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憲法論文関係

公立小学校における通知表の交付をめぐる混乱についての批判、論評を主題とするビラの配布行為が名誉毀損としての違法性を欠くとされた事例(民商法雑誌103-2-108)  
(松井茂記)
  ◆判例要旨
  ◆事実
  ◆上告理由
  ◆判決理由 
◆    ◆参照条文 
  ◆批評
  ◇一 本判決の意義
    「有害無能な教師」という表現に関して、名誉毀損の成立を否定。
〜最高裁が「公正な論評」の法理を正式に採用。
    ある表現の結果、第三者から嫌がらせなどを受けて、著しい精神的苦痛を覚えた、あるいは覚える恐れが強い場合に、表現者の不法行為責任を問う可能性を認めた。
  ◇二 名誉毀損 
    上告人が公表した情報:
@被上告人らの行動についての事実情報
Aそれに対する上告人自身の意見ないし論評
B被上告人らの氏名などの個人情報
  ●  ●アメリカの「公正な論評」の法理 
米国のコモン・ローの名誉毀損法では、一般に真実は絶対的免責を認められた。
but
真実の証明は容易ではない
⇒実際に表現者を保護していたのたは、様々な相対的免責の諸特権。
「公正な論評」の特権
〜真実の証明が及ばない論評について、一定の条件の下に免責を認めるもの。
@論評が公共の利害に関する事実に関していて
A前提となっている事実が虚偽でない場合であって、
B論評が公正である場合 

まだ名誉毀損法が憲法かされる前に、コモン・ロー上、限定的でありながら、表現・報道にとっては重要な保護を与えていた。
  ●米国の憲法的な名誉毀損法 
「公正な論評」の特権によって与えられる保護では、憲法的に不十分。

現在では、
公職者や公的人物などの「公人」に関する場合、
不法行為訴訟の原告が、表現が虚偽であったこと、そして被告に「現実的悪意」があったことを証明しない限りは、損害賠償を受けることはできない。
私人に関する場合でも、何らかの「過失」(fault)があった場合でなければ、損gタイ賠償責任を負わせることはできない。
現在のアメリカでは、いずれの場合でも「意見」は名誉毀損になりえないという立場が支配的。

@名誉毀損を虚偽の事実の表明と捉えるアメリカの名誉毀損法の前提。
A意見については虚偽とか真実とかいうことはあり得ない。
  本件:
一般的には、意見・論評による社会的評価の低下は、
@公共の利害に関わる事実に関するものであること、
A専ら公益を図る目的で行われたこと、
B前提となる事実について主要な点において真実であることの証明があること、
C人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱していないこと
の4要件が満たされれば違法性を欠く。

次のどれかに該当すれば、意見・論評も不法行為tなる。
@公共の利害に関わる事実ではない場合
A専ら公益を図る目的で行われたとはいえない場合
B前提となる事実について、主要な点において真実であることの証明がなかった場合
C人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱している場合 
  松井:
日本の名誉毀損法は憲法の表現の自由保障の観点から根本的に再検討されるべき。
名誉毀損として表現者に不法行為責任を負わせることが憲法上許されるのは、虚偽の事実の公表の場合に限られるという立場。
「意見」に対しては、名誉毀損として不法行為責任を追及することは、「憲法上」許されないというべき。
表現が侮辱的であった場合には、名誉毀損ではなく侮辱的表現として別の枠組で考察すべき。 
  ◇三 表現の結果として第三者が行った嫌がらせ
     
     

名誉毀損と表現の自由
(民商法雑誌)  (松井茂記)
  ☆序章(民商法雑誌87巻4号)
  ◆一 序
  ◆二 名誉保護の現行法制の枠組・・・刑事名誉毀損法
◆    ◆三 名誉保護の現行法制の枠組・・・民事名誉毀損法 
  ◆四 名誉毀損的表現の憲法的地位 
    A1:具体的な事例で名誉と表現の自由の利益を衡量して憲法的保護の有無を決定しようとするアプローチ
    A2:個別事例ごとに当該名誉毀損的表現が保護されているかどうか利益衡量するのではなく、あらかじめ名誉と表現の自由の間で利益衡量を行って、保護される名誉毀損と保護されないものの間に区別を設けようとするアプローチ
伊藤正巳:
表現に含まれる価値と名誉の持つ価値の衡量の必要性を主張し、
名誉毀損的表現は表現としての価値を殆ど持っていない⇒原則としては名誉の価値が上回りそれを制約し得ることになる
but
例外的に私人の名誉権に優先する社会的価値を含むため憲法上保護される場合がある。

@公正な批評、批判の対象となる人の地位が公共性を持つ場合
A名誉毀損の実質が個人の名誉の侵害よりむしろ公的な制度に対する批判である場合
佐藤幸治:
表現の自由と名誉との調整は、原則として等価値な利益衡量による
but
公共性のある事項については、真実を語ることはもちろん、当該事項にかかわる事実の真実性を推測させるに足る程度の相当な合理的根拠・資料に基づいてなされた表現行為は、憲法の保障する表現行為の範疇に属する。
公共性のある事項についての論議は、その立脚する主要部分において真実かもしくは上述のように真実性を推測されるに足る程度の相当な合理的根拠・資料に基づいたものである限り、
単なる人身攻撃ではなく正当であると信じてなされた場合には、
その用語、表現が相当激越、辛辣で、その結果として被論評者に対する社会的評価が低下することがあっても、同じく憲法の保障する表現の自由の範疇に属すると解される」

一定の名誉毀損的表現は類型的に憲法上保護されていて、その限りでは名誉毀損責任を問えないとするもの。
   
公共の利害に関する事実について真実を表現した場合及び虚偽であっても真実性の誤信に相当な根拠があった場合以外なら、名誉毀損の責任を問うても表現の自由との関係では問題はないと示唆。
  ◆五 本稿の視座 
    @まず憲法の次元で、名誉保護と表現の自由保障の調整のための法理を展開する必要
A表現の自由の領域において、裁判所のとるべきアプローチないし方法論、つまり憲法的な表現の自由の方法論を展開する必要
Bアメリカの判例理論と比較⇒日本の判例・通説が名誉毀損的表現に与えている保障は不十分
     
  ☆第一章 アメリカの伝統的名誉毀損論 
  ◆一 名誉毀損の意味 
  ◆二 アメリカにおける名誉毀損法の展開 
  ◆三  民事名誉毀損の要件
  ◆四 免責要件 
  ◆五 刑事名誉毀損 
  ◆六 名誉毀損的表現と表現の自由 
     
  ☆第ニ章 憲法的名誉毀損法の形成(民商法87巻5号) 
  ◆第一説 New York Times Co.v. Sullivan とそのルール 
  ◇一  New York Times 判決
  ◇二 憲法裁判としての意義 
  ◇三 修正一条論としての意義 
  ◇四 New York Times 判決の構造 
     
  ◆第二節   New York Times ルールの意味と射程
  ◇一 「現実的悪意」の意味 
  ◇二 証明上の諸問題 
  ◇三 「公職者」の「職務行為」の証明 
  ◇四 New York Times ルールの性格
  ◇五  New York Times ルールの射程
     
  ◆第三節 New York Times ルールの射程の拡大(民商法87巻6号)
  ◇一 「公職者」の「職務行為」の意味 
  ◇二 「公的人物」の公的側面への拡大 
  ◇三 「公的関心」事項への拡大 
     
  ☆第三章 憲法的名誉毀損法の現在 
  ◆第一節 Gertz v. Robert Welch, Inc. 
  ◇一 事案と判旨 
  ◇二 Gertz判決の意義 
     
  ◆第二節 Gertz判決と私人による名誉棄損訴訟 
  ◇一 意義 
  ◇二 「過失」の意味 
  ◇三 「過失」原則と州の裁量 
  ◇四 「過失」と意見による名誉毀損 
    「修正一条の下では、虚偽の思想といったものは存しない。意見がいかに有害に思えようとおも、その訂正は、裁判官と陪審の良心にではなく、他の思想の競争に委ねているのである」
⇒意見そのものには名誉毀損責任を問えない。
    リステイトメント:
意見の形での名誉毀損に対し出訴できるのは
「それが負意見の根拠として公表されていない名誉毀損的事実の主張を含意している」場合に限られるとした。
意見の表明:
@根拠となる事実が明示されている場合、及び明示されていなくとも両当事者によって知られている或は想定されている場合。
A明示されても想定されてもいない事実に基づいている場合。
そして、Gertzは寝k津の論理は、@に適用される。

名誉毀損事実表現に基づいて名誉毀損的意見を述べた場合:責任を負うのはその前者に対してだけ。
名誉毀損でない事実表現に基づいて名誉毀損的意見を述べた場合⇒両者ともに対し責任を負わない。
真実であると両当事者に想定されているような事実に基づいて名誉毀損的意見を述べた場合にも、責任は負わない。

根拠を明示することなく、明示されていない名誉毀損的事実の存在に依拠して、名誉毀損的意見を述べた場合にのみ、意見に対して責任を負う。

結果的には、意見そのものは一切名誉毀損責任を生じないとしつつ、
その根拠に明示されていない名誉毀損的事実がある場合に、
それを黙示的に名誉毀損的事実の表現があったものとして責任を問うのと変わらない。
  ◇五 「過失」と真実性の抗弁 
  ◇六 証明上の諸問題 
  ◇七 現実的損害の証明の必要性 
  ◇八 現実的損害の意味と証明の方法 
  ◇九 Gertz判決の私人に関するルールの射程 
     
  ◆第三節 Gertz判決と New York Times ルールの射程(民商法88巻1号)
  ◇一 意義 
  ◇二 「公人」の意味 
  ◇三 Firestone判決 
  ◇四 Hutchinson及びWolston判決 
  ◇五 「公的人物」概念の現在 
     
  ◆第四節 刑事名誉毀損法の現在 
     
  ◆終節 憲法的名誉毀損法の展開に向けて(p67)
  ◇一 名誉毀損と表現の自由 
  ◇二 New York Times ルールへの展望 
  ◇三 名誉毀損的表現の類型化と責任の段階づけ 
  ◇四 「公人」基準の意義と問題点 
  ◇五 「公的関心」事項基準の意義と問題点 
  ◇六 アメリカ名誉毀損法への展望 
  ◇七 結びに代えて・・・憲法的名誉毀損法の展開に向けて 
    アメリカ:
意見によって名誉毀損責任を問うことはできないとの考え方が有力 
私人⇒虚偽であったことについての「過失」が憲法的要求であり、真実に責任を認めることはかなり合憲性が疑わしい。
公人⇒真実はいかなる目的・動機によるものでも責任を問えず、
原告は虚偽であったことと「現実的悪意」の存在を証明しなければならない。