シンプラル法律事務所
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論点整理(記憶の信用性の欠如)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

  事例 
★信頼性の欠如   ★信頼性の欠如(榎本博明 記憶はウソをつく p26)
アメリカで誤審に影響した要因を検討した研究。
圧倒的に多かったのが目撃者の誤った識別によるもので、全体の5割が目撃者の誤認によってもたらされた冤罪
DNA鑑定により無実が証明されて監獄から解放された40ケースに関する1996年の報告によれば、その9割に当たる36ケースで目撃証言が重要な役割を果たしていることがわかった。 
★目撃証言の不確かさ   ★目撃証言の不確かさ
■リスト教授の実験(高木光太郎 証言の心理学 p4)

「目撃証言」に多くの誤り 
■スウィフト教授の実験(反対尋問p172)

廊下から口論⇒4人の学生(男2人、女2人)⇒R嬢は茶色の紙包を落とす⇒Kはバナナをもってピストルのように振り回す⇒教授が抗議&癇癪玉⇒教授は「撃たれた」と叫び後ずさりし、R嬢に抱えられる⇒学生達は全員逃げる。その間30秒以内。

目撃証言に多くの誤り
29人の「証人」のうち、4人の登場人物が部屋の中に入ってきたことを記憶してたのは3人。全員知ってる学生だったが、誰であったかを全員見分けた者は1人もいなかった。
29人中8人が、演技に参加していなかった人物のみならず、その場にいなかった人物までも「見た」と証言。
★人を経ることによる不確かさ   ★人を経ることによる不確かさ
■いったい何人の口を経れば、或る物語の筋が原型をとどめない状態になるかの実験(p174)。
新聞の切り抜きの伝言ゲーム。
見たり聞いたりしたことを事実そのままに物語ることができるか?という見込みについて
かなり正確に物語ることができるというところまで枠を広げてみても、明らかに小。
観察力それ自体が甚だしい欠陥をもっていて信頼しえない。
そのような観察力が不正確なところへもってきて、そこへさらに、他人の話を聞いて事件を見直すことから生ずる屈折作用や想像力による刺激が加わるとなると、証人や証言などというものは、きわめて信頼しえないものということになる。
想像力は、あるものを省いて他に置き換えるという過程を重ねながら証言を作り直すのであって、その結果としてできあがったものは、もとのものとはあまりにも違いすぎて、それとはほとんど似つかぬものになってしまいそうである。
ある行為を期待していると、その行為を見てしまうようなことになりかねないし、また、何かをしたいという意志をもっていると、その考えが実行に移されたことに仕立て直されることになる。
それに、暗示・示唆・・・観察者の立場にあるときは他人の動作による暗示、他人と会話しているとき、あるいは証人席についているときには、事実に関する質問のかたちでの示唆・・・は四六時中働きかけてくるのである。
★常識や意味による変容   ★常識や意味による変容
■ジョンディーン(ウォーターゲート事件の調査で証言をした大統領法律顧問)の証言(高木p19)

常識と意味による記憶の変容
(記憶のあいまいな部分を修復)
@記憶のあいまいになっている部分、欠落している部分を無意識のうちにスクリプト(出来事の普通の流れに関する知識)で穴埋めしてしまう。
「入室」のスクリプトであれば「ドアをノックする」「返事を待ってドアを開ける」「挨拶をする」といった一連の行為の流れに関する知識。
ex.「大統領が腰をかけるように言った」

Aいつの間にか「あの出来事はこういう意味があったはずだ」という解釈にしたがって記憶を置き換えたり書き足したりしてしまう。
起訴がリディでストップしたことをニクソンが喜んでいるべきだし、ディーンがいかに大きな仕事をしていたかということをハルデマンがニクソンに告げているべきであったし、彼に対する賞賛が最優先事項であるべきだった。
隠蔽が結局そうなってしまったようにばれるかもしれないと告げていたはずであった。
■フレデリック・バートレット卿の実験(高木p31)
(不自然な)物語を1度聞かせて、繰り返し思い出してもらう。 

常識や意味の影響
★慣習が記憶に及ぼす影響    ★慣習が記憶に及ぼす影響 
■閂を閉めた
フィラデルフィアにおいて証言が間違っていたにもかかわらずその証言によって正当にも有罪となった裁判での実例
犯人は夫。道路に通じる門の閂を外して半開きのままにした。
朝女中が女主人の死体に蹴躓き、無我夢中に道路にでて警察に連絡。
女中は、毎朝、起きるとまず最初に、その門の閂を外すのが慣習になっていて、法廷でも、殺人のあった当日の朝も、いつもどおりのことをしたと証言。⇒犯人は内部の人間となった。

女中は、興奮のあまりに、閂が外されていたことも門が開いていたことも気がつかず、そして後になって当時の状況を思い出す際には、閂を外すという彼女の日課となっている経験と慣習を、異常であったはずの当日の朝についての彼女の回想の中に合体させてしまった
(反対尋問p185)。
★暗示による変容       ★暗示による変容
■ロフタスの「衝突実験」(高木p7) 
1週間後10の質問
壊れたガラスを見たという誤った回答
質問なし⇒6人/50人
ぶつかった⇒7人/50人
衝突した⇒16人/50人
■ロフタスの実験(高木p97)
4歳児と5歳児を被験者にして実験。
フィルムを見せて「クマを見ましたか」⇒多くの子が見たと答える。
■メイシー商会の事件(反対尋問の技術p179)
誘導的質問
「その男性があなたを追い越してエレヴェーターの方へ向かうところをご覧になったのですね?」 
■マーフィー氏の勘違い(反対尋問の技術p187)
「マーフィー氏は、私とジョンスン博士との初めての出会いについて、私自身が書いたのとはかなり違った記事を書いているが、私としては、彼が30年近くの歳月を経たためにわれとわが記憶に騙されてしまったに違いなく、そのために彼は、人の話を通じて間違って聞かされてきたらしい或る場面に、自分がてっきり列席していたものと思い込んでしまったのに絶対間違いない」
■強姦冤罪事件(榎本p123) 
強姦⇒
恋人は激怒して「犯人は君の知っているだれかに違いない、なぜってその男は自分がだれだかわからないようにものすごく注意を払っていたんだろう?」
「君は近所でその人物を見たことがあるんだ、どこかでその男を見たんだよ・・・・スーパーとか教会とか、パーティーとか」
⇒パーティーであった男を思い出し、起訴され、50年の刑が宣告された。
2か月後、別の事件で逮捕された男が真犯人だとわかる。
★経験を他人に話すことによる影響   ★経験を他人に話すことによる影響 (反対尋問の技術p189)
■ジェイムズ教授の「心理学原理」(反対尋問の技術p188)
「最もしばしば記憶の間違いの原因となっているのは、われわれがわれわれ自身の経験を他人に話すその話し方である。つまり、われわれは、そのような場合、ほとんどいつも、事実を単純化して人々の興味を引くような形に仕立て直す。・・・やがて記憶の中で作り話の方が実話を追い出しにかかり、我物顔にふるまうことになるのである。われわれはまた、何かこんなことになってほしかったと考えたり、ある行為についてこんな説明もできるのだと考えたりしていると、やがて、実際に起こったことと、起こったかもしれないと考えていたこととの区別がつかなくなる。われわれの欲求、希望、そして、ときには不安、それらは他のものを統制する要素なのである。」 
★コミュニケーションによる影響   ★コミュニケーションによる影響
「信じる」コミュニケーションによってお互いの記憶の脆さを支えあっている(高木p41)
共同想起や外的記憶補助の活用ということを視野に入れると、実は記憶は外の世界に開かれたものであることがわかる。
不正確なところを他人の記憶から借りてきた情報で穴埋めし、修正する。
必要に応じてメモや写真に記録されている情報を参照する。
想起の手がかりとなるモノを自分の周囲に配置する。
私たちは、自分の記憶と他者の記憶、それにさまざまな記録や手がかりがつくりだす濃密なネットワークに埋め込まれている。
■古典的な実験(高木p47)
●欠損エラー(思い出せない)

グループで話し合うことにより、このタイプのエラーは半減する。
●作話エラー(実際の出来事とは違うことを答える)

個人で出来事を思い出した時より、このタイプのエラーが増える。 
■同調(高木p48)
過去の出来事をめぐる会話のなかでお互いの記憶が食い違ったとき、話しあいによって自分の記憶を排除してしまい、相手の記憶を「事実」として受け入れてしまう場合。
意見の一致を求めるというプレッシャーをかけると、相手の体験を自分の体験だと信じてしまうという現象がかなりの割合で生じる。 
実際には人間の記憶は変化しやすく「脆い」もの。その「脆さ」ゆえにいつも不安げに他者の記憶や記録の支えを求め続けている。その手は、ロフタスの「衝突実験」や上記の実験のように、時として自分を支える資格のないものにまで縋ろうとする。
記憶は個人的な体験を蓄積していく薄暗く湿った倉庫ではない。それは人が自分の体験を中心に、過去についてのさまざまな情報を複雑にリンクさせていくダイナミックで開かれたシステム。