シンプラル法律事務所
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論点整理(後見制度関係)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

後見申立
制度 民法 第7条(後見開始の審判)
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
管轄 家事手続法 第117条(管轄)
後見開始の審判事件(別表第一の一の項の事項についての審判事件をいう。次項及び次条第一号において同じ。)は、成年被後見人となるべき者の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
解説 ●手続行為能力
家事事件手続法 第118条(手続行為能力)
次に掲げる審判事件(第一号、第四号及び第六号の審判事件を本案とする保全処分についての審判事件を含む。)においては、成年被後見人となるべき者及び成年被後見人は、第十七条第一項において準用する民事訴訟法第三十一条の規定にかかわらず、法定代理人によらずに、自ら手続行為をすることができる。その者が被保佐人又は被補助人(手続行為をすることにつきその補助人の同意を得ることを要するものに限る。)であって、保佐人若しくは保佐監督人又は補助人若しくは補助監督人の同意がない場合も、同様とする。
一 後見開始の審判事件
後見開始の審判事件(後見開始の審判事件を本案とする保全処分についての審判事件を含む。)においては、成年被後見人となるべき者は、一般的に手続行為能力の制限を受けていても、自ら有効に手続行為をすることができる。
その者が被保佐人または被補助人(手続行為をすることにつきその補助人の同意を得ることを要するものに限る。)であって、保佐人もしくは保佐監督人または補助人もしくは補助監督人の同意がない場合も同様。
●精神の状況に関する鑑定
家事事件手続法 第119条(精神の状況に関する鑑定及び意見の聴取)
家庭裁判所は、成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ、後見開始の審判をすることができない。ただし、明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない。
●陳述の聴取
家事事件手続法 第120条(陳述及び意見の聴取)
家庭裁判所は、次の各号に掲げる審判をする場合には、当該各号に定める者(第一号から第三号までにあっては、申立人を除く。)の陳述を聴かなければならない。ただし、成年被後見人となるべき者及び成年被後見人については、その者の心身の障害によりその者の陳述を聴くことができないときは、この限りでない
一 後見開始の審判 成年被後見人となるべき者
●申立ての取下げの制限 
家事事件手続法 第121条(申立ての取下げの制限)
次に掲げる申立ては、審判がされる前であっても、家庭裁判所の許可を得なければ、取り下げることができない。
一 後見開始の申立て
●審判の告知 
家事事件手続法 第122条(審判の告知等)
後見開始の審判は、成年被後見人となるべき者に通知しなければならない。この場合においては、成年被後見人となるべき者については、第七十四条第一項の規定は、適用しない
2 次の各号に掲げる審判は、第七十四条第一項に規定する者のほか、当該各号に定める者に告知しなければならない。
一 後見開始の審判 民法第八百四十三条第一項の規定により成年後見人に選任される者並びに任意後見契約に関する法律(平成十一年法律第百五十号。以下「任意後見契約法」という。)第十条第三項の規定により終了する任意後見契約に係る任意後見人及び任意後見監督人
●即時抗告 
家事事件手続法 第123条(即時抗告)
次の各号に掲げる審判に対しては、当該各号に定める者(第一号にあっては、申立人を除く。)は、即時抗告をすることができる。
一 後見開始の審判 民法第七条及び任意後見契約法第十条第二項に規定する者
二 後見開始の申立てを却下する審判 申立人
・・・・
2 審判の告知を受ける者でない者による後見開始の審判に対する即時抗告の期間は、民法第八百四十三条第一項の規定により成年後見人に選任される者が審判の告知を受けた日(二以上あるときは、当該日のうち最も遅い日)から進行する。
審判の告知を受ける者でない者による後見開始の審判に対する即時抗告の期間は、成年後見人に選任される者が審判の告知を受けた日(2以上あるときは、当該日のうち最も遅い日)から進行する(法123A)。
●後見開始の審判事件を本案とする保全処分 
規定 家事事件手続法 第126条(後見開始の審判事件を本案とする保全処分)

家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。以下この条及び次条において同じ。)は、後見開始の申立てがあった場合において、成年被後見人となるべき者の生活、療養看護又は財産の管理のため必要があるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てさせないで、後見開始の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間財産の管理者を選任し、又は事件の関係人に対し、成年被後見人となるべき者の生活、療養看護若しくは財産の管理に関する事項を指示することができる。

2 家庭裁判所は、後見開始の申立てがあった場合において、成年被後見人となるべき者の財産の保全のため特に必要があるときは、当該申立てをした者の申立てにより、後見開始の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、成年被後見人となるべき者の財産上の行為(民法第九条ただし書に規定する行為を除く。第七項において同じ。)につき、前項の財産の管理者の後見を受けることを命ずることができる。

3 家庭裁判所は、成年被後見人となるべき者の心身の障害によりその者の陳述を聴くことができないときは、第百七条の規定にかかわらず、その者の陳述を聴く手続を経ずに、前項の規定による審判(次項から第七項までにおいて「後見命令の審判」という。)をすることができる。

4 後見命令の審判は、第一項の財産の管理者(数人あるときは、そのうちの一人)に告知することによって、その効力を生ずる。

5 後見命令の審判は、成年被後見人となるべき者に通知しなければならない。この場合においては、成年被後見人となるべき者については、第七十四条第一項の規定は、適用しない。

6 審判の告知を受ける者でない者による後見命令の審判に対する即時抗告の期間は、第一項の財産の管理者が第四項の規定による告知を受けた日(二以上あるときは、当該日のうち最も遅い日)から進行する。

7 後見命令の審判があったときは、成年被後見人となるべき者及び第一項の財産の管理者は、成年被後見人となるべき者がした財産上の行為を取り消すことができる。この場合においては、制限行為能力者の行為の取消しに関する民法の規定を準用する。

8 前条第一項から第六項までの規定及び民法第二十七条から第二十九条まで(同法第二十七条第二項を除く。)の規定は、第一項の財産の管理者について準用する。この場合において、前条第三項中「成年被後見人」とあるのは、「成年被後見人となるべき者」と読み替えるものとする。
保全処分:
審判の申立てから終局審判が効力を生じるまでの間に、本人の身上監護のため又は財産の保全のため臨時に必要な処分をできるようにするため、財産の管理者の選任、関係人に対する本人の財産管理または監護に関する事項の指示及び後見命令を内容とするもの。 
保全処分の内容:
後見開始の審判の効力の発生を待っていたのでは、本人の生命、身体が危険となり、又は財産が侵害されるおそれがある場合に、後見開始の審判の効力が発生するまでの間、
1.財産の管理者を選任し、又は関係人に対し指示することができるほか、
2.本人に対し、後見を受けるべきことを命じることができる(後見命令)(法126@A)
財産の監理者の選任:
本人に代わりその財産を管理する者をいい、原則として民法103条所定の範囲内で代理権を有する法定代理人の一種。
本院の財産処分権は影響を受けない
⇒理論的には、本人と財産管理者の2人が本人の財産を管理。
財産の監理者の権限:
原則として保存・管理行為に限られ、処分行為を含まず、これを超える行為をするには家庭裁判所の許可を得る必要(民法28、法126G、134E、143E)。
預貯金の払戻し、解約は保存行為の一種⇒許可を要しない。
後見命令:
本人に対して、財産上の行為について、財産の監理者の後見を受けることを命じる保全処分(法126A)。

後見命令
⇒本人及び財産の管理者は、本人がした日用品の購入等を除き財産上の行為をとりけすことができる(法126F)。
○要件
@後見開始の蓋然性:
後見に該当する程度に本人の判断能力が低下していることの蓋然性
(保全処分を申し立てる場合には申立人の側でこれを疎明する必要(法106A)。)
医師の診断書が最良の資料。
A保全の必要性:
保護を要する心身の状態にある者が保護のない状態の置かれ、又は、
財産上の行為をする判断能力が低下している者が自らその財産を失う行為をし、若しくは、
この者の財産を第三者が侵害するおそれがある場合等。

後見開始の審判の効力発生まで待てないという事情。

成年後見人
★後見人の職務、権限等    ★後見人の職務、権限等 
■地位 規定 民法 第869条(委任及び親権の規定の準用)
第六百四十四条及び第八百三十条の規定は、後見について準用する。
民法 第644条(受任者の注意義務)
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
  後見には、他人である本人の財産を全面的に管理する権限を有し、また、処分をも含めた包括的な代理権限。
後見人は、本人の利益を確保するべく行動する必要。
後見人は、その地位を利用して本人の犠牲の下に自己又は第三者の利益を図ってはならない義務を負う(忠実義務) 
■後見監督    意味  後見人を選任する家庭裁判所による後見人への監視・監督作用を総称したもの。 
趣旨 広汎な代理権・財産管理権が付与⇒濫用の危険が内在⇒その行使が適正に行われているかどうか監視し、問題がある場合にこれを是正させる方策が必要。
方法 規定 民法 第863条(後見の事務の監督)
後見監督人又は家庭裁判所は、いつでも、後見人に対し後見の事務の報告若しくは財産の目録の提出を求め、又は後見の事務若しくは被後見人の財産の状況を調査することができる。
2 家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命ずることができる。
  適時に後見人への後見事務の報告や財産目録の提出を求め、これを点検していくことを通じて行う。 
問題あり/問題が含まれる可能性があることを認識

@金融機関に対する調査嘱託や、家裁調査官による事実関係の調査等を行って、問題の有無・対応などにつき検討したり、財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命じる(民法863A)
A家裁調査官の調査を経ずに専門職後見人の追加選任・権限分掌の措置を講じて財産保全と後見事務の調査を行い、後見人を解任。
B後見人の不正事案については、横領、背任等の刑罰法規に触れるものとして、家庭裁判所として刑事告発。
■身上監護 規定  民法 第858条(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
  本人の財産管理や契約などの法律行為に関するものに限られ、食事の世話や実際の介護などは、後見人としての仕事ではない。
but
後見人は、本人の生活、療養看護、及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮する必要(民法858条)。
■代理に親しまない行為  遺言は、法律上、本人が自らの意思により行うべきで、第三者が本人に代わって行うことが想定されていない行為⇒本人にかわって遺言をすることができない。
問題となる場合    ■      ■後見人又は親族への金銭の貸付け
●   ●後見人への金銭の貸付 
後見人自身に対する貸付⇒自己契約⇒特別代理人の選任が必要。
貸倒れリスクを伴うような取引に本人の資産を投じることは、本人の財産を守るべき責務を負う後見人の行動としては許されない。
民法 第860条(利益相反行為)
第八百二十六条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。
民法 第826条(利益相反行為)
親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
●親族への貸付け 
利益相反行為ではない⇒特別代理人の選任は不要
but
十分な担保が確保できているなどの事情がない限り、原則として是認できない。
■      ■後見人又は親族への贈与 
  後見人自身に対するものはもちろん、親族に対するものであっても、贈与は認められない。 
●相続税対策の場合 
相続税は後見人や親族が負担するものであり、本人が負担するものではない⇒本人の財産を犠牲にして、相続人である後見人又は親族の税負担を軽減し、後見人や親族の利益を図ることになり、善管注意義務に反する。
●判断能力が低下していなかったら、贈与していたであろう場合 
「本人の意思」を確認することは困難
●後見が開始する前から、本人から子や孫へ比較的少額の金銭を定期的に贈与していた場合 
@本人が判断能力を有する時期から継続的に贈与を行っていたことが明らかで、かつ、A本院の将来の療養看護に十分な財産が存在するような場合であるなどの事情

従前行われていた金額の範囲内でこれを継続することは認められることがある。
  ■使い込み、流用 
支出計上には、後見人に説明と資料の提出を求める
専門職を後見人に選任し、財産保全のための権限分掌の措置を講じる。
追加選任した専門職後見人による調査を踏まえて、不正を行った後見人を解任し、専門職後見人が損害賠償を請求。
  ■後見人その他の親族に対する扶養 
後見人が本人の配偶者であり、また、本人との間に未成熟子もいるような事例では、本人の財産によって生活を支えていかざるを得ない⇒本人の財産からその生活費を拠出することも許される。「扶養」
■     ■立替金、介護の日当・費用、見舞の日当・費用の支払 
●立替金 
後見事務に要した費用は本人の財産から支弁することができる(民法861A)⇒立替金支払の問題は通常生じない。
民法 第861条(支出金額の予定及び後見の事務の費用)
2 後見人が後見の事務を行うために必要な費用は、被後見人の財産の中から支弁する。
支弁が許される支出は、後見事務と関連性があり、かつ、金銭的に相当な
範囲に限られる。
後見人以外の者からの立替金請求については、確実な裏付資料があるときに支払うべきで、そうでなければ支払うべきではない。
●後見人自身の介護の日当・費用、見舞の日当・費用 
後見人自身が本人に対して行った介護・見舞等に対する「日当」名目での金銭の授受
but
これは「報酬」の範疇に属する
⇒家庭裁判所による報酬付与の審判を得ないで、後見人が本人の財産から報酬・手数料名目で取得することは許されない。
民法 第862条(後見人の報酬)
家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。
●親族による介護や見舞の日当・費用
親族としての情愛に基づいて行うべき見舞程度のもの⇒日当・費用を支払うべきではない
有償のサービス提供を受けたのと等しい労務提供に達している⇒支払を認める場合あり。
支払額は、賃金センサスの介護職(ホームヘルパー)の平均賃金や、交通事故被害者に対する近親者の付添料などが参考資料となる。
  ■施設等への寄付、謝礼、差額ベッド、冠婚葬祭等の交際費の限界
●施設等への寄付、謝礼 
施設・病院職員への寄付、謝礼については、社会通念上、社交儀礼として許される範囲であれば許される。
●差額ベッド 
個室等(差額ベッド)の利用:
本人の療養看護のため必要なものであれば、その利用及び料金の支払を不相当とはいえない。
本人の心身の状況、医師の意見に加えて、その財産状態をも考慮して相当性を判断。
●冠婚葬祭等の交際費 
形式的・儀礼的な面がある
⇒本人の財産状態や相手方との関係に照らして妥当な金額であれば許容される。
■      ■財産管理の管理・運用方法 
●預貯金口座の名義等 
本人又は肩書付後見人名義(成年被後見人△△後見人〇〇)。
●建物建築・借入れ等 
(後見人や家族ではなく)本人にとってプラスになるかどうか
●ペイオフ対策、投資・投機等
元本が保証されない契約については、原則として解約することが望ましい
■その他
●本人の墓地・墓石の購入 
本人の財産状態も踏まえ、社会的に相当な範囲であれば、購入を是認できる。
■利益相反行為  特別代理人が必要な場合 後見人と本人の利益が相反する行為(後見人と本人の間で利害対立が生じる場合)
⇒家庭裁判所の選任した特別代理人が代理権を行使。
利益相反に当たるかどうかは、後見人が本人を代理してなした行為自体を外形的客観的に考察して判定すべき(最高裁昭和42.4.18)。
ex.
後見人と本人が共同相続人である場合の遺産分割
後見人の債務を担保するために本人の不動産に抵当権を設定
手続 後見人(又は利害関係人)から家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる。 
後見監督人が選任されている場合、後見監督人が本人を代理。
⇒特別代理人は必要ない。
報酬 後見人の報酬に関する規定(民法862条)を類推適用して、報酬付与の申立てを審判。 
★成年被後見人が死亡した場合   ★成年被後見人が死亡した場合
規定 後見登記法 第8条(終了の登記)
後見等に係る登記記録に記録されている前条第一項第一号に掲げる者は、成年被後見人等が死亡したことを知ったときは、終了の登記を申請しなければならない。
民法 第654条(委任の終了後の処分)
委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。
説明 被後見人の死亡

成年後見は絶対的に終了。
成年後見人の権限は消滅し、後は応急処分義務(民法654条)が残るだけ。
but
実際には、後見任務の後始末といった諸々の事務が野j越され、その処理が必要となることが多い。
ex.
未払いの医療費、入院費用の支払い、その他公共料金や家賃の支払い、医療保険や年金の停止手続等。
被後見人に相続人があっても、遺産分割で紛争が生じている場合には、財産の引継もできず、他方、管理権者がいないという事態に立ち至る。
●ターミナルケア ●ターミナルケア
基本的に成年後見人には重要な医療行為の判断や同意をする権限はない。
速やかに親族等に連絡し、その判断に委ねるべき。
親族等の身寄りがない場合で、医師から同意を求められる場合、医師がインフォームド・コンセントに務めたことを事実確認すると説明しつつ対応する他ない。
●遺体の引き取り ●遺体の引き取り
身寄りのない者の死亡の場合、「死体の埋葬又は火葬を行う者がいないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村がこれを行わなければならない」(墓地9@)
⇒前提である遺体の引き取りも市町村町の対応に委ねることで十分。
but
実際には市町村長はなかなか手続をせず、市の関係者は、しばしば成年後見人に埋葬等の処理を要求。
遺体の引き取り人のない場合で、被後見人がそれなりの財産を残して死亡した場合、被後見人の明示の意思に反しない限り、事務管理(民法697条)により処理することは可能。
●死亡届 ●死亡届
戸籍法 第86条〔届出期間・届出事項・添付書類〕
死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知つた日から七日以内(国外で死亡があつたときは、その事実を知つた日から三箇月以内)に、これをしなければならない。
A届書には、次の事項を記載し、診断書又は検案書を添付しなければならない。
一 死亡の年月日時分及び場所
二 その他法務省令で定める事項
Bやむを得ない事由によつて診断書又は検案書を得ることができないときは、死亡の事実を証すべき書面を以てこれに代えることができる。この場合には、届書に診断書又は検案書を得ることができない事由を記載しなければならない。

戸籍法 第87条〔届出義務者〕
左の者は、その順序に従つて、死亡の届出をしなければならない。但し、順序にかかわらず届出をすることができる。
第一 同居の親族
第二 その他の同居者
第三 家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人
A死亡の届出は、同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人及び任意後見人も、これをすることができる。
本人が死亡⇒届出義務者は死亡の事実を知った日から7日以内に届出義務(戸87)。
死亡届をしないと火葬の許可は得られない
届出義務者:親族、同居者、家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人(戸87)。
平成19年の戸籍法改正⇒死亡届出は、後見人、保佐人、補助人及び任意後見人もすることができることとなった(戸87A)。
成年後見人が届出⇒市町村において、届出書に死亡の年月日・場所等の所定事項を記入し、診断書または検案書を添付して届け出る(戸86)。
●葬儀 ●葬儀
○権限の有無
本人の死亡は代理権の消滅事由(民法111@(1))⇒本人が死亡すれば成年後見は終了し、成年後見人の権限はなくなる。

成年後見人に葬儀を行う権限はなく、葬儀の執行は本人の遺族に委ねられる。
第111条(代理権の消滅事由)
代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
一 本人の死亡
二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
○成年被後見人に身寄りがない場合、成年後見人が葬儀を行い、あるいは葬儀費用を支出できるか。
成年後見人には葬儀を行う権限はなく、葬儀の執行は本人の遺族に委ねられる。
but
本人が相当な財産を残して死亡した場合、社会的に相当と認められる範囲で、葬儀等を行い、その費用を支出しても問題とならないことが多い。l
葬儀は「急迫の事情のあるとき」(民法654条)とはいえない⇒法的根拠は事務管理(民法697条)
事務管理:法律上の義務がないのに他人のためにその事務を処理す売ること。
事務管理に要した費用は有益費として償還請求(民法702条)の対象となるが、財産を管理している場合、そこから費用を支出することも不当ではない。
民法 第697条(事務管理) 
義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。

民法 第702条(管理者による費用の償還請求等)
管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。
2 第六百五十条第二項の規定は、管理者が本人のために有益な債務を負担した場合について準用する。
3 管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、前二項の規定を適用する。
本人が施設に入所⇒行政が施設に委託(措置)して葬儀を行うことになる(老人福祉法11A)。
生活保護を受給⇒葬祭扶助が受けられる(生活保護法18条)。
終了時の事務 債務の弁済 原則 成年被後見人の死亡⇒相続開始⇒成年後見人の職務も終了し、残務処理のみが残る。
成年被後見人が負っていた債務は相続人が承継。
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産法人が形成され、債務はそこに帰属。
成年被後見人の債務を成年後見人において弁済することは理論的にはできない。
事務管理 事務管理法理(民法697条)に基づいてできる限りの処理を行う。
@成年後見人が後見事務として契約lしたものあるいは後見事務の内容に含まれると考えられるものについては、後見終了の事務として弁済が認められる。
ex.終末医療費や入所施設費等。
成年後見人が負っていた借入債務等は、被後見人生存中に後見事務として弁済を行っていたとしても、被後見人死亡後は後見人が弁済すべきではなく、相続人や相続財産管理人に委ねるべき。
A一般の先取特権が認められる債権。
〜相続財産管理事件においても優先弁済権が認められる⇒成年後見人において弁済しても不測の損害は生じない。
ex.
水道料金、ガス代、電気代等:日用品供給の先取特権。
葬式費用:原則としては相続人に委ねるべきものであるが、相続人がいない場合には、成年被後見人の身分に応じてなしたる費用は弁済できる。
B借家の家賃。
借家権も相続の対象となる⇒解約するか否かは相続人のん判断に委ねるべきであり、それに伴い滞納家賃も相続人において弁済すべき。
相続人がいない場合、明渡し処理や原状回復、敷金の処理が伴う⇒相続財産管理人に委ねるべき。
相続人の所在を調査するのに時間を要する場合、家賃を払わないと契約を解除される⇒事案によっては、応急処分義務として、家賃を支払う必要がある。
●以上より、債務の弁済ができる基準としては、「後見事務の履行として負担した債務で、先取特権の趣旨等を参考にして判断する」。
債務超過の場合、事務管理法理による弁済については、慎重にならざるを得ない。
管理の計算 規定 民法 第870条(後見の計算)
後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は、二箇月以内にその管理の計算(以下「後見の計算」という。)をしなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。
民法 第873条(返還金に対する利息の支払等)
後見人が被後見人に返還すべき金額及び被後見人が後見人に返還すべき金額には、後見の計算が終了した時から、利息を付さなければならない。
2 後見人は、自己のために被後見人の金銭を消費したときは、その消費の時から、これに利息を付さなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。.
説明 成年後見人の任務終了⇒2か月以内にその管理の計算をしなければならない。
家庭裁判所において伸長可能⇒2か月以上の期間が必要が事情があるときは、期間伸長の申立てをしておこう。
成年後見人が死亡したことで任務が終了する場合、この管理計算の義務を負うのは成年後見人の相談人に対して。
成年後見人等が成年後見人等に返還すべき義務及び成年被後見人等が成年後見人等に返還すべき金額には、この計算が終了したときから、利息をつねかくてはならない。
終了登記 第8条(終了の登記)
後見等に係る登記記録に記録されている前条第一項第一号に掲げる者は、成年被後見人等が死亡したことを知ったときは、終了の登記を申請しなければならない。
2 任意後見契約に係る登記記録に記録されている前条第一項第二号に掲げる者は、任意後見契約の本人の死亡その他の事由により任意後見契約が終了したことを知ったときは、嘱託による登記がされる場合を除き、終了の登記を申請しなければならない。
3 成年被後見人等の親族、任意後見契約の本人の親族その他の利害関係人は、後見等又は任意後見契約が終了したときは、嘱託による登記がされる場合を除き、終了の登記を申請することができる。
本人死亡により後見は終了⇒成年後見登記については成年後見人等が終了の登記申請をする必要。(後見登記8条)
東京法務局宛てに成年後見人の資格で終了登記申請書を郵送。
登記印紙なっどは不要。
報酬請求 成年後見人等はそれまでの任務を果たしたことに対し、報酬を請求。
〜家庭裁判所に報酬付与の審判の申立。
費用については、適宜出捐して、返還を受けておくべき。
引渡前に報酬付与の審判申立を行い、その審判を得て管理財産から報酬を控除した上で、相続人に引き渡すのがベター。
←管理財産を成年被後見人の相続人に引き渡してしまった後では報酬の引当となる資産が無くなる。
相続人等への財産の引渡 本人死亡⇒相続人に財産を引き渡す。
●相続人調査義務:
財産を返還する相手を特定するために、相続人調査。
日常生活自立支援事業や財産管理委任契約を締結する場合、契約終了時の受取人を指定してもらい、契約終了後の保管期間を定め、期間経過後は保管責任がないとすることで対応。
●相続人が多数いる場合:
相続人間において遺産分割協議をしてもらった上で、それに従って引渡しをするか、遺産分割協議に時間を要する場合には、とりあえず、全員の印鑑証明付の委任状で受領代表者を定めてもらい、これに引き渡す。
受領代表者が決まらない場合、相続人の1人から遺産分割審判申立をしてもらい、審判前の保全処分(家審15の3)で財産管理者が選任されれば、財産管理者に財産を引き渡す。
●弁済供託はできないか?
法務局において供託できるのは、金銭又は有価証券でそれ以外の物(通帳等)は供託できない。
物の供託も供託法上は可能であり、法務大臣が指定する倉庫業者等に供託できるとされるが(供託法5条)が、実際には倉庫業者等は受け入れたがらない。
⇒審判前の保全処分による財産管理人の選任を利用するしかない。
規定 民法 第494条(供託) 
債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。
第495条(供託の方法)
前条の規定による供託は、債務の履行地の供託所にしなければならない。
2 供託所について法令に特別の定めがない場合には、裁判所は、弁済者の請求により、供託所の指定及び供託物の保管者の選任をしなければならない。
3 前条の規定により供託をした者は、遅滞なく、債権者に供託の通知をしなければならない。
供託法 第5条〔供託物の保管者の指定〕
法務大臣ハ法令ノ規定ニ依リテ供託スル金銭又ハ有価証券ニ非サル物品ヲ保管スヘキ倉庫営業者又ハ銀行ヲ指定スルコトヲ得
A倉庫営業者又ハ銀行ハ其営業ノ部類ニ属スル物ニシテ其保管シ得ヘキ数量ニ限リ之ヲ保管スル義務ヲ負フ.
●遺言がある場合
遺言執行者の指定があり就任を承諾した遺言執行者からの請求があれば、これに引き渡すことになる。
遺言の執行が必要であるのに指定がない場合等⇒裁判所により選任された遺言施行者からの請求をまつ。(民法1010条)
遺言による包括受遺者については、相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)⇒その身分の証明があれば、これに引き渡す。
なお、包括遺贈の場合は、相続人がいなくても、相続財産管理人を選任することはできない。
相続財産管理人選任申立 規定 民法 第951条(相続財産法人の成立) 
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
民法 第952条(相続財産の管理人の選任)
前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。
説明 相続人がいないが財産が残存⇒成年後見人や財産管理権を有する保佐人・補助人は、「利害関係人」として財産管理人選任の申立てをする(民法952条)。
●調査費用(戸籍取寄費用)、申立費用(収入印紙、予納郵便切手、官報公告料)
●予納金
●弁護士費用
任務終了の報告 相続財産等の引継ぎも完了し、全ての事務が終了⇒家庭裁判所に報告書を提出。




成年後見・財産管理の制度比較
財産管理契約
(任意代理契約)
任意後見制度 法定後見
後見 保佐 補助
制度 弁護士等に財産管理等を委任。

契約。
任意後見契約に関する法律に基づく制度。

本人に判断能力のあるうちに、将来任意後見人となる人と本人との間で、公正証書による「任意後見契約」を締結。

判断力が減退したときに契約を発動させる。

任意後見人を任意後見監督人がチェック
判断力が減退した者に対して、家庭裁判所が後見人を選任。

家庭裁判所への申立が必要

申立てできるのは、親族や市町村長等に限定(親族不在や親族が非協力な場合のため、市町村長に申立権がある⇒虐待事例などでは積極的に活用すべき。)
本人の判断能力 契約時に契約を理解する能力が必要 契約時に契約を理解する能力が必要(公証人が能力確認を行う。) 現在、判断能力を常に欠いている者のための制度 現在、判断能力が著しく不十分な者のための制度 現在、判断能力が不十分な者のための制度。
管理開始時期 契約で規定。
本人の能力が減退する前から財産管理等を始めることも可能。
判断能力が不十分になったときに、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てて、任意後見監督人が選任されると、任意後見が開始。 家庭裁判所が選任して審判が確定する開始。
管理人 選べる 選べる(後見監督人は家庭裁判所が選任する。) 選べない。
家庭裁判所が選任する(推薦はできる。)。
代理権 契約で定める。
判断力が喪失した後も、契約の効力は持続すると解釈。
契約で定める。 包括的な代理権あり(民法859条)。
ただし、居住用不動産の処分については、家庭裁判所の許可を要する(民法859条の3)
原則として代理権はない。

家庭裁判所に申し立てて、家庭裁判所に、特定んぼ行為についての代理権を付与してもらうことはできる。
ただし、この審判をするには、本人の同意が必要(民法876条の4、876条の9)。
取消権 ない ない ある(民法9条)
ただし、日常生活に関する行為は除く。
民法13条に規定する重要行為については、当然に取消権あり。

それ以外の行為についても取消権が必要な場合は、行為を特定して家庭裁判所に申立て、付与審判をもらう。
当然には取消権はない。

必要な場合は、特定の行為について家庭裁判所に申し立て、取消権付与審判をしてもらうことになるが、本人の同意が必要であり、民法13条の重要行為に限る。
不動産処分

訴訟
売却時に本人が判断力を喪失していると、財産管理人の名では移転登記ができない⇒処分ができない。

訴訟提起時に判断力を喪失⇒訴訟当事者たりえないし、代理人も選任できない。
契約で定めておけば、任意後見人の名で移転登記できるし、訴訟もできる。 後見人の名で移転登記できるし、訴訟当事者たりうる(ただし、居住用不動産の処分については家庭裁判所の許可を要する。) 代理権が付与されていればできる。
(ただし、居住用不動産の処分については家庭裁判所の許可を要する。)
財産を狙う親族・知人等 本人が解約してしまうと契約は終了するのが原則。
但し、本人に解約の意味を認識できるだけの判断能力がない場合には、別途検討が必要。
任意後見監督人が選任された後は、「正当な理由がある」と家庭裁判所が許可しない限り、解約できない。 法律が定める範囲で、権限はゆるがない。 法律や家庭裁判所が定める範囲で、権限はゆるがない。ただし、補助は、審判をする際には本人の同意が必要。


全体
制度選択 本人の判断能力不十分⇒法定後見
判断能力あり⇒財産管理契約か任意後見契約
判断能力あるが今から財産管理を希望⇒財産管理契約
財産管理の場合、解約可能性や対外的対応の困難さ(銀行手続、不動産処分など)がある。