シンプラル法律事務所
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法学教室No.305 37頁〜 | ||
◆ | ◆T 教科書の片隅から | |
◆ | ◆U 善良な管理者の注意か、善管注意義務か? | |
「善良な管理者の注意」は、たとえば、委任事務処理義務として受任者が負う行為義務の具体的内容を確定するための基準となるものであるから、行為義務と切り離れた注意義務ではありえない。 受任者の負う義務としては、委任事務処理義務という行為義務の具体的内容が記述されることになる。 |
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潮見: 民法644条は、「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」と規定しています。 この義務は、前記のように、一般に「善管注意義務」と称されていますが、厳密にいえば、義務の内容は「委任の本旨に従って事務を処理する義務」であり、その際に尽くすべき注意の程度を図る基準が「善良な管理者」、すなわち合理人(reasonable person)だということになる。 |
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⇒ 「善管注意義務違反」というのは、厳密にいえば、観念できないことになる。 委任についてはいえば、これまで「善管注意義務違反」といわれてきたのは、「善良な管理者の注意」という基準によって具体的に定まった委任事務処理義務の内容に、受任者が違反している場合のこと ⇒「委任事務処理義務違反」というのが正確。 |
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◆ | ◆V 責めに帰すべき事由と善管注意義務 | |
ポイントは、やはり「善管注意義務」という「注意義務」ではなく、「善良な管理者の注意」を標準として定まる「行為義務」、債務者の負っている債務内容。 | ||
潮見: 結果債務・手段債務の二分論を採用した上で (1)債権者が請求原因として「債務内容」・「本旨不履行」の事実ほかを主張・立証したときに、 (2)債務者が抗弁として出しうる「免責事由」として、「不可抗力」を置く傾向。 債務二分論にあっては、債務不履行を理由とする損害賠償責任の「帰責原理」(「免責事由」の裏返しとしての「帰責事由」ではない)、すなわち、「債務者が損害賠償責任を負わなければならないのは、契約において債務者が結果の実現を保証したからだ」(保証責任の原理。結果債務の場合)、「債務者が損害賠償責任を負わなければならないのは、契約において債務者が合理的な注意を尽くした行動をすることを引き受けたからだ」(過失責任の原理。手段債務の場合)という点は、契約債務の内容確定の場面で・・・機能することとなる。 |
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やはり、「「債務者の責めに帰すべき事由」の1つとして、債務者の過失があり、過失とは善管注意義務違反のことである」という従来の通説は維持できない。 ポイントは、「善良な管理者の注意」を標準として定まる「行為義務」、債務者の負っている債務内容。 |
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◆ | ◆W 受任者の高度な義務の源泉 | |
大村: 委任は、事務処理を目的とし、この目的達成のために受任者が一定の義務を負うという契約類型である。論理的には、この義務の内容や程度は、事務の内容はもちろん、国により時代により、様々であろう。しかし、現代においては、この義務を高度なものとする要請が強まっている。複雑な事務の処理を委託するには、受任者にはば広い裁量権を認めなければならないが、それには受任者に対する高度の信頼が存在することが前提となる。 そして、この信頼を確保するためには義務の(程度・内容両面での広義の)高度化が必要となる。 |
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「善良な管理者の注意」という概念は、個々の債務者の具体的な能力とは切り離して、客観的義務水準をもたらすために用いられている、ということに注意したい。しかるに、その客観的義務水準の具体的内容は、はっきりしない。 | ||
大村: ・・・善管注意義務と呼ばれるこの義務の内容は特に定められておらず、これはまさに「委任の本旨」にしたがって定まる。そして、受任者に信任義務を課しうるか否かは、規定上はこの善管注意義務に信任義務を含め得るか否かというかたちで論じられる。そうだとすると、委任の本旨から信任義務を導くことが可能か否かが、議論の決め手である。 |
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潮見: 「善良な管理者の注意」は、債務者一般に求められている。しかし、そこにいう「善良な管理者の注意」をもってする委任事務処理義務の具体的内容・程度は、まさに、「委任の本旨」、それも、そこで問題となっている当該「委任の本旨」によって定まる。「『善良な管理者の注意』(誤解を恐れずにいえば、委任における「事務処理義務」の程度)が何かは、契約(類型)ごとに多様」なのである。 ⇒ 高度な信頼関係に基づいて裁量性の高い事務処理を委ねれられている場合には、受任者は「委任の本旨に従って」高い義務を負うことになる。そして、これが委任の典型である。しかし、高度の信頼関係に基づかない単純な事務の委任のような場合には、「委任の本旨に従って」義務が軽減される。 |
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概念を精緻化するためには、やはり「善良な管理者の注意」は、委任事務処理義務の具体的内容を定める基準としてのみ機能すると考えるべきである。信頼関係のン基づいて、裁量性の高い事務を委ねられた場合については、当該「委任の本旨」に鑑みると、「善良な管理者」ならば、高い水準の義務に従った行為をするのが当然であり、したがって、受任者は高い水準の行為義務を負う、と説明すべき。 裁量性の低い事務等を委ねられた場合については、当該「委任の本旨」に鑑みると、「善良な管理者」も高い水準の行為をするわけではなく、したがって、受任者は高い水準の行為義務を負わない、ということになる。 |
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◆ | ◆X まとめ | |
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(2)「善良な管理者の注意」は、たとえば、委任事務処理義務として受任者が負う行為義務の具体的内容を確定するための基準となる⇒行為義務と切り離された注意義務ではあり得ない。 たとえば、委任者の負う義務としては、委任事務処理義務という行為義務の具体的内容が記述されることになる。 |
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(3) ⇒「善管注意義務違反」というのは、厳密にいえば、観念できない。 たとえば、委任について、「善管注意義務違反」とこれまでいわれてきたのは、「善良な管理者の注意」という基準によって具体的に定まった委任事務処理義務の内容に、受任者が違反していること ⇒「委任事務処理義務違反」というのが正解。 |
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(4) | ||
(5) 委任契約の受任者は、高い義務を負うといわれるが、それは、委任者に、「善管注意義務」が課されているからではない。債務者一般が「善良な管理者の注意」を基準とする債務を負う。 むしろ、信頼関係に基づいて、裁量性の高い事務を委ねられた場合については、当該「委任の本旨」に鑑みると、「善良な管理者」ならば、高い水準の義務に従った行為をするのが当然であり、したがって、受任者は高い水準の行為義務を負う、と説明すべき。 |
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