かれることを防止するため、行政庁の措置義務(当該申請の補正を求めて審査を継続するか、当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない)と規定したものであり、
いわゆる申請後受理前の行政指導を否定するために「受理」の観念を排除し、申請に対する処分の迅速で公正な処理を確保しようとするもの。
行手法7条が規定している「法令に定められた申請の形式上の要件」とは、申請が有効に成立するために法令において必要とされる要件のうち、当該申請書の記載、添付書類等から外形上明確に判断し得るものをいい、ほとんど、同条が例示に掲げた事項(「申請書に必要な書類が添付されていること」など)で尽きていると考えられる。
このような形式上の要件に対し、
申請をすることができる事項についての申請であることや、
申請資格を有する者による申請であること、
申請内容が真正であること
などについては、
一般に、申請の内容審査を経ないと判断できない問題
⇒「申請の形式上の要件」には該当しないと解されている。
  民事p14
東京高裁H29.11.30  
  生産委託契約において、委託者の、受託者が工場の再稼働に伴う初期投資費用を回収し採算を維持することができるよう配慮すべき契約上の付随義務(肯定)
  事案 XはYとの間で子供服の生産委託契約を締結。
Xは、Yに対し、
①主位的に、Yは年間1億5000万円の売上高に相当するだけの生産を委託する義務(「発注義務」)を負っていたのにこれを怠った
⇒債務不履行に基づき、契約期間を通じた発注不足額に相当する逸失利益合計3億1482万円余の損害賠償請求をし、
②予備的に、当初の契約期間については、最低売上高1億5000万円が維持されるとの信頼ないし期待を侵害して不測の損害を与えることのないよう配慮すべき契約上の付随義務ないし保護義務があるのにこれを怠った
⇒1億1070万円余の損害賠償請求。 
  原審 発注義務について否定。
契約上の付随義務ないし保護義務について: 
本件契約に至る経緯や契約条項などの諸事情⇒Yが目安とされた生産委託規模に見合う水準の発注量を確保できるよう配慮すべき契約上の義務を負っていた。
but
目安となる受注に達しなかったものの、Y側も、発注量を維持するための相応の努力をしていたことが窺われる
⇒前記の配慮義務を怠ったと評価するに足りる事情を認めることはできない。
  判断 原審と同様
①Yの要請を受けて、閉鎖していた工場を再稼働することになったこと、
②事業規模についても、早期の段階である程度の想定がされ、それに基づいて工場再稼働の計画が進められていたこと
③Xから覚書案が送付された後、格別の指摘がないまま7か月近く推移したにもかかわらず、向上の再稼働後に契約内容の修正を迫られ、事業撤退の困難な段階で契約が締結されてこと
④合理的な理由なく委託規模が著しく減少することのなよう努力するとの条項が設けられたこと等

少なくとも当初の契約期間は、Xが工場の再稼働に伴う初期投資費用を回収し、採算を維持することができるよう配慮すべき契約上の付随義務を負うものと認めた。
発注量が目安の3分の1にとどまったことについて、
新生児服の具体的な需要の推移等の関係で合理的な理由に基づき発注量が目安に満たなかった事情や努力義務を尽くしたとみるべき事情は認められない

付随義務違反による損害賠償請求を認めた。
  解説 原判決、本判決とも、
①Yの要請を受けて、閉鎖していた工場を再稼働することになったこと、
②事業規模についても、早期の段階である程度の想定がされ、それに基づいて工場再稼働の計画が進められていたこと
③ そのための設備投資がおこなわれていたこと


工場再稼働に伴う初期投資費用を回収し、採算維持ができるように配慮すべき契約上の付随義務を認めた。
義務違反の成否について、
原審:発注量が目安に到達しなかったことについて、合理的な理由もなくそのような状況に至ったと断じることはできないとし、Y側にも相応の努力があったことを認めた。
控訴審:Y側に合理的な理由があったことが認められないとした。

発注量が目安に到達しなかった合理的な理由をY側で主張、立証することが必要となる。
契約上の付随義務について:
雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務
診療契約上の義務としての説明義務
不動産売買契約上の説明義務


いずれの契約においても、当該契約の内容や契約締結に至る経緯等から判断されている。
  民事p24
東京高裁H30.7.18  
  危急時遺言が無効とされた事案
  事案 遺言者である亡Mは、大正15年生まれで、
平成25年4月からA病院に入院
平成25年9月18日に本件危急時遺言
平成26年1月に死亡。 
  争点 本件危急時遺言の有効性:
亡Mが遺言時に死亡の危急が迫っていたことに争いなし
⇒「遺言時の遺言能力」と「遺言の方式違反」が争点。 
  規定 民法 第976条(死亡の危急に迫った者の遺言) 
疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第一項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
  原審 遺言能力:
①A病院に勤務する亡Mの主治医であり本件危急時遺言の証人の1人であるS医師が遺言能力があると判断
②本件危急時遺言についての遺言確認事件(民法976条4項、5項参照)で遺言確認の審判がされた
③その過程における家裁調査官による調査の結果

遺言能力を肯定
口授の要件:
証人の1人であるR弁護士の発問に対して、かすかな発語と首を振って応答したことをもって、これを満たすと判断。
  判断  ●遺言能力
カルテ上の客観的資料であるJCS(意識障害の深度の分類)に着目し、
遺言の前日がJCS10(刺激を止めると眠り込むが普通の呼びかけで一時的に覚醒する状態)、
遺言の当日がJCS3(覚醒しているが自分の名前・生年月日がいえない状態)

遺言能力を欠いた状態であると推認。
①S医師は、循環器内科の意思であって、意思能力の有無の鑑別の専門医ではない
②S医師による遺言能力肯定の根拠は、傾眠傾向から一時覚醒状態に戻った(意識が戻った)にすぎない点にあるとみられる
⇒S医師の判断は採用できない。
遺言確認審判の過程における家裁調査官の調査結果は、
①家裁調査官が意思能力の有無の鑑別についての専門家ではないこと(後見開始審判は意思能力を鑑別した医師の意見を聴いて発令され、調査官調査のみを資料とする発令はしないのが実務の通例)、
②(調査結果は)S医師の前記意見に依拠
⇒採用できない。
確認審判の存在は、格別重視していない。
  ●口授の要件 
原則的要件(遺言者自身が遺言の趣旨を自らの声で述べる)を満たさない
⇒例外的要件を満たすかどうかについて検討。
例外的要件:
遺言の直近の時期に遺言者から適切な方法で遺言内容が確認されて文書化され、
証人が当該文書を読み上げて遺言者がこれを肯定する発言をすることと設定。
but
本件において、遺言の直近の時期に遺言内容が遺言者から確認された事実も、
確認内容が記載された文書が作成された事実も証明されていない
⇒例外的要件も満たさない。
  解説 本件においては、R弁護士が、遺言者本人ではなく、遺言者の子の1人である第一審被告乙山から口頭で聞いた内容を、R弁護士が自己の記憶に基づいて遺言者の面前で誘導尋問的に発問し、JCS3の状態にある遺言者がかすかな発語と動作で応答したにとどまる。 
遺言内容の確認は遺言の直近の時期にされることが必要とした。
半年前や1年前に遺言者から確認したのでは、遺言の直近の時期とは言えない。
控訴審判決の判断内容は、危急時遺言や公正証書遺言における口授の要件を緩和する累次の大審院や最高裁の事例判例の趣旨に沿うもの。
  ●危急時口頭遺言制度と確認審判制度 
危急時遺言の確認の申立てを却下する審判が確定⇒危急時遺言が無効。
~確認審判は、危急時遺言の効力発生要件。
but
確認審判は、危急時遺言の効力発生の必要条件ではあるが、効力発生の十分条件ではない。
確認審判には既判力がなく、遺言の有効性は、最終的には、既判力を有する本案訴訟の判決で確定。

確認審判申立てについては、有効である可能性がわずかでも残っていれば確認の審判をせざるを得ないという実情。
  民事p44
①仙台高裁H30.3.22
②仙台高裁H30.9.20  
  東京電力福島第一原子力発電所の事故と土壌を取り除いての客土等を求めた請求
  事案 福島県内に田畑を所有し、農業を営む控訴人らが、東日本大震災による原子力発電所の事故により土壌が放射性物質により汚染されたと主張
⇒東京電力に対し、所有権に基づく妨害排除請求として、放射性物質の除去等を求めた。 
  請求 ㋐主位的請求:
土地に含まれる原子力発電所由来の放射性物質の除去を求め

㋑第1次予備的請求:
土地に含まれる放射性物質セシウム137の濃度を1キログラム当たり50ベクレルまで低減させることを求め、

㋒第2次予備的請求:
土地の表面から30センチメートル以上の土壌を取り除いて客土することを求め、

㋓第3次予備的請求:
土地の所有権が原子力発電所から放出された放射性物質により違法に侵害されていることの確認を求めた
  原審 ㋐~㋒:請求の特定を欠く
㋓:確認の利益を欠く
⇒不適法として却下 
  判断 ㋐㋑:
請求する具体的な作用の内容が明らかでなく、請求が特定されていない⇒不適法な訴えとして控訴を棄却。

①原子力発電所由来の放射性物質を特定できない
②控訴人らの土地において何をすることが許されるかが明らかでない
⇒東京電力にとって、放射性物質の除去のために、可能な作為及び作為の内容を特定することができない。 
㋒:
客土工は現実に広く行われている農業土木工事であり、土地に立ち入って土壌を取り除き、造成、整地などして控訴人らの所有物を変容させることを承認することも明らかになっている
⇒作為の内容が明らかでないとはいえず、請求が特定されている⇒訴えは適法。

㋒以下の予備的請求を却下した部分につき、原判決を取り消し、審理を福島地裁に差し戻した。
  上告 上告棄却及び上告不受理決定⇒判決が確定。 
  解説   訴えを提起するには、請求の趣旨及び原因を訴状に記載しなければならず(民訴法133条2項2号)、これによって請求を特定しなければならない

審判の対象を明らかにすることで、相手方にとって防御ができるようにする。 
本件:他人の土地上での放射性物質の除去という作為を求める請求の性質上、相手方の土地において何をすることが許されるかは、作為の内容を具体的に特定する重要な要素となる。
⇒抽象的な放射性物質の除去及び濃度の低減の請求は、求める具体的な作為の内容が明らかでないから、請求が特定されていないと判断。
  ●物権的妨害排除請求の当否の問題 
~土地上に放射性物質がある状態は、原因行為者である東京電力が土地の使用収益を妨害している状態にあるといえるかという問題。
  ◎②事件:
原告が、土砂採取業を行うため放射性物質を除去する必要がある⇒東京電力に対し、物権的妨害排除請求として、土地上の樹木を伐採・抜根し、地表から5センチメートル以上の表土とともに撤去することを求めた請求について、
裁判所は、
原発事故により放射性物質が飛散したとはいえ、現状は、東京電力が除去作業をしなければ土地の円滑な利用という所有権の円満な実現が回復できない状態ではない⇒原告が所有権に基づき本件土地を使用収益することを東京電力が妨害している状態にあるという評価はできない⇒請求棄却。

東京電力が土地上の放射性物質を管理支配しているわけでなく、
原告が樹木の伐採・抜根及び表土の撤去をすることができ、東京電力がこれをしなければ原告の計画を土地の使用収益をすることができなくなる事情もない。 
ドイツ民法1004条1項に定められている所有権に基づく侵害除去請求権について、
近時のドイツの有力説が、
土地汚染の事例では、請求の相手方に有害物質の所有権を観念できない限り、土地の所有権の侵害がない。
有害物質が土地に付合した場合は、有害物質について相手方の所有権がないから侵害がない。

有害物質の除去義務を負わない。
  民事p59
福岡地裁H29.12.11  
  集団予防接種によってB型慢性肝炎発症による損害の除斥期間の起算点
  事案 B型肝炎の患者であるX1及びX2が、乳幼児期にY(国)が実施した集団ツベルクリン反応検査及び集団予防接種を受けた際、注射器の連続使用によって、B型肝炎ウイルスに持続感染し、成人になって慢性肝炎を発症

Yに対し、国賠法1条1項に基づき、
X1においては1375万円(包括一律請求としての損害金1250万円及び弁護士費用125万円)
X2においては1300万円(包括一律請求としての損害金1250万円及び弁護士費用50万円)
及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた。 
  判断  ●集団予防接種等とHBV感染との因果関係の有無 
①X1はHVB持続感染者であるところ、出生後、満一歳となるまでの間に集団予防接種等を受け、その際にHBVに感染した可能性強い。
②全証拠によっても、X1は、集団予防接種以外に、HBV感染の原因となり得る事情は認め難い

集団予防接種等によってHBVに持続感染。
X2も、0歳から6歳頃までに集団予防接種等によりHBVに感染。
  ●除斥期間の経過
Xら:B型慢性肝炎という疾病の特質及び実態⇒除斥期間の起算点はXらがHBe抗体陰性慢性肝炎を発症した時と主張
Y:最初の発生時と主張
B型慢性肝炎を発症したことによる損害は、その損害の性質上、加害行為(集団予防接種等)が終了してから相当期間が経過した後に発症
⇒除斥期間の起算点は、加害行為の時ではなく、損害の発生の時。
①Xらが罹患したHBe抗原陰性慢性肝炎は、先行するHBe陽性慢性肝炎と比較して、より高頻度に肝硬変や肝細胞がんへ進展するリスクがあるなどの意味において、より重篤。
②Xらにおいて、最初にHBe抗原陽性慢性肝炎を発症した時点において、その後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害を請求することは客観的に不可能

Xらの主張を採用。
  ●包括一律請求の可否 
HBe抗原陰性慢性肝炎の発症によって、致死性、難治性及び進行性等の点において、先行するHBe抗原陽性慢性肝炎より更に進行した重篤な肝炎疾患にり患したものであると認定。
XらはHBe抗原陰性慢性肝炎の発症(慢性肝炎の再発)による被害等の個別事情を主張するとともに、損害項目ごとの主張をも一定程度行っている

Xらが包括一律請求によって損害賠償請求を求めることが不適切であるとはいい難い。
 
Xらの請求を認容 
解説  最高裁H16.4.27:
加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合における民法724条後段所定の除斥期間の起算点は、当該損害の全部又は一部が発生した時。 
最高裁H18.6.16:
乳幼児期に受けた集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに感染しB型肝炎を発症したことによる損害につき、B型肝炎を発症した時が民法724条後段所定の除斥期間の起算点。
  民事p85
鹿児島地裁H29.9.19  
  腰痛等により整形外科等に通算500日以上入院⇒入院保険金請求が否定された事案
  事案 保険会社Yとの間で医療保険契約を締結し、腰痛等によりA整形外科等に総日数500日以上入院したXが、Yに対し、本件各入院が本件保険契約における入院保険金の支払事由としての「入院」に該当⇒入院保険金462万円及び遅延損害金の支払を求めたもの。 
  争点 本件各入院が本件保険契約における入院保険金の支払事由としての「入院」に該当するか。 
  判断 本件保険契約における入院保険金の支払事由としての「入院」に該当するか否かの判断は、契約上の要件の該当性の判断であり、
本件保険契約における「入院」の定義からしても、
単に当該入院が医師の判断によるということにとどまらず、
同判断に客観的な合理性があるか、すなわち、患者の症状等に照らし、病院に入り常に医師の管理下において治療に専念しなければならないほどの医師による治療の必要性や自宅等での治療の困難性が客観的に認められるかという観点から判断されるべき。 
担当医師による判断の具体的な内容やその医学的な根拠は、前記の、「入院」該当性の判断に際して1つの重要な事情とはなるものの、
通常、医師の判断によらない入院を想定できない
⇒医師による判断の存在という外形的な事情のみからは、直ちに「入院」該当性が推認されるとまではいえない。
本件各入院(当事者間に争いのない入院を除く)は、いずれも、入院保険金の支払事由としての「入院」に該当しない
⇒請求棄却
  解説 各保険会社の保険約款においては、入院給付金(入院保険金)の支払事由である「入院」の定義につき、
本件保険契約の約款と同様に
①医師による治療が必要であり、かつ、
②自宅等での治療が困難なため、病院又は診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念すること
をいうと定められている。
札幌高裁H13.6.13:
本件保険特約が設けられている趣旨およびその内容

本件入院要件の有無の判断は、通常は医師の判断を尊重して決定されるであろうが、いかなる場合においても、一旦なされた医師の判断を無条件に尊重して決定されなければならないというものではなく、・・・客観的、合理的に行われるべき。

このように解することは、保険契約が有する射幸性による弊害を防止し、保険契約者一般の公平を守るという点に照らしても、妥当である。
  刑事p94
東京高裁H30.2.9  
  被告人を犯人と認めた原判決には事実誤認があるとして、被告人を無罪とした事例
  事案 被告人は、三階建て倉庫併用住宅の1階倉庫内において、何らかの方法で火を放ち、本件建物の一部を焼損したとして起訴された。 
  原審 出火場所が2か所であり、失火や自然発火の可能性がない⇒放火が強く推認される。 
付近の防犯カメラで撮影された不審者の行動及び出火の状況(午前4時18分頃、何者かが自転車に乗ってきて降車し、徒歩で本件倉庫方向の死角に入ると約18秒後に現れて自転車で走り去り、その数分後に本件倉庫付近が明るくなった)⇒本件火災はこの不審者が放火したものと認定。
次の理由で、被告人を犯人と認めた。 
◎  A:前記防犯カメラに映った不審者(犯人)
B:午前4時19分頃、付近の別の防犯カメラに映った人物、
C:午前2時58分頃と午前6時11分頃に現場近くのコンビニエンスストアの防犯カメラに映った被告人の各映像・画像
D:被告人提出の着衣と使用自転車の画像
E:警察官がDの着衣と自転車でAとBの各防犯カメラに映った影像・画像等を資料として、犯人と被告人の異同識別を鑑定。
人物が類似し、同一人物であるとして矛盾がないという証人の評価、判断は十分信用することができる。
犯人と被告人の着衣及び自転車はいくつかの点でその特徴が類似しており、それらは特異性の高いものではないが、これらがいずれも合致することは常識に照らしても極めて稀⇒犯人と被告人の同一性を相当程度推認させる。
現場周辺の防犯カメラ映像⇒犯人は、犯行のすぐ前後に自転車で被告人の居住場所付近を通過しており、それぞれの際、同居住場所付近で一定期間停止⇒犯人は被告人の居住場所に関わりがある人物であることが強く推認される。
  被告人が犯人でないとすれば、被告人が犯人であることを相当程度推認させる上記が偶然に重なり合う事態は通常想定し難い。
  判断  原審の指摘する事情は、それぞれが被告人の犯人性を推認させる十分な事情とはいえず、そのような両事情を併せて考えても、偶然、被告人と似た服装をし、被告人使用自転車と同様の特徴を有する自転車に乗った第三者が、被告人の居住場所付近で自転車を止めた可能性を払拭することはできない⇒被告人を犯人と断定するには足りないとして、無罪。
  原判決が着衣及び自転車の特徴が一致するとした諸点
vs.
①メーカーや型番のような強い一致点がなく、傷や汚れのような固体特有の特徴の一致もない
②着衣、着用方法及び自転車に特異性がない
③ABの映像・画像の色や形は明瞭ではなく、一致の程度が高いとはいえない

証人が指摘した特徴の全てが合致することは常識に照らして極めて稀
vs.
各特長の出現頻度や相関関係は不明であって根拠に乏しい


着衣等の特徴の一致という事実からは、被告人が犯人である可能性がある程度認められるにとどまり、その同一性を相当程度推認させるとした原判断は誤った経験則を用いたもの。
  犯人が被告人の居住場所付近で具体的にどのような行動をしたのかは、映像が不鮮明なために不明。
往路及び復路において同居住場所付近で一旦停止したという事情のみでは、被告人が犯人であっても矛盾がないという程度の事情にとどまる。

原判決:被告人の居住場所に関わりのある人物でなければ往路復路の双方において同所付近で停止すべき合理的な事情が見当たらない。
vs.
そのように断定しうる経験則は認められない。 
  規定  刑訴法 第382条〔事実誤認と判決影響明白性〕
事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
  解説  ●   ①最高裁H24.2.13:
刑訴法382条にいう「事実誤認」は、
「第一審判決の事実認定が論理則、経験則に照らして不合理であることをいう」
と判示し、
「控訴審が第一審判決に事実誤認があるというためには、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要」であり、このことは、「裁判員制度の導入を契機として、第一審において直接主義・口頭主義が徹底された状況においては、より強く妥当する」

被告人の故意を認めなかった第一審判決を事実誤認とした控訴審判決を破棄。
  第一審判決を事実誤認として控訴審判決につき、第一審判決が論理則、経験則に照らして不合理であることを具体的に示したものとはいえないとして破棄した事例
②最高裁H26.3.20:
保護責任者遺棄致死事件。
第一審判決が被告人らの故意(要保護状態の認識)を認めたこと事実誤認とした控訴審
vs.
被害者の衰弱状態を述べた医師らの証言につき、信用性を支える根拠があるのに考慮しないなど、証言の信用性評価を誤っている

③最高裁H30.3.19:
保護責任者遺棄致死事件
第一審判決が被告人の故意(要保護状態の認識)を認めなかった点を事実誤認とした控訴審判決
vs.
第一審判決の評価が不合理であるとする説得的な論拠を示しているとはいい難く、第一審判決とは別の見方もあり得ることを示したにとどまる

④最高裁H30.7.13:
強盗殺人事件
第一審判決が犯人性を認めた点を事実誤認とした控訴審判決
vs.
第一審判決の説示を分断して個別に検討するのみで、情況証拠によって認められる一定の推認力を有する間接事実の総合判断という観点からの検討を欠いている
第一審判決を事実誤認とした控訴審判決を是認

⑤~⑨
  以上の最高裁判決・決定

第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であるかどうかは、供述証拠の信用性評価、客観的証拠の証拠価値ないし間接事実の推認力の評価、間接事実の総合評価などの局面で問題となるが、
その不合理さは、それを具体的に指摘できるだけの実質を持ったものであることが必要で、そのことは破棄判決の説示によって実証されなければならない。
  本件:
事実認定論にとっても、被告人が黙秘権を行使している状況において、着衣等の類似性その他の情況証拠がどの程度揃えば合理的な疑いを超えて犯人性が認められるかという点で、有益な素材を提供。 
  映像・画像による人や物の異同識別鑑定については、画像資料の鮮明度は被写体の撮影範囲・角度による制約、鑑定手法の科学的根拠、そして、同一性判定の客観性や統計的確率の要否、確率計算の根拠といった問題があり、その評価は定まっていないのが現状。 
同一である可能性が高いとする判定を採用しない場合でも、複数の特徴が一致ないし類似することをもって、どの程度犯人性が推認できるかという問題が残っている。
  刑事p104
東京家裁H30.4.24  
  児童自立支援施設に入所中の少年についての強制的措置許可申請が許可された事案
  事案 児福法27条1項3号に基づき児童自立支援施設に入所中である少年について、強制的措置許可申請がなされ、それが許可された事案。 
  解説 児童自立支援施設は、不良行為をなし又はなすおそれのある児童及び環境上の理由により生活指導等を要する児童につき、個々に必要な指導を行い、その自立を支援すること等を目的とした児童福祉施設(児童福祉法44条、7条1項)

そこでの処遇は、任意・開放的に行われ、児童への強制力の行使はできないのが原則。
but
児童によっては、任意・開放的な処遇方法では児童自立支援の目的を達することができず、その行動の自由を制限・剥奪する強制的措置を必要とする場合も考えられる。
そのような場合は、児童相談所長等は、事件を家庭裁判所に送致しなければならなず(少年法6条の7第2項、児福法27条の3)、家庭裁判所は、期限を付して、少年に対してとるべき措置を指示して、事件を児童相談所長等に送致することができる(少年法18条2項)

この手続の法的性質は、
事件の支配・処理を家庭裁判所に移す意味を持つ通常の「送致」とは異なり、強制的措置の許可の申請(最高裁昭和40.6.21) 
  判断 ①少年が粗暴行為や無断外出等を繰り返すことが強く懸念される状況に至っている
②それは、少年の資質や特性等に起因しており、少年の自立制御が困難な類のもの
③少年の母が少年の不安定さに対応しきれない様子をみせている
④少年の観護措置中の行動の様子

少年が粗暴行為や無断外出を繰り返すおそれが十分に高く、そうなった場合の少年の心情安定や安全確保のために強制措置が必要。 
強制的措置をとることができる日数:
問題行動のおそれの高さ⇒向こう1年6か月の間に90日間の強制的措置を認めることはやむを得ない。
  解説 上記①について:
少年が従前と同様に感情的な粗暴行為や無断外出等を繰り返す懸念があることを、強制的措置許可の根拠の中心としている。
粗暴行為や無断外出のおそれがある少年には、強制措置が必要となり得る。 
上記②について;
社会調査の結果を踏まえ、前記問題行動を繰り返す原因を明らかにしている。
強制的措置の許可の申請の性質を持つ本手続において、観護措置をとることができるか?
認める見解が一般

①本手続が少年保護事件に準じて取り扱われるものであること
②少年法17条1項の文理
本件でも、観護措置がとられた。
  前記②③
⇒少年の粗暴故意や無断外出に対応するための手段として強制的措置が真にやむを得ない。 
  問題行動を起こした少年に対する強制的措置の期間が、原則として、1回につき3週間以内とされている。 
  刑事p106
大阪家裁堺支部
H30.5.10 
● 
  長期無断外泊による遵守事項違反を理由とする更生保護法67受2項に基づく施設送致申請⇒第一種少年院送致とした事案
  事案 更生保護法67条2項に基づく施設送致申請につき、家庭裁判所が、保護観察の継続によっては本人の改善及び更生を図ることができないかどうかを見極めるため本人を試験観察(身柄付き補導委託)に付した上、試験観察中の行状も考慮すると保護観察の継続によっては改善更生を図ることができない
⇒前記申請を認容し、本人を第一種少年院に送致する旨の決定。 
  解説 施設送致申請:
家庭裁判所の決定により保護観察に付された少年(本人)が、
①保護観察所長から遵守事項を遵守するよう警告を発せられたにもかかわらず、なお遵守事項を遵守せず、
②その程度が重いときに、
保護観察所長が、家庭裁判所に対し、本人を施設に送致する決定をするよう求める申請(更生法67条2項)。 
この申請を受けた家庭裁判所が少年法26条の4第1項により施設送致決定をするには、
前記①②が認められることに加え、
③保護観察の処分によっては本人の改善及び更生を図ることができないと認められることが必要。
  決定 遵守事項違反の内容は犯罪行為ではないものの、遵守事項違反が警告を受けてから間もない時期であることや、遵守事項違反の理由が友人と遊びたいなどとの安易な理由であるこ、遵守事項違反が反復・継続されていること、無断外泊等が継続していた時期に無免許運転をしていること等の事情⇒遵守事項違反の程度が重い(前記②)。
試験観察中の少年の行状も踏まえると少年の問題性は根深く、保護者の監護能力にも多くは期待できない⇒保護観察によっては本人の改善更生を図ることができない(前記③)。

第一種少年院送致の決定 
  解説 本件では、終局決定に至る前に、「社会内処遇で改善更生を図ることができかを見定めるため」として、試験観察決定(身柄付き補導委託。少年法25条)がなされており、前記③の要件の判断のために試験観察決定が活用されている。

①本人に無断外泊等の継続は見られるものの際立った犯罪行為まではなかった
②観護措置中の本人の反省状況等も踏まえ、慎重な判断を行う
2396   
  行政p3
東京地裁H29.9.21   
  生活保護法63条に基づく保護費の返還決定についての、処分取消請求(否定)
  事案 生活保護法に基づく保護の開始決定を受け、保護費を受給⇒その受給期間において就労による収入及び失業手当受給の事実が認められたため、保護費の過払いが生じた⇒支給済みの保護費の一部について処分行政庁から同法63条に基づく保護費の返還決定
⇒本件処分には、返還額の決定にあたり考慮すべき事由を考慮しない違法、医療扶助部分の返還の違法(説明義務違反及び利得の不存在)、Xの資力の検討をしなかった違法並びに理由の提示の不備の違法があると主張して、本件処分の取消しを求めた。
  規定 生活保護法 第六三条(費用返還義務)
被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
行政手続法 第一四条(不利益処分の理由の提示)

行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。

2行政庁は、前項ただし書の場合においては、当該名あて人の所在が判明しなくなったときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き、処分後相当の期間内に、同項の理由を示さなければならない。
3不利益処分を書面でするときは、前二項の理由は、書面により示さなければならない。
  主張 ①前記収入を派遣社員としての稼働期間中の宿泊費、生活福祉資金貸付制度に基づく総合支援資金の償還、住宅の滞納賃料の返済、パソコン等の購入代金に充てた⇒返還額の算定に当たって、これらは必要経費として控除し、又は自立更生のためにやむを得ない用途に充てられたものであって、かつ、地域住民との均衡を考慮して社会通念上容認されるものとして、自立更生免除として返還を免除すべき。
②Xは、生活保護法63条によって医療扶助の全額相当額を返還すべき場合があることについて何らの説明も受けていない⇒このことはXの自立の助長を阻害する違法なもの。
生活保護を受給していなかった場合、Xが自ら支払うべきであった金額は健康保険等を利用した場合に患者が負担すべき金額である医療費の3割相当⇒同額を超える算定は違法
③処分行政庁は、本件処分jに際し、Xの資力がどの程度あるかについて検討すべき。
④本件処分の通知書に記載された理由では、どのような事実に基づいてどのような法的理由によって本件処分が行われたのかXにおいて十分認識し得る程度とはいえない⇒本件処分は理由の提示に不備があり、違法。
  判断  生活保護法63条に基づく返還額の決定に当たっては、被保護者の資産や収入の状況及び地域の実情等を踏まえた個別具体的かつ技術的な判断を要する
⇒返還額の決定は、被保護者の資産の状況等につき調査等の権限を有する保護の実施機関(同機関から保護の決定・実施に関する事務について権限の委任を受けた行政庁を含む。)の合理的な裁量に委ねられている。

返還額の決定が違法となるのは、その返還額に係る判断が生活保護法の目的に照らして著しく妥当性を欠き又は判断の基礎となる事実を欠くなどして、保護の実施機関に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認められる場合に限られる。 
生活保護法63条に基づく費用の返還については、
原則として、資力の限度において本来受ける必要がなかった支給済みの保護費の全額を返還対象とした上、
全額を返還対象とすることによって当該被保護世帯の自立を著しく阻害すると認められる場合は、一定の額を返還額から控除することができるものとすることが相当。
  ●   主張①について:
いずれも、必要経費として控除すべき費用ではなく、また自立更生のためのやむを得ない用途に充てられたものともいえない。 
  主張②について:
本件保護開始時に処分行政庁はXに対して必要な説明を尽くした。
生活保護法により保護を受けている世帯に属する者(X)は国民健康保険の被保険者になることはできず、健康保険を利用することができない⇒医療費について健康保険の自己負担分3割のみが利得であるとはいえず、現実に医療扶助を受けた10割相当分を利得。
  主張③について:
生活保護費が過払いとなったにもかかわらず被保護者がこれを費消したために返還の対象とならないものとすると、本来受給することができなかった金員を受給することができなかった金員を受給することを認めることとなり、不合理。
 
処分行政庁の返還額に係る判断が、保護の実施機関に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとは認められない。
  主張④について:
①本件処分は不利益処分であり行手法14条1項本文によりその理由を示す必要がある。
②本件処分に係る通知書の記載は、処分行政庁が就労による収入及び失業手当を「資力」(生活保護法63条)と認定して生活保護法63条を適用し、これら収入及び失業手当相当額の保護費について本件処分を行ったことをXが了知し得るもの
⇒行手法14条1項本文の理由の提示として欠けるところはない。
  民事p16
東京地裁H29.9.27  

  執行債務者が(売却許可決定前に)相続放棄した場合に強制競売手続による剰余金を交付されるべき「債務者」が争われた事案
  事案 亡Aの債務を連帯保証したBは、亡Aの法定相続人3名(配偶者C、子D及びX)に対して、保証債務履行による求償金支払請求訴訟についての仮執行宣言付き請求認容判決を債務名義として、C、D及びXの共有名義であった建物に対する強制競売の申立て
⇒債権及び執行費用の額を上回る価額により売却許可決定がなされ、買受人が代金全額を払い込んだことから剰余金が生じ、弁済金及び剰余金交付手続きを経て、同剰余金相当額については本件建物の登記名義上の持分割合(C:2分の1、D及びX:各4分の1)に従って、C、D及びXをそれぞれ被供託者とする供託。 
XがY(国)に対し、本件建物に係る前記売却許可決定よりも前にDがした相続放棄の申述が受理され、亡Aに係る相続により法定相続人3名の共有名義とされた本件建物は、X及びCの共有(持分各2分の1)であったことになる⇒前記剰余金に係る請求権もX及びCに同様の割合で帰属していたというべきである
⇒本件建物の売却に係る売買代金支払請求権又は不当利得返還請求権に基づき、Dを被供託者とする供託金相当額等の支払を求めた事案。
  規定 民執法 第84条(売却代金の配当等の実施)
執行裁判所は、代金の納付があつた場合には、次項に規定する場合を除き、配当表に基づいて配当を実施しなければならない。
2 債権者が一人である場合又は債権者が二人以上であつて売却代金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる場合には、執行裁判所は、売却代金の交付計算書を作成して、債権者に弁済金を交付し、剰余金を債務者に交付する。
  争点 民執法84条2項:
強制競売手続において、売却代金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる場合には、執行裁判所は、各債権者に弁済金を交付し、剰余金を債務者に交付すると規定。

共同相続人である債務者らのうちDが本件建物の売却許可決定よりも前に相続放棄の申述をして、これが受理⇒Dの持分部分(「本件持分部分」)に対する剰余金を受ける権利を有する「債務者」は、Dであるか、あるいは、実体法上Dの相続放棄により法定相続物が2分の1となるX(民法939条、900条1号)であるか?
  判断 民執法84条2項にいう「債務者」 とは、当該執行手続における執行債務者又はその一般承継人を指すとし、
能率的かつ迅速な権利の実現を図るという執行手続の目的と性質
⇒執行機関からは慎重・公平な権利の判定という判断作用の負担をできる限り取り除き、執行に専念し得るようにすることが要請されている。

不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分は、債権者の主張、登記簿の記載その他記録に現れた権利関係の外形に依拠して行われるもの(最高裁昭和57.2.23参照)。
執行裁判所においては、、権利関係の外形と実体的権利関係との不適合が、民執法が用意している請求異議の訴え、第三者異議の訴え等の救済手続や、執行抗告、執行異議といった不服申立てにより是正されない場合は、権利関係の外形のみに基づいて執行手続の適法性を判断すべきものと解され、
これらの救済手続等に伴う執行停止の手続等が執られない限りは、そのような権利関係の外形に依拠して執行手続を進行させるべきことが要請されているものというべき。
本件では、
求償金支払請求訴訟に先立つ仮差押申立事件において、本件建物につき本件持分部分(4分の1)をD名義とする所有権移転登記がされた上で、
①Dを債務者とする仮差押えの執行として本件持分部分に対する仮差押えの登記がされていること、
②本件強制競売手続も、これを前提として、Dら3名を債務者とする執行正本に従って前記仮差押申立事件に係る各仮差押えの本執行への移行として、本件建物についての競売開始決定がなされたものであって、記録上、本件建物についての本件持分部分が執行債務者であるDの責任財産であるとの権利関係の外形が表れていたこと、
③そのよな外形が本件強制競売手続上是正され、あるいは第三者異議の訴え等の救済手続等に伴う執行停止等の手続が執られた事実は認められないこと

本件強制競売手続において民執法84条2項の「債務者」として本件請求に係る剰余金を交付されるべき者は、前記仮差押えの執行当時本件持分部分の責任主体として執行当事者とされたDであるというべき。 
本件強制競売手続においては、競売開始決定後、債権者法定代理人(成年後見人)より東京家庭裁判所家事訟廷管理官作成に係る「相続放棄等に関する回答書」が執行裁判所に送付されており、同回答書において、Dについて相続放棄の申述が受理された旨が記載。
but
本判決:
家庭裁判所による相続放棄の申述の受理審判は、形式的な申述があったこと公証行為にとどまり、相続放棄の効力の有無を終局的に確定させるものではない。
⇒執行裁判所においては、執行債務者による相続放棄の申述が受理されたことを認識したとしても、その外形から同申述に係る相続放棄が有効なものと判断することはできないものであって、第三者異議の訴え等の救済手続においてその有効性が確定されない限り、執行手続上、かかる事実を考慮すべきものということはできない。

C及びXから前記相続放棄の申述が有効であることを前提とする第三者異議の訴えが提起されるなどしたとは認められない等の事情を考慮すれば、民執法84条2項の「債務者」として本件請求に係る剰余金を交付されるべき者がXであるとはいえない。
  民事p23
大阪地裁H29.11.29  
  否認権保全のための処分禁止の仮処分決定が取り消された事案
  事案 否認権のための保全処分が認められているときに、法171条3項により保全処分を取り消すことができるか否かが問題となった事案。 
Q2は、本件不動産を所有。
平成28年3月22日に、妻であるQ1に対し本件不動産の持分10分の1を同日付で売却したことを原因として所有権の一部移転登記手続をし、
さらに、同年4月13日に、A社に対し本件不動産の持分10分の9(「本件持分」)を同日付で売却したことを原因として持分全部移転登記手続。
X社は、平成29年4月6日、Q2、Q1、A社との間で、同人らを共同売主として、本件不動産を3800万円で購入し、これに基づき、同日付けで共有者全員持分全部移転登記を経た。
Yは、同年6月12日、YがA社に対し3億8889万円の連帯保証債務の履行請求権を有しており、A社は債務超過の状態にあるなどと主張して、裁判所に破産開始の申立て⇒A社は保証契約の締結を否認するなどして争っている。
Yは、同年6月20日、A社からX社への本件持分の移転は、法160条1項1号に基づく否認権の対象になる⇒法171条1項に基づき本件持分の処分禁止の保全処分を申し立てた
⇒裁判所は、Yの申立てを相当と認め、Yに対し、120万円の担保を立てさせた上で、本件持分の処分禁止の仮処分決定
⇒X社は、同年8月10日、裁判所に、主位的に原決定の取消しを、予備的に増担保を求める本件申立てをした。
  規定 破産法 第一七一条(否認権のための保全処分)
裁判所は、破産手続開始の申立てがあった時から当該申立てについての決定があるまでの間において、否認権を保全するため必要があると認めるときは、利害関係人(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人)の申立てにより又は職権で、仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。

2前項の規定による保全処分は、担保を立てさせて、又は立てさせないで命ずることができる。

3裁判所は、申立てにより又は職権で、第一項の規定による保全処分を変更し、又は取り消すことができる。
破産法 第160条(破産債権者を害する行為の否認) 
次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
二 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
破産法 第161条(相当の対価を得てした財産の処分行為の否認)
破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害する処分(以下この条並びに第百六十八条第二項及び第三項において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
  判断  X社とA社との間における3800万円を対価とする本件持分の移転が、否認権の対象となる行為に該当するか?
法161条による適正価格売買に関する詐害行為の否認は、法160条の特則⇒破産者(A社)が不動産を売却したときに相当な対価を得たかどうかが先決問題。
本件不動産についての7192万8000円との査定、賃借人(パチンコ店)に返還すべき保証金額は2960万円で上記査定に反映されていない⇒3800万円は適正価格。
  法161条1項3号によれば、相当な対価を得た取引を否認するためには、「相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと」が必要。 
①X社は、本件不動産の契約締結当時、A社が債務超過に陥っていることや多額の債務を追っていることを認識していたと認めるに足りる証拠がない
②本件不動産の売買では、A社にR2弁護士が付いているところ、R2弁護士は、X社に対し、責任をもって本件不動産の売却について進めていくと説明

X社は、本件不動産の売買によって、A社の債権者を害するおそれがあることを認識していたものとはいい難いとして、X社の悪意を否定。
   
171条3項に基づき、原決定を取り消した。
  解説 債務者が開始決定前にその財産を受益者に詐欺的に譲渡したとすれば、開始決定後に破産管財人は、受益者を相手方として否認権を行使し、目的物を破産財団に取り戻す。
受益者が目的物を他の者に転々譲渡した場合には、破産管財人は、転得者に対する否認権を行使。
but
転得者に対する否認はその要件が厳格
⇒否認権行使の実効性を維持するためには、目的物が受益者から第三者に転々譲渡されることを防ぐ必要がある。

破産法171条で否認権のための保全処分ができることが明記。 
  民事p30
横浜地裁H30.7.20  
  子と施設(老人ホーム)に入居する両親との面会の妨害を禁止する仮処分決定
  事案 認知症で老人ホームに入居している父A及び母Bの長女Xが、長男YにXとA及びBとの面会を妨害されていると主張⇒人格権を被保全権利として、老人ホームとYを相手方とし、XががA及びBと面会することを妨害してはならないとの仮処分命令を申し立てた。
仮処分決定⇒異議申立てをし、仮処分決定の取消しを求めた。
  判断 (1)Xは、A及びBの子であるところ、A及びBはいずれも高齢で要介護状態にあり、アルツハイマー型認知症を患っている

子が両親の状況を確認し、必要な扶養をするために、面会交流を希望することは当然であって、それが両親の意思に明確に反し両親の平穏な生活を侵害するなど、両親の権利を不当に侵害するものでない限り、Xは両親に面会する権利を有する。

(2)
①両親が施設に入居するに当たりYが関与していること、YがXに両親が入居している施設名を明らかにしないための措置をとったこと、Xが家庭裁判所に親族間の紛争調整調停を申し立てても、Yは、両親の所在を明らかにせず、調停への出頭を拒否したこと、本件審尋期日においても、Yは、Xと両親が面会することについて協力しない旨の意思を示していることなど
⇒Yの意向が両親の入居している施設等の行為に影響し、Xが両親に面会できない状態にあるものといえる。
②Yの従前からの態度⇒前記のような状況が改善する可能性は乏しいものと言え、今後も、Yの妨害行為によりXの面会交流する権利が侵害されるおそれがある。
⇒本件仮処分命令申立ては理由があるとし、これを認容した原決定を認可。
  解説 人格権が保護される究極の法的根拠は、憲法13条による幸福追求権に求められるが、民法上、人格権の侵害は不法行為となると認められている。(民法709条、710条) 
通説・判例:
人格権が排他性を有する物権類似の絶対権ないし支配権⇒端的に、侵害される人格権自体に基づく妨害排除ないし予防請求権としての差止請求権を認めている。
  民事p32
仙台地裁H30.3.30  
  東日本大震災に伴う津波による死亡とと国賠請求(否定)
  事案 東日本大震災に伴う津波によって死亡したA、B、C、Dの相続人であるXらが、Y市(宮城県名取市)に対し、Aらが津波により死亡したのは、Y市が広報車による避難指示の伝達等のY市地域防災計画に定められた情報提供等を行わなかったこと及びY市が設置していた公の営造物である防災行政無線システム(「本件防災無線」)が地震によって故障し、音声が伝わらなかったことによる⇒国賠法1条1項及び2条1項に基づく損害賠償請求 
  争点 ①Y市が、地震発生後、津波到達前に、Y市地域防災計画に定められている広報車による津波予報の伝達、公民館を通じた津波予報の伝達、本件防災無線による広報を行わなかったことの違法性
②本件防災無線が、地震発生時に同無線の親機内部に混入した異物により短絡を起こして故障したこと等につき、営造物の設置又は管理に瑕疵があったといえるか 
  判断  ●争点① 
災害対策基本法及び同法に基づいて策定されたY市地域防災計画の定め⇒Y市長は、津波警報等が発表された場合、避難指示を発令して非難広報を実施する権限及び津波警報を沿岸住民に伝達する権限を有しており、同権限の行使は市長の合理的裁量に委ねられている

権限を行使しなかったことが直ちに国賠法1条1項の適用上違法と評価されるものではなく、その権限の不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに限り、違法と評価される。
①Y市の職員が大津波警報の発令を知ったのは、津波到達時刻の直前であり、広報車を出す時間的余裕がなかった
②公民館においても、避難者の対応に追われ、無線で連絡を取ることが不可能な状況にあった
③消防署及び消防団が、地震直後から津波襲来まで、津波警報の発令を伝え、非難広報を行っていた

Y市長が広報車による伝達、公民館を通じた伝達を行わなかったことにつき、許容限度を逸脱して著しく合理性を欠くとはいえない。
津波到来までに修理をしたり、他の手段で放送を行うことは不可能⇒防災無線による放送が行われなかったことにつき、許容限度を逸脱して著しく合理性を欠くとはいえない。
  ●争点② 
国賠法2条1項による営造物の設置又は管理の瑕疵とは、
営造物が通常有すべき安全性の欠如をいい、
安全性の欠如とは、当該営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険性がある場合も含み、
また、その危害は、営造物の利用者に対してのみならず、利用者以外の第三者に対するそれをも含むものと解すべきとの判例法理。

防災無線の故障自体が直接第三者に危害を及ぼすものではないが、供用目的に沿って利用しようとしても、それが正常に作動しないことによって利用できないことに関連して第三者に危害を生ぜしめる危険性が認められる場合も、
「営造物を供用目的に沿って利用することとの関連において危害を生じさせる危険性がある場合」に当たる。
本件防災無線には、災害時に使用されるものとしての物理的構造的な問題がないとはいえない
but
親機内部に異物が混入し、短絡が生じる確率は相当低く、様々な要因が重なって故障が生じたもので、Y市がこれを予見することは困難

本件防災無線が通常有すべき安全性を欠いていたとはいえない。
  労働p55
最高裁H30.7.19  
  教職員の再任用職員等の選考にについての裁量権の範囲
  事案 定年等により退職した東京都立高等学校の教職員が、その退職に当たり、東京都公立学校の再任用職員等の採用候補者選考に不合格となり、又はその合格が取り消されたことにつき、東京都教育委員会の裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるなどとして、Y(東京都)に対し、国賠法1条1項に基づく損害賠償を求めた。
  原審 一部認容。 
  判断 ①再任用制度等が定年等により一旦退職した職員を新たに採用するものであること等⇒その採用候補者選考の合否の判断に際しての従前の勤務成績の評価については、基本的に任命権者の裁量に委ねられている。
②少なくとも本件不合格等の当時、再任用職員等として採用されることを希望する者が原則として全員採用されるという運用が確立していたということはできないこと等

再任用制度等において任命権者が有する前記の裁量権の範囲が、再任用制度等の目的や当時の運用状況等のゆえに大きく制約されるものであったと解することはできない。
①本件職務命令の趣旨、目的に照らし、その遵守を確保する必要性がある、
②本件職務命令に違反する行為は、学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらすものであって、それにより式典に参列する生徒への影響も伴うことは否定し難い
③Xらが本件職務命令に違反してから不合格等に至るまでの期間が長期に及んでいないこと等

任命権者である都教委が、再任用職員等の採用候補者選考に当たり、従前の勤務成績の内容として本件職務命令に違反したことをXらに不利益に考慮し、これを他の個別事情のいかんにかかわらず特に重視すべき要素であると評価し、そのような評価に基づいて本件不合格等の判断をすることが、その当時の再任制度等の下において、著しく合理性を欠くものであったということはできない。

本件不合格等が都教委の裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものとして違法であるとはいえないと判断し、Xらの請求をいずれも棄却すべきものとした。
  解説  定年等により退職した東京都の教職員に係る再任用等の制度:
①地公法上の制度である再任用制度
②東京都独自の制度である再雇用制度及び非常勤教員制度 
いずれの制度についても、高年齢者の生活の安定等をその趣旨として含む

再任用制度等における採用については、新規採用の場合とは異なり、任命権者の裁量権の範囲には制約があるとの見解も考えられる。
but
一般に、公務員の任用については、成績に応じた平等な取扱いをすることが求められる一方で(地公法13条、15条参照)、
任用すべき職種や人数、採用に当たっての判断基準を定めること等は内部事情に通暁した任命権者に委ねざるを得ない。

任命権者にそのような観点からの裁量があることにつちえは異論がない。
この点は再任用制度等においても同様。
  本件不合格等は、Xらに個別の事情としては本件職務命令に違反したことのみを理由としたものであることろ、本判決は、都教委が、これを他の個別事情のいかんにかかわらず特に重視すべき要素であると評価し、そのような評価に基づいて本件不合格等の判断をすることについて、裁量権を逸脱又は濫用したものではないと判断。 
公立の高等学校又は養護学校の教職員が卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を命ずる旨の職務命令に違反したことを理由とする懲戒処分の適否に係る最高裁H24.1.16:
当該職務命令の違反に対し、懲戒処分の中で最も軽い戒告処分をすることは、学校の規律や秩序の保持等の見地からその相当性が基礎付けられるものであること等⇒基本的に懲戒権者の裁量権の範囲内に属する旨を判示。 
  労働p60
東京高裁H30.2.28   
  休日に地域の防災訓練に参加するための移動中、担任する児童宅の犬に咬まれた災害と公務遂行性(肯定)
  事案 小学校教諭が休日に地域の防災訓練に参加するための移動中、担任する児童宅に忘れ物と届けた⇒飼育されている犬に咬まれて傷害を負った。
  争点 本件災害が「公務」遂行中に起きたか否か。
  原審 ①本件訪問行為それ自体は、そもそも地方公務員災害補償法1条所定の「公務」には当たらない
②本件防災訓練への参加には「公務」遂行性を認める余地はあるものの、本件訪問行為は「出勤又は退勤の途上にある場合(合理的な経路若しくは方法によらない場合又は遅刻若しくは早退の状態にある場合を除く。)」には当たらない

本件災害は「公務上の災害」には該当しない。 
  判断 公務遂行性の要件に関しては認定基準が設けられており、その1つに、「勤務を要しない日及びこれに相当する日に特に勤務することを命ぜられた場合の出勤又は退勤の途上にある場合(合理的な経路若しくは方法によらない場合又は遅刻若しくは早退の状態にある場合を除く。)」(「本件認定基準」)がある。
本件防災訓練の参加が「特に勤務することを命ぜられた場合」に当たるか否か:
①市教育委員会から、訓練当日は、できるだけ多くの教職員が参加できるようにとの具体的な指導があった
②Xが勤務するA小学校の職員会議で、本件防災訓練は学校をあげて取り組むべき行事と位置づけられていた
③本件防災訓練に参加した教員に対しては代休取得の措置まで講じられた
④A小学校の各教員は、本件防災訓練に参加した児童の人数を教頭に報告することまで求められていたこと等

各教員が本件防災訓練に不参加を申し出ることは事実上困難な状況にあった。
本件防災訓練への参加は、校長の黙示的な職務命令に基づき行われたとみるのが自然⇒「特に勤務することを命ぜられた場合」に当たる。
本件訪問行為が「出勤・・・の途上にある場合(合理的な経路若しくは方法によらない場合・・・を除く。)」に該当するか否か:
①Xは、本件児童に対して、忘れ物を届けるついでに、本件防災訓練への参加を呼び掛ける目的で、その経路沿いにある本件児童宅を訪れたというものであり、その訪問に要する時間も数分程度であったものと推認。
②本件防災訓練への参加は、A小学校の児童も参加が予定されていた。
と認定。

本件訪問行為は
①本件防災訓練への参加・移動(通勤)という通勤目的と無関係な目的で行われたものではない
②本件通勤経路(合理的な経路)からの逸脱はない

「出勤・・・の途上にある場合(合理的な経路若しくは方法によらない場合・・・を除く。)」に該当する。

本件認定基準所定の要件を満たし公務遂行性が認められる。
  解説 「公務上の災害」に当たるというためには、①公務遂行性と②公務起因性の2要件を満たす必要があるところ、本件は①公務遂行性の存否が問題。 
本判決は、公務遂行性について、最高裁昭和59.5.29の示した規範に依拠して、
「任命権者の支配管理下にある状態において当該災害が発生したこと」であると判示。
最高裁H28.7.8が、労働者が、業務を一時中断して事業場外で行われた中国人研修生の歓送迎会に途中から参加した後、当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に、研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡した事案について、(業務)遂行性を肯定:
労働者は、事業主の所有する自動車を運転して研修生をその住居まで送っていたところ、研修生を送ることは、歓送迎会の開催に当たり、上司により行われることが予定されていたものであり、その経路は、事業場に戻る経路から大きく逸脱するものではなかった。
  刑事p76
東京高裁H30.1.19  
  少年を第一種少年院に送致した原決定の処分が不当とされた事案
  事案 少年(審判時16歳)が、
①家出や無断外泊を繰り返しながら、家族の金銭や神社のさい銭を盗む行為を繰り返しているものであって、保護者の正当な監護に服しない性癖があり、正当な理由がなく家庭に寄り付かない⇒このまま放置すれば、その正確に照らし、将来窃盗等の罪を犯すおそれがあるという、ぐ犯の事実
②自宅において、被害女児に対し、同人の性器に指を入れ、もって13歳未満の女子にわいせつな行為をしたという、強制わいせつの事実 
  解説 少年の要保護性について:
A:犯罪的危険性ないし累非行性、矯正可能性及び保護相当性の3要素で構成(通説)
B: 人格的性情としていの非行と環境的要因の保護欠如性を要保護性と捉え、これとは異なる処分決定上の概念として、保護処分相当性、刑事処分相当性、福祉処分相当性、不処分相当性を考える立場
いずれにしても、要保護性の有無、程度の判断において、非行事実の内容、少年の性格・行状、保護環境といった複合的な要素を考慮する必要があることについては、概ね異論がない。
  原審 非行事実の重大性や非行性の程度について特段の説示をしておらず、
主として、少年の養父及び実母による監護が適切でなく、養父と少年との関係が極めて悪化した状態にあり、その改善が見込めないといった保護環境の問題を考慮し、社会内処遇による更生が期待できないと判断
⇒少年院送致の処分を選択。
  判断 本件の非行事実はさほど悪質なものでなく、少年の非行性が特に深化しているともいえないとの判断
従前の保護環境に深刻な問題があることについては原決定の指摘を是認
本件で観護措置がとられるまで少年が祖父母方に預けられ、落ち着いた生活を送っていたこと等

直ちに少年院送致を選択するのは早計であって、
前記祖父母方等、従前と異なる保護環境における社会内処遇の可能性について、試験観察に付することを含め、十分に検討する必要。
  解説 少年の保護環境に深刻な問題があり、その改善が認められないような場合には、少年を不良な環境からいったん切り離して環境調整を行ったり、劣悪な環境を乗り越えられる力を身に付けさせるような指導や働き掛けを行ったりすることが、少年の再非行防止のために必要となることもあり、
非行事実が比較的軽微であったり、非行性がそれほど深まっていない少年に対して、保護環境の問題を重視して少年院送致を選択するという判断も、事案によっては十分にあり得る。
but
①保護環境の問題自体は、多くの場合、少年自身にはどうすることもできない部分があり、少年院における矯正教育によって改善し得るものとは限らない。
②少年の性格や行状に深刻な問題があるとしても、それが保護環境に起因するものである場合には、少年院における矯正教育を行うことが、必ずしも問題の改善に資するとはいえない。
⇒このような観点からは、保護環境の問題を重視して少年院送致を選択することには慎重であるべき。

まずは、保護環境を改善することによって少年の更生を図る余地がないかどうかを十分に検討する必要がある。
   刑事p78
福岡高裁H30.2.6
  飯塚事件再審即時抗告審決定
  事案 有罪の確定判決(死体遺棄、略取誘拐、殺人の罪による死刑判決)について、福岡地裁H26.3.31の再審請求決定に対する即時抗告審決定
  証拠  自白はなく、状況証拠のみによって事実認定が行われた。 
  ●A有罪方向の証拠 
①犯行の日時場所に近接して、事件本人所有の車と似た車を見たとのTの目撃供述
②本人は事件関係場所の土地鑑を有しておりかつ事件当日のアリバイがない
③本人所有の車両から血痕及び尿痕が検出され、かつ血痕は被害者と血液型及びDNA型のGc型が同じであるとの鑑定結果
④被害者両名の着衣に本人所有のシートの繊維と類似する繊維片が付着していたとの鑑定結果
⑤被害者の膣内部およびその周辺から採取された血液の血液型が本人の血液型(B型)と同一であるといとの鑑定結果並びに本人が当時亀頭包皮炎にり患していて出血傾向があったとの診断結果
  ●B無罪方向の証拠 
①HLADQα型のDNA型判定では、真犯人は〇〇型であるのに対して本人××型であるとする鑑定結果(本田一次鑑定)
②MCT118型鑑定の原資料で認められる△△型が真犯人のDNA型であり、本人の型と一致しないとする鑑定結果(本田二次鑑定)
③HLA-DQB型及びミトコンドリアDNA型による各DNA型判定では、真犯人由来と考えられる資料から本人の型が検出されなかったとする鑑定結果(石山鑑定)
④被害者の膣内部及びその周辺から採取された血液の血液型(真犯人の型)はAB型であって本人の血液型(B型)と異なるとする鑑定結果(本田三次鑑定)
  主張  Tの目撃供述(A①):
目撃実験結果と比較してT供述が詳細に過ぎ、結果を既に知っていた捜査官による誘導があった

本人所有の車のシートにあった血痕と尿痕(A③):
血痕や尿痕は他の機会に付着した可能性
血痕の血液型やGc型のDNA型はその種類の少なさに照らして犯人特定の手段にはならない

被害者の衣服に付着していた繊維と染料の鑑定結果(A④):
問題の繊維の原糸は本人所有車両以外にも他車・他種の車両のシートに広く使われており、また繊維の線量配合比のスペクトラム分析に誤りがある

被害者の膣内部およびその周辺から採取された血液の血液型の鑑定結果(A⑤):
資料採取の方法及びその鑑定方法の科学性に問題があり、血液型を本人と同型のB型とした点は誤りで、採取された血液の型は本田三次鑑定のようにAB型
本人の亀頭包皮炎は当時治癒していた
  判断  ●無罪方向の証拠に対する判断
  B①について::
犯人のDNAが壊れていた可能性や検出感度の差によってそのような結果になったとも考えられる。

B②について:
本田二次鑑定が真犯人の型という××型は、エキストラバンド(電気泳動時に生じる虚像)であり、真犯人の型ではない。
足利事件と異なり、現場資料の再鑑定が実施できない本件では、本田二次鑑定を前提としても、犯人と本人のMCT118型が一致したと認めることはできないが、逆に一致しないとも認めることもできない。

B③について:
対象資料が少なかったために検出できなかった可能性がある

B④について:
A型とB型との反応に強弱が認められる⇒資料(真犯人)の血液型はAB型ではない。
これらの情況事実は、いずれも単独では事件本人を犯人と断定することができるものではないが、それぞれ独立した証拠によって認められ、事件本人が犯人であることが重層的に絞り込まれている。
事件本人以外に、こうした事実関係のすべてを説明できる者が存在する可能性は抽象的なものにとどまると考えられ、事件本人が犯人であることについて合理的な疑いを超えた高度の立証がなされていると認められる。 
  解説 情況証拠によって認定される情況事実の証明の程度については、その各々について合理的な疑いを超えた証明が必要であるとするのが通説。
白鳥決定(最高裁昭和50.5.20)を前提とすれば、その理は通常審と再審とで異ならない。 
本件:
各積極的情況事実の立証に関してそれぞれ請求人側からこれを弾劾する主張と証拠が提出されている。
本決定が「合理的な疑いを超えた高度の立証」という文言を使っているのは、その末尾における総合評価の場面だけであり、そこに動員された情況事実の証明度に関しては、請求人側の主張を排斥するに止まり、その証明程度については明言されていない。
本決定は、提出された消極的な情況証拠について、他の解釈を容れる可能性があるとしてこれらを排斥。
but
「疑わしきは被告人の利益に」という原則との関係で、これら消極的情況事実の立証の程度が問題に。
総合評価の際には、これらの消極的情況事実がそれぞれ独立して重層的に存在している状況も考慮される必要。
2395
  行政p42
仙台高裁H30.8.29  
  議員に対する出席停止処分が司法審査の対象となる場合
  事案 Y(宮城県岩沼市)の市議会が、同市議会議員であるXの議会運営委員会における発言を理由として、23日間の出席停止処分
⇒Xが、本件処分の違憲、違法を主張して、Yに対し、その取消しを求めるとともに、地自法203条及びYの条例に基づき、本件処分によって減額された議員報酬及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。 
  規定 憲法 第93条〔地方公共団体の機関とその直接選挙〕
地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
  判断 ①地方議会は、憲法93条1項によりその設置が定められるなど自律的な法規範をもつ団体⇒そこにおける法律上の係争については、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主性、自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法判断の対象とはならない。(最高裁昭和35.10.19)
②出席停止は、議会への出席を一定期間停止されるだけであって、議員としての活動そのものが制限されたり身分を奪われたりするものではない⇒原則として、その適法性は一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる。
but
・・・これを担う議員の活動を実行あるものとするため、地自法は、地方公共団体はその議会の議員に対して議員報酬を支給しなければならないこととしている

議員は、少なくとも、議会の違法な手続によっては減額されることのない報酬請求権を有しているというべきであって、出席停止といえども、それにより議員報酬の減額につながるような場合には、その懲罰の適否の問題は、憲法及び法律が想定する一般市民法秩序と直接の関係を有するものとして裁判所の司法審査の対象となる。
本件条例によって、Y市議会議員の報酬は月額36万3000円とされ、出席停止の懲罰を受けた議員に係る議員報酬は、その出席停止の日数分に相当する額が減額
⇒裁判所の司法審査の対象となる。
  解説 判例:
地方議会の議員に対する懲罰決議のうち、除名は議員の身分の喪失に関する重大事項であるため司法審査の対象となる(最高裁昭和35.3.9)
but
出席停止は内部規律の問題として自律的措置に委ねるべきであって司法審査の対象外(最高裁昭和35.10.19) 
本判決:
原則として、出席停止の適法性は一般市民秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる
but
出席停止が議員報酬の減額につながるような場合には、その懲罰の適否の問題は、一般市民法秩序と直接の関係を有するものとして裁判所の司法審査の対象となる
⇒議員報酬の減額につながった本件処分の適法性は司法審査の対象となる。
  民事p47
東京高裁H30.5.18  
  憲法9条を内容とする俳句を公民館だよりに掲載せず⇒国賠法上違法とされた事案
  事案 Xの「梅雨空に「九条守れ」の女性デモ」が秀句に選出⇒公民館のたよりへの掲載拒否 
  請求 XがYに対し、
①本件句会とG1公民館は、本件句会がG1公民館に提出した俳句を同公民館が発行する本件たよりに掲載する合意をしたと主張し、同合意に基づき、本件俳句を本件たよりに掲載することを求める
②G1公民館が、本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことにより掲載しなかったことにより精神的苦痛を受けた⇒国賠法1条1項に基づき、慰謝料の支払いを求めた。
  原審  ①Xの掲載請求につき、本件合意の内容は、法的な訴求力のある権利ないし義務を発生させるものではない⇒これを否定。
  判断 原審①と同様。
慰謝料について、
Xの学習権及び表現の自由に対する侵害を否定。
but
後述解説の考え方

本件俳句を本件たよりに掲載しない取扱いがXの人格的利益を侵害し、違法であると判断し、その慰謝料額は、5000円とするのが相当。
追加請求の、公民館職員によるXの名誉毀損は認められない。
  解説 Xが本件俳句を本件たよりに掲載しない取扱いをした公民館の職員の行為が違法であるとして設置者Yに対し国賠請求をするには、Xがその取扱いによって法律上保護される利益を侵害されたことが必要。 
原判決:Xの俳句が掲載されるとの期待の侵害を認めた。

本判決:
Xの期待の侵害という構成は採用せず、
社会教育法等の趣旨から公民館の目的、役割及び機能を検討して公民館の職員の職務上の公正取扱義務を導き出し、
公民館の職員が、住民の公民館の利用を通じた社会教育活動の一環としてなされた学習成果の発表行為につき、その思想、信条を理由に他の住民と比較して不公正な取扱いをしたときは、当該住民の人格的利益を侵害するものとして国賠法上違法となると判示。
最高裁H17.7.14:
公立図書館の職員が、閲覧に供されている図書の廃棄について、著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをすることは、当該図書の著作者の人格的利益を侵害するものとして国賠法上違法となる。
  民事p67
大阪高裁H29.12.22  
  遺留分減殺請求と遺産分割
  事案 遺産分割の事件。 
被相続人が死亡した時点の相続人:
被相続人の妻と長女、二女
その後、妻は、全財産を長女に遺贈する旨の遺言をした上で死亡。
二女は、長女に対し、本件遺言による遺贈について遺留分減殺請求。
  原審 ①長女と二女が、相続分に関し、長女が8分の5、二女が8分の3とする旨の合意をししていること
②遺産分割方法について、二女は換価分割の方法を希望し、長女は特に希望を有していない
ことを前提とし、
③双方の特別受益に関する主張を排斥し、
遺産である不動産の競売を命じ、その売却代金から競売費用を控除した残額を、長女8分の5、二女8分の3の割合で分配する旨の審判。 
    長女が即時抗告

主張:
最高裁H8.1.26(「平成8年判決」)によって、包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有さないとされており、
本件の場合、
遺産分割の対象となるのは、妻が相続した相続分2分の1を除く、各遺産の2分の1に限られるべき⇒原審判は分割対象を誤っている。
原審段階:遺産分割の対象となる遺産が、不動産のみ

抗告審:株式の存在が指摘され、
最高裁H28.12.19によって、被相続人名義の預貯金が全相続人の合意がなくても遺産分割の対象⇒被相続人名義の定期預金が遺産分割の対象。
  解説 平成8年判決:
特定遺贈が効力を生ずると、特定遺贈の目的とされた特定の財産は何らの行為を要せずして直ちに受遺者に帰属し、遺産分割の対象となることはなく、・・・特定遺贈に対して遺留分減殺請求を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない。
遺言者の財産全部についての包括遺贈は、遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有するもので、その限りで特定遺贈とその性質を異にするものではない。
その射程が、本件のように遺言によって承継された「相続分」に及ぶ

妻が、本件遺言で被相続人の相続に係る2分の1の相続分を長女に承継させたことによって、それに対応する被相続人の遺産の2分の1は、被相続人の遺産分割対象から逸出し、もはや被相続人の遺産分割の対象とはならないことになる。
最高裁H17.10.11(平成17年決定):
第一次被相続人の相続が開始して遺産分割未了の間に第一次相続の相続人である第二次被相続人が死亡した場合、
第二次被相続人が取得した第一次被相続人の遺産についての相続分に応じた共有持分権は、実体上の権利であると判示。
最高裁H13.7.10や最高裁H26.2.14は、
相続分の譲渡の法的性質について、
積極財産はもとより消極財産を含む遺産全体に対して共同相続人の1人が有する包括的持分権ないし相続人たる地位を譲渡することであり、これにより共同相続人の1人として有する一切の権利義務が包括的に譲受人に移転し、譲受人は遺産分割協議及び遺産分割審判の当事者となるという法的効果を発生させるものと理解。

相続分が譲渡された場合、その譲受人は、譲り受けた相続分をもって遺産分割手続に参加することになる
⇒譲り受けた相続分に対応する遺産についての遺産共有状態が解消されることはない。
相続分は、他の共同相続人に対しても、第三者に対しても譲渡が可能(民法905条)なものであるが、仮に、第三者が相続分を譲り受ければ、第三者が遺産分割手続に参加すrことになるのであって、共有物分割手続を行うことにならない。

相続分の譲渡は、共同相続人が遺産を構成する個々の財産に対して有する物権的持分の譲渡とは異なるものであると理解⇒平成17年決定は、平成8年の射程に影響を及ぼさず、平成8年判決の射程は、遺言によって相続分が譲渡された場合には及ばない。
  判断 本件以後による包括遺贈は、相続分を含んでいる点で平成8年判決と事案を異にし、包括遺贈の対象とされた相続分がただちに遺産分割の対象財産としての性質を失うものではない。 
  民事p71
大阪高裁H30.3.22  
  面会交流の間接強制金を不履行1回につき20万円とした事案(義務者の収入・権利者の婚姻費用等の事情あり)
  事案  平成27年に別居、Yは未成年者(平成25年生)を監護。
XはYに対し、平成27年、大阪家裁に面会交流の申立⇒平成29年に、大阪家裁は毎月1回の面会交流を命じる審判⇒Yは即時抗告⇒大阪高裁は、平成29年に、前件審判を一部変更し、当初3回は2か月に1回の頻度とし、第三者の立会いを認める決定。 
Yは、別居後前件調停までの間、Xに3回ほど未成年者に会せたことがあったが、前件調停の前後を通じ、面会交流を一貫して拒否し、前件審判手続における親子交流場面調査にも出頭せず。
Xは、Yが高裁決定の定めた初回の面会交流にも応じない⇒平成29年に間接強制申立て。
平成30年、原決定で強制金(不履行1回につき5万円)の支払を命じられた後、未成年者との面会交流に2回程度応じている。
Yは、歯科医師の資格を有し、年収476万円。
XはYに対し、婚姻費用の分担金として月額21万円を支払うべき義務。
  原審 間接強制金の金額を不履行1回につき5万円と判断。 
    Xが抗告 
  判断 原決定を変更し、間接強制金の金額を不履行1回につき20万円に増額。
  解説 間接強制金の額は、一般的に、履行命令違反の阻止と債務名義上の執行債権の実現に必要な金額を、心理的強制の目的に即した執行裁判所の合理的裁量によって決する。

その考慮要素:
①執行債権の性質(金銭による代替的満足の可否)、②不履行による債権者の損害、③債務者の不履行の程度(変更決定による対処の可否)、④履行の難易、⑤不履行継続による債務者の利益、⑥不履行の社会的影響など
面会交流における間接強制金の金額は、裁判例では、
不履行1回当たり2万円、5万円、から20万円などの例。
  民事p75
大阪高裁H28.8.29  
  国際的な子の返還請求事案(子の異議により返還を否定した事案)
  事案 Xは、平成28年、本件を申し立て、子を常居地国であるフランスに返還するよう求めた。
  争点 ①本件留置に同意又は承諾があったか(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律28条1項3号)
②子が、フランスに返還されると心身に実害を及ぼす重大な危険があるか(方28条1項4号)
③子の異議が認められるか(法28条1項5号) 
  原審 子は
①16歳に達しておらず(27条1号)
②日本国内に所在し(2号)
③常居地国であるフランスの法令によると、Xは子を監護する権利を有し、Yによる本件留置がこの権利を侵奪しており(3号)
④本件留置の開始時点でフランスは国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)の締結国であった(4号)

子の返還事由がある。 
返還拒否事由について

争点①の本件留置の同意・承諾について:
XはYが子と一緒に日本へ帰省することは容認していたが、想定していた滞在期間は、Yの母の葬儀等に要する期間程度であり、これを超えて子が日本に留まることを容認していたと認めるに足りる資料はない
⇒本件留置には同意も承諾も認められない。

争点②の重大な危険があるか:
①子がXから暴力等を受けるおそれを認めることはできず、XのYに対する暴行が子の面前でされたと認めるに足りる資料もない
②Xの言動が、子に心裡的外傷を与える暴力等に該当するとまではいうことができない
③Yはフランスに入国すると身柄を拘束されるおそれがあるから子を監護することは困難であるが、Xの飲酒の影響により生活が困難であるとかうつ病にり患していると認めるに足りる資料はない
④Xは公的扶助を受けてうたことはあるが、現在は新たな職につくための研修を受けるなど稼働意欲や能力自体は認められる。

監護者としての適否の問題としてはともかく、Xがフランスにおいて子を監護すること自体が困難であると認めることはできない。

子がフランスにおいて心身に害悪を及ぼす重大な危険も認められない。

争点③の子の異議が認められるか(法28条1項5号):
(1)子の年齢(調査時点で11歳11か月)と陳述態度⇒その意見を考慮し得る程度に成熟している。
(2)フランスに返還されることを拒み、日本で生活したいという意見を述べているが、それは、
①両国の生活体験に基づくもので、
②その内容な適切な状況理解に基づく具体的なものであり、
③その意思は強固で率直なもので、Yの影響や働きかけを受け手のものとは認められない

本件では常居所地国であるフランスに返還されることを拒む子の意見を考慮することが適当であり、法28条1項5号の返還拒否事由がある。

裁量にる返還(法28条1項ただし書)も相当でない。
⇒Xの申立てを却下。
  判断 原審と同様で、抗告棄却。 
  解説 子の異議が争点となる事案では、
家裁調査官の調査結果を基に、子の現状認識、常居所地国への帰国に関する子の意見、子がそのような意見を持つに至った理由等を踏まえて、
①子がその意見を考慮に入れることが適当な年齢及び成熟度に達しているか
②子の意見が常居所地国に返還されることに対する異議といえるか
が判断される。 
本件のように、10歳(小学生高学年)以上になるとその意見が考慮される例が多くなる傾向。
子の発達の程度:
家裁調査官の調査における
①子の回答内容や態度、②学校の成績表、③その他の資料が考慮要素となる。
子に問われるのは、常居所地国に戻ることについての意見であって、監護者(母)と監護権を侵害された者(父)のどちらと暮らしたいのかという意見ではない。

①常居所地国に返還されることが必ずしも監護者と引き離されることを意味しないということが理解できているか
②監護者やその親族の意向とは区別された自らの意思を自己の体験に基づいて回答できているか
③中長期的な観点から常居所地国に戻った場合と日本に留まった場合とのメリット・デメリットを比較検討した上で戻りたくない理由を具体的に説明できているか
ということが考慮される。

子が返還を拒む理由として監護者との同居を継続できないことへの不安や懸念を抽象的にしか述べていないような場合には、
監護者による監護の継続を希望するにすぎないとして、
常居所地国への返還を拒否する意見表明とは評価されない傾向。
  民事p83
熊本地裁H30.5.23  
  監視カメラの付いた単独室への収容の継続が国賠法上違法とされた事例
  争点 ①保護室収容要件や更新要件(刑事収容法79条)該当性
②処遇部長の発言が侮辱として国賠法上の違法があるといえるか
③カメラ室への収容につき、国賠法上の違法があるといえるか 
  判断 争点①について、熊本刑務所長らに職務上の義務違反なし。
争点②について:
熊本刑務所の処遇部長がXに対し、「カスが、死ね。」と発言したとの事実を認定し、
当該発言はかかる表現を向けられた誰もが名誉感情を害されるといい得る強度の侮辱表現⇒国賠法上の違法がある。
争点③について:
職員による巡回を補完する目的で監視カメラが設置された居室をもうけること自体は、刑事収容法に明文がなくても許容される。
but
被収容者に、拘禁感や圧迫感等を強く感じさせる構造及び設備を備えた単独室を居室として指定するに当たっては、保護室への収容要件に準じて、その必要性を慎重に検討することが要請されているというべきであり、
必要性がなくなってにもかかわらず、漫然と当該居室への収容を継続することは刑事施設の長が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったものとして、国賠法上違法との評価を受けることになると解するのが相当。
カメラ室収容前後のXの状況⇒Xをカメラ室へ収容したことについては、必要性が認められる。
but
カメラ室収容後、約3か月半が経過した時点においては、職員に対して反抗的な態度をとるなど、刑事施設の正常な管理運営を阻害するような言動に及ぶことがなくなり、Xの動静を厳重に監視する必要性は相当程度低下し、数日の経過観察の後には、Xの動静を厳重に監視する必要性はなくなった。

その後も漫然とカメラ室への収容を継続したことは、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったもので、国賠法上違法。
  解説  平成18年6月に改正された刑事収容法は、監獄法を全面的に改正したもので、その制定過程においては、従前規定が存在しなかった「保護房」への収容の適正さの確保について議論され、刑事収容法においては、「保護室」に関し、その収容要件や手続等が明確に規定。

保護室収容要件や更新要件(刑事収容法79条)の判断について、収容の判断が刑事施設の長の広範な裁量に委ねられているものとはいい難く、
保護室収容の経過等を認定した上で、要件該当性を判断することになる。 
保護室以外の居室については、「被収容者が主として休息及び就寝のために使用する場所として刑事施設の長が指定する室」(刑事収容法4条3項)とされるのみであり、特に注意して視察する必要がある者が想定されること等
⇒被収容者の処遇において重要な位置を占めるともいえる居室の指定は、行刑上の専門家たる刑事施設の長の合理的な裁量に委ねられていると解すべき。
but
前記制定経緯等

居室指定が常に全くの自由裁量であると解することも適切ではなく、
居室の拘禁感や圧迫感により被収容者の受ける影響は、居室指定に際して大きな考慮要素となり、当該居室への指定の必要性(監視の必要性等)が過度に重視されるような場合には、社会通念に照らし著しく妥当性を欠き、裁量の逸脱濫用となる場合があり得るというべき。
自殺企図や逃亡のおそれが高い場合に比して、粗暴性を理由とする場合には、カメラによる厳重な監視を行う必要性が相対的に低いとの評価から、考慮要素の重み付けを判断。
  刑事p97
東京高裁H29.12.21   
   少年を第一種少年院に送致した決定が相当とされた事案。
  事案 少年が、元同級生の被害者を脅迫して現金合計2万1500円を脅し取ったという恐喝保護事件⇒第一種少年院送致 
  原決定 ①本件非行自体から少年の共感性の乏しさ、自己中心性が指摘できる
②その問題性は少年の成育歴や家庭環境に根差す根深いもの
③本件非行に至るまでの少年の家庭内での行状等
⇒これまでに家庭内にとどまっていた少年の問題性が家庭外に発現したもので、強力な指導が必要。
④少年の保護環境について、両親の教育力や祖父母の監護に期待することもできない

少年の更生のためには、少年を第一種少年院に送致することが相当。
  主張 ①本件の被害金額は少額であり、示談が成立
②少年の問題性が発現したのは本件非行だけであり、矯正教育を要するほど根深いものかどうか慎重に判断する必要
③両親は、現に弟を監護養育している祖父母のもとで少年を生活させることを考えており、その監護養育には十分期待できる
④少年には保護処分歴がなく、ひとまず社会内での更生が可能かどうか見極めるべき 
  判断  ①について:
恐喝できそうな相手として被害者に目をつけ、被害者がやくざである先輩の財布をなくしたかのような状況を偽装作出し、その恐怖心をあおって執拗に数十万円もの金員を要求したという経緯等
⇒被害者の心情をまったく無視した支配的な態度が顕著で、本件非行自体から少年の共感性の乏しさ、自己中心性の大きさが見て取れる。

被害金額は少額とはいえない。
本件非行の悪質さ⇒示談成立の点を処遇決定に際して考慮するにも限界がある。
②について:
父親の暴力を避けるために母親が少年を連れて自宅を離れることが多かったという家庭環境の中で、少年が鬱憤の解消方法として暴力的な姿勢を身に付けるなどし、家庭内で支配的に振る舞うことにより分相応な大金を得る経験を重ねた上、支配的な態度を外部に向けるようになり、本件非行に至った

少年の問題性は成育歴や家庭環境に根差した根深いもの
③について:
不登校に陥って祖父母のもとで生活するようになったという弟の監護養育状況と少年の更生に必要な看護体勢を同列に扱うことはできない。
④について:
少年に保護処分歴がないことを踏まえても、
前記の事情
⇒第一種少年院に送致した原決定の処分は相当。
  解説 犯罪的危険性(少年の性格、環境に照らして再び非行に陥る危険性)を中核とする要保護性の判断においては、少年の資質や保護環境といった少年側の
   刑事p100
①②③
   
  事案 乳幼児の虐待による傷害致死等の事案。
  解説・判断  事件性を巡っては、受傷や死亡が他人の故意行為によるものか、それとも疾病、転倒等の事故あるいは関係者の過失行為によるものかについて、医師の判断や医学的知見がしばしば対立。
近年は、乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)によるとされる死亡・重症事故が多く照会されている。
SBS:
乳幼児の上半身を把持して激しく揺さぶることで、頭部に回転性加速度減速度運動が起こり、脳の中などに損傷が生じて発症するというものであり、
硬膜下血腫、網膜出血及び脳浮腫などの脳実質損傷三兆候によって診断。

頭部等に目立った外傷がなくても、三兆候が認められて、高位からの落下事故や交通事故等の疑いがなければSBSと診断することができ、その原因は他者による暴力的な揺さぶりであると推定するという考え方がある。
①事件:
架橋静脈の剪断によって急性硬膜下血腫等が発生
その原因は成人による激しい揺さぶり行為であると認定

③事件:
頭部に意図的な強い回転性外力が加えられたと認定

②事件:
架橋静脈の破綻によって急性硬膜下血腫が発生したと認めたものの、
その原因としては転倒等の事故も考えられるとした。
  ◎①事件 
急性硬膜下血腫の原因は成人による激しい揺さぶり行為であると認められた。
被害児(生後1か月余り)は、被告人の通報によって救急隊員が到着した頃には心肺停止の状態。
搬送先で撮影されたCT画像には、少量だが複数の急性硬膜下血腫のほか脳浮腫が認められた。
検察官が依拠した小児科医師D1及び法医学者D2の証言等に基づき、
①被害児には急性硬膜下血腫とともに広範囲の一次性脳実質損傷が発生し、後者により心肺停止に陥って脳浮腫が開始
②急性硬膜下血腫は脳の架橋静脈が複数本剪断されたことによるものであり、これに広範囲の一次性脳実質損傷が生じている

成人による激しい揺さぶり行為による回転性外力が脳に加わったことが、これらの傷害の原因である。
傷害発生当時、激しい揺さぶり行為を行うことができたのは被告人のみ
⇒被告人が犯人。
  ◎②事件 
死因となった急性硬膜下血腫等の傷害が他者の故意行為によって生じたと認められず、傷害致死につき無罪。
急性鼓膜下血腫が発生したのは午後11時頃から翌日の午前零時25分頃の間であり、その間に被告人方にいたのは被告人と被害児(1歳11か月)の2人。
検察官:
この急性硬膜下血腫は、偶発的な事故では生じ得ない相当に強い外力によるもので、他者の故意行為によるものであると主張し、
その根拠として、
①同血腫が最重度であること
②被害児に多数の皮下出血があること
①について、
同血腫の原因は頭部に外力が加わったことによる架橋静脈2本の破綻であることろ、脳神経外科医師D5の証言によれば、架橋静脈が損傷すると出血量が多量になり血腫も広範囲に及ぶ認められる

血腫の大きさや出血量だけで外力の大きさを推測するのは不十分であり、架橋静脈が損傷するための外力の検討が必要。
この外力につき、
D5医師の、小児の架橋静脈は脳実質に回転力がかけられると切れやすく、同血腫の原因としては、故意の打撃のほか転倒等の事故も考えられるという証言に信用性を認め、
転倒等の事故によって生じた急性硬膜下血腫による死亡症例が報告されている

偶発的な事故で死亡結果が生じないとは認められない。
②について、
頭部の8か所にある皮下出血の全てが偶発的な事故等によるものとは考え難いが、
いずれの皮下出血が急性硬膜下血腫を生じさせた外力によるものかは特定できないので、皮下出血を根拠に他者の故意行為によると認めるためには、皮下出血の相当数が同一機会に生じたこと(さらに被告人の故意行為によるとするには、急性硬膜下血腫の発症時期に生じたこと)が認められる必要があるが、その立証はされていない。
  ◎③事件 
被害児(生後5か月)が他人の故意行為によって死亡したことは認められたが、
被告人の犯人性が認められなかった。
死因は急性硬膜化血腫及びびまん性脳実質損傷によ基づく脳浮腫。

解剖医D8ほか2名の医師の証言等

脳に生じたびまん性軸索損傷は日常生活の中で生じ得る事故等によるものではなく、頭部に意図的な強い回転性外力が加えられた結果であり、かつ、
受傷時期は公訴事実に係る犯行当日の午後6時頃から約4時間半の間。
前記受所時期の当時被告人方にいたのは、
被告人、その妻P5、被害児及び1歳8か月の長男

加害行為者は被告人又は妻に限定される状況。
妻:捜査及び公判において、自分が加害行為をしたとことを否定し、被告人が被害児を抱えて前後に揺さぶったのを見たと供述。
被告人:捜査段階では、この日に長女の前頭部を壁に叩き付けたと自白。
but
同判決は、この自白につき、
①壁にぶつけたのが後頭部が前額部か、故意かどうかという核心部分で変遷
②妻をかばうために虚偽の自白をした、警察官から示された態様のうち壁にぶつけた態様を選び、後頭部に硬膜下血腫があると聞いたので後頭部をぶつけたと述べ、その後、前額部のあざについて聞かれたので前額部をぶつけたと述べたという被告人の供述は排斥できない
③自白の内容が妻の供述と整合しておらず、壁の微物のDNA型が被害児とほぼ一致していることも裏付けにならない

その信用性を否定。
妻の目撃供述についても、
致命傷を与えるような態様が供述されていない不明確なものであるし
内容も不自然で信用性がない。
犯人は被告人であって妻ではないことを示す間接事実として検察官が主張する諸点を総合しても、被告人が犯人であるとは認められず、
妻が自らの暴行を否定している点についても、虚偽供述の動機があり、密接に関連する前記目撃供述が信用性に欠けることから信用性が認められない。
⇒被告人の犯人性を否定。
  ●犯人性
  犯人性を巡っては、父母など複数の監護者のいずれが犯人であるかの特定が困難であることが少なくない。 
一方の親が単独犯として起訴された場合、他方の親が、自分は虐待行為をしていない、被告人の暴行を目撃したなどと供述していることがある。
but
認定された受傷時間帯によっては、他方の親にも犯行可能性がある
⇒同人の供述の信用性評価には困難を伴う。
被告人が捜査段階で自白
but
他方の親をかばう目的や、
近い時期にした軽度の虐待行為が死因となったという思い込みから、
あるいは子どもの死亡による動揺によって、
虚偽の自白をしたという可能性に留意する必要。
積極的間接事実:
被告人の事情として、
①日頃から虐待行為をしていたこと
②被害者を可愛がっていなかったこと
③精神的に不安定であったこと
③犯行後に犯人性を示す言動をしたこと

他方の親の事情として
①被害児を可愛がっており動機がないこと

被告人の犯人性を積極的に示す間接事実が少ないために、犯行可能な人物のうち、被告人以外の者が犯人ではあり得ないという消極法的な認定が用いられた事例もある。
     
     
     
3月   
2393、2394   
  高松高裁H30.11.15  
  四国電力伊方原発三号機愛媛訴訟抗告審決定 :
被保全権利の疎明無⇒抗告を棄却
  事案 愛媛県所在の伊方発電所3号機に関して、同県内に居住するXらが、本件3号機を設置、運転する電力会社であるY(四国電力㈱)に対し、
本件3号機には安全性に欠けるところがあり、事故が発生して多量の放射性物質が放出されるとXらの生命、身体、精神及び生活に関する利益等に重大かつ深刻な被害が発生するおそれがある

人格権による妨害予防請求権に基づき、本件3号機の原子炉の運転の差止を命じる仮処分を申し立てた。

原審が被保全権利があるとは認められないと却下⇒即時抗告 
  争点 ①差止請求の要件等
②基準地震動策定の合理性
③耐震設計における重要度分類の合理性
④使用済燃料ピットの安全性
⑤制御棒に関する安全性
⑥地すべり及び液状化に対する安全性
⑦津波に対する安全性
⑧火山の影響に対する安全性
⑨テロリズム対策
⑩重大事故等対策
⑪その他の本件3号機の安全性に関する問題点
⑫避難計画の合理性
⑬保全の必要性
  判断  ●差止請求の要件等 
人格権に基づく妨害予防請求として本件3号機の運転差止めが認められるための危険性の程度について:
最大規模の自然現象の発生頻度(発生確率ないしリスク)が零になることがない⇒このようなリスクを許容するか否か、許容するとしてどの限度まで許容するかは、社会通念を規準として、発電用原子炉の事故発生の危険性が社会的に容認できる水準以下であるか否かを判断。
抗告人:
福島第一原発事故のような過酷事故については絶対に起こさないという意味での「限定的」絶対的安全性又は絶対的安全性に準じて、深刻な被害が万が一にも起こらない程度の極めて高度な安全性と解すべきと主張。
vs.
改正原子炉等規正法が原子炉等の重大事故に対して深層防護に基づく多段階の対策を講じたことを指摘し、合理的な予測を超えた水準での絶対的な安全性又はこれに準じるような安全性を求めることが社会通念となっているとまではいえない⇒採用せず。
原子炉事故発生の危険性の立証責任:
Y:
新規制基準に不合理な点がないこと並びに本件3号機が新規制基準に適合することとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がないことないしその調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落がないことを主張、疎明することができれば、本件3号機がXらの生命等に直接的かつ重大な被害を与える具体的危険性が存在しないといえ
Xら:
Yの前記主張、疎明を妨げる主張、疎明ができた場合には、新規制基準に不合理な点があり、又は、当該発電用原子炉施設が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があることが事実上推定される。
  ●火山の影響に対する安全性 
川内原発運転禁止仮処分抗告審決定:
立地評価に関する火山ガイドの定めは、発電用原子炉施設の安全性を確保するための基準として、その内容が不合理であると説示。

伊方原発運転禁止仮処分抗告審決定が、火山ガイドが考慮すべきと定めた自然災害にはいわゆる破局的噴火も含むとした上で立地評価及び影響評価ともに不相当であると説示し、
同異議決定が、立地評価に関する火山ガイドの定めには不合理な部分があると説示。
本決定:
原子力規制委員会が策定した原子力発電所の火山影響評価ガイド(火山ガイド)の合理性について検討するに当たり、
原子力規制庁が平成30年3月7日にまとめた「原子力発電所の火山影響評価ガイド(火山ガイド)における設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価に関する基本的な考え方について」と題する文書について、原子力規制委員会がこれまで火山ガイドに従って立地評価及び影響評価の審査を行ってきたところと整合する上、現在の我が国の法令等の社会通念にも合致
⇒合理性あり。
火山ガイドについて、「基本的な考え方」を踏まえて解釈適用す以上は合理性がある。
阿蘇について、本件3号機の運用期間中に破局的噴火が生じる可能性が相応の根拠をもって示されているとまではいえない⇒本件3号機が火山の影響に対する安全性の確保の観点から立地不適とは考えられないとした原子力規制委員会の判断は合理性がある。
Yが、伊方発電所において考慮すべき降下火砕物の厚さを評価するに当たり、検討対象火山はいずれも巨大噴火直前の状態ではなく、降下火砕物の厚さを15センチと評価したことも十分に保守的。
  ●避難計画について 
現行法制度の下において、避難計画が合理性ないし実効性を欠くものであるとしても、直ちに原子力事業者による周辺住民等の人格権(生命、身体に係る権利)に対する違法な侵害行為のおそれがあるということはない。
  民事p36
東京高裁H30.9.19  
  地面師詐欺事件で、本人確認情報の提供を行った弁護士の責任を認めた事案。
  事案 地面師詐欺事件で、本人確認情報の提供、不動産売買契約への立会い及び所有権移転登記申請を実行した弁護士の真実の所有者に対する損害賠償責任が認められた事案。 
地面師グループは、弁護士Bに対して、最初は売買契約への立会人になること、その後に不登法23条4項1号の本人確認情報提供制度における資格者代理人となることを依頼。
弁護士Bは、地面師グループが用意した偽造住民基本台帳カード(住基カード)の確認や自称Aへの人定質問等を行い、自称AをA本人と誤信⇒自称AがA本人である旨の本人確認情報を提供。
A本人は、
弁護士Bが不登法23条4項1号の資格者代理人として必要な自称Aに対する本人確認が不十分であたっため、A本人は第三者や買主との仮処分、訴訟などに支払った費用の損害を被った⇒1400万円余りの損害賠償の支払を求めた。
  一審 資格者代理人が本人確認情報を提供する場合において、原則として不登規則72条に規定された方法による本人確認を行えば足りるが、
資格者代理人が知り得た諸事情に照らしなりすまし等を疑うべき事情がある場合には、その他の方法による本人確認をすべき義務がある。 
偽造住基カードは外観から一見明白に不自然な点はなく、なりすまし等を疑うべき事情がなかった⇒弁護士Bに過失があるとはいえない。
  判断 自称Aが買主候補者からの子についての質問に沈黙したという証拠が発見⇒当該事実が弁護士Bの過失を基礎づける事実として追加主張。
控訴審では、自称Aの証人尋問が実施。 
①「弁護士Bは、買主候補者と自称Aとの面談において、買主候補者からのA本人の子についての質問に対して、自称Aが答えられずに沈黙したことから、買主候補者が自称AがA本人とは信用できないとして席を立つという場面に立ち会う経験をした」という事実の証明あり
②この事実は、住基カードによる本人確認をしたとしても、なお、自称AがA本人ではないことを疑うべき事情

住所地訪問、架電、転送不要郵便物の送付などの方法による本人確認をすべき。
それをしなかった弁護士Bには過失がある。
  解説 弁護士Bが本人確認情報提供業務の依頼を受けてから本人確認情報提供業務についての調査を開始。
調査不足のため、売買決済当日まで、本人確認情報提供義務を行った弁護士が登記申請代理人にあんるべきことや、本人確認情報に資格者代理人の資格を証明する弁護士会発行の印鑑登録証明書の添付が必要であるあることを知らなかったことが認定。 
  労働p49
東京地裁H30.8.28  
  労働者性が否定された事案
  事案 Yに対し
①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と
②同契約に基づく賃金(解雇後の日である平成28年2月25日から本判決確定の日まで、弁済期である毎月25日限り144万8000円及びこれに対する遅延損害金)の支払を求めた 
  規定 労契法 第6条(労働契約の成立) 
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
  解説  労契法6条は、「 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」と規定

使用者における就業規則が労働条件とされる場合があること(労契法7条)を踏まえても、就労時間やそれに対する賃金額及びその支払方法等の具体的な労働条件が労働契約の内容として労働者及び使用者の間で合意されることによって労働契約が成立。
本判決の判断の主幹は、
Yから雇用されることを可決承認されたとXが主張する平成27年11月15日に開催されたYの理事会での出席理事らの議論を中心として、XがYとの間の労働契約締結に至ったとする過程のいずれにおいても、結局のところ、Xの労働条件が何ら具体的に決められていないという点にある。

労働契約が労働条件に関する労働者と使用者の合意で成立するという基本的な考えに根差したもの。
  労働契約は、民法上の雇用契約(民法623条)と同一の概念。
請負契約や有償の委任契約と対比した場合の雇用契約の重要な特色として、
①労働それ自体の提供が契約の目的とされ、仕事の完成や統一的な事務処理が契約の目的となるものではないこと、
②(それ故に)労働を行う者の労働を経営目的に沿って適宜に配置、按配して一定の目的を達成させることは、使用者の権限(労働指揮権)となり、基本的に、労務を提供する側が労働内容を自主性・独立性・裁量性をもって決定するものではないことが挙げられる。 

「労働契約」の該当性判断に当たっても、
契約の形式(契約書の文言等)いかんにかかわらず、これらの特色を有するか否かといった点が受視され、
一般に、労働者に該当するというためには、
①使用者の指揮監督下において労務の提供をする者であること、
②労務に対する対償を支払われる者である
という2つの要件を併せて
「使用従属性の要件」と称している。
本判決:
①Xがこれまで顧問としてYの指揮監督下に必ずしも置かれないままに振る舞ってきた状況と、
②そのような状況を前提に、そのようなXとYとの関係性に係る状況が全く変わることがないというP2前理事長の説明の下で、XのYにおける処遇が決められていること
③その他の捕捉的な事情
を踏まえて、Xの労働者性を否定。
  刑事p63
東京高裁H30.3.2  
  所持品検査として違法⇒違法収集証拠排除⇒(覚せい剤事犯で)無罪
  事案 職務質問を受けていた被告人が、持っていたバッグを約5メートル先にいた知人に渡そうとして投げたが地面に落ちた⇒警察官が拾い上げて承諾なく開披し、覚せい剤を取り出し、写真撮影等をした。
  原判決 有罪 
警察官が被告人を制止し留め置くなどした行為は適法。
but
バッグを開披して内容物を取り出し写真撮影した行為は、所持品検査として許容される程度を超えた捜索⇒違法
but
①バッグに対するプライバシー保護の必要性は相当程度低下
②所持品検査の必要性、緊急性が高かった
③警察官らに令状主義を潜脱する意図があったと認められない

証拠能力を肯定
  判断 ①被告人がバッグを投げたのは、警察官らに取り囲まれて行動の自由が制約される状況において、バッグを警察官らに渡したくなかったから⇒時間的・場所的近接性からしても、プライバシー保護の必要性が低下したとは評価できない。
②警察官らにおいては、薬物事犯ではなく何らかの犯罪に関わる物品等が在中している限度の疑いしかないし、バッグが持ち去られるなどの危険性は高くない⇒所持品検査の必要性、緊急性は高くなかった
③被告人の承諾を得ようともsえず、しかも全ての内容物を取り出し写真撮影までしている⇒令状なしに捜索することが許される場合でないことは容易に判断できた⇒警察官らに令状主義潜脱の意思があった。

違法の程度は重大であるとして、違法収集証拠排除法則を適用し、証拠能力を否定。
  解説  ●所持品検査の許容性と限界 
所持品検査:
最高裁昭和53.6.20以来、
警職法2条1項の職務質問に附随する行為として許容され、捜索に至らない程度であれば、必要性、緊急性、害される個人的法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、相当な範囲で許容される。
  ●違法収集証拠排除法則に関する最高裁判例の流れ 
最高裁昭和53.9.7:
①令状主義の精神を没却するような重大な違法
②証拠として許容とすることが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でない
という要件のもとに証拠能力を否定するとの一般論。
but
具体的事案の解決としては、
所持品検査の違法は重大でない⇒証拠能力を肯定。
その後も、所持品検査は違法としながら、その違法は重大でないとして、証拠能力を肯定する最高裁の死裁判例。

最高裁H21.9.28:
荷物のエックス線検査が違法
but
違法は重大でなく、証拠能力を肯定。
最高裁の裁判例で、違法収集証拠排除法則を提供して証拠能力を否定したもの:
最高裁H25.2.14(逮捕状不呈示)
最高裁H29.3.15(GPS捜査)
  ●最近の違法収集証拠排除法則の適用状況 
職務質問中の留め置き等の違法性を認めながら、その違法の程度は重大でないとして証拠能力を肯定した裁判例と
違法の重大性を認めて証拠能力の否定にまで至った裁判例
がある。
  ●本判決の特徴・位置づけ
所持品検査が適法であるためには、まず「捜索」でないことが必要。
平成20年代以降、裁判所において違法収集証拠排除法則を適用して証拠能力を否定する方向への変化。
2392   
  民事p3
東京高裁H30.7.1  
   
  事案 離婚無効確認訴訟の国際管轄が問題となった事案 
日本で婚姻後米国に移住に米国に帰化(いずれも日本国籍離脱届未了)
米国籍取得後に妻に無断で夫が日本方式の協議離婚届けを提出
夫に遺棄されて日本に帰国したと主張する日本在住の妻が、夫の死亡後に日本の検察官を被告として提起した離婚無効確認訴訟(夫の再婚相手であり日本から米国に帰化した米国在住の女性が被告を補助するため訴訟参加)
  判断 第1審:わが国の国際裁判管轄を否定して訴えを却下

控訴審:わが国の国際裁判管轄を肯定して第1審判決を取り消し、審理を第1審に差戻
⇒上告受理申立てで最高裁に 
  解説 離婚訴訟の国際裁判管轄についての最高裁判決:
日本に国際裁判管轄権を認めるには被告の住所がわが国にあることを原則とすべきであるが、、例外的に原告が被告の住所地国の裁判所に離婚訴訟を提起することについての法律上、事実上の障害の有無・程度や当事者間の公平なども考慮して条理に従い決定するのが相当な場合もあり、相手方配偶者に遺棄された原告の住所がわが国にある場合などには日本に国際裁判管轄を認めるのが相当である。(最高裁昭和39.3.25、H8.6.24等) 
本件のような離婚無効確認訴訟の国際裁判管轄権についての判例はない。
but
離婚訴訟と同様に考えていくべき。
平成31年4月1日から施行される改正人訴法の新3条の2は、人事訴訟が日本の国際裁判管轄に属することとなる場合を明文で定める。

改正人訴法の新3条の2の第7号が定める日本の国際裁判管轄を肯定するための要件のうち
「日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき」については、法制審議会の部会では、従前の最高裁判所の判例の趣旨に沿うような解釈が適当という考えで一致。

新3条の2施行後も、原告が遺棄されて日本に住所を有するような場合には、本件ど同様の結論が出されることになろう。
  民事p11
東京高裁H30.9.19  
  地面師詐欺事件で(前件申請の問題点について)司法書士の責任が認められた事案
  事案 いわゆる地面師詐欺事件に伴う事案で、被害者であるX(土地の買主)から、Xが所有権移転登記を委任した司法書士(Y2)に対する損害賠償請求事件
本件前件申請を弁護士Y1の法律事務所を実質的に支配する元弁護士のTに(Tが弁護士Y1の名義で行うことを)依頼し
本件後件申請は飼い主が依頼した司法書士Y2に行わせることにした。
  解説 不動産登記の連件申請:
甲⇒乙⇒丙へと転々売買が行なわれた場合において、
①甲⇒乙の所有権移転登記申請(「本件前件申請」)と
②乙⇒丙の所有権移転登記申請(「本件後件申請」)を
同時に行うこと。 
①が却下されれば、②も自動的に却下される。
  問題点 本件後件申請の代理人が、自らが直接又は委任ていない本件前件申請の添付書類その他の問題点の有無について、自らの委任者である本件申請の申請人(特に権利義務者)に対して、どの程度の注意義務を負うか 
  一審 XのY1に対する請求を全部認容
XのY2に対する請求を全部棄却

Y1に対する判決は確定。
  Y2の責任 ●一審:
本件後件申請の代理人(司法書士Y2)は、本件前件申請の代理人がその職務を明らかに果たしていない等の特段の事情のない限り、本件前件申請の書類の真偽の確認義務を負わない。 
Tが印鑑証明書を真正なものとして最終的にY2に交付⇒Y2に義務違反はないと判断。
●控訴審 
①本件前件申請が無資格者によって行われ申請代理人たる弁護士Y1が全く関与してない⇒弁護士Y1に直接接触すべきであった。
②本件前件申請に添付された印鑑登録証明書の偽造の疑いが解消されたかどうかを確認していない

本件後件申請の代理人(司法書士Y2)には職務遂行上の過失があり、依頼者であるC2社及びXに賠償責任を負う。
  民事p29
東京地裁H28.12.26  
  サッカーの社会人リーグにおける接触・負傷事故で、不法行為が認められた事案。
  事案 サッカーの社会人リーグにおけるプレー中の選手同士と相手チームの代表者の責任が問題となった事案。 
  争点 ①Y1の故意・過失の有無
②違法性阻却の成否
③損害の発生・額
④過失相殺の当否
  判断 ●争点① 
Y1が故意にXの左足を狙って本件行為に及んだとまでは断定できない
but
Y1が膝の辺りの高さまでつま先を振り上げるようにして、足の裏側をXの下腿部の位置する方に突き出しており、そのような行為に及べば、具体的な接触部位や傷害の程度はともかく、ボールを蹴ろうとするXの左足に接触し、Xに何らかの傷害を負わせることは十分に予見できた。
⇒Y1はXとの接触を回避することも十分可能
⇒Y1に過失があった
  ●争点② 
サッカーの試合に出場する者は、選手間の接触による危険を一定程度は引き受けて試合に出場しており、たとえ故意又は過失により相手チームの選手を負傷させる行為をしたとしても、社会的相当性の範囲内の行為として違法性が否定される余地がある。
国際サッカー評議会が制定するサッカー競技規則の内容を紹介し、
Y1の本件行為は主審によりファウル、反則行為と判定されていないこと等
⇒競技規則上想定されていない行為とはいえない。
but
本件行為は危険性の高い行為であり、必要な行為であったかは疑問であり、十歳な傷害が生じた

Yのの本件行為は社会的相当性を超える行為であり、違法性は阻却されない。
  争点③について
保険金の支払による損益相殺を経た後、247万4761円の損害を認め

争点④について、過失相殺を否定。

Y2の指導監督義務違反を否定。

Y1に対する請求を一部認容し、
Y2に対する請求を棄却。 
   解説 プロスポーツ、あるいは社会人等の専門的な技能、経験を有する者のスポーツにおいては、競技に伴う危険を引き受けてスポーツに参加しており、あるいは競技のルールに従って競技が行われている

競技者の負傷事故が生じたとしても、競技者の故意・過失が否定され、行為の社会的相当性が認められるのが通常。 
公的な団体、競技団体の制定に係る競技のルールがある場合には、ルールの内容、趣旨、違反の危険性等は多様なものがある。
このルールに従って競技が行われているときは、ルール上の反則行為に該当しないし、不法行為上も違法にならないだけでなく、
ルールに違反したときであっても、直ちに不法行為上違法になるものではなかろう。
競技のルールについては、個々の規定ごとにその内容、趣旨(競技者の保護を目的とするか等)、違反の危険性等の事情が異なる。

これらの事情を考慮し、ルール違反の内容・程度が著しいかどうか等が検討される必要がある。
  競技ルールの違反の有無、程度は、各スポーツの専門家の意見等を重要な情報として参考に判断することは重要だえり、
法律の専門家の見解を重視するだけでは、適正な判断基準といい難いし、不当にスポーツ参加者を萎縮させるおそれもある。
  民事p35
広島地裁H30.3.30
  卓球部員の転落事故につき、顧問の注意義務違反あり⇒国賠請求肯定
  事案 Y(広島県府中町)が設置する町立D中学校の女子卓球部に所属していたX1が女子卓球部の練習場所であった校舎の廊下の窓から転落

女子卓球部の顧問であったP1教諭には安全措置を講じる注意義務の違反があったなどと主張し、国賠法1条1項に基づき、
選択的に、営造物である校舎の管理に瑕疵があったと主張して、同法2条1項に基づき、
Y1に対し、
X1が1億4639万円余の損害賠償を、
X1の両親であるX2及びX3が各自100万円の損害賠償を、
求めた事案。 
  判断  ●本件事故の態様 
  ●顧問のP1教諭の注意義務違反の有無 
部活動の担当教諭は、教育活動の一環として行われる学校の課外の部活動においては、受け持つ生徒の安全を保護すべき義務を負う。
①・・・・下段の窓を開けた状態で下段の窓枠に上がった場合には足を滑らせたりバランスを崩して本件廊下の外側に転落する危険性が高い
②顧問P1でさえ、日常的に、本件廊下の上段の窓を開ける際は、開いた状態の下段の窓枠に上って上段の窓枠を開けていた
③P1教諭が本件事故当日に女子卓球部員に対し本件廊下の上段の窓を開けるよう指示した

P1教諭は、女子卓球部員が下段のン窓を開けた状態で下段の窓枠に上がる可能性が高いこと、ひいては、女子卓球部員が下段の窓枠に上がった際にバランスを崩して本件廊下の外側に転落する危険性が高いことを具体的に予見することができた

P1教諭には、女子卓球部員に本件廊下の上段の窓を開ける指示をする際には、下段の窓を閉めた上で窓枠に上がるよう指導したり、脚立等の高所作業用の道具を使用するなど、転落を防止する措置を採った上で作業をするように指示すべき義務があるにもかかわらず、これを怠った注意義務違反がある。
  ●過失相殺 
①X1は、P1教諭が普段から行っている行動を参考にして下段の窓枠に上がったと考えられるところ、本件事故発生当時、中学2年であり、危険を回避するための判断能力を十分に有していたとはいえない
②X1が体勢を崩さないための動作をしなかったと認めることはできない

本件事故について過失相殺をするのは相当でない。 
  知財p50
東京地裁H30.3.1  
  特許法102条2項の推定覆滅についての判断
  事案 発明の名称を「ブルニアンリンク作成デバイスおよびキット」とする2件の特許権(X特許権1,2)を有していたXが、
①Y製品を輸入してY1に販売するY2に対し、X特許権1,2の侵害を理由として(選択的併合)、損害賠償金1億5545万7627円及び遅延損害金の支払を求めるとともに、
②Y製品を販売するY1に対し、X特許権1,2の侵害を理由として(選択的併合)、損害賠償金3億3443万3199円及び遅延損害金の支払を求めた事案。 
  規定 特許法 第一〇二条(損害の額の推定等)

特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

2特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。

3特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

4前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。
  解説・判断  2項は、侵害者が侵害の行為により利益を受けているときに、その利益の額を特許権者等の損害の額と推定する旨規定するところ、
特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、2項の適用が認められると解すべきであり、
特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は、推定された損害額を覆滅する事情として考慮され(知財高裁H25.2.1)、いわゆる寄与率として控除(推定の一部覆滅)されることとなる。 
覆滅の有無及び割合を認定するに当たっての考慮要素としては、
①侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合、
②営業的要因(市場における代替品の存在、侵害者の営業努力、広告、独自の販売形態、ブランド等)、
③侵害品自体の特徴(侵害品の性能、デザイン、需要者の購買に結び付く当該特許発明以外の特徴等)等
が挙げられることが多い。
本判決:
①侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合(実施割合)に基づく推定覆滅率を25%、
②その他の考慮要素(一般的要素)に基づく推定覆滅率を25%とし、
合計50%の推定覆滅を認めた。
2項の推定覆滅を巡っては、推定覆滅率の算定過程が検証し難く、いかなる事由があればどの程度の推定覆滅が認められるかを予測することが困難であるといわれることがある。
but
推定覆滅の考慮要素の一部には当該要素自体が数値化できるものもあり、少なくともそうしたこうっ要素に係る覆滅の定量化過程を客観化することができれば、当事者から見た紛争処理の予想可能性は高まる。
本判決:
推定覆滅事由を
①実施割合と②それ以外の一般的要素に分け、

①の実施割合について、
対象製品の同梱品の価値がパッケージ全体の価値に占める割合を数値として認定した上で、当該割合に従って特許発明の実施部分の割合を算出することで推定覆滅率を算出、

②それ以外の一般的要素については、
侵害者のブランド力、広告宣伝活動、独自の販売及び取引先等を認定した上で、これらの諸事情を総合して推定覆滅率を算定するという手法によって推定覆滅率を求めている。

比較的、定量化過程の客観化になじみやすいと考えられる考慮要素(①の実施割合)に係る推定覆滅率をそれ以外の考慮要素(②の一般的要素)とは独立に算定することで、推定覆滅率を定量化する過程の一部を客観化しようとした試み。
  特許権者の実施品の競合品が被告製品以外にも市場に多数存在
⇒被告製品の売上がなかったとしても、それが直ちに当該実施品の売上の増加につながらない(すなわち、被告製品以外の競合品に需要が流れる可能性がある)
⇒当該実施品及び侵害品を除く競合品の市場占有率(シェア)が相当程度高いという事情は、推定覆滅事由の1つに当たる。
本判決では、被告ら以外にも相当数の事業者が競合品の販売等に算入したと認定されているが、推定覆滅事由として同事情を考慮すべきでないと説示。

被告らの自認に基づき、市場に存在する被告製品以外の競合品が全てX特許権2の侵害品である認定されたため。
  知財p71
大阪地裁H29.3.16  
  不正競争防止法(平成27年改正前)2条1項13号の不正競争(品質誤認表示)における「品質、内容・・・について誤認させるような表示」
  事案 X:地域ブランド品の研究開発、アンテナショップの運営等の事業を行う特定非営利活動法人
Y:組合員の事業の用に供する販売店等の共同施設の設置及び維持管理に関する調査研究等の事業を行う組合で、Y商品に「工楽松右衛門」等のY各表示を表示して、店舗における展示、販売などを行っている。
Xが、Yに対して、Yの行為は、平成27年改正前の不正競争防止法2条1項13号に該当するとして、Y各表示の表示行為、Y商品の販売等の差止め、不法行為に基づく損害賠償等を求めた。
  規定 不正競争防止法 第二条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

十四 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為
  解説 不正競争法は、商品の「品質、内容・・・について誤認させるような表示」をする行為を不正競争を定義し、差止や損害賠償の対象としている(3条1項、4条)。 
  争点 Y各表示に含まれる「松右衛門帆」ないし「松右衛門」が行楽松右衛門が創製した帆布の品質ないし内容を示す普通名詞として一般に広く通用しているか? 
  判断 本件で問題となっている商品である帆布の種類等、「松右衛門帆」「松右衛門」に関する文献等に基づいて認定した事実を示した。
不正競争法2条1項14号におけるある表示が商品の『品質、内容・・・について誤認させるような表示』といえるためには、当該表示が商品の品質や内容を示す表示であると一般に認識されることが必要。
他方、本件において、Y各表示は、Y商品に用いられている帆布の種類や内容を示すものであることを明示して使用されているわけではない。
結論として、需要者の認識を踏まえれば、「工楽松右衛門」等のY各表示に接した需要者が、それがY商品の品質や内容を示す表示であると認識することは認められない⇒それらが商品の「品質、内容・・・について誤認させるような表示」に当たるとはいえない。
「松右衛門」との表示は、一種のブランドとして認識されることも十分あり得るが、その場合に、その古風な人物名から伝統ある高品質なイメージを生じさせ得るとしても、それは、出所表示に由来する抽象的なブランドイメージにすぎず、そのことをもって、Y商品が一定の内容を有する特殊な帆布で作られたとの認識や、Y商品が工楽右衛門なる人物によって考案ないし製造された帆布で作られたとの認識を需要者に一般的に生じさせるということはできない⇒Y各表示が、商品の「内容」についての表示であるということもできない。
  解説 不正競争法2条1項14号は、商品の「品質、内容・・・について誤認させるような表示」をする行為を不正競争と位置づける。 
「品質」を誤認させるような表示であると判断された過去の裁判例:
品質の担保が公的機関の認定等に関わるものであったり、
品質の担保に関わる数値が問題とされたものが多い。
ex.
①酒税法上「みりん」とは認められない液体調味料に「本みりん」であるかのように表示
②国や公的機関等による認定・保証があるかのように表示
③ろうそくの燃焼等に発生する煤の量等に関する誤認表示

使用された表示そのものが、商品の品質や内容を示す機能を果たすことについて、争われてはいない。
本件では、使用された表示そのものが、商品の特定の品質や内容を示す機能を果たすのかどうかが問題。
本判決の考え方:
ある表示が、需要者の間において、商品の品質や内容を示す表示であると一般に認識されるに至れば、不正競争法の規律が適用される。

ある表示について、ある商品の需要者以外の者が特定の商品の品質やない世を示す表示と認識していたとしても(ex.船舶関係の学術書の執筆者や読者)、それを異なる品質を備えた商品に使用することは、必ずしも不正競争法の規律に抵触しない。
but
種類や内容を示すものであることを明示して使用した場合は、別論。
  刑事p78
東京高裁H29.7.18
H29.12.20  
  刑の一部執行猶予についての判断
  ■    ■①事件 
    覚せい剤の自己使用と単純所持の事案。
被告人は、累犯関係にある前科3犯を有し、最終刑の執行終了後わずか8か月足らずで本件各犯行。
  原審 刑の一部執行猶予の可否について何ら説示することなく、被告人を懲役2年4月の全部実刑に。 
  判断 被告人を懲役2年4月に処した原判決の量刑自体が重すぎて不当であるとはいえない
but
①被告人が、うつ病と診断され、障害等級1級の認定を受けており、統合失調症との診断も受けている
②本件覚せい剤の使用についえtも精神症状の影響がうかがわれる

①被告人の覚せい剤への依存を改善し、再犯を防止するためには、その生活全般について必要な支援を受けさせて、生活と精神症状を安定させる必要がある。
②刑事施設に引き続き、社会内において、更生保護機関の支援と監督を受けながら、覚せい剤への依存を改善するための処遇を行うことが必要不可欠であると認められる。

刑の一部の執行を猶予することが相当であって、原判決の量刑は、刑の一部の執行を猶予しなかった点で裁量を誤った⇒量刑不当で原判決を破棄。 
  ■    ■②事件 
    覚せい剤の自己使用と共同所持の事案。
覚せい剤取締法違反等の罪て執行猶予付きの有罪判決を受けてから約2か月で本件各犯行。
  原審 ①被告人の姉の監護能力は十分なものといえない
②他に被告人の監護者として適切な者も見当たらない
③被告人のこれまでの生活状況等

被告人に対して実効性のある社会内処遇が適切に実施できるといえるのか疑問⇒
刑の一部執行猶予を付することなく、懲役1年4月の全部実刑 
  判断 懲役1年4月に処したのは相当
but
①被告人の姉の監督能力が低いとはいえず、一定程度期待することができる
②今後の被告人の生活状況に関して特に更生を妨げるような事情は認められない
③被告人の更生意欲が乏しいともいえない
④被告人の日本語能力を前提にしても実施できる範囲で教育課程を実施することは可能と考えられ、簡易薬物検出検査と併せ同プログラムを受ける機会を与えることが、被告人の再犯防止に必要かつ相当

刑の一部執行猶予の必要性及び相当性の評価を誤った原判決は破棄を免れない。
  解説  刑の一部執行猶予の制度:
「実刑の特別予防の観点からのヴァリエーション」であり、
その適用の可否は、
懲役または禁錮3年以下の実刑相当性を前提に、
再犯防止のための必要性・相当性の要件について、
①再犯のおそれ、
②社会内処遇の有用性、
③社会内処遇の実効性
という3つのステップによって判断。
薬物法による刑の一部執行猶予は、保護観察を付すことが必要的(薬物法4条1項)。

刑法による刑の一部執行猶予は、保護観察は任意的(刑法27条の3第1項)が、一部執行猶予の判断の第2ステップにおいて想定した処遇の多くが保護観察を実施することを前提とするものと考えられる⇒保護観察を付することとなることが多い。
but
①重度の精神障碍者又は重度の知的障害者
②日本語を理解できない者などは、
保護観察の実効性という観点から、保護観察所における専門的処遇プログラムから除外されている。
  刑事p83
大阪高裁H30.10.4  
  スマホながら運転による前方不注視⇒類型的に犯情が重い
  判断 ①一般的に見て、スマホながら運転は、スマートフォンの小さい画面における手指による細密な動作に意識を集中する必要がある(車載のカーナビゲーションや、旧来の携帯電話機のボタン操作と異なり、手探りや指の感覚で操作目的と達成することが難しく、画面の視認が不可欠となる特徴があり、意識を相当程度集中する必要がある)
②運転者が自らの意思でスマホながら運転がながら運転を積極的に選択した行為が招いた事態⇒その意識決定に対する非難の程度も相当に高い。 
  解説 高速道路上でスマートフォンのアプリを閲覧・操作するなどして前方注意を怠り、交通事故を起こして人を死傷させた⇒検察官の求刑を超える刑期の実刑に処した原判決を維持。 
①スマホながら運転による前方不注視は、著しく危険であって過失運転致死傷罪の中でも類型的に犯情が悪い部類に属する
②運転者が自らの意思で積極的に選択した行為が招いた事態⇒その意思決定に対する非難の程度も相当高い
と判断。
  刑事p91
横浜地裁H28.12.12  
  虚偽内容の供述調書により捜索差押許可状取得⇒違法収集証拠排除により無罪
  争点 ①違法収集証拠による証拠の排除の可否
②被告人の大麻の所持の認識の有無 
  規定 憲法 第35条〔住居侵入・捜索・押収に対する保障〕
何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
②捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
刑訴法 第218条〔令状による差押え・捜索・記録命令付捜索・検証・身体検査、通信回線接続記録の複写等〕
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
  判断  捜索差押許可状の発付に当たって、参考人の虚偽の供述調書が疎明資料
参考人の了解を得て、虚偽の供述内容を付け加えて書面にした。
①他人の刑事事件に関する証拠を偽造した罪(刑法104条)に当たりうるもの。
警察官は、地方公務員法違反罪のほか、虚偽調書を作成して裁判官に捜索差押許可状を請求して使用したという証拠隠滅罪(刑法104条)により、略式起訴され、罰金50万円の略式命令で確定。
②警察官は、捜索差押許可状の発付の可否の審査という刑事司法作用を誤らせる意図で虚偽調書を主導的に作成した上、捜索差押許可状請求の疎明資料として提出資料として提出して使用し、公判においても、虚偽調書の作成や使用の事実を隠して捜索押収手続には問題がないような証言⇒令状主義を潜脱する強い意図

違法行為に至った経緯や態様、違法の重大性、令状主義を潜脱する意図の強さも考慮すると、捜索押収手続の違法性の程度は、憲法35条及びこれを受けた刑訴法218条1項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法
⇒捜索押収手続によって得られた証拠を、刑訴法317条の事実認定に供する「証拠」として許容することは将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でない。
違法収集証拠として排除すべき証拠の範囲:
捜索押収手続によって発見、押収された大麻のみならず、
大麻等の捜索差押調書抄本、鑑定嘱託書謄本、鑑定書、大麻の所持に基づく現行犯人逮捕手続書抄本、捜索差押許可状を執行している状況を写真撮影し又はその写しを作成した捜査報告書、大麻予試験実験結果報告書抄本などの取調べ済みの各証拠も、
捜索押収手続及び捜索押収手続によって発見、押収された大麻と一体性を有する証拠として、
弁護人の同意や異議の有無にかかわらず、職権で、
本件公訴事実を認定するための証拠から排除。
  解説  他人の刑事事件に関し、被疑者以外の者が捜査機関から参考人として取調べを受けた際、虚偽の供述⇒刑法104条の罪に当たるものではない。
but
他人の刑事事件について警察官と相談しながら虚偽の供述内容を創作するなどして供述調書を作成した場合には証拠偽造罪に当たる(最高裁H28.3.31)。
  排除される証拠の範囲:
最高裁H15.2.14:
「密接な関連を有する証拠」

本判決:
より簡潔に、「一体性 を有する証拠」も排除するのが相当。
弁護人が、審理の当初、本件の大麻や関係する書証について、証拠意見として、
「異議なし」「同意」の意見。

本判決:
上記の証拠意見は、重要な部分の錯誤に基づくものであり、しかも、弁護人に帰責事由は見当たらない⇒これを無効とするのが相当。
福岡高裁H7.8.30:
原審において、被告人が、差押調書及び鑑定書の取調べに同意し、覚せい剤の取調べに異議なしの意見を述べていることについては、
①その前提となる捜索差押えに、当事者が放棄することを許さない憲法上の権利の侵害を伴う、前叙の重大な違法が存在
②このような場合に右同意等によって右各証拠を証拠として許容することは、手続の基本的公正に反する

右同意書がっても右各証拠が証拠能力を取得することはない。
  最高裁H30.10.17   分限裁判を考える
    本件ツイートの内容が、通常人の読み方を基準とすれば、被申立人において飼い主が訴えを提起したことにつき不当であると考えていることを示す評価とすることも相当である。
   
2月   
2391   
  行政p5
最高裁H30.10.17  
   
  事案 O裁判官についての裁判官分限事件に関する決定 
  規定 裁判官分限法 第三条(裁判権)

②最高裁判所は、左の事件について裁判権を有する。
一 第一審且つ終審として、最高裁判所及び各高等裁判所の裁判官に係る分限事件
裁判官分限法 第四条(合議体)

分限事件は、高等裁判所においては、五人の裁判官の合議体で、最高裁判所においては、大法廷で、これを取り扱う。
裁判所法 第四九条(懲戒)

裁判官は、職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り、又は品位を辱める行状があつたときは、別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される。
裁判官弾劾法 第二条(弾劾による罷免の事由)

弾劾により裁判官を罷免するのは、左の場合とする。
一 職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。
二 その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。
    ●「品位を辱める行状」(裁判所法49条)の意義
裁判は、これを担当する裁判官の責任の下に、その独立の判断をもって行われるもの⇒裁判がこれを受ける者の心服を得るためには、裁判官の地位にある者が、職務の内外を問わず、人格的に、国民から尊敬と信頼の念を集めるにふさわしい品位を保たなければならないことは当然。

同条は、裁判官ががこのような高度の品位保持義務を負っていることを前提として、裁判官の品位保持を図るとともに、その自省自粛を促す目的で「品位を辱める行状があったとき」を懲戒事由の1つに定めたもの。
「品位を辱める行状」
その本来の語感より広く解されており、国民の裁判官あるいは裁判所に対する信頼を揺るがす性質の行為がかなり広くこれに包摂されるものと解される旨の指摘もある。

具体的にいかなる行為がこれに当たるかは、世人の裁判官に対する信頼、ひいては裁判制度そのjものに対する信頼の念を危うくするかどうかにより決すべきであると解されている。
裁判官弾劾法2条:
「職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。」
「その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。」
同号の弾劾事由から「著しく」を除いた「職務の内外を問わず、裁判官としての威信を失うべき非行」が裁判所法49条所定の「品位を辱める行状」に該当する。
裁判権の行使を委ねられた裁判官は、単に事実認定や法律判断に関する高度な素養だけでなく、人格的にも、一般国民の尊敬と信頼を集めるに足りる品位を兼備しなければならない。
かかる人格的品位を有する裁判官の裁断にして、はじめて一般国民の裁判に対する心服を勝取ることができる⇒裁判官という地位には、もともと裁判官に望まれる品位を辱める行為をしてはならないという倫理規範が内在。
この内在的規範に対する違反が外部的行為として現れたとき、「裁判官の非行」と観念される。

裁判官については、その職務の性質上、一般公務員よりも更に高い品位が要求されると考えられる⇒一般公務員に関してはまだ「非行」とはいえない軽微な事由であっても、裁判官に関しては「非行」と評価されるケースがあり得る。
本決定:
裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」の意義について、
職務上の行為であると、純然たる私的行為であるとを問わず、
およそ裁判官に対する国民の信頼を損ね、又は裁判の公正を疑わせるような言動をいう
旨を判示。 
①裁判官に対する国民の信頼を損ねる言動と、
②裁判の公正を疑わせるような言動は、
多くの場合一致する。
but
事実認定及び法令の解釈適用を中心とする裁判についての公正を疑わせるには至らないものの、裁判官に対する国民の信頼を損ねるといえる行為は観念し得るところで、
これも「品位を辱める行状」に当たる

両者が一致しない場合もある。 
●「品位を辱める行状」該当性 
本決定:
裁判官が本件ツイートによって訴訟関係者の感情を傷つけた行為が、裁判官に対する国民の信頼を損ねるとともに、裁判の公正を疑わせるような言動に当たるとして、裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」に当たるとされている。 
本決定は、当該当事者が実際に東京高等裁判所に苦情を述べており、本件ツイートが当該当事者の感情を傷つけたという事実に言及しているが、客観的にみて訴訟関係者の感情を不当に傷付け得る行為であれば、苦情の有無や実際に感情を傷付けた事実の有無にかかわらず、「品位を辱める行状」に該当し得ることとなる。
●表現の自由との関係 
本決定:
表現の自由が裁判官にも及ぶことは当然であると説示した上で、
本件における被申立人の行為は表現の自由として裁判官に許容される限度を逸脱したものである旨を簡潔に説示。
本件ツイートが、一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方とを基準とすれば、民事訴訟における被告の主張や報道記事を要約するにとどまらず、当該訴訟の提起が不当であると被申立人自身が考えていることを伝えるものと受け止めざるを得ないものであるとしている。

裁判官が一市民として表現の自由を有することを踏まえても、被申立人の行為が懲戒事由に該当すると認められることは明らかと考えられることによるものと思われる。
  行政p10
最高裁H30.7.17  
  固定資産課税台帳に登録された土地の価格と当該土地に接する街路の性質についての市長の判定の意味
  事案 京都市所在の四筆の土地につき、これに接する街路が建基法42条1項3号所定の道路に該当することを前提として決定された平成21年度の価格の適否が争われた事案。 
建基法43条1項本文は、建築物の敷地は道路に2m以上接しなければならないとする接道義務を定めており、同法42条が道路の定義を定めているところ、
本件街路が3号道路に該当するためには、
本件街路が所在する区域について同法第3章の規定が適用されるに至った昭和25年11月23日時点で、本件街路が幅員4m以上の道として存在したことが必要。
京都市では、ある道が建基法上の道路に該当するか否かについて判定の依頼があったときは、これを調査した上で、市長が判定をする扱い。
京都市長は、平成18年11月8日、本件街路が3号道路に該当する旨の判定。
主張 Y(京都市):
本件街路が3号道路の要件を客観的に満たしている。
本件道路判定は行政処分に当たり、これについて取消訴訟を提起せずにその適否を争うことはできない。 
  判断 道路判定は行政処分に当たらない。 
建築確認に際し、建築主事等が道路判定と異なる判断をすることは妨げられず、本件街路が3号道路となる要件を客観的に満たさない場合には、本件道路判定がされていても、建築主事等は、本件各土地が3号道路に接していることを前提とした建築確認をすることはできない。
⇒原判決を破棄し、本件を原審に差し戻し。
  解説 ●評価基準における街路の42条道路該当性の位置付け
評価基準の定める市街地宅地評価法においては、土地の接する街路が42条道路に該当するかどうかなどについて考慮すべきものとする明示的な定めはない。
but
①接道義務を満たさない土地については、原則として同土地上に建築物を建築することにつき建築確認を受けることができず、これを受けるためには、接道義務を満たすような措置を講じたり、特定行政庁の許可を受けたりする必要。
②このような利用上の制約があることが、当該土地の減価要因とすることは明らか。
本判決:
①評価基準が、市街地宅地評価法にいて、その他の街路の路線価を付設するに当たり「街路の状況」等について総合的に考慮すべきものとしている
②画地計算法として無道路地等に関する評点算出法を定めている

評価基準が土地の価額の算出に当たり当該土地が42条道路に接しているかどうかなどについて考慮すべきものとしている。
  ●道路判定の処分性 
道路判定が行政処分⇒道路判定が取り消され、あるいはこれが当然に無効でない限り、その効果を争うことができず、また、固定資産評価や建築確認に際しては、道路判定の判断内容を前提としてこれを行うべきこととなる。
but
①建基法42条1項3号は、同号所定の要件を満たす道について、同号の規定により直接に同法上の道路とする趣旨であって、ほかに特定行政庁の指定処分等何らの手続を要しない
②道路判定は、同号所定の要件を満たす道について新たに同法上の道路とする効果を有するものではない⇒これによって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を画定するものとはいえない
③建基法やその関連法令等に3号道路の「判定」について定めた規定はなく、市町村長等がその判定をする権限を有するとの法令上の根拠もない

道路判定は行政処分に当たらない
  民事p14
東京高裁H30.8.23  
  米国法人のグーグル検索サービスでの検索結果削除請求(否定)
  事案 X:インターネット上における広告業務及び広告代理業務等を目的とする株式会社
Y:インターネットで検索サイト(グーグル)を管理、運営する米国法人 
  主張 ①Yが管理運営する日本向けグーグル検索サービスにおいて、検索すると本件検索結果が表示される。
②本件検索結果は、XないしXの代表取締役がXの事業として詐欺商材を販売し、詐欺行為をしているの事実を摘示している
③②の事実摘示は、Xの社会的評価を低下させるものであり、名誉毀損が成立する。

Xが、人格権に基づき、日本向けグーグル検索サービスにおける本件検索結果の削除を求めた。
  原審 本件検索結果は、Xの社会的評価を低下させるもの。
but
その表現行為は、公益を図る目的のものであり、
これらの摘示事実が真実でないと認めることができない

Xの請求を棄却。 
  判断 ①本件検索結果で摘示された事実が真実でないことが明らかであると認めることはできない
②Xの「詐欺」、Xの代表者の「詐欺師」は反事実であり、これが表示されたままでは回復困難な損害が生じる「おそれ」がある旨のXの主張は採用することができない。
と付加訂正するほか、原判決の理由を引用し、Xの請求を棄却すべきものとした。 
  解説 名誉毀損行為に対する差止請求権の有無及びその根拠については、実定法上明文の規定がなく、すべて民法の解釈に委ねられている。 
人格権としての名誉権に基づく出版物等の事前差止めは、
①その表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的でないことが明白であって、かつ、
②被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときに限り、
例外的に許される。
  最高裁H14.9.24(「石に泳ぐ魚」事件):
①侵害行為によって受ける被害者側の不利益と
②侵害者側の不利益とを
比較衡量して決すべき。

侵害行為が明らかに予想され、
その侵害行為によって被害者が重大な損害を受けるおそれがあり、かつ、
その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときに、侵害行為の差止めが許される。
  民事p22
さいたま地裁越谷支部H30.3.7  
  強制執行が目的達成せずに終了した場合の執行費用の負担
  事案 債権者Xの申立てにより債務者Y1及び債務者Y2の占有する建物の明渡しの強制執行が開始され、執行官が明渡しの催告⇒Y1及びY2において本件建物を明け渡した⇒Xが前記明渡しの強制執行を取り下げた

Xが、民執法20条の準用する民訴法73条1項の規定に基づき、前記明渡しの強制執行の執行費用をY1及びY2の負担とすることを申し立てた。 
  規定 民執法 第20条(民事訴訟法の準用)
特別の定めがある場合を除き、民事執行の手続に関しては、民事訴訟法の規定を準用する。
民訴法 第73条(訴訟が裁判及び和解によらないで完結した場合等の取扱い)
訴訟が裁判及び和解によらないで完結したときは、申立てにより、第一審裁判所は決定で訴訟費用の負担を命じ、その裁判所の裁判所書記官はその決定が執行力を生じた後にその負担の額を定めなければならない。補助参加の申出の取下げ又は補助参加についての異議の取下げがあった場合も、同様とする。
2 第六十一条から第六十六条まで及び第七十一条第七項の規定は前項の申立てについての決定について、同条第二項及び第三項の規定は前項の申立てに関する裁判所書記官の処分について、同条第四項から第七項までの規定はその処分に対する異議の申立てについて準用する。
民訴法 第62条(不必要な行為があった場合等の負担)
裁判所は、事情により、勝訴の当事者に、その権利の伸張若しくは防御に必要でない行為によって生じた訴訟費用又は行為の時における訴訟の程度において相手方の権利の伸張若しくは防御に必要であった行為によって生じた訴訟費用の全部又は一部を負担させることができる。
  解説  強制執行がその目的を達成せずに終了した場合の執行費用の負担について
最高裁H29.7.29:
債権者が、確定判決の正本に基づき、賃料相当損害金を請求債権として債務者の有する不動産の共有持分に対する強制競売手続を申し立て、同手続が開始されたところ、債務者が民法494条に基づき同請求債権に係る弁済金を供託した上で、当該供託により同請求債権が消滅したとして提起した請求異議の訴えについて、これを認容する判決が確定し、当該確定判決の正本が執行裁判所に提出されたため、前記強制競売手続が取り消された事案:
「既にした執行処分の取消し等により強制執行が目的を達せずに終了した場合における執行費用の負担は、執行裁判所が、民事執行法20条において準用する民訴法73条の規定に基づいて定めるべきものと解するのが相当」 
請求異議の訴えにかかる請求が認容された理由が、強制競売の開始決定後に債務者が弁済供託をしたことにより同強制競売に係る請求債権が消滅したというものという事情の下では、
民執法20条において準用する民訴法73条1項の裁判の申立てを受けた執行裁判所は、上記強制競売が終了するに至った事情を考慮して、同条2項において準用する同法62条の規定に基づき、同強制競売の執行費用を抗告人の負担とする旨の裁判をすることができる。
  判断  ①本件明渡執行事件はXの取下げにより終了したものであるが、それは、本件明渡執行の手続において、執行官が、本件建物を専有していたY1及びY2に対して、明渡しの催告(民執法168条の2第1項)を行ったのを受け、同人らが本件建物を明け渡したという事情によるもの。
②このような場合、Xによる本件明渡執行事件の申立ては、民訴法73条の準用する同法62条の「行為の時における訴訟の程度において相手方の権利の伸長・・・に必要であった行為」に当たるものと考えることができる。

民執法20条、民訴法73条2項、同法62条により、本件明渡執行に係る執行費用の負担をY1及びY2に負担させた。
  民事p23
金沢地裁H30.11.8  
  貸金業者が本人に対し直接普通為替証書を送付することが弁護士の業務妨害とされた事案
  事案 過払金返還請求訴訟での一部認容判決⇒Xの預り金口座に振り込むよう求める⇒Yは2度にわたりAに普通為替証書を送付⇒Yの行為はXに対する不法行為を構成すると主張し、損害賠償請求。 
  原審 ①一般に、債務者は代理人弁護士による弁済先の指定に法的に拘束されず、債務者が債権者本人に弁済しても有効であり、不法行為上当然に違法にはならない
②過払金返還は寝k津は弁済方法について定めず、弁済方法の合意も成立していない⇒Yは前記指定に法的に拘束されない反面において、Xには指定につき権利・法律上保護される利益を有するとはいえず、各弁済は有効
③Yは債権者本人に直接過払金を返還しても違法行為にはならない旨をXに回答した上で第2送金を行っており信義則にも反しない
⇒Xの請求を棄却 
  上告審 貸金業者は、債務整理を受任した弁護士が債務者から依頼を受けて預り金口座を過払金の返還先として指定した場合には、依頼者との委任関係が疑われるなどの特段の事情のない限り、信義則上、これに応ずべき義務を負うところ、同義務に違反して指定された口座への入金を拒絶したときは、債務整理業務を妨害するものとして違法性を有し、不法行為を構成する。
  判断 Xの附帯控訴に基づき原判決を変更し、Yに損害3万円と遅延損害金の支払を命じた。 
・・・・
Xは事前の申し入れにもかかわらずYが第一送金をしたため、異議を申し入れる趣旨の通知書を内容証明郵便で差し出したが、この作成発送手数料(3万円)と郵送料・印刷代(1862円)及び弁護士費用(3000円)は相当因果関係のある損害と認められ、内金請求の限度である3万円の請求は全部理由がある。

慰謝料は、特段の事情がない限り、財産損害が賠償されれば精神的損害も回復したとみるのが相当⇒認められない。
  解説 原々審判決は、精神的損害の主張しかされていない⇒慰謝料5000円を損害と認めている。 
損害の認定について
①熊本地裁人吉支部H22.4.27:
貸金業者があえて弁護士の指示に従わず、顧客の預金口座に過払金を振り込んだ場合において、同振込みに不安を感じた顧客と弁護士の間で一連のやりとりがされるなど、余計な労力と時間が費やされたことに係る精神的損害が発生
⇒慰謝料を損害として肯定。

②宮崎簡裁H24.11.28:
貸金業者に対し過払金を弁護士の口座に振り込むよう求めているのに本人の口座に振り込まれた場合に、本人には不安を覚えたことにつき慰謝料を認め、弁護士には、業務上看過できない一定程度の負担を負ったことの損害(無形損害)を認めた
~何を損害として構成するかという問題。
  民事p36
福島地裁会津若松支部H30.3.26  
  発電用ダムを管理する電力会社の義務違反(肯定)と損害との因果関係(否定)
  事案 只見川に設置された複数の発電用ダムを管理する電力会社であるYらに対し、
Yらの過失により平成23年7月新潟・福島豪雨における只見川の洪水位が更に上昇する結果を招き、そのためXらの洪水被害が拡大⇒不法行為に基づく損害賠償を求めた。 
  争点 Y1(東北電力株式会社)については、発電用の利水ダムの設置者として、ダム調整池(いわゆるダム湖)の河床に堆積した堆砂を 浚渫すること等により流域に洪水被害を生じさせないようにすべき注意義務を負っていたか
河床の堆砂が進行して水深が浅くなると、洪水の際に洪水位がせき上げられるバックウォーターと呼ばれる現象。
仮にY1が浚渫義務を負うとした場合に、その違反によってXらの被害が増大したといえるかどうかという相当因果関係の存否及び程度。
Y2(資源開発株式会社)については、上流で係留されていた浚渫用の作業船を過失により流出させ、その一部が下流ダムの洪水吐(放流用ゲート)を閉塞⇒当該ダムの調整池の推移が上昇⇒Xらの被害拡大の事実
  判断   Y1について、利水ダムの設置者は堆砂を浚渫すること等により流域に洪水被害を生じさせないようにすべき注意義務を負うとした上で、Y1の浚渫義務違反を肯定。
but
Xらの被害の拡大との間に相当因果関係を認めるには至らない
⇒請求を棄却。
Y2については、流失した作業船が下流のダムの洪水吐を閉塞した事実を認めるに足りる証拠はない⇒請求を棄却。
  Xらは、Y1の浚渫義務の具体的な内容として、
①ダム建設当時の河床高まで浚渫する義務
②昭和44年当時の河床高まで浚渫する義務
を主張。 
自然河川においては、ダムが建設されなくとも浸食と堆積が繰り返され、時間の経過とともに河床の形状が変わっていくこと等⇒ダム建設当時の河床高を維持することを前提とする前記①の義務は認められない。
①只見川の河川整備計画等における計画だか水流量は50年に1回の規模の洪水を想定して策定
②この水準の流量を安全に流下しないのであれば、洪水被害のおそれが認められる
③昭和44年に只見川で発生した洪水の流量は、前記計画高水流量を概ね下回るものであったにもかかわらず、多くの洪水被害が生じた⇒昭和44年当時の河床高のままでは更なる洪水被害のおそれを否定し得ない

Y1は、少なくとも昭和44年以降の堆砂の進行を食い止めるべく、前記②の義務を負っていた。
  but
証拠上、Y1が昭和44年当時の河床高まで浚渫していればXらの主張する被害場所における物理的な浸水被害を回避し、又は軽減することができたと認めるには至らない。 
  刑事p56
東京高裁H30.2.22  
  てんかんの発作により意識障害で自動車事故⇒危険運転致死傷罪の故意を認めた事案
  事案 てんかん発作⇒意識障害の状態に陥り、自車を急発進させて歩行者5人に衝突し死傷させた⇒危険運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律3条2項)の故意を認めた 
  解説  ●てんかんの発作 
てんかんは脳の慢性疾患であり、脳の神経細胞に突然発生する激しい電気的興奮(過剰な発射)による発作を繰り返す。

①原因不明とされる突発性てんかん
②脳外傷や髄膜炎等により脳が傷害を受けたことによる症候性てんかん

①過剰な電気的興奮が脳の一部だけで起きる部分発作
②全体におきる全体発作

抗てんかん薬の内服などによる治療⇒神経細胞の過剰な活動を抑え、発作を起こりにくくする。
  ●運転中の発作による交通事故 
心神喪失時の行為であったと判断されることが多い
てんかんの発作が起きる前の段階、すなわち運転開始時点において運転を差し控える義務を設定し、この義務を怠ったとして過失行為を認定した例も多い

①医師から運転をしないよう指導を受けていた
②運転開始前に運転者自身がてんかん発作の予兆を感じていた
  ●自動車死傷法3条の罪 
平成25年11月、自動車死傷法が制定され、その第3条では、自動車の運転をする者が、その後の走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態になっている場合に、そのことを認識して運転を開始し、走行中に正常な運転が困難状態に陥って事故を起こし、人を死傷させる行為を処罰。
第1項:アルコール又は薬物の影響(多くの場合、自らの意思で摂取)による正常な運転に支障が生じるおそれがある場合を規定
第2項:病気の影響(自らの意思によるものではない)による場合を規定

委任を受けた同法施行令3条2号は、「意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがあるてんかん(発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)」と規定。
この罪の故意:
運転者において、病気の影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがあると認識することが必要
but
その病気に特有の症状が認識されていれば足り、具体的な病名の認識までは必要はないとされている。
道交法:
運転免許の許否(90条1項1号ロ)や取消し等(103条1項1号ロ)の事由として「発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気」を定めているところ、
委任を受けた同法施行令(33条の2の3台2項1号、38条の2第2項)は、
「てんかん(発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)」と規定。

運転免許の更新時には、病状等に関する質問票に記載して、病状を正確に申告することが求められている(虚偽記載についての罰則も定められた。)。
  主張 検察官:
主位的に危険運転致死傷(自動車死傷法3条2項)、
予備的に過失運転致死傷罪(運転避止義務違反)の訴因を設定。 
被告人:
発進時・発進後に、病気の影響により、走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態であったことを認識していなかった⇒故意を否認

主治医から運転を禁止されたことはなく、当日も特段の疲労を感じておらず、直前まで正常な運転を続けていた⇒運転避止義務はなかった
  原審 被告人が事故前の約3年間で複雑部分発作を4回起こした
←それぞれの数日~数週間後に被告人が医師に受診した際のカルテの記載(被告人が申告した内容に基づいて、前兆やもうろう状態等の所見が記載)

被告人自身が
①これらの発作で意識障害が生じていたこと
②抗てんかん薬を処方どおり服用していても疲労等の要因により複雑部分発作が起き得ることを認識。

本件当日も長距離の運転で疲労が蓄積していたところ、異臭感を感じた直後に運転を開始した時点で、その後の走行中に複雑部分発作を起こして意識障害に陥る危険性を認識していたと認定。

危険運転致死傷罪の故意を認めた。
  控訴審 てんかんにより意識の混濁やもうろう状態を含む意識障害が生じたかに焦点を当て、複雑部分発作自体ではなく、複雑部分発作が起きた可能性が高い意識障害が生じたと認めることで十分。 
  裁判例 単純部分発作を起こした後の時点での実行行為と故意という予備的主張について、前兆を感じてから体が動かなくなるまでの数十mの間に路端に停車させ、結果を回避することが可能であった⇒前兆が発生した時点以降の実行行為と故意を認定した裁判例。 
衝突事故の3分前の時点での運転を実行行為として捉えて、少なくとも意識障害をもたらす発作が再発するおそれを有する何らかの病気により、正常な運転に支障が生じるおそれがあることを認識していたとした裁判例。
①被告人はB地点で前兆を感じ、意識障害に陥るおそれにある状態にあると認識したものの、発作の影響により車を停止することはできなかった。
②A地点での実行行為について、被告人は、前兆とは異なる気持ちの悪さを感じて漠然と発作が起きるかもしれないと危惧間を抱いていたにせよ、発作が起きる具体的可能性には思い至っていなかった疑いがある。

無罪とした裁判例。
  刑事p68
横浜地裁H30.3.22  
   
  事案 介護施設職員であった被告人が、その勤務する施設で、約2か月の間に入居者3名を次々と高所から転落させて殺害した事案。 
  解説 ●間接事実からの総合考慮 
◎事件性:
各被害者の身体能力や精神状態、転落したベランダの構造等⇒
第2事件及び第3事件の各被害者については、自らベランダを飛び越えた可能性はなく、殺人事件であると認められる。
第1事件も殺人事件である可能性が極めて高い。
◎犯人性:
第1事件ないし第3事件が約2か月という短期間に生じている⇒同一犯による犯行である可能性が高い。
①本件施設内部や各居室の施錠状況、各犯行当日の夜勤の状況などの客観的な事実の検討⇒部外者や入居者家族、被告人以外の職員等の犯行は困難
②被告人が被害者のV2及びV3について、第2事件及び第3事件以前に、「そろそろ危ない、次落ちる。」などと犯行を予告するような発言をしていた
③母親や妹に「自分がやったんだ。」などと犯行を告白する内容の発言

第3事件については、被告人が犯人であることについて疑念を挟む余地はなく、
第1事件及び第2事件についても、更に被告人に対する嫌疑は高度なものとなるといえ、特段障害となる事情が見当たらなければ犯罪成立を認めて差し支えない程度にまで、被告人が犯人であるという強力な推認が働く。
続いて犯人性の認定について障害となる事情が存在するかという観点から捜査段階での自白及び公判供述の信用性を検討。
  ●取調べ録音録画記録媒体について 
近時の裁判例:

・検察官から実質証拠として取調べ請求がされた録音録画記録媒体について、取調べの必要性を否定して請求を却下した原審の証拠決定が、裁判所の合理的な裁量を逸脱したものとは認められないとされた事例

・取調べ録音録画記録体を見て自白の信用性を判断することには強い疑問があるとし、再現された被告人の供述態度等から直接的に被告人の犯人性に関する事実認定をおこなった原判決を破棄・自判した事例(今市事件控訴審判決)
本件:
被告人の自白調書等の信用性判断のため録音録画記録媒体が採用。
信用性の評価の外形的事情:
①取調べ担当警察官が、高圧的な態度をとったり、厳しく問い糾したりしていく場面はみられない
②終始オープン・クエスチョンの形式により進められている
③被告人の応答状況も身振り手振りを交えた自発的かつ円滑なものであって、問いかけに対しても、そのまま同調するものではなく、記憶にないところはその旨応答
供述内容:
①自白に至った心情や遺族への気持ち、被害者らを殺害の対象とした動機について詳しく述べている
②具体的かつ迫真的な供述部分が見られる
③客観的な施錠状況等と完全に符合する内容の供述
~自白の信用性を高める事情
前段:再生によって確認された自発的な供述態度をもって信用性を肯定しているだけではないか?
後段の客観的事情との整合性等:信用性判断としてはやや内容に踏み込みすぎであり、実質証拠との境界が曖昧ではないか?
  ●死刑選択の理由 
氷山基準:
①犯行の罪質、
②動機
③態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性
④結果の重大性ことに殺害された被害者の数
⑤遺族の被害感情
⑥社会的影響
⑦犯人の年齢
⑧前科
⑨犯行後の情状等
を考慮し、その罪質が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には死刑選択が許される。
本判決:
何ら落ち度のない3名もの尊い命を奪ったという結果(④)
遺族の峻烈な処罰感情(⑤)
高所から、まるで物でも投げ捨てるかのように転落させたという冷酷な犯行態様(①③)
犯行を隠ぺいする工作(⑨)
日々の業務から生じていたうっ憤や自己顕示のためという動機(②)
一定の計画性があること

これらを総合考慮すれば、複数名を殺害した事案の量刑傾向に照らしても、本件事案の重大性、悪質性は際立っており、被告人の罪質は誠に重大なものといわざるをえない
⇒死刑
  刑事p89
京都地裁H29.11.7  
  青酸(シアン)連続不審死事件で死刑判決
  事案 京都、大阪、兵庫で起きた青酸(シアン)連続不審死事件
被告人(判決時70歳)が、資産家の男性と結婚等をし、その後男性が死亡することが繰り返された事件
起訴された4件(殺人3軒、強盗殺人未遂1件)につきいずれも有罪と認定し、求刑通り死刑。
  判断・解説 ●情況証拠による有罪認定 
◎事件性の認定 
第1、第2、第4はいずれも被害者が死亡し、その死因はシアン中毒死とされた。

①血液からシアンが検出されたもの(第1、第2)
②搬送時に内窒息状態(細胞が酸素を使ってエネルギーをつくれなくなる状態)であったことを前提に、除外診断によりシアン中毒に絞り込み、被告人の捜査段階の自白も合わせたもの(第4)

口腔にびらん(軽度溶解)がないこと等⇒被害者はカプセル等に入ったシアン化合物を服用したと認めた。
第3は、被害者が全治不能の高次脳機能障害等を負った
シアン中毒によるものと認定

①搬送時に内窒息状態
②被告人の捜査段階の自白
事故及び自殺の可能性を否定⇒事件性を認定
◎犯人性の認定 
①被告人の近辺の土中から、通常入手困難なシアン化合物が発見されており、被告人は各犯行時、シアン化合物を所持しており、これをカプセルに詰め替えることができた
②被告人は各被疑者に、疑いを持たれることなくカプセルを飲ませることができる関係にあった
⇒犯行可能
各被害者がシアン化合物を服用してから中毒を発症するまでの時間が、2、30分以内⇒服用前後の時間帯に一緒にいたと認められる
①被告人は、各被害者の死亡以前からその遺産取得に向けた行動をとっていた
②被害者から約4000万円の債務を負っており、これを返済することは困難であった
●本判決の手法の評価 
情況証拠による事実認定については、最高裁H22.4.27が、
「情況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要する」
本判決:各事実につき
「被告人が犯人でないとしたら、被告人以外の第三者が、犯行可能性が極めて乏しい中で犯行を行ったことになるが、このような想定は合理性を欠く」
「類似事実による犯人性の認定」は採用しなかった。
●認知症による訴訟能力、責任能力への影響 
◎   ◎被告人の認知症り患 
精神鑑定によれば、被告人は平成27年頃からアルツハイマー型認知症を発症
but
鑑定時(平成28年9月)には、認知症と判断するか迷うくらいの軽症で、平成25年12月当時(第1事件)は、認知症その他の精神疾患に罹患していなかったと認められる。
①平成25年12月頃のメールのやりとり
②遺産取得に向けた一貫した計画的な行動をとっていたこと
⇒当時認知症を発症していたとは認められない。
◎各犯行時の責任能力 
認知症は進行性の病気⇒同時期以前にも認知症に罹患していなかったと認められる⇒各犯行時に完全責任能力あり。
◎訴訟能力 
①認知症が軽症
②公判廷での応訴態度
⇒被告人としての重要な利害を弁別し、それに従って相当な防御をする能力を有する。
●手続2分論的な審理の採用 
公訴事実ごとに、犯罪事実の存否に関する立証を行った後に、中間論告、中間弁論を行い、全ての公訴事実につきこれを終えた後に、日を改めて、情状に関する証拠調べを行う。
●死刑判断
①事故の金銭欲のために人の生命を軽視するという非常に悪質な罪質
②落ち度の全くない3名の被害者の死亡、1名の重篤な障害という重大な結果
③巧妙かつ卑劣で計画的な犯行態様など
④結果につき、約6年間という短期間に4回も反復して行われており、その都度、人の生命を軽視して犯行に及んだという点で、各犯行が1つの機会になされた場合と比べても、より強く非難される

死刑
2390   
  行政p3
大阪高裁H30.3.20  
  大阪の外国人を対象とする準学校法人への補助金の不交付の適法性
  事案 控訴人(一審原告)は、学教法134条1項に定める外国人を対象とした各種学校を設置運営する準学校法人。
被控訴人大阪府に対して、本件23年度大阪府補助金8080万円の交付申請をし、被控訴人大阪市に対して、本件23年度大阪市補助金2650万円の交付申請⇒大阪府知事及び大阪市長によりいずれも不交付とする旨の決定。 
控訴人が、本件各不交付がいずれも違法であるなどとして、

(1)被控訴人大阪府に対し、
一次的に本件大阪府不交付の取消しと本件23年度大阪府補助金の交付決定の義務付けを求め
二次的に控訴人の本件大阪府交付申請に対する被控訴人大阪府による承諾の意思表示を求め、
三次的に大阪府要綱に基づき控訴人が本件23年度大阪府補助金の交付を受けられる地位にあることの確認を求め、
四次的に本件大阪府不交付により控訴人に本件23年度大阪府補助金相当額8080万円の損害が生じたとして国賠法1条1項に基づく損害賠償請求として同額及び遅延損害金の支払を求めるとともに、
その余の国家賠償請求として、風評被害等の損害330万円(弁護士費用30万円を含む。)とこれに対する遅延損害金並びに本件23年度大阪府補助金8080万円の支払の遅延により生じた損害金の支払を求め

(2)被控訴人大阪市に対し、
一次的に本件大阪市不交付の取消しと本件23年度大阪市補助金の交付決定の義務付けを求め
二次的に控訴人の本件大阪市交付申請に対する被控訴人大阪市による承諾の意思表示を求め、
三次的に大阪市要綱に基づき控訴人が本件23年度大阪市補助金の交付を受けられる地位にあることの確認を求め、
四次的に本件大阪市不交付により控訴人に本件23年度大阪市補助金相当額2650万円の損害が生じたとして国賠法1条1項に基づく損害賠償請求として同額及び遅延損害金の支払を求めるとともに、
その余の国家賠償請求として、風評被害等の損害330万円(弁護士費用30万円を含む。)とこれに対する遅延損害金並びに本件23年度大阪市補助金2650万円の支払の遅延により生じた損害金の支払を求めた。
  争点 本案前について:
本件大阪府不交付及び大阪市不交付の各処分性と本件大阪市確認請求に係る確認の利益
本案について:
大阪府・大阪市各要綱交付対象要件の充足性と手続的違法、被控訴人らの承諾義務、国賠法上の違法及び故意過失と損害額など。 
  判断 本件各不交付及び本件各補助金の交付決定の処分性をいずれも否定。
本件大阪市確認請求に係る確認の利益はこれを認めた。 
本案の争点である被控訴人大阪府が、大阪府要綱において定める補助金の交付対象要件について改正し、各種学校を設置する準学校法人である控訴人が「特定の政治団体が主催する行事に、学校の教育活動として参加していないこと」(特定の政治団体と一線を画すること)の要件を充足しないことを理由として、前記補助金を不交付としたことは、
いずれも憲法13条、14条、23条、26条、人権A規約2条、13条、人権B規約26条、人種差別撤廃条約、児童権利条約3条、教基法16条1項、14条2項、私立学校法1条に違反するものではなく、
裁量の逸脱・濫用はないし、交付対象要件の適用にも誤りはないと判断

その余の請求をいずれも棄却すべき。
要は、
①憲法、人権規約、条約等は、本件大阪府補助金の交付を受ける具体的な権利、利益を基礎づけるものではない、
②大阪府要綱に定める本件大阪府補助金の交付の法的性質は贈与であって、被控訴人大阪府は、贈与を受けることができる資格をいかに定めるかについて教育の振興という行政目的の実現のため一定の裁量を有する、
③本件大阪府補助金は、学校法人が設置する外国人学校においては学教法1条(学校の範囲)に準じた教育活動が行われているため、1条校に準じて助成の措置を行う必要があるとの考えから定められた大阪府要領に基づく、
④大阪府要領の改正はこれらの経緯を明確にしたもので、補助金の交付対象要件は、私立学校としての公共性や本件大阪府補助金の経緯等に沿うものとして前記裁量の範囲内にある、
⑤本件大阪府不交付は、前記の要件(特定の政治団体と一線を画すること)に該当しないことを理由とするが、私立学校において一条校に準じた教育活動が行われているというためには、一定程度の政治的中立性が確保されていることが必要であり、大阪府要綱に前記の要件を付加することには相応の合理性がある
⑥大阪府要綱は、「特定の政治団体」について、公安調査庁が公表する直近の「内外情勢の回顧と展望」において調査等の対象となっている団体(ただし、政治資金規正法3条2項に規定する政党を除く。)と定義しているが、このような団体が主催する行事に学校の教育活動として参加している学校法人に対し、本件大阪府補助金を交付することを許容するか否かは、被控訴人大阪府の裁量に属する⇒このような要件を設けることに裁量の逸脱又は濫用があるとはいえないし、交付対象要件の適用にも誤りはない。
  民事p51
最高裁H30.7.17   
  日本放送協会の受信料債権と民法168条1項前段(定期金債権の消滅時効)の適用の有無(否定)
  事案 日本放送協会が、遅くとも、平成7年6月末までに日本放送協会の放送の受信についての契約を締結したYに対し、同契約に基づき、平成23年4月分から平成29年5月分までの受信料合計9万6940円及び遅延損害金の支払を求めた事案。
  主張 Y:日本放送協会が同契約に基づく受信料の支払を20年間請求しなかった⇒民法168条1項前段所定の定期金債権の消滅時効が完成。 
  規定 民法 第168条(定期金債権の消滅時効)
定期金の債権は、第一回の弁済期から二十年間行使しないときは、消滅する。最後の弁済期から十年間行使しないときも、同様とする。
2 定期金の債権者は、時効の中断の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。
  判断 日本放送協会の放送の受信についての契約に基づく受信料債権には民法168条1項前段の規定は適用されない⇒上告棄却。 
受信契約に基づく受信料債権は、一定の金銭を定期に給付させることを目的とする債権⇒定期金債権に当たる。
but
①放送法は、公共放送事業者である日本放送協会の事業運営の財源を、日本放送協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に広く公平に受信料を負担させることによって賄うこととし、
前記の者に致死受信契約の締結を強制する旨を定めた規定を置いていること、
受信料債権は、このような規律の下で締結される受信契約に基づき発生するもの。
②受信契約に基づく受信料債権について民法168条1項前段の規定の適用があるとすれば、受信契約を締結している者が将来生ずべき受信料の支払義務についてまでこれを免れ得ることとなり、前記規律の下で受信料債権を発生させることとした放送法の趣旨に反するものと解される。

受信料契約に基づく受信料債権には民法168条1項前段の規定は適用されない。

放送法により、公共放送の財政基盤を支えるため、受信契約の締結が義務付けられているという受信料債権の発生原因の特質を考慮して、民法168条1項前段の適用を否定。
(債権の発生原因に係る法律関係を分析し、定期金債権の消滅時効の適用を認めることにより不合理な結果を招くことがないかを検討するという判断の方法)
  解説  一定の金銭その他の代替物を定期に給付させることを目的とする債権を定期金債権といい、
一定期日の到来によって具体化した給付請求権(支分権)は通常の消滅時効にかかり(民法169条の適用を受けることが多い)、
民法168条1項は支分権を生み出す基本権としての定期金債権の時効について規定。
基本権としての定期金債権が時効消滅⇒その後、支分権は発生しないし、一旦発生した支分権も消滅する。
学説:
定期金債権に当たるもの全てについて民法168条1項の適用があるとするのではなく、債権の種類毎に民法168条1項の適用があるかを検討し、民法168条1項の適用がないものを認める見解が多い。
ex.
扶養料債権のうち、一定の親族関係にもとづいて法律上当然に生じるもの
賃借料債権・永小作料債権
契約から生じる利息債権
  大判明40.6.13:
民法168条の定期金の債権は定期毎に若干ずつの金銭又はその他の物の給付を受くべき基本の権利例えば年金権又は養料の類をいう⇒分割払を約した貸金債権はこれに当たらない。
最高裁H26.9.5:
日本放送協会の受信料債権(支分権)の消滅時効について:
原審の適法に確定した事実関係によれば、上告人(日本放送協会)の放送の受信についての契約においては、受信料は、月額又は6か月若しくは12か月前払額で定められ、その支払方法は、1年を2か月ごとの期に区切り各期に当該期分の受信料を一括して支払う方法又は・・・・⇒上記契約に基づく受信料は、年又はこれより短い時期によって定めた金銭の給付を目的とする債権に当たり、その消滅時効期間は民法169条により5年と解すべきである。
  民法169条は、債権法改正で削除。
定期金債権の消滅時効の規定は、債権法改正後も残り、期間を20年間とする時効に加えて、債権を行使することができることを知った時から10年間行使しないときに時効消滅するという規定が設けられる。

現行法より定期金債権の消滅時効が問題となりやすい。 
     
  民事p54
大阪地裁H30.4.13  
  劣化した消却の破裂事故⇒国賠請求・メーカーへの損害賠償請求(否定)
  事案 原告が、屋外駐車場に放置され、腐食が進んでいた加圧式消火器を作動⇒破裂して、原告が傷害を負った

被告国に対しては国賠法1条1項に基づき、
被告社団法人(各消火器メーカーを正会員とする業界団体)及び被告会社(本件消火器の製造メーカー)に対しては不法行為に基づき、
損害賠償を求めた。
本件消火器の品質そのものに問題があって発生したものではない。
  争点 以下のような義務の有無: 
被告国との関係では、平成元年頃までに、自治大臣が消防法(平成5年改正前のもの)21条の2第2項に基づく消火器の規格省令について、
①本件事故の現場のような一定の場所に設置する消火器を、蓄圧式消火器であって消火剤を再充填できない構造のものに限るよう規格を定めるべき義務、
②加圧式消火器の安全性確保のための十分な表示をする規格を定めるべき義務
被告社団法人との関係では、
本件消火器の製造時点において、
①消火器の取扱いについての注意事項を相当な大きさのラベルで表記すべき義務、
②一般消費者に対し、消火器の危険性等について周知徹底を図るべき義務、

本件事故が発生するまでの時点で、
③耐用年数が経過した消火器を回収する制度と構築すべき義務
被告会社との関係では、
本件消火器の製造時点において、
①製造する消火器を蓄圧式消火器に切り替えるべき義務、
②消火器の取扱いについての注意事項を相当な大きさのラベルで表記すべき義務、

本件事故が発生するまでの時点で、
③一般消費者に対し、消火器の危険性等について周知徹底を図るべき義務、
④耐用年数の経過した消火器を回収すべき義務。
  判断 ●被告国との関係 
前記①の義務及び②の義務のうち一部の事項について:
自治大臣が消防法による委任に基づいて有する職務上の権限の範囲外

②のその余の事項について:
①消火器の具体的な規格が技術的事項⇒規格省令の改正に係る権限を行使するか否かの判断は主務大臣である自治大臣の裁量事項に属する。
②自治大臣が規格省令の改正を行わなかったことがその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠いていたということはできない。
⇒国賠証1条1項上の違法性はない。
  ●被告社団法人及び被告会社との関係
本件事故は、屋外駐車場の管理者が本件消火器を放置し続けていたところ、同駐車場に侵入した原告が本件消火器で遊ぼうとしてこれを作動させたことによって生じた事故

本件事故の発生を回避することが可能であり、回避すべき義務を負っていたのは、同駐車場の管理者であり、
本件消火器を管理しておらず、本件事故の発生を具体的に予見することができない被告社団法人及び被告会社においては、本件事故を回避するための具体的な措置を講じることはできなかった。

本件事故の発生という結果を回避するための作為義務を否定。
  解説 規制権限を行使しなかったことが国賠法1条1項の適用上違法となるか否かについて:
当該権限を定めた法令の趣旨、目的や権限の性質に照らし、その不行使が著しく合理性を欠くと認められるときでない限り違法の評価を受けない。
(最高裁H1.11.24) 
規制権限の不行使の違法性を検討するに当たっては、まず、当該公務員が当該権限を有しているといえるか否かが問題となる。
  不作為による不法行為の成立を認めるためには、
同被告らにおいて、本件事故という結果の発生を回避するための作為義務を負っていることが必要。
行動の自由を持つ私人に対し、その自由を制限して作為義務を認めるためには、法律・契約・慣習・条理等に基づいて一定の作為を法的に義務付けるだけの十分な根拠が要求されるところ、
前記作為義務についての判断は、過失における行為義務(結果回避義務)の判断と一致するものとされている。(潮見Ⅰp347)

前記作為義務の存在を肯定するためには、責任を問われる者にいて、結果発生の具体的危険を予見できたことが論理的前提となる。

予見可能性の程度については、物も役務も高度に技術化・組織化して潜在的抽象的危険が増大した現代社会においては、抽象的な予見可能性では足りず、いかなる侵害をもたらすかについてのある程度具体的な予見可能性が必要となる。
but
本件において、同被告らは、本件消火器を管理しておらず、本件事故の発生を具体的に予見することができる立場にはなかった
⇒本件事故を回避するための具体的措置を取ることもできなかったといわざるを得ない。
  民事p92
名古屋地裁H30.6.6  
  盗難車による事故につき、車両保有者の運用供用者責任を否定した事案
  事案 盗難自動車(「加害自動車」)と自転車間の自己(「本件事故」)により死亡した自転車運転者の相続人等であるXらが、加害自動車の保有者であるYに対し、自賠法3条による運行供用者責任に基づき、損害賠償金の支払を求めた。 
  争点 いわゆる泥棒運転における加害自動車の保有者Yが自賠法3条による運行供用者責任を負うかどうか。 
  判断 Yの運行供用者責任を認めず、Xらの請求を棄却。 
加害車両が窃取された経緯
⇒加害車両は相当程度窃取されやすい状況にあったと評価すべきであり、窃取時点においては、第三者に対して加害車両の運転を客観的に容認していたと評価されてもやむを得ない状況にあった。
①窃取されてから1時間以内に被害届が提出されている
②窃取から本件事故までの間に約12時間、被害届の提出からでも約11時間経過
③窃取場所から本件事故現場までの距離が直線距離で20.38km、最短走行距離でも24.4kmであること。
④Bは、パトカーに2回追跡されながら逃げ切り、本件事故直前もパトカーに追跡されていた。
⇒Yが加害者であるBに対して加害車両の運転を客観的に容認していたことを否定する方向の諸事情が認められる。
⇒Yの運行供用者責任を認めることはできない。
  解説 運行供用者については、運行支配と運行利益の2つの要素から判断する考え方(二元説)が判例・通説。 
運行利益:運行全体を客観的に観察して、運行供用者のためにされていれば足りる。(最高裁昭和46.7.1)
運行支配が認められれば、通常、運行利益もあると解される⇒現実の裁判では、運行支配の有無を巡って争われる。
最高裁(昭和50.11.28):
いわゆる名義貸与者の事案につき、
「自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上自動車の運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にある場合」には運行支配が認められる⇒当該名義貸与者の運行供用者責任を認めた。
最高裁H20.9.12:
保有者と運転者との間に全く面識がない事案(運転者は保有者の娘と親しい関係にあった者)につき、「容認」という概念を用い、保有者が運転者と面識がなく、その存在すら認識していなかったとしても、客観的外形的に見て、当該運転について、容認の範囲にあったと見られてもやむを得ない場合には運行支配が認められる⇒当該保有者の運行供用者責任を認めた。
本件:
いわゆる泥棒運転で、保有者と運転者との間に全く面識なし。 
上記H20.9.12の考え方:
客観的外形的に見て、保有者の容認の範囲内にあたっと見られてもやむを得ない場合⇒保有者は運行供用者責任を免れない。
その判断においては、
駐車場所、駐車時間、車両の管理状況、泥棒運転の経緯・態様、盗用場所と事故との時間的・場所的近接性等を総合考慮することになる。
  労働p96
最高裁
H30.6.1  
  有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違と労契法20条
  事案 一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社であるYとの間で有期労働契約を締結してトラック運転手として配送業務に従事していたXが、
Yと無期労働契約を締結している労働者(「正社員」)とXとの間で、
無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与、定期昇給及び退職金に相違があることは労契法20条(平成24年改正後のもの)に違反している

Yに対し、
(1)労働契約に基づき、XがYに対し、本件賃金等に関し、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認を求める(「本件確認請求」)とともに、
(2)
①主位的に、
労働契約に基づき、平成21年10月1日から同27年11月30日までの間に正社員に支給された無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当及び通勤手当(「本件諸手当」)と、同期間にXに支給された本件諸手当との差額の支払を求め(「本件差額賃金請求」)、
②予備的に、
不法行為に基づき、前記差額に相当する額の損害賠償を求めた(「本件損害賠償請求」)。 
  規定 労契法 第20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
  判断 有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が労契法20条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない。
労契法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関して生じたものであることをいう。
労契法20条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう。
乗務員のうち無期契約労働者に対して皆勤手当を支給する一方で、有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、次の(ア)~(ウ)など判示の事情の下においては、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる。

(ア) 前記皆勤手当は、出勤する乗務員を確保する必要があることから、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものである。
(イ) 乗務員については、有期契約労働者と無期契約労働者の職務の内容が異ならない。
(ウ) 就業規則等については、有期契約労働者は会社の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあるが、昇給しないことが原則であるとされている上、皆勤の事実を考慮して昇給が行われたとの事情もうかがわれない。
  説明 ●労契法20条の趣旨
有期契約労働契者の労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と無期契約労働契約を締結している労働者の労働条件と相違

労働契約の相違は、
①労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(「職務の内容」)、
②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、
③その他の事情
を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨を規定。
本判決:
同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(「職務の内容等」)を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。

相違に応じた均衡のとれた処遇を求める規定。
  ●労契法20条違反の効力について 
A:契約補充効は認められない
←労契法12条や労基法13条のような契約補充効を認める旨の規定がない
B:契約補充効を認めるべき
←不合理な格差と認められた労働契約部分を無効にするだけでは問題が解決しない
本判決:
有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当

契約補充効を否定。
契約補充効を否定⇒不合理と認められる有期契約労働者の労働条件を、関係する労働協約、就業規則、労働契約の合理的な解釈・適用により補充することが可能か?

本判決:
Yにおいては、正社員に適用される就業規則と、契約社員に適用される就業規則とが、別個独立のものとして作成されていること等
⇒両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に、正社員に適用される就業規則の定めが契約社員だえるXに適用されることとなると解することは、就業規則の合理的な解釈としても困難
⇒Xの本件賃金等に係る労働条件が正社員の労働条件と同一のものとなるものではない。

本判決:
本件確認請求及び本件差額金請求については、
仮に本件賃金等に係る相違が労契法20条に違反するとしても、Xの本件賃金等に係る労働条件が正社員の労働条件と同一のものとなるものではない
⇒いずれも理由がない。
  ●労契法20条の要件について 
◎「期間の定めがあることにより」 
本判決:
「同条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である」

「関連して生じたものである」とされたのは、期間の定めがあることと労働条件の相違との間に因果関係が必要であるとの見解に立ちつつ、
因果関係があることを緩やかに認める趣旨によるものと解される。
本件諸手当に係る労働条件の相違は、契約社員と正社員とでそれぞれ異なる就業規則が適用されることにより生じている⇒当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができ、労基法20条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たる。
  ◎「不合理と認められるもの」 
本判決:
「同条にいう「不合理と認められるもの」とは、
有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当」
  ●本件諸手当の不合理性について 
本判決:
本件損害賠償請求に関し、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が、職務の内容等を考慮して不合理と認められるものに当たるか否かを賃金項目ごとに検討し、
本件諸手当のうち、無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当及び通勤手当に係る相違は同条にいう不合理と認められるものに当たるとし、
住宅手当に係る相違は同条にいう不合理と認められるものには当たらない。
同日に言い渡された最高裁H30.6.1は、
「有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、
両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、
当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。」
と判示。
  刑事p104
最高裁H29.12.25  
  再審決定⇒特別抗告⇒刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法がある
  事案 請求人が、共犯者A及びBと共謀の上、滞納処分の執行を免れるため、Aが実質経営する風俗店の営業をBに譲渡したかのように装って財産を隠ぺいしたという国税徴収法違反被告事件についての再審請求事件 
Aの陳述書(請求人が財産の隠ぺいに関与していたとの確定審の公判供述は虚偽であり、真実は、請求人は財産の隠ぺいには関与していないとの内容(「Aの新供述」))等の新証拠11点を提出⇒これらが「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(刑訴法435条6号)に当たるとして、再審を請求。
  原々審 再審請求を棄却 
    ⇒即時抗告
  原審 事実の取調べとしてAの証人尋問を実施し、
Aの新供述等の新証拠を踏まえると、Aの公判供述及びBの捜査段階供述の信用性に大きな疑問が生じ、請求人の共謀を認定することに合理的な疑いが残る。⇒Aの新供述等の新証拠は、刑訴法435条6号所定の請求人に対し無罪を言い渡すべき新規かつ明白な証拠に当たる⇒原々決定を取り消し、再審を開始する旨の決定。
    ⇒検察官が特別抗告
  判断 確定審における審理経緯に照らすと、Aの新供述が請求人に対し無罪を言い渡すべき明らかな証拠といえるかどうかを判断するに当たっては、供述を変更するに至った経緯・過程を含め、その内容が、Aの公判供述の信用性を動揺させるに足りる事情を供述するものであるかについて、
原審で行われた証人尋問におけるAの供述も踏まえた上で、慎重に吟味する必要がある。
Aの新供述につき具体的に検討を加え、刑訴法435条6号該当性を認めた原決定には、同号の解釈適用を誤った違法がある。
  解説  確定審における証人の供述は、証人尋問や当事者の主張を踏まえて、その信用性についての検討・判断がなされてきている。
⇒そのような証人の供述と異なる内容の供述が新証拠として提出された場合、それが刑訴法435条6号の新証拠に当たるかについては、確定審で虚偽供述をした理由、供述を変更するに至った経緯を含め、供述内容の合理性、真摯性等について慎重に判断する必要がある。
再審請求審では、新供述が、陳述書や供述書など書面の形式で提供される⇒当該供述者に対する証人尋問(事実取調べ)の実施を検討すべき場合もある。
  刑事p107
最高裁H29.12.18  
  心神喪失等の状態で重大な他害行為⇒医療及び観察等に関する法律による処遇と憲法14条、22条1項、31条(違反なし)
  事案 統合失調症及び精神遅滞に罹患している対象者が、妄想状態の強い影響下で傷害事件⇒検察官から心神耗弱であるとして不起訴処分とされた上、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律による入院等の決定を求める申立て⇒入院決定⇒抗告・棄却⇒再抗告
  争点 医療観察法による処遇制度の合憲性 
  規定 憲法 第14条〔法の下の平等、貴族制度の否認、栄典の限界〕
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
  憲法 第22条〔居住・移転・職業選択の自由、外国移住・国籍離脱の自由〕
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
  判断・解説   ●医療観察法の目的
①心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者は、①精神障害を有していることに加えて、②重大な他害行為を犯したという二重のハンディキャップを背負っており、このような者が有する精神障害は、一般的に手厚い専門的な医療の必要性が高い
②再び精神障害のため重大な他害行為が行われることになれば、本人の社会復帰の大きな障害となることは明らか

そのような事態にならないよう必要な医療を確保することが、本人の円滑な社会復帰のために極めて重要⇒医療観察法による処遇制度。
本決定:医療観察法の目的(1条1項)は正当
  ●医療観察法による処遇制度 
対象者に対する処遇として、
①医療を受けさせるために入院をさせる処遇(「入院処遇」)と
②入院によらない医療を受けさせる処遇(「通院処遇」)
裁判所が入院処遇又は通院処遇の決定をするための要件を定め(42条1項1号、2号)、入院処遇及び通院処遇に関する諸規定。
本決定:入院処遇又は通院処遇に関する諸規定を検討⇒
医療観察法の目的を達成するため必要かつ合理的なものであり、かつ、
処遇の要件も、その目的に即した合理的で相当なものと認められる。
  ●医療観察法の審判手続 
職権探知による審判手続を採用し、審判期日も非公開。
医療観察法の処分は、本来的な司法の分野ではなく、むしろ行政処分的な性格
その判断の中立公正性を保つため、裁判所の裁判によるこいととされた
~特殊な非訟手続ということができる。
付添人制度を設け、付添人に意見陳述権や資料提出権、審判への出席権、記録等の閲覧権を認め、
入院又は通院に係る審判については、弁護士である付添人を必ず付けることとし、
審判期日の開催を原則として必要とし、
審判期日では、対象者に対し、供述を強いられることはないことを説明した上で、
対象者及び付添人から意見を聴かなければならない。
対象者及び付添人に抗告権、退院の許可又は処遇終了の申立権を認める規定を置く。
本決定:対象者に必要な医療を迅速に実施するとともに、対象者のプライバシーを確保し、円滑な社会復帰を図るため、適正かつ合理的な手続が設けられていると説示。
  ●合憲性判断 
憲法 第31条〔法定手続の保障〕
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
憲法31条については、人身の自由について基本原則を定めたものであり、手続要件と実体要件の双方について、適正な内容が法定されていることを要求。
この規定は、本来刑罰を科する際の刑事手続に関する規定であるが、その保障は刑事手続以外の行政手続についても準用又は適用されるとする考え方が一般的。
判例:行政手続にも憲法31条による保障が及ぶ余地があることを認めている。(最高裁H4.7.1)
医療観察法による入通院処遇制度は、対象者の意思と無関係に一方的にその行動の自由等を制限・干渉する制度⇒憲法31条による法定手続保障の趣旨をできるだけ及ぼしていくことが相当。
but
入通院処遇制度の特質に応じて必要とされる保障内容の修正・変容は、当然許容されるべき。
本決定:
医療観察法の目的の正当性、同法の規定する処遇及びその要件の必要性、合理性、相当性、手続保障の内容等
⇒医療観察法による処遇制度は、憲法14条、22条1項に違反するものではなく、憲法31条の法意に反するものということもできない。
  刑事p109
東京家裁H30.2.2  
  児童自立支援施設で、(追加的)強制的措置許可申請が許可されなかった事案
  事案 ぐ犯による保護処分として児童自立支援施設に送致されるとともに、1年半の間に通算30日を限度として強制措置をとることができる旨の決定を受けた少年について、その強制措置をとり得る大枠の期間(「大枠期間」)内に再度の強制的措置許可申請(「再申請」)がなされたが、それが不許可となった事案。
  解説  児童自立支援施設は、不良行為をなし又はなすおそれのある児童及び環境上の理由により生活指導等を要する児童につき、個々に必要な指導を行い、その自立を支援すること等を目的とした児童福祉施設(児福法44条、7条1項)⇒そこでの処遇は、任意・開放的に行われ、児童への強制力の行使はできないのが原則。
but
児童に逃走癖が強かったり、児童が心理的・行動的に不安定で自傷他害のおそれがあったりして、任意・開放的な処遇方法では児童自立支援の目的を達することがでいないときには、児童の行動の自由を制限・剥奪する強制的措置を必要とする場合も考えられる。

そのような場合には、児童相談所長等は、事件を家裁に送致しなければならなず(少年法6条の7第2項、児福法27条の3)、家裁は、期限を付して、少年に対してとるべき措置を指示して、事件を児童相談所長等に送致することができる(少年法18条2項)。

事件の支配・処理を家庭裁判所に移す意味を持つ通常の「送致」とは異なり、強制的措置の許可の申請(最高裁昭和40.6.21) 
  ●大枠期間内の再申請の可否 
①強制的措置の必要性と程度の予測は不確定な要素が多く困難であり、変転する少年の処遇の過程で適時適確に再申請をして福祉的措置を継続することが少年の福祉に合致する場合もある
②再申請を認めても、許可の必要性は裁判所が判断⇒濫用的な強制的措置が抑止される制度的保障がある
③同効力のある事案とない事案を区別することが困難

前件決定の主文中大枠期間を設定した部分に同期間内の再申請禁止の効力を認めない見解が一般的。
実務:
大枠期間内の再申請自体は許容した上で、これを許可する必要があるか否かについては、濫用的な強制的措置が抑止されるように慎重に判断するとの姿勢。
  経緯  少年には、新入時の検査や動機付けを目的とした強制的措置が14日間にわたってとられており、少年に強制的措置をとることができる日数は、専らそのために減ることとなった。
強制的措置が実施されている国立の児童自立支援施設においては、新入児童に対し、このような趣旨での強制的措置を、ほぼ一律にとる運用がなされている。 
  判断 本件再申請に対し、不許可。

①施設における少年への処遇の状況や今後の処置の見通しも勘案すると、少年の在所中に強制的措置が必要となる可能性は低い。
②仮に今後少年に強制的措置が必要になっても、まずは既に許可された期間(残日数の16日間)内の措置で対処し、それでは不十分と見込まれる具体的状況が生じてから再申請する余地もある。
2989   
  判例特報
p3
東京高裁H30.8.3   
  今市事件控訴審判決 
  概要 ①原判決の間接事実の認定を是認した上、これらの間接事実と被告人が母親に書いた謝罪の手紙を併せてる殺害犯人と被告人との同一性が認められる。
②商標法違反の起訴後に行われた本件殺人の取調べは違法だが、殺人の逮捕勾留後に作成された被告人の自白調書の証拠能力は否定されない。
③原審が取調べの録音録画媒体を自白の信用性の補助証拠として使用した点は刑訴法317条に違反。
④被告人の自白のうち、拉致・殺害・遺棄の犯人であることを自認した部分は信用できるが、それを超えて殺人の経過・態様・場所・時間等に関する部分は信用できない。
⑤予備的訴因に従い、殺害の日時・場所を広くとって有罪を認定。 
  判断 ●間接事実による殺人の認定
①Nシステムによる通行記録
②遺体に付着していた猫の毛のDNA型
③遺体の右頸部の損傷が、被告人が当時所持していたスタンガンによって生じたものとして矛盾がない
④被告人車両は、拉致現場で目撃された車と同色・同型で、被告人は被害者が拉致された時間帯にその現場まで自動車で行くことが可能な場所にいた
⑤被告人は拉致現場付近の土地勘があった
⑥被告人は事件当時、多数の児童ポルノ画像を収集し、かつ多数のナイフを所持していた(犯人像と整合的)
⑦被告には、本件殺人の取調べ開始直後の時期に、実母に対して「事件」を起こしたことを謝罪する手紙を送っている
  ②については証明力を減殺し、
⑦については証明力を増強した上で、
①から⑥の事実の総合により有罪の蓋然性が相当高い被告人が⑦の手紙を作成したことは被告人が犯人でなければ合理的に説明することが極めて困難な事実

被害者に付着していた粘着テープと遺体表面から採取された資料から被告人由来のDNA型が発見されず、第三者のDNA型が認められたことを考慮しても、被告人を殺害犯人と認めることに合理的疑いを生じさせない。
  ●起訴後の取調べ 
  被告人は、平成26年6月3日に殺人容疑で逮捕されたが、それまでの間(すなわち、商標法違反の罪での起訴後の勾留期間中)、警察官は実質21日間(2月18日から3月25日まで)、検察官は実質12日間(2月21日から3月28日まで)、別件の起訴後勾留を利用した余罪(本件殺人罪)の取調べが行われた。
2月25日以降の取調べは任意の取調べとして行なわれたとは認められない⇒違法。
but
本件殺人容疑での逮捕勾留後である平成26年6月20日から6月22日までの間に作成された被告人の検察官に対する自供調査4通については、前記違法な取調べの影響が及んでいないとして、その証拠能力を肯定。
  ●録音録画媒体を自白の信用性の補助証拠とした原審の手続 
原判決中の被告人の供述態度についての判示部分を子細に検討した上、
「多くの考慮すべき事柄があるにもかかわらず、疑問のある手続経過によって、本件各記録媒体を供述の信用性の補助証拠として採用し、再現された被告人の供述態度等から直接的に被告人の犯人性に関する事実認定を行った原判決には刑訴法317条の違反が認められる」

①録音録画の制度化に関する刑訴法一部改正は、不当な取調べの有無を事後的に確認できるよにして被疑者取調べの適正化を図るために行われたもの
②録音録画記録媒体により再現される取調べ中の被告人の様子を見て、自白供述の信用性を判断しようとすることには強い疑問がある。
  ●予備的訴因の追加とその認定 
原審の訴訟手続に刑訴法317条違反がある。
but
その違法が判決に影響を及ぼすものであるか否かは、本件自白の信用性に関する検討を経た上で判断。
結論として、自らが本件殺人の犯人であることを認める部分は信用できるが、殺害の場所や態様等に関する部分は信用できない。
前記刑訴法317条違反及び殺害の日時場所を当初の公訴事実どおりに認定した事実誤認はいずれも判決に影響を及ぼすことが明らか
⇒原判決を破棄し、控訴審で追加された予備的訴因(殺害の日時及び場所をより概括的にしたもの)について証明があるとして自判し、無期懲役を言い渡した。 
   規定  刑訴法 第三二二条[被告人の供述書面の証拠能力]
 被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第三百十九条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。
  刑訴法 第三〇一条の二[被疑者取調べ等記録媒体取調べ請求義務、被疑者取調べ等録音録画義務]
 次に掲げる事件については、検察官は、第三百二十二条第一項の規定により証拠とすることができる書面であつて、当該事件についての第百九十八条第一項の規定による取調べ(逮捕又は勾留されている被疑者の取調べに限る。第三項において同じ。)又は第二百三条第一項、第二百四条第一項若しくは第二百五条第一項(第二百十一条及び第二百十六条においてこれらの規定を準用する場合を含む。第三項において同じ。)の弁解の機会に際して作成され、かつ、被告人に不利益な事実の承認を内容とするものの取調べを請求した場合において、被告人又は弁護人が、その取調べの請求に関し、その承認が任意にされたものでない疑いがあることを理由として異議を述べたときは、その承認が任意にされたものであることを証明するため、当該書面が作成された取調べ又は弁解の機会の開始から終了に至るまでの間における被告人の供述及びその状況を第四項の規定により記録した記録媒体の取調べを請求しなければならない。ただし、同項各号のいずれかに該当することにより同項の規定による記録が行われなかつたことその他やむを得ない事情によつて当該記録媒体が存在しないときは、この限りでない。
一 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
二 短期一年以上の有期の懲役又は禁錮に当たる罪であつて故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件
三 司法警察員が送致し又は送付した事件以外の事件(前二号に掲げるものを除く。)
  解説  ●間接事実による認定 
原審:これらの間接事実のみでは有罪とはできない。
本判決:逆の判断。

被告人が母親宛てに出した「謝罪の手紙」の証明力についての判断の差。
原審において証拠の表示⇒刑訴法307条の「証拠物たる書面」として取調べられたものと推測。
but
本判決のような立証趣旨⇒証拠物としての存在を超えて書面の内容の真実性が判断対象となる⇒刑訴法322条1項の要件が問題。
  ●録音録画媒体の取扱い
平成28年5月24日に成立した改正刑訴法301条の2により一定の事件について、被疑者取調べの状況の録音録画が義務付け。
その媒体を自白の信用性の判断資料さらには自白そのもの(実質証拠)として利用しようとする検察側の態度。
それを疑問視する判例等。
  ●予備的訴因の認定について
自白の一部分だけを不合理とする理由として、
「被告人が、受ける刑罰を少しでも軽くしようという意図に基づいて本件自白供述をしたものとすれば、自己に不利益な事実をあえて供述しないというにとどまらず、積極的に自己に有利な内容の虚構を作出している可能性も否定できない」
「情状を良くするために犯行を認め、犯行の動機や態様について、実際の犯行よりも犯情の軽い虚偽の事実を供述することは珍しいことではない」

このような可能性や経験則が成り立つか否か。
成り立つとして本件に適用できるか否か。
  判例特報p38
大津地裁H30.7.11  
  日野町第二次再審請求事件:再審開始決定 
  事案 日野町事件第二次再審請求について、大津地方裁判所が再審開始を決定したもの 
  確定審 一審:
他の証拠と矛盾し、不自然な疑問が多数ある⇒aの自白を信用できない。
but
aにつき、
本件当夜の犯行の機会、被害者方の物色の痕跡(丸鏡にaの指紋が付着)、金庫発見場所及び死体発見場所の知情性、虚偽のアリバイ主張等の間接事実
⇒aの犯人性が推認できる。
控訴審:
aの自白の根幹部分は十分信用できる。
丸鏡からの指紋検出、本件当夜、被害者方付近でaが目撃されたこと、被害者手首の紐による結束方法等の間接事実
アリバイ主張の虚偽性

自白、各間接事実及び虚偽のアリバイ主張を総合すれば、aを犯人と認定できる。 
  ◆再審請求における新証拠の明白性の判断方法
白鳥決定(最高裁):
①新証拠と旧証拠を総合的に評価すべきこと
②再審開始可否の判断においても「疑わしきは被告人の利益に」の原則が適用されること
を判示。

総合評価の具体的方法については、
①新証拠がその立証命題と関連する旧証拠の証明力を減殺するか否かを検討し(限定的再評価による新証拠の証明力判断)
②仮にこれが肯定された場合、新旧全証拠を総合的に評価して(全面的再評価による新証拠の明白性判断)、確定判決の有罪認定に合理的疑いが生じれば新証拠の明白性が肯定される
という手法が、近時の再審請求審の判断において主流として採用されている。

①の再評価では、新証拠の持つ重要性及び立証命題が、これと有機的に関連する確定判決の証拠判断及びその結果の事実認定にどのような影響を及ぼすかを審査すべき。
    ◆本決定の各論部分のポイント 
  ●金庫投棄場所への引当捜査 
aが金庫投棄場所を案内した引当捜査の帰路において、aが案内しているかのような写真が撮影。

これらの写真も使用した引当捜査報告書が作成された事実を示すネガの分析報告書
同引当捜査担当警察官の本件再審請求審における証言等の新証拠

警察官による直截的な誘導は否定したが、aが正解である金庫発見場所にたどり着けることを強く期待していた警察官が、意図的な断片情報の提供を行ったり、警察官と、自白を維持し警察と協調するaとの間で、正解到達に向かう無意識な相互作用を生じさせたりした結果、金庫発見場所を案内できた可能性が合理的にみて認められる。
  ●殺害態様 
第一次再審請求において裁判所が選任した鑑定人医師の鑑定書等、東京医科大学のg1医師の鑑定書及び同医師の本件再審請求審における証言等を始めとする新証拠から認められる、犯人の左手の顔面に対する圧迫位置

aの自白のうち、左手を頸部の後面に当てていたとする点は、死体の損傷状況と整合しない。
  ●自白の任意性の否定 
①新証拠から認められる、aが多くの重要な点で客観的状況と矛盾する自白をしている点
②aは自白を継続する捜査段階から、警察官から暴行及び脅迫的言動を受けて自白したと述べていたこと
③aの同供述を裏付ける弁護人の申入書や妻子の供述があること

aは、警察官から暴行を受け、また、脅迫的文言を申し向けられた結果、自白をした合理的疑い。

aの自白の任意性を再評価するための直接の新証拠は存在しないものと見受けられるが、自白の信用性及び自白した状況に関して、重要と思われる新証拠が多数列挙されており、本決定は、有機的に関連する任意性についても再検討。
実質的にみて、松橋事件に係る福岡高裁H29.11.29がいわゆる「連鎖」と判示したものと同様の見解に立つものと理解。
  ●新旧証拠の総合評価を経た上での各間接事実の総合考慮 
直接の争点はaの犯人性であり、新旧全証拠によって認められる間接事実を総合考慮して、aが犯人であると推認できるか否かを判断する構造。
平野母子殺害放火事件(最高裁H22.4.27)が判示した枠組を用いる。

新旧証拠の総合考慮の結果、aが被害者方付近で目撃されたことなどの間接事実が数個残るものの、推認力は減殺されて小さく、他方、本件当夜、知人方の酒席で眠り込んで宿泊したというアリバイ主張が一定の裏付けを有していることなど、推認を妨げる事情も生じた

aが犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係は含まれていないと結論。
  民事p101
東京高裁H29.6.28  
  不動産売買に当たっての、弁護士である資格者代理人の不法行為責任(否定)
  事案 Xは、売主Aと称する者か、土地建物を購入。
弁護士Yは、Aとは面識がなかったが、本件不動産の売買契約に当たり、第三者を介して契約への立会いを求められるとともに、Aについて、平成27年法務省令第51号による改正前の不当規則72条に基づく本人確認情報を提供し、登記義務者の代理人として所有権移転登記申請をした。 
自称Aは売主に成りすました他人であり、本件住基カード等の書類も偽造⇒真実の所有者だえるAから所有権移転登記抹消登記手続を求められ、本件不動産の所有権を取得することができなかった。
⇒XはYに対し、不法行為に基づく損害賠償を求める本訴を提起。
  判断 そもそもYが本件売買契約において依頼を受けた内容が必ずしも明らかでなく、売買代金が現金決済であることについて、Yが売買契約締結時まで認識していたとは認められない。 
自称Aが登記名義人であることを疑うに足りる事情があるときは格別、そうでない場合にまで、不登規則72条2項1号による方法以外の本人確認をすべき義務を負うことはない。
①本件住基カードに外見上不自然な点はなく、資格代理人にはQRコードを読み取る義務まではなく、
②Yにおいてできる限りの本人確認を行ったこと、
③本件遺産分割協議書の印鑑登録諸運命所の印影と同一ないしは酷似した印影が押印されている⇒相続開始日の誤記から直ちに成りすましまで疑うことはできない

Yの注意義務違反を認めず、不法行為責任を否定。
  解説  不登法23条4項、不登規則72条2項に定める資格者代理人による本人確認情報制度については、平成27年法務省令第51条による改正前の不登規則72条2項1号が、住民基本台帳カードによる本人確認を認めていた。 
本件は、結果として、地面師による詐欺事件に関与することとなった資格者代理人が、面識のない者について本人確認情報を提供する場合の注意義務について、
住民基本台帳カードに外見上不自然な点はなく、多額の現金決済であったこと、その他の事情に照らしても成りすましを疑うべき事情はなかった⇒Yの注意義務違反を否定。 
  労働p107
最高裁H30.6.1   
  定年退職後に再雇用された有期契約労働者と労働契約法20条
  事案 Y(セメント等の輸送事業を営む株式会社)を定年退職した後に、有期労働契約をYと締結して就労しているXらが、無期労働契約をYと締結している従業員との間に、労契法20条に違反する労働条件の相違があると主張し、
主位的に、
前記従業員に関する就業規則等が適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、
労働契約に基づき、前記就業規則等により支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額等の支払を求め、
予備的に、
不法行為に基づき、前記差額に相当する額の損害賠償金等の支払を求めた。
  一審 嘱託乗務員と正社員との職務内容等が同一であるにもかかわらず、その賃金額に相違を設けることは、これを正当と解すべき特段の事情がない限り不合理
⇒Xらの主位的請求を全部認容。 
  原審 定年後再雇用に当たり、定年前に比較して一定程度賃金額が減額されることは一般的であり、社会的にも容認されている⇒一審判決を取り消し、Xらの請求を全部棄却。
  判断 精勤手当及び時間外手当(超勤手当)に係る相違は不合理⇒原判決のうち、精勤手当に係る損害賠償(予備的請求)に関する部分を破棄自判。
超勤手当に係る損害賠償(予備的請求)に関する部分を破棄して原審に差し戻し。 
  有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労契法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たる。 
  有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき。
  乗務員である無期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給する一方で、定年退職後に再雇用された乗務員である有期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は、両者の職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同一である場合であっても、
次の(ア)~(カ)など判示の事情の下においては、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たらない
(ア)有期契約労働者に支給される基準賃金の額は、当該有期契約労働者の定年退職時における基本給の額を上回っている。

(イ) 有期契約労働者に支給される歩合給及び無期契約労働者に支給される能率給の額は、いずれもその乗務するバラ車の種類に応じた係数を月稼働額に乗ずる方法によって計算するものとされ、歩合給に係る係数は、能率給に係る係数うの約2倍から約3倍に設定されている。

(ウ) 団体交渉を経て、有期契約労働者の基本賃金が増額され、歩合給に係る係数の一部が有期契約労働者に有利に変更されている。

(エ) 有期契約労働者の賃金体系は、その乗務するバラ車の種類に応じて額が定められている職務給を支給しない代わりに、前記(ア)により収入の安定に配慮するとともに、前記(イ)により労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫されたもの。

(オ) 有期契約労働者に支給された基本賃金及び歩合給と合計した金額並びに当該有期契約労働者の賃金に関する労働条件が無期契約労働者と同じであるとした場合に支払われることとなる基本給、能率給及び職務給を合計した金額を計算すると、前者の金額は後者の金額より少ないが、その差は約2%から約12%にとどまる。

(カ) 有期契約労働者は、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる上、その報酬比例部分の支給が開始されるまでの間、調整給の支給を受けることができる。
  規定 労働契約法 (期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第二〇条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
  解説  ●労契法20条の「その他の事情」 
労契法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するにあたっての考慮要素として、
労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、
当該職務の内容及び配置の変更の範囲
その他の事情
を規定。

①②は、労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するかに当たり考慮要素となる事情の例示⇒③を①②に準じるものに限定すべき理由はない。
  ●有期契約労働者と無期契約労働者の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かについての判断方法 
会社によっては、ある賃金項目を支給しない代わりに異なる手当を支給しているといった場合もあり得る。
本判決:個々の賃金項目を形式的に比較するのではなく、そのような事情(賃金体系における当該賃金項目の位置付け等)をも踏まえて判断すべき旨を説示。
  ●本件各賃金項目に係る相違の不合理性 
本判決:
本件各賃金項目に係る相違のうち、
①嘱託乗務員に対して精勤手当が支給されないこと、
②正社員の超勤手当の計算に精勤手当が含まれるにもかかわらず、嘱託乗務員の時間外手当の計算の基礎には精勤手当が含まれないこと
は、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる。
but
それ以外の相違については、同条にいう不合理と認められるものに当たらない。
本件:
労務の内容や成果に対する賃金項目(能率給、職務給、歩合給)についての相違が問題とされている。
本判決:
正社員の賃金項目(基本給、能率給及び職務給)と嘱託乗務員の賃金項目(基本賃金及び歩合給)とを比較し、その賃金体系の趣旨を検討した上、
その格差の程度、嘱託乗務員が定年後に再雇用された者であること、嘱託乗務員の労働条件が団体交渉を経て有利に変更されてきたことといった諸事情を総合勘案
⇒嘱託乗務員に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件緒相違は不合理とはいえない。

これらの賃金項目が、労務の内容や成果に対する対価であり、月例給の根幹(基礎)を成すものとして、同質性を有しているとの理解を前提。
本判決:
嘱託乗務員に対して住宅手当及び家族手当を支給しないという労働条件の相違は不合理であると評価することはできないと判断。

労働者の属性(手当の必要性等に影響する事情)の相違に着目して、福利厚生及び生活保障の趣旨で支給される手当の要否・内容を区別すること自体が不合理とは言い難いとの理解を前提。
本判決:
嘱託乗務員に対して賞与が支給されないとの相違が労契法20条にいう不合理と認められるものには当たらないと判断。

賞与の要否・内容については様々な考え方があり得るとの理解を前提に、本件の事実関係の下においては、その不支給が不合理であるとまではいい難いと判断。
  ●労契法20条違反の効果 
  労契法20条の効力により、有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない。
Yの就業規則の合理的な解釈として、
①嘱託乗務員であるXらが精勤手当の支給を受けることのできる労働契約上の地位にあると解することはできず
②精勤手当を割増賃金の計算の基礎となる賃金に含めるべきであると解することもできない。

Yが、嘱託乗務員につき従業員規制とは別に嘱託社員規則を定め、その賃金に関する労働条件を嘱託社員労働契約によって定めることとしているという事実関係の下において、正社員に適用される就業規則を嘱託乗務員に適用するとの解釈は合理的とはいい難いと判断。
本判決:
精勤手当及び時間外手当に係る予備的請求(不法行為に基づく損害賠償請求)について、いずれもYの違法な取扱いには過失があったとして、
①精勤手当に係る予備的請求につき、正社員であったならば支給された精勤手当の額に相当する金額の損害賠償金等の支払を命じ、
②時間外手当に係る予備的請求につき、Xらの時間外手当の計算の基礎に精勤手当が含まれなかったことによる損害の有無及び額につき更に審理を尽くさせるため、これを原審に差し戻した。

①嘱託乗務員と正社員との間の職務内容及び変更範囲が同一であり、
②その精勤手当に差異を設けるべき事情がうかがわれないこと等
⇒精勤手当の全額(5000円)を算定の基礎にした。
2388   
  行政p3
東京地裁H30.5.24  
  東京都建築安全条例32条6号に違反するとされた事案
  事案 Xらが建築主となって建築する共同住宅(「本件マンション」)の建築計画について、指定確認検査機関であるAが建基法6条1項前段に定める建築確認処分及び同項後段に定める建築計画変更確認処分

Z2(被告参加人)を含む本件マンションの周辺住民らが本件処分の取消しを求めて審査請求 

東京都建築審査会(裁決行政庁)は、本件マンションの建築計画には条例違反の違法があるなどとして、前記審査請求を認容し、本件処分を取り消す旨の裁決。

建築主であるXらが、Y(東京都)を相手に、本件裁決の取り消しを求める事案。
  争点 本件マンションの建築計画の東京都建築安全条例(「都条例」)32条6号違反等に関する本件裁決の判断の誤りの有無等。 
  判断 南側道路出入口が「直接知情へ通ずる出入口」(施行令13条1号)に当たるとした上で、
①南側道路出入口が、本件建築物一の南棟2階とほぼ同じ高さに設けられているのに対し、本件駐車場は、南棟1階とほぼ同一水面上にある北棟1階に設けられており、南棟2階とほぼ同一水面上である北棟2階にはゲストルーム等が設けられている
②本件駐車場の床面(スロープが設けられていない部分)と南側道路出入口の床面との高低差は、約2.5メートルであり、これは、本件駐車場の床面から天井面までの高さにほぼ相当するという形状

本件駐車場は、南側道路出入口のある階、すなわち「直接地上へ通ずる出入口のある階」に設けられているとは認められないとして、「避難階」に設けられているとはいえない。
①都条例32条6号の「避難階段」は施行令ににいう「避難階段」と同義であって、施行令123条の定める避難階段の構造を有するものをいうと解するのが相当⇒避難階段A及びBは都条例32条6号所定の避難階段に当たらない。

②都条例32条6号所定の避難階段は、当該「建築物の部分」(都条例31条)に設けられなければならないところ、ある階段が自動車車庫等の部分に設けられているといえるか否かは、当該階段と自動車車庫等の用途に供する部分との位置関係を考慮するのみならず、都条例32条6号等の趣旨をも考慮して判断するのが相当。
本件駐車場は北棟に設けられているのに対し、避難階段Cは東棟に設けられている⇒避難階段Cが、本件駐車場から避難しようとする者のための避難施設であるといえないことは客観的に明らか。
本件駐車場から避難階段Cまで円滑に移動することができないおそれがあり、避難階段Cが本件駐車場との関係で都条例32条6号所定の避難階段に当たると解すると、都条例の規定の趣旨に沿わないものとなる。

避難階段Cについても都条例32条6号所定の避難階段に当たらない。

Xらの請求を棄却。
  解説 本件マンションのように建築物内部に自動車車庫が設けられているマンションは珍しいものではなく、自動車車庫について建基法及び施行令に避難施設に関する定めはないところ、特殊建築物である自動車車庫の規模等に応じ、条例で直通階段の設置等の制限(建基法40条)を附加する例がみられ、
条例の解釈において、建基法や施行令との関係が問題となり得る。 
  民事p22
大阪高裁H29.7.12   
  ハーグ条約実施法の事案
  事案 子の父であるX(米国在住)が母であるY(日本在住)に対し、Yによる連れ去りによりXの子に対する監護の権利が侵害されたとして、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「実施法」)に基づき、子を常居所国である米国に返還することを求めた事案。 
原審がXの申立てを認容⇒Yが即時抗告
  事実 Xが提起した離婚訴訟が米国の裁判所に係属し、その過程で、Xの書面による同意又は裁判所の命令がない限り、Yが子を連れて当該州の外に出ることを禁じる裁判所の命令が発令されているにもかかわらず、Yが子とともに日本に帰国。 
YがXによるDVを主張しており、その主張がYによる連れ去りの背景を成している。
  争点 争点①:子の常居所地国 
  Yの主張 日本へに単身帰国した時点ですでにX及びYの婚姻生活は破綻し、Yは米国での生活を引き払って日本で生活を開始したものであり、その後の米国への帰国も米国での裁判のための一時的なもの
⇒日本への単身帰国以降、Yの常居所地国は日本であり、その期間中に日本で出生した子の常居所地国も日本。 
  判断 常居所とは、人が常時居住する場所で、単なる居所とは異なり、相当期間にわたって居住する場所をいうものと解され、
その認定は、居住年数、居住目的、居住常況等を総合的に勘案してすべき。
とりわけ、連れ去り時に未だ生後7か月余りの本件子について常居所地国を判断するに当たっては、その監護者の意思が重要な要素となる。
①出生からYとの渡米までの子の日本滞在期間が51日間であるのに対し、米国滞在期間は、日本への連れ去りまでで180日間となっている
②Y及び子の渡米後のX及びYとの電子メールのやりとりにおいて、Yが日本に帰る意思がない旨等を述べていた
③渡米時に子が片道チケットを使用し、日本に帰ることを当然の前提としていなかった

連れ去りがされた時点で子の常居所地国は米国。
  争点 争点②:重大な危険の例外 
  Yの主張 Yは、XがYに対して銃口を向けたとか、重量のある箱をぶつけたとかいったYによる暴行等を主張するとともに、XがYと子を車で轢こうとしたと主張し、実施法28条1項4号のいわゆる重大な危険の例外の適用を求めた。
  判断 前者の主張:
それらの事実を認めるに足りる客観的な証拠がない
後者の主張:
Xが子との面会交流後にYと子をYと子が入居しているDV保護シェルターまで送ろうとしたことでトラブルとなり、Yが子を抱いて車から逃げ出し、警察官が出動する騒動になったことは認められるものの、
XがY及び子を轢こうとした事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
  民事p33
広島高裁H29.3.31  
  老親に対する扶養義務についての兄弟間の紛争
  事案 Z(参加人(母)・事件本人)の二男X(申立人・抗告審相手方)が、Zの長男Y1及び三男Y2に対し、
①Zの扶養料として月3万円ずつをZに支払うこと、
②XのZ及び亡きP(Zbの夫)に対する金銭的援助につき、過去の扶養料の求償として、Xの負担した合計額の3分の1ずつをXに支払うこと
を求めた。 
  原決定  Y1及びY2に対し、
Zの扶養料として、X、Y1及びY2の収入に応じて按分した分担額(Y1につき月額1万7200円、Y2につき月額4万6700円)をZに支払うこと、
過去の扶養料の求償として、金銭的援助と認めた額を扶養義務者らの収入に応じて按分した金額(Y1につき168万6081えん、Y2につき457万4763円)をXに支払うことを命じた。
    Y1のみが即時抗告。
Zの扶養料につき、Y1の分担額を月額5000円、Y2の分担額を月額5蔓延とすること、
過去の扶養料の求償を認めないこととする
裁判を求めた。
  判断 子の親に対する扶養義務=生活扶助義務(自らの社会的地位等に相応する生活をした上で余力がある限度において負担する義務)

扶養料の額は、原則として、
被扶養者が実際に要する生活費ではなく、
被扶養者が生活を維持するために必要な最低生活費から収入を差し引いた額を超えず、かつ、扶養義務者の余力の範囲内の金額とするのが相当。 
被扶養者(Z及びP)の必要生活費:
生活保護基準によって算出した最低生活費を基礎として算出し、
これと収入(年金支給額)との差額を不足分として、
扶養義務者らの収入に応じて按分した分担額を算出。
扶養義務者らの余力:
人事院が算定した標準生計費(平成26年人事院勧告の参考資料)に依拠し、
Y1は、収入が標準生計費に満たないものの、Y1の妻が看護師として稼働(収入資料が提出されていないため、賃金センサスの年収額を斟酌)しており、Y1世帯の生活費の分担能力があることを前提として、Y1に自己の分担額を負担する余力があると判断。
Y2:
自己の収入だけで生活費を負担しても、自己の分担額及びより多額である原審判が命じた額を負担する余力があることに加え、Y2の妻が会社員として稼働し、Y2の長女にもパート収入があること、Y2が、Xとの協議に基づき、平成27年1月以降、月5万円(同月4月以降は5万5000円)を負担していると主張し、原審判に抗告していないこと等⇒原審判で定めた額のとおり。
Xは、 標準生計費及び収入によると負担する余力はない
but
過去の扶養料については、Y1及びY2の分担額をもって不足額を満たす
⇒それを超える金額を求償することはできず、
Zの扶養料については、現にZ及び亡Pに対して経済的援助を継続できている⇒Y1及びY2の分担額と不足額との差額(約3000円)を分担すべき。
  解説 扶養義務者の扶養義務の程度については、
夫婦間及び親の未成熟子に対する生活保持義務(被扶養者に扶養義務者の生活程度の生活を保持すべき義務)と、
前記以外の直系血族及び兄弟姉妹間等における生活扶助義務(自らの社会的地位等に相応する生活をした上で余力がある限度において負担する義務)に区別されるとするのが一般的。 
本決定:
子の親に対する扶養義務について、生活扶助義務であると解した上で、被扶養者の生活保護基準に基づく最低生活費を基準とした。
扶養義務者が複数ある場合の分担額:
各人の余力(扶養義務者の収入ー社会的地位に相応する生活費用)に応じて分担させることも考えられるが、
本決定は、扶養義務者らの収入額に応じて按分して原則的な分担額を算定した上で、それとの関係で余力の有無について判断。
扶養義務者の配偶者(扶養義務者でない)の収入を扶養義務者の収入と合算して余力の有無を判断することは、実質的に扶養義務者でない者に負担させる結果となるため相当でないが、
扶養義務者世帯が分担することが相当と考えられる額を検討する際に、配偶者の収入を斟酌することは許容されると考えられる。
  民事p37
札幌高裁H30.2.13  
  同居親(母親)が試行的面会交流の実施を拒絶⇒面会交流実施の諸条件が整っていない⇒面会交流否定
  事案 別居している離婚訴訟中の夫Xが、妻Yに対し、未成年の子らとの面会交流を求めた事案。 
  原審 Yは、Xに対し、本審判確定の日の属する月の翌月以降、Xが未成年者らとそれぞれ2か月に1回程度面会することを許さなければならない。 
    Yが不服として抗告
  判断 父母が別居した場合であっても、子が非監護親と面会交流することは、子が非監護親からこれまでと変わらぬ愛情を注がれていることを知り、親子の間の深い結びつきを感じ取る機会となるのみならず、子の養育及び発達について配慮すべき責務を有する非監護親にとっても、子の置かれた状況や心情などを認識し、当該責務をより的確に全うすることにつながるものといえる

子の利益が害されると認められる特段の事情がない限り、子と非監護親が面会交流をすることを禁止すべきではない。
but
原審で試行的面会交流が実施できなかったことにより、面会交流の実施可能性を見極め、面会交流の具体的内容や条件の検討をすることが困難になっており、
当事者間の紛争の実情に鑑みると面会交流を実施できるだけの信頼関係と協力関係が形成されているとも言い難く、
当事者間で面会交流の実施に向けた具体的協議をすることも困難

現時点でXと未成年者らとの面会交流を実施するにあたっての諸条件が整っているとは認められない。
Yが試行的面会交流の実施を拒否したことは、試行的面会交流の意義、目的を考えると遺憾と言わざるを得ないが、その拒否の事実を面会交流実施の可否を判断するにあたって、面会交流を実施する方向での一事情とすることは未成年者らの福祉の観点からは相当とは言い難い

本件においては、現時点でXと未成年者らとの面会交流を実施することが相当であると認めることができない。
  解説 XがYに対して損害賠償請求を提起したこと、
長期間婚姻費用の分担を行わなかったこと
などの事実を認定した上、
原審で試行的面会交流の実施ができなかったことを重視し、
Xの面会交流を否定。 
  民事p42
札幌高裁H30.5.22  
  雑誌の記事が人格権侵害に当たる⇒雑誌の販売、頒布の禁止等を命ずる仮処分(肯定)
  事案 雑誌の出版社であるY(相手方)が発行した月刊誌において、公共交通等を事業内容とするA社の代表取締役であるX(抗告人)について、Xが業務上横領により告発されたことに関する記事(旅費が振り込まれたX名義の口座番号を含む銀行口座の情報など)を掲載⇒Xにおいて、本件記事によりXの名誉及びプライバシーが侵害されたとし、Yに対し、人格権(名誉権及びプライバシー権)に基づき、本件記事を切除又は抹消していない本件雑誌について販売等の禁止等を求めた。 
  原審 ①本件記事によるXの名誉権侵害及びプライバシー権侵害が重大なものであるとは言い難い
②Xの損害又は危険が仮処分命令によりYの被る不利益を比較して著しく大きいものともいい難い
③公共交通等を事業目的とし、公益性もあるA社の代表取締役につき業務上横領による告発がなされたという、公共の利害に関する事項についての表現行為という面を有する

Xの損害又は危険は事後的な損害賠償等によって対処すべきものであり、仮処分命令を必要かつ相当とするほどの保全の必要性があるとは認められない。

Xの申立てを却下。 
  判断  ●被保全権利の存否
本件記事は、「一般の読者に対し、Xが業務上横領で告発された事実自体を伝えるにとどまらず、XがA社の代表取締役就任前であり同社から旅行費用の支払を受ける根拠がないにもかかわらず、不当に高額な旅行費用を絶対服従といえるような関係にある同社の経理責任者に支払わせたとするもの」⇒Xが実際に業務上横領という犯罪を犯したという印象を与えるもの⇒Xの社会的評価を低下させ、名誉を毀損するというべき

人格権(名誉権)の侵害を肯定。
本件記事には、
X名義の預金の銀行名、口座の種類、口座番号等の情報が示されており、これらが通常、私生活上秘匿されるべき情報であり、公開を欲しない情報であって、プライバシーにわたる情報といえる。
とりわけ銀行口座の口座番号等も含む情報は、第三者に悪用される可能性が高く、極めて高い秘匿性を有する情報であって、これがマスキングもされずに公開された点において、プライバシー侵害の程度は著しい。
マスキングもせずに公開することについて何らの公益性は認められない。

人格権(プライバシー権)の侵害も肯定。
  本件雑誌は既に販売されているが、名誉毀損及びプライバシー侵害の程度は高く、これによる被害の更なる拡大やインターネットによる拡散を防ぐ必要性も高い

保全の必要性も肯定。
  解説 雑誌等による名誉毀損行為を理由とする差止請求の可否:
人の社会的評価に係る事実の摘示や意見表明は言論活動の一環であることが多く、これについて安易に事前の差止めを認めることになれば、民主主義の根幹を形成する自由な言論市場における意見の交換を妨げる危険性が生じることになる⇒表現の自由との関係の調整が必要。 
本決定:
最高裁昭和61.6.11(北方ジャーナル事件)を参照しつつ、
名誉権に基づく出版物の頒布等に対する事前差止めは、表現行為に対する重大な制約となる⇒憲法21条の趣旨に照らし、原則として許されない。
but
その表現内容が真実でないか、又は専ら公益を図る目的でないことが明白であって、
かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあると認められる場合には、
これが許されると解するのが相当。
本件雑誌が既に発売されており、その意味において事前の差止めとは異なる
but
出版物の販売禁止やその回収等を求めている
⇒表現行為に対する制約となるもの⇒前記同様の要件の下に申立ての適否を検討するのが相当。
プライバシー侵害と差止請求の可否:
実務では、
①出版する記事等の対象が債権者のプライバシーに属するものであること
②出版する記事等の内容が社会の正当な関心事でないか、表現内容、表現行為が正当なものでないこと
③出版する記事等の公表によって、債権者が重大な損害を受けること
が求められている。 
最高裁H14.9.24:
名誉、プライバシーを含む人格権侵害の事案について、
公共の利益にかかわらないプライバシーにわたる事項を表現内容に含む小説の公表により公的立場にない者の名誉、プライバシー、名誉感情が侵害され、小説の出版等により重大で回復困難な損害を被らせるおそれがある

出版等の差止請求を認容した原審の判断に違法はないとする。
  民事p46
大阪地裁H30.3.30  
  北朝鮮によるミサイル攻撃を受ける危険を理由に、高浜原発の運転差止めを求めた事案
  事案 大阪府に居住するXが、高浜原発3号機及び4号機を設置している電気事業等を営むY(関西電力)に対し、本件原発が北朝鮮より弾道ミサイルで攻撃された場合には、放射性物質が大量に放出されて債権者の人格権(債権者の生命、身体、健康及び平穏生活権)が侵害される⇒人格権に基づく妨害予防請求として、稼働中の本件原発の運転を仮に差し止めることを命じる仮処分命令を求めた。 
  争点 ①本件差止請求の要件と疎明責任の所在
②北朝鮮が本件原発をミサイルで攻撃する具体的危険性があるといえるか 
  判断 ●本件差止請求の要件と疎明責任の所在 
一般に、実態的権利に基づく妨害予防請求権が認められるためには、少なくとも、当該実体的権利が違法に侵害される高度の蓋然性が認められることが必要であり、債権者において、これについて主張、疎明責任を負う。
発電用原子炉施設の設置主体である事業者が、北朝鮮からのミサイル攻撃のような他国からの武力攻撃に関しては、専門的技術的知見及び資料を十分に保持しているとは認められない

①北朝鮮からのミサイル攻撃の危険性に関し、Yが疎明責任を負担するという疎明責任の転換
②Xの人格権侵害があるとの事実上の推定が認められたり、
③Xの疎明責任が軽減されたりすると解することはできない。
  ●北朝鮮が本件原発をミサイルで攻撃する具体的危険性があるといえるか
北朝鮮が本件原発をミサイル攻撃する具体的危険があることについて、疎明されたとはいえない。
  民事p56
京都地裁H30.3.27  
  医師の過誤を認めたが(脳性麻痺等との)因果関係を否定した事案
  事案 平成23年4月に出生したX1、X1の両親であるX2及びX3が、X1が脳性麻痺となったのは、医療法人Y1の代表者理事長であり、X1の担当医であったY2の診療行為の過失により低酸素状態に至らしめた⇒Y1及びY2に対し、不法行為を理由に損害賠償金約1億円を請求⇒X1が訴訟係属中に死亡⇒X2及びX3が法定相続分に応じX1を承継。 
  判断 被告医師の注意義務違反は認めたが、
注意義務違反とX1が罹患した分娩中の低酸素症、脳性麻痺との間には因果関係は認められない⇒請求棄却。 
①脳性麻痺の発症原因は様々なものがあり、一概に特定できないケースが多い⇒分娩中の低酸素が脳性麻痺の原因になり得ると判断する条件について、米国産婦人科学会の産科臨床委員会の基準(「ACOG基準」)が広く用いられている。
②の脳性麻痺のうち、分娩時の低酸素症や新生児仮死が原因であるものは約10パーセントであるとされているデータもある⇒本件がそのケースに該当すると認定判断するためには、ACOGの基準を充足しているかが重要な考慮要素になる。
③ACOGの基準によれば、4つの項目をすべて満たす必要があるところ、1つの証拠上不明

因果関係の存在を否定。
ACOGの基準を満たさないとしても、被告医師の注意義務違反とX1の脳性麻痺との間に因果関係を認める余地がないかをさらに検討
but
X1の脳性麻痺が、分娩中の被告医師の注意義務に起因する低酸素を原因としているものとは認められないとして、これを否定。
  民事p69
広島地裁H30.5.30  
  暴力団員への責任追及と使用者責任
  事案 性風俗店を経営しているXらが、暴力団員から、それぞれ
①X1が、みかじめ料の要求、車両の襲撃及び金員の喝取等の脅迫行為を、
②X3社及びその代表者であるX2が、みかじめ料の要求及び車両の襲撃等の一連の脅迫行為を、
③X4が、みかじめ料の要求並びに車両及び事務所の襲撃等の一連の脅迫行為を受けたと主張して、
①及び②につき、指定暴力団の参加暴力団の各組長であるY2及びY3並びに構成員であるY4の共謀による共同不法行為責任を、
Y2又はY3とY4の共謀が認められない場合に、Y2又はY3の使用者責任を、
③につき、Y3及びY4の共謀による共同不法行為責任を、
Y3とY4の共謀が認められない場合、Y3の使用者責任を、また、
①から③までにつき、
当該暴力団からみて最上位に当たる指定暴力団(A会)の会長であるY1の使用者責任又は暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(「暴対法」)31条の2所定の責任を、
それぞれ主張し、損害賠償を請求。 
  判断 ①から③までの各脅迫行為の事実があったこと、①及び②につき、Y2、Y3及びY4の、③につきY3及びY4の、共謀の事実がそれぞれあったことを認定し、各共同不法行為責任を肯定するとともに、Y1の使用者責任も肯定。
実損額が加え、慰謝料として、X1及びX2につき各400万円(請求額は各500万円)の、X4につき600万円(請求額は800万円)の損害を認めた。
Y1の使用者責任:
①最上位の暴力団(A会)が、指定暴力団に指定されている
⇒暴対法3条1号及び3号の要件を満たすものと判断されている、
②A会は、その傘下組織がA会の威力を利用した資金獲得活動として性風俗店等からみかじめ料を徴収することを促し、これを管理していた上、その一部を上納金として受け取っていた
③A会の「代表者等」(暴対法3条3号)に当たる会長であるY1は、参加組織を含めた暴力団の構成員に対し、自らの指示や意向に従わせる統制下におき、指揮監督をする関係にあった

事業のために他人であるY2、Y3及びY4らを使用する者にY1が当たる。
各脅迫行為は、当該暴力団及びその傘下組織の威力を利用した資金獲得活動として、Y1の事業の執行として行われたもの。
  解説 暴力団の上位者である組長らに対して使用者責任に基づく損害賠償責任を追及する訴訟の1つであり、
最高裁H16.11.12:
階層的に構成されている暴力団の最上位の組長と下部組織の構成員との間に同暴力団の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業について民法715条1項所定の使用者と被用者の関係が成立しているとされた事例
の法理に従った事例判断。
①みかじめ料の支払を断った性風俗店経営者らの運転する車両を襲撃しフロントガラスをたたき割るなどした暴力団員による悪質な不法行為について、最上位の指定暴力団の代表者等の使用者責任を肯定した事例であるとともに、
②当該不法行為が生命や身体にまで危害を加えかねない著しい恐怖を与える態様のものであったことなどを考慮して高額の慰謝料を認めた事例
  商事p84
東京高裁H29.6.15  
  虚偽の有価証券報告書の提出で罰金・課徴金⇒幇助者にその損害賠償請求(否定)
  事案 Xは、長年にわたり損失の会計処理に窮していた⇒経営コンサルティング会社を営むYらの関与により、損失隠しのスキーム及び損失解消のスキームを構築してその実行:
Xの新規事業の投資先とされていたベンチャー企業を利用して、その株式を簿外ファンドに取得させて、それを不当に高額に評価して買い取り、さらに実態の伴わない過大なのれんを計上する不適切な会計処理を行い、これに基づく虚偽の有価証券報告書を作成して提出
⇒有価証券報告書虚偽記載の罪に問われて罰金7億円及び課徴金1986万円を納付

Xは、Yらによって、不当な管理手数料や報酬などのほか、ベンチャー企業の株式取得原価とXの購入価格の差額分572億9540万円及び課徴金相当額の損害を被った

主位的に、ベンチャー企業の株式取得原価とXの購入価格の差額分及び課徴金相当額が損害であるとし、
予備的に、ファンド管理手数料等としてYらに支払った費用等並びに罰金及び課徴金相当額が損害であるとして、
その一部を請求。 
  原審 ①罰金及び課徴金相当額の損害賠償請求につき、Yらが加担したことによって、罰金刑の言渡しという不可分の1個の結果を招来したものと認められる
②罰金や課徴金は、それを科された者が自ら納付すべきものであるとしても、財産的な損失であることに変わりはない
⇒不法行為と相当因果関係のある損害であると判断。 
  判断 主位的請求について:
そのうちベンチャー企業の株式取得原価とXの購入価格の差額分については最終的にXに償還されたものとして、損害に当たらず
罰金及び課徴金相当額について:
①刑罰は一定の法益の剥奪であり、犯罪行為者に加えられるもの⇒本質的に一身専属的な性質を有する
②本犯者の従犯者に対する全額の損害賠償請求を許容することは、刑罰の他に転嫁するに等しい

信義則に照らして、罰金及び課徴金相当額の損害賠償請求は許されない。
予備的請求であるファンド管理手数料等については、控訴審における請求の拡張分までこれを認容。
  解説 刑の言渡しは、犯罪行為者に対するもの⇒言渡しを受けた本人以外に効力は及ばず、その他の者に刑を執行することは許されないのが原則。 
例外:刑訴法491条、492条。
  労働p104
東京高裁H30.2.7  
  日雇派遣ないし日々職業紹介での「即給サービス」での振込手数料の天引きが違法とされ、慰謝料の支払いも命じられた事案。
  事案 Xは、派遣スタッフとして登録していたY1から日雇派遣労働者としてY2に派遣されて、合計7日程度就労し、その後、Y1の日々職業紹介により、Y2に日々雇用されて、合計19日就労。 
Xの給料の支払に当たって、給料日前日に給料を受け取るには105円ないし315円の振込手数料を要する「即給サービス」というシステムを用い、給料から同振込手数料を天引き。
⇒賃金の全額払いの原則を定めた労基法24条1項に違反するところ、Yらに対し、民法709条、719条1項に基づき、他の不法行為の分と合わせて、連帯して慰謝料300万円及びこれに対する遅延損害器の支払を求めた。
  一審 Xの請求をいずれも棄却。 
  判断 ・・・即給サービスの利用手数料の負担者については、Y1の「銀行口座振込依頼書(兼 即給サービス利用申込書)」によれば、利用者である労働者とされているが、YらがXの賃金と即給サービスの利用手数料を相殺することができるためには、Xが相殺に同意していることだけでは足りず、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足る合理的理由が客観的に存在しなければならない(最高裁H2.11.26)。
本件の場合、Yらは、Xら就業者に対し、即給サービスの利用を誘導しているといわざるを得ないところ、これにより、Yらは現金による賃金支払の事務の負担を免れることができる一方、Xら就業者は、日雇派遣及び日々職業紹介という不安定な雇用に置かれている者であり、不本意ながら即給サービスを利用せざるを得ない立場にあるといえ、現に45パーセントに及ぶ就業者が即給サービスを利用している

Xら就業者の同意があるとしても、それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足る合理的理由客観的に存在する場合に当たらず、Xの賃金から即給サービスの利用手数料を控除することは、労基法24条1項に違反する。
労基法24条1項は、賃金の全額払いを確保することができる労働者の権利・利益を保護するもの⇒これに違反することは、労働者の権利・利益を侵害するものとして、民法の不法行為における違法性を構成。
①ここでの労働者の権利・利益には、賃金が労働者の生活の基盤であることからすると、単に経済的利益だけでなく、人格的利益も含まれるとするのが相当。
②Yらは、賃金全額を支払っていないことを認識していた⇒Xの権利・利益を違法に侵害することについて、過失があった。
⇒Xの請求を1万円及びこれに対する遅延損害金の限度で認容。
  解説 最高裁H2.11.26:
労働者が相殺に同意していることだけでは足りず、
当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足る合理的理由が客観的に存在しなければならない。
⇒条件付きで労基法24条1項の賃金の全額払いの原則に反しない。 
  刑事p114
東京地裁H29.4.27  
  無線LANアクセスポイントへの接続に必要なWEP鍵は、電波法109条1項にいう「無線通信の秘密」に当たらないとされた事例
  事案 被告人は、フィッシングメールを利用して、企業が管理するインターネットバンキングのログインのパスワード等を不正に取得し、不正ログインやそれに引き続く不正送金を行ったという
不正アクセス法違反、電子計算機使用詐欺などの罪で起訴されたほか、
被告人方の向かいの家(V8)に設置された無線LANへのただ乗りが電波法違反の罪にあたるとして起訴。 
  争点 無線LANアクセスポイントへの接続に必要な「WEP鍵」をハッキングツールを用いて割り出し、それを利用して同アクセスポイントに接続することが、電波法109条1項にいう「無線局の取扱中に係る無線通信の秘密を・・・・窃用した」といえるか。 
  規定  電波法 第109条 
無線局の取扱中に係る無線通信の秘密を漏らし、又は窃用した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
  判断 電波法109条1項の「無線通信の秘密」とは、当該無線通信の存在及び内容が一般的に知られていないもので、一般に知られないことについて合理的な理由ないし必要性のあるものをいう。
①WEP鍵は、あくまで暗号文を解いて平文を知るための情報であり、その利用は平文を知るための手段・方法に過ぎない
②WEP鍵を計算によって求めるためには、必ずしも無線LANルータと端末機器との間で送受信されるパケットを取得する必要はなく、ARPリプライ攻撃によってパケットを発生させることでも足りる⇒WEPカギは通信内容の如何にかかわらず取得することができる

WEP鍵は、無線通信の内容として送受信されるものではなく、「無線通信の秘密」にあたる余地はない。
   刑事p130
東京家裁H29.7.14
  軽微な窃盗保護事件での第1種少年院送致の事案
  事案 たばこ1箱を万引きしたという軽微な窃盗保護事件において、保護処分歴のない19歳の女子少年を第1種少年院に送致。 
  決定 非行に至る経緯及び家庭裁判所継続歴からうかがわれる
少年の万引きへの抵抗感、規範意識の希薄さ、
少年緒生活歴について、母親の許容もあっての不登校、
中学1年からの喫煙、、万引きといった逸脱行動の出現
母親が処方された睡眠薬等の乱用にみられる少年の薬物依存傾向
就労経験の乏しさ 

知的能力の制約に起因する社会適応力及び生活意識の乏しさや深刻な無力感といった少年の資質上の問題

怠惰な生活を許容し、逸脱行動を助長してきた母子関係をよりどころにする保護環境上の問題

そうした問題の表れともいうべき少年の基本的生活習慣の欠如、
処理しきれないほどの負担を抱え込むことによる対人関係における依存性、逃避傾向
を指摘。
本件は少年が抱える問題の表れとみることができ、現状の生活が続いた場合の再非行危険性は高く、自己の問題に対処する能力及び保護環境を初めとする少年の改善更生に向けた社会的資源の不十分さ

社会内処遇によって少年の再非行を防止し、その改善更生を果たすことは極めて困難。

少年については保護処分歴はないものの、少年院に収容することが必要不可欠。
なお、少年緒保護環境に鑑み、社会復帰後の帰住先の確保に係る環境調整命令を発している。
  解説  ●少年にこれまで保護処分歴がないこと 
収容保護への謙抑的な傾向や段階的処遇が指摘される一方、
非行性が深化することのないよう適時適切な保護処分の必要性も指摘される。
少年保護手続が個々の少年の資質・環境・非行内容等を総合的に判断し、最適な処遇を個別に追求し、その健全育成を図ることを目的

事案の内容と要保護性の程度に即して健全な判断を個別的に下していくほかなく、初回係属でも少年院送致を選択することが必要な場合もある。
本決定:
少年の再非行危険性とその背景にある少年の社会適応力の乏しさ、生活意欲の乏しさ、深刻な無力感といった根深い少年の資質上の問題に加え、
少年の睡眠薬等への依存傾向の深刻さ、不適切な養育態度により怠惰な生活が許容され、逸脱行動が助長されるような母子関係をよりどころとする長期間にわたる保護環境の問題などからうかがわれる少年の要保護性の高さを重視
⇒収容処遇を選択。
  ●非行内容自体がたばこ1箱の万引きという軽微なものであること 

手続面における少年審判における審判対象は何か(実体面からみた場合の保護処分の要件)という問題に関連するとともに、処遇決定における非行事実の機能をどう捉えるかという問題。
A:少年の保護・教育に最適な処遇を目指す健全育成(少年法1条)のためには要保護性が審判対象で非行事実の存在は審判条件にすぎないとする人格重視説

〇B:非行事実も要保護性とともに審判対象であるとする非行事実重視説

少年審判の私法的機能や適正手続の理念を重視
  非行事実がに認定され、裁判所が少年を保護処分に付す必要がある判断した場合、いかなる保護処分を選択するかはその少年の要保護性に応じて決定。 
要保護性の意義:
①犯罪的危険性(少年の性格、環境に照らして将来再び非行に陥る危険性)
②矯正可能性(保護処分により犯罪的危険性を解消できる可能性)
③保護相当性(少年の処遇にとって保護処分が最も有効、適切な手段であること)
で構成されるとするのが通説・実務の立場。
  非行事実を重視する立場⇒非行事実の軽重と保護処分の間に一定の均衡が必要とされ、少年審判の司法的機能等を強調する立場⇒非行事実が保護処分の限界を画する。
vs.
非行事実との均衡を要求すると、場合によっては、少年の要保護性に対応しないがゆえにその改善教育には役立たない保護処分を課すことになり、それを避けようとすれば、少年に要保護性が認められるにもかかわらず不処分とせざるを得なくなる。 
非行事実については、
その動機・目的・経緯、常習性ないし同種非行歴、保護処分歴、保護環境が非行にもたらす影響などを総合的に考慮して非行事実の軽重を判断すべきであり、これらの事実を少年緒問題点を解明するための重要な事情と捉え、非常事実の結果は大きくなくとも軽微な非行とみるべきではない場合がある。
本件:
たばこ1箱の万引き
but
少年は中学1年のころから喫煙と万引きを行うようになり、
いずれも審判不開始ではあったものの3件の同種非行歴を有し、
本件万引きに至った経緯や前日にも同様の状況の下でたばこを万引き

少年の万引きへの抵抗感、規範意識は極めて希薄であり、
少年の資質上の問題と保護環境上の問題は根深く深刻

本件非行事実が軽微であるとはいえない。
2387   
  行政p3
東京地裁H30.3.14  
  障害者雇用枠の契約社員の障害等級が問題となった事案
  事案 障害者雇用枠の契約社員として就労しているXが、知的障害により、20歳に達した日に障害等級に該当する程度の障害の状態にあり、国年法(「法」)所定の障害基礎年金の支給要件を充足している⇒障害基礎年金の支給の裁定を請求⇒厚生労働大臣から、障害等級に該当する程度の障害の状況にあるとはいえないとして、障害基礎年金を支給しない旨の処分⇒同処分の取消しを求めた。 
規定 法30条の4第1項:
初診日において20歳未満であった者が障害認定日後の20歳に達した日又は20歳に達した日後の障害認定日(「基準日」)において障害等級に該当する程度の障がいの状態にあることを障害基礎年金の支給要件とする。
法30条2項は、障害等級を障害の程度に応じて重度のものから1級及び2級とした上で、各級の障害の状態は政令で定めるものとし、これを受けた国年法施行令は、障害等級の各級の障害の状況につき、別表を定め、その上で、厚生労働大臣による障害等級の認定の基準として、「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(「障害認定基準」)を定めている。
  争点 Xの基準日における障害の状態が障害等級2級に該当するのか、具体的には、障害認定基準において、知的障害に関し、障害等級2級に該当する障害の状態の例示として挙げられている「知的障害があり、食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため、日常生活にあたって援助が必要なもの」に相当するかが争われた。 
  判断  障害等級2級に該当するかは、特段の事情がない限り、障害認定基準を参酌して判断すべきで、知的障害に関しては、前記の例示又はこれと同等程度の障害の状態にあると認められるか否かで判断するのが相当。
その際には、障害認定基準自体が定めるとおり、知能指数のみに着目することなく、日常生活の様々な場面における援助の必要度を勘案して総合的に判断するべきであるし、
就労をしている者も援助や配慮の下で労働に従事していることが通常であることを踏まえ、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、
現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認した上で日常生活能力を判断すべき。
判断の資料となる精神障害に係る所定の診断書の記載を踏まえ、日常生活能力の判定に当たっては、対象者が単独で生活することを仮定して判断すべき。
  Xから提出されている医師の診断書における日常生活能力の判定の各項目(適切な食事、身辺の清潔保持、金銭管理と買い物、通院と服薬、他人との意思伝達及び対人関係、身辺の安全保持及び危機対応、社会性の7項目)及びその程度の記載の相当性について、
Xから提出されている病歴状況申立書や、Xの母や中学校時代の担任教師の供述等の他の資料も踏まえて検討し、
前記診断書は、Xの日常生活の能力の判定のうち、いくつかの項目においては日常生活能力をやや過少に評価しているきらいがないではないが、全体的な記載内容としてはおおむね相当であり、その内実に照らせば、原告の日常生活能力の程度について、診断上の所定の選択項目のうち「(4) 知的障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である。(たとえば、簡単な文字や数字は理解でき、保護的環境であれば単純作業は可能である。習慣化していることであれば言葉での指示を理解し、身辺生活についても部分的にできる程度)」を選択した前記診断書の判断は相当。
  民事p13
東京高裁H29.12.13  
  地面師詐欺事件で本人確認情報提供制度の資格者代理人たる司法書士の責任(肯定)
  事案 いわゆる地面師詐欺事件に伴って生じた、被害者X(土地の買主)から、土地所有者になりすました女性(真実の所有者ではないので土地の登記識別情報を有していない)について、不登法23条4項1号の資格者代理人として本人確認情報の提供をした司法書士Y2に対する損害賠償請求事件。 
地面師グループは、A社に無断で本件土地の売買契約を締結して買主から売却代金を騙取することを企て、A社の代表者B(女性)になりすました女性を用意。
地面師グループは、自称BにA社とY1との本件土地の売買契約を締結させ、形式的には本件土地売買契約の飼い主をY1からXに変更する形で、転売話が進んでいった。
Y2は、Y1及び自称B側が用意した司法書士。
自称Bは、本件土地の登記識別情報を持っていない⇒Y2を資格者代理人として、不登法23条4項1号の資格者代理人による本人確認情報提供制度を利用することとし、精巧に偽造されたB名義の印鑑登録証明書、運転免許証、健康保険証やA社の印鑑証明書を用意。
Y2はこれらの偽造文書の確認や自称Bへの人定質問を行い、自称BがB本人である旨の本人確認情報を提供。

Xは、Y1に2億円を支払って本件土地の所有権移転登記の抹消登記手続訴訟を提起。
but
Xは、A社から本件土地の所有権移転登記の抹消登記手続請求訴訟を提起され、敗訴判決が確定。

Xは、Y2に対して本件訴訟を提起し、Y2が不登法23条4項1号の資格者代理人として必要な自称Bに対する確認を怠った過失があるとして、損害賠償請求。
  一審 人証調べを実施せず、書証のみで審理、判決。 
B名義の印鑑登録証明書、運転免許証、健康保険証やA社の印鑑証明書は偽造されたものであったが、精巧に偽造されたもので、A社の印鑑証明書は登記申請の際に登記官も偽造が見抜けないほどであった⇒これらの証明書の確認により本人確認をしたY2の行為に過失があるとはいえない。
  判断 人証調べを実施し、審理、判決。
資格者代理人が本人確認情報を提供する場合において、原則として不登規則72条に規定された方法による本人確認(本件でY2が実行した方法による本人確認)を行わば足りる。
but
以来の経緯や業務遂行過程で入手した情報及び専門的知見に照らし、なりすまし等を疑うべき事情がある場合には、本人確認のための更なる調査を行うべき注意義務がある。
①自称BはA社が休眠会社であると発言したが、A社には本件土地からの駐車場賃料収入があるはずであるから休眠会社であるという自称Bの発言と矛盾
鹿児島県の小規模有限会社が時価1億円以上の更地を東京都内に所有していながら休眠会社であるということも不自然。
②自称Bは、Y1に送金された本件土地の売買代金の一部をY1からA社への本件土地の売買代金として送金させるに当たり、送金先の口座として、A社名義の口座ではなく、B個人名義のゆうちょ銀行口座を指定。
③自称Bは、前記②のB個人名義のゆうちょ銀行口座に、Y1から送金された売買代金が着金されたことを確認しないまんま、A社からXへの所有権移転登記申請手続に必要な書類をY2に預けた。


自称Bがなりすましであることを疑うべき事情があった。
  民事p22
広島高裁岡山支部H30.3.22  
  保険契約者の代表取締役が反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係⇒保険契約の解除(有効)
  事案 Xと保険会社Y1(生保)、Y2(損保)とは、生命保険契約・損害保険契約を締結。
本件各保険の約款には「重大事由による(保険契約の)解除」という表題が付された条項で、
本件契約者等が「その他反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有していると認められること」(密接交際者)に該当する場合、
保険者が保険契約を解除することができる旨の暴力団排除条項(反社会的勢力排除条項)が規定。 
Z県は、Xにつき「暴力団又は暴力団関係者と社会的に非難されるべき関係を有していると認められた」として、県の建設工事等入札参加資格者に係る指名停止等要領に基づき、1年間入札指名業者から排除する旨の措置(本件排除措置)

Yらは、本件排除条項に基づき、本件各保険契約を解除

Xは解除の無効を主張して、Yらに対し、本件各保険契約に基づき、Xが保険契約者としての地位を有することの確認を求めた。
  判断 本件暴排条項の趣旨
⇒本件暴排条項は、「保険金の詐取のような場合とは異なり、公共の信頼や業務の適法性及び信頼性の観点から、外形的な基準によって、これらを害する恐れがある類型の者を保険契約者から排除しようとしたもの」
本件暴排条項の「社会的に非難されるべき関係」とは、
①(被保険者等自身が)反社会的勢力に該当すると認められること
②反社会的勢力に対して資金等を提供し、又は便宜を供するなどの
関与をしていると認められること
③反社会的勢力を不当に利用していると認められること
のいずれかに準じるものであって、
反社会的勢力jを社会から排除していくことの妨げになる、
反社会的勢力の不当な活動に積極的に協力するもの、
反社会的勢力の不当な活動を積極的に支援するもの、
反社会的勢力との関係を積極的に誇示するもの
等をいい、適用すべき場合の限界を画されている。
P1が、暴力団関係者に対し顔を立てさせることによって傷害事件の被害者に被害申告しないことを約束させ、暴力団関係者からの害悪を告知して未払の工事代金の回収を断念させたなどの事実関係

保険契約の解除事由たる「反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有している」の適用による保険契約の解除は有効。
  解説 暴排条項が保険法上の重大事由解除として位置づけられるのかそれとは異なる独自の約定解除として位置づけられるのか? 
but
本件では、X・Yらとも、本件暴排条項が保険法上の重大事由解除として位置づけられることを前提として主張⇒本件暴排条項の保険法上の位置づけは争点にはならなかった。
その解除事由(反社会的勢力等の属性又は反社会的勢力との一定の関係性)に関して、信頼関係破壊の要件を充足するか?

A:反社会的勢力等の属性は、それ自体が保険法の重大事由解除の要件たる信頼関係破壊を基礎付ける⇒「全面的有効説」
B:道徳的危険に直接関連しない事情は信頼関係破壊の評価根拠事実として考慮することはできないとし、その上で、反社会的勢力のうち道徳的危険を招来する高度の蓋然性がある者との関係においては暴排条項を有効とする「限定的有効説」
C:重大事由解除と暴排条項とは本来異なる性質のもの⇒保険契約者等が反社会的勢力という属性を有し、又は、反社会的勢力との関係性を有することが直ちに保険者の信頼を損なうと評価するのではなく、なお慎重に検討すべきとする「慎重説」
  民事p31
仙台高裁H30.4.26  
  東北地方太平洋沖地震後の津波による児童の死亡と小学校の校長らや教育委員会の安全配慮義務違反(肯定)
  事案 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震後の津波により、石巻市立大川小学校に在学していた児童74名及び教職員10名が死亡
⇒死亡した児童のうち23名の父母である第一審原告らが、第一審被告石巻市の公務員であり、第一審被告宮城県がその給与等を負担していた同小学校の教員等に児童の死亡について過失があるなどと主張⇒第一審被告らに対し、国賠法1条、3条等に基づき、総額約22億円余の損害賠償を請求。 
  判断 ①宮城県防災会議は、2004年、同県沖で30年以内にマグニチュード8の地震が極めて高い確率で発生すると報告⇒市教委は、遅くとも2008年度から、すべての学校で地域の事情に即した災害対応マニュアルの策定や見直しに取り組むよう施策を進め、2010年4月30日までにマニュアルの作成、改訂を終えるよう義務づけた。
②同時点で前記マニュアル作成・改訂義務の内容は規範性を帯び、大川小の校長や教頭、教務主任は、地震で発生する津波の危険から、児童の生命、身体の安全を確保すべき義務を負っていた。 
前記安全確保義務を果たすために、校長や教頭、教務主任に求められる知識や経験は、大川小がある地域住民の平均レベルより、はるかに高いものが必要。
①前記防災会議の報告は有力な科学的知見。
②地震に伴う地盤沈下や津波による堤防の破壊で、約200メートルの距離を隔てて隣り合っている北上川が大川小を浸水させる危険があることを示唆する知見などを総合して詳細に検討

前記防災会議の報告で大川小が津波浸水域予測に含まれていなかったとしても、大川小が津波被害を受ける危険性があったというべきで、校長らはそのことを十分予見可能であった。
市教委は、大川小に対し、危険発生時に教職員がとるべき措置の具体的内容や手順を定めた危機管理マニュアルを作成するように指導し、それが地域の実情等を踏まえた内容となっているかを確認し、不備があれば是正を指示する義務があった。
but
校長は、市教委に提出した前記マニュアル内で、避難場所として「近隣の空き地・公園等」と記載するだけで、避難経路や避難方法は何ら記載しておらず、義務を怠ったと認めるのが相当。
市教委も、内容を確認せず、是正させる指導をしなかった。
適切な避難場所等の記載があれば、今回の津波による被害は回避できた。
  解説 学校事故における安全確保義務のほとんどは、教師個人の問題とされている。
but
教育活動に伴って生ずる危険から、生徒の生命・身体の安全を確保する義務は、直接、教育活動を指導する教師個人にあるが、それよりも第一次的には、教育組織としての学校自体にある。
⇒学校という組織の管理上の過失を問題としていくことが先決。 
  民事p108
東京地裁H30.1.31  
  仮装通貨ビットコインの交換取引所を運営していた会社が破産⇒利用者がビットコインの返還請求権として届け出た破産債権の金額が争われた事案
  事案 仮装通貨ビットコインの交換取引所を運営していたAの破産手続において、本件取引所の利用者XとAの破産管財人Yとの間で、Xがビットコインの返還請求権として有する破産債権の金額が争われた事案。 
Xは、本件破産事件において、ビットコイン35000BTCの返還請求権を有する⇒これを日本円に換算した金額と遅延損害金の合計約17億7277万円を破産債権として届け出⇒Yは、債権調査期日において、Xが保有するビットコインの残高は約0.05BTCにすぎないとして、届出債権のうち2564円及びこれに対する遅延損害金30円のみを認め、その余の届出金額を認めなかった。
Xは破産裁判所に債権査定の申立⇒管財人と同じ決定⇒破産債権査定異議の訴え(破産法126条1項)を提起。
  判断 Yは、Aが保有していた、本件取引所の利用者のアカウント情報が記録されたデータベースを届け出破産債権と照合し、当該データベースに記録されたビットコイン残高に従って届出破産債権の認否。
~信用性を肯定。 
X:Aの代表者によって本件取引所からビットコインの不正な引出しが行われてビットコインが喪失した旨の主張。
仮にXが主張するうような事実があったとしても、その場合には既にビットコインは他に移転して、同時にコイン債権(ビットコインにつき通貨類似の取扱いをすることを求める債権)も他に移転したことにんる⇒破産手続開始時においてXはAに対しコイン債権を有しなかったことになる⇒Xの主張を退けた。
  解説 仮装通貨については、資金決済法の平成28年改正によって規定が設けられ、
物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」 と定義。(同法2条5項)
but
その私法上の性質についてはなお不明な点が多い。
民法上、所有権の対象は有体物に限定されており(民法85条)、無体物にすぎない仮装通貨は所有権の対象にならない。
仮装通貨には発行者が存在しないものが多い⇒特定の者に対する債権と構成することも困難。
仮装通貨の私法上の性質
A:物権ないし準物権と同様の構造をもつ
B:排他的な帰属関係が認められる財産的利益を包摂する概念である「財産権」に含まれる
C:仮装通貨やその取引はネットワーク参加者によって「合意」された存在として捉えれば足り、あえて明確な性質決定をする必要はない
本件:
ビットコインの返還請求権を破産債権と扱うことを前提としたうえで(破産法103条2項1号イ)、その金額が争われた。
本判決は、「コイン債権」という新たな概念を立て、ビットコインが移転したときはこのコイン債権も一緒に移転するとした。

金銭において所有と占有が一致するとされていることとのアナロジーによったもの。
通常の金銭であれば、預り金を不正に流出させた場合であっても受寄者は寄託者に対する返還請求を免れないが、本判決によれば、ビットコインについてはこれとは異なる扱いをされることになる。
  民事p112
広島地裁H30.4.24  
  警察署に保管中の押収物である現金が盗難被害⇒被押収者による請求(否定)
  事案 自ら及びその関係先から現金を押収されたXが、警察署内に保管されていた押収物である同現金が何者かに窃取される盗難被害に遭い、これに司法警察職員の過失があり、占有権又は押収物還付請求権を侵害されたと主張

同警察署を設置運営するY(広島県)に対し、国賠法1条1項に基づき、損害賠償請求。 
Yの主張:
①Xは押収物について占有権を有しない
②Xの押収物還付請求権はいまだ発生していない
  判断 占有権侵害の点:
押収物については被押収者による占有が継続しているものではない⇒Xの占有権が侵害されたとはいえない。
(仮に、被押収者の間接占有が認められるとしても、損害の発生が認められない。)
還付請求権侵害の点:
押収物の盗難によってもこれが発見される可能性がないとはいえない⇒Xの還付請求権の行使が不能になったとまでは認められない。
押収物の留置の必要性が失われたものではない⇒Xの還付請求権はいまだ発生していない。
  解説  ●占有権について: 
捜査機関のする押収により被押収者がその占有を失うか?
A:公法占有説(公権力による占有の取得によっては私法上の占有は何らの影響を受けない)⇒被押収者の押収物に対する占有は間接占有として持続。
vs.
①私法的にみた場合に公権力による占有と従前の占有との関係がどうなるかが問題であり、これらの占有が民法上の占有の要件を備えていれば、民法上の占有として取り扱うべきであって、公権力による占有が民法上の占有権の得喪に全く無関係であるとすることには理論的な難点がある。
②刑事手続上の押収は、証拠物のほか没収すべき物についてもなされるもので、被押収者の間接占有という観念に親しまない
B:押収後に被押収者の占有を否定
  ●還付請求権について: 
捜査機関による押収物で留置の必要がないものは、被告事件の終結を待たないで、決定でこれを還付しなければならない(刑訴法222条1項、123条1項)。
その還付は、被押収者が還付請求権を放棄するなどして原状を回復する必要がない場合又は被押収者に還付することができない場合のほかは、被押収者に対してすべき(最高裁H2.4.20)。
いつまでも(還付請求権が)不能にならないというものではなく、社会通念等に照らして発見が不可能な事態に至ったと認められる場合には、不能といことも考えられる。
本判決:現時点(口頭弁論終結日)においては、いまだ発見が不可能な事態に至っていないと判断。
公判手続が終了するなどして留置の必要性がないとされ、かつ、原告に直ちに還付されるべき状況にあるといえる場合
⇒原告の還付請求権が観念でき、権利侵害が認められると解する余地もあろう。 
  民事p115
大津地裁H30.2.27 
● 
  監査請求人の氏名、住所、職業等が記載された名簿の写しを市議会議員の全員協議会の出席者に配布⇒プライバシー侵害の違法行為(肯定)
  事案 Y市議会議員全員から成る全員協議会が、前議員及びP市長の出席の下、開催された。
3名の議員が、A監査委員事務局長に対し、監査請求人の名簿の開示を求めた⇒A事務局長は、P市長の指示の下、監査請求書の当事者目録(本件名簿)の写しを本件全員協議会に出席していた議員らに配布(本件開示行為) 
Xらは、本件開示行為がプライバシー権を侵害する違法行為であるとして、国賠法1条1項に基づき、Y市に対し、1人につき12万円の支払を求めて本件訴訟を提起。
  Y市 ①本件名簿の情報はインターネット上で公開され、周知のもの⇒プライバシー情報に当たらない
②監査結果は公表が予定されており、住民訴訟が提起されてれば本件名簿の情報は公開される⇒推定的同意がある
③Y市議会議員において、本件監査請求の適法性、従前の監査請求との関係を確認し、住民訴訟となった場合の対応を検討するために誰が監査請求人であったかを知る必要があり、配布の態様も目的に適った相当なもの⇒本件開示行為はプライバシーを違法に侵害する行為ではなかった 
違法性阻却事由として、全員協議会における情報提供要求は地自法98条所定の検査権の行使と同視できるとも主張。
  判断 本件名簿に記載された情報は、秘匿性の高いものではない
but
自己の欲しない他者にみだりにこれを開示されたくないという期待は保護されるべき
⇒プライバシーに係る情報として法的保護の対象になる。
①インターネット上にXらが監査請求人であることやその住所、印影などは公開されておらず、本件名簿記載の情報の全てが周知となっていない
②Y市における監査結果の従前の公表の在り方を踏まえると、Xらが事前に市議会議員全員に本件名簿が開示されることまで同意していたと推定できない、
③誰が監査請求したかを議員が知る必要のある場合が想定されず、本件名簿の開示により、どのような具体的な対応に結び付いたのかも一切明らかにされていない⇒開示の必要性は存在しなかった

本件開示行為はXらのプライバシーを違法に侵害するものであると判断。
Y市に対し、Xら1人につき6000円の支払を命じた。
検査権の行使による違法性阻却の主張については、地自法所定の手続きを経ていないとして排斥。
  解説 個人を識別する住所、氏名等のように秘匿性が高いとはいえない単純な情報であっても、プライバシーに係る情報として法的保護の対象となることは、平成15年判決及び平成29年判決において確認されている。
プライバシー情報は周知のものでないことが前提⇒本件でも、Yが、Xらのインターネットでの活動を捉え、この点を争った。
but
本判決:インターネットで一定の個人情報が公表されているだけでは周知のものとはいえないとした。
  杉原最高裁H15解説:
相関関係説を前提に、プライバシー侵害が違法となるか否かは、
①それについての定型的な推定的同意が認められるか否か、
②受忍限度の範囲内といえるか否か、
③公益が優先される場合か否か
などといった観点を踏まえ当該情報の内容や開示の態様を総合考慮して判断。
違法性阻却事由として、被害者の承諾、正当業務等を挙げる。
  知財p121
東京地裁H30.3.29  
  販売用の写真素材と著作権
  事案 写真等のコンテンツの販売、撮影業務等を目的とするXが、
YにおいてXの販売する写真素材(「本件写真素材」)をXに無断で参照して描き、自らの作品に使用して販売した行為が、Xの本件写真素材に係る著作権(複製権、本案権及び譲渡権)を侵害
⇒Yに対して、不法行為に基づき、損害賠償金の支払を求めた事案。
  争点 ①本件写真素材の著作物性
②本件写真素材に係る著作権(複製権、翻案権及び譲渡権)侵害の成否 
  判断 ●本件写真素材の著作物性(争点①)
  写真は被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係(順光、逆光、斜光等)、陰影の付け方、色彩の配合、部分の強調・省略、背景等の諸要素を総合してなる1つの表現であり、そこに撮影者等の個性が何らかの形で表れていれば創作性が認められ、著作物に当たるというべきである。
本件写真素材は、被写体の配置や構図、被写体と光線の関係、色彩の配合、被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現において撮影者の個性が表れているものといえる⇒本件写真素材は総合的表現を全体としてみれば創作性が認められる⇒著作物性を肯定。
  ●本件写真素材に係る著作権侵害の成否(争点②) 
争点①で判示した本件写真素材の創作性⇒本件写真素材の表現上の本質的特徴は、被写体の配置や構図、被写体と光線の関係、色彩の配合、被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現に認められる。
本件写真素材と本件イラストを比較対照

両者が共通するのは、右手にコーヒーカップを持って口元付近に保持している被写体の男性の、右手及びコーヒーカップを含む頭部から胸部までの輪郭の部分のみであり、
他方、本件イラストと本件写真素材の相違点としては、
①本件イラストでは、本件写真素材における被写体と光線の関係は表現されておらず、かえって、本件写真素材にはない薄い白い線が加入されていること、
②本件イラストでは、本件写真素材における色彩の配合は表現されていないこと、
③本件イラストでは、本件写真素材における被写体と背景のコントラストは表現されていないこと、
④本件イラストでは、本件写真素材における被写体の頭髪の流れやそこへの光の当たり具合、被写体の鼻や口は再現されておらず、さらに、本件イラストでは本件写真素材における被写体のシャツの柄も異なっていること等

本件イラストは、本件写真素材の総合的表現全体における表現上の本質的特徴(被写体と光線の関係、色彩の配合、被写体と背景のコントラスト等)を備えているとはいえず、本件写真素材の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものとはいえない
⇒複製権及び翻案権等の侵害を否定。
  解説  写真の著作物性:
撮影者による撮影の工夫に撮影者の個性が表現されていることが創作性を基礎付けるものとされている。
さらに、被写体の選択や組合せ、配置等を考慮要素に含めるか?
A:肯定説
B:否定説
C:折衷説:被写体に関する工夫も写真の著作物性の根拠になるものと解しつつ、被写体自体が完結した独立の表現物を構成するものと評価し得る場合には、被写体はもはや写真の著作物の構成要素ではなく、写真の著作物とは別個の著作物として保護されるべきであるとするもの。
  翻案の意義:
最高裁:翻案の意義について、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更を加えて、新たに思想または感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為。
判断方法:
①原告作品と被告作品の同一性を有する部分を抽出し、それが思想または感情の創作的な表現に当たるか否かを判断する濾過テストと呼ばれる手法
②原告作品の著作物性を認識してから、被告作品における複製・翻案を判断する二段階テスト
  商事p129
最高裁H29.12.19  
  吸収分割による地位の承継で賃借人の地位の変更による違約金債務を免れることは信義則に反するとされた事案
  事案 Y:土木建築請負業を主たる事業とし、資本金は5000万円、平成27年6月30日現在の純資産額は約8億5000万円。 
XとYは、平成24年5月、Xが老人ホーム用の建物(「本件建物」)を建築し、YがXから賃借する旨の本件賃貸借契約(期間20年、賃料月額499万円)を締結。
20年契約が継続することを前提にXが投資

中途解約禁止
Yが契約当事者を実質的に変更した場合にはXは本件賃貸借契約を解除することができる旨の条項(「本件解除条項」)
及び
本件解除条項による解除の場合には、YはXに対し15年分の賃料から支払済みの賃料額を控除した金額を違約金として支払う旨の条項(「本件違約金条項」)
が付されていた。
平成28年5月17日にYが資本金100万円全額を出資することによってAが設立。
同月26日、YとAとの間で、効力発生日を同年7月1日として、本件事業に関する権利義務等のほか1900万円の預金債権がYからAに吸収分割(「本件吸収分割」)により移転、
Yは本件事業に関する権利義務等についての本件吸収分割後は責任を負わないものとする旨の契約が締結。
Yは、同年5月27日、債権者が翌日から1か月以内に異議を述べることができる旨を公告⇒異議を述べた債権者はいなかった。
Xは、平成28年12月9日、Y及びあに対し、Yが本件賃貸借契約の契約当事者を実質的に変更したことを理由に、本件解除条項に基づき、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
本件:Xが、Yが本件吸収分割によって賃借人の地位を移転したことを理由に本件賃貸借契約を解除した上で、Yに対して、本件違約金条項に基づく違約金債権(「本件違約金債権」)を請求債権として、Yの第三債務者に対する請負代金債権に仮差押命令の申立てをした事案。
Y:本件吸収分割がされたことを理由に、本件違約金債権に係る債務(「本件違約金債務」)の責めを負わないと主張。
  原決定 本件解除条項及び本件違約金条項を認識しながら本件吸収分割を行ったYが本件違約金債務を免れるとすると、Xは、純資産約8億5000万円を有するYではなく純資産100万円を有するにすぎないAから本件違約金債権を回収しなければならず著しく不合理⇒Xの申立てを認容 
    Yから抗告許可の申立て⇒許可
  解説・判断  会社分割:
会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、
吸収分割の場合は分割後承継会社に、
新設分割の場合は分割によって設立する設立会社に
承継される行為(会社法2条29号、30号参照)。 

債権者の同意なく、契約上の地位等を承継会社又は設立会社に移転することができる⇒企業再編のための有用な制度。
but
会社分割契約の内容いかんによって、分割会社の一部の債権者の債権の引当財産を恣意的に減少させるように利用されるおそれ。
優良な資産や事業を分割会社から移転し、残存する分割会社の債権者を害する会社分割の事案に関して、
最高裁H24.10.12は分割会社に残存する債権者が新設分割について詐害行為取消権を行使することを認めた。

平成26年法律第90号による会社法改正において、残存債権者保護規定(会社法759条4項等)が設けられた。
  本件のように、不採算事業を分割会社から移転する会社分割の事案において、会社分割後に分割会社に対して自らの債務の履行を請求することができない債権者は、会社分割の効力発生前の定められた期間内に異議を述べれば、分割会社から相当の担保が提供される(会社法789条)などの保護。 
  判断 本決定:
本件違約金債務の請求を受ける地位を含む本件賃貸借契約上の権利義務が、本件吸収分割によって、YからAに承継されるとの前提。
その上で、
①本件違約金条項は、Xが賃借人の変更による不利益を回避することを意図して設けられたものであり、YもXの前記意図を理解して本件賃貸借契約を締結した。
②Aは、本件吸収分割前の資本金が100万円で、本件吸収分割によっても本件違約金債務を大幅に下回る額の資産しかYから承継しておらず、支払能力を欠くことが明らか。
③Xの本件違約金債権は本件解除条項に基づいて解除の意思表示をすることによって発生するものであって、本件吸収分割に対して会社法789条による異議を述べることができたとはいえない。

本件吸収分割後は責任を負わないとするYの主張は信義則に反し、Yは本件吸収分割後も本件違約金債務を負う。 
  ①⇒Xの信頼を害することが著しい⇒信義則違反であるとの判断にあたっての事情の1つとして考慮。
会社分割に備えた契約の条項の工夫?
②について:
吸収分割前の承継会社の資力や吸収分割によって分割会社から承継会社に移転された資産の額などを考慮した結果、承継に係る債権の債権者が吸収分割によって著しい不利益を受けるとまではいえない場合、
例えば、承継会社において前記債権に対して引当となる資産の割合が、仮に前記債権を吸収分割の効力発生前に分割会社に請求した場合に分割会社における引当となる資産の割合を下回ることのない場合には、分割会社の吸収分割後責任を負わない旨の主張が信義則に反するとまではいえない?
③について:
①将来発生する本件違約金債権のような内容の債権に基づき異議申立てが可能かについては疑問もあるところ。
②本件違約金債権は、本件吸収分割が効力を生じて本件賃貸借契約の賃借人の地位がYからAに移転した後に、Xが本件解除条項に基づき解除の意思表示をすることによって発生するところ、本件賃貸借契約の契約内容等に照らしてXが解除を即断し得たか疑問もある。

Xが本件吸収分割の効力発生前の異議を述べることができる期間(会社法789条2項4号)には異議を述べることができなかったとした。
  刑事p133
東京地裁H29.5.30  
  捜査の違法により覚せい剤及び尿に関する証拠の証拠能力が否定された事案
  事案 侵入窃盗及び車両窃盗、覚せい剤使用及び所持の各事案に係る窃盗、建造物侵入、覚せい剤取締法違反被告事件。 
覚せい剤取締法違反の各事実につき、GPS捜査(被告人使用車両と窃盗共犯者の使用車両に、被告人らの承諾なく密かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する捜査)及び警察官によるけん銃使用とこれに引き続いてなされた覚せい剤及び尿の押収手続には、令状主義の精神を没却する重大な違法があり、それと密接に関連する覚せい剤及び尿に関する証拠を許容することは、将来における違法捜査抑制の見地から相当でない⇒証拠能力を否定し無罪。
  争点 ①無令状による本件GPS捜査の違法性
②本件GPS捜査の違法性の程度と覚せい剤や尿の鑑定書等の証拠収集手続との関連性の程度
③警察官によるけん銃使用とこれに引き続く覚せい剤の押収手続の違法の有無と程度 
  判断 ●争点①
  最高裁大法廷H29.3.15:
GPS捜査が、個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に密かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であり、令状がなければ行うことができない強制の処分である旨判示。
本判決:無令状により行われた本件GPS捜査が、強制処分法定主義(刑訴法197条1項但書)に違反し違法であると判示。
  ●争点②
本件GPS捜査の実施期間や規模、位置情報の精度、警察内部の運用要領や実施態様
⇒被告人や共犯者らを含む個人のプライバシーの侵害の程度が大きかった。

①本件GPS捜査の目的は、被告人に対する窃盗被疑事件について逮捕状の発付を受けた後は、被告人の所在確認を身柄確保にあり、かつ、GPS捜査の期間を通じて現行犯人逮捕等の令状を要しない処分と同視すべき事情ははなかったこと
②警察組織全体で保秘の徹底を図って司法審査を困難にし、違法捜査の問題が生じ得ることを把握した後の公判中にGPS捜査に関する捜査メモを廃棄したこと
などの警察官らの態度

本件GPS捜査の違法の程度は、令状主義の精神を潜脱し、没却する重大なもの。
本件GPS捜査と証拠との関連性:
①警察の捜査方針(窃盗被疑事件の逮捕状を執行するのではなく、違法薬物の任意提出を受けて違法薬物所持の被疑事実で現行犯人逮捕する方針)⇒本件GPS捜査の目的が覚せい剤所持の捜査目的を兼ね備えていた。
②実際に本件GPS捜査の結果を直接的に利用して収集されたものであり、密接な関連性を有する。
③覚せい剤押収から4時間後の尿に関する証拠も、覚せい剤使用の事実での令状の請求や令状発布などの司法審査が一切されていない⇒違法状態を直接的に利用したものであり違法性を帯びる。

本件GPS捜査及び及びこれに引き続いて行われた覚せい剤及び尿の押収手続には、令状主義の精神を没却する重大な違法がある。
  ●争点③ 
被告人について既に窃盗の逮捕状が発付され、また、未成年者略取の容疑があった⇒警察官らがけん銃を携帯したこと自体は必要かつ相当。
but
①それ以上に、釣り竿以外には何も所持せず、抵抗や逃走の気配もない被告人にいきなり銃口を向けて構えて「動くと撃つぞ。」などと複数回警告した警察官の行為は、犯人逮捕等のために例外的に武器の使用を認めた警職法7条本文に違反し、違法。
②その後も被告人に銃口を向けて所持品の提出を求め、徹底的に行った所持品検査や身体検査は、任意捜査の限界を超えた明らかな違法捜査。
③けん銃使用から約20分後になされた覚せい剤の押収手続は、その経緯や時間的な接着の程度から、違法なけん銃使用とこれに引き続く違法な身体検査、所持品検査を直接利用してなされたもので違法性の程度は高い。
④警察官らがけん銃の使用について明らかな虚偽証言をして違法行為を隠ぺいしている。

けん銃使用に引き続く覚せい剤の押収手続には、令状主義の精神を潜脱し、没却するような重大な違法がある。
  解説 無令状のGPS捜査は違法

残された問題は、
①GPS捜査の違法が刑事手続に及ぼす影響の有無や程度、
②GPS捜査により得られtら証拠の証拠能力 
本判決:
GPS捜査のみならず、けん銃使用とこれに引き続く違法な身体検査、所持品検査という2つの違法が重畳的に存在。
but
違法が重畳的に存在した結果重大な違法があるとしたのではなく、いずれの違法も独立して重大であり、それぞれに密接に関連する証拠を排除相当として証拠能力を否定。
最高裁昭和53.9.7:
①証拠の収集手続に令状主義の精神を没却するよな重大な違法があること(違法の重大性)と、
②手続の違法に密接に関連する証拠を許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地から相当でないこと(排除相当性)
の2つの要件により証拠能力を判断する相対的証拠排除の立場を採用し、その後の最高裁判例においても踏襲されてきた。 
最高裁H15.2.14:
違法の重大性と排除相当性のいずれの要件をも充足する証拠につき、最高裁として初めて違法収集証拠排除の判断を示すとともに、
違法な手続と密接に関連する第一次証拠に基づいて獲得された派生証拠については、関連性が密接でなく違法の重大性の要件が欠けるとしてその証拠能力を肯定。
本判決:
GPS捜査と押収された覚せい剤及び尿との間にはいずれも密接関連性があり、また、
けん銃使用とこれに引き続く所持品検査、身体検査によって押収された覚せい剤との間に密接関連性がある
として、いずれの違法も重大で排除相当であるとし、証拠能力を否定。
平成29年大法廷判決後に無令状のGPS捜査が実施されたとすれば、捜査機関の令状軽視の態度が著しいことは容易に認定されよう。 
警察庁:
「検証として行うものも含め、移動追跡装置を用いての車両の位置情報を取得する捜査を控えるよう指示する」旨通知。
2386   
  行政p3
津地裁H30.3.22  
  第二次納税義務が問題となった事案
  事案 処分行政庁が原告に対して行った、Aの滞納にかかる市県民税につき、原告を第二次納税義務者とする告知処分の適法性が争われた事案。 
  Aは、甲及び乙において代表社員として登記されている者であり、原告は、甲の業務執行社員として登記されている者。
(原告は、Aとの関係で、地方税法11条の8に規定する特殊な関係にある個人であることは当事者間において争いがない。) 
①乙が、原告に対し、原告の居住する建物の持分3分の2を譲渡したとの登記
⇒処分行政庁は、法人格否認の法理によりAによる行為と同視でき、かつ実際には無償で行われたものと認め
②甲又はAが、原告に対し、平成25年1月1日から平成26年12月31日までの間、月額10万円(合計240万円)を支払ったことにつき、処分行政庁はAが無償で支給していたものと認め
原告に対し、Aの滞納にかかる市県民税につき、原告を第二次納付義務者として、本件処分を行なった。
原告は、本件訴え提起に先立ち、前記市県民税を完納した上で、
①につき、乙は法人格の実体がある⇒法人格否認の法理の適用はなく、
また、本件譲渡は無償ではない。
第二次納税義務の前提として法人格否認の法理を適用する場合はやむを得ない場合に限定すべきであるが、本件では、やむを得ない事情はない。
②につき、甲から業務執行社員の報酬として支払われたものである
と主張して争った。
  争点 ①訴えの利益の有無
②本件処分の適法性(とりわけ、法人格否認の法理の適用の可否) 
  判断 ●訴えの利益について 
行政処分の取消判決が確定したときは、その形成力によって当該処分は遡及的に失効することに帰する⇒これにより公法上又は私法上の原状回復請求権の行使が可能となる場合にはなお訴えの利益を肯定することができる。
本件処分に係る取消判決が確定すれば、当該処分は遡及的に執行することとなり、原告が納付した市県民税について、被告が保持すべき法律上の原因がないこととなる⇒納付に相当する金額について、不当利得返還請求義務が肯定されることになる⇒訴えの利益を肯定。
  ①乙の本店所在地には事務所としての実体がないこと、
②Aは、乙を関連会社の経理の操作や顧問先の脱税の道具として利用していた
⇒法人格の濫用に当たるとして法人格を否認
第二次納税義務の前提として法人格否認の法理を適用する場合にはやむを得ない場合に限定すべきである旨の主張は、同制度の趣旨に照らして採用できない。
  解説 ●処分の執行と訴えの利益 
行訴法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
行政処分が執行によりその目的を達成する場合、処分の執行完了により、以後の処分をされることはなくなる⇒訴えの利益が消滅することが多い。
but
処分を取り消すことによって法的に原状回復義務が生じると解されるときは、訴えの利益は消滅しないと解される。
地方税法は、過誤納金の還付に関する規定を置く。(地方税法17条)
  ●課税処分と法人格否認の法理 
税法上、実質所得者課税の原則により、法人格否認の法理を用いずとも、課税することが可能な事例が多い。
  民事p9
最高裁H29.10.10  

  債権差押命令の申立てにおいて、申立日の翌日以降の遅延損害金が取り立てた金員の充当の対象となるか
  事案 税理士である債権者Xが、債務者Yに対して有する報酬等の元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払請求権を表示した債務名義による強制執行として、債権差押命令の申立てをした事案。 
本件債務名義による強制執行として既に発せられた債権差押命令(「前件差押命令」)に基づく差押債権の取立てに係る金員(「本件取立金」)が、前件差押命令の申立書に請求債権として記載されていなかった申立日の翌日以降の遅延損害金にも充当されるか否かが争われた。
  事実 Xは、平成28年1月12日、東京地裁に、Yを債務者、荒川区を第三債務者とし、債権差押命令の申立てをし、同月20日、差押命令が発せられた。
①請求債権
②差押債権 
本件債務名義は、元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を内容とするもの。
but
東京地裁では、第三債務者が遅延損害金の額を計算する負担を負うことのないように、債権差押命令の申立書には、請求債権中の遅延損害金につき、申立日までの確定金額を記載させる取扱い(「本件取扱い」)⇒請求債権中の遅延損害金を前記申立日までの確定金額とした。
Xは、平成28年2月22日から同年3月1日までの間に、荒川区から、前記差押命令に基づく差押債権の取立てとして4回にわたり、請求債権に相当する額の支払を受けた。
Xは、平成28年4月11日、原々審に対し、Yを債権者、荒川区を第三債務者とし、債権差押命令の申立て。
①請求債権:本件債務名義に表示された債権のうち、本件取立金が前件申立日の翌日から前記各支払日までの遅延損害金にも充当されたものとして計算された残元金、最終支払日の翌日以降の遅延損害金及び執行費用。
  原審 Xが本件取扱いに従って前件差押命令の申立書に請求債権として元金、前件申立日までの遅延損害金及び執行費用の各確定金額を記載
⇒前件申立日の翌日以降の遅延損害金は本件取立金の充当の対象とはならないものと解すべき⇒本件取立金が前件申立日の翌日以降の遅延損害金にも充当されたものとする本件申立ては許されない⇒本件申立てを却下すべき。
    Xが抗告許可の申立て⇒原審が抗告を許可
  判断 債権差押命令の申立書に請求債権中の遅延損害金につき申立日までの確定金額を記載させる執行裁判所の取扱いに従って債権差押命令に基づく差押債権の取立として第三債務者から金員の支払を受けた場合、申立日の翌日以降の遅延損害金も前記金員充当の対象となる。

原決定を破棄し、本件申立てを却下した原々決定を取り消した上、本件を原々審に差し戻した。
  解説  ●  本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者は、債務名義に表示された元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を受けるため、取立金が取立日までの遅延損害金に充当されたものとして計算した残元金等を請求債権として再度の申立てをすることができるのか、それとも、申立ての際に本件取扱いに従った以上、債務名義に表示された債権の一部執行を申し立てたものとして請求債権の表示(民執規則133条1項、21条2号、4号)による制約を受けることになり、請求債権全額相当を取り立てた場合には取立金が申立日の翌日以降の遅延損害金に充当されず、元金が消滅し、残元金等を請求債権とする再度の申立てをすることは許されないのか?
  配当手続の場面における関連判例:
最高裁H21.7.14:
本件取扱いに従って申立てをした債権者が、配当額の計算の基礎となる債権額に申立日の翌日から配当期日までの遅延損害金の額を加えて計算された額の配当を受けることができるか

本件取扱いは、法令上の根拠に基づくものではないが、第三債務者に請求権中の遅延損害金の額を計算する負担を負わせないための配慮として合理性を有している。
本件取扱いに従った債権者は、第三債務者の負担への配慮をする限度で本件取扱いを受け入れたものであり、もはや前記配慮を要しない配当手続の場面では、特段の事情のない限り、債務名義に基づいて、肺と行き実までの遅延損害金の額を配当額の計算の基礎となる債権額に加えて計算された金額の配当を求める意思を有するとの意思解釈。
⇒債権者は前記金額の配当を受けることができる。
本決定:
取立金の充当の場面においても、もはや第三債務者への配慮を要しない
⇒前記最高裁H21.7.14が示すところの本件取扱いに従った債権者の通常の意思解釈⇒債権者債務名義に基づいて取立金が充当されるとの合理的期待を有している⇒申立日の翌日以降の遅延損害金も取立金の充当の対象となると判断。
  規定 民執規則 第133条(差押命令の申立書の記載事項)
債権執行についての差押命令の申立書には、第二十一条各号に掲げる事項のほか、第三債務者の氏名又は名称及び住所を記載しなければならない。
民執規則 第21条(強制執行の申立書の記載事項及び添付書類)
強制執行の申立書には、次に掲げる事項を記載し、執行力のある債務名義の正本を添付しなければならない。
二 債務名義の表示
四 金銭の支払を命ずる債務名義に係る請求権の一部について強制執行を求めるときは、その旨及びその範囲
  請求債権の表示に関する民執規則の規定自体は、最高裁判所の規則制定権(憲法77条1項)の性質及び範囲に鑑み、実体法上の充当関係まで規律するものとは解されない。 
  再度の申立てを認める本決定の考え方⇒申立日と取立日には必ずずれがある⇒本件取扱いがされる限りいつまでも元金は消滅しない⇒申立てが繰り返される可能性。
but
債務者が任意に債務を履行しない以上、やむを得ない。 
  民事p13
東京高裁H30.2.14  
  主位的予備的併合訴訟での予備的請求の認諾
  事案 株式会社Xは、株式会社Y1の代表取締役を務めるY2から勧誘を受けて、合同会社Aを営業者とする匿名組合が裁定取引システムにより外国為替売買で出資金を運用することを事業目的とする投資ファンドに合計6億700万円を出資。 
Xは、Y1及びY2に対し、
主位的に、完成していない裁定取引自動売買システムに関して虚偽の説明を受けた上、リスクの高いアルゴリズム取引が行われたために多額の損失が発生
⇒共同不法行為又は会社法350条に基づき、損害の一部として1億146万2401円の賠償を請求
予備的に、Aとの間で締結された本件ファンドに係る利益配分金の分配債務をもって消費貸借の目的とする準消費貸借契約につき、Y1及びY2との間で連帯保証することを内容とする連帯保証契約に基づき、同額の支払を求めた。
  主張  Yら:連帯保証契約に基づく請求を認諾する旨の陳述⇒本件訴訟は終了。 
  原審・判断  予備的請求のみに係る認諾は無効。
Y2が本件ファンドに関する虚偽の事実を述べてXを勧誘して出資させ損害を被らせた⇒Yらの不法行為を認めてXの主位的請求を全部認容。 
  規定 民訴法 第136条(請求の併合)
数個の請求は、同種の訴訟手続による場合に限り、一の訴えですることができる。
  解説  併合請求(民訴法136条):
①単純併合
②選択的併合
③予備的併合
複数の請求が論理的に両立し得るもの⇒選択的併合
論理的に両立しない⇒予備的併合
予備的併合は、通常、論理的に両立しえない⇒原告による順位付けによって裁判所が拘束される。
論理的に両立し得る請求であっても、特に順位をつけて審判を求めている場合についても、不真正予備的請求の併合として、実務上認めている。
  請求の認諾は無条件確定的になされる必要がある。 
  民事p33
東京高裁H29.11.29  
  ネットショップ用ホームページの制作に係る契約の勧誘における説明義務違反(肯定)
  事案 X:昭和47年生まれの女性であり、
Y1:ネットビジネスを展開する企業に対してホームページの企画、運営等のサポートを提供する事業を営む株式会社
Y2:クレジット業等を営む株式会社 
Xは、Y1との間で、ホームページ制作業務等の提供を受ける契約を締結し、
Y2との間で、その契約に基づき支払うべきウェブシステム構築費につき個別信用購入あっせん契約を締結。
  請求 Xは、
Y1に対し、消費者契約法4条1項に基づく本件HP制作契約の申込みの意思表示の取消しによる不当利得返還請求権又は勧誘の適合性原則違反及び説明義務違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権により、既払金相当額及びY2に対する未払金の支払を求めるとともに、
Y2に対し、割賦法または信義則に基づいて未払分割支払金の請求を拒絶することができる地位にあることの確認
を求めた。
  原審 ①ネットショップも小売業であるから、商品ラインナップの決定、販路の確保・拡大等は事業主体が自らの判断と責任で行うべきで、Xもそのことを認識してしかるべき
②自ら卸売業者等に対して商品の登録を申し込む必要があるところ、本件HP制作契約締結後に、X自身もこれを前提とした行動を取っている

本件HP制作契約の内容自体がXに適合しないものであるとはいえず、説明義務違反はない。 
  判断  Y1による説明義務違反を認め、原判決を変更し、XのY1に対する請求を一部認容。 
①ネットショップは、内職的な仕事を探している者に勧められる仕事ではなく、商流を有しない素人がホームページだけ先に制作しても月額の固定費用の支出負担がかかるだけ
②Y1が説明に用いたパンフレットには、ホームページ開設の時点で販売すべき商品が準備されていることを前提とする記載があり、他方で、実店舗を有しないか、又は商品の在庫もしくは仕入先を有しない場合についての記載は全くない⇒Y1は、提供するサービスがXに適合しないことを十分認識していたものと推認できる。

本件HP制作契約を積極的に勧誘することは相当でなく、本件HP制作契約により負担すべき費用を上回る利益を上げられないリスクが無視できないことについて説明する義務を負っていた。
Aは、「月商10万円位ならすぐに稼げるようになります」などと断定的判断を提供⇒説明義務を果たしているとは認められない。
⇒Y1の不法行為責任を肯定。
  Xはインターネットを利用して商品を販売する事業を営むことを目的として本件HP制作契約を締結⇒消費者契約上の「消費者」にあたらない。
同様の理由により、Y2に対する割賦法の適用を前提とする主張には理由がない。
  解説 契約締結の過程において、その判断に重要な影響を及ぼすべき情報を提供せず契約を締結して損害が発生⇒情報を提供しなかった当事者は、信義則上の説明義務違反として不法行為による損害賠償責任が認められる(最高裁H23.4.22)。 
消費者と事業者の交渉力の格差に鑑み、平成30年法律第54号により、事業者の情報提供を明文化する消費者契約法3条1項2号が新設された。
  民事p47
大阪地裁H30.3.23   
  リードが離れ犬がランニング中の者の前に⇒犬を避けようとして転倒負傷⇒保険金支払い請求(一部認容)
  事案 原告Xが、路上をランニング中、被告Y1が散歩させていた犬を避けようとして転倒した⇒ 
①前記犬の占有者であるY1に対し、民法718条に基づき、損害賠償として、
②Y1を被保険者とする、個人賠償責任補償特約等が付された自動車損害損害保険契約を締結した被告Y2会社に対し、同保険契約の約款に基づき、Y1に対する支払請求の判決の確定を条件として、
3940万円余の連帯支払を求めた事案。
  規定 民法 第718条(動物の占有者等の責任)
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
2 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。
  判断 Y1が、特別な状況でもないにもかかわらず、突然、飼い犬が走り出したことにより手を放してしまい、飼い犬が単独で道路を進行したことにより事故が発生⇒事故の主たる原因は、Y1が飼い犬を係留しない状態にさせたことにある。 
ランニング中のXにおいて前方確認や進行速度を適切に調節することが不十分であり、これが自己の発生に影響したことも否定できない⇒1割の過失相殺。
Yらに対し、1280万円余の支払を命じた。
  商事p55
東京高裁H29.9.27  
  銀行の取締役の責任と、離婚に伴う慰謝料、財産分与及び養育費として支払われた贈与契約と通謀虚偽表示
  事案 経営破綻した銀行(「B銀行」)の元取締役及びその親族らに対して損害賠償を求めた事案。 
Xは、B銀行の取締役会において、後に破綻したノンバンクから商工ローン債権の買取りをY1らが承認したことが善管注意義務違反に当たるとして、B銀行から、元取締役Y1らに対する損害賠償請求権を譲り受けた上、Y1に対して損害賠償を請求。(①事件)
Y1が、B銀行の破綻前後に、妻であったY2に対しては、離婚に伴う慰謝料、財産分与及び養育費の名目で、実弟のY3に対しては、Y3からB銀行株式を購入した代金として、それぞれ多額の送金

Xは、
Y2及びY3に対して、Y2との金銭の贈与契約は通謀虚偽表示にあたるとして、また、
Y2又はY3に対する送金行為は詐害行為にあたるとして、
債権者代位権による不当利得返還請求権又は詐害行為取消権に基づき、それぞれ損害賠償請求。
  原審 ①事件につき、一部認容。 
②事件につき、
Y2(元妻)との関係で一部認容し、
Y3(弟)との関係で全部認容。
  判断 ①事件について:
原審をほぼ引用しつつ
善管注意義務違反に関し、銀行の取締役にいわゆる経営判断の原則が適用されると解されるとしても、銀行の取締役の特殊性に照らし、その分だけ限定的なものにとどまる。
  ②事件について 
Y2に対する請求に関して、
Y1が、B銀行の債権者等から民事責任の追及を受けることを覚悟し、債権者等から預金の仮差押えを受けることを避けるために金銭を移動し、急遽Y2との合意書を作成した⇒本件贈与契約は通謀虚偽表示により無効である。
詐害行為取消権にかかる主張について、
養育費はその性質上定期的に支払われるべきものであるところ、
Y1が支払時期の到来していない養育費をまとめて支払ったことは、期限の利益を放棄した行為であり、その放棄は債務者の義務を履行したとはいえない
⇒代物弁済や担保の提供等と同じ性質の行為として詐害行為となる。
  解説 銀行の取締役の善管注意義務違反については、刑事判例である最高裁H21.11.9において、融資業務における注意義務が一般の株式会社の取締役に比べて高い水準にあり、いわゆる経営判断の原則が認められる余地は限定的である旨が示されていたが、
①民事事件において同様の考えに従うべきことを示した点、及び
②その考えが融資業務ではない与信業務についても適用されることを示した点
で意義を有する。 
  離婚に伴う財産分与等:
財産関係と密接な関係がある法律関係であって、それによって新たな身分関係が生じるわけではなく、民法94条の適用がある(最高裁昭和44.11.14)。 
  詐害行為取消権については、
従来、離婚に伴って負担すべき金銭の額を超えて支払った部分につき、その行使が認められてきた(判例)。
  刑事p109
大阪高裁H29.6.30  
  私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律 3条(私事性的画像記録提供等)違反の罪及びわいせつ電磁的記録媒体陳列罪(刑法175条)の事案
  事案 私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律 3条(私事性的画像記録提供等)違反の罪及びわいせつ電磁的記録媒体陳列罪(刑法175条)の成立が問題とされた事案。
  規定 私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律 第三条(私事性的画像記録提供等)
第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2前項の方法で、私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者も、同項と同様とする。
刑法 第一七五条(わいせつ物頒布等)
わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
  判断 ヤフーボックスでは、ユーザー以外の者はファイルを見ることはできないが「公開機能」を使えば、ヤフーボックス内の特定のファイル又はフォルダーを第三者に閲覧させることができる。
・・・
ヤフーユーザーがヤフーボックスに保存したデータを公開設定した時点では、そのユーザーに公開URLが発行されるにすぎず、同データを第三者が閲覧し得る状態にするには、公開設定に加え、公開URLを電子メールで送信するなどの外部に明らかにするヤフーユーザーによる別の行為が必要。 
①被告人が本件データを公開設定した時点では、いまだ同データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められず、
②被告人が公開URLを被害者に送信した点についても、特定の個人に対するものにすぎないから、同データの内容を不特定又は多数の者が認識しうる状態に置いたと認めることもできない

結局、被告人は、本件データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められない。
  解説 わいせつ物公然陳列罪の「公然と陳列した」の意義について、最高裁H13.7.16は、
「その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい、その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも必要ないものと解される。」 
  刑事p114
札幌高裁H29.1.26  
  過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律4条)の事案
  事案 自動車死傷法によって新設された、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(4条)における「その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的」及び「その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させること」についての解釈を示した裁判例。 
被告人は、事故直後から約6時間半の間、事故現場から逃走し、知人方で過ごすなどして、飲んだ酒の影響の発覚を免れるべき行為をした。
  規定 自動車死傷法 第四条(過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱)
 アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、十二年以下の懲役に処する。
  主張 本件のような、事故現場から立ち去っただけの行為が問題となる事案で、本罪が成立するためには、逸脱目的として、更にアルコールを摂取するいわゆる追い飲み行為に匹敵する程度に、身体のアルコール濃度という重要な証拠収集を妨げる積極的な目的を要する。
but
被告人については、そのような逸脱目的を肯認できない。 
  解説 アルコール等の影響による危険運転致死傷罪(本法2条1号及び3条1項)は、客観的にこれらの影響により「正常な運転に支障が生じるおそれたある状態」にあったことが構成要件となっている
⇒犯人がその場から逃走するなどすれば、アルコール等による影響の程度が立証できなくなる可能性が高い。

その場合、
自動車運転過失致死傷罪と同交法上の救護義務違反の罪(報告義務違反の罪は、これと科刑上1罪となる)との併合罪となり、処断刑の上限は懲役15年。

重い処罰を免れようとして、アルコール等の影響という点について証拠収集を妨げるといった、より悪質性の高い行為に対して、適切な処罰を欠くことになりかねない。

本罪が規定され、その法定刑は12年以下の懲役とされ、本罪が成立する場合でも、救護義務違反の罪は別罪として成立するので、併合罪加重すると、処断刑の上限は懲役18年。 
  判断 客観的行為:
その場から立ち去れば直ちに本罪が成立するのではなく、一定程度の時間が経過し、その間に、摂取した物質の濃度に変化をもたらす(代謝によるものと考えられる。)など、運転時の当該物質の影響の有無又は程度の立証に支障を生じさせかねない程度のものであることが必要。 
逸脱の目的:
アルコール等の得協の発覚を免れる目的は、それが、積極的な原因や動機となっている必要はなく、むしろ、全く別の目的で、その場を離れたような場合を除外する趣旨。
  解説 除外される例:
自宅で飲酒していた際に、子どもが急病となったため、病院に連れて行くために自動車を運転して病院に向かう途中で事故を起こしたが、まずは、子供を病院に連れて行き、子供の無事が確認できた後に警察署に出頭 
       
       
↓旧雑誌(12月)   
  行政p9
仙台地裁H29.11.2  
  政務調査費の支出の一部が違法とされた事例
  事案 仙台市民オンブズマンである原告が、仙台市議会の会派である補助参加人らにおいて、仙台市から交付を受けた平成23年の政務調査費の一部を違法に支出し、これを不当に利得した⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、
仙台市長である被告に対し 
補助参加人らに対して違法に支出した政務調査費相当額の金員の返還及びこれに対する遅延損害金又は法定利息の支払を請求するよう求めた。
  争点 ①政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み
②選挙期間中の政務調査費の支出の適法性 
  判断 ●政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み 
  ◎違法性の判断基準 
法が政務調査費の制度を設けた趣旨を指摘した上で、
条例における使途に係る定めが法の趣旨に反しない限り、その定めに基づいて政務調査費の支出の違法性を判断するのが相当。
具体的な支出の違法性は、本件使途規準(本件条例の委任を受けて定められた本件規則において定められている使途基準)に合致するか否かを基準に判断。

本件使途規準に合致しない場合:
当該支出の客観的な目的や性質に照らして、当該支出と議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性がない場合をいう。

仙台市においては、政務調査費の対象外となる経費や支出手続等の本件条例の施行に関し必要な事項を定めた要綱(本件要綱)があり、法の趣旨に反しない限り、これを具体的支出の本件使途規準への適合性判断の指標とする。
  ◎主張立証責任 
原告において、支出が本件使途規準に合致せず違法であることを主張、立証することを要する。
but
①本件各支出が本件使途基準に合致せず違法であることを具体的に明らかにすることは困難である一方、被告らが本件使途基準に合致することについて説明することは比較的容易
②法の趣旨には、政務調査費の使途の透明性の確保も含まれている

原告は、当該支出と議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性がないことを示す一般的、外形的な事実の存在を主張、立証すれば足り、前記の事実が認められた場合には、被告らにおいて、当該支出により市政に関する具体的な調査研究が現にされたなどの特段の事情を立証しない限り、当該支出は本件使途規準に合致せず違法である。
  ◎本件要綱に基づく経費の按分 
本件要綱は、政務調査費に係る経費と政務調査費以外の経費を明確に区分し難く、従事割合その他の合理的な方法により按分することが困難である場合には、按分割合について2分の1を上限として計算した額を政務調査費の支出額とすることができる旨規定。
前記規定は、法の趣旨及び前記の会派の活動の性質に照らして合理的

原告が、調査研究費活動以外の活動にも利用されることが推認される経費であることを示す一般的、外形的な事実を立証した場合は、
被告らにおいて、当該経費が調査研究活動のみに利用されたこと、又は、当該経費に関し、調査研究活動に利用された割合とそれ以外の以外の活動に利用された割合について、客観的資料に基づき立証することを要する。
  ●選挙期間中の政務調査費の支出の適法性 
①議員にとって、次回の選挙に当選するか否かは議員としての活動を続けようとする自らの立場を左右する重要な事項
②会派代表者の尋問結果に照らせば、会派及びその所属議員は選挙期間中には選挙活動に集中しており、調査研究活動はほとんど行われていないことが推認される

選挙期間中の活動に対し政務調査費が支出されたという事実は、当該支出と議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性がないことを示す一般的、外形的事実であることが認められ、
原告がその事実の存在を立証した場合には、被告らにおいて当該支出により市政に関する具体的な調査研究が現にされたことを客観的資料に基づいて立証しない限り、当該支出は本件使途規準に合致せず違法であると判断するのが相当。
  解説 ●政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み 
◎違法性の実体要件
違法性の実体要件について、
A:裁量説:
議員側に市政との関連性や支出の必要性等について広範な裁量があることを前提に、裁量権の逸脱濫用があることを前提に、裁量権の逸脱濫用がある場合にのみ、違法となる。
B:合理的解釈説:
政務調査費の使途に応じて、比較的緩やかに必要性が認められるものと、それほど緩やかに解されないものがあるとして、個別の事案ごとに、条例等の使途規準に係る規定の合理的な解釈によって解決するとの見解。
◎主張立証責任 
①不当利得の要件事実的な考え方と
②現実の立証問題への配慮
⇒一般的、外形的な事実の立証を原告に求める一般的、外形的事実説が妥当であると考えられている。
but
どのような事実をもって一般的、外形的事実とするかはなお議論。