シンプラル法律事務所
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相続関係その他

判例評釈(死亡保険金の持戻しの可否)
判例タイムズ1234号
  ◆1 はじめに
  ◆2 事実の概要 
◇    ◇(1) 大阪家裁堺支部H18.3.22: 
    被相続人Aは、子X、Y1、Y2、Y3を残して平成14年9月5日に死亡。
    遺産:
3筆の土地(合計3929万7000円)
郵便定額貯金(合計281万2000円)
銀行預金(合計2752万9389えん)
⇒総合計は6963万2348円
AのXに対する贈与(200万円)とY1に対する贈与(841万9970円)が特別受益として認定
⇒ここまでの合計額は8005万8359円 
    X:Y1が取得した複数の簡易保険の死亡保険金(合計428万9134円)が遺産であると主張。
Y1:受取人の固有財産と主張。
  ◇(2) 名古屋高裁H18.3.27: 
    被相続人A
相続人:
婚姻したX
先妻Bとの間にもうけたY1、Y2
の3人。
    現存遺産の総額:8423万4184円
    特別受益:
Y1の特別受益:解約返戻金相当額として150万円
Y2の特別受益:解約返戻金相当額として357万2661円
Xが、Aと婚姻したのと同じ月に保険金受取人をY2からXに変更した生命保険金
3072万6196円
358万4848円
507万8246円
1215万1556円
の合計5154万0846円を受け取っている。
     
  ◆3 審判・決定の要旨 
  ◇(1)について 
    @Y1が受領した死亡保険金は合計428万9134えんであるところ、
これはAの相続財産の額6963万8389円の6パーセント余りにすぎなうい
AY1は、長年Aと生活を共にし、入通院時の世話をしていた

保険金受取人であるY1と他の相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らして到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存在するとは認められない

同条の類推適用によって、Y1の受領した上記死亡保険金428万9134円を、特別受益に準じて持ち戻しの対象とすべきであるとはいえない。
  ◇(2)について 
    @死亡保険金等の合計額は5154万0864円とかなり高額
Aこの額は本件遺産の相続開始時の価額の約61パーセントを占める
BAとXの婚姻期間は3年5か月程度

特段の事情が存する
⇒903条の類推適用により持ち戻しの対象となると解するのが相当。
     
  ◆4 若干の検討 
  最高裁H16.10.29:
死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生

保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。
上記特段の事情の有無については、
保険金の額、
この額の遺産の総額に対する比率のほか
同居の有無、
被相続人の介護等に対する貢献の度合い
などの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、
各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべき。
  特段の事情を判断する際に考慮すべき事情:
@金銭的要素(保険金額および遺産総額に対する比率)
A相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係(同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合い)
B各相続人の生活実態等
土谷調査官:
総花的に諸事情を考慮するのではなく、保険金の額及びこの額と遺産の総額との比率を基本としてこれに諸事情を併せて考慮することになろう。
  ●(1)について
成年子が親に対して負う扶養義務は、自己の余力の範囲で援助すべき義務(生活扶助義務)
法的に義務付けられる範囲を超えてなした状況がY1に有利に働いたと理解。
⇒結論妥当。
  ●(2)について 
    「短期間の同居」

婚姻の効果として義務を負っている配偶者以外の属性を有する相続人の場合にのみ考慮可能な要素であるように思われる。
    本山敦:
婚姻期間の短さに関連して、
法廷相続分に関しては婚姻期間の長短を問わず一律に判断せざるを得ないが、
契約によって生じる生命保険金については必ずしも形式的な判断をしないで、婚姻期間の長短、換言すれば保険契約者(被相続人)の財産形成に対する保険金受取人の貢献という視点から調整することもあってよい。
そのようぬい考えると、判例法理の言う「特段の事情」の考慮という構成は至極便利なものに思えてくる。
 
大阪家裁堺支部H18.3.22  
(家裁月報58.10)
   
  ◆理由 
  ◇第1 相続の開始、相続人及び法定相続分  
     
  ◇第2 遺言との存在とこれが被相続人の遺産分割に及ぼす影響 
     
  ◇第3 遺産の範囲
     
  ◇第4 特別受益 
     
  ◇第5 寄与分
  ■1
    相手方Bは、上記のとおり、被相続人の入院時の世話をし、また、通院の付き添いをしたものであるが、これは同居している親族の相互扶助の範囲を超えるものであるとはいえない上、これによって、被相続人が特別にその財産の減少を免れたことを認めるに足りる資料は見当たらない

相手方Bに被相続人の財産の維持につき特別の寄与があったとみることはできない。
  ■2 
相手方Bは、「被相続人は、相手方BがFの療養看護に努めたため、本来相続人が負担すべきであった約1000万円の支出を免れた」旨主張。
but
・・・・F(被相続人の配偶者)は、その死亡当時、不動産、預金及び簡易保険等の財産を有しており、自己の療養看護に必要な費用を負担する十分な資力を有していたことを認めることができるのであって、 この費用を被相続人が負担すべきであったとは到底いえない。
     
  ◇第6 相続分の算定 
     
     


プラクティカル家族法(平田厚) 
第1部 親族法
 
 
     
第2部 相続法  
第1章 相続法  
     
第2節 相続手続法  
     
     
  ◆3 相続人の不在(p188)
◇(1) 相続人不在制度
    相続財産法人(民法951条):
相続人の存在が明らかでない場合、死者の生前の持参関係を清算するために、死者の財産上の権利義務を承継するものとして、相続財産自体を法人とすることによって法主体を生み出すことにした。
    相続財産管理人を選任して清算事務を行わせる。
(民法952以下)
     
  ◇(2) 相続人不存在の手続
    相続財産管理人による
@相続人の捜索と
A財産の清算
     
  ◇(3) 特別縁故者制度 
    相続人がいない場合に、相続財産管理人の清算事務が終了してもなお財産が残った⇒最終的には残った財産は国庫に帰属(民法959)。
but
その前に、死者と特別な縁故のあった者に財産を分与する制度(同958の3)。

@遺言があまり行われない現状下では、死者の意思を推測して財産を分与するのが望ましい。
A内縁配偶者や事実上の養子などのように法定相続人とはなりえない者を保護すべき。
but
この制度は、法定相続人が存在しない場合の補充的制度にとどまる。
    特別縁故者:
被相続人と生計を同じくしていた者、
被相続人の療養看護に務めた者
その他被相続人と特別の縁故があった者
    財産分与の請求手続:
最後の相続人捜索期間終了後3カ月以内に家庭裁判所に分与の請求をしなければならない。
     
  ◇(4) 残余財産の国庫帰属 
     
     
     
     
     

裁判例からみた相続人不存在の場合における特別縁故者への相続財産分与審判の実務
梶谷太市
第1編 総論
第1章 特別縁故者相続財産分与の事前手続(相続人不存在の確定) 
     
     
     
     
     
第2章 特別縁故者相続財産分与の事後手続(残余財産国庫帰属)  
     
     
     
     
第3章 特別縁故者への相続財産分与手続  
     
  ◆4 特別縁故者の意義(p35) 
  ◇(1) 判断基準 
     
  ◇(2) 被相続人と申立人の同時存在の要否 
     
  ◇(3) 死後の縁故 
     
  ◇(4) 過去の縁故 
    被相続人の死亡当時には縁故関係がなくなっていても、過去のある時期において縁故関係があたt場合も、特別縁故者と認めてよい。
     
  ◆5 特別縁故者の範囲 
    民法 第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
    特別縁故者:
@被相続人と生計を同じくしていた者、
A被相続人の療養看護に務めた者
Bその他被相続人と特別の縁故があった者
  ◇(1) 生計同一者 
  ■@ 内縁配偶者 
  ■A 事実上の養子 
    養子縁組の約束をしていたり、
長期にわたって同居している事例
  ■B 叔父叔母
  ■C 継親子・嫡母庶子 
  ■D 亡長男の妻 
  ■E 未認知の非嫡出子 
  ■F 亡継子の子 
  ■G 親族関係のない生計同一者
第2編 各論  
  ◇(2) 療養監護者 
     
  ◇(3) その他の特別縁故者 
    前二者は例示⇒これらの準ずるものであることが必要。
  実務家の見解つぃて、被相続人と血縁関係があってある程度被相続人の生活の面倒を見たり、入院中付き添いをしたりしても、それが世間一般にみられる親類付き合いの範囲にとどまると認められる場合には、特別縁故者に該当しないのであって、
特別縁故三者の範囲は、一般に申立人が考えているよりもかなり狭いと解しているものもある。
    判例(大阪高裁昭和46.5.18):
民法958条の3に例示する生計同一者や療養監護者「に準ずる程度に被相続人との間に具体的かつ現実的な精神的・物質的に密接な交渉のあった者で、相続財産をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に特別の関係にあった者」をいう。
   
  ■@ 親族関係者 
    被相続人の生前に相続財産の管理その他の関係があった親族関係者の例は多い。
     
  ■A 申立人が被相続人の元教え子
    被相続人勤務先の代表取締役
被相続人の友人
の事例で、
いずれも被相続人の生前に長期にわたりその生活の世話をしたとして特別縁故者と認めている。 
     
  ■B 国家機関・法人 
  □地方公共団体 
  □学校法人 
  □宗教法人 
  □社会福祉法人 
     
  ■C 権利能力なき社団 
     
  ◇(4) 特別縁故者に該当しないとされた事例 
    却下された事例の多く:
親族あるいは近隣者として通常の交際をしているにすぎないとするもの。
被相続人の死後相続財産を管理し祭祀を行ってきても、それのみでは特別縁故者とは認められないとしたもの。