シンプラル法律事務所
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論点整理(相続関係)

論点の整理です(随時増やしていく予定です。)

相続(手続)
遺産分割の管轄 調停の場合:相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所(家審規129@)
審判の場合:相続開始地(被相続人の最後の住所地)の家庭裁判所(家審規99@)
不服申立 即時抗告(家事審判法14条) 家事審判への不服申立
@寄与分を定める申立てを認容及び却下する審判(規則103の5)
A遺産分割の認容及び却下する審判(規則111)
B遺産分割禁止の申立を認容する審判(規則111)
審判告知の日から2週間以内にする必要
申立ては、抗告権者が不服申立ての対象である審判をした家庭裁判所もしくはその支部またはその直近の上級裁判所である高等裁判書もしくはその支部に対して行う。
特別抗告 抗告審の裁判に対する不服申立て 
憲法違反を理由とするときにのみ。最高裁の管轄。
特別抗告期間は5日。(家事審判法7条、非訟事件手続法25条、民訴法336条)

相続人不存在の場合
処理 規定 民法 第951条(相続財産法人の成立) 
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
民法 第952条(相続財産の管理人の選任)
前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。
民法 第957条(相続債権者及び受遺者に対する弁済)
第九百五十二条第二項の公告があった後二箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産の管理人は、遅滞なく、すべての相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
2 第九百二十七条第二項から第四項まで及び第九百二十八条から第九百三十五条まで(第九百三十二条ただし書を除く。)の規定は、前項の場合について準用する。
民法 第958条(相続人の捜索の公告)
前条第一項の期間の満了後、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、相続財産の管理人又は検察官の請求によって、相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。
清算手続 相続財産の帰属主体がなくなる⇒一種の財団法人を作って相続財産限りでの清算をする必要。
相続財産は法人とされ(法951条)、家庭裁判所が利害関係人または検察官の請求によって相続財産管理人を選任して(法952条)、この管理人が限定承認の場合のように相続財産の清算を行う(法957条)。
同時に、相続人の捜索を行い(公告をする。985条)、結局相続人が現れなければ、清算して残った残余財産の帰属を決める。
残余財産の帰属  規定 民法 第959条(残余財産の国庫への帰属)
前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。
民法 第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
特別縁故者制度 相続人なし⇒国庫に帰属(法959条)。
but
昭和37年の民法改正で法958条の3(特別縁故者への相続財産分与制度)が規定
根拠
@被相続人の意思の推測
A内縁配偶者のように相続人と実質的に同様な地位のある者に、法定相続制度の補充として、遺産を分与。
特徴 3つの特徴:
@相続人が不存在の場合にのみ機能する制度である
A特別縁故者からの請求があってはじめて分与がなされる
B家庭裁判所が「相当」と認めた場合に、つまり家庭裁判所の裁量で分与される
Bについて、被相続人の死亡の直前に短期間面倒をみたという程度では「相当」とは認められないということになろうが、反面、裁量権が濫用される危険も。
特別縁故者 「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者」(法958条の3第1項)
自然人には限らず、被相続人が世話になっていた老人ホームや、市町村、菩提寺(宗教法人)などでもよい。
手続 相続人捜索の公告期間の満了後3か月以内に、財産の分与を請求(法958条の3第2項)。 
家庭裁判所が相当と認めれば、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
なお残った相続財産があれば、国庫に帰属(法959条)。
   

手続関係
★相続財産管理人の選任    ★相続財産管理人の選任
規定 民法 第951条(相続財産法人の成立) 
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
民法 第952条(相続財産の管理人の選任)
前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。
概要 相続人のあることが明らかでないときは、そうぞ財産は法人とされる(民法951条)。
この場合、、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければなrない(家事手続別表T99、民法952@)。
提出書類 相続財産管理人選任審判申立書 
管轄  相続が開始した地を管轄する家庭裁判所(家事手続203〜) 
申立権者 利害関係人、検察官(民法952@) 
利害関係人:
相続財産の管理清算に利害関係を有する者。
ex.被相続人の債権者・債務者、受遺者、特定遺贈を受けた者、特別縁故者など
相続人捜索のための公告 相続人不存在の手続は、相続人を捜索する手続と相続財産の清算の手続が併せて規定。
相続人不存在の手続では、相続財産管理人の選任後、相続人を捜索するため、3回の公告が定められる。
@相続財産管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告(民法952A)。この公告期間は2か月(民法957@)。
A1回目の公告(@)後、2か月を経ても相続人が現れない場合、相続財産の管理人が、相続債権者および受遺者に対し、2か月以上の期間を定めて、請求の申出をすべき旨を公告(民法957@)。
B2回目の公告期間満了後も、なお相続人が現れない場合には、家庭裁判所は、相続財産の管理人または検察官の請求によって、6か月以上の期間を定めて、相続人であるならばその権利を主張すべき旨を公告しなければならない(民法958条)。
職務および権限 規定 民法 第953条(不在者の財産の管理人に関する規定の準用)
第二十七条から第二十九条までの規定は、前条第一項の相続財産の管理人(以下この章において単に「相続財産の管理人」という。)について準用する。
民法 第27条(管理人の職務)
前二条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。
2 不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。
3 前二項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。
民法 第28条(管理人の権限)
管理人は、第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。
民法 第103条(権限の定めのない代理人の権限)
権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
民法 第29条(管理人の担保提供及び報酬)
家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。
2 家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる。
説明  相続財産の管理人の職務および権限等は、不在者の財産の管理人と同様(民法953条、27〜29条)。 
@相続財産の管理人は、相続財産目録を調整する義務がある。
家庭裁判所は、相続財産の管理人に対し、相続財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる(民法953、28)。
A相続財産の管理人は、相続財産法人の代表者として、民法103条に規定する権限を与えられ、この権限を越える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得なければならない(民法953、28)。
B家庭裁判所は、相続財産の管理人に対し、担保を提供することを命じ、また、相当な報酬を与えることができる(民法)953,29。
相続財産の清算  相続財産の清算には、限定承認に関する規定が準用される(民法957A・928〜935(932ただし書を除く))。 
相続財産の凍結 家庭裁判所による民法958条による最後の公告期間内に、相続人としての権利を主張する者がいないときは、相続人ならびに相続財産の管理人に知れなかった相続債権者および受遺者は、その権利を行使することができなくなる(民法958条の2)。 

特別縁故者への相続財産の分与を可能にする時間的猶予を作り出すため、相続財産の国庫帰属前に、相続財産が凍結状態になることが規定。
管理人の改任  家庭裁判所は、いつでも、相続財産の管理人を改任することができる(家事手続208、125@)。 
★相続財産管理人の権限外行為許可を求める審判   ★相続財産管理人の権限外行為許可を求める審判
概要  相続財産の管理人が民法103条に規定する管理行為(保存行為、利用行為および改良行為)を超える行為を行うには、家庭裁判所の許可を得なければならない(家事手続別表199、民法953、28前段)。 
提出書類  相続財産管理人の権限外行為許可審判申立書 
管轄  相続が開始した地を管轄する家庭裁判所(家事手続203一) 
申立権者 相続財産管理人(民法953、28前段) 
説明 管理行為:
民法103条に規定する管理行為の例:
@応訴
A応訴の結果、敗訴した場合の控訴、上告
B預金の払戻請求
C貸金庫の開扉
等 
民法103条に規定する権限を越える行為の例
@訴えの提起、訴えの取下げ、訴訟上の和解
A保全処分の申立て
B調停の申立て、調停の成立
C建物の取壊し
D土地の分筆
などの財産権の設定、移転、変更および消滅をもたらす法律行為ならびに財産の毀損、性質を変更する事実行為は、家庭裁判所の許可を得なければならない。
家庭裁判所の許可を得ないで行った行為の効力:
相続財産の管理人が家庭裁判所の許可を得ずに権限外の行為を行った場合、その行為は無権代理行為となる。
審判手続 審判は、相続財産の管理人に告知されることによって、その効力を生ずる(家事手続74)。
いずれの場合(許可の審判・却下の審判)も、不服申立ては認められない。
授権の証明 家庭裁判所の許可審判書の謄本を証明書として、権限外の行為を行う。 
★特別縁故者に対する相続財産の分与    ★特別縁故者に対する相続財産の分与 
概要  相続人捜索の公告を行ったにもかかわらず(民法958条)、相続人として権利を主張する者がない場合において、家庭裁判所は、相当と認めるときは、被相続人と特別の縁故があった者の請求によって相続財産の全部または一部を与えることができる(家事手続別表1(101)、民法958条の3。
提出書類 特別縁故者に対する財産分与審判申立書 
管轄 相続が開始した地を管轄する家庭裁判所(家事手続203三)
申立権者 被相続人として生計を同じくしていた者(内縁の妻、事実上の養子、配偶者の連れ子など)、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者(民法958条の3) 
特別縁故者:
「その他被相続人と特別の縁故があった者」とは、「本条に例示する生計を同じくしていた者、療養看護に努めた者に該当する者に準ずる程度に被相続人との間に具体的かつ現実的な精神的・物質的に密接な交渉があった者で、相続財産をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に特別の関係があった者をいう。」(大阪高裁昭和46.5.18)
解説 ●申立期間と審判の開始
特別縁故者は、家庭裁判所に対し、民法958条に規定する相続人を捜索するための公告で定められた期間の満了後3か月以内に、相続財産の分与を請求する必要(民法958条の3A)。 
特別縁故者に対する相続財産の分与の申立てについての審判は、民法958条の期間の満了後3か月を経過した後にしなければならない(家事手続204@)。
●申立書の記載事項 
特別縁故者に対する相続財産の分与の審判の申立書には、被相続人との特別の縁故関係を記載しなければならない(家事手続規則110@)。
●審判の併合 
同一の相続財産に関し、特別縁故者に対する相続財産の分与の審判が数個同時に係属⇒これらの審判の手続および審判は併合してしなければならない(家事手続204A)。
●意見の聴取 
特別縁故者に対する相続財産の分与の申立てについての審判をする場合には、家庭裁判所は、相続財産の管理人の意見を聴かなければならない(家事手続205)。
●  ●即時抗告 
相続財産分与の審判に対しては、申立人および相続財産の管理人が即時抗告することができる(家事手続206@一)。
相続財産の申立てを却下する審判に対しては、申立人が即時抗告をすることができる(家事手続206@二)。
●相続財産の換価を命じる裁判 
★遺言書の検認    ★遺言書の検認 
概要  遺言書(公正証書遺言を除く。) の保管者または遺言書を発見した相続人は、相続の開始を知った後、遅滞なく、遺言書を家庭裁判所に提出して、検認を請求しなければならない(家事手続別表1(103)、民法1004@)。
遺言書検認:
相続人に対して遺言の存在およびその内容を知らせること、および遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名などの検認の日における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造、変造を防止することを目的とする証拠保全手続。

遺言書が有効に成立したことを認める手続ではない⇒のちに遺言書の効力を争うことができる。
規定  民法 第1004条(遺言書の検認) 
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
提出書類 遺言所検認審判申立書 
管轄 相続が開始した地を管轄する家庭裁判所(家事手続209@)
★遺言執行者の選任      ★遺言執行者の選任 
概要  遺言者が遺言によって遺言執行者を指定しなかったとき、または指定した遺言執行者が就任を辞退するなどの理由から遺言執行者がなくなったとき、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、遺言執行者を選任することができる(家事手続別表1(104)、民法1010条)。 
規定 民法 第1010条(遺言執行者の選任)
遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。
提出書類 遺言執行者選任審判申立書 
管轄 相続が開始した地を管轄する家庭裁判所(家事手続209@)
申立権者 利害関係人(相続人、遺言者の債権者、受遺者など)(民法1010条) 
解説 ●遺言執行者の実体法上の地位
民法 第1015条(遺言執行者の地位)
遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。
遺言執行者は、相続人の代理人とみなされている(民法1015条)。
but
遺言執行者が、相続人を廃除する内容の遺言を執行するなど、遺言執行者と相続人との利益は相反する場合がある。

民法1015条は、遺言執行者の行為の効果が相続人に帰属することを明らかにした規定と理解するのが相当。
●  ●遺言執行者の職務権限 
民法 第1012条(遺言執行者の権利義務)
遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
民法 第1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
民法1013条⇒相続人が行った処分行為は無効となる(最高裁昭和62.4.23)。
「相続させる」遺言と遺言執行者の職務:
特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」という遺言がなされた場合、特段の事情がない限り、遺言の目的となっている不動産は、被相続人の死亡時に、直ちに相続によりその相続人に承継される(最高裁H3.4.19)。

その相続人は、単独で、所有権移転登記手続をすることができ、遺言執行者、遺言の執行として登記手続をする義務を負うものではない(最高裁H7.1.24)。
他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨げられる事態が生じた場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環として、他の相続人の妨害を排除するため、所有権移転登記の抹消登記手続を求め、さらに、真正な登記名義の回復を目的とする所有権移転登記手続を求めることができる(最高裁H11.12.16)。
●  ●遺言執行者の訴訟法上の地位 
遺言執行者は、遺言執行者の資格において自己の名をもって他人のために訴訟を追行することが認められている(最高裁昭和31.9.18)。

遺言執行者は、相続財産に関する訴訟について当事者適格が認められており、その訴訟上の地位は法定訴訟担当(民訴法115@二)。
民訴法 第115条(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲)
確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
一 当事者
二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人

相続(実体)
相続の効力 規定 民法 第896条(相続の一般的効力) 
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
民法 第898条(共同相続の効力)
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する
第899条
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
説明 遺産分割前の相続財産の共有は民法249条以下に規定する共有と同じ(判例)。

銀行預金債権等の金銭債権のように給付が可分である債権(可分債権)については、相続開始とともに当然分割
⇒各相続人に法定相続分に応じて権利が帰属。
⇒各相続人、自己の相続分に応じて権利を承継し、これを外に譲渡したり、その払戻を請求することができる。
相続財産の範囲
(実務p119〜)
相続財産に属さない財産・権利   ★相続財産に属さない財産・権利
■     ■一身専属権(民法896条ただし書)
●明文規定あり 
代理権(民法111条1項)
使用貸借における借主の地位(民法599条)
雇用契約上の地位(民法625条)
組合員の地位(民法679条)
民法 第599条(借主の死亡による使用貸借の終了)
使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う。
●明文規定なし 
扶養請求権
財産分与請求権
生活保護法に基づく保護受給権
but
一定額の給付請求権として具体化した場合(ex.扶養料や財産分与について一定の給付を求める調停成立)は、一身専属権が消滅して、相続可能となる。
  ■祭祀財産 
祖先の祭祀の主催者に帰属(民法897条)
  ■遺骨 
慣習上の祭祀主催者に帰属する(最高裁H1.7.18)。
  ■香典 
死者への弔意、遺族のなぐさめ、葬儀費用など遺族の経済的負担の軽減などを目的とする。
祭祀主催者や遺族への贈与⇒相続財産に含まれない。
  ■被相続人の死亡によって生じる権利で、被相続人に属さない権利 
死亡退職金
生命保険金請求権
債務      ★債務 
  ■債務の承継 
一身専属でないものは、履行期が到来しているか否かを問わず、包括承継の対象となる。
but
遺産分割の対象財産ではない。

相続により当然に各相続人に法定相続分で承継される。
  ■連帯債務
法律上当然に分割され、各共同相続人は、その相続分に応じて債務を承継し、その承継した範囲内で本来の債務者とともに連帯債務者となる。
  ■保証債務 
●身元保証 
相続性を否定(判例)
●信用保証(根保証、継続的な取引から生じる債務を包括的に保証するもの) 
特段の事由のない限り、承継しない(最高裁昭和37.11.9)。
  ■通常の保証
相続性を肯定
but
遺産分割の対象財産ではない。
契約上の地位の承継(実務p122〜)    ■相互の信頼関係を基礎にする契約 
〜当事者の死亡により消滅するものが多い。
ex.代理権、定期贈与、使用貸借、委任、組合等
■    ■使用貸借の借主の地位 
●死亡による使用貸借の終了
民法599条(終了)
←使用貸借関係は貸主と借主の特別な人的関係に基礎を置く。
●親族間の建物所有目的での土地の使用貸借契約における借主の死亡と契約の終了の成否 
裁判例には、建物所有を目的とする土地の使用貸借については、個人的要素を考慮する必要がないとして、民法599条の適用を否定するもの。
(東京地裁H5.9.14)
●建物を使用貸借している借主が死亡した場合 
東京高裁H13.4.18:
・・・・本件のように貸主と借主との間に実親子同然の関係があり、貸主が借主の家族と長年同居してきたような場合、貸主と借主の家族との間には、貸主と借主本人との間と同様な特別な人的関係があるというべきである
⇒民法599条は適用されない。
       
相続財産 預貯金   被相続人が有していた預金債権も相続の対象となる財産であることは明らか。
生命保険金 特殊性 死亡を原因⇒相続と類似性
保険契約で受取人を個別的に定めることができる⇒相続的承継(相続人が法定)とは異なる。
保険契約者(被相続人)の財産的出捐を基礎とする⇒相続と関連
保険金受取人=妻 相続財産を構成しない
(保険金受取人として特定の者が指定されている場合、それらの者が、第三者のためにする契約である生命保険契約の効果として、生命保険金請求権を固有の権利として取得する。)
特別受益分(民法903条)として取り扱われる
←903条は相続人間の公平を図った制度であり、問題を実質的に考慮すべき。実質的に考慮すれば、夫から妻に対して贈与ないし遺贈があった。
遺留分の規定で減殺することはできない
←保険金請求権の取得は固有の権利。
保険金受取人=「相続人」と指定 保険金請求権発生当時の相続人たるべき個人を指す。
(最高裁昭和40.2.2判決)

相続人は固有の権利として保険金請求権を取得する。
この場合、相続人が受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする旨の指定も含まれる。(最高裁H6.7.18判決)
受取人が被保険者より先に死亡した場合 商法676条:保険契約者は、さらに受取人を指定することができる。
指定をしないで保険契約者が死亡した場合、受取人の相続人が保険金受取人となる。
この場合、相続人は相続によって保険金請求権を取得するのではなく、原始的=固有に権利を取得する。
この相続人とは「被相続人たる受取人の死亡の時における相続順位に従い相続人となりたる者で、被保険者の死亡の時に生存する者」(最高裁H5.9.7判決)
この場合、相続人が数人いれば、受取人を「相続人」とした場合と違って、民法427条の規定に従い、平等の割合によって取得する。(最高裁H5.9.7判決)
相続放棄 相続放棄をしても保険金請求権を失わない。(東京地裁昭和60.10.25判決)
夫の死亡退職金 労働者が労働契約の継続中に死亡し、退職金が直接遺族に支給される場合。
退職金が支給される遺族は、会社等では、就業規則や内規で定められていることが多く、その支給される順序も定められているのが通常。
退職金の性質 @恩恵的性格
A生活保障的性格
B未払い賃金の支払の性格
会社の場合 受取人が退職金を権利として受領することを認めるとともに、それは被相続人が受取人のためにした契約の結果(第三者のためにする契約)に他ならないと考え、対価関係を実質的に考慮して、被相続人の受取権利者への遺贈とみる。
退職金を受け取った者は特別受益者とみなされ、遺留分の規定に反した場合は減殺される。
法律で定められている場合 退職金はその受取人がまったく固有の権利として取得する。
遺贈と見る余地はない→遺留分の規定は適用されない
but
特別受益分と解する。←相続人の公平を図る。
遺族扶養料・遺族年金 性格 恩給制度が、未払い賃金の支給とうい性格とか、被相続人財産からの給付の変形とか、給料の一部積立ての返還という性格は極めて薄い。
遺族 死亡した公務員の祖父母、父母、配偶者、子および兄弟姉妹で公務員の死亡当時これによって生計を維持し、これと生計を共にした者。(恩給法72条)
給付すべき者の順位は、配偶者、未成年の子、父母、成年の子、祖父母の順位。
受給の意味 妻の固有の権利として受ける。
⇒相続ではない。
★遺産の評価 
マニュアル5p411

実務p186
    ★遺産の評価 
  ■評価に係る当事者の合意 
当事者全員が合意⇒特段の事情がない限り、それを相当なものとみなしてよく、それに基づいて、調停又は審判をすれば足りる。
  ◆評価の基準時 
規定 民法 第903条(特別受益者の相続分)
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
民法 第904条の2(寄与分)
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
民法 第906条(遺産の分割の基準) 
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする
  ●考え方と根拠
◎遺産分割手続の実務 
@共同相続人の現実の遺産取得額を算定する場合、まず、相続開始時点における遺産の総額を特別受益額、寄与分額に修正した「みなし相続財産額」を求めて、特別受益額、寄与分等を考慮した各共同相続人の具体的相続分率を算出
Aその上で具体的相続分率を分割時における遺産総額に乗じて、各共同相続人の取得額を算出し、この割合によって個々の遺産の配分を行う
という二段階の作業。
◎具体的相続分率算定の遺産評価の基準時
相続開始時
←民法903条(特別受益)、904条の2(寄与分)の規定。
最高裁昭和51.3.18:
相続人が被相続人から贈与された金銭を特別受益とした遺留分算定の基礎として持戻し計算する場合に、贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算した価額で評価すべき。
◎現実に遺産を分割する際の遺産評価の基準時 
遺産分割の時点

相続開始時の遺産の評価額を基準にして遺産分割を行うことは共同相続人間の実質的公平に反するもので相当ではない。
@相続時から遺産分割時までの時間が経過しており、相続時と分割時の遺産評価額に変動がある場合で、かつ、A相続人が寄与分や特別受益の主張をしている場合には、相続開始時と分割時の二時点の遺産評価をして、具体的相続分率を求めた上で、各共同相続人の現実の取得額を算出すべき。
相続人が寄与分や特別受益の主張をしないことを明示している事案では、分割時の遺産評価。
不動産の価格について、原審において鑑定をしたとしても、鑑定の基準時から1年間を過ぎた場合には、再鑑定をすべきであることを説示した高裁の決定例(東京高裁昭和44.12.22)。
原審判後、遺産の中の重要部分を占める株式が暴落した場合など顕著な事情の変更があったときや原審判の遺産評価や分割方法に相当ではない点があり、原審判を変更する必要がある場合には、改めて抗告審決定日の直近の時点で遺産を評価し直すことが公平の観点に照らして相当。
●特別受益等の修正要素がない場合
遺産評価の基準時は、遺産分割時(通説)
分割時とは、理論的には審判確定日であるが、具体的には、審判確定日にできるだけ近接した日(社会通念上許容できる範囲で)の評価で足りる。
  ●特別受益等の修正要素がある場合 
◎原則:2時点評価 
遺産分割の基準時は分割時⇒分割時の遺産の評価も必要。
相続分の修正要素である特別受益又は寄与分あり具体的相続分の算定は相続開始時を基準時とする⇒相続開始時における遺産の評価が必要。
相続開始時から遺産分割時までに時間が経過しておらず、遺産の価額に変動があまりない⇒相続開始時を基準とすれば足りる。
当事者全員が1時点評価を基礎とすることで合意⇒その合意に従えば足りる。
◆      ◆ 遺産評価の方法(一般論) 
●  預貯金、現金等金額の明らかな財産以外の遺産については、何らかの方法でその価額の評価をすることが必要。
家庭裁判所は、遺産評価に必要な資料を収集し、その評価額を決定すべき職責を負っている。
遺産の評価額や評価方法は、相続人が任意に処分することを許された事項であり、当事者主義的運用が許される領域
⇒共同相続人に遺産の評価額あるいは評価方法についての合意を成立させ、その合意を判断の基礎にして手続を進めることが、遺産分割事件の迅速で効率的な処理のためには有効。

遺産分割事件の審理に当たっては、まず、評価をするために必要な資料(例えば、固定資産税、相続税、公示地価等に関する資料、マンションの売買契約書、中古車の査定に関する資料等)の収集を行い、遺産の評価について可能な限り当事者の合意を取り付けることに努力すべき。
共同相続人の中には、一旦遺産の評価について合意をしたにもかかわらず、分割結果に不満があるために合意を覆す。
but
一旦なされた合意については、その合意内容が著しく不合理であるなど特段の事情がない限り、合意を撤回することは訴訟上の信義則に反し許されない。
評価額や評価方法について当事者間の合意が得られない
⇒最も精度が高いとされる鑑定による評価を行うことが必要。
不動産の鑑定⇒不動産鑑定士
非公開株式(上場株式等相場のある株式以外の株式)の鑑定⇒公認会計士
    ◆2 不動産評価の公的基準
    ■ 評価の方法 
鑑定に代わる簡易な評価方法:
@固定資産税評価額、公示地価等の公的基準価格に一定倍率を乗じる方法
A家庭裁判所調査官、書記官、家事調停委員による事実の調査に基づく方法
B不動産鑑定士や公認会計士の資格を有する調停委員や参与員の意見の活用を図る方法等
but
いずれも正式の鑑定とは異なりその精度に問題がある。
⇒審判をした場合に、後日評価額の正確性を争われた場合には、その結論を維持することが困難になる。
⇒上記のような評価方法を採用するのであれば、そのような手法で行った評価額について当事者全員の合意を取り付けた上、これを期日調書に記載しておくことが必要(当事者の合意がない限りは、これらの資料を審判の基礎として採用することは差し控えるべき)。
@遺産評価額が分割時3億円を超える遺産分割事案において、当事者が不動産鑑定を申し出たにもかかわらず、宅地価格調査一覧表、不動産取引広告を資料とした家庭裁判所調査官の土地建物評価に関する調査結果をほぼ採用して不動産の時価を評価した上、債務分担の方法により遺産を分割
⇒このような場合には相続人全員が評価額について明確に同意するなど特別の事情がない限り、上記のような評価方法を採ることは妥当ではなく、不動産鑑定士等専門知識を有する者による鑑定を行うべき⇒原審判を取り消して差し戻し(大阪高裁昭和58.7.11)。
A不動産が遺産中の相当部分を占めている場合に参与員の意見内容を審判の資料とすることができるのは、相続人全員の同意がある場合、その意見内容の合理性が明らかであるなど相当性が認められる場合、鑑定の実施が極めて困難で次善の方法として相当である場合であるとして、参与員の意見内容に基づいて不動産の評価をした原審判を取り消して差し戻し(名古屋高裁H8.7.29)。
B不動産の分割に加えて金銭をの分割も行う場合には、不動産の取得者と金銭の取得者間の実質的公平を図るためにも、不動産の客観的価額を専門的知識に基づいて算出するのが望ましい⇒専門家による鑑定を採用するのが相当であり、鑑定の方法によらないときは、評価方法につき少なくとも当事者全員の合意を得る必要⇒当事者全員の合意を得ないまま不動産鑑定士の資格を有する調停委員の簡易な評価意見のみを基礎として遺産の評価を行った原審判には裁量権を逸脱した違法があるとして取り消して差し戻した(大阪高裁H9.12.1)。
C当事者双方は調停段階では不動産の評価額は固定資産税評価額によることについて合意しているようであるが、固定資産税評価額は時価と異なるのであるから、これを他の遺産(農協に対する出資金)や特別受益(金銭贈与)の価額と加えて見なし相続財産の価額を算出することが不合理であることは異論を見ないであろう⇒原審決を取り消し(福岡高裁H9.9.9)。
    ■(1) 公示価格(地価公示価格)
    ●@ 意義 
国土交通省の土地鑑定委員会が特定の標準地について毎年1月1日を基準日として公示する価格。
3月下旬ころの官報に掲載。
一般の土地取引に指標を提供するとともに、公共事業の用に供する土地の取得価格の算定等、相続税評価及び固定資産税評価の基準とされている。
公示価格:
近隣地域の標準的な画地の価格が求められており、売り手、買い手の双方に売り急ぎ、買い進み等の特殊な事情がない取引において成立すると認められるいわゆる正常な価格(=自由公開市場で取引が行われるとした場合において、その土地において通常成立すると認められる価格)。
●A 評価方法 
原則として、価格の3要素である、@市場性、A収益性、B費用性からアプローチする取引事例比較法、収益還元法、原価法の3方式を総合して算定。
    ■(2) 都道府県地価調査標準価格(地価調査標準価格) 
    ●@ 意義 
都道府県知事が、国土利用計画法施行令に基づき特定の基準地について毎年7月1日を基準日として公表されている価格。
    ●A 特徴 
都市計画区域内の土地が原則とされておらず、また、林地の基準値もあるのに、山林の評価では参考になる。
価格の意義、評価方法は公示価格と同様。
    ■(3) 固定資産税評価額
    ●@ 意義 
3年に1回評価替えが行われているが、価額が下落したと認める場合には修正を加えることができるものとsれ、
@固定資産税、A取計画税、B不動産取得税、C訴額算定等の基準。
●A 特徴 
ア:土地の固定資産税評価額は、公示価格の70%を目処に設定
イ:土地の個別的要因(地形、角地など)を考慮して固定資産評価基準により不動産ごとに決められている
ウ:3年に1度しか評価替えをしない⇒価格変動が大きい時は時点修正を行うのが相当
エ:大量の土地を限られた時間で公平、公正に評価しなければならない⇒個別事案においては、適正な時価とは乖離することもあり得る
    ●B 固定資産税評価額が採用される場合 
建物価格は固定資産税評価額が利用されることが多い。

一般的には建物価格は土地価格と比較して価格が安く、不動産価格のうちに占める建物のウエイトは低い場合が多い。
    ■(4) 相続税評価額(いわゆる路線価) 
    ●@ 意義 
財産評価基本通達により、相続税、贈与税等の算出の基準として、毎年その年の1月1日時点の価格が対象土地の地目ごとに路線価方式(市街地的形態を形成する地域)、倍率方式(市街地以外の地域で固定資産評価額の晩率を乗ずる方式)のいずれかにより算定され、毎年8月半ばころ各税務署単位で国税庁から公表されている価格
路線価:路線(=道路に面している標準的な間口、奥行距離を有する直角四辺形の土地)につけられた1u当たりの評価額(単位千円)。
路線価に路線600という表示があれば、その道路に面した土地は1u当たり60万円。
    ●A 路線価の評価基準としての有用性 
財産評価基本通達は、相続税・贈与税などを賦課するための財産評価の方法に関する全国共通の画一的で合理的な基準⇒課税上の公平感を保つという点で優れている。
毎年評価替え⇒地価変動をより詳細に反映。
    ●B 路線価の概数の算出方法 
●C 公示価格との対比 
     
法定単純承認(法921)  @ @相続人が、選択権行使前に相続財産の全部又は一部を処分したとき。(法921(1))
ただし、保存行為および602条に定める短期の期間を超えない賃貸をすることはここでいう処分にはあたらない。 
趣旨 処分により「黙示の単純承認があるものと推認しうるのみならず、第三者から見ても単純承認があったと信ずるのが当然であると認められる」(最高裁昭和42.4.27)
「処分」の意義 事実的意義での処分を含む。
ex.家屋のとりこわし 
もはや限定承認・放棄をしないことを表明する事由があったことを理由に本号が規定されていることからみて、処分の意思を有する。
相続人が相続財産であることを知って処分する必要。
相続開始の事実を知ることを要する。(大審大正9.12.17)
「処分」行為に限定される⇒管理行為は含まれない。
経済的価値のある処分は、本号の「処分」に該当する。
ex.相続放棄の申述・受理前に相続人が被相続人の有していた債権をとりたてて、これを収受領得する行為。
経済的に重要性を欠く形見分けのような処分は、本号の「処分」に該当しない。
「処分」が衡平ないし信義上やむをえない事情に由来するときには、本号の「処分」に該当しない。
ex.葬式費用に相続財産を支出する行為。
A A相続人が熟慮期間に限定承認も放棄もしなかったとき。(法921(2))
B B相続人が、選択権行使後に、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、私にそれを消費し、または悪意でこれを財産目録中に記載しなかったとき。(法921(3))
ただし、その相続人の放棄により相続人となった者が承認をした後は適用されない。
相続放棄 規定 民法 第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間) 
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において、伸長することができる。
民法 第916条
相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
民法 第917条
相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第九百十五条第一項の期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
手続 その旨を家庭裁判所に申述(938)。
相続放棄は要式行為⇒方式に従わない放棄は無効。
相続開始前に相続を放棄することもできない。
法律上の無効原因があればあとで放棄の項k力を訴訟で争うことができる。(最高裁昭和29.12.24)
熟慮期間 趣旨 3か月の熟慮期間中に相続放棄や限定承認がなされない⇒法定単純承認の事由。

その期間中のアクションも起こさないということが、被相続人の債務を承継するという相続人の態度の表明とみてよい、という判断。
(そのような推定を働かせることは無理な場合に例外を認めるのが最高裁の趣旨。)
期間 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(915@)。
利害関係人または検察官の請求により、家庭裁判所において伸長することができる(915@但書)。
進行 熟慮期間は各人別々に進行する(最高裁昭和51.7.1)。
起算点 「相続が開始したこと」および「自己が相続人となったこと」を覚知した時。
3か月以内に相続放棄しなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、そのように信ずるについて相当な理由があるときは、熟慮期間は、「相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算」すべき(最高裁)。
特例:
@再転相続の場合(民法916条)
A相続人が未成年者または成年被後見人であるときは、「法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から」起算される(民法917条)。
効果 「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみな」される(939条)。
⇒放棄した者を除く他の共同相続人が相続。
放棄と詐害行為 相続行為のような身分行為は詐害行為取消権の対象とはならない。(最高裁昭和49.9.20)

@放棄の法的効果は責任財産を積極的に減少させることではなく、消極的に増加を妨げることに過ぎないから、取消権行使の対象となる行為に含まれない。
A相続放棄のような身分行為は、他人の意思で強制すべきではなく、取消権を認めることは承認を強制するのと同じ結果となり不当。
事実上の相続放棄   共同相続人の中の1人に相続財産を集中させるための手法。
預金等〜1人の相続人が事実上遺産を排他的に管理・占有し、他の共同相続人が何ら権利主張しない。
but
不動産について名義を特定の相続人の単独所有とするには十分ではない。
遺産分割が相続人間の協議で行える⇒1人の相続人に遺産を集中するような分割の合意をする。
@1人の相続人を除く他の相続人が、すでに被相続人から十分な生前贈与を受けている(特別受益)として、自分の相続分はゼロであるという証明書(相続分皆無証明書)を作成し、これを相続登記申請書に添付。
A1人の相続人が遺産のほとんどを取り、他は名目的な財産を取ることを内容とする「遺産分割協議書」を作成・添付して相続登記をする。
現実には、正式の相続放棄より事実上の相続放棄の方が多い。
事実に反するとはいえ、相続人間の合意がある以上、それによってなされた相続登記を無効ということはできない(実質的には、いったん法定相続分で共同相続した各相続人が、その相続財産を1人に譲渡したと見ることもできる)。
メリット @家庭裁判所の審判が不要で手続きが簡単。
A熟慮期間を経過してからでも利用できる。
限界 債務の承継には使えない。
被相続人の債権者の同意がない限り、共同相続人は法定相続分に相当する割合の分割債務を免れることはできない。
←免責的債務引き受けには債権者の同意が必要。
限定承認 実態 手続き面倒⇒ほとんど使われていない。
面倒な手続 熟慮期間内に財産目録を調製して(熟慮期間は起算点の最も遅い相続人を基準にすべき)、相続人全員で家庭裁判所に限定承認の申術をし(923条、924条)、債権者に債権の申出を催告するなどの手続を経て(927条)、破産管財人のような清算業務を行う必要。
手続きを誤って「不当な弁済」があったとされると、債権者や受遺者に対する損害賠償責任も負わなければならない(934条)。
相続人と相続分(法900)   規定 民法 第900条(法定相続分) 
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
原則  A:配偶者      1/2
B:子(第1順位)  1/2
A:配偶者          2/3
B:直系尊属(第2順位) 1/3
A:配偶者   3/4
B:兄弟姉妹  1/4
Bが数人⇒原則平等
嫡出でない子の相続分は嫡出である子の相続分の1/2
父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分のの1/2(法900(4))
嫡出:法律上の婚姻関係にある男女を父母として生まれた子。
代襲相続
(法887AB、889A)
子又は兄弟姉妹について、
@相続開始前に死亡(被相続人と同時に死亡したときも含む)
A相続欠格
B排除されて相続資格を喪失
の場合、代襲相続が生じる。
子の場合は再代襲があるが、兄弟姉妹には再代襲はなし
子が養子の場合、養子縁組前に生まれていた子供は代襲相続人になれない。(←代襲相続人は被相続人の直系卑属に限られる。(法887A但書))養子縁組後に生まれていた子供は代襲相続人になれる。
相続欠格 規定 第891条(相続人の欠格事由)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
廃除 規定 第892条(推定相続人の廃除)
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
    ★遺産分割 
★特別受益     ★特別受益
制度  生前贈与や遺贈(特別受益)を受けた相続人(特別受益者)がいる場合に、相続人間の公平のために、相続分算定の際にこれを考慮する制度。
規定 第903条(特別受益者の相続分)
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。
◆    ◆特別受益者の相続分(具体的相続分)の法的性質 
複数の相続人が共同で遺産を承継する場合、
@基本的には、被相続人自らの遺言による指定あるいは委託した第三者による指定に従い(指定相続分。民法902条) 
Aこの指定がない場合には、民法の定める法定相続分による(民法900条、901条)。
民法903条は、共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、遺産分割に際して、これらの利益を相続分の前渡し的な特別受益として、相続開始時の相続財産に加算して(=持ち戻して)それを相続財産とみなし(みなし相続財産)、これに各共同相続人の相続分(本来の相続分)から遺贈又は生前贈与の価額を差し引いた残額をもって特別受益者の相続分(具体的相続分)とした。
民法 第899条
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
ここでいう「相続分」が上記の法定(又は指定)相続分を指すのか、それとも具体的相続分を指すのか?
A:相続分説:具体的相続分こそが真の相続分
(⇒民法899条の「相続分」は共同相続人の具体的相続分
B:遺産分割分説:具体的相続分は実体的な権利ではなく、特別受益者が存する場合の遺産分割の過程における分割基準に止まる。
(⇒民法899条の「相続分」は法定(指定)相続分

@具体的相続分が実際上機能するのは遺産分割においてであり、かつ、それは遺産分割審判により形成されるもの
A持戻しの対象となる生前贈与に当たるか否かは、被相続人の生前の資産、収入、家庭状況等に照らして総合的に決定されるものであり、合目的的裁量を働かせる上で審判の方がふさわしい
B特別受益は、寄与分とは逆方向ではあるが、相続分の修正・調整要素であり、寄与分と同じく審判事項と解しうる
具体的相続分ゼロの相続人が法定相続分による持分を第三者に譲渡した場合、
A:相続分説
⇒譲受人は譲渡相続人の具体的相続分の割合でしか権利を取得できないことから、譲受人は法定相続分による共有持ち分を取得できない。
B:遺産分割説
⇒譲受人は法定相続分による共有持分を取得できる。
遺産分割の結果、特別受益があるがゆえにこれよりも下回る相続分しか得られない場合でも、第三者を保護する立場から、譲受人は法定相続分の割合で処分権を有することになる。
最高裁H12.2.24:
具体的相続分は、このように遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであって、それ自体を実体法上の権利関係であるということはできず、遺産分割審判事件における遺産の分割や遺留分減殺請求に関する訴訟事件における遺留分の確定等のための前提問題として審理判断される事項であり、右のような事件を離れて、これのみを別個独立に判決によって確認することが紛争の直接かつ抜本的解決のため適切かつ必要であるということはできない。
⇒具体的相続分の価額又は割合を求める訴えは確認の利益がなく不適法

遺産分割説を採用。
  ◆1 意義
  ■(1) 定義 
  ■(2) みなし相続財産と具体的相続分の確定方法
●みなし相続財産
具体的相続分を計算する際の基礎となる「みなし相続財産」を確定するときには、「相続開始時に還俗する相続財産」の額に、相続人が受けた「贈与」の額を加算する。 
相続人の受けた「遺贈」(=遺言による財産の無償処分)は、持ち戻しの対象となるが、相続開始時に現存する相続財産の額には加算しない。
←遺贈は、相続開始時に現存する相続財産の中から支弁されるもの。
●特別受益の持戻し 
「みなし相続財産」を基礎とした上で、各共同相続人の相続分を乗じて各相続人の相続分(一応の相続分)を算定し、特別受益を受けた者については、この額から特別受益分を控除し、その残額をもって特別受益者が現実に受くべき相続分(=相続開始時点での具体的相続分)を確定。
「持戻し計算」とは、生前贈与による財産の額を遺産に合算して、これを法定相続分により各相続人に分配し、生前贈与や遺贈を受けた相続人にはその額だけ減額したものをもってその者の相続分と定めること。
◆      ◆2 特別受益の確定
  家庭裁判所は、審判で特別受益の有無や価額を判断できる。
特定の財産が特別受益財産であることの確認を求める訴えは不適法。
←特別受益に当たることが確定しても、相続開始時における相続財産の範囲・価額が定まらなければ、具体的相続分が定めることはないから、相続分を巡る紛争を直接かつ根本的に解決することにならない。よって、確認の利益を欠く。
◆      ◆3 特別受益の種類 
  ■(1) 遺贈 
遺贈=遺言によって遺言者の財産の全部又は一部を無償で相続人に譲渡すること。
包括遺贈も特定遺贈も特別受益となる(903条)。
「相続させる」旨の遺言があった場合も同様。
■    ■(2) 生前贈与 
相続財産の前渡しとみられる贈与であるか否かを基準とする。
●@婚姻又は養子縁組のための贈与 
◎ア:持参金・支度金 
一般的には特別受益となる。
but
その額が少額で、被相続人の資産及び生活状況に照らして扶養の一部と認められる場合は、特別受益とならない。
◎イ:結納金、挙式表 
一般的に特別受益とはならない。
◎ウ:その他 
相続人全員に同程度の贈与⇒持戻し免除の黙示の意思表示があったものと認めるのが相当。
●A学資 
◎ア:高等学校の学資(=入学金・授業料等)
被相続人の生前の資力、社会的地位、他の相続人との比較などを考慮して判断
◎イ:高等学校卒業後の学資 
高校卒業後の教育(専門学校、大学、留学、留学に準ずる海外旅行の費用等)
A:将来の生活の基礎となることは明らか⇒親の資力にかかわらず、生計の基本としての贈与に該当
○B:私立の医科大学の入学金のように特別に多額なものでない限り、子の資質・能力等に応じた親の子に対する扶養義務の履行に基づく支出
◎ウ:その他 
子に対する扶養の範囲内とは言えないものの、相続人全員が大学教育を受け、ほぼ同額の受益を受けている場合には、「特別受益として考慮しない」とするのが相当。
  ◎裁判例:
特別受益否定例

@被相続人の子供らが、大学や師範学校等、当時としては高等教育と評価できる教育を受けていく中で、子供の個人差その他の事情により、公立・私立等が分かれ、その費用に差が生じることがあるとしても、通常、親の子に対する扶養の一内容として支出されるもので、遺産の先渡しとしての趣旨を含まないものと認識するのが一般的。
A仮に、特別受益と評価しうるとしても、特段の事情のない限り、被相続人の持戻し免除の意思が推定されるものというべき。 
  ●Bその他の生計の資本としての贈与 
居住用の不動産の贈与又はその取得のための金銭の贈与、営業資金の贈与、借地権の贈与など、生計の基礎として役立つような財産上の給付。
「生計の資本としての贈与」とは、独立のための資金と考えるのが相当。
⇒遊興費支出のための金銭の像よ等はこれに当たらない。
  ●C扶養義務に基づく援助 
  ア:お祝い 
新築祝い、入学祝など、親としての通常の援助の範囲でなされたお祝いの趣旨に基づく贈与〜特別受益にはならない。
  イ:稼働できない子に対する扶養義務に基づく援助 
精神的要因あるいは病弱等の身体的要因などによる稼働できない子に対し、親が扶養義務に基づき援助する場合
〜特別受益にはならにあ。
     
◆              ◆4 特別受益が問題となる事例 
  ■(1) 共同相続人の一人が受取人とされる生命保険と特別受益 
●  死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は、原則として、特別受益とならないが、特別受益に準じて持戻しの対象となる場合もある。
最高裁H16.10.29:
養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当
but
@上記死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり
A保険契約である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生

保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らして到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当
上記特段の事情の有無については、@保険金の額、Aこの額の遺産の総額に対する比率のほか、B同居の有無、C被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、D各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべき。
●持戻しの対象となる場合の金額
A:保険料説(=被相続人の支払った保険料)
B:保険金学説(=相続人が保険会社から受け取った保険金額)
○C:保険金額修正説(=当該相続人が保険料の一部を負担していたときは、これに対応する保険金額を控除する説。すなわち、保険料の一部を相続人が負担している場合には、保険金のうちの、被相続人が負担した保険料の全保険料額に対する割合に相当する額が特別受益として認められる説)
■(2) 死亡退職金等の遺族給付 
持戻しの対象とするべきではない

死亡退職金等の遺族給付は、受給権者の生活保障を目的とした制度に依拠して支出されたもの。
  ■(3) 借地権の承継 
 
   
  ■(4) 借地権の設定 
借地権の設定により当該相続人は借地権相当額の利益を得ながらその大会を支払っていない一方、被相続人の財産はその分減少
⇒贈与と同視することができ、借地権相当額の特別受益に該当。
but
借地権取得の対価、すなわち世間相場の権利金を支払⇒贈与と同視できず、特別受益に該当しないし、持戻免除の意思表示が認められる場合もある。
 
  ■(5) 相続人が底地権価格相当額で借地(底地)を買い受けた場合 
  ■(6) 遺産の無断使用(使用貸借)による利益と特別受益 
  ●@使用借権負担付きの土地 
  ◎ア:土地の利用関係 
使用借権が設定されている土地として評価
  ◎イ:使用貸借負担による減価 
使用借権には第三者への対抗力はない
but
他人所有の建物が建っている土地は事実上売却困難⇒その客観的評価額が一定程度減価され、更地価格の1〜3割程度が減価される。
地上建物が非堅固な建物である場合には、使用借権相当額は、土地の1割程度と評価され、減価。
  ◎特別受益
相続開始時における遺産土地についての使用借権は、生計の資本としての贈与として、特別受益になる。
この場合には、被相続人の持戻し免除の意思表示の有無を検討することになうr。
  ◎特別受益を問題としない見解 
共同相続人の1人(又は共同相続人の配偶者)のために土地使用権が設定されている場合で、当該相続人に対象土地を取得させる場合には、これを得ることにより当該相続人は完全所有権を取得する結果となる
⇒使用借権負担による減額を行わず更地価格で評価するという考え方もある。
  ●A「地代相当額も特別受益に当たる」とする見解についての検討 
  ◎実務 
特別受益制度は、遺産の前渡し分を遺産分割の際に考慮して持戻し計sなする制度

相続開始時の遺産の減少分、つまり使用借権相当額が特別受益額であるが、
遺産の価値とは関わらない地代相当額は特別受益額とはならない
という見解。
  ■(7) 扶養等の負担付きの場合 
  ■(8) 建物の無償使用 
●@相続人に独立の占有が認められる場合 
賃料相当額は特別受益とならない

@建物使用貸借は、恩恵的要素が強く、遺産の前渡しという性格は定型的に薄い
A建物の使用借権は、第三者に対する対抗力はなく、明け渡しも容易であり、経済的価値ないに等しい。
B賃料相当額自体を合計すると相当多額となり、遺産の総額と比べても過大となる。
C特別受益になるとしても、持戻しの免除の意思表示があるものと認めるのが相当。
●A相続人が占有補助者となる場合 
使用借権なし⇒特別受益とならない。
●B特別受益に該当しない例 
相続人の利益のための言い難い場合:
ア:被相続人の強い希望で同居
イ:被相続人の療養看護や生活支援のために同居
ウ:稼業従事の都合から同居
       
◆       ◆10 持戻し免除の意思表示 
     
  ■(4) 黙示の持戻し免除の意思表示の有無の認定 
被相続人が特定の相続人に対して「相続分以外に財産を相続させる意思を有していたことを推測させる事情があるか否か」
黙示の持戻し免除の意思表示が認められる例:
ア:家業承継のため、特定の相続人に対して、相続分以外に農地などの財産を相続させる必要がある場合
イ:被相続人が生前贈与の見返りに利益を受けている場合
ex.被相続人との同居のための居宅建設における土地使用の権限付与
ウ:相続人に相続分以上の財産を必要とする特別な事情がある場合
ex.病気その他の理由により独立した生計を営むことが困難な相続人に対して、生活保障を目的としてなされた贈与
妻の老後の生活を支えるための像よ
エ:相続人全員に贈与をしたり遺贈をしたりしている場合
  ■(5) 超過特別受益 
●@ 超過特別受益の取扱い 
特別受益が「一応の相続分」を超過する場合⇒超過分を返還する必要はなく、その相続において新たに財産を取得することはできない。(民法903条2項)

ア 多額の財産を与えた被相続人の意思解釈に合致する
イ 超過分につき返還すべきであると、特別受益者に不測の損害を与え、かつ法律関係をいたずらに煩雑にする。
●A 遺留分との関係
超過特別受益が他の相続人の遺留分を侵害⇒その限度で遺留分減殺請求の対象となる。
   
     
相続人への特定遺贈 特定遺贈 遺贈には、特定の財産を与える特定遺贈と、遺産の一定割合を包括的に与える包括遺贈がある。
包括遺贈=相続分の指定であり、それだけで相続分が決まる。
趣旨 事例:夫Hが死亡して、相続人として妻Wと子ABC。
遺産は1200万円で、Hは遺言を残し、Aに150万円の絵を遺贈。
法定相続分では、W:600万円、ABC:各200万円
A:法定相続分に影響を与えずなされる中立的遺贈
B:受遺者の具体的相続分額を、遺贈財産に限定する趣旨の限定的遺贈(Aは150万円しか受け取れない。)
C:受遺者に、遺贈財産に加えて通常の相続分相応の財産を相続させる趣旨の先取的遺贈
いずれからは遺言の解釈になるが、民法は中立的遺贈と推定(法903条1項)
法定相続分額を超える遺贈
もはや法定相続分に対して中立というわけにはできない⇒遺贈分だけは確保する(限定的遺贈と同じ)(法903条2項)
上記事例で絵の価値が300万円の場合:
具体的相続分率は
W:600/1000=3/5
B・C:200/1000=1/5
A:0
最終的に相続される金額は
W:900×3/5=540万円
B・C:900×1/5=180万円
A:0
相続人への生前贈与 特別受益となる贈与 「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として」なされた生前贈与。(法903条1項)
ある程度以上の高額な贈与は、原則として全て対象となると考えるべき。
通常の扶養(小遣いも含め)は特別受益にならないが、成年になって働こうと思えば働けるのに、職に就かず親がかりの生活を続けていた息子の場合は特別受益になる。
大学進学のための学資は、兄弟みんな大学に進学するような環境の下では、必ずしも特別受益とはならない。
「婚姻、養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者」(903条)
×小遣銭 ×扶養料 ×誕生祝

「婚姻、養子縁組のための贈与」
○持参金、衣類、たんす、電気器具等の嫁入(婿入)道具
△挙式費用、宴会費用等(←親のためという場合がある。)
○結婚費用として本人に現金を渡して本人の責任で行う。

「生計の資本としての贈与」
生計の基礎として役立つような贈与は一切jこれに含まれるとされており、相当額の贈与は特別な事情がないかぎりすべてこの特別利益とみて差し支えない。(中川=泉251)
○土地や家の新築
○営業資金の贈与
○とくに高等教育・外国留学
生命保険金や死亡退職金は生前贈与ではないが、共同相続人の一部だけがこれを受け、不公平と見られるほどに高額の場合、特別受益となることもある。
←特別受益制度はあくまで相続人間の公平を確保するための制度
贈与を受けた時期については、制限なし。(遺留分の場合は原則1年(法1030条))
贈与の持戻し 生前贈与による特別受益があると、まず、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみな」す。(みなし相続財産
みなし相続財産の価額に各相続人の法定相続分を乗じ、遺贈の場合と同様に、生前贈与を受けた相続人については、その算出した額から生前贈与の額を差し引いて(法903条1項)具体的相続分額を導く。
債務の控除 具体的相続分額を算出する計算の元になる「被相続人が相続開始の時において有した財産」が、遺産の積極財産額か、そこから相続債務を控除した額なのか。
債務を控除しない積極財産額と解するのが適当。
特別受益の評価 評価の方法 受贈者の行為によって、その目的たる財産が滅失し、又はその価格の増減があったときでも、相続開始の当時なお原状のままで在るもののとみなして」評価する。(法904条)
贈与された家屋が地震等受贈者の行為によらずに滅失した場合、持ち戻しの対象にならない。
←受贈者に酷。
評価の基準時 相続開始時(通説・判例)
←遺産分割前に各相続人の具体的相続分率を計算できるようにしておくことが便宜。
相続開始時の貨幣価値で贈与額を評価しなおすという処理は、不動産に限らず、金銭が贈与された場合も同じ。(最高裁昭和51.3.18)
被相続人の意思 持戻しの免除 被相続人の意思が特定の相続人を特別扱いするというものであった場合には、その意思が尊重される。

生前贈与を考慮せず、遺贈を除外した残りの財産だけを対象に、受遺者・受贈者を含む共同相続人が法定相続分に従った分配を行うようにすることも可能。(持戻しの免除
遺留分制度による制約には服する。(法903条3項)
特別受益をめぐる裁判 特別受益が独立に紛争の対象となることはなく、遺産分割(家庭裁判所)の前提問題、または遺留分減殺請求(通常裁判所)の前提問題として争われる場合に限られる。

特定の財産が特別受益財産であることの確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適当である。(最高裁H7.3.7)
★寄与分   ★寄与分
規定 民法 第904条の2(寄与分)
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。

3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。

4 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。
寄与者 相続人に限る(法904条の2第1項)
←相続人以外まで含めると、遺産分割の際にそのような寄与者がいないかを調べる必要が生じ、遺産分割手続きを遅らせる原因になる。
(特別な関係のない)相続人以外の寄与者は、原則、財産法上、契約や不当利得に基づく権利を主張するしかない。
■     ■相続人以外の者の寄与 
法律構成:相続人以外の者の寄与を、相続人の履行補助者による寄与と評価して、相続人自身の寄与分額に算入。
A:包含説:相続人以外の者の寄与を相続人の寄与に含めて評価する見解
B:非包含説
●裁判例
東京高裁H1.12.28:
「寄与分制度は、被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした相続人に、遺産分割に当たり、法定又は指定相続分をこえて寄与相当の財産権を取得させることにより、共同相続人間の衡平を図ろうとするものであるが、共同相続人間の衡平を図る見地からすれば、相続人の配偶者ないし母親の寄与が相続人の寄与と同視できる場合には相続人の寄与分として考慮することも許されると解するのが相当である」
東京高裁H22.9.13:
相続人Bの妻Eによる相続人の履行補助者としての被相続人Aの入院中の看護やその余の13年間余りの長期間にわたる介護は、同居の親族の扶養義務の範囲を超えて相続財産の維持に貢献したと評価できるとして、相続人Bの寄与分を認めた事例
●具体例 
・相続人の長男が、相続人と共に被相続人の家業に無報酬で従事し、財産の維持形成に特別な貢献をしたような場合
・会社員である相続人に代わって、その配偶者が家業である農業に無報酬で従事し、財産の維持形成に特別な貢献をしたような場合
・単身赴任中の相続人に代わって、その配偶者と長女が交代で重度の認知症となった被相続人の介護を不眠不休に近い状態で行い、財産を維持(財産の減少を防止)した場合
  ■包括受遺者 
その者の寄与の程度に対応する包括遺贈がされている限り、それ以上に寄与分を認める必要はない。
●包括遺贈の割合が著しく少ない場合
民法 第990条(包括受遺者の権利義務)
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
包括受遺者は民法990条により相続人と同視できる⇒寄与分の適格自体は肯定しつつ、法904条の2第2項の「一切の事情」の解釈として、包括遺贈の割合、その趣旨、寄与の程度等の事情を総合して寄与分の有無、額を定めるのが相当。
■代襲相続人による寄与分の主張
肯定
要件 規定 「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」(法904条の2第1項)
■相続人みずからの寄与があること
  ■当該寄与行為が「特別の寄与」であること
●「特別の寄与」 
被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超える貢献である必要。

@被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度の貢献は相続分自体において評価されているとみることができ、特にこれを相続分の修正要素として扱う必要はない。
A通常期待されるような程度の貢献をも寄与分として評価し相続分の修正要素とみることは「相続分」を極めて可変的なものにすることになり権利関係の安定を著しく害する。
特別の寄与に当たらないもの:
・夫婦間の協力扶養義務(民法752条)
・親族間の扶養義務・互助義務(民法877条1項)
の範囲内の行為。、
特別の寄与と認められる貢献の程度は、被相続人と相続人との各身分関係により差異が生じる。
ex.
同じ家事労働による寄与でも、
妻については、通常、夫婦の協力扶助義務の範囲内のものと認められ、寄与分として評価することはできないが、
親に対し一般的な扶養義務ないし互助義務を負うに過ぎない子については、特別の寄与に当たると認め得る場合もある。
■被相続人の遺産が維持又は増加したこと 
●財産上の効果の必要性 
相続人の行為によって、その行為がなかったとすれば生じたはずの被相続人の積極財産の減少や消極財産(債務)の増加が阻止され、又はその行為がなかったとすれば生じなかったはずの被相続人の積極財産の増加や消極財産の減少がもたらされることが必要。
×財産上の効果のない寄与

@財産上の効果のないものは数額的な評価が不可能であるから、これを考慮するのは困難
Aこれを評価すれば、その評価が主観的なものに流れ、かえって公平を害する
●寄与があった後に被相続人の財産が増減した場合の寄与分の帰趨 
相続人の行為によって被相続人に財産の維持又は増加という効果が生じた後、相続開始までの間に、相続人の行為によらずに、被相続人の財産の増減が生じた場合:
A:相続人の行為後に被相続人の財産が増加した場合:
以前に相続人の行為によって生じた被相続人の財産の維持又は増加という効果が残っている⇒寄与分は認められる。
but
相続人の行為後の財産の増加は、相続人の行為によるものではない⇒相続人の寄与の効果としては評価されない。
B:相続人の行為後に被相続人の財産が減少した場合:
相続人の寄与があった後に被相続人が事業に失敗して財産を失う⇒寄与分は否定。
  ■寄与行為と被相続人の遺産の維持又は増加との間に因果関係があること 
寄与行為がなければ相続財産が現実の減少以上に減少したと認められるときは、寄与分が認められる余地がある。
態様 ■  ■家事従事型(被相続人の事業に関する労務の提供) 
家業である農業、商工業等に従事することによって寄与が認められる形態
要件:
@特別の貢献A無償性、B継続性、C専従性
A無償性の要件を満たすことは難しい。
■  ■金銭等出資型 
被相続人の事業に関して財産上の給付をする場合又は被相続人に対し財産上の利益を給付する場合。
ex.不動産の購入資金の援助、医療費や施設入所費の負担等
B継続性やC専従性は不要。
■  ■療養看護型 
相続人が、病気療養中の被相続人の療養介護に従事した場合。
疾病の存在が前提。
単に被相続人と同居し、家事の援助を行っているに過ぎない場合には、寄与分は認め難い。
要件:@療養看護の必要性、A特別の貢献、B無償性、C継続性、D専従性
■  ■扶養型 
相続人が、被相続人の扶養を行い、被相続人が、生活費等の支出を免れたため、財産が維持された場合。
ex.
毎月仕送り
同居して衣食住の面倒をみていた
要件:@扶養の必要性、A特別の貢献、B無償性、C継続性
■  ■財産管理型 
被相続人の財産を管理することによって財産の維持形成に寄与した場合。
ex.
不動産の賃貸管理(比較的立証容易)
占有者の排除等
要件:@財産管理の必要性、A特別の貢献、B無償性、C継続性
■  ■先行相続における相続放棄 
原則として寄与分を否定。

先行相続における相続放棄の理由又は動機には様々なものがあり得る。
but
@先行相続における共同相続の類型、A相続放棄の理由又は動機、B先行相続から後行相続までに経過した期間などを考慮して寄与分を肯定できる場合もある。
寄与行為の時期  寄与の終期は、相続開始まで
相続開始後の貢献については、寄与分としては評価できない。
遺産分割の際の「一切の事情」(民法906条)として斟酌されるにすぎない。 
民法 第906条(遺産の分割の基準) 
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
寄与分の評価時期 相続開始時。
みなし相続財産 被相続人が相続開始時に有していた財産の価額から寄与分額を控除した計算上の財産。
寄与分算定の具体的方法 @相続財産全体に占める寄与分の割合を定める方法
A寄与分に相当する金額を定める方法
B相続財産のうちの特定物をもって寄与分と定める方法
療養看護型の寄与分についてはAの方法で算定。
寄与分の決定 寄与分の額は、@寄与の時期、A方法及び程度、B相続財産の額その他一切の事情をしんしゃくして決定。
寄与分は共同相続人の協議で決定。
協議が調わない⇒家事調停を行い、調停不成立の場合は家庭裁判所の審判により決定。
申立て 

マニュアル5p401〜
■概要 
遺産分割調停・審判の申立てとは別に、寄与分を定める処分の調停又は審判の申立てをする必要。
相手方は、他の共同相続人全員。
■    ■遺産分割審判・調停との関係 
●寄与分を定める処分の調停 
寄与分を定める処分の調停は、遺産分割調停事件が係属していなくても申立てることができる。
同事件が係属⇒その係属している家庭裁判所に申し立てる。
寄与分を定める処分の調停事件と遺産分割調停事件は併合される。
●寄与分を定める処分の審判 
遺産分割審判事件が係属していなければ申し立てることができない(民法904の2W)。
   
■寄与分を定める処分の審判の申立て時期
     
寄与分を定める手続    ■寄与分を定める審判の申立て 
●寄与分の申立ての必要性 
裁判所が寄与分の審判をする場合には、遺産分割とは別に「寄与分を定める処分の申立て」が必要
●寄与分を定める処分の審判申立ての要件 
遺産分割の審判の申立てがあった場合にのみ寄与分を定める処分の審判の申立てをすることができる(民法904条の2第4項)。

寄与分を定める処分の審判申立てをするには、当該被相続人に関する遺産分割の審判事件が家庭裁判所に係属していることを手続上の要件とする。
●管轄 
A:遺産分割の審判事件が係属している場合:
当該遺産分割の審判事件が係属する裁判所(家事法191条2項)。
B:遺産分割の審判事件が抗告裁判所に係属した後に当該遺産分割の審判事件の申立人又は相手方から寄与分を定める処分の申立てがされた場合:
現に遺産分割の審判事件が係属している高等裁判所に申立て。
●手続の併合 
遺産分割の審判事件と寄与分を定める処分の審判事件がともに同一の裁判所に係属⇒各事件の手続及び審判は併合(家事法192条前段)。

審判手続の併合だけではなく、審判自体を併合して行う。
併合審理され、1個の審判がなされる。
●審判申立て時期の制限
  寄与分を定める調停の申立て 
●管轄 
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所。
遺産分割の調停事件が係属している場合は、当該遺産分割調停事件が係属している家庭裁判所。
●申立期間 
相続開始から遺産分割の終了までの間、いつでも単独で申し立てることができる。
●調停手続及び調停の併合 
遺産分割の調停と寄与分を定める処分の調停は一括処理され、調停手続及び調停の併合が義務付けられている(家事法245条3項、192条準用)。
●併合後の調停成立 
寄与分だけは協議が調った場合、寄与分について調停を成立させ、他方、協議の調わない遺産分割については調停を不成立にして審判手続に移行させることができる。
遺言       ★遺言
  意味 遺言は,一定の方式に従ってされる相手方のない一方的かつ単独の意思表示であり,遺言者の死後の法律関係を定める最終意思の表示であって,その者の死亡によって法律効果を発生する〔民960〜1027〕。遺言の制度を認めることによって,人は遺言により,生前だけでなく,その死後にも自己の財産を自由に処分できることになる(遺言自由の原則)。
遺言能力 規定 民法 第961条(遺言能力)
十五歳に達した者は、遺言をすることができる。
民法 第962条
第五条、第九条、第十三条及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない。
民法 第963条
遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
自筆証書遺言   規定 民法 第968条(自筆証書遺言)
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
要件   ●(1)遺言者の自署 
遺言書の全部・日付・氏名の自署

遺言が遺言者の真意にでるものであることを明確ならしめるため。
×他人に代筆させた
×タイプライター、ワープロ、点字機
●(2)日付 
日付を欠く遺言は無効
●(3)氏名の自署 
氏又は名だけでもそれによって遺言者本人が明確に示されうるならば遺言は有効
遺言者が日常用いている通称、雅号、ペンネーム、芸名、屋号なども、それによって同一性が示されるなら有効。
●(4)押印 

氏名と同様、遺言者が誰であるかということと遺言が遺言者自らの意思に出たものであることを明らかならしめるために要求。
認印でOK。
指印でもOK(最高裁H1.2.16)。
白系ロシア人老女の押印のない遺言書について有効とした判例(最高裁昭和49.12.24)。
加除・変更 加除・変更が定められた方式に従ってなされていない場合には、遺言書は加除・変更がなされなかったものとして扱われるとするのが通説。 
公正証書による遺言 規定  民法 第969条(公正証書遺言)
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
民法 第969条の2(公正証書遺言の方式の特則)
口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第二号の口授に代えなければならない。この場合における同条第三号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。
2 前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第三号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。
3 公証人は、前二項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。
遺産分割の方法  
(実務p361)
規定 民法 第906条(遺産の分割の基準) 
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする
家事事件手続法 第195条(債務を負担させる方法による遺産の分割)
家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。
方法  ■選択の視点
具体的な分割方法:
@現物分割
A代償分割
B換価分割
C共有分割(物権上の共有)

いずれを選択するかは、家庭裁判所の広い裁量に委ねられている。
■調停での分割 
当事者が合意すれば、いかなる分割方法もとることができる。
  ■分割方法の順位 
@現物分割⇒A代償分割⇒B換価分割⇒C共有分割
の順番。
●裁判例
最高裁昭和30.5.31:
相続財産の共有(民法898条)は、民法249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解すべきである。
相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然分割される。

遺産の共有及び分割に関しては、共有に関する民法256条以下の規定が第一次的に適用せられ、遺産の分割は現物分割を原則とし、分割によって著しくその価格を損する虞があるときは、その競売を命じて価格分割を行うことになるのであって、民法906条は、その場合にとるべき方針を明らかにしたものに他ならない。
大阪高裁H14.6.5:
遺産分割は、共有分割と同様、相続によって生じた財産の共有・準共有状態を解消し、相続人の共有持分や準共有持分を、単独での財産権行使が可能な権利(所有権や金銭等)に還元することを目的とする手続

遺産分割の方法の選択に関する基本原則は、当事者の意向を踏まえた上での@現物分割であり、それが困難な場合には、現物分割に代わる手段として、A当事者が代償金の負担を了解している限りにおいて代償分割が相当であり、代償分割すら困難な場合にはB換価分割がされるべきである。 
C共有とする分割方法は、やむを得ない次善の策として許される場合もないわけではないが、この方法は、そもそも遺産分割の目的と相反し、ただ紛争を先送りするだけで、何ら遺産に関する紛争の解決とならないことが予想される⇒@現物分割やA代償分割はもとより、B換価分割さえも困難な状況にあるときに選択されるべき分割方法。
■審判での分割 
分割方法についての当事者の希望がある程度一致⇒審判においても、前記優先順位にかかわらず分割することはある。
分割方法について争い⇒審判になれば、前記優先順位で分割方法が検討される旨を説明し、当事者を説得することが多い。
◆具体的検討        ◆具体的検討
  ■(1) 現物分割 
●意義 
個々の財産の形状や性質を変更することなく分割するもの。
●土地の現物分割 
●借地権の現物分割 
●上場株式の現物分割 
●非上場株式の分割 
●動産の分割 
●現金の分割 
  ■(2) 代償分割(債務を負担させる方法による遺産の分割) 
●意義 
一部の相続人に法定相続分を超える額の財産を取得させた上、他の相続人に対する債務を負担させる方法。
「特別の事情」があると認められるときにできる(家事事件手続法195条)。
●代償分割が認められる「特別の事由」
@現物分割が不可能な場合
A現物分割をすると分割後の財産の経済的価値を著しく損なうため不適当である場合
B特定の遺産に対する特定の相続人の占有、利用状態を特に保護する必要がある場合
C共同相続人間に代償金支払の方法によることについて、おおむね争いがない場合
●  ●要件 
債務を負担することになる相続人にその資力があることが要件となる。
支払い能力について審理されていない審判は差し戻される。
◎裁判例 
○最高裁H12.9.7:
・・・・右の特別の事情がある場合であるとして共同相続人の一人又は数人に金銭債務を負担させるためには、当該相続人にその支払能力があることを要すると解すべきである。 
○大阪高裁昭和54.3.8:
特別の事由とは、相続財産が農業資産その他の不動産であって細分化を不適当とするものであり、共同相続人間に代償金支払の方法によることにつき争いがなく、かつ、当該相続財産の評価額が概ね共同相続人間で一致していること、及び相続財産を承継する相続人に債務の支払能力がある場合に限ると解すべきである。 
●資力の有無 
●代償金の支払方法 
公平の観点から即時になされることが原則。
事情によっては分割払ないし期限の猶予も可能。
分割期間:
分割期間として、1年ないし5年間くらいの支払猶予期間を設けたり
3年から10年の年賦分割払を認めることがある。
支払猶予等を認める場合:
審判確定の日から完済に至るまでの利息を付加して支払わせる場合がある。
昨今の経済状況に照らし、年5分の割合とすることは少なくなっている。
●負担する債務の内容:
審判⇒金銭のほかに自己の固有財産を提供させることはできない。
調停⇒代償金の支払に代えて、相続人の固有の財産(不動産、株式)の所有権を移転することをもって、遺産取得の代償とする方法もある。
●代償分割条項 
■     ■(3) 換価分割 
●意義
遺産を売却等で換金(換価処分)した後に、価格を分配する方法。 
●協議分割による換価(当事者の合意に基づく任意売却) 
●審判による換価 
◎終局審判としての換価分割 
遺産の競売を命じ、民事執行の手続に従って競売手続が進められる。
◎中間処分としての換価を命ずる裁判(審判以外の裁判)
将来の遺産の分割の審判に備えてする中間的処分
○競売(形式的競売)して換価することを命ずる裁判 
家事事件手続法 第194条(遺産の換価を命ずる裁判)
家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があると認めるときは、相続人に対し、遺産の全部又は一部を競売して換価することを命ずることができる。
○任意に売却して換価することを命ずる裁判 
家事事件手続法 第194条(遺産の換価を命ずる裁判)
2 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があり、かつ、相当と認めるときは、相続人の意見を聴き、相続人に対し、遺産の全部又は一部について任意に売却して換価することを命ずることができる。ただし、共同相続人中に競売によるべき旨の意思を表示した者があるときは、この限りでない。
○中間処分としての換価が必要になる場合の例 
@現物分割又は代償分割をするのに、遺産の一部を換価してその代金を調整金などに活用する場合
A経済変動などにより終局審判まで待つと交換価値が著しく下落する場合
B終局審判前に特に有利な条件で売却が可能である場合
C維持費が高額なため保管が困難である場合
新家族法実務体系(3)p279〜 
@終局審判において売却を命じる場合と、
A遺産分割手続中に中間処分として遺産を売却する場合
@最終的に現物分割が不可能又は相当でなく、かつ、
A代償金の支払能力のある相続人が存在しないために代償分割もできない

裁判所は、終局審判において、遺産の競売を命じるべきこととなり、当該遺産は、共有物分割の場合と同様、形式競売の手続によって看過されることになる。
but
競売よりも任意売却による方が、高額での換価を期待でき、また、手続も簡便。

遺産を任意売却して換価するという点で当事者の意見が一致しており、かつ、協力してこれを行うことが見込める場合には、後の任意売却を前提として、終局審判において当該遺産を共有分割するという方法をとることもある。
事前に、@売却価格、A売却期限、B経費の負担、C売却担当者等を決めた上で、第三者に当該遺産を任意売却する方法をとるのが通常。
  ■(4) 共有分割 
●意義
遺産の一部、全部を具体的相続分による物権法上の共有取得する方法であり、共有関係を解消する手続は、共有物分割訴訟(民法258条)による。
 
     
遺産分割における果実の取扱い 判例:
遺産分割審判確定の日までは法定相続分に従って各相続人に帰属。
遺産分割審判確定の日の翌日から各不動産を取得した各相続人に帰属するものとして、分配額を確定すべき。
相続開始後発生→相続財産とは別個の共有財産。
遺産とは別個の財産であり、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する(最高裁H17.9.8)。
ここでいう「相続分」とは、法定相続分のこと。
分割の結果収益を生んだ相続財産を相続人の1人に帰属させても民法909条を適用して右分割時までの収益を同人に帰属させるべきではない。
被相続人全員の合意により遺産分割事件の対象とすることはできる(裁判例)。
前記最高裁判例も、かかる実部も取り扱いを排除するものではない。
賃料債権を共同相続人の合意により不可分債権とすることも可能(民法428条)。

民法 第428条(不可分債権) 
債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分である場合において、数人の債権者があるときは、各債権者はすべての債権者のために履行を請求し、債務者はすべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。
葬式費用の負担 葬式はだれが行うべきか 法律に規定なし⇒その地方または死者の属する親族団体内における慣習、もしくは条理に従って決定すべき。
誰が負担すべきか 相続財産を管理するのに必要な費用と同じように、相続財産に関する費用として、相続財産の中から支払われるべきもの。(民法885条)
(大阪家裁昭和51.11.25審判)
香典の性質 基本的には葬式費用の一部を負担する、つまり死者の家族の負担を軽くすることを主たる目的とした、相互扶助の精神に基づく金銭その他の財物の贈与。
第一次的には葬式費用に充当すべきもの。
余った場合は、喪主に贈られたものと解するのが普通。
弔慰金の性質 死亡退職金の一種。
退職金は本来労働者本人が支給を受けるべきものであって、その遺族はこれを受ける資格がない⇒労働者本人が死亡したため、弔慰金という名目で、死亡退職金に相当する者をその遺族に贈与
会社の恩恵的贈与であり、遺族の権利ではない。
祭祀財産 規定 第897条(祭祀に関する権利の承継)
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める
説明 祭祀財産:
系譜(系図)・祭具(位牌・仏壇等)・墳墓(墓石・墓地)等
相続分や遺留分には関係ない。
相続財産とは別の問題。
遺骨 説明 死者の祭祀供養をつかさどる者に帰属する。(最高裁H1.7.18)
相続と遺贈 遺贈 規定 第964条(包括遺贈及び特定遺贈)
遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし、遺留分に関する規定に違反することができない。

第986条(遺贈の放棄)
受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
2 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

第990条(包括受遺者の権利義務)
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
意義 遺言によって自らの財産を無償で他人に与えること
遺言者は包括または特定の名義で、財産の全部または一部を処分できる。(法964条)
ex.「遺産の3分の1を与える」(包括遺贈)
遺言によるから、単独行為であり、贈与契約とは異なる。
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。(法990条)
遺贈と相続の相違点 相手方 遺贈:相手が相続人である必要はない
遺産分割方法の指定・相続分の指定:相手は相続人に限られる。
放棄 遺贈:986条1項で放棄することができる。
遺産分割方法の指定:相続そのものを放棄しない限り放棄できない。
登記手続 遺贈:登記手続きは、登記義務者たる相続人との共同申請となる。
遺産分割方法の指定:単独申請で移転登記が可能。
登録免許税 遺贈:登録免許税が、贈与扱いになって課税標準額の1000分の25
相続:1000分の6となり、4分の1以下
農地の移転 遺贈:農地の場合、所有権移転に知事の許可が必要。
相続:不要
公証実務 節税目的⇒遺贈でなく遺産分割方法の指定によって遺産を相続人に帰属させるため、公正証書遺言において「相続させる」という文言を用いた遺言が多くされるようになった。
どの財産が誰に帰属するかを予め指定できる⇒自分の死後に遺産分割をめぐって相続人間に争いが起きることを防ぎたいという遺言者の希望にも合致。
判例 「相続させる」遺言が遺産分割方法の指定であるとの理解を前提に、遺産分割方法の指定は処分行為としての性質を含んでいるとして、遺産分割を経ることなく、直ちに当該相続人に相続により所有権が帰属することを認めた。
遺贈と死因贈与  遺贈と死因贈与  遺贈:遺言による単独行為
死因贈与:契約
死因贈与について、遺贈の規定を準用。(法554条)
死因贈与の撤回   
相続回復請求権   規定 第884条(相続回復請求権)
相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。
考え方 ●A ●A:独立権利説:
被相続人Aに相続人Xがいたが、Yが相続権がないのにあたかも自分1人が相続したかのように遺産を独占的に占有管理しており、不動産も単独所有名義の登記をしているというときに、XはYの相続人としての地位を争う必要がある。このような場合に行使される特別の請求権が相続回復請求権。
実益:
Xにとってのメリット:
@Yが占有している遺産をいちいち列挙してXが相続したから返還せよと請求することは煩わしいが、「自分が相続人であるから遺産を全部返還せよ」と一括して請求することができれば便利である。
A返還請求の際、Xは自分が個々の遺産の所有権その他の権利を有することを立証す必要はなく、単にそれがAに帰属していたこと、あるいはAが占有していた財産であることと、相続権が自分にあることを立証すれば足りる。

Yにとってのメリット:
@Yが相続人らしい外観のもとに長年行動してきたとすると、何年も経ってから相続権をめぐる訴訟を起こされては関係者にとって迷惑であるし、取引の安全も害する
⇒短期に決着をつけるのが便宜。
●B ●B:集合権利説:
相続回復請求権という独自の請求権を認める実益はない
⇒884条は個々の財産に対する個別の請求権、たとば物権的返還請求権等を消滅時効に服させた点のみに意味がある。
●判例 「民法884条の相続回復請求の制度は、いわゆる表見相続人が真正相続人の相続権を否定し相続の目的たる権利を侵害している場合に、真正相続人が自己の相続権を主張して表券相続人に対し侵害の排除を請求することにより、真正相続人に相続権を回復させようとするものである。」(最高裁昭和53.12.20)

互いに相続権があることを認めた上での相続分をめぐる争いではなく、相続権自体をめぐる争いに適用される。
相手方   相続人と称して相続財産の一部ないし全部を占有・管理して相続権を侵害している不真正相続人。
第三者 A:肯定説
←相続回復請求権の消滅時効によって第三者の保護が可能になる。
(所有権返還請求権に基づく場合は消滅時効による制限なし)
○B否定説
不真正相続人から相続財産を譲り受けた第三者に対しては、不真正相続人の第三者に対する処分の無効を主張して所有権に基づく返還請求をすべきであり、第三者は相続回復請求の相手方にならない(大審院判例)。

遺産分割のための競売
規定 家事事件手続法 第194条(遺産の換価を命ずる裁判)
2 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があり、かつ、相当と認めるときは、相続人の意見を聴き、相続人に対し、遺産の全部又は一部について任意に売却して換価することを命ずることができる。ただし、共同相続人中に競売によるべき旨の意思を表示した者があるときは、この限りでない。
民執法 第195条(留置権による競売及び民法、商法その他の法律の規定による換価のための競売)
留置権による競売及び民法、商法その他の法律の規定による換価のための競売については、担保権の実行としての競売の例による。
●形式的競売
「民法、商法その他の法律の規定による換価のための競売」(=狭義の形式的競売)
@共有物分割のための競売や遺産分割のための審判前の競売等の換価型の形式的競売
A相続財産の清算のための競売等、ある範囲の財産を限度に、弁済原資を金銭で確保する目的で行われる競売、いわゆる清算型の形式的競売。l
●遺産分割のための競売
家庭裁判所は、
遺産分割の審判を行うため必要があると認めるときは、相続人に対して、遺産の全部又は一部の競売を命ずることができる。
終局処分としての競売を命ずる審判に基づく形式的競売の根拠条文は民法258条2項。
●開始文書 
遺産分割審判申立て事件の審判書謄本又は正本及び確定証明書
●手続 
家事事件手続法194条1項に基づく競売申立て
⇒売却代金の交付につき民執規則に規定があり、
その換価が終了したときは、売却代金から競売の費用で必要なものを控除した金銭を財産の管理者に交付しなければならない(民執規181)。