シンプラル法律事務所
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論点整理(内部統制関係)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

会社法と金商法の内部統制システムの位置づけ
会社法上の内部統制 趣旨 取締役等の善管注意義務を具体化したもの。
それがきんち行われていれば、善管注意義務違反は問われない可能性が高い。
規定 会社法第362条(取締役会の権限等) 

4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備

5 大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第六号に掲げる事項を決定しなければならない。
金商法上の制度 趣旨 投資家保護
内部統制 金商法は財務報告の適正性という以上のものを求める制度は作れない。
財務報告の適正性担保のためにという限定された範囲で作られた法律上の制度。
確認書 財務諸表の適正性、財務報告の適正性を高めるための制度。
相互の関係 会社法と金商法では制度趣旨は異なる。
法令遵守して経営せよというのは会社法にいう内部統制に入っている。
⇒金商法違反も、その「法令違反」となる。

内部統制システム(会社法規定) 
内部統制システムとは 取締役等の善管注意義務を具体化したもの。
健全な会社経営を行うためには、目的とする事業の種類、性質等に応じて生じる各種のリスク、例えば、信用リスク、市場リスク、流動性リスク、事務リスク、システムリスク等の状況を正確に把握し、適切に制御すること、すなわちリスク管理が欠かせず、会社が営む事業の規模、特性等に応じたリスク管理体制(いわゆる内部統制システム)を整備することを要する。そして、重要な業務執行については、取締役会が決定することを要するから(商法二六〇条二項)、会社経営の根幹に係わるリスク管理体制の大綱については、取締役会で決定することを要し、業務執行を担当する代表取締役及び業務担当取締役は、大綱を踏まえ、担当する部門におけるリスク管理体制を具体的に決定するべき職務を負う。この意味において、取締役は、取締役会の構成員として、また、代表取締役又は業務担当取締役として、リスク管理体制を構築すべき義務を負い、さらに、代表取締役及び業務担当取締役がリスク管理体制を構築すべき義務を履行しているか否かを監視する義務を負うのであり、これもまた、取締役としての善管注意義務及び忠実義務の内容をなすものと言うべきである。
(大阪地裁H12.9.20 大和銀行株主代表訴訟)
規定
(大会社の取締役設置会社) 
大会社及び委員会設置会社においては、取締役(委員会設置会社にあっては執行役)の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備(内部統制システム)について決定しなければならないとされている。(法348条4項、362条5項、416条2項)

大会社は、取締役会で、
(6)取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制(規則100)の整備を必ず定めなければならない。(法362C(6)D)

会社法施行規則が定める体制
原則:(規則100条1項)
@取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
A損失の危険の管理に関する規程その他の体制
例:
(イ)会社の業態に応じて生じる可能性があるリスクとして、どのようなものが考えられるか
(ロ)リスクの現実化を未然に防止するための手続・機構
(ハ)リスクが現実化した場合の対処方法等

B取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
例:取締役が職務執行を行うに当たって必要な決裁体制等

C使用人の職務の執行法令及び定款に適合することを確保するための体制
例:法令遵守マニュアルの作成や使用人相互間の監督体制の創設等

D当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
例:
親会社の場合:
(イ)子会社における業務の適正確保のための議決権行使の方針
(ロ)親会社の監査役と子会社の監査役等との連絡に関する事項等
子会社の場合:
(イ)取引の強要等親会社による不当な圧力に関する予防・対処方法
(ロ)親会社の役員等との兼任役員等の子会社に対する忠実義務の確保に関する事項
(ハ)子会社の監査役と親会社の監査役等との連絡に関する事項等

監査役設置会社ではさらに:(規則100条3項)
@監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合におけるその使用人に関する事項
例:
(イ)監査役が補助使用人を求めた場合における対処方針
(ロ)補助使用人を監査役専属とするのか他の部署と兼務させるのか
(ハ)補助使用人の人数や地位等

A@の使用人の取締役からの独立性に関する事項
例:
(イ)補助使用人の異動についての監査役の同意の要否
(ロ)取締役の補助使用人に対する指揮命令権の有無
(ハ)補助使用人の懲戒についての監査役の関与等

B取締役及び使用人が監査役に報告をするための体制その他の監査役への報告に関する体制
例:
(イ)監査役に報告すべき事項の範囲
(ロ)報告すべき事項に応じたい報告方法
(ハ)使用人が、直接、監査役に報告するものとするか(内部通報制度)等

Cその他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制

事業報告への記載 決定又は決議の概要を事業報告に記載する必要(施行規則118条2号)
監査役の調査対象 監査役設置会社の監査役(監査役会設置会社にあっては監査役及び監査役会、委員会設置会社にあっては監査委員会)は、施行規則118条2号に掲げる事項を内容とする事業報告およびその付属明細書を監査し、当該事項に関する取締役の決定または取締役会の決議の内容が相当でないと認めるときは、その旨およびその理由を記載した監査報告書を作成しなければならない。(施行規則129条1項5号、130条2項2号、131条1項2号)

内部統制システム(会社法)に係る監査の実施基準
内部統制システム監査  対象 上場企業の監査役を念頭においている。
but監査役は、企業規模・業種・業態・経営上のリスクその他会社固有の監査環境に配慮して行動することが前提。
内部統制監査役監査とその重要性  監査対象  @内部統制システムに係る取締役会決議の内容が相当でないと認める理由の有無。
A取締役が行う内部統制システムの構築及び運用(あわせて「整備」)の状況における不備の有無
(3条)
「監査役は、取締役が、内部統制システムを適切に構築し運用しているかを監視し検証する」(監査役監査基準18条2項2号)
説明 適正な内部統制システムの整備義務が取締役の善管注意義務を構成

監査役としても、取締役の職務執行に対する監査の一環として、内部統制監査を実行する必要。 
監査役監査は、会社の意思決定と業務執行に日常的かつ経常的に接していることから、取締役の職務執行が会社の事業目的に照らして適切かどうかm異常な業務処理が実行されていないかを、取締役の職務執行を同時・並行的にリアルタイムで監視することが可能であるという点に、その重要な特徴がある。
監査リスク低減のためにも、実効性のある内部統制システムが整備されていることが重要。
監査役監査にあたっても、公認会計士による財務諸表監査と同様、どこに重要な問題点やリスクが潜んでいるかをみつけ、そこに重点を置いて監査を行う、いわゆる「リスク・アプローチ」の考え方が採用されている。
監査役が会社法に定める監査を行う前提として監査リスク(固有リスク、統制リスク、発見リスク)の評価を行うに当たり、自社の内部統制システムの整備状況の評価は、必要な作業。
内部統制システムが整備されていない⇒監査役の監査リスクは相当高い。
「内部統制システム」の定義   規定  監査役監査基準21条1項各号に定める以下の体制
1.取締役および使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制(「法令順守体制」)
2.取締役の職務の執行に係る情報の保存および管理に関する体制(「情報保存管理体制」)
3.損失の危険の管理に関する規程その他の体制(「損失危険管理体制」)
4.取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制(「効率性確保体制」)
5.会社ならびにその親会社および子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制(「企業集団内部統制」)
6.以下に定める監査役監査の実効性を確保するための体制(「監査役監査の実効性確保体制」) 
@監査役の職務を補助すべき使用人(「補助使用人」)に関する事項
A補助使用人の取締役からの独立性に関する事項
B取締役および使用人が監査役に報告するための体制その他の監査役への報告に関する体制
Cその他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制

会社法において規定されている会社の業務の適正を確保する体制(会社法362条4項6号、会社法施行規則100条1項、3項)をそのまま採用。
用語 会社法で用いられている用語は「会社の業務の適正を確保する体制」
「内部統制」とは、会計・監査論の領域で使用されていた用語。

リスク・アプローチに基づいて会計監査を行う際に、財務報告の信頼性、事業経営の有効性と効率性、法令遵守確保、資産保全を目的としていかなる社内体制を企業経営者が整備しているのかが、監査リスク(その中でも特に統制リスク)に対して重要な影響を与える。
経営トップを含む業務執行者が自社の業務の有効性と効率性を確保するための社内ツールが内部統制⇒経営トップが内部統制の「統制」を自ら破る行為など、経営トップに内部統制が及ばない事態は内部統制自体の欠陥ではなく、企業統治・ガバナンスの問題。
but
会社法では、「取締役」の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制(会社法362条4項6号)も含められる。
「整備」 の状況 内部統制監査役監査基準:
内部統制システムの「構築」と「運用」とをあわせて「整備」という用語を用いている。 
「整備」=「構築」+「運用」
財務報告内部統制評価監査基準:
「整備・運用」という用語〜「整備」と「運用」を別個の概念として整理。
内部統制監査役監査の基本方針       規定 (内部統制システム監査の基本方針)
第4条
1.監査役は、内部統制システムが適正に構築・運用されていることが良質な企業統治体制の確立のために必要不可欠であることを認識し、自らの責務として内部統制決議の内容及び内部統制システムの構築・運用の状況を監視し検証する。

2.監査役は、内部統制システムの重要性に対する代表取締役その他の取締役の認識及び構築・運用に向けた取組みの状況並びに取締役会の監督の状況(必要な事項の取締役会への報告状況を含む)など、会社の統制環境を監査上の重要な着眼点として内部統制システム監査を行う。

3.監査役は、内部統制システムが、会社及びその属する企業集団に想定されるリスクのうち、会社に著しい損害を及ぼすおそれのあるリスクに対応しているか否かに重点を置いて、内部統制システム監査を行う。内部統制システムがかかるリスクに対応していないと認めた場合には、監査役は、内部統制システムの不備として、代表取締役等、内部監査部門等又は内部統制部門に対して適時に指摘を行い、必要に応じ代表取締役等又は取締役会に対して助言、勧告その他の適切な措置を講じる。

4.監査役は、内部統制の実践に向けた規程類及び組織体制、情報の把握及び伝達の体制、モニタリング体制など内部統制システムの構成要素が、前項のリスクに対応するプロセスとして有効に機能しているか否かについて、監視し検証する。

5.監査役は、取締役会及び代表取締役等が適正な意思決定過程その他の適切な手続を経て内部統制システムの構築・運用を行っているか否かについて、監視し検証する。
(内部統制システムの構築・運用の状況に関する監査)
第6条

5.監査役は、前項に定める内部監査部門等との連係を通じて、内部監査部門等が各体制の構築・運用の状況を継続的に検討・評価し、それを踏まえて代表取締役等が必要な改善を施しているか否かなど、内部統制システムのモニタリング機能の実効性について、監視し検証する。
「統制環境」に対する監査役監査の重要性(4条2項) 「統制環境」は、内部統制システムの重要な構成要素であり、特にコンプライアンスおよびリスク管理の浸透に当たって、経営トップの役割が最も重要。
ex.
経営トップの号令による会社利益至上主義、ワンマントップによる私利私欲・保身、歴代トップによる悪弊の継続ないし事なかれ主義など⇒企業不祥事。
「統制環境」とは「組織の気風を決定し、組織内のすべての者の統制に対する意識に影響を与えるとともに、他の基本的要素の基礎をなし、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング及びITへの対応に影響を及ぼす基礎をいう」(財務報告内部統制評価監査基準)
経営トップを含む業務執行取締役が、会社の健全で持続的な成長を確保するため、自らの責務として内部統制システムを整備しているのか否か、またそうした業務執行取締役の職務執行の状況を取締役会が適正に監督しているのか否かが、実効的な内部統制システムの前提となる統制環境として重要。
監査役も、業務プロセスや統制活動の内容の1つ1つの細部について監査役自らがチェックする義務があるというより、業務執行者がいわゆる「PDCAサイクル(Plan-doーcheck-act)」をきちんと回しているのかを統制環境を含めて監視・検証することが重要。
内部統制監査役監査における「リスク・アプローチ」(4条3項) 内部統制システムに対する監査役監査においても、他の監査役監査の場合と同様、「リスク・アプローチ」に則って、どこに重要な問題点やリスクが潜んでいるのかをみつけ、そこに重点を置いて監査を行う方法が基本となる。
監査役が監査を行うに当たっては、業務執行取締役等が行うリスクのプロセス管理において「会社に著しい損害を及ぼすおそれのある」リスク(会社法357条1項、385条1項参照)が看過されることなく適正な対応が施されているのかに重点を置くことが、適切な監査方法として考えられる。
会社法 第357条(取締役の報告義務)
取締役は、株式会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を株主(監査役設置会社にあっては、監査役)に報告しなければならない。
会社法 第385条(監査役による取締役の行為の差止め)
監査役は、取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。
内部統制システムの「不備」(4条3項) 内部統制システムの整備状況が会社に著しい損害を与えるおそれのあるリスクに対応していないことを「不備」と言及。
会社法 第382条(取締役への報告義務)
監査役は、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に報告しなければならない。
内部統制システムの整備状況が会社に著しい損害を与えるおそれのあるリスクに対応していないと認められる場合には、監査役としてまさに指摘すべき「不備」に該当する。
内部統制監査役監査における「プロセス・チェック」(4条4項) 内部統制は、組織内のすべての者が業務の中で遂行する一連の動的なプロセス。
内部統制システムの整備は、重要なリスクに至る異常シグナルを早期に発見する「リスクのプロセス管理」作業。
具体的には、
@リスクの適正な特定作業、
A特定されたリスクへの具体的な統制活動、
B@Aに対する日常的な監査を通じた評価、
C見直すべき点について適正な改善
というプロセスがいわゆる「P(計画)D(実行)C(チェック)A(改善)サイクル」として組み込まれ継続的に回っていることが、内部統制というシステムが機能している状況。
内部統制監査役監査でも、内部統制システムがそうした動的なプロセスとして有効に機能しているのか、監査することが重要。
モニタリング機能に対する監査(6条5項) 内部統制の構成要素の中でも、「モニタリング機能」が有効に機能しているのか否かを監視し検証することが監査役として重要である旨規定。(6条5項)
「モニタリング」とは、内部統制が有効に機能していることを継続的に評価するプロセス。
@現場担当者によるモニタリングなど業務に組み込まれて行われる「日常的モニタリング」
A当該業務から独立した内部監査部門など当該業務から独立した視点から実施される「独立モニタリング」
から構成。
内部統制システムにモニタリング機能が組み込まれている⇒内部統制システムの実効性は常に監視、評価、是正される。
具体的な監査の方法としては、リスク対応が有効であることを業務執行者がきちんと確認して必要な是正措置をとる仕組みが構築され、かつ現に実効的に運用されているのか、そうした組織としての確認・是正等の対応が業務執行者側できちんと行われているのか、という方法が考えられる。
監査役監査としては、現場主義に根ざした監査の良さを維持しつつも、業務プロセスや統制活動の内容1つ1つの細部について監査役自らがチェックしていくというより、業務執行者が「PDCAサイクル」をきちんと回して重大なリスクに対する具体的な統制活動および見直し活動を機能させているのかどうかを確認することが、「プロセス・チェック」として肝要。
「性弱説」を補う内部統制 企業で働く者に内在する「性弱説」を自律的に克服する組織的予防体制が内部統制システム。
リスクが顕在化⇒「性弱」が起因となって対外的に公表すべき事項が隠蔽される(ダスキン事件)
上位下達の組織体制⇒マイナス情報を抱え込む体質
厳しい成果主義や能力主義⇒不祥事の際の個人責任の追及と処分を強化する方向⇒社内処分をおそれる隠蔽体質
「誰が」問題なのかという話ではなく、「何が」問題なのかを問う姿勢が、モニタリング機能を含む内部統制システムの整備にあたって求められる。
意思決定プロセスの監査(4条5こう)  「監査役は、取締役会及び代表取締役等が適正な意思決定過程その他の適切な手続を経て内部統制システムの構築・運用を行っているか否かについて、監視し検証する。」(4条5項)
企業経営にはリスクがつきものであり、司法の場でも問われるのは(原則として)結果責任ではなく、あくまでかかるリスクをとった判断過程の合理性。そうした判断過程の合理性が担保されるプロセスの集合体が統合的リスク・マネジメントを含む内部統制システム。
内部統制システムの整備にかかる各種の意思決定に対しても、自社にとってふさわしい内部統制システムが何なのかについて、社会情勢や同業他社の状況、自社特有のリスク分析、専門家の意見なども踏まえて、十分な議論・討議を尽くした上で決定されているのかどうかについて、取締役会、各種関連委員会等に出席して監視することが重要。
企業価値を高める内部統制システムの整備と監査役監査 いわゆる「リスク・コントロール活動」など事前の予防的な統制活動のあり方に関しては、取締役の善管注意義務とうい法的文脈に照らしても、企業経営者に対してある程度広い裁量が認められていると考えられる。
予防はあくまで予防であって、かけた費用に対する限界効用は逓減していく。
一連の判例法においても、予防的な統制活動のあり方に関して、費用対効果を踏まえた常識的な裁量が企業経営者に認められている。
リスク・コントロールのあり方や内容については、会社経営の現場にある程度広範な裁量が認められる。
ダスキン大阪高裁判決(H18.6.9)
海外企業に外注して製造された肉まんに異物が混入した業務プロセスについて、取締役としての善管注意義務違反がないか?
「食品を販売する会社であるからといって、他の食品製造業者から食品の供給を受ける際、当然にかつ一律に、自社においても独自に検査等をしなければならないとか、試作品製造過程に自社の人材を派遣しなければならないということはでき」ないとし、下請先が国内における中華点心等の製造および販売実績を有する会社によって設立された会社であり、ISO9002認証を取得などしている以上、「具体的に原材料に食品衛生法において指定されていない添加物の1つ1つについてそれが含まれていないかを検査しているか否かを確認しなくとも、食品衛生法に関する一定の知識(個別に指定を受けない限り、添加物を使用することはできないこと等)を有することを前提に、一定の品質管理体制を有していると信頼したとしてもこれを非難することはできない」と判示
〜会社が現に整備していた食品の品質確認のためのリスク・コントロール体制について、取締役に善管注意義務違反はないと判示したと理解される。
法令順守体制のあり方に関しては、企業経営者側に与えられている裁量が年々少なくなってきている傾向。

@法令等違反に対する社会的制裁の強化
A法令等違反を行うか否かに関する経営判断・裁量はない
B法令等違反に係る損害等は常に甚大となる危険がある(リスクとしての重大性が高い場合が多い)
C法令等遵守体制については各社とも服している法令が同じであれば同種の体制を整備することとなり、整備すべき体制の水準がある程度共有化・汎用化されやすい
ex.上場企業にとって、インサイダー取引をいかに防止するのかは各社共通の法令等遵守体制

監査役としても「経営判断である」というだけで意見を述べることを差し控えることは望ましくない。
内部統制法制の導入⇒経営トップは、末端の不祥事について「知らなかった」としても、そうした不祥事を防ぐ組織的対応を可能とする一定の体制を整備していなければ、知らなかったことに対する過失を問われ、法的責任を負う場合が生じ得る。
内部統制監査役監査基準において、会社に著しい損害を生じるおそれのあるリスクに対応していないことをもって内部統制システムの「不備」と言及。
内部統制システムの「不備」と「重大な欠陥」(7条3項) 前項の監査役会の助言又は勧告にもかかわらず、代表取締役等又は取締役会が正当な理由なく適切に対応せず、かつその結果、各体制の構築・運用の状況に重大な欠陥があると認められる場合には、監査役は、必要に応じ監査役会における審議を経て、監査報告においてその旨を指摘するものとする。(基準7条4項)
会社法施行規則129条1項3号
第129条(監査役の監査報告の内容)
監査役は、事業報告及びその附属明細書を受領したときは、次に掲げる事項(監査役会設置会社の監査役の監査報告にあっては、第一号から第六号までに掲げる事項)を内容とする監査報告を作成しなければならない。
三 当該株式会社の取締役(当該事業年度中に当該株式会社が委員会設置会社であった場合にあっては、執行役を含む。)の職務の遂行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったときは、その事実
 内部統制システムに関して、監査役として取締役・取締役会に対して意見を述べるべきレベルと、監査報告に書くべきレベルは異なる。
内部統制システムの整備に関して「取締役・・の職務の遂行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実」(施行規則129条1項3号)がある場合が「重大な欠陥」に該当。
監査役監査報告の雛型:
@「「内部統制システムに関する取締役会決議「内容は相当であると認めます」
A「また、当該内部統制システムに関する取締役の職務執行についても、指摘すべき事項は認められません」
大綱としての取締役会決議の内容が相当であると認められる場合(会社法施行規則129条1項5号)であてっても、当該取締役会決議に基づいて担当取締役がその職務執行として現に整備する内部当絵師システムの状況が当該取締役の善管注意義務に反している⇒監査報告において指摘。
「重大な欠陥」はAの「指摘すべき事項」として監査報告における記載が求められる。
「不備」と「重大な欠陥」を区分することで、監査報告で内部統制の欠陥を指摘・開示することはあくまで「最終手段」であり、むしろ「より良き内部統制を目指して経営サイドと協議を重ね、システムを改善していく方向で協調活動をとることこそ、ベスト・プラクティスである」というスタンスが採用されている。
取締役会決議に対する監査
(5条)
 法362C(6)並びに会社法施行規則100@Bに定める事項を網羅しているか。 
法362C(6) @取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
Aその他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
規則100@ @取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
A損失の危険の管理に関する規程その他の体制
B取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
C使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
D当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制 
規則100B @監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
A前号の使用人の取締役からの独立性に関する事項
B取締役及び使用人が監査役に報告をするための体制その他の監査役への報告に関する体制
Cその他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制 
  取締役会において、会社に著しい損害を及ぼすおそれのあるリスクに対応した内部統制システムのあり方について、適切に議論がなされたうえで、内部統制システムの整備に係る決議がなされているか。
当該取締役会決議の内容について、必要な見直しが適時かつ適切に行われているか。
 監査役が内部統制システムに係る取締役会決議に関して助言又は勧告した指摘の内容が、取締役会決議において適切に反映されているか。反映されていない場合には正当な理由があるか。
法令等遵守体制  意義 取締役及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制(2@(2))
対応すべきリスク (1)代表取締役等が主導又は関与して法令等違反行為が行われるリスク
(トップの関与)
(2)法令等遵守の状況が代表取締役等において適時かつ適切に把握されていない結果、法令等違反行為が組織的に又は反復継続して行われるリスク
(組織ぐるみ)
(3)代表取締役等において把握された会社に著しい損害を及ぼすおそれのある法令等違反行為が、対外的に報告又は公表すべきにもかかわらず隠蔽されるリスク
(隠蔽)
  「トップの関与」「組織ぐるみ」「隠蔽」はいずれも会社の存亡にかかわる著しい損害が生じ得る重大なリスクであり、取締役としての法的責任が問われる可能性が高い事項。
統制上の要点 @認識。
A法令等を遵守した意思決定及び業務執行がなされることを確保する体制の整備。(法務部・外部専門家への相談体制等)
収益確保等を法令等遵守に優先させる意思決定が現に行われていないか。
B基本方針・行動基準等の策定。
重要法令内容の周知徹底。
Cモニタリング部門によるモニタリングと改善措置。
処分規程の整備・措置。
D定期的報告・伝達。
業務執行ラインから独立した内部通報システムなど。
損失危険管理体制 意義 損失の危険の管理に関する規程その他の体制(2@(3))
対応すべきリスク (1)損失の危険の適正な管理に必要な諸要因の事前の識別・分析・評価・対応に重大な漏れ・誤りがあった結果、会社に著しい損害が生じるリスク
(2)会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事業活動が正当な理由なく継続されるリスク
(3)会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事故その他の事象が現に発生した場合に、適切な対応体制が整備されていない結果、損害が拡大しあるいは事業が継続できなくなるリスク
 (1) リスク管理の基本プロセスにおいて重大な瑕疵があった結果、本来回避できたはずの著しい損害が生じてしまうリスク。
リスク管理:
@何がリスクかを識別、Aリスクを分析・評価して、当該リスクが現実化する可能性とリスクが現実化した際の損害等の大きさを把握、BAの結果を基に当該リスクを回避するか受容するかを決定、Cリスクを受容すると決めた場合にはリスクの現実化の可能性と現実化した際の影響を低く抑えるあtめにリスクを事前にコントロールする、という手順で行われる。
監査役としては、こうした一連の過程において正確な前提事実の把握と十分な情報収集、議論が議論がなされているかについて、取締役会やリスク管理委員会等の重要な会議への出席等を通じて監視することが求められる。
 (2) 聖域化した事業領域の放置。
 (3) クライシス・マネジメント(危機管理)における対応の誤り。 
関連する統制上の要点として「会社に著しい損害を及ぼす事態が現に生じた場合を想定し、損害を最小限にとどめるために、代表取締役等を構成員とする対策本部の設置、緊急時の連絡網その他の情報伝達体制、顧客・マスコミ・監督当局等への対応、業務の継続に関する方針等が予め定められているか」が挙げられている(9条2項8号)。
統制上の要点 @認識 
A十分な情報を踏まえたリスク分析を経た議論。
B信用・ブランドの毀損その他会社存続にかかわるリスクの認識。
リスクの発生可能性及び発生時の損害に対する評価。
他社における事故事例の把握、社会的価値観の変化、リスク要因の変化の認識と対応体制。
C事業年度ごとの重点的に取り組むべきリスク対応計画の策定。
実施状況の定期的レビュー体制。
D管理規程の整備。
規程・職務分掌に従った業務実施。
モニタリング部門によるモニタリングと改善措置。
E会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事業活動の継続についての検討。
F定期的報告・伝達。
業務執行ラインから独立した内部通報システムなど。
G対策本部の設置、緊急時の連絡網その他情報伝達体制、顧客・マスコミ・監督当局等への対応方針などの事前策定。
情報保存管理体制 意義 取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制(2@(4)) 
対応すべきリスク  (1)重要な契約書、議事録、法定帳票等、適正な業務執行を確保するために必要な文書その他の情報が適切に作成、保存又は管理されていない結果、会社に著しい損害が生じるリスク
(2)重要な営業秘密、ノウハウ、機密情報や、個人情報ほか法令上保存・管理が要請される情報などが漏洩する結果、会社に著しい損害が生じるリスク
(3)開示される重要な企業情報について、虚偽又は重大な欠落があるリスク
 (1)  
 (2)  
 (3  
統制上の要点 @認識 
A情報の作成・保存・管理のあり方に関する規程等の制定。
有効実施のための社内体制の整備。
B法定の作成資料について、記録・保存の社内体制の整備。
C重要性の区部に応じて、アクセス権限、保存期間の設定、サキュリティー・ポリシー、バックアップ等の管理体制の整備。
D個人情報等の管理方法の周知徹底。
E開示を所管する部署の設置。
開示すべき情報が迅速かつ網羅的に収集され、法令等に従い適時に正確かつ十分に開示される体制の整備。
F情報の保存管理体制。
モニタリング部門によるモニタリングと改善措置。
G定期的報告体制の整備。
内部通報システム等。
効率性確保体制 意義 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制(2@(5)) 
対応すべきリスク 経営戦略の策定、経営資源の配分、組織の構築、業績管理体制の整備等が適正に行われない結果、過度の非効率性が生じ、その結果、会社に著しい損害が生じるリスク
過度の効率性追求により会社の健全性が損なわれ、その結果、会社に著しい損害が生じるリスク 
代表取締役等が行う重要な業務の決定において、決定の前提となる事実認識に重要かつ不注意な誤りが生じ、その結果、会社に著しい損害が生じる決定が行われるリスク
統制上の要点 @認識 
A経営計画の策定、経営資源の配分、組織の構築、管理体制のあり方、ITへの対応等が適正に決定・実行・是正される仕組みの整備。
B達成可能な経営計画・事業目標等の設定。
C経営判断原則に適合した決定の確保体制。
企業集団内部統制 意義 会社並びにその親会社及び子会社からなる企業集団における業務の適正を確保するための体制(2@(6)) 
対応すべきリスク 重要な子会社において法令等遵守体制、損失危険管理体制、情報保存管理体制、効率性確保体制に不備がある結果、会社に著しい損害が生じるリスク
重要な子会社における内部統制システムの整備状況が会社において適時かつ適切に把握されていない結果、会社に著しい損害が生じるリスク
子会社を利用して又は親会社から不当な圧力を受けて不適正な行為が行われ、その結果、会社に著しい損害が生じるリスク
統制上の要点 @認識
A企業集団全体で共有すべき経営理念、行動基準、対処すべき課題の周知徹底。
それに沿った、法令等遵守、損失危険管理及び情報保存管理等に関する基準の策定とモニタリング。
B重要な子会社、内部統制リスクの大きな子会社、重要な海外子会社等が管理・モニタリング対象となっているか。
C子会社の内部統制システムの整備状況の定期的把握とモニタリング。
情報伝達体制。
D子会社監査役による適正な監査。
E企業集団内で共通化すべき情報処理等の適正なシステム化。
F達成可能な事業目標・経営計画の設定。
G子会社を利用した不適正な行為に対する把握と改善措置。
H少数株主の利益を犠牲にして親会社の利益を不当に図る行為を防止する体制の整備。
財務報告内部統制  意義 会社及びその属する企業集団に係る財務報告の適正性を確保するために必要な体制。(2@(7)
対応すべきリスク  財務担当取締役が主導又は関与して不適正な財務報告が行われるリスク
会社の経営成績や財務状況に重要な影響を及ぼす財務情報が財務担当取締役において適時かつ適切に把握されていない結果、不適正な財務報告が組織的に又は反復継続して行われるリスク
会計監査人が関与又は看過して不適正な財務報告が行われるリスク
統制上の要点  @リスクの重大性に対する認識。 
A会計・財務に関する重要な専門性を有する者の配置。
B以下の点について、財務担当取締役が適切に判断・対応し、会計監査人が適切に監査する体制の整備。
イ:売上・原価の実在性と期間配分の適切性、棚卸資産の実在性、各種引当会計上の妥当性、税効果会計の妥当性、減損会計の妥当性、ヘッジ会計の妥当性、オフバランス事項その他重要な会計処理の適正性。
ロ:重要な会計方針の変更の妥当性
ハ:資本取引、損益取引における重要な契約の妥当性
ニ:重要な資産の取得・処分等の妥当性。
ホ:資金運用の妥当性(デリバティブ取引等を含む)
ヘ:財務報告に重要な影響を及ぼすIT全般統制・情報システムの整備状況
ト:会計基準や制度の改正等の対応
チ:剰余金処分に関する方針の妥当性
リ:連結の範囲及び持分法適用会社の範囲の妥当性
ヌ:連結決算に重要な影響を及ぼす企業集団内の会社に関する、上記の各事項の適正な会計処理
C開示すべき財務情報の迅速かつ網羅的な収集。
法令に従い適時に正確かつ十分に開示される体制。
D財務担当取締役と会計監査人との間での適切な情報共有。
会計監査人の職務の遂行が適正に行われることを確保するための体制。

金融商品取引法上の内部統制関係提出書類
金融商品取引法に基づく情報開示制度の適正を確保するためのもの。
確認書制度 制度趣旨 有効な内部統制の構築を前提として、有価証券報告書等の記載内容が金融商品取引法令に基づき適正であることについて経営者が自ら確認し、その旨を記載した確認書を有価証券報告書等と合わせて提出することを義務づけるもの。
有価証券報告書等の適正性をより高めることを目的とする制度。
平成20年4月1日以降に開始する事業年度から適用。(附則第15条)
対象会社及び提出義務 @有価証券報告書提出会社
有価証券報告書を提出しなければならない会社のうち、金融商品取引所に上場している有価証券の発行者である会社その他の政令で定めるものは、有価証券報告書の記載内容が金融商品取引法令に基づき適正であることを確認した旨の確認書を当該有価証券報告書と併せて内閣総理大臣(金融庁長官)に提出しなければならない。(法24条の4の2) 
A四半期報告書提出会社(第24条の4の8第@による第24条の4の2@の準用)
B半期報告書提出会社(第24条の5の2第@による第24条の4の2@の準用)
開示内容(記載事項) @有価証券報告書に係る確認書
内閣府令で定められる(法24条の4の2@)
開示府令第17条の5は、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める様式により確認書3通を作成し、財務局長等に提出しなければならない。
内国会社の場合:第4号の2様式
外国会社の場合:第9号の2様式
A四半期報告書に係る確認書
同府令第17条の5Bの規定により有価証券報告書に係る確認書の規定が準用される。
B半期報告書に係る確認書
同府令第17条の5Bの規定により有価証券報告書に係る確認書の規定が準用される。
罰則等
内部統制報告書 内部統制とは @業務の有効性及び効率性
A財務報告の信頼性
B事業活動に関わる法令等の遵守並びに
C資産の保全という4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいい、
@統制環境、
Aリスクの評価と対応、
B統制活動、
C情報と伝達、
Dモニタリング(監視活動)及び
EIT(情報技術)への対応の
6つの基本的要素から構成される。(企業関係審議会内部統制部会報告「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」) 
制度趣旨 上場会社等に対し、財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者による評価公認会計士等による監査を義務づける。
適用 平成20年4月1日以降に開始する事業年度から適用(附則第15条) 
財務報告に係る内部統制報告書の監査 監査  内部統制報告制度の対象会社が提出する内部統制報告書には、その者と特別の利害関係のない公認会計士又は監査法人の監査をうけなければならない。(法193条の2A)
記載事項等(内部統制府令第6条ないし第9条) @内部統制監査報告等の主な記載事項
i 内部統制監査の対象
ii 内部統制監査の概要
iii 内部統制報告書における監査意見(内部統制府令第6条)
iv 追記情報(監査人が説明又は強調することが適当であると判断した事項)
A内部統制監査報告書は、財務諸表監査の監査報告書と併せて作成する(同府令第7条)。また、内部統制監査の概要は、財務諸表監査の概要書に併せて記載する。 

金融商品取引法上の内部統制
規範 法律 金融商品取引法

上場会社を対象に財務報告にかかる内部統制の経営者による評価公認会計士等による監査を義務付け。
金融庁 内閣府令 財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令(内部統制府令):
金融商品取引法第24条の4の4の規定により提出される内部統制報告書の用語、様式及び作成方法等を定める内閣府令
ガイドライン 「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令」の取扱いに関する留意事項について(内部統制ガイドライン)
Q&A 内部統制報告制度に関するQ&A:
内部統制報告制度に関して寄せられた照会等に対して行った回答等のうち、先例的な価値があると認められるものを整理したもの
企業会計審議会 基準 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
実施基準 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の実施基準
意見書(基準・実施基準を含む) 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の設定について(意見書)(平成19年2月15日)
日本公認会計士協会 委員会報告 財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い:
監査人が実施する財務報告に係る内部統制の監査における実施上の取扱いとして、具体的な監査手続、留意すべき事項、監査報告書の文例等を取りまとめたもの。
意見書
審議の背景 (1)
内部統制の充実の必要性
証券市場がその機能を十全に発揮していくためには、投資者に対して企業情報が適正に開示されることが必要不可欠となるが、昨今、有価証券報告書の開示内容など証券取引法上のディスクロージャーをめぐり不適正な事例が発生している。
これらの事例を見ると、ディスクロージャーの信頼性を確保するための企業における内部統制が有効に機能しなかったのではないかといったことがうかがわれ、このような状況を踏まえると、ディスクロージャーの信頼性を確保するため、開示企業における内部統制の充実を図る方策が真剣に検討されるべきであると考えられる。
開示企業における内部統制の充実は、個々の開示企業に業務の適正化・効率化等を通じた様々な利益をもたらすと同時に、ディスクロージャーの全体の信頼性、ひいては証券市場に対する内外の信認を高めるものであり、開示企業を含めたすべての市場参加者に多大な利益をもたらすものである。
この点に関しては、米国においても、エンロン事件等をきっかけに企業の内部統制の重要性が認識され、企業改革法(サーベインズ=オクスリー法)において、証券取引委員会(SEC)登録企業の経営者に財務報告に係る内部統制の有効性を評価した内部統制報告書の作成が義務づけられ、さらに、これについて公認会計士等による監査を受けることとされている。
また、米国以外でも、英国、フランス、韓国等において、同様の制度が導入されている。
我が国では、平成16年3月期決算から、会社代表者による有価証券報告書の記載内容の適正性に関する確認書が任意の制度として導入され、その中で財務報告に係る内部統制システムが有効に機能していたかの確認が求められてきたが、平成18年6月に成立した金融商品取引法により、上場会社を対象に、財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士等による監査が義務づけられ(内部統制報告制度)、平成20年4月1日以後開始する事業年度から適用されることとなった。
(2)
審議の経過
企業会計審議会では、平成17年1月に開催された総会において、財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者による評価の基準及び公認会計士等による検証の基準の策定について審議の開始が決定され、平成17年2月から内部統制部会において審議が進められた。同部会では、諸外国における内部統制の基準等の内容を検討するとともに、我が国会社法制との整合性等にも留意し、国際的にも説明可能で、かつ、我が国の実情にあった実効性のある基準のあり方について、審議を行った。
その上で、内部統制部会は、平成17年7月、財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について、公開草案を公表し、これに対して寄せられた意見等を踏まえて、平成17年12月8日、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準案」をとりまとめ、公表した。
さらに、基準案のとりまとめに際して、これを実務に適用していく上での実務上の指針 (実施基準)の策定を求める意見が多く出されたことから、内部統制部会では、引き続き、実施基準案の検討を行うこととした。同部会では、同部会の下に設置した作業部会における実務的な検討を踏まえて、平成18年11月、実施基準案を公開草案として公表した。
当審議会では、公開草案に寄せられた意見等を踏まえ、更に審議を行い、基準案及び実施基準案の内容を一部修正して、ここに、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の設定について(意見書)」として公表することとした。
基準の構成及び内容等 本意見書で示した基準は、「T内部統制の基本的枠組み」「U財務報告に係る内部統制の評価及び報告」「V財務報告に係る内部統制の監査」の3部から構成されている。

「T内部統制の基本的枠組み」は、経営者が整備・運用する役割と責任を有している内部統制それ自体についての定義、概念的な枠組みを示しており、
「U財務報告に係る内部統制の評価及び報告」「V財務報告に係る内部統制の監査」はそれぞれ、財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者による評価及び公認会計士等による監査の基準についての考え方を示している。
基準の主な内容は、以下のとおりである。
(1)
内部統制の基本的枠組み
内部統制は、基本的に、
企業等の4つの目的(@業務の有効性及び効率性、A財務報告の信頼性、B事業活動に関わる法令等の遵守、C資産の保全)の達成のために企業内のすべての者によって遂行されるプロセスであり、
6つの基本的要素(@統制環境、Aリスクの評価と対応、B統制活動、C情報と伝達、Dモニタリング、EITへの対応)から構成される。

このうち、財務報告の信頼性を確保するための内部統制を「財務報告に係る内部統制」と定義し、本基準では、この有効性について経営者による評価及び公認会計士等による監査を実施する際の方法及び手続についての考え方を示している。

国際的な内部統制の枠組みとして、米国のCOSO(トレッドウェイ委員会支援組織委員会)の内部統制の基本的枠組みに関する報告書(以下「COSO報告書」という。)などがあるが、本基準においては、国際的な内部統制議論がCOSO報告書をベースとしていることにかんがみ、COSO報告書の枠組みを基本的に踏襲しつつも、我が国の実情を反映し、COSO報告書の3つの目的と5つの構成要素にそれぞれ1つずつ加え、4つの目的と6つの基本的要素としている。

すなわち、内部統制の目的に関して、我が国においては、資産の取得、使用及び処分が正当な手続及び承認のもとに行われることが重要であることから、独立させて1つの目的として明示した。また、内部統制の基本的要素に関しても、COSO報告書公表後のIT環境の飛躍的進展により、ITが組織に浸透した現状に即して「ITへの対応」を基本的要素の1つに加えている。なお、COSO報告書の構成要素という用語を基本的要素としているのは、これらの要素は例示であることを明確にしたものである。

上記の内部統制の4つの目的は相互に関連を有しており、企業等は、内部統制を整備・運用することにより、4つの目的を達成していくことになる。財務報告の信頼性との関係からみると、経営者は、自社のすべての活動及び社内のすべての従業員等の行動を把握することは困難であり、それに代わって、経営者は、企業内に有効な内部統制のシステムを整備・運用することにより、財務報告における記載内容の適正性を担保することとなる。また、内部統制システムの整備・運用を通じて財務報告の信頼性を確保していくことは、業務の有効性及び効率性の確保による情報処理コストの削減、さらには、市場における資金調達機会の拡大や資金調達コストの削減等を通じて一定のメリットを企業等にもたらすこととなる。

経営者には、内部統制の基本的要素が組み込まれたプロセスを構築し、それを適切に機能させていくことが求められている。このため、単に内部統制を整備するだけでなく、それを意図していたように機能させていくことが重要となる。
なお、具体的に内部統制をどのように整備し、運用するかは、個々の企業等が置かれた環境や事業の特性、規模等によって異なるものであり、一律に示すことは適切でない。経営者には、それぞれの企業の状況等に応じて、内部統制の機能と役割が効果的に達成されるよう、自ら適切に工夫を行っていくことが期待される。
(2)
財務報告に係る内部統制の評価及び報告
経営者は、内部統制を整備・運用する役割と責任を有しており、財務報告に係る内部統制については、その有効性を自ら評価しその結果を外部に向けて報告することが求められる。
この評価は、財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性の観点から必要な範囲において行うものであり、この評価範囲は、財務報告に対する金額的及び質的影響の重要性を考慮して、合理的に決定することとした。これにより、例えば、重要性の乏しい勘定科目又は重要性の乏しい子会社若しくは関連会社などは評価の対象とする必要はない。

経営者が、内部統制の有効性を評価するに当たっては、まず、連結ベースでの財務報告全体に重要な影響を及ぼす内部統制(以下「全社的な内部統制」という。)について評価を行い、その結果を踏まえて、業務プロセスに係る内部統制について評価することとしている。これは、適切な統制が全社的に機能しているかどうかについて、まず心証を得た上で、それに基づき、財務報告に係る重大な虚偽記載につながるリスクに着眼して業務プロセスに係る内部統制を評価していくという、トップダウン型のリスク重視のアプローチを採用するものである。

経営者は、「内部統制報告書」を作成し、財務報告に係る内部統制の有効性の評価結果等を記載することとした。
(3)
財務報告に係る内部統制の監査
経営者による財務報告に係る内部統制の有効性の評価は、その評価結果が適正であるかどうかについて、当該企業等の財務諸表の監査を行っている公認会計士等(以下「監査人」という。)が監査することによって担保される。

内部統制監査と財務諸表監査が一体となって行われることにより、同一の監査証拠を双方で利用するなど効果的でかつ効率的な監査が実施されるよう、内部統制監査は、当該企業の財務諸表監査に係る監査人と同一の監査人(監査事務所のみならず、業務執行社員も同一であることを求めている。)が実施することとした。

監査人は、企業の置かれた環境等を踏まえ、経営者による内部統制の整備並びに運用状況及び評価の状況を十分に理解し、監査上の重要性を勘案して監査計画を策定する。また、監査人は、経営者による内部統制の評価の結果を監査することから、まず、経営者により決定された評価範囲の妥当性を検討し、次いで、経営者が評価を行った全社的な評価及び全社的な評価に基づく業務プロセスに係る内部統制の評価について検討する。
監査人は、経営者による財務報告に係る内部統制の有効性の評価に対する意見等を「内部統制監査報告書」として作成し報告するが、同報告書は、原則として、財務諸表監査における監査報告書と合わせて記載することとした。
(4)
公認会計士等による検証の水準とコスト負担の考慮
内部統制に係る監査人による検証は、信頼し得る財務諸表作成の前提であると同時に、効果的かつ効率的な財務諸表監査の実施を支える経営者による内部統制の有効性の評価について検証を行うものである。
また、この検証は、財務諸表監査の深度ある効率的実施を担保するためにも財務諸表の監査と一体となって行われるが、同一の監査人が、財務諸表監査と異なる水準の保証を得るために異なる手続や証拠の収集等を行うことは適当でないのみならず、同一の監査証拠を利用する際にも、保証の水準の違いから異なる判断が導き出されることは、かえって両者の監査手続を煩雑なものとすることになる。これらのことから、内部統制の有効性の評価についての検証は、「監査」の水準とすることとした。
ただし、具体的な「監査」手続等の内容を検討するに当たっては、監査人のみならず、財務諸表作成者その他の関係者にとって過度の負担にならないように留意する必要がある。このため、経営者による評価及び監査人による監査の基準の策定に当たっては、評価・監査に係るコスト負担が過大なものとならないよう、先行して制度が導入された米国における運用の状況等も検証し、具体的に以下の方策を講ずることとした。
@ トップダウン型のリスク・アプローチの活用
経営者は、内部統制の有効性の評価に当たって、まず、連結ベースでの全社的な内部統制の評価を行い、その結果を踏まえて、財務報告に係る重大な虚偽記載につながるリスクに着眼して、必要な範囲で業務プロセスに係る内部統制を評価することとした。
A 内部統制の不備の区分
本基準では、内部統制の不備を、財務報告に与える影響に応じ「重要な欠陥」と「不備」との2つに区分することとした。米国では不備を「重要な欠陥」「重大な不備」「軽微な不備」の3つに区分していることから、財務報告への影響等についての評価手続がより複雑なものになっているとの指摘がある。
B ダイレクト・レポーティングの不採用
監査人は、経営者が実施した内部統制の評価について監査を実施し、米国で併用されているダイレクト・レポーティング(直接報告業務)は採用しないこととした。この結果、監査人は、経営者の評価結果を監査するための監査手続の実施と監査証拠等の入手を行うこととなる。
C 内部統制監査と財務諸表監査の一体的実施
内部統制監査は、財務諸表監査と同一の監査人が実施することとした。これにより、内部統制監査で得られた監査証拠及び財務諸表監査で得られた監査証拠は、双方で利用することが可能となり、効果的かつ効率的な監査の実施が期待できる。
D 内部統制監査報告書と財務諸表監査報告書の一体的作成
内部統制監査報告書については、財務諸表監査報告書と合わせて記載することを原則とした。
E 監査人と監査役・内部監査人との連携
監査人は、監査役などの監視部門と適切に連携し、必要に応じ、内部監査人の業務等を適切に利用できることとした。
なお、監査役等は、独立した立場で経営者の職務の執行について業務監査の責務を担っていることから、企業等の内部統制に係る監査を業務監査として行うとともに、大会社等においては、監査役等が会計監査人が計算書類について実施した会計監査の方法と結果の相当性を評価することとされている。一方、本基準で示す内部統制の監査において、監査人は、監査役が行った業務監査の中身自体を検討するものではないが、財務報告に係る全社的な内部統制の評価の妥当性を検討するに当たり、監査役等の活動を含めた経営レベルの内部統制の整備及び運用状況を統制環境等の一部として考慮することとなる。
実施基準の内容等 既述したとおり、本来、内部統制の構築の手法等については、それぞれの企業の状況等に応じて、各企業等が自ら適切に工夫して整備していくべきものと考えられるが、それだけでは実務上の対応が困難であるとの意見が多く出されたことから、実施基準においては、各企業等の創意工夫を尊重するとの基本的な考え方を維持しつつ、財務報告に係る内部統制の構築・評価・監査について、できるだけ具体的な指針を示すこととした。
なお、実施基準では、企業等を取り巻く環境や事業の特性、規模等に応じて、内部統制を整備し、運用することが求められており、内部統制の構築・評価・監査に当たって、例えば、事業規模が小規模で、比較的簡素な組織構造を有している企業等の場合に、職務分掌に代わる代替的な統制や企業外部の専門家の利用等の可能性を含め、その特性等に応じた工夫が行われるべきことは言うまでもない。
実施基準の主な内容は、以下のとおりである。
(1)
内部統制の基本的枠組み
実施基準においては、基準に示された内部統制の4つの目的と6つの基本的要素のそれぞれについて、詳細な説明を加えている。また、内部統制の基本的な枠組みを踏まえて、内部統制報告制度の導入に向けた準備を進める企業等の参考に資するよう、財務報告に係る内部統制構築の要点を示すとともに、一般的な手続としての財務報告に係る内部統制構築のプロセスを例示した。
(2)
財務報告に係る内部統制の評価及び報告
@ 全社的な内部統制の評価項目
実施基準においては、全社的な内部統制の評価に関して具体的な評価項目を例示し、各企業等が適宜活用できることとした。
A 業務プロセスに係る内部統制の評価範囲
業務プロセスに係る内部統制の評価に関しては、既述したトップダウン型のリスク・アプローチの考え方に基づく評価が適切に行われるよう、評価範囲の決定について、絞り込みの方法を具体的に示している。
例えば、売上高等の指標を用いて、金額の高い拠点から合算し、全体の概ね3分の2程度に達するまでの拠点を重要な拠点として選定することとした。一般的な事業会社の場合、これらの重要な事業拠点における3つの勘定科目(売上、売掛金及び棚卸資産)に至る業務プロセスは、原則として評価対象となる。その上で、財務報告への影響を勘案して、重要性の大きい業務プロセスが他にある場合には、これらを個別に評価対象として追加することで適切な評価範囲を決定することとした。
B 監査人との協議
監査人が、経営者の決定した評価範囲の妥当性を検討した結果、それが適切でないと判断した場合、経営者が新たな評価範囲について、業務プロセスに係る内部統制の有効性を評価し直すことは、時間的な制約等から困難となることが想定される。
このため、実施基準では、評価範囲について、経営者が評価範囲を決定した時点で、必要に応じて監査人と事前に協議しておくことが適切であるとした。
C 重要な欠陥の判断指針
内部統制の不備のうち、重要な欠陥については、内部統制報告書において開示する必要があるが、内部統制の不備が重要な欠陥に該当するかどうかを判断する際には、不備の金額的重要性及び質的重要性を勘案して判断することとし、金額的重要性について、その判断基準を具体的に例示した。
D 評価手続等の記録及び保存
内部統制の評価に係る記録の形式、方法等について、企業の作成・使用している記録等を適宜、利用し、必要に応じそれに補足を行っていくことで足りることを明示した。
(3)
財務報告に係る内部統制の監査
既述のとおり内部統制監査は、原則として、財務諸表監査と同一の監査人が実施することとされており、実施基準では、内部統制監査に係る監査計画について、財務諸表監査に係る監査計画と一体的に策定するとともに、それぞれの監査で得られた監査証拠は相互に利用可能であることを明示した。
適用時期 本基準及び実施基準は、金融商品取引法により導入される内部統制報告制度の適用時期と合わせ、平成20年4月1日以後開始する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価及び監査から適用する。
基準 実施基準
★内部統制の基本的枠組
★内部統制の基本的枠組 ■1.内部統制の定義(目的)
■1.内部統制の定義(目的) 定義 基本的に、
@業務の有効性及び効率性、
A財務報告の信頼性、
B事業活動に関わる法令等の遵守並びに
C資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスをいい、
(1)統制環境、
(2)リスクの評価と対応、
(3)統制活動、
(4)情報と伝達、
(5)モニタリング(監視活動)及び
(6)IT(情報技術)への対応
の6つの基本的要素から構成される。
内部統制は、組織の事業活動を支援する4つの目的を達成するために組織内に構築される。
内部統制は、4つの目的の達成を絶対的に保証するものではなく、組織、とりわけ内部統制の構築に責任を有する経営者が、4つの目的が達成されないリスクを一定の水準以下に抑えるという意味での合理的な保証を得ることを目的としている。
内部統制は、組織から独立して日常業務と別に構築されるものではなく、組織の業務に組み込まれて構築され、組織内のすべての者により業務の過程で遂行される。
したがって、正規の従業員のほか、組織において一定の役割を担って業務を遂行する短期、臨時雇用の従業員も内部統制を遂行する者となる。
内部統制は、組織内のすべての者が業務の中で遂行する一連の動的なプロセスであり、単に何らかの事象又は状況、あるいは規定又は機構を意味するものではない。
したがって、内部統制は一旦構築されればそれで完成するというものではなく、変化する組織それ自体 及び組織を取り巻く環境に対応して運用されていく中で、常に変動し、見直される
なお、具体的に内部統制をどのように整備し、運用するかについては、個々の組織が置かれた環境や事業の特性等によって異なるものであり、一律に示すことはできないが、経営者をはじめとする組織内のすべての者が、ここに示した内部統制の機能と役割を効果的に達成し得るよう工夫していくべきものである。 内部統制の構築の手法等は、個々の組織が置かれた環境や事業の特性等によって異なるものであり、すべての組織に適合するものを一律に示すことはできない。
経営者は、組織を取り巻く環境や事業の特性、規模等に応じて、自らの組織に適した内部統制を整備し、運用することが求められる。
内部統制の整備及び運用に当たって配慮すべき事項として、例えば、製品市場の状況、製品及び顧客の特性、地理的な活動範囲、組織間の競争の度合い、技術革新の速度、事業規模、労働市場の状況、IT環境、自然環境への配慮等が挙げられる。
一方で、内部統制については、個々の組織の規模や形態等を問わず、共通の基本的枠組みが考えられる。
本基準における「T.内部統制の基本的枠組み」は、金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制の評価及び報告並びに監査の実施に当たって、前提となる内部統制の基本的な枠組みを示したものである。
@業務の有効性及び効率性 事業活動の目的の達成のため、業務の有効性及び効率性を高めること。  業務とは、組織の事業活動の目的を達成するため、すべての組織内の者が日々継続して取り組む活動をいう。
業務の有効性とは事業活動や業務の目的が達成される程度をいい、
業務の効率性とは、組織が目的を達成しようとする際に、時間、人員、コスト等の組織内外の資源が合理的に使用される程度をいう。
業務の有効性及び効率性は、組織全体として把握することもできるが、必要に応じて事業活動を個々の業務に細分化し、細分化した業務ごとに合理的な目的を設定することが適切である。
内部統制は、そうした個々の目的の達成を通じて最終的には組織全体としての業務の有効性及び効率性の達成を支援するべく、組織内の各業務において整備及び運用される。
業務の有効性及び効率性に関する内部統制は、業務の達成度及び資源の合理的な利用度を測定・評価し、適切な対応を図る体制を設けることにより、組織が設定した業務の有効性及び効率性に係る目標の達成を支援する。
A財務報告の信頼性 財務諸表及び財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある情報の信頼性を確保すること。  財務報告は、組織の内外の者が当該組織の活動を確認する上で、極めて重要な情報であり、財務報告の信頼性を確保することは組織に対する社会的な信用の維持・向上に資することになる。
逆に、誤った財務報告は、多くの利害関係者に対して不測の損害を与えるだけでなく、組織に対する信頼を著しく失墜させることとなる。
財務報告には、金融商品取引法や会社法などの法令等により義務付けられるもの、銀行や取引先との契約等により求められるもの、利害関係者等への自主的な開示などがあるが、 本基準において、財務報告とは、金融商品取引法上の開示書類(有価証券報告書及び有価証券届出書)に記載される財務諸表及び財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある情報 をいう(詳細は、「U.財務報告に係る内部統制の評価及び報告」1.@財務報告の範囲 参
照)。
財務報告の信頼性に係る内部統制は、財務報告の重要な事項に虚偽記載が生じることのないよう、必要な体制を整備し、運用することにより、組織の財務報告に係る信頼性を支援する。
B法令等の遵守 事業活動に関わる法令その他の規範の遵守を促進すること。  組織や組織内の者が法令の遵守を怠り、又は社会規範を無視した行動をとれば、それに応じた罰則、批判を受け、組織の存続すら危うくしかねない。
反対に、商品の安全基準の遵守や操業の安全性の確保など、法令等の遵守への真摯な取組みが認知された場合には、組織の評判や社会的信用の向上を通じて、業績や株価等の向上にも資することとなる。
このように、組織が存続し発展していくためには、事業活動に関し、法令等の遵守体制を適切に整備することが不可欠である。
事業活動に関わる法令等は、以下のものから構成される
。@ 法令
組織が事業活動を行っていく上で、遵守することが求められる国内外の法律、命令、条令、規則等。
A 基準等
法令以外であって、組織の外部からの強制力をもって遵守が求められる規範。例えば、取引所の規則、会計基準等。
B 自社内外の行動規範
上記以外の規範で組織が遵守することを求められ、又は自主的に遵守することを決定したもの。例えば、組織の定款、その他の内部規程、業界等の行動規範等。
法令等の遵守に係る内部統制は、法令等を遵守して事業活動を営むための体制を整備し、運用することであり、これらを通じ、組織の存続及び発展が図られる。
C資産の保全 資産の取得、使用及び処分が正当な手続及び承認の下に行われるよう、資産の保全を図ること。  資産が不正に又は誤って取得、使用及び処分された場合、組織の財産や社会的信用に大きな損害や影響を与える可能性がある。
また、組織が出資者等から財産の拠出等を受けて活動している場合、経営者は、これを適切に保全する責任を負っている。
さらに、監査役又は監査委員会は、会社法の規定上、業務及び財産の状況の調査をすることができるとされており、組織の資産の保全に対して重要な役割・責任を担っている。
資産には、有形の資産のほか、知的財産、顧客に関する情報など無形の資産も含まれる。
組織においては、資産の取得、使用及び処分に係る不正又は誤謬を防止するため、資産が正当な手続及び承認の下に取得、使用及び処分される体制を整備することが求められる
仮に正当な手続及び承認の下に取得、使用及び処分が行われていない場合には、すみやかに発見して対応を図る体制を整備し、運用することが求められる。
4つの目的の関係 内部統制の 4 つの目的である業務の有効性及び効率性財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守及び資産の保全は、それぞれ固有の目的ではあるが、お互いに独立して存在するものではなく、相互に密接に関連している。
内部統制は業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスであって、いずれか1つの目的を達成するために構築された内部統制であっても、他の目的のために構築された内部統制と共通の体制となったり、互いに補完し合う場合もある。
金融商品取引法で導入された内部統制報告制度は、経営者による評価及び報告と監査人による監査を通じて財務報告に係る内部統制についての有効性を確保しようとするものであり、財務報告の信頼性以外の他の目的を達成するための内部統制の整備及び運用を直接的に求めるものではない。
しかしながら、財務報告は、組織の業務全体に係る財務情報を集約したものであり、組織の業務全体と密接不可分の関係にある。したがって、経営者が財務報告に係る内部統制を有効かつ効率的に構築しようとする場合には、目的相互間の関連性を理解した上で、内部統制を整備し、運用することが望まれる。
■2.内部統制の基本的要素
■2.内部統制の基本的要素 内部統制の基本的要素とは、内部統制の目的を達成するために必要とされる内部統制の構成部分をいい、内部統制の有効性の判断の規準となる。 組織において内部統制の目的が達成されるためには、6つの基本的要素がすべて適切に整備及び運用されることが重要である。
(1)統制環境 組織の気風を決定し、組織内のすべての者の統制に対する意識に影響を与えるとともに、他の基本的要素の基礎をなし、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング及びITへの対応に影響を及ぼす基盤。 統制環境は、組織が保有する価値基準及び組織の基本的な人事、職務の制度等を総称する概念である。
組織の気風とは、一般に当該組織に見られる意識やそれに基づく行動、及び当該組織に固有の強みや特徴をいう。組織の気風は、組織の最高責任者の意向や姿勢を反映したものとなることが多い。
組織が保有する価値基準や基本的な制度等は、組織独自の意識や行動を規定し、組織内の者の内部統制に対する考え方に影響を与える。
統制環境は、他の基本的要素の前提となるとともに、他の基本的要素に影響を与える最も重要な基本的要素である。
統制環境に含まれる一般的な事項を例示すると、以下のようになる。
@ 誠実性及び倫理観
組織が有する誠実性及び倫理観は、組織の気風を決定する重要な要因であり、組織内のすべての者の社会道徳上の判断に大きな影響を与える。
誠実性及び倫理観について様々な取組みが考えられるが、例えば、組織の基本的な理念やそれに沿った倫理規程、行動指針等を作成し、これらの遵守を確保するための内部統制を構築し、経営者自らが関与してその運用の有効性を確保することが挙げられる。
A 経営者の意向及び姿勢
経営者の意向や姿勢は、組織の基本方針に重要な影響を及ぼすとともに、組織の気風の決定にも大きな影響を及ぼす。また、経営者の意向や姿勢をどのように伝えるかも組織内の者の行動に影響を与える。例えば、財務報告に関して、経営者が適正な会計処理や財務報告を尊重する意向を有し、これを実現していくための方針や原則を明確化し、これを組織の内外に適切に伝え、その実現に向けて適切な体制等を整備していくことは、財務報告の信頼性を達成するための重要な基盤となる。
経営者が組織の内外に示す声明、日常の行動、予算・人事等の方針の決定などは、組織内の者の意識を通して組織の内部統制に影響を及ぼすものである。また、経営者の意向及び姿勢は、社訓・社是、経営理念、経営計画、倫理規程、行動指針など内の諸規程に、直接的又は間接的に反映され、組織内では、それらの諸規程の内容を達成又は遵守すべく内部統制が整備及び運用される。
B 経営方針及び経営戦略
組織の目的を達成するために、組織がどのような経営方針及び経営戦略を取るかは、組織内の者の価値基準に大きな影響を与え、かつ、組織内の各業務への資源配分を決定する要因となり、他の基本的要素に大きな影響を及ぼす。また、経営方針及び経営戦略に基づく組織全体の目的は、年度別、部門別等の予算、事業計画等を通して分解・具体化され、内部統制による管理の対象とされることにより、内部統制の目的の達成に資することとなる。
C 取締役会及び監査役又は監査委員会の有する機能
取締役会及び監査役又は監査委員会は、取締役の業務を監視する職責を負う機関で、会社法上の規定により個々の企業に設けられる制度である。
例えば、取締役会及び監査役又は監査委員会が、実質的に経営者や特定の利害関係者から独立して意見を述べることができるか、モニタリングに必要な正しい情報を適時かつ適切に得ているか、経営者、内部監査人等との間で適時かつ適切に意思疎通が図られているか、取締役会及び監査役又は監査委員会の行った報告及び指摘事項が組織において適切に取り扱われているか等、取締役会及び監査役又は監査委員会の活動の有効性は、組織全般のモニタリングが有効に機能しているかを判断する重要な要因となる。
D 組織構造及び慣行
組織構造が組織の目的に適合し、事業活動を管理する上で必要な情報の流れを提供できるものとなっていることは、組織の目的を達成し、組織の情報と伝達の有効性を確保するために重要である。組織は、その規模や業務の内容、提供する製品・サービスの種類、市場の性格、地理的分散、従業員構成等に従って、組織目的に適合した組織形態、権限及び職責、人事・報酬制度などの仕組みが経営者によって適切に構築されていることが重要である。
組織の慣行は、しばしば組織内における行動の善悪についての判断指針となる。
例えば、組織内に問題があっても指摘しにくい慣行が形成されている場合には、統制活動、情報と伝達、モニタリングの有効性に重大な悪影響を及ぼすことになる。
組織の慣行は、組織の歴史、規模、業務の内容、従業員構成など組織内部の条件や、市場、取引先、株主、親会社、地域特性、産業固有の規制など組織外部の条件に合わせて形成されたものであることが多い。したがって、特に長年に亘る組織の慣行を変えるには大きな困難が伴うことがあるが、こうした慣行に組織の存続・発展の障害となる要因があると判断した場合、経営者は、適切な理念、計画、人事の方針等を示していくことが重要である。
E 権限及び職責
権限とは組織の活動を遂行するため付与された権利をいい、職責とは遂行すべき活動を遂行する責任ないし義務をいう。
事業活動の目的に適合した権限及び職責が設けられ、適切な者に割り当てられていることは、内部統制の目的の達成のために重要である。
F 人的資源に対する方針と管理
人的資源とは、組織の経営資源のうち人に関するものを指す。
人的資源に対する方針とは、経営上の方針の一部として設定される、雇用、昇進、給与、研修等の人事に関する方針である。
組織の目的を達成していくためには、組織の保有する人的資源の能力を高度に引き出していくことが重要であり、そのためには人的資源に対する方針が適切に定められていることが重要である。
(2)リスクの評価 組織目標の達成に影響を与える事象について、組織目標の達成を阻害する要因をリスクとして識別、分析及び評価するプロセス。  リスクとは、組織目標の達成を阻害する要因をいう。
具体的には、天災、盗難、市場競争の激化、為替や資源相場の変動といった組織を取り巻く外部的要因と、
情報システムの故障・不具合、会計処理の誤謬・不正行為の発生、個人情報及び高度な経営判断に関わる情報の流失又は漏洩といった組織の中で生ずる内部的要因など、様々なものが挙げられる。
ここでのリスクは、組織に負の影響、すなわち損失を与えるリスクのみを指し、組織に正の影響、すなわち利益をもたらす可能性は、ここにいうリスクには含まな い。
リスクの評価と対応の実務は、個々の組織が置かれた環境や事業の特性等によって異なるものであり、一律に示すことはできないが、リスクの評価の流れの例を示すと次のとおりである。
リスクの評価の流れ
イ. リスクの識別
リスクの評価と対応のプロセスにおいては、まずはじめに、リスクを適切に識別することが必要である。このため、組織目標の達成に影響を与える可能性のある事象を把握し、そのうちにどのようなリスクがあるのかを特定する。
リスクは、全社的なレベルから業務プロセスのレベルまで様々な段階で存在することから、各段階において適切にリスクを識別することが重要である。
ロ. リスクの分類
リスクを適切に分析及び評価するためには、識別したリスクを、全社的なリスクか 業務プロセスのリスクか、過去に生じたリスクか未経験のリスクか等の観点から分類することが重要である。
a.全社的なリスクと業務プロセスのリスク

全社的なリスクとは、組織全体の目標の達成を阻害するリスクをいう。

全社的なリスクとしては、例えば、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、経営者個人への依存等が挙げられる。財務報告の信頼性に関して、例えば、適正な会計上の見積りや予測を行っていくためには、全社的なリスクへの適切な対応が重要な要素となる。

業務プロセスのリスクとは、組織の各業務プロセスにおける目標の達成を阻害するリスクをいう。

業務プロセスのリスクについては、通常、業務の中に組み込まれた統制活動等で対応することとなるが、
全社的なリスクについては、明確な経営方針及び経営戦略の策定、取締役会及び監査役又は監査委員会の機能の強化、内部監査部門などのモニタリングの強化等、組織全体を対象とする内部統制を整備し、運用して対応することが必要となる。
b.過去に存在したことのあるリスクと未経験のリスク

リスクには、既に過去に存在したことのあるリスクと、未経験のリスクとがある。

過去に存在したことのあるリスクについては、リスクの影響を推定できるが、未経験のリスクについては、どういう影響が生じるかということについて不透明であることが多いと考えられることから、その影響について、より慎重に検討する必要がある。
なお、過去に存在したことのあるリスクであっても、時の経過とともに、状況等が変化し、影響の度合いが変化している可能性があることに留意する必要がある。
ハ. リスクの分析と評価

上記の通り識別・分類したリスクについて、当該リスクが生じる可能性及びリスクがもたらす影響の大きさを分析し、当該リスクの重要性を見積もることとなる。その上で、見積もったリスクの重要性に照らして、対応策を講じるべきリスクかどうかを評価する。
組織は、識別・分類したリスクのすべてに対応策を講じるのではなく、重要性があるものについて対応策を講じることになる。
(2)リスクへの対応 リスクの評価を受けて、当該リスクへの適切な対応を選択するプロセス
リスクへの対応に当たっては、評価されたリスクについて、その回避、低減、移転又は受容等、適切な対応を選択する。 
〔リスクへの対応の種類〕
リスクへの対応には、リスクの回避、低減、移転、受容又はその組み合わせ等がある。
・リスクの回避とは、リスクの原因となる活動を見合わせ、又は中止することをいう。
リスクの発生可能性や影響が非常に大きい、又はリスクを管理することが困難な場合等において、リスクの回避が選択されることがある。
・リスクの低減とは、リスクの発生可能性や影響を低くするため、新たな内部統制を設けるなどの対応を取ることをいう。
・リスクの移転とは、リスクの全部又は一部を組織の外部に転嫁することで、リスクの影響を低くすることをいう。
例えば、保険への加入、ヘッジ取引の締結などが挙げられる。
・ リスクの受容とは、リスクの発生可能性や影響に変化を及ぼすような対応を取らないこと、つまり、リスクを受け入れるという決定を行うことをいう。
リスクへの事前の対応に掛かる費用が、その効果を上回るという判断が行われた場合、又は、リスクが顕在化した後でも対応が可能であると判断した場合、リスクが許容できる水準以下のものであれば組織はリスクをそのまま受容することが考えられる。
(3)統制活動 経営者の命令及び指示が適切に実行されることを確保するために定める方針及び手続をいう。
権限及び職責の付与、職務の分掌等の広範な方針及び手続が含まれる。
このような方針及び手続は、業務のプロセスに組み込まれるべきものであり、組織内のすべてにおいて遂行されることにより機能するもの。 
経営者においては、不正又は誤謬等の行為が発生するリスクを減らすために、各担当者の権限及び職責を明確にし、各担当者が権限及び職責の範囲において適切に業務を遂行していく体制を整備していくことが重要となる。
その際、職務を複数の者の間で適切に分担又は分離させることが重要である。例えば、取引の承認、取引の記録、資産の管理に関する職責をそれぞれ別の者に担当させることにより、それぞれの担当者間で適切に相互牽制を働かせることが考えられる。
適切に職務を分掌させることは、業務を特定の者に一身専属的に属させることにより、 組織としての継続的な対応が困難となる等の問題点を克服することができる。
また、権限及び職責の分担や職務分掌を明確に定めることは、内部統制を可視化させ、不正又は誤謬等の発生をより困難にさせる効果を持ち得るものと考えられる。
イ.リスクの評価・対応との統合
リスクの評価と対応において、あるリスクにつき対応策を講じることが決定された場合、リスク、とりわけ業務プロセスのリスクに対応するのは、主として業務の中に組み込まれた統制活動である。この点でリスクの評価・対応と統制活動は密接な関係にある。組織は、統制活動においてリスクへの対応策が適切に実行されているかを把握し、必要に応じて、統制活動の改善を図ることが重要である。
ロ.統制活動の方針と手続
統制活動の方針は、全社にわたって標準的・統一的に定められることが適切なものについては、例えば、全社的な職務規程等の形で整備するとともに、これに加えて組織内の各部門又は活動単位ごとに定めることが適切なものについては、個々の業務手順等を整備することが考えられる。
また、この統制活動の方針を達成するため、それぞれの業務につき、必要に応じ、承認、検証、記録等の適切な手続を設けることが考えられる。
(4)情報と伝達 必要な情報が識別、把握及び処理され、組織内外及び関係者相互に正しく伝えられることを確保すること。 
組織内のすべての者が各々の職務の遂行に必要とする情報は、適時かつ適切に、識別、把握、処理及び伝達されなければならない。また、必要な情報が伝達されるだけでなく、それが受け手に正しく理解され、その情報を必要とする組織内のすべての者に共有されることが重要。
@ 情報の識別・把握・処理
組織は、認識された情報の中から真実かつ公正な情報を特定し(識別)、当該情報が組織にとって必要であると判断した場合には、その情報を情報システムに取り入れる(把握)。
情報システムとは、手作業によるか、機械化された情報システムによるかにかかわらず、情報を処理及び伝達するための仕組みをいい、情報システムに取り入れられた情報は、分類、整理、選択、演算など、目的に応じて加工される(処理)。
A 情報の伝達
組織においては、識別、把握、処理された情報が組織内又は組織外に適切に伝達される仕組みを整備することが重要となる。組織内においては、例えば、経営者の方針は組織内のすべての者に適時かつ適切に伝達される必要がある。また、不正又は誤謬等の発生に関する情報など内部統制に関する重要な情報が、経営者及び組織内の適切な管理者に適時かつ適切に伝達される仕組みを整備することが重要である。
一方、情報は組織外に対して適切に伝達又は報告される必要があり、例えば、株主、監督機関その他の外部の関係者に対する報告や開示等において、適正に情報を提供していく必要がある。また、不正又は誤謬等の重要な情報は、取引先等の関係者を通じて、組織の外部から提供されることがあるため、情報を組織の外部に伝達又は報告する仕組みだけでなく、組織の外部からの情報を入手するための仕組みも整備することが重要である。
B 内部通報制度など
組織においては、通常の伝達経路ではないものの、組織の情報と伝達及びモニタリングの仕組みの一つとして、内部通報制度を設ける場合がある。内部通報制度は、法令等の遵守等をはじめとする問題について、組織のすべての構成員から、経営者、取締役会、監査役又は監査委員会、場合によっては弁護士等の外部の窓口に直接、情報を伝達できるようにするものである。内部通報制度を導入する場合、経営者は、内部通報制度を有効に機能させるために、通報者を保護する仕組みを整備するとともに、必要な是正措置等を取るための方針及び手続を整備することが重要である。
また、組織外部の者から内部統制に関する情報が提供されることもあることから、こうした情報が寄せられた場合にどのように対応するかについての方針及び手続を定めて
おくことが重要である。
C 他の基本的要素との関係
情報と伝達は、内部統制の他の基本的要素を相互に結びつけ、内部統制の有効な運用を可能とする機能を有している。
例えば、統制環境において新たな経営方針を策定した場合、この内容が組織の適切な者に伝えられ、その内容が正確に理解されることにより、適時にリスクの評価と対応が行われ、適切な統制活動が実施される。
一方で、統制活動やモニタリングにおいて内部統制の不備に関する重要な情報が発見された場合は、その情報が経営者又は適切な管理者に伝達されることにより、必要に応じて統制環境に含まれる全社的な計画、方針等が変更される。
組織の内部統制の有効性を確保するためには、組織の情報システムが適切に構築され、質の高い情報と適切な伝達の経路が確保されることが重要である。
(5)モニタリング 内部統制が有効に機能していることを継続的に評価するプロセス。 
モニタリングにより、内部統制は常に監視、評価及び是正されることになる。
モニタリングには、業務に込みこまれて行われる日常的モニタリング及び業務から独立した視点から実施される独立的評価がある。両者は個別に又は組み合わせて行われる場合がある。
@ 日常的モニタリング
日常的モニタリングは、通常の業務に組み込まれた一連の手続を実施することで、内部統制の有効性を継続的に検討・評価することをいう。業務活動を遂行する部門内で実施される内部統制の自己点検ないし自己評価も日常的モニタリングに含まれる。
例えば、財務報告に関しては、売掛金の管理を行うために、重要な売掛金について、定期又は随時に、適切な管理者等が担当者の行った残高確認の実施過程と発見された差異の分析・修正作業を監視することがある。この手続は財務情報の正確性及び資産の実在性を確認するために有効であるとともに、不一致の存在が確認された場合には、その修正にとどまらず、販売プロセスの問題点を発見してその改善を促すことにつながり得ると考えられる。
A 独立的評価
日常的モニタリングでは発見できないような経営上の問題がないかを、別の視点から評価するために定期的又は随時に行われるものが独立的評価である。

イ. 経営者による独立的評価
経営者は、組織の代表者として内部統制の整備及び運用に最終的な責任を有しており、この観点から独立的評価を実施することになる。ただし、経営者が直接実施できる活動には限界がある。したがって、通常は、内部監査部門等に適切な指示を行い、その結果を監視することによって独立的評価を遂行することとなる。

ロ. 取締役会による独立的評価
取締役会は内部統制の整備及び運用に係る基本方針を決定する。また、取締役会は取締役の職務の執行を監督する責任を負う。
こうした機能を果たすため、取締役会は、経営者が内部統制を取締役会の決定に従って適切に整備し、運用しているか監視する責務を負っているものと考えられる。

ハ. 監査役又は監査委員会による独立的評価
監査役又は監査委員会は、取締役等の職務の執行を監査する。
監査役又は監査委員会は有効なモニタリングを実施するため、調査を補助する者を使用することがある。この際、監査役又は監査委員会は、調査を補助する者につ いて、調査対象となる業務活動、取締役等からの独立性を確保することが重要である。

ニ. 内部監査部門等による独立的評価
内部監査は、一般に、経営者の直属として設置された内部監査人が、業務活動の遂行に対して独立した立場から、内部統制の整備及び運用の状況を調査し、その改善事項を報告するものである。
B 内部統制上の問題についての報告

モニタリングを通じて識別された内部統制の不備は、その内容に則して、適切な者に適時に報告されることが必要であり、このための方針及び手続を定めておくことが重要
である。

日常的モニタリングにより識別された問題点は、通常、モニタリングを実施した部門において分析され対応が図られることとなるが、同時に、問題点とその対応策を取りまとめて、その上位の管理者等に報告するとともに、必要に応じて、経営者、取締役会、監査役又は監査委員会等にも報告することが求められる。

独立的評価により識別された問題点は、内部監査人によるものについては、経営者が適時に報告を受ける仕組みを確保することが重要であり、必要に応じて、取締役会、監査役又は監査委員会等にも報告することが求められる。取締役会、監査役又は監査委員会による独立的評価の結果は、取締役会で報告され、経営者による適切な対応を求めていくことが重要である。

経営者は、報告された問題点に対して、そのリスクを分類、分析、評価して、適切な対応を選択していく必要がある。
内部統制の不備に係る情報が、非常に広範囲にわたる内部統制の不備の兆候を示していることも多い。そのため、特定の取引又は事象に係る不備に係る報告を受けた経営者は、必要に応じて、さらに広い範囲の調査の実施について検討を指示することが重要である。
(6)IT(情報技術)への対応 ITへの対応とは、組織目標を達成するために予め適切な方針及び手続を定め、それを踏まえて、業務の実施において組織の内外のITに対し適切に対応することをいう。
ITへの対応は、内部統制の他の基本的要素と必ずしも独立に存在するものではないが、組織の業務内容がITに大きく依存している場合や組織の情報システムがITを高度に取り入れている場合等には、内部統制の目的を達成するために不可欠の要素として、内部統制の有効性に係る判断の規準となる。
ITへの対応は、IT環境への対応とITの利用及び統制からなる。
IT環境の飛躍的な進展によってITが組織に深く浸透した現状に照らして、本基準における「T.内部統制の基本的枠組み」では、「ITへの対応」を基本的要素の1つに加えている。
組織の業務内容がITに大きく依存していたり、組織の情報システムがITを高度に取り入れている等、現状では多くの組織がIT抜きでは業務を遂行することができなくなっている。
ITへの対応を基本的要素に加えたことは、組織に深くITが浸透している現状では、業務を実施する過程において組織内外のITに対し適切に対応することが、内部統制の目的を達成するために不可欠となっていることを示したものであって、組織に新たなITシステムの導入を要求したり、既存のITシステムの更新を強いるものではない。
IT環境への対応  IT環境とは、組織が活動する上で必然的に関わる内外のITの利用状況のことであり、社会及び市場におけるITの浸透度、組織が行う取引等におけるITの利用状況、及び組織が選択的に依拠している一連の情報システムの状況等をいう。 組織は、組織を取り巻くIT環境を適切に理解し、それを踏まえて、ITの利用及び統制について適切な対応を行う必要がある。個々の組織を取り巻くIT環境の具体例として、組織が考慮しなければならない項目には以下のものが挙げられる。
イ.社会及び市場におけるITの浸透度

ロ.組織が行う取引等におけるITの利用状況

ハ.組織が選択的に依拠している一連の情報システムの状況(情報システムに依拠しているかどうか、依拠している場合にどのような情報システムに依拠しているか等)

ニ.ITを利用した情報システムの安定度

ホ.ITに係る外部委託の状況
ITの利用及び統制 ITの利用及び統制とは、組織内において、内部統制の他の基本的要素の有効性を確保するためにITを有効かつ効率的に利用すること、並びに組織内において業務に体系的に組み込まれてさまざまな形で利用されているITに対して、組織目標を達成するために、予め適切な方針及び手続を定め、内部統制の他の基本的要素をより有効に機能させることをいう。 〔ITの利用〕

ITには、情報処理の有効性、効率性等を高める効果があり、これを内部統制に利用することにより、より有効かつ効率的な内部統制の構築を可能とすることができる。

イ. 統制環境の有効性を確保するためのITの利用
統制環境のうちITに関連する事項としては、例えば、次のものが挙げられる。
(ア) 経営者のITに対する関心、考え方
(イ) ITに関する戦略、計画、予算等の策定及び体制の整備
(ウ) 組織の構成員のITに関する基本的な知識や活用する能力
(エ) ITに係る教育、研修に関する方針

また、ITの利用は、統制環境の整備及び運用を効率的に行っていく上でも重要となる。例えば、電子メールといったITを利用することは、経営者の意向、組織の基本的方針や決定事項等を組織の適切な者に適時に伝達することを可能にし、統制環境の整備及び運用を支援することになる。
一方で、ITの利用は、例えば、経営者や組織の重要な構成員等が電子メール等を用いることにより、容易に不正を共謀すること等も可能としかねず、これを防止すべく適切な統制活動が必要となることにも留意する必要がある。

ロ. リスクの評価と対応の有効性を確保するためのITの利用
組織内外の事象を認識する手段として、またリスク情報を共有する手段としてITを利用することにより、リスクの評価と対応をより有効かつ効率的に機能させることが可能となる。例えば、販売管理部門又は経理部門において、売掛債権の発生や回収を適時に把握し、回収が滞っている売掛債権について別途の管理をする仕組みをITを利用して構築しておくことにより、適切な売掛債権の管理を有効かつ効率的に行うことが可能となる。
また、ITを利用して組織内部におけるリスク情報の共有状況を把握し、これに基づき、リスクが適切な者の間で共有されているかを分析し、その結果に基づいて、リスク情報の共有範囲を見直すなどの内部統制の整備を行うことも考えられる。

ハ. 統制活動の有効性を確保するためのITの利用
ITを利用した統制活動を、適切に設計して業務プロセスに組み込むことにより、統制活動の自動化が可能となる。例えば、適切な生産管理システムを開発し、その中に棚卸の検証プログラムを組み込んでおき、製造部門が製造指図書のデータに従って在庫原材料の出庫数量を入力する手続や倉庫係が日々の原材料の実在庫データを入力する手続等を業務プロセスに組み込むことにより、瞬時に帳簿在庫と実在庫の差を把握し、問題の発見に役立てることが考えられる。
統制活動が自動化されている場合、手作業による統制活動に比べて迅速な情報処理が期待できるほか、人間の不注意による誤謬等の防止も可能となり、結果として、内部統制の評価及び監査の段階における手続の実施も容易なものとなる。一方で、統制活動が自動化されているとプログラムの不正な改ざんや不正な使用等があった場合に、プログラムに精通した者しか対応できず、不正等の適時の発見が困難になるといった問題点も考えられ、適切なアクセス管理等の措置を講じておくことにつき留意する必要がある。

ニ. 情報と伝達の有効性を確保するためのITの利用
ITの利用により、組織内部での情報伝達の手段を効果的に業務プロセスに組み込むことも可能となる。ITを利用した情報システム、特にネットワークが使われている場合には、例えば、必要な承認や作業完了が一定期間に実施されないと、その旨が担当者の上司に伝達される機能など、業務管理に必要な情報の伝達を、業務プロセスに組み込むこともできる。
ホームページ上でメッセージの掲載などITを利用することにより、組織外部に向けた報告を適時に行うことが可能となるとともに、ITを利用して、自社製品へのクレーム情報等を外部から収集したりすることも可能である。ただし、組織外部への情報の公開及び情報の収集にITを利用する場合には、特に外部からの不正な侵入等に対して適切な防止措置を講じるなどの留意が必要となる。

ホ. モニタリングの有効性を確保するためのITの利用
統制活動の有効性に関する日常的モニタリングは、日常の業務活動を管理するシステムに組み込み自動化することで、より網羅的に実施することが可能となる。その結果、独立的評価に当たってリスクを低く見積もることができるため、独立的評価の頻度を低くしたり、投入する人員を少なくすることも可能となる。
一方、ITを利用したモニタリングは、予めモニタリングする指標を設定してプログラミングしておく必要があるため、システム設計段階から計画的に準備を進めることが必要となる。
以上のとおり、内部統制にITを利用することにより、より有効かつ効率的な内部統制の構築が期待できる反面、ITを高度に取り入れた情報システムは、手作業による情報システムと異なり、稼動後の大幅な手続の修正が困難であるとの問題がある。
また、システムの仕様によっては、ITを利用して実施した手続や情報の変更等が適切に記録されないことがあり、そのような場合には、事後の検証が困難となるとの問題が生じうる。
したがって、内部統制の整備及び運用に当たっては、ITを利用した情報システムの特性を十分に理解し、予め計画的に準備を進めるとともに、適切な事後の検証方法等について検討しておく必要がある。
なお、内部統制にITを利用せず、専ら手作業によって内部統制が運用されている場合には、例えば、手作業による誤謬等を防止するための内部統制を、別途構築する必要等が生じ得ると考えられるが、そのことが直ちに内部統制の不備となるわけではないことに留意する。
〔ITの統制〕

ITの統制とは、ITを取り入れた情報システムに関する統制であり、自動化された統制を中心とするが、しばしば、手作業による統制が含まれる。

イ. 組織目標を達成するためのITの統制目標
ITの統制を有効なものとするために経営者が設定する目標を、ITの統制目標と呼ぶ。ITの統制目標としては、例えば、次のものが挙げられる。
a. 有効性及び効率性:情報が業務に対して効果的、効率的に提供されていること
b. 準拠性:情報が関連する法令や会計基準、社内規則等に合致して処理されていること
c. 信頼性:情報が組織の意思・意図に沿って承認され、漏れなく正確に記録・処理されること(正当性、完全性、正確性)
d. 可用性:情報が必要とされるときに利用可能であること
e. 機密性:情報が正当な権限を有する者以外に利用されないように保護されていること

財務報告の信頼性を確保するためのITの統制は、会計上の取引記録の正当性、完全性及び正確性を確保するために実施される。
正当性とは、取引が組織の意思・意図にそって承認され、行われることをいい、完全性とは、記録した取引に漏れ、重複がないことをいい、正確性とは、発生した取引が財務や科目分類などの主要なデータ項目に正しく記録されることをいう。
金融商品取引法による内部統制報告制度においては、ITの統制についても、財務報告の信頼性を確保するために整備するものであり、財務報告の信頼性以外の他の目的を達成するためのITの統制の整備及び運用を直接的に求めるものではない。

ロ. ITの統制の構築
経営者は、自ら設定したITの統制目標を達成するため、ITの統制を構築する。
ITに対する統制活動は、全般統制と業務処理統制の二つからなり、完全かつ正確な情報の処理を確保するためには、両者が一体となって機能することが重要となる。

a.ITに係る全般統制
ITに係る全般統制とは、業務処理統制が有効に機能する環境を保証するための統制活動を意味しており、通常、複数の業務処理統制に関係する方針と手続をいう。
ITに係る全般統制の具体例としては、以下のような項目が挙げられる。
・ システムの開発、保守に係る管理
・ システムの運用・管理
・ 内外からのアクセス管理などシステムの安全性の確保
・ 外部委託に関する契約の管理
ITを利用した情報システムにおいては、一旦適切な内部統制(業務処理統制)を組み込めば、意図的に手を加えない限り継続して機能する性質を有しているが、例えば、その後のシステムの変更の段階で必要な内部統制が組み込まれなかったり、プログラムに不正な改ざんや不正なアクセスが行われるなど、全般統制が有効に機能しない場合には、適切な内部統制(業務処理統制)を組み込んだとしても、その有効性が保証されなくなる可能性がある。
こうした問題に対応していくためには、例えば、
@ システムの開発又は変更に際して、当該システムの開発又は変更が既存のシステムと整合性を保っていることを十分に検討するとともに、開発・変更の過程等の記録を適切に保存する
A プログラムの不正な使用、改ざん等を防止するために、システムへのアクセス管理に関して適切な対策を講じるなど、全般的な統制活動を適切に整備することが重要となる。

ITに係る全般統制は、通常、業務を管理するシステムを支援するIT基盤(ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク等)を単位として構築することになる。例えば、購買、販売、流通の3つの業務管理システムが1つのホスト・コンピュータで集中管理されており、すべて同一のIT基盤の上で稼動している場合、当該IT基盤に対する有効な全般統制を構築することにより、3つの業務に係る情報の信頼性を高めることが期待できる。
一方、3つの業務管理システムがそれぞれ異なるIT基盤の上で稼働している場合には、それぞれのIT基盤を管理する部門、運用方法等が異なっていることが考えられ、それぞれのIT基盤ごとに全般統制を構築することが必要となる。

b.ITに係る業務処理統制
ITに係る業務処理統制とは、業務を管理するシステムにおいて、承認された業務がすべて正確に処理、記録されることを確保するために業務プロセスに組み込まれたITに係る内部統制である。
ITに係る業務処理統制の具体例としては、以下のような項目が挙げられる。
・ 入力情報の完全性、正確性、正当性等を確保する統制
・ 例外処理(エラー)の修正と再処理
・ マスタ・データの維持管理
・ システムの利用に関する認証、操作範囲の限定などアクセスの管理
これらの業務処理統制は、手作業により実施することも可能であるが、システムに組み込むことにより、より効率的かつ正確な処理が可能となる。
■限界
■限界 @判断の誤り、不注意、複数の担当者による共謀によって有効に機能しなくなる場合がある。  内部統制の限界とは、適切に整備され、運用されている内部統制であっても、内部統制が本来有する制約のため有効に機能しなくなることがあり、内部統制の目的を常に完全に達成するものとはならない場合があることをいう。

内部統制は、判断の誤り、不注意、複数の担当者による共謀によって有効に機能しなくなる場合がある。しかし、内部統制を整備することにより、判断の誤り、不注意によるリスクは相当程度、低減されるとともに、複数の担当者が共謀して不正を行うことは、相当程度困難なものになる。

また、内部統制は、当初想定していなかった組織内外の環境の変化や非定型的な取引等には、必ずしも対応しない場合がある。しかし、例えば、当初想定していなかった環境の変化や非定型的な取引の発生しやすいプロセスに重点的に知識・経験を有する者を配置するなど、的確に内部統制を整備することによって、当初想定していなかった環境の変化や非定型的な取引に対する対応の範囲は相当程度、拡げることができる。

内部統制は、組織の経営判断において、費用と便益との比較衡量の下で整備及び運用される。組織は、ある内部統制の手続を導入又は維持することの可否を決定する際に、そのための費用と、その手続によるリスクへの対応を図ることから得られる便益とを比較検討する。

さらに、経営者が不当な目的のために内部統制を無視ないし無効ならしめることがある。
しかし、経営者が、組織内に適切な全社的又は業務プロセスレベルに係る内部統制を構築していれば、複数の者が当該事実に関与することから、経営者によるこうした行為の実行は相当程度、困難なものになり、結果として、経営者自らの行動にも相応の抑止的な効果をもたらすことが期待できる。

なお、当初想定していなかった組織内外の環境の変化や非定型的な取引等に対して、経営者が既存の内部統制の枠外での対応を行うこと、既存の内部統制の限界を踏まえて、正当な権限を受けた者が経営上の判断により別段の手続を行うことは、内部統制を無視する、又は無効にすることには該当しない。
A当初想定していなかった組織内外の環境の変化や非定型的な取引等には、必ずしも対応しない場合がある。
B内部統制の整備及び運用に際しては、費用と便益との比較衡量が求められる。
C経営者が不当な目的の為に内部統制を無視ないし無効ならしめることがある。
■役割と責任
■役割と責任  経営者 経営者は、組織のすべての活動について最終的な責任を有しており、その一環として、取締役会が決定した基本方針に基づき内部統制を整備及び運用する役割と責任がある。

経営者は、その責任を果たすための手段として、社内組織を通じて内部統制の整備及び運用(モニタリングを含む。)を行う。

経営者は、組織内のいずれの者よりも、統制環境に係る諸要因及びその他の内部統制の基本的要素に影響を与える組織の気風の決定に大きな影響力を有している。
(注) 本基準において、経営者とは、代表取締役、代表執行役などの執行機関の代表者を念頭に規定している。
経営者は、組織を代表(会社法第 349 条)し、業務を執行する権限を有するとともに、取締役会による基本方針の決定を受けて、組織の内部統制を整備及び運用する役割と責任を負っている。

経営者は、会社の代表者として有価証券報告書を提出する立場にあり、開示書類の信頼性に係る最終的な責任を有している。

金融商品取引法における内部統制報告制度においても、内部統制報告書に会社の代表者がその役職氏名を記載して提出することになると考えられ、経営者は、財務報告に係る内部統制の整備及び運用について適正に評価・報告することが求められる。

なお、会社が最高財務責任者を置いている場合には、代表者と併せて、最高財務責任者の署名等を求めることが考えられる。
取締役会 取締役会は、内部統制の整備及び運用に係る基本方針を決定する。
取締役会は、経営者の業務執行を監督することから、経営者による内部統制の整備及び運用に対しても監督責任を有している。
取締役会は、「全社的な内部統制」の重要な一部であるとともに、「業務プロセスに係る内部統制」における統制環境の一部である。
取締役会は、組織の業務執行に関する意思決定機関であり、内部統制の基本方針を決定する。
また、取締役会は、経営者の職務執行に関する監督機関であり、経営者を選定及び解職する権限を有する(会社法第 362 条、第 416 条、第 420 条)。
したがって、取締役会は経営者による内部統制の整備及び運用に対しても監督責任を有している。
監査役又監査役会 取締役及び執行役の職務の執行に対する監査の一環として、独立した立場から、内部統制の整備及び運用状況を監視、検証する役割と責任を有している。 監査役又は監査委員会は取締役等の職務の執行を監査する(会社法第 381 条第 1 項、第404 条第 2 項第 1 号)。また、監査役又は監査委員会は、会計監査を含む、業務監査を行う。

監査役又は監査委員会は、業務監査の一環として、財務報告の信頼性を確保するための体制を含め、内部統制が適切に整備及び運用されているかを監視する。また、会社法上、監査役又は監査委員会は、会計監査人が計算書類について実施した会計監査の方法と結果の相当性を評価することとされている。

一方、本基準で示す内部統制監査において、監査人は、監査役が行った業務監査の中身自体を検討するものではないが、財務報告に係る全社的な内部統制の評価の妥当性を検討するに当たり、監査役又は監査委員会の活動を含めた経営レベルにおける内部統制の整備及び運用状況を、統制環境、モニタリング等の一部として考慮する。
内部監査人 内部監査人は、内部統制の目的をより効果的に達成するために、内部統制の基本的要素の一つであるモニタリングの一環として、内部統制の整備及び運用状況を検討、評価し、必要に応じて、その改善を促す職務を担っている。
(注) 本基準において、内部監査人とは、組織内の所属の名称の如何を問わず、内部統制の整備及び運用状況を検討、評価し、その改善を促す職務を担う者及び部署をいう。
内部監査人は、内部統制の整備及び運用状況を調査、検討、評価し、その結果を組織内の適切な者に報告する。内部監査人は、経営者の直属として設置されることが多く、内部統制の独立的評価において重要な役割を担っている。

内部監査人がその業務を遂行するには、内部監査の対象となる組織内の他の部署等からの制約を受けることなく、客観性を維持できる状況になければならない。このため、経営者は、内部監査人の身分等に関して、内部監査の対象となる業務及び部署から独立し、当該業務及び部署に対し直接の権限や責任を負わない状況を確保することが重要である。

また、内部監査の有効性を高めるため、経営者は、内部監査人から適時・適切に報告を受けることができる体制を確保することが重要である。
組織内のその他の者 内部統制は、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスであることから、上記以外の組織内のその他の者も、自らの業務との関連において、有効な内部統制の整備及び運用に一定の役割を担っている。 内部統制は組織内のすべての者によって遂行されるプロセスである。上記(1)〜(4)以外の組織内のその他の者も、日常業務の中で、例えば、統制活動、組織内での情報と伝達及び日常的モニタリングなどに関する活動を遂行しており、自らの権限と責任の範囲で、有効な内部統制の整備及び運用に関して一定の役割と責任を有している。
なお、組織内のその他の者には、正規の従業員のほか、組織において一定の役割を担って業務を遂行する短期、臨時雇用の従業員も含まれる。
★財務報告に係る内部統制の評価及び報告
★財務報告に係る内部統制の評価及び報告 ■財務報告にかかる内部統制の評価の意義
■財務報告にかかる内部統制の評価の意義 (1)財務報告に係る内部統制構築の要点
以上に示した内部統制の基本的な枠組みを踏まえ、特に財務報告に係る具体的な内部統制の構築に関して、重要となる点を列挙すれば以下のとおりである。経営者は、以下に挙げるような事項を確認し、何らかの不備があった場合には、必要に応じて改善を図ることが求められる。

○ 適正な財務報告を確保するための全社的な方針や手続が示されるとともに、適切に整備及び運用されていること
・適正な財務報告についての意向等の表明及びこれを実現していくための方針・原則等の設定
・取締役会及び監査役又は監査委員会の機能発揮
・適切な組織構造の構築

○ 財務報告の重要な事項に虚偽記載が発生するリスクへの適切な評価及び対応がなされること
・重要な虚偽記載が発生する可能性のあるリスクの識別、分析
・リスクを低減する全社的な内部統制及び業務プロセスに係る内部統制の設定

○ 財務報告の重要な事項に虚偽記載が発生するリスクを低減するための体制が適切に整備及び運用されていること
・権限や職責の分担、職務分掌の明確化
・全社的な職務規程等や必要に応じた個々の業務手順等の整備
・統制活動の実行状況を踏まえた、統制活動に係る必要な改善

真実かつ公正な情報が識別、把握及び処理され、適切な者に適時に伝達される仕組みが整備及び運用されていること
・明確な意向、適切な指示の伝達を可能とする体制の整備
・内部統制に関する重要な情報が適時・適切に伝達される仕組みの整備
・組織の外部から内部統制に関する重要な情報を入手するための仕組みの整備

財務報告に関するモニタリングの体制が整備され、適切に運用されていること
・財務報告に係る内部統制の有効性を定時又は随時に評価するための体制の整備
・内部・外部の通報に適切に対応するための体制の整備
・モニタリングによって把握された内部統制上の問題(不備)が、適時・適切に報告されるための体制の整備

財務報告に係る内部統制に関するITに対し、適切な対応がなされること
・IT環境の適切な理解とこれを踏まえたITの有効かつ効率的な利用
・ITに係る全般統制及び業務処理統制の整備
(2)財務報告に係る内部統制構築のプロセス

内部統制の構築の手続は各組織において異なるが、内部統制の評価及び報告に先立つ準備作業として求められる一般的な手続を示すことは可能であると考えられたことから、以下に例示することとした。

@ 基本的計画及び方針の決定
内部統制の構築は、経営者の一貫した方針の下で実施されることが重要である。
会社法の規定によって、内部統制の基本方針は取締役会が決定することとされており、経営者は、取締役会の決定を踏まえて、財務報告に係る内部統制を組織内の全社的なレベル及び業務プロセスのレベルにおいて実施するための基本的計画及び方針を定める必要がある。
経営者が定めるべき基本的計画及び方針としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。
. 適正な財務報告を実現するために構築すべき内部統制の方針・原則、範囲及び水準
. 内部統制の構築に当たる経営者以下の責任者及び全社的な管理体制
. 内部統制の構築に必要な手順及び日程
. 内部統制の構築に係る個々の手続に関与する人員及びその編成並びに事前の教育・訓練の方法等

A 内部統制の整備状況の把握
内部統制の基本的計画及び方針が決定された後、組織内では、内部統制の整備状況を把握し、その結果を記録・保存する。こうした作業は、経営者及び内部統制の構築に責任を有する者の指示の下、組織内における全社的なプロジェクトとして実施されることが有効である。
財務報告に係る全社的な内部統制については、既存の内部統制に関する規程、慣行及びその遵守状況等を踏まえ、全社的な内部統制の整備状況を把握し、記録・保存する。特に、暗黙裡に実施されている社内の決まり事等がある場合には、それを明文化しておくことが重要である。
なお、全社的な内部統制の整備状況の把握に当たっては、例えば、「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」参考1(財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例)に掲げられた項目を適宜参照することが有用と考えられる。
また、財務報告に係る業務プロセスにおける内部統制については、重要な業務プロセスについて、例えば、次のような手順で内部統制の整備状況を把握し、記録・保存する。

a.組織の重要な各業務プロセスについて、取引の流れ、会計処理の過程を、必要に応じ図や表を活用して整理し、理解する。
b.これらの各業務プロセスについて虚偽記載の発生するリスクを識別し、それらのリスクがいかなる財務報告又は勘定科目等と関連性を有するのか、また、識別されたリスクが業務の中に組み込まれた内部統制によって、十分に低減できるものになっているか、必要に応じ図や表を活用して、検討する。

上記a.b.における図や表については、「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」参考2(業務の流れ図(例)、業務記述書(例))〜参考3(リスクと統制の対応(例))が参考となる。
内部統制の整備の状況を記録し、可視化することで、内部統制の有効性に関する評価が実施できる状態となる。
(注)業務プロセスの識別の例としては、以下の図のようなものが考えられるが、組織により業務の態様等が異なるため、どのように業務プロセスを識別・整理するかについては、組織ごとに判断される必要がある。

業務プロセス細分化の例
B 把握された不備への対応及び是正
内部統制の整備状況の把握の過程で把握された内部統制の不備には適切な対応が図られなければならない。経営者及び内部統制の構築に責任を有する者は、内部統制の基本的計画及び方針に基づいて、不備の是正措置をとる。
全社的な内部統制については、例えば、「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」参考1(財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例)に掲げられた項目を参考に、問題があれば、必要な是正をする。
また、業務プロセスに係る内部統制については、例えば、次のような手順で是正する。

a.現状、業務に組み込まれている内部統制が、虚偽記載の発生するリスクを十分に低減できるものとなっていない場合には、当該内部統制を是正するための措置を講じる。
b.a.によって新たな取引の流れ、会計処理の過程ができた場合には、必要に応じAa.及びb.の図や表を更新する。

売上勘定に関係する業務 売掛金勘定に関係する業務
事業Aに係る販売業務
事業Bに係る販売業務
輸出販売業務
卸売販売業務 店頭販売業務
通信販売業務
事業又は業務
業務プロセス
組織における業務
受注 出荷 売上計上
勘定科目

金融商品取引法で求める内部統制報告制度は、財務報告の信頼性を確保することが目的であって、財務報告に係る内部統制の不備は、内部統制報告に先立って、適切に対応及び是正されていることが期待される。経営者は、内部統制報告の実施までに、自社内の内部統制が有効なものとなるよう改善していくことが求められる。
経営者は、内部統制を整備及び運用する役割と責任を有している。
特に、財務報告の信頼性を確保するため、「内部統制の基本的枠組み」において示された内部統制のうち、財務報告に係る内部統制については、一般に公正妥当と認められる内部統制の評価の基準に準拠して、その有効性を自ら評価しその結果を外部に向けて報告することが求められる。
なお、本基準において、次の用語は以下の意味で使われる。 
(1) 「財務報告」とは、財務諸表及び財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項等に係る外部報告をいう。
(2) 「財務報告に係る内部統制」とは、財務報告の信頼性を確保するための内部統制をいう。
(3) 「財務報告に係る内部統制が有効である」とは、当該内部統制が適切な内部統制の枠組みに準拠して整備及び運用されており、当該内部統制に重要な欠陥がないことをいう。
(4) 「重要な欠陥」とは、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備をいう。
@ 財務報告の範囲

イ. 「財務諸表」とは、連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和 51 年大蔵省令第 28 号)第 1 条に規定する連結財務諸表及び財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和 38 年大蔵省令第 59 号)第 1 条に規定する財務諸表をいう。

ロ. 「財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項等」とは、有価証券報告書等における財務諸表以外の開示事項等で次に掲げるものをいう。
a. 財務諸表に記載された金額、数値、注記を要約、抜粋、分解又は利用して記載すべき開示事項(以下「財務諸表の表示等を用いた記載」という。)。
例えば、有価証券報告書の記載事項中、「企業の概況」の「主要な経営指標等の推移」の項目、「事業の状況」の「業績等の概要」、「生産、受注及び販売の状況」、「研究開発活動」及び「財政状態及び経営成績の分析」の項目、「設備の状況」の項目、「提出会社の状況」の「株式等の状況」、「自己株式の取得等の状況」、「配当政策」及び「コーポレート・ガバナンスの状況」の項目、「経理の状況」の「主要な資産及び負債の内容」及び「その他」の項目、「保証会社情報」の「保証の対象となっている社債」の項目並びに「指数等の情報」の項目のうち、財務諸表の表示等を用いた記載が挙げられる。
なお、この点に係る経営者の評価は、財務諸表に記載された内容が適切に要約、抜粋、分解又は利用される体制が整備及び運用されているかについてのものであることに留意する。

b. 関係会社の判定、連結の範囲の決定、持分法の適用の要否、関連当事者の判定その他財務諸表の作成における判断に密接に関わる事項
例えば、有価証券報告書の記載事項中、「企業の概況」の「事業の内容」及び「関係会社の状況」の項目、「提出会社の状況」の「大株主の状況」の項目における関係会社、関連当事者、大株主等の記載事項が挙げられる。
なお、この点に係る経営者の評価は、これらの事項が財務諸表作成における重要な判断に及ぼす影響の大きさを勘案して行われるものであり、必ずしも上記開示項目における記載内容の全てを対象とするものではないことに留意する。

A 重要な欠陥の判断指針
本基準においては、財務報告の信頼性に与える影響の程度の観点から、重要な欠陥の判断指針を示している。重要な欠陥の判断指針は、企業の置かれた環境や事業の特性等によって異なるものであり、一律に示すことはできないが、基本的には、財務報告全般に関する虚偽記載の発生可能性と影響の大きさのそれぞれから判断される。
したがって、以下に述べる重要な欠陥の判断指針は、不備が重要な欠陥に該当するか判断する際に用いられるものであり、U.2.(2)A「評価対象とする業務プロセスの識別」において個別に評価対象に追加する業務プロセスを決定する際に用いる指針として示したものではないことに留意する必要がある。

イ.内部統制の不備
内部統制の不備は、内部統制が存在しない、又は規定されている内部統制では内部統制の目的を十分に果たすことができない等の整備上の不備と、整備段階で意図したように内部統制が運用されていない、又は運用上の誤りが多い、あるいは内部統制を実施する者が統制内容や目的を正しく理解していない等の運用の不備からなる。
内部統制の不備は単独で、又は複数合わさって、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準及び財務報告を規制する法令に準拠して取引を記録、処理及び報告することを阻害し、結果として重要な欠陥となる可能性がある。

ロ.重要な欠陥
内部統制の重要な欠陥とは、内部統制の不備のうち、一定の金額を上回る虚偽記載、又は質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性が高いものをいう。
経営者は、内部統制の不備が重要な欠陥に該当するか判断する際には、金額的な面及び質的な面の双方について検討を行う。
財務報告に係る内部統制の有効性の評価は、原則として連結ベースで行うので、重要な影響の水準も原則として連結財務諸表に対して判断する。

a. 金額的な重要性の判断
金額的重要性は、連結総資産、連結売上高、連結税引前利益などに対する比率で判断する。これらの比率は画一的に適用するのではなく、企業の業種、規模、特性など、会社の状況に応じて適切に用いる必要がある。
(注)例えば、連結税引前利益については、概ねその5%程度とすることが考えられるが、最終的には、財務諸表監査における金額的重要性との関連に留意する必要がある。

b. 質的な重要性の判断
質的な重要性は、例えば、上場廃止基準や財務制限条項に関わる記載事項などが投資判断に与える影響の程度や、関連当事者との取引や大株主の状況に関する記載事項などが財務報告の信頼性に与える影響の程度で判断する。
■財務報告に係る内部統制の評価とその範囲 
■財務報告に係る内部統制の評価とその範囲
 
財務報告に係る内部統制の有効性の評価 経営者は、財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性の観点から必要な範囲について、財務報告に係る内部統制の有効性の評価を行わなければならない。
また、経営者は、評価に先立って、予め財務報告に係る内部統制の整備及び運用の方針及び手続を定め、それらの状況を記録し保存しておかなければならない。
なお、財務報告に係る内部統制の有効性の評価は、原則として連結ベースで行うものとする(企業集団全体に関わり連結ベースでの財務報告全体に重要な影響を及ぼす内部統制を以下「全社的な内部統制」という。)。
(注) 外部に委託した業務の内部統制については評価範囲に含める。
@ 連結ベースの評価範囲
「財務報告に係る内部統制の有効性の評価は、原則として連結ベースで行うものとする」とは、連結財務諸表を構成する有価証券報告書提出会社及び当該会社の子会社並びに関連会社を、財務報告に係る内部統制の評価範囲の決定手続を行う際の対象とすることをいい、次の点に留意するものとする。

イ. 連結対象となる子会社等(組合等を含む。)は、評価範囲を決定する際の対象に含まれる。なお、子会社が上場しており、当該子会社が本基準に基づき内部統制報告書を作成し監査を受けている場合、親会社は、当該子会社の財務報告に係る内部統制の有効性の評価に当たって、当該子会社の財務報告に係る内部統制報告書(内部統制報告書が作成途上である場合における当該子会社からの報告等を含む。)を利用することができる。

ロ. 持分法適用となる関連会社は、評価範囲を決定する際の対象に含まれる。ただし、当該関連会社が本基準に基づき内部統制報告書を作成し監査を受けている場合、又は当該関連会社が他の会社の子会社であって当該関連会社の親会社が本基準に基づき内部統制報告書を作成し監査を受けている場合には、イ.のなお書きに準じて取り扱う。なお、当該関連会社における他の支配株主の存在の有無、当該関連会社への投資持分及び持分法損益の状況、役員(取締役、監査役等)の派遣や兼任の状況などによって、子会社と同様の評価が行えないことが考えられるが、そうした場合には、全社的な内部統制を中心として、当該関連会社への質問書の送付、聞き取りあるいは当該関連会社で作成している報告等の閲覧等適切な方法により評価を行う必要がある。

ハ. 在外子会社等についても、評価範囲を決定する際の対象に含まれる。ただし、当該在外子会社等について、所在地国に適切な内部統制報告制度がある場合には、当該制度を適宜活用することが可能である。また、所在地国に内部統制報告制度がない場合であっても、歴史的、地理的な沿革等から我が国以外の第三国の適切な内部統制報告制度が利用できることが考えられ、そのような場合には、これを適宜活用することが可能である。
A 委託業務の評価

イ. 委託業務の評価の範囲
委託業務には、例えば、企業が財務諸表の作成の基礎となる取引の承認、実行、計算、集計、記録又は開示事項の作成等の業務を企業集団の外部の専門会社に委託している場合が挙げられる。
委託業務に関しては、委託者が責任を有しており、委託業務に係る内部統制についても評価の範囲に含まれる。委託業務が、企業の重要な業務プロセスの一部を構成している場合には、経営者は、当該業務を提供している外部の受託会社の業務に関し、その内部統制の有効性を評価しなければならない。

ロ. 委託業務に係る内部統制の評価
経営者は、委託業務に係る内部統制について、当該受託会社が実施している内部統制の整備及び運用状況を把握し、適切に評価しなければならない。その際には、以下の手続のいずれかにより内部統制の有効性を評価することも考えられる。

a. サンプリングによる検証
委託業務結果の報告書と基礎資料との整合性を検証するとともに、委託業務の結果について、一部の項目を企業内で実施して検証する。
例えば、給与計算業務について、受託会社に委託した給与データの対象人数を受託会社から受領した計算データの件数と、企業において比較するとともに、無作為に抽出したその一部について、企業において検算を実施する。

b. 受託会社の評価結果の利用
委託業務に係る内部統制の整備及び運用状況に関しては、経営者は、委託業務に関連する内部統制の評価結果を記載した報告書等を受託会社から入手して、自らの判断により委託業務の評価の代替手段とすることが考えられる。その際、経営者は、当該報告書等が十分な証拠を提供しているかどうかを検討しなければならない。
評価の範囲の決定 経営者は、内部統制の有効性の評価に当たって、財務報告に対する金額的及び質的影響の重要性を考慮し、以下の事項等に関して合理的に評価の範囲を決定し、当該内部統制の評価の範囲に関する決定方法及び根拠等を適切に記録しなければならない。
 ○ 財務諸表の表示及び開示
 ○ 企業活動を構成する事業又は業務
 ○ 財務報告の基礎となる取引又は事象
 ○ 主要な業務プロセス
これらの事項については、重要な事業拠点の選定を踏まえ、財務諸表の表示及び開示について、金額的及び質的影響の重要性の観点から、評価の範囲を検討する。

この検討結果に基づいて、企業活動を構成する事業又は業務、財務報告の基礎となる取引又は事象、及び主要な業務プロセスについて、財務報告全体に対する金額的及び質的影響の重要性を検討し、合理的な評価の範囲を決定する。
経営者は、全社的な内部統制の評価を行い、その評価結果を踏まえて、業務プロセスの評価の範囲を決定する。
なお、全社的な内部統制については、以下の「業務プロセスに係る評価の範囲の決定」において記述する手順により評価の範囲を決定する対象には含まれず、原則として、すべての事業拠点について全社的な観点で評価することに留意する。
ただし、財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点に係るものについて、その重要性を勘案して、評価対象としないことを妨げるものではない。

〔業務プロセスに係る評価の範囲の決定〕
主として経理部門が担当する決算・財務報告に係る業務プロセスのうち、全社的な観点で評価することが適切と考えられるものについては、全社的な内部統制に準じて、すべての事業拠点について全社的な観点で評価することに留意する。
(注)全社的な観点で評価することが適切と考えられる決算・財務報告プロセスには、例えば、以下のような手続が含まれる。
・総勘定元帳から財務諸表を作成する手続
・連結修正、報告書の結合及び組替など連結財務諸表作成のための仕訳とその内容を記録する手続
・財務諸表に関連する開示事項を記載するための手続
ただし、財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点に係るものについて、その重要性を勘案して、評価対象としないことを妨げるものではない。
上記以外の業務プロセスについては、以下の手順で評価範囲を決定する。

@ 重要な事業拠点の選定
企業が複数の事業拠点を有する場合には、評価対象とする事業拠点を売上高等の重要性により決定する。
例えば、本社を含む各事業拠点の売上高等の金額の高い拠点から合算していき、連結ベースの売上高等の一定の割合に達している事業拠点を評価の対象とする。

(注1)事業拠点は、必ずしも地理的な概念にとらわれるものではなく、企業の実態に応じ、本社、子会社、支社、支店のほか、事業部等として識別されることがある。
また、事業拠点を選定する指標として、基本的には、売上高が用いられるが、企業の置かれた環境や事業の特性によって、異なる指標や追加的な指標を用いることがある。

(注2)一定割合をどう考えるかについては、企業により事業又は業務の特性等が異なることから、一律に示すことは困難であると考えられるが、全社的な内部統制の評価が良好であれば、例えば、連結ベースの売上高等の一定割合を概ね2/3程度とし、これに以下Aで記述する、重要性の大きい個別の業務プロセスの評価対象への追加を適切に行うことが考えられる。なお、連結ベースの売上高に対する一定割合ではなく、内部取引の連結消去前の売上高等に対する一定割合とする方法も考えられる。

(注3)関連会社については、連結ベースの売上高に関連会社の売上高が含まれておらず、当該関連会社の売上高等をそのまま一定割合の算出に当てはめることはできないことから、別途、各関連会社が有する財務諸表に対する影響の重要性を勘案して評価対象を決定する。
なお、期末日直前の買収・合併、災害等、評価作業を実施することが困難な事情がある重要な事業拠点については、評価対象から除外することができるが、この場合には、内部統制報告書において評価範囲の限定の記載を行う必要があることに留意する。

A 評価対象とする業務プロセスの識別
イ.@で選定した重要な事業拠点(持分法適用となる関連会社を除く。)における、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目(例えば、一般的な事業会社の場合、原則として、売上、売掛金及び棚卸資産)に至る業務プロセスは、原則として、すべてを評価の対象とする。
ただし、例えば、当該重要な事業拠点が行う重要な事業又は業務との関連性が低く、財務報告に対する影響の重要性も僅少である業務プロセスについては、それらを評価対象としないことができる。その場合には、評価対象としなかった業務プロセス、評価対象としなかった理由について記録しておく必要があることに留意する。
なお、棚卸資産に至る業務プロセスには、販売プロセスの他、在庫管理プロセス、期末の棚卸プロセス、購入プロセス、原価計算プロセス等が関連してくると考えられるが、これらのうち、どこまでを評価対象とするかについては、企業の特性等を踏まえて、虚偽記載の発生するリスクが的確に把えられるよう、適切に判断される必要がある。
一般に、原価計算プロセスについては、期末の在庫評価に必要な範囲を評価対象とすれば足りると考えられるので、必ずしも原価計算プロセスの全工程にわたる評価を実施する必要はないことに留意する。

ロ.@で選定された事業拠点及びそれ以外の事業拠点について、財務報告への影響を勘案して、重要性の大きい業務プロセスについては、個別に評価対象に追加する。
その際の留意点は以下のとおりである。

a.リスクが大きい取引を行っている事業又は業務に係る業務プロセス
例えば、財務報告の重要な事項の虚偽記載に結びつきやすい事業上のリスクを有する事業又は業務(例えば、金融取引やデリバティブ取引を行っている事業又は業務や価格変動の激しい棚卸資産を抱えている事業又は業務など)や、複雑な会計処理が必要な取引を行っている事業又は業務を行っている場合には、当該事業又は業務に係る業務プロセスは、追加的に評価対象に含めることを検討する。

b.見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス
例えば、引当金や固定資産の減損損失、繰延税金資産(負債)など見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセスで、財務報告に及ぼす影響が最終的に大きくなる可能性があるものは、追加的に評価対象に含めることを検討する。

c.非定型・不規則な取引など虚偽記載が発生するリスクが高いものとして、特に留意すべき業務プロセス
例えば、通常の契約条件や決済方法と異なる取引、期末に集中しての取引や過年度の趨勢から見て突出した取引等非定型・不規則な取引を行っていることなどから虚偽記載の発生するリスクが高いものとして、特に留意すべき業務プロセスについては、追加的に評価対象に含めることを検討する。

d.上記その他の理由により追加的に評価対象に含める場合において、財務報告への影響の重要性を勘案して、事業又は業務の全体ではなく、特定の取引又は事象(あるいは、その中の特定の主要な業務プロセス)のみを評価対象に含めれば足りる場合には、その部分だけを評価対象に含めることで足りる。
〔監査人との協議〕

監査人による評価範囲の妥当性の検討の結果、後日、経営者の決定した評価範囲が適切でないと判断されることが考えられ、この場合、経営者は、新たな評価範囲について、評価し直す必要が生じるが、その手続の実施は、時間的な制約等から困難になる場合も想定される。したがって、経営者は、評価の範囲を決定した後に、当該範囲を決定した方法及びその根拠等について、必要に応じて、監査人と協議を行っておくことが適切である。
■財務報告に係る内部統制の評価の方法
■財務報告に係る内部統制の評価の方法 経営者による内部統制評価 経営者は、有効な内部統制の整備及び運用の責任を負う者として、財務報告に係る内部統制を評価する。
経営者は、内部統制の評価に当たって、連結ベースでの財務報告全体に重要な影響を及ぼす内部統制(以下「全社的な内部統制」という。)の評価を行った上で、その結果を踏まえて、業務プロセスに組み込まれ一体となって遂行される内部統制(以下「業務プロセスに係る内部統制」という。)を評価しなければならない。
なお、経営者による内部統制評価は、期末日を評価時点として行うものとする。 
@ 内部統制の評価体制
経営者による評価とは、一義的には、経営者自らが企業の内部統制の評価を行い、評価の結果を表明することを意味する。内部統制の評価の最終的な責任は経営者にあり、評価の計画、実施、評価結果の責任は経営者が負うことになる。
ただし、経営者がすべての評価作業を全て実施することは困難であり、経営者の指揮下で経営者を補助して評価を行う責任者を指定するほか、通常、経営者の指揮下で評価を行う部署や機関を設置することが考えられるが、例えば、自らの業務を評価することとならない範囲において、経理部、内部監査部など既設の部署を活用することも考えられる。
経営者を補助して評価を実施する部署及び機関並びにその要員は、評価の対象となる業務から独立し、客観性を保つことが求められる。また、評価に必要な能力を有していること、すなわち、内部統制の整備及びその評価業務に精通していること、評価の方法及び手続を十分に理解し適切な判断力を有することが必要である。
日常の業務を遂行する者又は業務を執行する部署自身による内部統制の自己点検は、それのみでは独立的評価とは認められないが、内部統制の整備及び運用状況の改善には有効であり、独立的評価を有効に機能させることにもつながるものである。自己点検による実施結果に対して独立したモニタリングを適切に実施することにより、内部統制の評価における判断の基礎として自己点検を利用することが考えられる。
A 専門家の業務の利用
経営者は、財務報告に係る内部統制の評価作業の一部を、社外の専門家を利用して実施することができる。
専門家による作業結果を評価の証拠として利用するかどうかについては、あくまで経営者が自らの責任において判断する必要があり、評価結果の最終的な責任は経営者が負う。そのためには、例えば、以下の事項に留意する。

イ. 専門家が、単に業務の専門的知識のみならず、内部統制の評価について経営者の依頼内容を達成するのに必要な知識と経験を有していること

ロ. 専門家に業務を依頼するにあたり、評価手続の具体的内容、評価対象期間、評価範囲、サンプル件数等の基本的要件を明確にすること

ハ. 評価手続や業務の内容を明確にするため、専門家から経営者に提出される報告に盛り込まれるべき事項を明確にすること

ニ. 専門家が実施する業務の進捗状況を定期的に検証すること

ホ. 専門家が実施した業務結果が、依頼した基本的内容を満たしているか確認すること
全社的な内部統制の評価 経営者は、全社的な内部統制の整備及び運用状況、並びに、その状況が業務プロセスに係る内部統制に及ぼす影響の程度を評価する。その際、経営者は、組織の内外で発生するリスク等を十分に評価するとともに、財務報告全体に重要な影響を及ぼす事項を十分に検討する。
例えば、全社的な会計方針及び財務方針、組織の構築及び運用等に関する経営判断、経営レベルにおける意思決定のプロセス等がこれに該当する。
@ 全社的な内部統制
全社的な内部統制企業全体に広く影響を及ぼし、企業全体を対象とする内部統制であり、基本的には企業集団全体を対象とする内部統制を意味する。ただし、企業集団内の子会社や事業部等に独特の歴史、慣習、組織構造等が認められ、当該子会社や事業部等を対象とする内部統制を別途評価対象とすることが適切と判断される場合には、個々の子会社や事業部等のみを対象とする全社的な内部統制を評価することもある。その場合、どの子会社や事業部等の単位で内部統制を識別し、評価を実施するかは経営者が財務報告への影響の重要性を勘案して適切に判断する。

〔全社的な内部統制の評価項目〕
全社的な内部統制の形態は、企業の置かれた環境や事業の特性等によって様々であり、企業ごとに適した内部統制を整備及び運用することが求められるが、各基本的要素ごとに、例えば、参考1(財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例)のような評価項目が考えられる。ただし、必ずしも参考 1 の例によらない場合があること及び参考 1 の例による場合でも、適宜、加除修正がありうることに留意する。
A 全社的な内部統制の評価方法
全社的な内部統制を評価するときは、評価対象となる内部統制全体を適切に理解及び分析した上で、必要に応じて関係者への質問や記録の検証などの手続を実施する。
全社的な内部統制と業務プロセスに係る内部統制
経営者は、全社的な内部統制の評価結果を踏まえ、業務プロセスに係る内部統制を評価するが、全社的な内部統制と業務プロセスに係る内部統制は相互に影響し合い、
補完する関係にある。経営者は両者のバランスを適切に考慮した上で内部統制の評価を行うことが求められる。

〔企業の業務の性質等によるバランスの相違〕
企業の行う業務の性質等により、全社的な内部統制と業務プロセスに係る内部統制のどちらに重点を置くかが異なることもある。例えば、組織構造が相対的に簡易な場合には、全社的な内部統制の重要性が高くなることがある。
一方、社内の規程や方針、手続に準拠して行う業務の割合が高い企業においては、業務プロセスに係る内部統制が相対的に重要となることが考えられる。例えば、多店舗に展開する小売販売業務においては、業務の手続を定型化する必要があり、販売規程、現金取扱規程、従業員教育規程、例外事項対応規程などの多くの業務プロセスに係る内部統制の手引きが作成されることになる。

経営者は、全社的な内部統制の評価結果を踏まえて、業務プロセスに係る内部統制の評価の範囲、方法等を決定する。例えば、全社的な内部統制の評価結果が有効でな
い場合には、当該内部統制の影響を受ける業務プロセスに係る内部統制の評価について、評価範囲の拡大や評価手続を追加するなどの措置が必要となる。一方、全社的な内部統制の評価結果が有効である場合については、業務プロセスに係る内部統制の評価に際して、サンプリングの範囲を縮小するなど簡易な評価手続を取り、又は重要性等を勘案し、評価範囲の一部について、一定の複数会計期間ごとに評価の対象とすることが考えられる。
なお、例えば、上記@に記載のとおり、企業集団内の子会社や事業部等の特性等にかんがみ、その重要性を勘案して、個々の子会社や事業部等のみを対象とする全社的な内部統制の評価が行われた場合には、その評価結果を踏まえて、当該子会社や事業部等に係る業務プロセスにつき、評価の範囲、方法等を調整することがありうることに留意する。
業務プロセスに係る内部統制の評価 経営者は、全社的な内部統制の評価結果を踏まえ、評価対象となる内部統制の範囲内にある業務プロセスを分析した上で、財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす統制上の要点(以下「統制上の要点」という。)を選定し、当該統制上の要点について内部統制の基本的要素が機能しているかを評価する。 経営者は、全社的な内部統制の評価結果を踏まえ、評価対象となる業務プロセスを分析した上で、財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす内部統制を統制上の要点として識別する。次に、統制上の要点となる内部統制が虚偽記載の発生するリスクを十分に低減しているかどうかを評価する。経営者は、各々の統制上の要点の整備及び運用の状況を評価することによって、当該業務プロセスに係る内部統制の有効性に関する評価の基礎とする。
@ 評価対象となる業務プロセスの把握・整理
経営者は、評価対象となる業務プロセスにおける取引の開始、承認、記録、処理、報告を含め、取引の流れを把握し、取引の発生から集計、記帳といった会計処理の過程を理解する。把握された業務プロセスの概要については、必要に応じ図や表を活用して整理・記録することが有用である。

(注)図や表の例としては、参考2(業務の流れ図(例)、業務記述書(例))が挙げられる。ただし、これは、必要に応じて作成するとした場合の参考例として掲載したものであり、また、企業において別途、作成しているものがあれば、それを利用し、必要に応じそれに補足を行っていくことで足り、必ずしもこの様式による必要はないことに留意する。
A 業務プロセスにおける虚偽記載の発生するリスクとこれを低減する統制の識別

イ.経営者は、評価対象となる業務プロセスにおいて、不正又は誤謬により、虚偽記載が発生するリスクを識別する。
このリスクを識別するに当たっては、当該不正又は誤謬が発生した場合に、実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性といった適切な財務情報を作成するための要件のうち、どの要件に影響を及ぼすかについて理解しておくことが重要となる。

a.実在性−資産及び負債が実際に存在し、取引や会計事象が実際に発生していること

b.網羅性−計上すべき資産、負債、取引や会計事象をすべて記録していること

c.権利と義務の帰属−計上されている資産に対する権利及び負債に対する義務が企業に帰属していること

d.評価の妥当性−資産及び負債を適切な価額で計上していること

e.期間配分の適切性−取引や会計事象を適切な金額で記録し、収益及び費用を適切な期間に配分していること

f.表示の妥当性−取引や会計事象を適切に表示していること

ロ.虚偽記載が発生するリスクを低減するための統制上の要点を識別する。

経営者は、虚偽記載が発生するリスクを低減するための内部統制を識別する。その際、特に取引の開始、承認、記録、処理、報告に関する内部統制を対象に、実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性といった適切な財務情報を作成するための要件を確保するために、どのような内部統制が必要かという観点から識別する。

経営者は、個々の重要な勘定科目に関係する個々の統制上の要点について、内部統制が適切に機能し、実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性といった要件を確保する合理的な保証を提供しているかを判断することを通じて、財務報告に係る内部統制についての基本的要素が有効に機能しているかを判断する。

なお、業務プロセスに係る内部統制の整備及び運用状況の評価については、必要に応じ、図や表を活用して整理・記録することが有用である。

(注)図や表の例としては、参考3(リスクと統制の対応(例))が挙げられる。 ただし、これは、必要に応じて作成するとした場合の参考例として掲載したものであり、また、企業において別途、作成しているものがあれば、それを利用し、必要に応じそれに補足を行っていくことで足り、必ずしもこの様式による必要はないことに留意する。
B 業務プロセスに係る内部統制の整備状況の有効性の評価

経営者は、上記Aによって識別した個々の重要な勘定科目に関係する個々の統制上の要点が適切に整備され、実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性といった適切な財務情報を作成するための要件を確保する合理的な保証を提供できているかについて、関連文書の閲覧、従業員等への質問、観察等を通じて判断する。この際、内部統制が規程や方針に従って運用された場合に、財務報告の重要な事項に虚偽記載が発生するリスクを十分に低減できるものとなっているかにより、当該内部統制の整備状況の有効性を評価する。
その際には、例えば、以下のような事項に留意する。

. 内部統制は、不正又は誤謬を防止又は適時に発見できるよう適切に実施されているか。

. 適切な職務の分掌が導入されているか。

. 担当者は、内部統制の実施に必要な知識及び経験を有しているか。

. 内部統制に関する情報が、適切に伝達され、分析・利用されているか。

. 内部統制によって発見された不正又は誤謬に適時に対処する手続が設定されているか。
C 業務プロセスに係る内部統制の運用状況の有効性の評価

イ. 運用状況の評価の内容
経営者は、業務プロセスに係る内部統制が適切に運用されているかを判断するため、業務プロセスに係る内部統制の運用状況の評価を実施する。
経営者は、関連文書の閲覧、当該内部統制に関係する適切な担当者への質問、業務の観察、内部統制の実施記録の検証、各現場における内部統制の運用状況に関する自己点検の状況の検討等により、業務プロセスに係る内部統制の運用状況を確認する。

ロ.運用状況の評価の実施方法
運用状況の評価の実施に際して、経営者は、原則としてサンプリングにより十分かつ適切な証拠を入手する。全社的な内部統制の評価結果が良好である場合や、業務プロセスの内部統制に関して、同一の方針に基づく標準的な手続が企業内部の複数の事業拠点で広範に導入されていると判断される場合には、サンプリングの範囲を縮小することができる。
例えば、複数の営業拠点や店舗を展開している場合において、統一的な規程により業務が実施されている、業務の意思決定に必要な情報と伝達が良好である、内部統制の同一性をモニタリングする内部監査が実施されている等、全社的な内部統制が良好に運用されていると評価される場合には、全ての営業拠点について運用状況の評価を実施するのではなく、個々の事業拠点の特性に応じていくつかのグループに分け、各グループの一部の営業拠点に運用状況の評価を実施して、その結果により全体の内部
統制の運用状況を推定し、評価することができる。
評価対象とする営業拠点等については、計画策定の際に、一定期間で全ての営業拠点を一巡する点に留意しつつ、無作為抽出の方法を導入するなどその効果的な選定方
法について検討する。

ハ.運用状況の評価の実施時期
評価時点(期末日)における内部統制の有効性を判断するには、適切な時期に運用状況の評価を実施することが必要となる。
運用状況の評価を期中に実施した場合、期末日までに内部統制に関する重要な変更があったときには、例えば、以下の追加手続の実施を検討する。なお、変更されて期末日に存在しない内部統制については、評価する必要はないことに留意する。

a. 重要な変更の内容の把握・整理

b. 変更に伴う業務プロセスにおける虚偽記載の発生するリスクとこれを低減する制の識別を含む変更後の内部統制の整備状況の有効性の評価
c. 変更後の内部統制の運用状況の有効性の評価

なお、決算・財務報告プロセスに係る内部統制の運用状況の評価については、当該期において適切な決算・財務報告プロセスが確保されるよう、仮に不備があるとすれば早期に是正が図られるべきであり、また、財務諸表監査における内部統制の評価プロセスとも重なりあう部分が多いと考えられることから、期末日までに内部統制に関する重要な変更があった場合には適切な追加手続が実施されることを前提に、前年度の運用状況をベースに、早期に実施されることが効率的・効果的である。

ニ.評価の実施方法の決定に関する留意事項
運用状況の評価の実施方法(サンプル件数、サンプルの対象期間等)を決定する際に考慮すべき事項は、以下のとおりである。

a. 内部統制の形態・特徴等
経営者は、内部統制の重要性、複雑さ、担当者が行う判断の性質、内部統制の実施者の能力、前年度の評価結果やその後の変更の状況等を考慮して運用状況の評価の実施方法(サンプル件数、サンプルの対象期間等)を決定する必要がある。
また、ITを利用した内部統制は一貫した処理を反復継続するため、その整備状況が有効であると評価された場合には、ITに係る全般統制の有効性を前提に、人手による内部統制よりも、例えばサンプル件数を減らし、サンプルの対象期間を短くするなど、一般に運用状況の評価作業を減らすことができる。

b. 決算・財務報告プロセス
上記2.(2)で記載したとおり、決算・財務報告に係る業務プロセスのうち、全社的な観点で評価することが適切と考えられるものについては、全社的な内部統制に準じて、全社的な観点で評価が行われることとなるが、それ以外の決算・財務報告プロセスについては、それ自体を固有の業務プロセスとして評価することとなる。
その際には、決算・財務報告プロセスに係る内部統制は、財務報告の信頼性に関して非常に重要な業務プロセスであることに加え、その実施頻度が日常的な取引に関連する業務プロセスなどに比して低いことから評価できる実例の数は少ないものとなる。したがって、決算・財務報告プロセスに係る内部統制に対しては、一般に、他の内部統制よりも慎重に運用状況の評価を行う必要がある。
D ITを利用した内部統制の評価

イ. ITを利用した内部統制の評価
情報システムにITが利用されている場合は、通常、情報は種々の業務システムで処理、作成され、その情報が会計システムに反映される。したがって、経営者は、こうした業務システムや会計システムによって作成される財務情報の信頼性を確保するための内部統制を評価する必要がある。この内部統制には、コンピュータ・プログラムに組み込まれて自動化されている内部統制、人手とコンピュータ処理が一体となって機能している内部統制がある。
また、ITの統制は、全般統制と業務処理統制に分けられるが、経営者はこの両者を評価する必要がある。

ロ. 評価範囲の決定
a. 業務プロセスとシステムの範囲
財務報告に係るITの評価では、まず、財務報告に係る内部統制に関連するシステムの対象範囲を明確にする必要がある。業務プロセスにおける取引の発生から集計、記帳といった会計処理の過程を確認する際に、財務諸表の重要な勘定科目がどのような業務プロセス及びシステムと関連しているか、システムの機能の概要、どの部署で利用されているか等について整理する。
その際には、各業務プロセスにおいて用いる業務プロセスにおける取引の発生から集計、記帳といった会計処理の過程の整理に加えて、システム間のデータの流れ等を、必要に応じ図や表を活用して把握・整理し、また各業務プロセスで使用されているシステムの一覧を作成することが有用である。

(注)前述の参考2(業務の流れ図(例))においては、右列にシステムに関する流れの欄を設け、この点につき記載できるようになっている。

b. IT基盤の把握
各業務プロセスにおけるシステムの把握に加えて、それを支援するIT基盤の概要を把握する。例えば、以下のような項目について把握する。
. ITに関与する組織の構成
. ITに関する規程、手順書等
. ハードウェアの構成
. 基本ソフトウェアの構成
. ネットワークの構成
. 外部委託の状況

ハ. 評価単位の識別
ITに係る全般統制は、IT基盤の概要をもとに評価単位を識別し、評価を行う。
例えば、自社開発の販売、購買、物流のシステムについては、システム部が管理し、会計システムについては、経理部が市販のパッケージ・ソフトウェアを導入・管理している場合、評価単位を「システム部」と「経理部」の2つとして識別する。
一方、ITに係る業務処理統制の評価は、基本的には個々のシステム毎に行う必要があり、経営者は、必要に応じ流れ図等を利用して、各システムにおける業務処理統制を識別する。

(注)前述の参考2(業務の流れ図(例))においては、右列にシステムに関する流れの欄を設けており、例えば、これに対する注記の中で、あるいは業務記述書(例)を別途、作成する場合にはその中で、業務処理統制の内容につい
て記述することが考えられる。

下図は、販売取引における売上と入金の業務プロセス及び会計データとの関連を、一つの例として図式化したものである。企業の各業務プロセスは機能ごとに細分化され、その機能に基づいてシステム化される場合が多い。例えば、売上プロセスは、受注や出荷等の機能に分類され、必要に応じてシステム化される。
経営者は、財務諸表の勘定科目と取引、業務プロセス及びシステムとの関係を理解し、主要な取引等について、どの会計データがどのシステムに依存しているのかを把握する必要がある。

財務報告
会計システム
機能
業務プロセス
システム
連携するシステム
物流・在庫
システム
販売管理システム 売掛金管理システム
現金
売上
評価対象会計デー

売掛金
(計上)
売掛金
(回収)
受注 出荷 請求 回収
受注
単位
売上
単位
売掛金請求
単位
売掛金回収
単位
売上プロセス 入金プロセス

ニ. ITを利用した内部統制の整備状況及び運用状況の有効性の評価

a.ITに係る全般統制の評価
経営者は、ITに係る全般統制が、例えば、次のような点において有効に整備及び運用されているか評価する。
・システムの開発、保守
・システムの運用・管理
・内外からのアクセス管理などのシステムの安全性の確保
・外部委託に関する契約の管理

内部統制の有効性の評価のうち、内部統制の運用状況の有効性の評価に当たっては、経営者は、業務処理統制の運用状況の評価とあわせて、関連する全般統制の運用状況の評価を実施するが、業務処理統制の運用状況の評価の実施範囲を拡大することにより、全般統制の運用状況の評価を実施せずに、内部統制の運用状況の有効性に関して十分な心証が得られる場合もある。

b.ITに係る業務処理統制の評価
経営者は、識別したITに係る業務処理統制が、適切に業務プロセスに組み込まれ、運用されているかを評価する。具体的には、例えば、次のような点につい、業務処理統制が有効に整備及び運用されているかを評価する。
・入力情報の完全性、正確性、正当性等が確保されているか。
・エラーデータの修正と再処理の機能が確保されているか。
・マスタ・データの正確性が確保されているか。
・システムの利用に関する認証・操作範囲の限定など適切なアクセス管理がなされているか。

c.過年度の評価結果を利用できる場合
ITを利用した内部統制の評価は、ITを利用していない内部統制と同様に原則として毎期実施する必要がある。しかし、ITを利用して自動化された内部統制に関しては、一度内部統制が設定されると、変更やエラーが発生しない限り一貫して機能するという性質がある。したがって、経営者は、自動化された内部統制が過年度に内部統制の不備が発見されずに有効に運用されていると評価された場合、評価された時点から内部統制が変更されてないこと、障害・エラー等の不具合が発生していないこと、及び関連する全般統制の整備及び運用の状況を確認及び評価した結果、全般統制が有効に機能していると判断できる場合には、その結果を記録することで、当該評価結果を継続して利用することができる。
内部統制の有効性の判断 経営者は、財務報告に係る内部統制の有効性の評価を行った結果、統制上の要点等に係る不備が財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い場合は、当該内部統制に重要な欠陥があると判断しなければならない。 @ 全社的な内部統制の有効性の判断

イ.不備の評価
全社的な内部統制の不備は、業務プロセスに係る内部統制にも直接又は間接に広範な影響を及ぼし、最終的な財務報告の内容に広範な影響を及ぼすことになる。
したがって、全社的な内部統制に不備がある場合には、業務プロセスに係る内部統制にどのような影響を及ぼすかも含め、財務報告に重要な虚偽記載をもたらす可能性について慎重に検討する必要がある。

ロ.有効性の判断
全社的な内部統制が有効であると判断するには、全社的な内部統制が財務報告に係る虚偽の記載及び開示が発生するリスクを低減するため、以下の条件を満たしていることが重要となる。
.
全社的な内部統制が、一般に公正妥当と認められる内部統制の枠組みに準拠して整備及び運用されていること。

全社的な内部統制が、業務プロセスに係る内部統制の有効な整備及び運用を支援し、企業における内部統制全般を適切に構成している状態にあること。

ハ.全社的な内部統制に不備がある場合
全社的な内部統制に不備がある場合、内部統制の有効性に重要な影響を及ぼす可能性が高い。内部統制の重要な欠陥となる全社的な内部統制の不備として、例えば、以下のものが挙げられる。
a.経営者が財務報告の信頼性に関するリスクの評価と対応を実施していない。
b.取締役会又は監査役若しくは監査委員会が財務報告の信頼性を確保するための内部統制の整備及び運用を監督、監視、検証していない。
c.財務報告に係る内部統制の有効性を評価する責任部署が明確でない。
d.財務報告に係るITに関する内部統制に不備があり、それが改善されずに放置されている。
e.業務プロセスに関する記述、虚偽記載のリスクの識別、リスクに対する内部統制に関する記録など、内部統制の整備状況に関する記録を欠いており、取締役会又は監査役若しくは監査委員会が、財務報告に係る内部統制の有効性を監督、監視、検証することができない。
f.経営者や取締役会、監査役又は監査委員会に報告された全社的な内部統制の不備が合理的な期間内に改善されない。

全社的な内部統制に不備がある場合でも、業務プロセスに係る内部統制が単独で有効に機能することもあり得る。ただし、全社的な内部統制に不備があるという状況は、基本的な内部統制の整備に不備があることを意味しており、全体としての内部統制が有効に機能する可能性は限定されると考えられる。
A 業務プロセスに係る内部統制の有効性の判断

イ.内部統制の整備状況の有効性の評価
内部統制が有効に整備されているか評価する場合には、内部統制が財務諸表の勘定科目、注記及び開示項目に虚偽記載が発生するリスクを合理的なレベルまで低減するものとなっているか確認する。

ロ.内部統制の運用状況の有効性の評価
経営者は、内部統制が所期の通り実際に有効に運用されているかを評価する。その場合、それぞれの虚偽記載のリスクに対して内部統制が意図した通りに運用されていることを確認しなければならない。

ハ.虚偽記載が発生する場合の影響度と発生可能性の評価
内部統制の不備が重要な欠陥に該当するか否かを評価するために、内部統制の不備により勘定科目等に虚偽記載が発生する場合、その影響が及ぶ範囲を推定する。
さらに、内部統制の不備による影響額を推定するときには、虚偽記載の発生可能性も併せて検討する必要がある。
内部統制の不備が複数存在する場合には、それらの内部統制の不備が単独で、又は複数合わさって、重要な欠陥に該当していないかを評価する。すなわち、重要な欠陥に該当するか否かは、同じ勘定科目に関係する不備をすべて合わせて、当該不備のもたらす影響が財務報告の重要な事項の虚偽記載に該当する可能性があるか否かによって判断する。例えば、売掛金勘定の残高は、販売業務プロセスでの信用販売と入金業務プロセスの代金回収の影響を受けるが、この両方の業務プロセスに不備がある場合は、それぞれの不備がもたらす影響を合わせて、売掛金勘定の残高に及ぼす影響を評価しなければならない。
また、集計した不備の影響が勘定科目ごとに見れば財務諸表レベルの重要な虚偽記載に該当しない場合でも、複数の勘定科目に係る影響を合わせると重要な虚偽記載に該当する場合がある。この場合にも重要な欠陥となる。
さらに、勘定科目等に虚偽記載が発生する可能性と影響度を検討するときには、個々の内部統制を切り離して検討するのではなく、個々の内部統制がいかに相互に連係して虚偽記載が発生するリスクを低減しているかを検討する必要がある。そのために、ある内部統制の不備を補う内部統制(補完統制)の有無と、仮に補完統制がある場合には、それが勘定科目等に虚偽記載が発生する可能性と金額的影響をどの程度低減しているかを検討する。
内部統制の不備による影響金額の算定方法については、「V 財務報告に係る内部統制の監査」4.(2)C 業務プロセスに係る内部統制の不備の検討 に詳細を記載しており、これは評価に当たっても参考になると考えられる。
B ITに係る内部統制の有効性の判断

イ.ITに係る全般統制に不備がある場合
ITに係る全般統制に不備がある場合には、代替的又は補完的な他の内部統制により、財務報告の信頼性という目的が達成されているかを検討する。
ITに係る全般統制の不備は、財務報告の重要な事項に虚偽記載が発生するリスクに直接に繋がるものではないため、直ちに重要な欠陥と評価されるものではない。
しかし、ITに係る全般統制に不備があった場合には、たとえITに係る業務処理統制が有効に機能するように整備されていたとしても、その有効な運用を継続的に維持することができない可能性があり、虚偽記載が発生するリスクが高まることとなる。

ロ.ITに係る業務処理統制に不備がある場合
ITに係る業務処理統制に不備がある場合には、業務プロセスに係る内部統制に不備がある場合と同様に、その影響度と発生可能性の評価を行う。
ITに係る業務処理統制のうち、人とITが一体となって機能する統制活動に不備がある場合に、経営者は、その不備の内容が、人に関する部分から生じているものなのか、それともITに関する部分から生じているものなのかを識別する必要がある。ITに関する部分から生じている場合には、同じ種類の誤りが繰り返されている可能性があることに留意する。
C 不備等の報告
財務報告に係る内部統制の評価の過程で識別した内部統制の不備及び重要な欠陥は、その内容及び財務報告全体に及ぼす影響金額、その対応策、その他有用と思われる情報とともに、識別した者の上位の管理者等適切な者にすみやかに報告し是正を求めるとともに、重要な欠陥(及び、必要に応じて内部統制の不備)は、経営者、取締役会、監査役又は監査委員会及び会計監査人に報告する必要がある。なお、重要な欠陥が期末日に存在する場合には、内部統制報告書に、重要な欠陥の内容及びそれが是正されない理由を記載しなければならない。
内部統制の重要な欠陥の是正 経営者による評価の過程で発見された財務報告に係る内部統制の不備及び重要な欠陥は、適時に認識し、適切に対応される必要がある。
重要な欠陥が発見された場合であっても、それが報告書における評価時点(期末日)までに是正されていれば、財務報告に係る内部統制は有効であると認めることができる。
(注) 期末日後に実施した是正措置については、報告書に付記事項として記載できる。
@ 重要な欠陥等の是正手続
内部統制の評価及び報告の計画を作成するときには、内部統制の不備及び重要な欠陥を発見した場合に、これを是正することを想定して、最終的な評価の時点(期末日)まで一定の期間を確保しておくことが適切である。
A 期末日後に実施した是正措置に関する評価手続
内部統制の評価時点は期末日であり、期末日後に実施した是正措置は、期末日における財務報告に係る内部統制の評価には影響しない
ただし、経営者は、内部統制報告書の提出日までに実施した是正措置がある場合は、その内容を内部統制報告書に付記事項として記載できる。
なお、提出日までに有効な内部統制を整備し、その運用の有効性を確認している場合には、是正措置を完了した旨を、実施した是正措置の内容とともに記載できる。
評価範囲の制約 経営者は、財務報告に係る内部統制の有効性を評価するに当たって、やむを得ない事情により、内部統制の一部について十分な評価手続を実施できない場合がある。その場合には、当該事実が財務報告に及ぼす影響を十分に把握した上で、評価手続を実施できなかった範囲を除外して財務報告に係る内部統制の有効性を評価することができる。
(注) やむを得ない事情により十分な評価手続が実施できなかった場合としては、例えば、期末日直前における他企業の買収等により、当該企業に係る内部統制の有効性について十分な評価手続を実施できなかった場合等が考えられる。
〔評価範囲の制約が認められる場合〕

「やむを得ない事情」とは、例えば、期末日直前に他企業を買収又は合併したこと、災害が発生したこと等の事由が生じたことにより、財務諸表を作成して取締役会の承認を受けるまでに通常要する期間内に本基準に準拠した評価手続を実施することが困難と認められる事情をいう。
評価範囲の除外に関しては、その範囲及びその理由を内部統制報告書に記載することが必要であり、また、評価を実施できないことが財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす場合には、内部統制の評価結果は表明できないこととなることに留意する。
評価手続等の記録及び保存 経営者は、財務報告に係る内部統制の有効性の評価手続及びその評価結果、並びに発見した不備及びその是正措置に関して、記録し保存しなければならない。 @ 内部統制の記録
内部統制に係る記録の範囲、形式及び方法は一律に規定できないが、例えば、以下のような事項を記録し保存することが考えられる。
イ.財務報告に係る内部統制の整備及び運用の方針及び手続
ロ.全社的な内部統制の評価にあたって、経営者が採用する評価項目ごとの整備及び運用の状況
ハ.重要な勘定科目や開示項目に関連する業務プロセスの概要(各業務プロセスにおけるシステムに関する流れやITに関する業務処理統制の概要、使用されているシステムの一覧などを含む。)
ニ.各業務プロセスにおいて重要な虚偽記載が発生するリスクとそれを低減する内部統制の内容(実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性との関係を含む。また、ITを利用した内部統制の内容を含む。)
ホ.上記二.に係る内部統制の整備及び運用の状況
ヘ.財務報告に係る内部統制の有効性の評価手続及びその評価結果並びに発見した不備及びその是正措置
. 評価計画に関する記録
. 評価範囲の決定に関する記録(評価の範囲に関する決定方法及び根拠等を含む。)
. 実施した内部統制の評価の手順及び評価結果、是正措置等に係る記録

なお、記録の形式、方法等については、一律に規定されるものではなく、企業の作成・使用している記録等を適宜、利用し、必要に応じそれに補足を行っていくことで足りることに留意する。
A 記録の保存
財務報告に係る内部統制について作成した記録の保存の範囲・方法・期間は、諸法令との関係を考慮して、企業において適切に判断されることとなるが、金融商品取引法上は、有価証券報告書及びその添付書類の縦覧期間(5年)を勘案して、それと同程度の期間、適切な範囲及び方法(磁気媒体、紙又はフィルム等のほか必要に応じて適時に可視化することができる方法)により保存することが考えられる。
記録・保存に当たっては、後日、第三者による検証が可能となるよう、関連する証拠書類を適切に保存する必要がある。
★財務報告に係る内部統制の監査
★財務報告に係る内部統制の監査 ■内部統制監査の目的
■内部統制監査の目的  経営者による財務報告に係る内部統制の有効性の評価結果に対する財務諸表監査の監査人による監査(以下「内部統制監査」という。)の目的は、経営者の作成した内部統制報告書が、一般に公正妥当と認められる内部統制の評価の基準に準拠して、内部統制の有効性の評価結果をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人自らが入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある。
なお、内部統制報告書に対する意見は、内部統制の評価に関する監査報告書(以下「内部統制監査報告書」という。)により表明する。
内部統制報告書が適正である旨の監査人の意見は、内部統制報告書には、重要な虚偽の表示がないということについて、合理的な保証を得たとの監査人の判断を含んでいる。
合理的な保証とは、監査人が意見を表明するために十分かつ適切な証拠を入手したことを意味している。
〔内部統制監査の目的〕
本基準に基づく内部統制監査の目的は、経営者の作成した内部統制報告書が、一般に公正妥当と認められる内部統制の評価の基準に準拠して、適正に表示されているかについて、監査人が意見表明することにある。
すなわち、内部統制監査においては、内部統制の有効性の評価結果という経営者の主張を前提に、これに対する監査人の意見を表明するものであり、経営者の内部統制の有効性の評価結果という主張と関係なく、監査人が直接、内部統制の整備及び運用状況を検証するという形はとっていない。
(注)この点について、米国では、以上のような内部統制監査とともに、直接報告業務(ダイレクト・レポーティング)が併用されているが、我が国においては、直接報告業務を実施しないこととしている。
しかしながら、内部統制監査において監査人が意見を表明するに当たって、監査人は自ら、十分かつ適切な監査証拠を入手し、それに基づいて意見表明することとされており、その限りにおいて、監査人は、企業等から、直接、監査証拠を入手していくこととなる。
■内部統制監査と財務諸表監査の関係
■内部統制監査と財務諸表監査の関係  内部統制監査は、原則として、同一の監査人により、財務諸表監査と一体となって行われるものである。
内部統制監査の過程で得られた監査証拠は、財務諸表監査の内部統制の評価における監査証拠として利用され、また、財務諸表監査の過程で得られた監査証拠も内部統制監査の証拠として利用されることがある。
 (注) ここで「同一の監査人」とは、監査事務所のみならず、業務執行社員も同一であることを意味している。
一般に、財務報告に係る内部統制に重要な欠陥があり有効でない場合、財務諸表監査において、監査基準の定める内部統制に依拠した通常の試査による監査は実施できないと考えられる。
監査人は、内部統制監査を行うに当たっては、本基準の他、「監査基準」の一般基準及び「監査に関する品質管理基準」を遵守するものとする。 
〔内部統制監査業務と非監査証明業務の同時提供に関する制限〕
監査人は、内部統制監査業務について、関係法令に規定する身分的、経済的利害関係を有してはならず、一定の非監査証明業務との同時提供が制限されることに留意しなければならない。
しかしながら、監査人が内部統制監査の実施において内部統制の不備や重要な欠陥を発見した場合に、経営者に報告して是正を求めなければならないことはもちろんのこと、内部統制の構築等の段階においても、経営者等と必要に応じ意見交換を行い、内部統制の構築等に係る作業や決定は、監査人によってではなく、あくまで企業・経営者によって行われるとの前提の下で、有効な内部統制の構築等に向けて適切な指摘を行うことを妨げるものではない。
■監査計画と評価範囲の検討
■監査計画と評価範囲の検討 監査計画の策定 監査人は、企業の置かれた環境や事業の特性等を踏まえて、経営者による内部統制の整備及び運用状況並びに評価の状況を十分に理解し、監査上の重要性を勘案して監査計画を策定しなければならない。

監査人は、監査計画の前提として把握した事象や状況が変化した場合、あるいは監査の実施過程で内部統制の不備及び重要な欠陥を発見した場合には、内部統制の改善を評価する手続を実施するなど、適時に監査計画を修正しなければならない。
監査人は、内部統制監査を効果的かつ効率的に実施するために、企業の置かれた環境や事業の特性等を踏まえて、経営者による内部統制の整備及び運用状況並びに評価の状況を十分に理解し、監査上の重要性を勘案して監査計画を策定しなければならない。
内部統制監査は、原則として、財務諸表監査と同一の監査人が実施することから、監査人は、内部統制監査の計画を財務諸表監査の監査計画に含めて策定することとなる。

@ 企業の置かれた環境や事業の特性等の理解
監査人は、例えば、次のような当該企業の置かれた環境や事業の特性等を理解する。
・市場、取引先、株主、親会社、地域特性、産業固有の規制など企業外部の条件
・当該企業の歴史、規模、業務の内容、従業員構成など企業内部の条件
ただし、多くの場合、監査人は財務諸表監査を通じて、これらの点については既に理解しているのが一般的と考えられ、そのような場合に特別の手続を求めるもの
ではないことに留意する。

A 内部統制の整備及び運用の状況の理解
監査人は、記録の閲覧、経営者及び適切な管理者又は担当者への質問等により、例えば、次に掲げる事項を含む企業の内部統制の整備及び運用の状況を理解する。
・企業の財務報告に係る内部統制についての知識
・企業の事業や財務報告に係る内部統制について、最近の変更の有無
・企業集団内の事業拠点の状況及びそれら事業拠点における財務報告に係る内部統制に関する記録と保存の状況、モニタリングの実施状況

B 経営者による内部統制の評価の理解
監査人は、記録の閲覧、経営者及び適切な管理者又は担当者への質問等により、例えば、次に掲げる事項を含む財務報告に係る内部統制の有効性を評価する経営者の評価手続の内容について、その計画も含めて把握し、理解する。
・評価の範囲の決定など、重要な手続の内容及びその実施時期
・内部統制の不備が、重要な欠陥に該当するか判定するための重要性の判断基準等の設定状況
・既に経営者、監査役又は監査委員会、取締役会に報告された内部統制の不備、重要な欠陥の有無とその内容
・内部監査等を通じて実施された作業の結果

上記A及びBについては、財務諸表監査を通じて、監査人によって一定の理解が得られている場合に、監査人がその理解を利用することを妨げるものではない。

C 監査計画の策定
監査人は、上記@〜Bを勘案し、財務報告の重要な事項に虚偽記載が発生するリスクに着眼して、また、前年度の監査結果を勘案して、効果的・効率的な監査が
実施できるよう、監査計画を策定する。
監査人は、監査計画策定の前提となった事象や状況が変化した場合、あるいは監査の実施過程で新たな重要な事実を発見した場合には、適宜、監査計画を修正しなければならない。
評価範囲の妥当性の検討 監査人は、経営者により決定された内部統制の評価の範囲の妥当性を判断するために、経営者が当該範囲を決定した方法及びその根拠の合理性を検討しなければならない。
特に、監査人は、経営者がやむを得ない事情により、内部統制の一部について十分な評価手続を実施できなかったとして、評価手続を実施できなかった範囲を除外した内部統制報告書を作成している場合には、経営者が当該範囲を除外した事情が合理的であるかどうか及び当該範囲を除外することが財務諸表監査に及ぼす影響について、十分に検討しなければならない。
@ 重要な事業拠点の選定
監査人は、経営者が評価対象とする重要な事業拠点の決定過程を理解し、経営者が重要な事業拠点を「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」に照らして、適切に選定しているか確認する。
その際、監査人の実施する手続としては、例えば、以下のものが挙げられる。
・ 子会社、関連会社等を含め当該企業における連結ベースのすべての事業拠点を羅した事業拠点の一覧を入手する。
・ 事業拠点は、企業の実態に応じ、本社、子会社、支社、支店、事業部等として識別されることがあるが、その識別の方法及び識別された結果が、適切であるか確認する。
・ 重要な事業拠点を選定するための指標としては、売上高等が基本となるが、経営者の採用した指標が「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」に照らして、適切であるか確認する。
・ 重要な事業拠点が経営者の採用した指標に基づき適切に選定されているか確認する。
・ 経営者の行った重要な事業拠点の選定の過程や結果が適切でないと判断した場合には、経営者に対し重要な事業拠点の選定の見直しなどの追加的な作業を求める。
A 評価対象とする業務プロセスの識別
イ.重要な事業拠点における企業の事業目的に関わる業務プロセス
監査人は、重要な事業拠点について、売上、売掛金、棚卸資産など企業の事業目的に大きく関わる重要な勘定科目に至る業務プロセスが、「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」に照らして適切に評価対象とされているか確認する。
また、監査人は、経営者が、当該重要な事業拠点が行う事業との関連性が低く、財務報告に対する影響の重要性も僅少であるとして評価対象としなかった業務プロセスがある場合には、その適切性を確認する。
これらについて、監査人は、「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」3.(7)@ ハ.ニ.ホ.ヘ.に記載の内部統制の記録の閲覧や経営者及び適切な管理者又は担当者に対する質問等により、評価対象となる業務プロセスの選定の適切性を確認する。
監査人は、経営者が評価対象とした業務プロセスが適切でないと判断した場合には、経営者に対し評価対象とした業務プロセスの見直しなどの追加的な作業を求める。

ロ.財務報告に重要な影響を及ぼす業務プロセス
監査人は、重要な事業拠点及びそれ以外の事業拠点において、財務報告に重要な影響を及ぼす業務プロセスがある場合に、それが「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」に照らして適切に追加的な評価対象とされているか確認する。
この際、監査人は、「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」3.(7)@ ハ.ニ.ホ.ヘ.に記載の内部統制の記録の閲覧や経営者及び適切な管理者又は担当者への質問等により確認を行うが、財務諸表監査を通じて、財務報告に重要な影響を及ぼす業務プロセスの存否に係る検証が既に行われている場合には、その利用が可能であることに留意する。
監査人は、リスクが大きい取引を行っている事業又は業務の識別が適切でないなど、経営者が評価対象とした業務プロセスが適切でないと判断した場合には、経営者に対し評価対象とした業務プロセスの見直しなどの追加的な作業を求める。

ハ.全社的な内部統制の評価結果を踏まえた評価範囲、方法等の調整
全社的な内部統制の評価結果を踏まえて、経営者が業務プロセスに係る評価の範囲、方法等を調整している場合(「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」3.(2)B 参照)、監査人は、当該調整の妥当性について、「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」3.(7)@ ハ.ニ.ホ.ヘ.に記載の内部統制の記録の閲覧や経営者及び適切な管理者又は担当者への質問等により確認する。
なお、監査人は、経営者の行った調整が適切でないと判断した場合には、経営者に対し適切な評価の範囲、方法等に修正するための追加的な作業を求める。
B 経営者との協議
監査人による評価範囲の妥当性の検討の結果、経営者の決定した評価範囲が適切でないと判断されることが考えられ、この場合、経営者は新たな評価範囲について評価し直す必要が生じるが、その手続の実施には時間的な制約等の困難が伴う場合も想定される。したがって、監査人は、経営者が内部統制の評価の範囲を決定した後に、当
該範囲を決定した方法及びその根拠等について、必要に応じて経営者と協議を行っておくことが適切である。
■内部統制監査の実施
■内部統制監査の実施 全社的な内部統制の評価の検討 監査人は、経営者による全社的な内部統制の評価の妥当性について検討する。監査人は、この検討に当たって、取締役会、監査役又は監査委員会、内部監査等、経営レベルにおける内部統制の整備及び運用状況について十分に考慮しなければならない。 監査人は、全社的な内部統制の概要を理解し、例えば、「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」参考1(財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例)に示された評価項目の例に留意して、経営者の評価の妥当性について検討する。

@ 全社的な内部統制の整備及び運用状況の検討
監査人は、全社的な内部統制の整備状況を検討するに当たって、経営者が採用する評価項目が、例えば、前述の参考1(財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例)に示された評価項目の例に照らして、適切なものとなっているか確認する。その際、監査人は、「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」3.(7)イ.ロ.に記載の内部統制の記録の閲覧や経営者等に対する質問等を通じて、各評価項目についての経営者の評価結果、経営者が当該評価結果を得るに至った根拠等を確認し、経営者の行った評価結果の適切性を判断する。
なお、統制環境に係るいくつかの項目は、内部統制の運用状況に関する記録が作成されないケースもある。その場合、監査人は、関係者への質問や観察等により、運用状況を確認する。

A 取締役会並びに監査役又は監査委員会の監視機能の検討
有価証券報告書等の財務報告書類については、最終的には経営者が責任を持って作成し公表することになるが、公表に至る過程での取締役会や監査役又は監査委員会の監視機能が適切な情報開示に重要な役割を果たすことから、全社的な内部統制の整備及び運用の状況の検討に当たっては、取締役会や監査役又は監査委員会における監視機能について、例えば、以下の点に留意して確認することが重要となる。
イ. 取締役会や監査役又は監査委員会の責任が記載された規定が存在しているか。
ロ. 取締役会や監査役又は監査委員会の開催実績の記録や議事録等が存在しているか。
ハ. 取締役会や監査役又は監査委員会の構成員は、内部統制の整備及び運用に関するモニタリングを実施するため、経営者を適切に監督・監視する責任を理解した上で、それを適切に実行しているか。
ニ. 監査役又は監査委員会は、内部監査人及び監査人と適切な連携を図っているか。
ただし、上記@及びAに関して、監査人は、財務諸表監査の実施過程において、一定の監査証拠を入手しているのが一般的と考えられ、その場合には、その利用が可能であることに留意する。

B 全社的な内部統制の不備の検討
監査人は、全社的な内部統制に不備が認められる場合には、業務プロセスに係る内部統制に及ぼす影響をも含め、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性について慎重に検討し、経営者の評価が妥当であるか確認する。
全社的な内部統制の不備が重要な欠陥となるかどうかについては、「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」3.(4)@ 全社的な内部統制の有効性の判断 に記載した事項を考慮して判断する。
業務プロセスに係る内部統制の評価の検討 監査人は、経営者による業務プロセスに係る内部統制の評価の妥当性について検討する。監査人は、この検討に当たって、経営者による全社的な内部統制の評価の状況を勘案し、業務プロセスを十分に理解した上で、経営者が統制上の要点を適切に選定しているかを評価しなければならない。
監査人は、経営者が評価した個々の統制上の要点について、内部統制の基本的要素が適切に機能しているかを判断するため、実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性及び表示の妥当性等の監査要点に適合した監査証拠を入手しなければならない。
なお、業務プロセスにおける内部統制の基本的要素が機能しているかどうかを判断するに当たっては、内部統制の整備及び運用状況(ITへの対応を含む。)についても十分に検討しなければならない。 
@ 業務プロセスに係る内部統制の評価の検討
監査人は、評価対象となった業務プロセスに係る内部統制の整備及び運用状況を理解し、経営者の評価の妥当性について検討する。

イ. 業務プロセスに係る内部統制の整備状況の検討

監査人は、評価対象となった業務プロセスに係る内部統制の整備状況を理解しなければならない。そのため、監査人は、経営者の内部統制の整備状況に関する「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」3.(7)@ ハ.ニ.ホ.ヘ.に記載の記録を入手するとともに、評価対象となった業務プロセスについて、例えば、以下の手続を実施する。

a. 入手した内部統制の整備状況に関する記録の閲覧や経営者及び適切な管理者又は担当者に対する質問等により、評価対象となった業務プロセスにおいて、取引がどのように開始、承認、記録、処理及び報告されるかを含めて、取引の流れを把握する。また、取引の発生から集計、記帳といった会計処理の過程を理解する。記録の閲覧や質問等では、内部統制の整備状況について理解することが困難である場合には、監査人は、必要に応じ、業務プロセスの現場に赴いて観察することにより、当該業務プロセスにおいて実施されている手続の適否等を確認する。

b.監査人が内部統制の整備状況に関する理解を確実なものとする上では、評価対象となった業務プロセスごとに、代表的な取引を1つあるいは複数選んで、取引の開始から取引記録が財務諸表に計上されるまでの流れを「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」3.(7)@ ハ.ニ.ホ.ヘ.に記載の内部統制の記録等により追跡する手続を実施することが有用であることに留意する。
また、監査人は、内部統制の適切な管理者及び担当者が内部統制の整備に関し、必要な権限、能力を有しているかにも留意する。

c.入手した内部統制の整備状況に関する記録の閲覧や経営者及び適切な管理者又は担当者に対する質問等により、経営者が財務報告の重要な事項に虚偽記載の発生するリスクをどのように識別したのか把握する。

d.入手した内部統制の整備状況に関する記録の閲覧や経営者及び適切な管理者又は担当者に対する質問等により、経営者が虚偽記載の発生するリスクを低減するために中心的な役割を果たす内部統制(統制上の要点)をどのように識別したのか把握する。

e.監査人は、上記d.の内部統制(統制上の要点)が既定の方針に従って運用された場合に、財務報告の重要な事項に虚偽記載が発生するリスクを十分に低減できるものとなっているかを検討する。その際、実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性といった適切な財務情報を作成するための要件を確保する合理的な保証を提供できるものとなっているかにより判断する。監査人は、この判断を基に、内部統制の整備状況の有効性に関する経営者の評価の妥当性を検証する。

上記内部統制の整備状況に関して、監査人は、財務諸表監査の実施過程において、一定の監査証拠を入手しているのが一般的と考えられ、その場合には、その利用が可能であることに留意する。

ロ. 業務プロセスに係る内部統制の運用状況の検討

監査人は、評価対象となった業務プロセスについて、内部統制が設計どおりに適切に運用されているかどうか及び統制を実施する担当者や責任者が当該統制を有効に実施するのに必要な権限と能力等を有しているかどうかを把握し、内部統制の運用状況の有効性に関する経営者の評価の妥当性を検討する。

a. 運用状況の検討の内容及び実施方法
監査人は、評価対象となった業務プロセスに係る内部統制の運用状況を理解しなければならない。そのため、監査人は、経営者の内部統制の運用状況に関する「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」3.(7)に記載の内部統制の記録を入手し、関連文書の閲覧、適切な管理者又は担当者に対する質問等により、内部統制の実施状況(自己点検の状況を含む。)を検証する。
また、記録の閲覧や質問等では検証が困難な場合には、業務の観察や、必要に応じて適切な管理者又は担当者に再度手続を実施させることによって検証する。
以上の手続については、基本的に、監査人自ら選択したサンプルを用いた試査により適切な証拠を入手する方法で行われる(例えば、日常反復継続する取引について、統計上の正規分布を前提とすると、90%の信頼度を得るには、評価対象となる統制上の要点ごとに少なくとも 25 件のサンプルが必要になる。)。
その際、例えば、反復継続的に発生する定型的な取引について、経営者が無作為にサンプルを抽出しているような場合には、監査人自らが同じ方法で別のサンプルを選択することは効率的でないため、経営者が抽出したサンプルの妥当性の検討及び経営者による作業結果の一部についての検証を行った上で、経営者が評価において選択したサンプルを自ら選択したサンプルの一部として利用することができる。

b. 運用状況の検討の実施時期
監査人は、期末日現在において、内部統制が有効に運用されているか判断できるよう、適切な時期に内部統制の運用状況の検討を行わなければならない。
監査人が運用状況の検討を実施する時期は、検討対象となる内部統制の性質や対象となる内部統制が実行される頻度により異なる。
監査人は、経営者の評価の実施から期末日までの期間に内部統制に重要な変更があった場合、経営者が「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」に照らして、変更に係る内部統制の整備及び運用状況の把握及び評価に必要な追加手続を実施しているか確認する。
なお、決算・財務報告プロセスに係る内部統制の運用状況の評価については、当該期において適切な決算・財務報告プロセスが確保されるよう、仮に不備があるとすれば早期に是正が図られるべきであり、また、財務諸表監査における内部統制の評価プロセスとも重なりあう部分が多いと考えられることから、期末日までに内部統制に関する重要な変更があった場合には適切な追加手続が実施されることを前提に、前年度の運用状況をベースに、早期に実施されることが効率的・効果的であることに留意する。
上記a.及びb.に関して、監査人は、財務諸表監査の実施過程において、一定の監査証拠を入手しているのが一般的と考えられ、その場合には、その利用が可能であることに留意する。

c. 運用状況の検討方法の決定に関する留意事項
監査人は、評価対象となった業務プロセスに係る内部統制について、経営者による評価の妥当性を判断するために十分かつ適切な証拠を入手しなければならない。実施する手続を決定する際には、以下の事項を考慮する。

○ 内部統制の性質
検討の方法を決定する際には、内部統制の重要性及び複雑さ並びに内部統制の運用に際しなされる判断の重要性、内部統制の実施者の能力、内部統制の実施頻度及び前年度の検討結果やその後の変更の状況等を考慮する。

○ 決算・財務報告プロセス
決算・財務報告プロセスに係る内部統制は、財務報告の信頼性に関して重要な業務プロセスであることに加え、その実施頻度が低いため、監査人が検討できる実例の数は少ないものとなる。したがって、決算・財務報告プロセスに係る内部統制は、他の内部統制よりも慎重な運用状況の検討作業を行う必要がある(決算・財務報告プロセスは、全社的な観点で評価される場合と固有の業務プロセスとして評価される場合とがあることについて、「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」2.(2)及び3(3).C ニ.b.参照)。
A ITを利用した内部統制の評価の検討
イ. ITを利用した内部統制の把握
監査人は、「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」3.(7)に記載の内部統制の記録を入手して、ITを利用した内部統制の概要を把握するとともに、経営者が評価対象としたITに係る全般統制及び業務処理統制が評価対象として適切なものか検討する。

監査人は、企業が業務プロセスにITを利用している場合において、人手を利用した統制が行われている部分については、前述の「@業務プロセスに係る内部統制の評価の検討」を実施し、ITを利用した統制が行われている部分については、以下のITに係る全般統制及び業務処理統制の評価の検証を行うことにより、業務プロセスに係る経営者の評価の妥当性の検証を行う。

ロ. ITに係る全般統制の評価の検討
監査人は、ITに係る全般統制について理解し、経営者の評価の妥当性を検討しなければならない。その際、例えば、以下の項目を検討する。

a.システムの開発、変更・保守
監査人は、企業が財務報告に関連して、新たにシステム、ソフトウェアを開発、調達又は変更する場合、承認及び導入前の試験が適切に行われているか確認する。

その際、監査人は、例えば、以下の点に留意する。
・システム、ソフトウェアの開発、調達又は変更について、事前に経営者又は適切な管理者に所定の承認を得ていること
・開発目的に適合した適切な開発手法がシステム、ソフトウェアの開発、調達又は変更に際して、適用されていること
・新たなシステム、ソフトウェアの導入に当たり十分な試験が行われ、その結
果が当該システム、ソフトウェアを利用する部門の適切な管理者及びIT部門
の適切な管理者により承認されていること
・新たなシステム、ソフトウェアの開発、調達又は変更について、その過程が適切に記録及び保存されるとともに、変更の場合には、変更前のシステム、ソフトウェアに関する内部統制の整備状況に係る記録が更新されていること
・新たなシステム、ソフトウェアにデータを保管又は移行する場合に、誤謬、不正等を防止する対策が取られていること
・新たなシステム、ソフトウェアを利用するに当たって、利用者たる従業員が適切な計画に基づき、教育研修を受けていること

b.システムの運用・管理
監査人は、財務報告に係るシステムの運用・管理の有効性を確認する。その際、例えば、以下の点に留意する。
・システムを構成する重要なデータやソフトウェアについて、障害や故障等によるデータ消失等に備え、その内容を保存し、迅速な復旧を図るための対策が取られていること
・システム、ソフトウェアに障害や故障等が発生した場合、障害や故障等の状況の把握、分析、解決等の対応が適切に行われていること

c.システムの安全性の確保
監査人は、企業がデータ、システム、ソフトウェア等の不正使用、改竄、破壊等を防止するために、財務報告に係る内部統制に関連するシステム、ソフトウェア等について、適切なアクセス管理等の方針を定めているか確認する。

d.外部委託に関する契約の管理
企業が財務報告に関連して、ITに係る業務を外部委託している場合、監査人は、企業が適切に外部委託に関する契約の管理を行っているか検討する。

上記 a.〜d.に関しては、財務諸表監査の実施過程において一定の監査証拠を入手しているのが一般的と考えられ、その場合には、その利用が可能であることに留意する。なお、販売されているパッケージ・ソフトウェアをそのまま利用するような比較的簡易なシステムを有する企業の場合には、ITに係る全般統制に重点を置く必要があることに留意する。

ハ.ITに係る業務処理統制の評価の検討
監査人は、例えば、以下の手続に従ってITに係る業務処理統制の整備及び運用状況の評価の検討を行う。
a.監査人は、システム設計書等を閲覧することにより、企業の意図した会計処理が行われるシステムが作成されていることを確認する。
b.その際、監査人は、「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」3.(3)に記載されている、例えば、以下のような評価項目について留意する。
・入力情報の完全性、正確性、正当性等を確保するための手段が取られているか。
・エラーデータの修正と再処理が適切に行われているか。
・仕入先、販売先等のマスタ・データの維持管理が適切に行われているか。
・システムの利用に関する認証・操作範囲の限定など適切なアクセスの管理がなされているか。
c.監査人は、業務処理統制の運用状況について確認を実施する。
監査人は、上記イ.により入手した記録等の閲覧、適切な管理者又は担当者に対する質問等により、業務処理統制の実施状況及び自己点検の状況を検討する。
その際、評価対象となった業務処理統制に係る統制上の要点ごとに、一部の取引を抜き出し(サンプリング)、当該取引に係るシステムへの入力情報とシステムからの出力情報を比較し、予想していた出力情報が得られているかを、例えば、入力データに基づいて、検算を行うこと等により確認する。
監査人は、前述のように、基本的には、監査人自ら選択したサンプルを用いた試査により、適切な監査証拠を入手して行うこととなるが、監査人は、経営者が抽出したサンプルの妥当性の検討及び経営者による作業結果の一部についての検証を行った上で、経営者が評価において選択したサンプルを自ら選択したサンプルの一部として利用することができる。
なお、ITを利用した内部統制は一貫した処理を反復継続するため、その整備状況が有効であると評価された場合には、ITに係る全般統制の有効性を前提に、監査人においても、人手による内部統制よりも、例えば、サンプル数を減らし、サンプルの対象期間を短くするなど、一般に運用状況の検討作業を減らすことができる。また、ITを利用して自動化された内部統制については、過年度の検討結果を考慮し、検討した時点から内部統制が変更されていないこと、障害・エラー等の不具合が発生していないこと、及び関連する全般統制の整備及び運用の状況を検討した結果、全般統制が有効に機能していると判断できる場合には、その
結果を記録することで、当該検討結果を継続して利用することができる。
上記については、財務諸表監査の実施過程において一定の監査証拠を入手しているのが一般的と考えられ、その場合には、その利用が可能であることに留意する。

ニ.ITの専門家の利用
監査人は、監査計画の策定及び内部統制監査の実施に際して、企業のITの利用状況及びITが財務報告に係る内部統制の有効性の評価に及ぼす影響を検討して、専門家の業務を利用するか否かの判断を行わなければならない。監査人は、専門家の業務を利用する場合には、その専門家が、単にITの知識のみではなく、 情報システムに関係する財務報告に重要な影響を及ぼすリスクの評価に必要な知識を有しているかなど、専門家としての能力を考慮するとともに、その専門家の業務が十分な客観性を有しているかについても考慮する。
B 委託業務の評価の検討
監査人は、経営者が外部の受託会社に対して委託した業務が、評価対象となる業務プロセスの一部を構成している場合には、当該委託業務に関し、例えば、以下のとおり、内部統制の有効性を検討する。

イ. 委託業務に係る内部統制について、受託会社が実施している内部統制及び、受託会社が提供している業務に対し、企業が実施している内部統制を理解する。
ロ. 受託会社の業務に対し企業が自ら内部統制を実施している場合には、経営者の行った検証の状況を確認する。
ハ.委託業務について受託会社が実施した内部統制の整備及び運用状況に関する確認の結果を記載した報告書等を企業が受託会社から入手している場合には、当該報告書等が十分な証拠を提供しているかどうか検討する。
C 業務プロセスに係る内部統制の不備の検討
監査人は、内部統制の不備が識別された場合、当該不備が、個々に又は組み合わせにより重要な欠陥に該当するかどうかを、例えば、以下のとおり判断する。

イ. 業務プロセスから発見された不備がどの勘定科目等に、どの範囲で影響を及ぼしうるかについての検討
監査人は、業務プロセスに係る不備が発見された場合、不備の重要性を判断するに当たり、当該業務プロセスに係る内部統制の不備がどの勘定科目にどの範囲で影響を及ぼすか検討する。

例えば、ある事業拠点において、ある商品の販売に係る業務プロセスで問題が起きた場合、その問題の影響が及ぶ売上高は、当該販売プロセスが当該事業拠点に横断的な場合(例えば、ある事業拠点において、すべての出荷が定型化した販売手順を経て行われる場合であって、その出荷のプロセスに不備が発見された場合)には、当該事業拠点全体の売上高に影響を及ぼすものと考えられる一方、問題となった業務プロセスが特定の商品に係る販売プロセスに固有のものである場合には、当該商品の売上高だけに影響を及ぼすものと考えることができる。
また、他の事業拠点でも、問題となった業務プロセスと同様の業務手順を横断的に用いている場合(例えば、別の事業拠点でも、同一の手順書等に基づき、先の事業拠点と同一の手順を経て販売が行われる場合)には、上記の問題の影響は当該他の事業拠点全体の売上高にも及ぶことが考えられる。ただし、最終的な内部統制の不備の程度については、以下ロ.に示すように、当該他の事業拠点において実際に問題が発生する確率の高低等を考慮して決定することになる。

ロ. 影響が実際に発生する可能性の検討
監査人は、上記イ.で検討された影響が実際に発生する可能性を検討する。その際には、発生確率をサンプリングの結果を用いて統計的に導き出すことも考えられるが、それが難しいと考えられる場合には、例えば、以下に掲げる事項に留意して、リスクの程度を定性的(例えば、発生可能性の高、中、低)に把握し、それに応じて予め定めた比率を発生確率として適用することも考えられる。
この場合、影響の発生可能性が無視できる程度に低いと判断される場合には、判定から除外することも考えられる。

. 検出された例外事項の大きさ・頻度
例えば、試査による検討の結果、検出された誤謬等の規模が大きく、検出の頻度が高いほど、影響の発生可能性は高いと判断される。
. 検出された例外事項の原因
例えば、事業拠点において内部統制に関するルールが遵守されてはいたが不注意により誤りが発生したという場合、内部統制のルールが全く遵守されていなかったという場合よりも、影響の発生可能性は低いと判断される。
. ある内部統制と他の内部統制との代替可能性
例えば、内部統制に代替可能性が認められる場合、ある内部統制の不備を他の内部統制が補完している可能性があり、その場合には影響の発生する可能性が低減されるということが考えられる。

ハ. 内部統制の不備の質的・金額的重要性の判断
監査人は、上記イ.ロ.で求めた金額と発生可能性を勘案し、当該不備が財務報告に及ぼす潜在的な影響額を検討し、「U 財務報告に係る内部統制の評価及び報告」1.A 重要な欠陥の判断指針 に照らして、その質的・金額的重要性を判断する。業務プロセスの不備が及ぼす影響に質的又は金額的な重要性があると認められる場合には、当該不備は重要な欠陥に該当するものと判断される。
なお、内部統制の不備が複数存在する場合には、影響額を合算(重複額は控除)した上で、重要な欠陥に該当しないか検討する。

ニ. ITを利用した内部統制に係るITの全般統制の不備の取扱い
ITを利用した内部統制に係るITの全般統制は、ITに係る業務処理統制が有効に機能する環境を保証するための統制活動であり、仮に、全般統制に不備があった場合には、たとえ業務処理統制が有効に機能するように整備されていたとしても、その有効な運用を継続的に維持することができない可能性がある。したがって、全般統制に不備が発見された場合には、それをすみやかに改善することが求められる。
しかしながら、ITに係る全般統制の不備は、それ自体が財務報告の重要な事項に虚偽記載が発生するリスクに必ずしも直接に繋がるものではないため、業務処理統制が現に有効に機能していることが検証できているのであれば、全
般統制の不備をもって直ちに重要な欠陥と評価されるものではないことに留意する。
内部統制の重要な欠陥の報告と是正 監査人は、内部統制監査の実施において内部統制の重要な欠陥を発見した場合には、経営者に報告して是正を求めるとともに、当該重要な欠陥の是正状況を適時に検討しなければならない。
また、監査人は、当該重要な欠陥の内容及びその是正結果を取締役会及び監査役又は監査委員会に報告しなければならない。
監査人は、内部統制の不備を発見した場合も、適切な者に報告しなければならない
監査人は、内部統制監査の結果について、経営者、取締役会及び監査役又は監査委員会に報告しなければならない。
(注) 監査人は、内部統制監査の過程で発見された内部統制の重要な欠陥については、会社法監査の終了日までに、経営者、取締役会及び監査役又は監査委員会に報告することが必要になると考えられる。
@ 重要な欠陥等の報告

〔内部統制監査で発見した重要な欠陥等の報告〕

監査人は、監査の過程で重要な欠陥を発見した場合には、その内容を、経営者に報告して是正を求めなければならない。また、監査人は、当該重要な欠陥の内容を経営者に報告した旨を、取締役会及び監査役又は監査委員会に報告しなければならない。
監査人は、重要な欠陥以外の不備を積極的に発見することを要求されてはいないが、監査の過程において、財務報告に係る内部統制のその他の不備を発見した場合には、適切な管理責任者に適時に報告しなければならない。
監査人による報告では、報告の対象となる不備が内部統制の不備、重要な欠陥のいずれに区別されるのかを明らかにしなければならない。ただし、迅速な報告が必要であると判断した場合に、その時点では当該区別を明らかにしないですみやかに報告し、当該区別については、改めて報告するということも考えられる。
A 重要な欠陥の是正状況の検討

〔期中に存在した重要な欠陥の是正状況の確認〕

監査人は、監査の過程で内部統制の重要な欠陥を発見した場合には、経営者に報告して是正を求めるとともに、当該重要な欠陥の是正状況を適時に確認しなければならない。
経営者又は監査人が重要な欠陥を発見した場合でも、前年度以前に発見された重要な欠陥を含め、それが内部統制報告書における評価時点(期末日)までに是正されていれば、内部統制は有効であると認めることができる。
監査人は、重要な欠陥の是正結果を、取締役会及び監査役又は監査委員会に報告しなければならない。
なお、評価時点(期末日)までに重要な欠陥について是正措置が実施された場合には、監査人は、実施された是正措置について経営者が行った評価が適切であるか確認を行う。
B 期末後の是正措置

イ. 期末日後に実施された是正措置の検討
内部統制報告書に期末日後に実施された重要な欠陥に対する是正措置が付記された場合、監査人は、当該是正措置に係る内部統制報告書の付記事項などの記載内容の妥当性を検討するため、例えば、以下の手続を実施する。
a. 当該是正措置に関する稟議書等の社内文書を入手して、その内容を確認する。
b. 是正措置の内容について、財務、経理及び関連する部署の担当役員等に質問する。
c. 是正措置が連結子会社等で実施された場合で、当該連結子会社等を他の監査人が監査している場合には、当該他の監査人から、当該是正措置の内容に関する他の監査人の見解等を確認する。

ロ. 期末日後に実施された是正措置についての追記情報
監査人は、経営者が内部統制報告書に付記事項として記載した、期末日後に実施された是正措置の内容の記載が適切と判断した場合には、追記情報として内部統制監査報告書に重ねて記載する。
監査人は、是正措置の内容の記載が適切でないと判断した場合は、当該不適切な記載についての除外事項を付した限定付適正意見を表明するか、又は、内部統制報告書の表示が不適正である旨の意見を表明し、その理由を記載しなければならない。
また、内部統制報告書の提出日までに有効な内部統制を整備し、その運用の有効性を確認している場合には、経営者は、是正措置を完了した旨を、実施した是正措置の内容とともに記載することとなるが、このような記載が行われる場合には、記載内容の適正性について確認を実施する。
ただし、これらの記載事項について、財務諸表監査の過程において一定の監査証拠が得られている場合には、これらの監査証拠を、適宜、利用できることに留意する。
不正等の報告 監査人は、内部統制監査の実施において不正又は法令に違反する重大な事実を発見した場合には、経営者、取締役会及び監査役又は監査委員会に報告して適切な対応を求めるとともに、内部統制の有効性に及ぼす影響の程度について検討しなければならない。 監査人は、内部統制監査の実施において不正又は法令に違反する事実を発見した場合には、経営者、取締役会及び監査役又は監査委員会に対して適時に報告して適切な対応を求めるとともに、内部統制の有効性に及ぼす影響の程度について検討し、その結果、その事実が内部統制の不備又は重要な欠陥に該当する場合には上記(3)に記載した対応を取らなければならない。
監査役又は監査委員会との連携 監査人は、効果的かつ効率的な監査を実施するために、監査役又は監査委員会との連携の範囲及び程度を決定しなければならない。 監査人は、効果的かつ効率的な監査を実施するために、監査役等との連携の範囲及び程度を決定しなければならない。ここで、連携の方法、時期及び情報や意見を交換すべき事項等については、被監査会社の置かれた状況等に応じて、監査役等との合意により決定される。
他の監査人等の利用 監査人は、他の監査人によって行われた内部統制監査の結果を利用する場合には、当該他の監査人によって行われた内部統制監査の結果の重要性及び他の監査人に対する信頼性の程度を勘案して、他の監査人の実施した監査が適切であるかを評価し、他の監査人の実施した監査の結果を利用する程度及び方法を決定しなければならない。 @ 他の監査人の利用
内部統制監査における他の監査人の利用については、財務諸表監査における一般に公正妥当と認められる基準に準拠して判断される。
なお、在外子会社における他の監査人の監査結果の利用について、監査人は、国外の監査人が国内基準以外の監査基準に準拠して内部統制監査を実施する場合、国内基準に準拠して実施する場合と実質的に同等であると監査人が判断できるときには、当該監査基準に準拠して実施された監査結果を利用することができる。

A 専門家の業務の利用
財務報告に係る内部統制の監査における専門家の業務の利用についても、財務諸表監査における一般に公正妥当と認められる基準に準拠して判断される。

B 内部監査人等の作業の利用
イ. 内部監査人等の作業の検証
内部監査人等が内部統制の有効性の評価に関して作業を行っている場合、監査人は、内部監査人等の作業を自己の検証そのものに代えて利用することはできないが、内部監査人等の作業の品質及び有効性を検証した上で、経営者の評価に対する監査証拠として利用することが考えられる。
ロ. 内部監査人等の作業の検証にあたって実施すべき手続
監査人が内部監査人等の評価作業の品質及び有効性を検証するに当たっては、例えば、以下の手続を実施する。
a. 作業実施者の能力及び独立性の検討
監査人は、評価作業の実施者が適切な専門的能力を備えているかどうか、及び、評価を実施した業務から独立しているかについて検討する。
b. 当該作業の一部についての検証
監査人は、内部監査等による評価作業の品質及び有効性を判断するため、その作業の一部について検証する。
監査人の報告 意見に対する除外 監査人は、内部統制報告書において、経営者が決定した評価範囲、評価手続、及び評価結果に関して不適切なものがあり、無限定適正意見を表明することができない場合において、その影響が内部統制報告書を全体として虚偽の表示に当たるとするほどには重要でないと判断したときは、除外事項を付した限定付適正意見を表明しなければならない。
この場合には、内部統制報告書に対する意見において、除外した不適切な事項、及び財務諸表監査に及ぼす影響について記載しなければならない。
監査人は、内部統制報告書において、経営者が決定した評価範囲、評価手続、及び評価結果に関して著しく不適切なものがあり、内部統制報告書が全体として虚偽の表示に当たると判断した場合には、内部統制報告書が不適正である旨の意見を表明しなければならない。この場合には、内部統制報告書が不適正である旨及びその理由、並びに財務諸表監査に及ぼす影響について記載しなければならない。
〔限定付適正意見の表明〕

監査人が、経営者が決定した評価範囲、評価手続、及び評価結果に関して不適切なものがあり、無限定適正意見を表明することができない場合において、その影響が内部統制報告書を全体として虚偽の表示に当たるとするほどには重要でないと判断できる場合には、限定付適正意見が表明される。
例えば、財務報告に係る内部統制に関する重要な欠陥があるとした経営者の評価結果は適正であるが、期末日後に実施した是正措置を内部統制報告書に記載している場合において、監査人が当該是正措置に関する経営者の記載は不適切であると判断した場合が挙げられる。
監査範囲の制約 監査人は、重要な監査手続を実施できなかったことにより、無限定適正意見を表明することができない場合において、その影響が内部統制報告書に対する意見表明ができないほどには重要でないと判断したときは、除外事項を付した限定付適正意見を表明しなければならない。この場合には、実施した監査の概要において実施できなかった監査手続を記載し、内部統制報告書に対する意見において当該事項が財務諸表監査に及ぼす影響について記載しなければならない。
監査人は、重要な監査手続を実施できなかったことにより、内部統制報告書に対する意見表明のための合理的な基礎を得ることができなかったときは、意見を表明してはならない。この場合には、内部統制報告書に対する意見を表明しない旨及びその理由を記載しなければならない。 
〔評価範囲の制約に係る監査上の取扱い〕

監査人は、「やむを得ない事情」により、内部統制の一部について十分な評価手続を実施できなかったことにつき正当な理由が認められるか否かについて慎重に検討しなければならない。監査人は、やむを得ない事情により十分な評価を実施できなかった範囲を除き、一般に公正妥当と認められる内部統制の評価の基準に準拠し、財務報告に係る内部統制の評価について、すべての重要な点において適正に表示していると認められると判断した場合には、内部統制監査報告書において無限定適正意見を表明する。この場合、監査人は、経営者がやむを得ない事情によって評価範囲に含めなかった範囲及びその理由を内部統制監査報告書に追記しなければならない。

なお、経営者の評価手続の一部が実施できなかったことに正当な理由が認められるとして無限定適正意見を表明する場合には、次の点に留意しなければならない。
イ.経営者による財務報告に係る内部統制の有効性の評価が、やむを得ない事情により十分な評価手続を実施できなかった一部の内部統制を除き、全体として適切に実施されていること。
ロ.やむを得ない事情により、十分な評価手続を実施できなかった内部統制の範囲が、財務報告に係る内部統制の全体に及ぼす金額的、質的影響が重要な欠陥に該当するまでには至っていないこと。
追記情報 監査人は、次に掲げる事項を内部統制監査報告書に情報として追記するものとする。
 @ 経営者が、内部統制報告書に財務報告に係る内部統制に重要な欠陥がある旨及びそれが是正されない理由を記載している場合において、当該記載が適正であると判断して無限定適正意見を表明するときは、当該重要な欠陥及びそれが是正されない理由、並びに当該重要な欠陥が財務諸表監査に及ぼす影響
 A 財務報告に係る内部統制の有効性の評価に重要な影響を及ぼす後発事象
 B 期末日後に実施された是正措置等
 C 経営者の評価手続の一部が実施できなかったことについて、やむを得ない事情によると認められるとして無限定適正意見を表明する場合において、十分な評価手続を実施できなかった範囲及びその理由
〔内部統制報告書に記載する後発事象の検討〕

監査人は、財務報告に係る内部統制の有効性の評価に重要な影響を及ぼす後発事象の発生の有無及び、内部統制報告書に記載すべき後発事象が存在する場合には、当該後発事象が適切に記載されているかを確認する。
重要な後発事象の発生の有無を確認する手続としては、例えば、以下のものが挙げられる。
イ.重要な後発事象として認識すべき事象が発生したか否かについて財務・経理担当役員等に質問する。
ロ.決算日後に開催された株主総会、取締役会、監査役会及び常務会等の重要な会議の議事録を閲覧する。議事録が入手できない場合には、会議で討議された事項について質問する。
ただし、監査人は、財務諸表監査の実施過程において、重要な後発事象の把握を行っていると考えられ、その場合には、財務諸表監査の実施過程で得られた重要な後発事象に関する監査証拠を、適宜、利用することに留意する。

内部統制報告制度に関する11の誤解(2008年3月11日 金融庁)
誤解 実際 具体例
@米国SOX法と同じか
SOX法への批判を踏まえて制度設計 ○トップダウン型のリスク・アプローチ
重大な虚偽記載につながるリスクに着目して、必要な範囲で内部統制を整備・評価(評価する範囲の絞込みに工夫)
○内部統制の不備の区分の簡素化
内部統制の不備を「重要な欠陥」「不備」の2つに簡素化
A特別な文書化が必要か 企業の作成・使用している記録等を適宜利用  ○内部統制の記録
フローチャート、業務記述書などの作成は必ずしも求めておらず、企業の作成・使用している記録等を利用し、必要に応じて補足を行うことで可 
○記録の保存
全てを文書として保存するのではなく、適切な範囲・方法(磁気媒体など)により保存すれば可
Bすべての業務に内部統制が必要か  全社的な内部統制が最重要であり、全社的な内部統制の評価結果を踏まえ、重要な虚偽記載につながるリスクを勘案し、業務を評価する絞込みが可能。  ○評価対象となる業務の絞り込み
売上等の3分の2に達するまでの事業拠点における3つの勘定科目(売上、売掛金、棚卸資産)に係る業務に絞り込み。
○重要性の僅少な業務の例外
さらに、評価対象となった業務のうちに重要性の僅少(例えば5%)なものがあれば除外可。
C中小企業でも大掛かりな対応が必要か  上場会社のみが対象、かつ、企業の規模・特性などの中小企業の実態を踏まえた簡素な仕組みを容認  ○職務分掌に代わる代替的な統制
マンパワーが不足している場合などには、経営者や他の部署の者が適切にモニタリングを実施することで可
○企業外部の専門家の利用
モニタリング作業の一部を社外の専門家を利用して実施することが可能。
D問題があると罰則等の対象になるか  内部統制に問題(重要な欠陥) があっても、それだけでは、上場廃止や金融商品取引法違反(罰則)の対象にはならない ○「重要な欠陥」は上場廃止事由とはならない(東証・上場制度総合整備プログラム2007) 
○「重要な欠陥」があっても、それだけでは、金融商品取引法違反とはならず、罰則の対象にもならない。
(罰則対象は、内部統制報告書の重要な事項について、虚偽の記載をした場合(金商法197条の2))
E監査人等の指摘には必ず従うべきか  自社のリスクを最も把握している経営者が、主体的に判断  ○監査人の適切な指摘
監査人の指摘は、内部統制の構築等に係る作業や決定が、あくまで企業・経営者によって行われるとの前提の下で、適切な範囲で行われる必要。 
○監査人等の開発したマニュアル・システム
監査法人やコンサルティング会社のマニュアル(内部統制ツールなど)、システムを使用しなければならないということはない。
F監査コストは倍増するのか  内部統制監査は、財務諸表監査と同一の監査人が一体となって効率的・効果的に実施 ○監査計画の一体的作成
財務諸表監査と内部統制監査の監査計画を一体的に作成 
○監査証拠の利用
それぞれの監査で得られた監査証拠は相互に利用
G非上場の取引先も内部統制の整備が必要か  上場会社と取引があることをもって、内部統制の整備等を求められることはない  ○取引先(委託業務の委託先を除く。
上場会社の仕入先や得意先などの取引先(非上場会社)には、内部統制の整備・評価は求めていない(これまでどおりの納品書・請求書等の作成等で可) 
○上場会社の業務の委託先
委託業務の委託先であっても、重要な業務(プロセス)となっていない場合には、評価の対象とはならない。
Hプロジェクトチーム等がないと問題か  既設の部署等を活用で可。  ○既設の部署の活用
経理部や内部監査部など既設の部署を活用
○企業外部の専門家の利用
内部統制の評価作業等の一部を社外の専門家を利用して実施
I適用日までに準備を完了する必要があるか  内部統制はプロセスであり、問題点があれば、その都度是正していくことが重要  ○報告書の提出期限
最も早く報告書を提出する3月決算の会社でも、平成21年3月末の状況を平成21年6月末までに報告
○問題点(重要な欠陥)への対応
期末日までに問題点が是正されていれば内部統制は有効。
そうでなくても、期末日後の是正措置や是正に向けての方針等を報告書に記載することが可能。
J期末のシステム変更等は延期が必要か そのまま実施しても、内部統制は有効  ○期間内に十分な評価手続を実施できないとしても、経営者は「やむを得ない事情」によるものとし、評価範囲から除外して、内部統制の評価が可能
○この場合、監査人は「無限定適正意見」を表明可能