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刑事判例

黙秘権
  札幌高裁H14.3.19
判例時報
1803
 
  事案 被告人が昭和59年1月10日に失踪した当時9歳のBを殺害したとして、殺人罪で起訴。
  原審 殺人罪の公訴事実につき、被告人が重大な犯罪によりBを死亡させた疑いが強い。
but
Bの死因が不明で同人を死亡させることになった実行行為が特定できない

被告人がBを呼び出した目的が同人殺害に結びつく蓋然性が高いことや被告人にB殺害の明確な動機が認められることが必要。

このような点が立証されていない本件においては、被告人が殺意をもってBを死亡させたと認定するには、なお合理的な疑いが残る。
⇒無罪。 
  検察官 ①情況証拠により、Bを呼び出した目的が身代金要求というBの殺害に結びつく蓋然性の高いものであることやその目的のもとにB殺害の明確な動機が存したことが十分立証されている
②これらの点を除いても、被告人の殺意を認定するに足りる数多くの情況証拠が存在する

被告人が故意にBを殺害したことは明らかで、明らかな事実の誤認がある。
  判断 被告人は重大な犯罪によりBを死亡させた疑いが強いことは、正当として肯認できる。
弁護人:被告人がBの失踪・死亡に関与したこと自体を全面的に否定
vs.
①被告人の嫁ぎ先から発見された人骨がBの骨であることは証拠上明らか
②被告人がBの失踪に全く関与していないのに、Bが行方不明になったその当日にBが被告人方を訪ね、その頃からBの消息が不明になるとか、その後4年以上の歳月を経て被告人の嫁ぎ先からBの骨が発見されるというような偶然が重なって生じるとは考え難い。
③被告人がBの失踪当日、被告人方を訪ねてきた警察官らに対し、Bの死に関わっていながらBのその後の消息は知らないなどと明らかに虚偽と判断される事実を述べたり、わざわざBの死体を段ボールに入れ、それをその日のうちに被告人方から運び出し、その後転居を重ねながらもその手元に置き続けた⇒Bの死亡の事実を何としてでもかくして置きたいという被告人の強い意思を示すものであり・・・被告人が重大な犯罪によってBを死亡させ、それが発覚すれば厳しい社会的非難や刑事責任を負わなければならないと考えたからにほかならない。
④任意出頭時の被告人と捜査官とのやりとり⇒被告人自身がBの失踪に関して何か取り返しのつかない重大なことをしてしまったという認識を間違いなく懐いていたと解される。
 
検察官:被告人が捜査・公判を通じて、自己に有利な説明を弁明する機会があったにもかかわらず、一切供述を拒否し説明も弁明もしなかったことは、被告人が殺意をもってBを死亡させたことを推認させるものである。
vs.
被告人が事案について一切黙秘し何の説明も弁明もしないために、検察官側の立証により形成された心証を崩すことができず、それが事実上被告人に不利益に働いてしまうということがあることは否定できない。
but
被告人の黙秘・供述拒否の態度を一個の情況証拠とし被告人の殺意を認定すべきとの意見に対しては、被告人の黙秘・供述拒否の態度をそのように一個の情況として扱うことは、まさに被告人に黙秘権、供述拒否権が与えられている趣旨を実質手的に没却することになるのであり、到底受け入れることはできない。